(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、例えば誘導結合プラズマ質量分析(ICP−MS)等の超微量域の分析技術の発達により、分析に用いる希釈用有機溶剤のより一層の高純度化が求められている。また、電子機器やレジスト感光剤の製造に用いる有機溶剤も、より一層の高純度化が求められている。
【0006】
しかしながら、特許文献1の蒸留精製方法および蒸留精製装置では、液体に含まれる低揮発性不純物の濃度をppbオーダーにすることが可能であるものの、pptオーダーにすることができない。
【0007】
また、特許文献2の精製方法は、イソプロピルアルコールに含まれる金属の濃度をpptオーダーにすることが可能であるものの、対象となる金属がAs,B,SeおよびGeに限られており、多種の金属に適用することができない。
【0008】
本発明の一態様は、有機溶剤に含まれる各金属の濃度を10ppt以下にすることができる、有機溶剤の精製装置および精製方法を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、蒸発器、凝縮器および回収器における有機溶剤との接触部位を、石英、または純度99.95重量%以上の炭化ケイ素で構成することにより、有機溶剤に含まれる各金属の濃度を10ppt以下にすることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、以下の〔1〕〜〔8〕に記載の発明を含む。
〔1〕有機溶剤を加熱して気化させる蒸発器と、気化した有機溶剤を冷却して凝縮させる冷却部を有する凝縮器と、凝縮した有機溶剤を回収する回収器と、を備え、少なくとも上記蒸発器、凝縮器および回収器における有機溶剤との接触部位が、石英、または純度99.95重量%以上の炭化ケイ素で構成されている、有機溶剤の精製装置。
〔2〕上記凝縮器は蒸留塔部を有し、当該蒸留塔部は、精製前の有機溶剤の液滴が上記冷却部に到達することを防止する液滴到達防止部材を備える、〔1〕に記載の有機溶剤の精製装置。
〔3〕上記蒸発器は、内部に不活性ガスを供給する不活性ガス供給口を備える、〔1〕または〔2〕に記載の有機溶剤の精製装置。
〔4〕蒸発器内の有機溶剤を加熱して気化させる蒸発工程と、気化した有機溶剤を、冷却部を有する凝縮器を用いて冷却して凝縮させる凝縮工程と、凝縮した有機溶剤を回収器に回収する回収工程と、を含む有機溶剤の精製方法であって、少なくとも上記蒸発器、凝縮器および回収器における有機溶剤との接触部位は、石英、または純度99.95重量%以上の炭化ケイ素で構成されている、有機溶剤の精製方法。
〔5〕上記凝縮器は、液滴到達防止部材を備えた蒸留塔部を有し、当該液滴到達防止部材によって精製前の有機溶剤の液滴が上記冷却部に到達することを防止する、〔4〕に記載の有機溶剤の精製方法。
〔6〕上記蒸発工程では、上記蒸発器に不活性ガスを供給する、〔4〕または〔5〕に記載の有機溶剤の精製方法。
〔7〕上記蒸発器、凝縮器および回収器を混合酸で洗浄する洗浄工程をさらに含む、〔4〕〜〔6〕の何れか一項に記載の有機溶剤の精製方法。
〔8〕不純物として含まれる各金属の濃度が10ppt以下である、有機溶剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、有機溶剤に含まれる各金属の濃度を10ppt以下にすることができる、有機溶剤の精製装置および精製方法を提供することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。但し、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施の形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施の形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。尚、本明細書においては特記しない限り、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上、B以下」を意味する。また、「質量」と「重量」は同義語であると見なす。
【0014】
(有機溶剤)
本発明の一態様において精製される有機溶剤としては、特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、プロピレングリコール等のアルコール;ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素;ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素;トルエン、ピリジン等の芳香族炭化水素;酢酸エチル、γ−ブチルラクトン等のエステル類;アセトン、メチルアミルケトン等のケトン、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、フェニルグリシジルエーテル(PGE)、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、およびそれらの混合物等が挙げられる。
【0015】
(不純物)
精製前の有機溶剤に不純物として含まれる金属の濃度は、特に限定されないが、より少ない方が望ましく、具体的には、1ppm以下であることが好ましく、0.1ppm以下であることがより好ましく、1ppb以下であることがさらに好ましい。尚、上記濃度は、有機溶剤に金属が複数種類含まれる場合には、総量の濃度を指す。
【0016】
有機溶剤から除去することができる金属としては、例えば、Li,Na,Mg,Al,K,Ca,Sc,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Ge,As,Rb,Sr,Y,Zr,Mo,Ru,Rh,Pd,Ag,Cd,In,Sn,Sb,Ba,Hf,Ta,W,Ir,Pt,Au,Pb等が挙げられる。
【0017】
尚、本発明の一態様における精製装置および精製方法は、有機溶剤に不純物として含まれる金属を除去して有機溶剤を高純度化する。有機溶剤に含まれる金属以外の不純物である有機物、例えば高沸点成分や低沸点成分は、従来の精製装置および精製方法によって除去される。
【0018】
〔精製装置〕
本発明の一実施の形態における有機溶剤の精製装置は、有機溶剤を加熱して気化させる蒸発器と、気化した有機溶剤を冷却して凝縮させる冷却部を有する凝縮器と、凝縮した有機溶剤を回収する回収器と、を備え、少なくとも上記蒸発器、凝縮器および回収器における有機溶剤との接触部位が、石英、または純度99.95重量%以上の炭化ケイ素で構成されている。
【0019】
上記精製装置は、蒸発器、凝縮器および回収器における有機溶剤との接触部位が、石英、または純度99.95重量%以上の炭化ケイ素で構成されている。本発明において上記接触部位に接触する「有機溶剤」とは、精製前の有機溶剤だけでなく、気化した有機溶剤(有機溶剤のガス)、および凝縮した(精製後の)有機溶剤等、あらゆる状態の有機溶剤を指す。
【0020】
蒸発器、凝縮器および回収器を石英で構成する場合には、当該蒸発器、凝縮器および回収器は、有機溶剤との接触部位以外の部分も石英で構成されていることが好ましい。また、石英は、より純度が高いことから、合成石英であることが好ましい。
【0021】
蒸発器、凝縮器および回収器を炭化ケイ素で構成する場合には、炭化ケイ素をこれら蒸発器、凝縮器、および回収器の形状に加工することが困難であることから、他の素材で構成された蒸発器、凝縮器および回収器の上記接触部位を、炭化ケイ素でコーティングすることが好ましい。
【0022】
以下、精製装置を構成する各部材を、
図1〜3を参照しながら説明する。
図1に示すように、本発明の一実施の形態における精製装置100は、蒸発器1、凝縮器2、および回収器3を少なくとも備えており、蒸発器1と凝縮器2とが連結され、凝縮器2と回収器3とが連結されている。尚、精製装置100は、クリーンドラフト内やクリーンルーム等の清浄な環境下、常圧で使用する。これにより、精製後の有機溶剤が汚染されることを防止することができる。また、蒸発器1、凝縮器2、および回収器3は、初めて使用する場合、後述する〔精製方法〕の<洗浄工程>にて説明するように、混合酸で洗浄してから使用する。
【0023】
<蒸発器1>
蒸発器1は、精製前の有機溶剤を加熱して気化させるようになっており、気化した有機溶剤を、凝縮器2に供給する。蒸発器1は、精製前の有機溶剤を注入する本体10、および蓋体20を備えている。
【0024】
蒸発器1の本体10の形状は、
図3に示すように、底面を有する円筒状であることが好ましい。例えば具体的な一例を挙げれば、本体10の形状および大きさは、底面が平面状で、内径14cm、高さ9cm、底面および側面の厚さ5mmである。これにより、注入される有機溶剤の量に比べて加熱面積および液面の面積を相対的に大きくすることができるため、有機溶剤をより速く気化させることができる。
【0025】
本体10は、例えば電熱式の加熱装置(いわゆるホットプレートや加熱ヒーター)の上に載置されて使用される。精製前の有機溶剤を加熱する温度は、有機溶剤の沸点以上であり、かつ、除去する金属の沸点よりも低い温度であればよく、特に限定されない。また、蒸発器1の本体10内に精製前の有機溶剤が残っている状態で加熱を終了することが好ましい。
【0026】
本体10に注入する精製前の有機溶剤の量は、本体10の内容積にもよるが、1L以下であることが好ましい。これにより、飛沫となった精製前の有機溶剤の液滴が凝縮器2に到達する量を最小限に抑えることができる。
【0027】
蒸発器1の蓋体20は、
図1,2に示すように、例えば円盤状であり、本体10に嵌合される下部23と、本体10の大きさと同じか少し大きい上部22とで主に構成されている。例えば具体的な一例を挙げれば、蓋体20の大きさは、上部22が直径15cm、厚さ6.5mmであり、下部23が直径13.8cm、厚さ6.5mmである。下部23は、蒸発器1の本体10の内壁と接触することによって蓋体20がずれることを防止すると共に、汚染物の混入を防止する。下部23における本体10との接触部位は、本体10の厚さが十分にあるため、気密性が十分に保たれている。
【0028】
蓋体20は、蒸発器1に不活性ガスを供給する不活性ガス供給口27を備えている。不活性ガス供給口27の形状は特に限定されないものの、円筒状であることが好ましい。また、不活性ガス供給口27から延びる不活性ガス供給管28は、供給した不活性ガスが直ちに凝縮器2に向かって流れないように、その開口部が本体10の底面に近接している。
【0029】
不活性ガスは、有機溶剤を攪拌することによって突沸を防ぎ、また、有機溶剤の気化速度(精製速度)を速くすると共に、気化した有機溶剤を凝縮器2に素早く供給し、支燃性ガス(大気)を排出して事故を防止するために、必要に応じて、蒸発器1に供給され、精製前の有機溶剤に通気される。上記不活性ガスとしては、例えば、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、およびそれらの混合気体等が挙げられる。不活性ガスは、高純度(99.999%以上)であることが好ましい。不活性ガスは、不活性ガス供給口27に取り付けられた配管を通じて不活性ガスのガスボンベから供給される。不活性ガスの供給速度は、有機溶剤の飛沫(液滴)が生じない程度で、精製装置100内が常圧に保たれる速度であればよく、特に限定されない。不活性ガスは、有機溶剤の精製開始から精製終了まで連続的に供給されることが好ましい。尚、精製装置は、蒸発器1に不活性ガスを供給して有機溶剤を攪拌することができるため、攪拌装置を備える必要が無い。
【0030】
蒸発器1の蓋体20は、凝縮器2の蒸発器1側の連結部50を挿入するための連結部21を有する。連結部21は、蒸発器1の蓋体20の中央部分にあることが好ましい。連結部21の形状および大きさは、凝縮器2の連結部50を隙間なく安定して固定することができる形状であればよい。例えば具体的な一例を挙げれば、連結部21は、気化した有機溶剤が通過し易いように、内径2cmの円筒状である。連結部21と連結部50とは、例えば溶接加工が施される等することにより、一体形成されていることが好ましい。これにより、連結部分からの汚染物の混入を防止することができる。
【0031】
<凝縮器2>
凝縮器2は、蒸発器1から供給された気化した有機溶剤を冷却して凝縮させ、凝縮した有機溶剤を回収器3に供給する。凝縮器2は、
図1,2に示すように、蒸留塔部30、冷却部40、蒸発器1側の連結部50、および回収器3側の連結部60を備えている。尚、凝縮器2は、蒸留塔部30および連結部50と、冷却部40および連結部60とを互いに分離することができるように、二つの構成部材で構成されていてもよい。
【0032】
凝縮器2の連結部50の形状および大きさは、蒸発器1の連結部21に隙間なく安定して固定することができる形状であればよい。例えば具体的な一例を挙げれば、連結部50は、気化した有機溶剤が通過し易いように、内径2cm、長さ1.3cmの円筒状である。連結部50における連結部21との接触部位は、例えば溶接加工が施される等することにより、一体形成されていることが好ましい。これにより、連結部分からの汚染物の混入を防止することができる。
【0033】
凝縮器2の蒸留塔部30は、例えば円筒状であり、飛沫となった精製前の有機溶剤の液滴が上記冷却部40に到達することを防止する液滴到達防止部材31を少なくとも一つ備えている(
図1,2は四つの場合を示している)。例えば具体的な一例を挙げれば、蒸留塔部30は、内径2cm、厚さ2mm、長さ(蓋体20の上面から蒸留塔部30の頂点までの長さ)6cmである。これにより、飛沫となった精製前の有機溶剤の液滴が冷却部40に到達する量を最小限に抑えることができる。液滴到達防止部材31に関しては後述する。
【0034】
蒸留塔部30と冷却部40との結合角度は、60°〜80°であることが好ましい。つまり、冷却部40は、回収器3側に向かって10°〜30°下向きに傾斜していることが好ましい。冷却部40が下向きに傾斜していることにより、凝縮した有機溶剤を回収器3に回収することができる。
【0035】
冷却部40は、二重管構造を有する表面凝縮器であり、気化した有機溶剤が通過する内管43と、冷却溶媒が通過する外管44とを有する。外管44は、内管43を覆っており、外管44内を冷却溶媒が通過することにより、内管43内の気化した有機溶剤を冷却し、凝縮させる。内管43は円筒状であり、例えば具体的な一例を挙げれば、内径2cm、厚さ2mm、長さ(蒸留塔部30との境目から連結部60との境目までの長さ)15cmである。これにより、気化した有機溶剤を十分に冷却して凝縮させることができる。
【0036】
外管44の形状は円筒状であり、例えば具体的な一例を挙げれば、長さ10cmである。外管44は冷却溶媒注入口45および冷却溶媒排出口46を有する。冷却溶媒としては、例えば、水、ブライン等の液体が挙げられる。冷却溶媒の温度は、気化した有機溶剤を十分に(例えば常温に)冷却することができる温度であればよい。また、冷却溶媒を供給する速度は、気化した有機溶剤を十分に冷却することができる速度であればよい。
【0037】
凝縮器2の連結部60の形状および大きさは、回収器3の連結部83に隙間なく安定して固定することができる形状であればよい。例えば具体的な一例を挙げれば、連結部60は、凝縮した有機溶剤が通過し易いように、回収器3側の内径3.6cm、長さ10cmの円錐台状である。連結部60の長さは、連結部83に挿入されたときに、その先端部分が回収器3内に突出する長さであることが好ましい。連結部60における連結部83との接触部位には、擦り合わせ加工が施されていることが好ましい。これにより、凝縮器2と回収器3との連結が安定し、連結部分からの汚染物の混入を防止することができる。
【0038】
(液滴到達防止部材31)
液滴到達防止部材31は、
図1,2に示すように、蒸留塔部30に複数備えられていてもよい。液滴到達防止部材31は、気化した有機溶剤が蒸留塔部30内を最短距離で上昇して冷却部40に到達することを防止する役割を有する邪魔板である。従って、各液滴到達防止部材31は、蒸留塔部30を上方から見たときに、連結部50の開口部側が見通せないように、その固定部から先端部までの長さが設定されている。液滴到達防止部材31の形状は、邪魔板としての役割を果たすことができる形状であればよく、特に限定されない。
【0039】
また、液滴到達防止部材31は、凝縮した有機溶剤や飛沫となった精製前の有機溶剤の液滴がその上面に滞留しないように、蒸留塔部30に固定されている固定部から先端部に向かって下向きに傾斜している。液滴到達防止部材31の傾斜角度は、例えば、40°〜60°であることが好ましい。
【0040】
最も下側(蒸発器1側)に位置する液滴到達防止部材31の固定部は、蒸発器1の蓋体20の上部22から2cmの距離にあることが好ましい。最も上側(冷却部40)に位置する液滴到達防止部材31の固定部は、蒸発器1の蓋体20の上部22から3cmの距離にあることが好ましい。
【0041】
蒸留塔部30が液滴到達防止部材31を備えていることにより、飛沫となった精製前の有機溶剤の液滴が冷却部40に到達することを防止することができる。それゆえ、気化した有機溶剤のみが冷却部40に供給されるため、より高純度の有機溶剤を回収することができる。
【0042】
<回収器3>
回収器3は、凝縮器2で凝縮した有機溶剤を回収する。回収器3は、必要に応じて、冷却されていてもよい。
【0043】
回収器3の形状および大きさは、凝縮した(精製後の)有機溶剤を受け入れることができれば特に制限されない。回収器3には、不活性ガス供給前に精製装置に存在していた支燃性ガス(大気)、および供給された不活性ガスを排出して精製装置100内部を常圧に保つことができるように、不活性ガス排出口(図示しない)が設けられている。
【0044】
回収器3は、
図1に示すように、凝縮器2の連結部60が嵌合する連結部83を備えている。連結部83の形状および大きさは、凝縮器2の連結部60が挿入され、連結部60を隙間なく安定して固定することができる形状であればよい。例えば具体的な一例を挙げれば、連結部83は、凝縮した有機溶剤が通過し易いように、凝縮器2側の内径2.4cm〜3.0cm、長さ3cmの円錐台状である。連結部83における連結部60との接触部位には、一般的なガラス器具と同様に、いわゆる擦り合わせ加工が施されていることが好ましい。
【0045】
回収器3に回収された精製後の有機溶剤は、例えば、誘導結合プラズマ質量分析(ICP−MS)等の超微量域(10ppt)の分析に用いる希釈用有機溶剤として用いられる。尚、精製後の有機溶剤は、必要に応じて回収器3内で保管される。
【0046】
本発明の一実施の形態における精製装置100は、有機溶剤との接触部位が、石英、または純度99.95重量%以上の炭化ケイ素で構成されている蒸発器1、凝縮器2および回収器3を備えている。このため、精製時に有機溶剤が石英、または純度99.95重量%以上の炭化ケイ素以外の物質と接触しないので、精製前の有機溶剤を気化および凝縮させることにより、精製前の有機溶剤に含まれる各金属の濃度にかかわらず、精製後の有機溶剤に含まれる各金属の濃度を10ppt以下にすることができ、より好ましくは、精製後の有機溶剤に含まれる各金属の総和濃度を10ppt以下にすることができる。特に、本発明の一実施の形態における精製装置は、不純物として含まれる各金属の濃度が0.1ppm以下、より好ましくは0.05ppm以下の有機溶剤を精製して、各金属の濃度が1ppt以下の有機溶剤にすることができる。
【0047】
〔精製方法〕
本発明の一実施の形態における有機溶剤の精製方法は、蒸発器内の有機溶剤を加熱して気化させる蒸発工程と、気化した有機溶剤を、冷却部を有する凝縮器を用いて冷却して凝縮させる凝縮工程と、凝縮した有機溶剤を回収器に回収する回収工程と、を含む有機溶剤の精製方法であって、少なくとも上記蒸発器、凝縮器および回収器における有機溶剤との接触部位が、石英、または純度99.95重量%以上の炭化ケイ素で構成されている方法である。好ましくは、本発明の一実施の形態における有機溶剤の精製方法は、上述した精製装置100を用いて実施される。また、本発明の一実施の形態における有機溶剤の精製方法は、上記蒸発器、凝縮器および回収器を混合酸で洗浄する洗浄工程をさらに含む。
【0048】
本発明の一実施の形態における有機溶剤の精製方法は、クリーンドラフト内やクリーンルーム等の清浄な環境下、常圧で実施することが好ましい。これにより、精製後の有機溶剤が汚染されることを防止することができる。
【0049】
以下、上述した精製装置100を用いた、本発明の一実施の形態における有機溶剤の精製方法を構成する各工程である洗浄工程、蒸発工程、凝縮工程、および回収工程に関して説明する。但し、上述した有機溶剤の精製装置において説明した内容と重複する内容に関しては、その説明を簡略化または省略することとする。
【0050】
<洗浄工程>
蒸発器、凝縮器および回収器は、初めて使用する場合、有機溶剤の精製を行う前に、一般的な混合酸によって予め洗浄することが好ましい。
【0051】
洗浄工程では、蒸発器、凝縮器および回収器を、例えば、硫酸と硝酸との混合酸によって洗浄し、乾燥する。1回の洗浄に用いる混合酸の量は、各器具の大きさにもよるが、100mL以上(上限は500L程度)であることが好ましい。尚、混合酸は、蒸発器、凝縮器および回収器に付着している金属を除去することができる組成及び濃度であればよく、特に限定されない。
【0052】
乾燥は、洗浄後の各器具が汚染されない方法であればよく、例えば自然乾燥させる方法が挙げられるものの、特に限定されない。上記洗浄および乾燥は、少なくとも1回行えばよいが、必要に応じて複数回繰り返してもよい。尚、洗浄を複数回繰り返す場合において、用いる混合酸の組成及び濃度は、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。つまり、付着している金属の量や種類に応じて、複数種類の混合酸を使い分けてもよい。
【0053】
混合酸による洗浄を一度行った後は、精製後の有機溶剤のみが触れるため、使用後に、混合酸による洗浄を省略することができる。また、精製する有機溶剤の種類が前回精製した有機溶剤の種類と異なる場合には、各器具を精製する有機溶剤で共洗いした後に乾燥することが好ましい。
【0054】
<蒸発工程>
蒸発工程では、洗浄後の蒸発器に精製前の有機溶剤を注入し、精製装置を組み立てた後、蒸発器内の有機溶剤を例えば電熱式の加熱装置で加熱して気化させる。
【0055】
蒸発工程では、必要に応じて、蒸発器内に不活性ガスを連続的に供給する。これにより、有機溶剤を攪拌することができるので、突沸を防ぐことができ、また、有機溶剤の気化速度(精製速度)を速くすることができると共に、気化した有機溶剤を凝縮器に素早く供給し、支燃性ガス(大気)を排出して事故を防止することができる。
【0056】
また、蒸発工程では、凝縮器の蒸留塔部に備えられた液滴到達防止部材によって、飛沫となった精製前の有機溶剤の液滴が凝縮器の冷却部に到達することを防止する。
【0057】
蒸発工程では、蒸発器の本体内に精製前の有機溶剤が残っている状態で加熱を終了することが好ましい。
【0058】
気化した有機溶剤は、次の凝縮工程に供される。
【0059】
<凝縮工程>
凝縮工程では、気化した有機溶剤を、凝縮器の冷却部を用い、冷却溶媒によって冷却して凝縮させる。凝縮した有機溶剤は、次の回収工程に供される。
【0060】
<回収工程>
回収工程では、凝縮した有機溶剤を、回収器に回収する。これにより、精製された有機溶剤を得ることができる。
【0061】
上記蒸発工程、凝縮工程、および回収工程は、それぞれ個別に行われる工程ではなく、実質的に同時に行われる工程である。つまり、本発明の一実施の形態における精製方法は、一連の工程として上記蒸発工程、凝縮工程、および回収工程を行うことにより、有機溶剤を連続的に精製する。
【0062】
尚、使用後の蒸発器、凝縮器、および回収器は、上述した洗浄工程を行うことにより、繰り返し使用することができる。
【0063】
本発明の一実施の形態における精製方法は、少なくとも上記蒸発器、凝縮器および回収器における有機溶剤との接触部位が、石英、または純度99.95重量%以上の炭化ケイ素で構成されていることを特徴とする方法である。このため、精製時に有機溶剤が石英、または純度99.95重量%以上の炭化ケイ素以外の物質と接触しないので、精製前の有機溶剤を気化および凝縮させて、精製前の有機溶剤に含まれる金属の濃度にかかわらず、精製後の有機溶剤に含まれる各金属の濃度を10ppt以下にすることができる。特に、本発明の一実施の形態における精製方法は、不純物として含まれる各金属の濃度が0.1ppm以下、より好ましくは0.05ppm以下の有機溶剤を精製して、各金属の濃度が1ppt以下の有機溶剤を得ることができる。
【0064】
精製後の有機溶剤は、例えば、誘導結合プラズマ質量分析(ICP−MS)等の超微量域(10ppt)の分析に用いる希釈用有機溶剤として用いられる。
【0065】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0066】
以下、実施例を用いて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されて解釈されるべきではない。
【0067】
〔実施例1〕
一般的な混合酸によって予め洗浄した、純度99.95%の石英で作製された蒸発器、凝縮器、および回収器を含む有機溶剤の精製装置を用いて、不純物である各金属の総和濃度が0.1ppmであるプロピレングリコールモノメチルエーテルの精製をクリーンドラフト内で常圧にて行った。
【0068】
蒸発器の本体に、上記プロピレングリコールモノメチルエーテル700mLを注入した後、蓋体を装着し、蒸発器と凝縮器、および、凝縮器と回収器とを連結して、精製装置を組み立てた。凝縮器の冷却部の外管には、水を20mL/秒で通過させた。また、蒸発器には、高純度アルゴンガスを7mL/秒〜10mL/秒で精製開始から終了まで連続的に供給した。
【0069】
そして、蒸発器内をアルゴンガス雰囲気にした後、加熱ヒーターによって蒸発器を160℃に加熱して有機溶剤を気化させ、凝縮器で凝縮させた。加熱は、蒸発器内に精製前のプロピレングリコールモノメチルエーテルが残っている状態で終了した。
【0070】
精製後の有機溶剤の量は500mLであり、回収率は71%であった。誘導プラズマ質量分析装置を用いて分析を行ったところ、精製後の有機溶剤に含まれる不純物である各金属の総和濃度は7.2pptであった。従って、各金属の総和濃度が0.1ppmであるプロピレングリコールモノメチルエーテルから、各金属の総和濃度が10ppt以下であるプロピレングリコールモノメチルエーテルを得ることができた。
【0071】
上記結果から、本発明の一態様に係る有機溶剤の精製装置および精製方法によれば、有機溶剤に含まれる各金属の濃度を10ppt以下にすることができることが分かった。