特許第6650704号(P6650704)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6650704-フレキシブル有機EL表示装置 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6650704
(24)【登録日】2020年1月23日
(45)【発行日】2020年2月19日
(54)【発明の名称】フレキシブル有機EL表示装置
(51)【国際特許分類】
   H05B 33/04 20060101AFI20200210BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20200210BHJP
   H05B 33/02 20060101ALI20200210BHJP
   H01L 27/32 20060101ALI20200210BHJP
   G09F 9/30 20060101ALI20200210BHJP
【FI】
   H05B33/04
   H05B33/14 A
   H05B33/02
   H01L27/32
   G09F9/30 365
【請求項の数】6
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-170629(P2015-170629)
(22)【出願日】2015年8月31日
(65)【公開番号】特開2017-50071(P2017-50071A)
(43)【公開日】2017年3月9日
【審査請求日】2018年8月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】501426046
【氏名又は名称】エルジー ディスプレイ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(72)【発明者】
【氏名】趙 動旭
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 治
(72)【発明者】
【氏名】玉井 和彦
(72)【発明者】
【氏名】チェキョン・チョイ
(72)【発明者】
【氏名】ソンア・ヨウ
(72)【発明者】
【氏名】奥野 晴美
【審査官】 ▲うし▼田 真悟
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−063723(JP,A)
【文献】 特開2001−139933(JP,A)
【文献】 特開2008−138041(JP,A)
【文献】 特開2011−222334(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2015−0024757(KR,A)
【文献】 特表2016−526265(JP,A)
【文献】 特表2014−532769(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 33/00−33/28
H01L 27/32
H01L 51/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレキシブル基板と、前記フレキシブル基板上に配置された無機膜と、前記無機膜上に配置された有機EL素子と、前記有機EL素子を覆う封止層と、前記封止層上に配置された封止基板と、前記封止層の端部及び前記封止基板の端部を少なくとも含む側面に形成された樹脂シール層とを備えるフレキシブル有機EL表示装置であって、前記樹脂シール層が、10g/m2/day以下の水蒸気透過率を有し、
前記樹脂シール層は、ベース樹脂と、無機フィラーとを含有し、
前記無機フィラーの平均粒径は、10μm以下であり、
前記無機フィラーは、酸化カルシウム、ゼオライト、シリカゲル、及び活性アルミナの内の少なくとも1つを含む水分捕捉無機化合物を含み、
前記樹脂シール層が、1GPa以下のヤング率を有し、
前記樹脂シール層と前記フレキシブル基板との界面、前記樹脂シール層と前記無機膜との界面、前記樹脂シール層と前記封止層との界面及び前記樹脂シール層と前記封止基板との界面のせん断強度が0.5kgf/cm以上であり、且つそれらの界面のピール強度が0.2N/10mm以上であることを特徴とするフレキシブル有機EL表示装置。
【請求項2】
前記ベース樹脂が、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂、ポリオレフィン樹脂及び液晶ポリマー樹脂からなる群から選択されることを特徴とする請求項1に記載のフレキシブル有機EL表示装置。
【請求項3】
前記無機フィラーの含有量が10質量%〜70質量%の範囲である、請求項1に記載のフレキシブル有機EL表示装置。
【請求項4】
前記無機フィラーが、板状無機化合物をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載のフレキシブル有機EL表示装置。
【請求項5】
前記板状無機化合物がマイカ、クレイ、及びタルクの内の少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項4に記載のフレキシブル有機EL表示装置。
【請求項6】
前記板状無機化合物のアスペクト比が3〜3000であることを特徴とする請求項4に記載のフレキシブル有機EL表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブル有機EL表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機EL表示装置を構成する有機EL素子は、時間の経過とともに発光特性が低下するという問題があった。この発光特性の低下は、酸素や水分が有機EL素子の内部に侵入し、有機層や電極を劣化させることが主な原因であると考えられている。そこで、封止剤を用いて有機EL素子が酸素や水分と接触するのを遮断する様々な手段が採られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、第1フレキシブルガラス基板と第2フレキシブルガラス基板とで挟まれた有機EL素子と、それらの側面を低い酸素透過度と低い水分透過度が得られる程度に厚くしたエポキシ樹脂でシールするシール層とを備える有機EL表示装置が提案されている。
特許文献2には、窒化シリコン又は酸窒化シリコンからなるガスバリア層で、電極に接続されている接続配線の端面、その接続配線と発光素子との表面を覆った有機EL表示装置が提案されている。
特許文献3には、対向する第1の基板と第2の基板との間に設けられた有機EL素子を有する画素部と、画素部の外周を囲むように設けられ、樹脂からなる第1のシール材と、第1の基板及び第2の基板の側面の少なくとも一方と接し、且つ第1の基板と第2の基板との隙間に充填され、金属からなる第2シール材とを有する有機EL表示装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−019082号公報
【特許文献2】特開2009−117079号公報
【特許文献3】特開2014−063147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、酸素や水分の遮断性を確保するためにシール層の層厚さを厚くしなければならず、非表示領域(ベゼル部)の幅が大きくなるという問題がある。特許文献2の有機EL表示装置を畳んだり曲げたりした場合、ガスバリア層が破壊されてしまうため、特許文献2の技術をフレキシブル有機EL表示装置に適用することはできない。また、特許文献3では、材料の異なる複数のシール材を設ける必要があるので、製造工程が複雑になり、製造コストが増大するという問題がある。
【0006】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであって、柔軟性に優れ、非表示領域(ベゼル部)の幅を大きくすることなく、酸素や水分の遮断性に優れると共に、相対的に低コストで、相対的に単純な工程を通じて製造できるフレキシブル有機EL表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のフレキシブル有機EL表示装置は、フレキシブル基板と、フレキシブル基板上に配置された無機膜と、無機膜上に配置された有機EL素子と、有機EL素子を覆う封止層と、封止層上に配置された封止基板と、封止層の端部及び封止基板の端部を少なくとも含む側面に形成された樹脂シール層とを備え、樹脂シール層が、10g/m/day以下の水蒸気透過率を有することを特徴とするものである。
【0008】
本発明において、上記樹脂シール層は、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂、ポリオレフィン樹脂及び液晶ポリマー樹脂からなる群から選択されるベース樹脂と、無機フィラーとを含有することが好ましい。
【0009】
本発明において、上記無機フィラーは、板状無機化合物及び水分捕捉無機化合物からなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0010】
本発明において、上記樹脂シール層は、1GPa以下のヤング率を有することが好ましい。
【0011】
本発明において、上記樹脂シール層と上記フレキシブル基板との界面、上記樹脂シール層と上記無機膜との界面、上記樹脂シール層と上記封止層との界面及び上記樹脂シール層と上記封止基板との界面のせん断強度が0.5kgf/cm以上であり、且つそれらの界面のピール強度が0.2N/10mm以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、柔軟性に優れ、非表示領域(ベゼル部)の幅を大きくすることなく、酸素や水分の遮断性に優れると共に、相対的に低コストで、相対的に単純な工程を通じて製造できるフレキシブル有機EL表示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明のフレキシブル有機EL表示装置の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るフレキシブル有機EL表示装置の好適な実施の形態について説明する。
図1は、本発明に係るフレキシブル有機EL表示装置の模式断面図である。図1に示すように、フレキシブル有機EL表示装置10は、フレキシブル基板11と、フレキシブル基板11上に配置された無機膜12と、無機膜12上に配置された有機EL素子13と、有機EL素子13を覆う封止層14と、封止層14上に配置された封止基板15と、封止層14の端部及び封止基板15の端部を少なくとも含む側面に形成された樹脂シール層16とを備える。
【0015】
樹脂シール層16は、厚みを100μmとし40℃、90%RHで測定した時に10g/m/day以下の水蒸気透過率(WVTR:water vapor transmission rate)を有し、好ましくは1g/m/day以下の水蒸気透過率を有し、より好ましくは0.1g/m/day以下の水蒸気透過率を有する。本発明に係るフレキシブル有機EL表示装置では、樹脂シール層16が酸素や水分の遮断性に優れるので、特許文献1のようにシール層の層厚を厚くする必要がない。そのため、特許文献1の有機EL表示装置よりも非表示領域(ベゼル部)の幅を狭めることができる。
【0016】
樹脂シール層16は、上記した水蒸気透過率を達成するために、ベース樹脂と無機フィラーとを含有することが好ましい。ベース樹脂としては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂、ポリオレフィン樹脂、液晶ポリマー樹脂等を挙げることができ、これらの中でも、封止層14及び封止基板との接着性に優れ、柔軟性に優れるという観点から、ポリオレフィン樹脂が好ましい。
【0017】
無機フィラーとしては、板状無機化合物及び水分捕捉無機化合物(無機系ゲッター剤)の少なくとも一種を含むことが好ましい。無機フィラーの平均粒径は、10μm以下であることが好ましい。無機フィラーの平均粒径が10μm以下であれば、フレキシブル有機EL表示装置10を畳んだり曲げたりして(特に曲率半径30mmで曲げて)も樹脂シール層16が破壊されることがない。なお、本発明において、無機フィラーの平均粒径とは、レーザ回折式粒子径分布測定装置により測定した値である。
【0018】
板状無機化合物の具体例としては、マイカ、クレイ、タルク等を挙げることができる。これらの板状無機化合物は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。板状無機化合物のアスペクト比は、酸素や水分の遮断性を向上させるため、3〜3000であることが好ましく、10〜3000であることがより好ましい。
【0019】
本発明において、水分捕捉無機化合物(無機系ゲッター剤)とは、少なくとも水分補足(吸湿)機能を有し、望ましくは酸素吸収機能あるいは酸素吸着機能を有する無機化合物である。水分捕捉無機化合物(無機系ゲッター剤)の具体例としては、酸化カルシウム、ゼオライト(例えば、ナノサイズ化されたゼオライト)、シリカゲル、活性アルミナ等を挙げることができる。これらの水分捕捉無機化合物(無機系ゲッター剤)は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0020】
酸素や水分の遮断性をより向上させるという観点から、板状無機化合物と水分捕捉無機化合物(無機系ゲッター剤)とを併用することが好ましい。
【0021】
樹脂シール層16は、10質量%〜70質量%の無機フィラーを含有することが好ましい。無機フィラーの含有量が10質量%〜70質量%の範囲であれば、酸素や水分の遮断性を確保しつつ、樹脂シール層16内に無機フィラーを均一に分散させ易い。
【0022】
樹脂シール層16は、1GPa以下のヤング率を有することが好ましい。樹脂シール層16のヤング率が1GPa以下であれば、フレキシブル有機EL表示装置10を畳んだり曲げたりして(特に曲率半径30mmで曲げて)も樹脂シール層16が破壊されることがない。
【0023】
また、樹脂シール層16とフレキシブル基板11との界面、樹脂シール層16と無機膜12との界面、樹脂シール層16と封止層14との界面及び樹脂シール層16と封止基板15との界面のせん断強度は、0.5kgf/cm以上であることが好ましい。これらの界面のせん断強度が0.5kgf/cm以上であれば、フレキシブル有機EL表示装置10を繰り返し畳んだり曲げたりしても不都合が生じない。また、樹脂シール層16と接する他の部材(例えば、無機バリア層が形成されたポリイミド、ポリエチレンテレフタレートフィルム、アルミニウム箔など)との界面のせん断強度も0.5kgf/cm以上であることが好ましい。なお、本発明において、上記せん断強度は、樹脂シール層16を形成するのと同じ材料を用い直径1cm、厚さ100μm程度となる量でフレキシブル基板11、無機膜12、封止層14もしくは封止基板15を形成するのと同じ材料を接着したサンプルを作製し、このサンプルを用いて5mm/分の引張速度で測定した値である。
【0024】
フレキシブル基板11との界面、樹脂シール層16と無機膜12との界面、樹脂シール層16と封止層14との界面及び樹脂シール層16と封止基板15との界面のピール強度は、0.2N/10mm以上であることが好ましい。これらの界面のピール強度が0.2N/10mm以上であれば、フレキシブル有機EL表示装置10を繰り返し畳んだり曲げたりしても不都合が生じない。なお、本発明において、上記ピール強度は、樹脂シール層16を形成するのと同じ材料を用い厚さ100μm程度となる量でフレキシブル基板11、無機膜12、封止層14もしくは封止基板15を形成するのと同じ材料を接着し、10mm幅に切断してサンプルを作製し、このサンプルを用いて室温雰囲気下で300mm/分の剥離速度での180度ピール強度(N/10mm)を測定した値である。
【0025】
上記した樹脂シール層16の形成方法は、封止層14の端部及び封止基板15の端部を少なくとも含む側面に、樹脂シール層形成用樹脂組成物を塗布し、必要に応じて硬化させればよい。ここで用いる樹脂シール層形成用樹脂組成物の硬化形態は、熱硬化型、湿気硬化型、化学硬化型(二液混合)、ホットメルト型、紫外線硬化型等の何れであってもよい。樹脂シール層形成用樹脂組成物の塗布は、ディスペンサ塗布、スプレー塗布、インクジェット塗布等の何れであってもよい。上記したように、樹脂シール層16は単層で酸素や水分の遮断性に十分に優れるので、特許文献3のように製造工程が複雑にならず、相対的に低コストでフレキシブル有機EL表示装置10を提供することができる。
【0026】
フレキシブル基板11としては、可撓性を有する公知のものを使用することができる。フレキシブル基板11に用いることのできる材料の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスチレン等を挙げることができる。
【0027】
無機膜12は、フレキシブル基板11を通過して水分が侵入し、有機EL素子13を劣化させることを防ぐものである。浸水バリアの機能を有する無機膜12には、例えば、SiO等の無機層や、有機層との混合層等を挙げることができる。
【0028】
有機EL素子13は、一対の対向した電極と、それらの電極間に配置された発光層を含む有機EL層とを少なくとも有するものである。有機EL素子13には、当該技術分野で公知の種々の構成を採用することができる。
【0029】
封止層14としては、有機EL素子13を封止するために用いられる公知のものを使用することができる。封止層14に用いることのできる材料の具体例としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂等を挙げることができる。
【0030】
封止基板15は、有機EL素子13を密封するために用いられ、酸素や水分の遮断性の優れる公知のものを使用することができる。封止基板15に用いることのできる材料の具体例としては、金属、無機バリア膜が形成された樹脂、無機有機複合膜が形成された樹脂等を挙げることができる。
【0031】
本発明に係るフレキシブル有機EL表示装置は、樹脂シール層を上記のように形成すること以外は、公知の方法に準じて製造することができる。
【符号の説明】
【0032】
10 フレキシブル有機EL表示装置、11 フレキシブル基板、12 無機膜、13 有機EL素子、14 封止層、15 封止基板、16 樹脂シール層。
図1