特許第6650772号(P6650772)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6650772
(24)【登録日】2020年1月23日
(45)【発行日】2020年2月19日
(54)【発明の名称】微粒子捕捉装置および微粒子測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/04 20060101AFI20200210BHJP
   G01N 1/02 20060101ALI20200210BHJP
   G01N 15/00 20060101ALI20200210BHJP
【FI】
   G01N1/04 W
   G01N1/02 Z
   G01N15/00 C
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-19952(P2016-19952)
(22)【出願日】2016年2月4日
(65)【公開番号】特開2017-138226(P2017-138226A)
(43)【公開日】2017年8月10日
【審査請求日】2018年9月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】今村 雅美
(72)【発明者】
【氏名】二ツ木 高志
(72)【発明者】
【氏名】山中 弘次
【審査官】 本村 眞也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−167852(JP,A)
【文献】 特開2010−197152(JP,A)
【文献】 特表2012−510052(JP,A)
【文献】 特開2011−247675(JP,A)
【文献】 特開2008−145102(JP,A)
【文献】 特開2013−031835(JP,A)
【文献】 特開2012−154648(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0073585(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00−1/44;15/00−15/14
B01D 29/04;39/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶媒を主成分とする溶液に含まれる微粒子を捕捉する微粒子捕捉装置であって、
ろ過膜と、前記ろ過膜の表面の一部を露出させるように該表面に熱溶着された耐溶剤性を有するシート部材とを含み、前記ろ過膜の前記露出した部分前記溶液が通液されるように構成されたろ過手段を有する、微粒子捕捉装置。
【請求項2】
前記ろ過膜の前記露出した部分が、132mm未満の面積を有する、請求項に記載の微粒子捕捉装置。
【請求項3】
前記ろ過膜の前記表面における孔径が、10〜200nmの範囲にある、請求項1または2に記載の微粒子捕捉装置。
【請求項4】
前記ろ過膜が、単一の無機材料からなる、請求項1からのいずれか1項に記載の微粒子捕捉装置。
【請求項5】
有機溶媒を主成分とする溶液に含まれる微粒子を測定する微粒子測定方法であって、
耐溶剤性を有するシート部材が表面に熱溶着されることで該表面の一部が露出したろ過膜を用意する工程と、
前記ろ過膜の前記露出した部分に前記溶液を通液して前記微粒子を捕捉する工程と、
前記捕捉された微粒子の組成を分析する工程と、
を含む、微粒子測定方法。
【請求項6】
前記組成を分析する工程が、走査型電子顕微鏡とエネルギー分散型X線分析装置とを用いて、前記捕捉された微粒子の組成を特定することを含む、請求項に記載の微粒子測定方法。
【請求項7】
前記微粒子を捕捉する工程が、前記微粒子の濃度が100000個/ml以下の前記溶液を前記ろ過に通液することを含む、請求項またはに記載の微粒子測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微粒子捕捉装置および微粒子測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスや液晶デバイスの製造プロセスでは、不純物が高度に除去された超純水などの液体を用いて、半導体ウエハやガラス基板の洗浄が行われている。このようなウエット洗浄に使用される液体に含まれる微粒子は、デバイスの歩留まりを低下させる直接の原因となるため、その濃度が厳しく管理されている。
【0003】
近年、半導体デバイスの高集積化・微細化が急激に進んでおり、例えば、「国際半導体技術ロードマップ(ITRS)2013」によれば、DRAM(Dynamic Random Access Memory)のハーフピッチ寸法は、2024年に11nmに達すると予想されている。これに伴い、問題となる微粒子のサイズ(粒径)もさらに小さくなることが予想され、現状よりもさらに小さい粒径の微粒子を管理することが求められる可能性がある。
【0004】
半導体デバイスの高集積化・微細化が進む中、半導体ウエハの洗浄には、超純水の他、アルコールなどの有機溶媒も多く用いられている。このような溶液の場合、上述の(微粒子の粒径に関する)要求を保証するためには、微粒子の発生源を特定して対策を講ずることが必要になる。微粒子の発生源を特定するためには、溶液に含まれる微粒子の組成を把握することが有効である。また、微粒子の組成を把握することは、不意のトラブル時にその原因を特定するためにも非常に有効な手段である。
【0005】
溶液中の微粒子の組成分析を行う方法として、特許文献1には、金属を主成分とするフィルタに溶液を通して微粒子を捕捉し、捕捉した微粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)とエネルギー分散型X線分析装置(EDX)とを用いて組成分析する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−139109号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した方法において、特に半導体ウエハのウエット洗浄用の微粒子濃度が低く管理された溶液を対象とする場合、同じ通液量ではフィルタに捕捉される微粒子が少ないため、SEMでフィルタ上の微粒子を探し出すのは容易ではない。このような場合でも、例えば数十〜数百リットル程度の大量の溶液をフィルタに通すことで、フィルタ上に捕捉される微粒子が多くなり、SEMで観察した際にも容易に粒子を探し出すことが可能になる。しかしながら、このような大量の通液を行うことは、現実的な方法ではなく、有機溶媒を対象とする場合には、安全上困難である。
【0008】
そこで、本発明の目的は、少ない通液量で液体に含まれる微粒子を効率的に捕捉する微粒子捕捉装置を提供することである。また、本発明の目的は、この微粒子捕捉装置を用いた微粒子測定方法も提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的を達成するために、本発明の微粒子捕捉装置は、有機溶媒を主成分とする溶液に含まれる微粒子を捕捉する微粒子捕捉装置であって、ろ過膜と、ろ過膜の表面の一部を露出させるようにその表面に熱溶着された耐溶剤性を有するシート部材とを含み、ろ過膜の露出した部分溶液が通液されるように構成されたろ過手段を有している
【0010】
また、本発明の微粒子測定方法は、有機溶媒を主成分とする溶液に含まれる微粒子を測定する微粒子測定方法であって、耐溶剤性を有するシート部材が表面に熱溶着されることでその表面の一部が露出したろ過膜を用意する工程と、ろ過膜の露出した部分溶液を通液して微粒子を捕捉する工程と、捕捉された微粒子の組成を分析する工程と、を含んでいる。
【0011】
このような微粒子捕捉装置および微粒子測定方法では、ろ過膜の一部で集中的に微粒子を捕捉するようになっているため、微粒子濃度が低く管理された溶液の場合でも、溶液中の微粒子を少ない通液量で効率的に捕捉して測定することが可能になる。
【発明の効果】
【0012】
以上、本発明によれば、少ない通液量で液体に含まれる微粒子を効率的に捕捉する微粒子捕捉装置と、それを用いた微粒子測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態による微粒子捕捉装置の構成を示す概略図である。
図2】本実施形態のろ過装置の構成を示す図である。
図3】実施例2におけるSEM写真およびEDXスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0015】
まず、図1を参照して、本発明の一実施形態による微粒子捕捉装置の構成について説明する。図1は、本実施形態の微粒子捕捉装置の構成を示す概略図である。
【0016】
なお、以下では、本実施形態の微粒子捕捉装置が対象とする好適な液体として、有機溶媒を主成分とする溶液(以下、単に「溶液」ともいう)を例示するが、本発明の微粒子捕捉装置は、他の液体、例えば純水や超純水にも好適に適用可能であることに留意されたい。本実施形態で対象となる有機溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸−n−ブチル、メチルイソプチルケトン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)、プロピレングリコール1−モノメチルエーテル2−アセタート(PGMEA)、酢酸エチル、酢酸イソペンチル、シクロヘキサノン、N−メチル−2−ピリジノン、γ−ブチロラクトン、エチレングリコール、ジメチルエーテルなどが挙げられる。
【0017】
微粒子捕捉装置1は、試料である溶液をろ過して、溶液中の微粒子を捕捉するためのろ過装置(ろ過手段)10を有している。ろ過装置10は、ろ過膜11と、ろ過膜11を内部に収容して保持するホルダ12とを有し、溶液が流入口10aから内部に流入してろ過膜11に通液され、ろ過膜11に通液された溶液が流出口10bから流出するように構成されている。これにより、ろ過装置10は、溶液中の微粒子をろ過膜11上に捕捉することができる。
【0018】
ろ過膜11は、単一の材料からなる平膜である。ろ過膜11の材料は、特定の材料に限定されるものではないが、耐溶剤性の観点から、無機材料であることが好ましい。そのような材料としては、例えば、アルミニウム、チタン、ケイ素、ジルコニウム、ステンレス、ニッケル、銅、パラジウム、白金、炭素などの金属を主成分とする材料、ゼオライト、セラミックが挙げられるが、金属を主成分とする材料、特に溶液との活性が少ない金属酸化物が好適に用いられる。金属酸化膜を用いる場合、耐溶剤性を向上させるために、800℃以上に加熱した結晶性が高いものを用いることが好ましい。なお、耐溶剤性を有しているものであれば、無機材料の他、有機材料を用いることもできる。そのような材料としては、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリカーボネート(PC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、酢酸セルロース(CA)、4フッ化エチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、クロロトリフルオエチレン・エチレン共重合体(ECTFE)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド(PI)、ポリスルホン(PS)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエチレンテレフタレート(PET)が挙げられる。ここで、耐溶剤性とは、有機溶媒に対する耐性を意味し、有機溶媒に対して腐食や変質を起こさない性質を意味する。
【0019】
ろ過膜11の上流側の表面(以下、「上面」という)における孔径は、捕捉対象とする微粒子の種類に応じて適宜選択することができ、例えば10〜200nm程度である。ろ過膜11の上面で捕捉した微粒子をエネルギー分散型X線分析装置(EDX)で組成分析する場合、ろ過膜11の孔径が上面からある程度の深さまで均一でないと、ろ過膜11によるバックグラウンドの影響が大きくなってしまう。このような影響を最小限に抑えるために、ろ過膜11は、上面から膜厚方向に400nm以上の均一な孔径を有していることが好ましく、500nm以上の均一な孔径を有していることがさらに好ましい。また、ろ過膜11が上面から膜厚方向に1μmを超えて均一な孔径を有していると、孔径のサイズによっては、ろ過抵抗が大きくなり、ろ過時間が長くなってしまう場合がある。そのため、ろ過膜11は、その上面の孔径が小さく、特に50nm以下の場合には、膜厚方向に1μm以下の均一な孔径を有していることが好ましい。ろ過膜11の製造方法としては、特定の方法に限定されるものではないが、金属を主成分とする材料を用いる場合、均一な孔径を形成することができる点で、陽極酸化による方法が好ましい。その場合、ろ過膜11としては、特にアルミニウムを陽極酸化して得られるアルミナ膜がより好ましい。
【0020】
ホルダ12の材料としては、溶液の望ましくない汚染を抑制するために、耐溶剤性を有する材料から形成されていることが好ましい。そのような材料としては、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂、ナイロン、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)が挙げられるが、幅広い有機溶媒に対する耐性を有している点で、PP、PE、PET、フッ素系樹脂が特に好適に用いられる。
【0021】
また、微粒子捕捉装置1は、ろ過装置10に供給する溶液を収容する供給タンク2と、ろ過装置10からの溶液を収容する廃液タンク3とを有している。供給タンク2は、加圧可能な容器であり、供給タンク2にガスを導入するガス導入管4と、流入口10aを通じてろ過装置10に溶液を供給する溶液供給管5とに接続されている。供給タンク2内の溶液は、ガス導入管4を通じて導入されるガスにより供給タンク2を加圧することで、溶液供給管5を通じてろ過装置10に供給されるようになっている。供給タンク2に導入されるガスとしては、窒素やアルゴンなどの不活性ガスを用いることが好ましい。廃液タンク3は、流出口10bを通じてろ過装置10からの溶液を回収する廃液回収管6に接続されている。廃液タンク3には、廃液量を容易に把握することができるように、目盛りなどの計量手段が設けられていることが好ましい。
【0022】
供給タンク2は、耐圧性の材料および構造からなることが好ましく、特にステンレス鋼(SUS)や金属酸化物などから形成されていることが好ましい。さらに、供給タンク2内の溶液と接触する接液部は、耐溶剤性を有する材料から形成されていることが好ましく、特にPP、PET、フッ素系樹脂から形成されていることが好ましい。
【0023】
なお、図示した実施形態では、加圧容器としての供給タンク2に直接溶液を充填して圧送する方法を用いているが、加圧容器を用いて溶液を圧送する方法としては、これに限定されるものではない。例えば、溶液が充填されたボトルを加圧容器内に収容し、ボトルごと加圧して溶液を圧送する方法を用いることもできる。加圧容器内の溶液を直接加圧する方法では、加圧容器に溶液を充填する際に溶液が汚染されたり、加圧容器から溶液中に汚染物質が混入したりする可能性があるが、ボトルごと加圧する方法は、このような可能性を排除できる点で好ましい。また、ボトルごと加圧する方法は、加圧容器が直接溶液に接触することがないため、上述した加圧容器の接液部の材料を考慮する必要がない点でも好ましい。溶液を充填するボトルは、耐溶剤性を有する材料から形成されていることが好ましく、特にPP、PE、PET、フッ素系樹脂から形成されていることが好ましい。
【0024】
溶液供給管5は、ホルダ12と同様に、耐溶剤性を有する材料から形成されていることが好ましく、特にPP、PE、PET、フッ素系樹脂から形成されていることが好ましい。廃液タンク3の材料としても、耐溶剤性の観点から、ホルダ12と同様の材料であることが好ましく、特にPP、PE、PET、フッ素系樹脂が好適に用いられる。なお、ガスを通じた汚染物質の混入も抑制するために、ガス導入管4には、ゴミや湿度、その他の不純物を除去するためのフィルタや触媒が設置されていることが好ましい。
【0025】
試料である溶液をろ過装置10に供給する方法としては、安全面および溶液への汚染物質の混入を大幅に抑制できる点で、上述した加圧容器を用いて圧送する方法が特に好ましいが、これに限定されるものではない。例えば、溶液(有機溶媒)の製造プラントなどから分岐した配管から直接供給する方法、タンク内の溶液をポンプで圧送する方法、廃液タンク3を密閉容器として真空ポンプに接続して減圧ろ過を行う方法などを用いることができる。
【0026】
次に、図2を参照して、本実施形態のろ過装置の構成について説明する。図2(a)は、本実施形態のろ過装置の分解斜視図であり、図2(b)は、ろ過膜の部分を上流側から見た平面図である。
【0027】
本実施形態では、ろ過膜11の上面に、開口部13aを有する被覆シート(シート部材)13が接着されている。これにより、被覆シート13は、ろ過膜11の上面の一部を露出させ、その露出させた部分のみに溶液を通液させることができるようになっている。その結果、本実施形態のろ過装置10では、溶液中の微粒子をろ過膜11の上面の露出した部分で集中的に捕捉することができ、少ない通液量で微粒子を効率的に捕捉することが可能になる。したがって、本実施形態のろ過装置10は、微粒子濃度が低い溶液、特に100000個/ml以下の微粒子濃度の溶液に非常に有効である。
【0028】
被覆シート13の材料は、特定の材料に限定されるものではないが、耐溶剤性を有するものであることが好ましい。そのような材料としては、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂、ナイロン、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)が挙げられるが、幅広い有機溶媒に対する耐性を有している点で、PP、PE、PET、フッ素系樹脂が好適に用いられる。
【0029】
被覆シート13のろ過膜11への接着方法としては、いくつかの方法が考えられる。例えば、エポキシ樹脂などの有機系接着剤を用いる方法が考えられるが、この方法は、溶媒の影響により接着剤の溶出や溶解の可能性が高いため、好ましくない。また、無機系接着剤を用いる方法も、無機系接着剤が微視的には粒子の集合体であるため、粒子の発生源となる可能性が非常に高く、好ましくない。このような観点から、被覆シート13は、熱溶着によってろ過膜11に接着されていることが特に好ましい。
【0030】
被覆シート13の開口部13aの大きさ(すなわち、ろ過膜11のろ過面積)は、溶液の必要通液量や、ろ過膜11の上面に捕捉した微粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)で観測する際の効率などを考慮すると、10mm以上132mm未満であることが好ましく、10mm以上80mm以下であることがより好ましく、10mm以上50mm以下であることがさらに好ましい。なお、被覆シート13の開口部13aの形状は、図示した円形に限定されるものではなく、他の幾何形状であってもよい。
【0031】
本実施形態では、図示したように、ろ過膜11および被覆シート13を収容するホルダ12は、流入口10aが設けられた上部プレート14と、流出口10bが設けられた下部プレート15とから構成されているが、ホルダ12の構成は、これに限定されるものではない。
【0032】
ろ過膜11および被覆シート13は、ホルダ12に収容される前に、洗浄されていることが好ましい。その洗浄方法としては、特定の方法に限定されるものではないが、浸漬方式や枚葉方式、膜面に洗浄液を直接打ち当てる打ち当て方式などの方法と、メガソニック洗浄やウルトラソニック洗浄とを組み合わせたものを用いることが好ましい。また、用いる洗浄液は、超純水や水素水、酸素水に、アルカリや界面活性剤、過酸化水素などを添加したものが好適である。
【0033】
通液によるろ過膜11の変形や破損を抑制するために、図示していないが、ろ過膜11の下流側、すなわちろ過膜11と下部プレート15との間に、ろ過膜11を支持するメッシュが配置されていてもよい。この場合、メッシュは、ろ過膜11と共に被覆シート13に熱溶着によって接着されていてもよく、ろ過膜11と下部プレート15との間に単に載置されているだけでもよい。溶液を通すものであって耐溶剤性を有しているものであれば、メッシュの材料や形態に特に制限はない。溶液の汚染を考慮すると、メッシュの材料としては、ろ過膜11と同様の材料や、SUS、フッ素系樹脂、PP、PE、PETなどが好適に用いられる。また、通液時の圧力損失と操作性の観点から、メッシュの厚みは、0.1〜1mmであることが好ましく、より好ましくは0.1〜0.5mmである。
【0034】
また、被覆シート13と上部プレート14との間には、図示していないが、流入口10aとろ過膜11との間をシールするOリングなどのシール部材が配置されている。本実施形態において、ろ過膜11の上面に被覆シート13が設けられていることは、ろ過膜11として無機材料からなる膜を用いる場合、シール部材による膜の破損も抑制できる点でも有利である。
【0035】
ろ過膜11の上面の一部を露出させる形態は、上述した被覆シート13を用いるものに限定されるものではない。被覆シート13の代わりに、例えば液状ガスケットを用いることもできる。液状ガスケットは、ろ過膜11とホルダ12とに密着し、流入口10aから供給される溶液がろ過膜11と液状ガスケットとの密着部に流入しないように構成されていればよい。液状ガスケットの材料に特に制限はないが、耐溶剤性の観点から、フッ素系液状ガスケットを用いることが好ましい。
【0036】
なお、少ない通液量で微粒子を効率的・集中的に捕捉するという観点からは、ろ過膜の上面の一部を露出させる形態の他に、通液面積を小さくするという意味で、サイズの小さいろ過膜を使用することも考えられる。しかしながら、ろ過膜のサイズが小さいと、操作性が悪く、操作由来の微粒子がろ過膜に付着する可能性が非常に高くなる。また、微小なろ過膜やそれを保持するホルダは、市場のニーズが少ないため、容易に手に入るものではない。これに対し、本実施形態のように、ろ過膜の一部のみに通液する方法によれば、通液部分以外の面積が広く確保されているため、操作性も良く、操作由来の微粒子による汚染を抑制することができる。また、市販のろ過膜およびホルダを用いることができるため、安価に実現できる点でも有利である。
【0037】
ここで、図1を参照して、本実施形態の微粒子捕捉装置を用いた微粒子測定方法について簡単に説明する。
【0038】
まず、ガス導入管4を通じた不活性ガス(窒素など)の導入により、供給タンク2を加圧し、供給タンク2内の溶液を溶液供給管5からろ過装置10に供給する。こうして供給された溶液はろ過膜11の一部に通液され、その部分に溶液中の微粒子が捕捉される。溶液をろ過膜11で一定量ろ過した後、不活性ガスの導入を停止して、ろ過装置11への溶液の供給を停止する。次に、清浄度の高い雰囲気中でろ過装置10(ホルダ12)からろ過膜11を取り出し、取り出したろ過膜11を十分に乾燥させた後、SEMで観測して、ろ過膜11に捕捉した微粒子を計数する。それと同時に、EDXを用いて、ろ過膜11に捕捉した微粒子の組成分析を行う。実際には、この微粒子の組成分析結果から、ろ過膜11のみの組成分析結果を差し引くことで、捕捉した微粒子の組成を特定する。本実施形態では、ろ過膜11の一部で集中的に微粒子を捕捉できるため、SEMの観測効率とEDXの分析感度を共に向上させることができる。
【0039】
次に、具体的な実施例を挙げて、本発明をより詳細に説明する。
【0040】
(実施例1)
本実施例では、図1に示す微粒子捕捉装置および図2に示すろ過装置を用いて、溶液中の微粒子を捕捉した。ろ過膜として、上面での孔径が100nm、その孔深さが25μmの、Alを主成分とする膜を用いた。被覆シートとして、開口部の面積が20mmのPETシートをろ過膜に熱溶着したものを用い、ホルダとして、PFA製のホルダを用いた。ろ過する溶液としては、粒径123nmのポリスチレンラテックス(PSL)を10個/ml添加したイソプロピルアルコール(IPA)を用い、0.2MPaの窒素ガスを用いて、ろ過装置に720ml通液した。
【0041】
そして、こうして捕捉した微粒子(PSL粒子)を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観測した。SEMの観測倍率は10000倍とし、観測視野数は500視野とした。
【0042】
(実施例2)
ろ過膜として、上面での孔径が10nm、その孔深さが500nmの膜を用い、溶液に添加した粒子を平均粒子径10nmのSi粒子(1000個/ml)とし、ろ過装置への通液量を200mlとした以外、実施例1と同様の条件で微粒子の捕捉と観測を行った。
【0043】
(実施例3)
溶液に添加した粒子を平均粒子径100nmのSi粒子(100個/ml)とした以外、実施例1と同様の条件で微粒子の捕捉と観測を行った。
【0044】
(実施例4)
被覆シートとして、ポリ塩化ビニル(PVC)シールをアクリル系粘着剤でろ過膜に接着したものを用いた以外、実施例3と同様の条件で微粒子の捕捉と観測を行った。
【0045】
(実施例5)
溶液をプロピレングリコール1−モノメチルエーテル2−アセタート(PGMEA)とした以外、実施例3と同様の条件で微粒子の捕捉と観測を行った。
【0046】
(実施例6)
被覆シートとして、PETシールをシリコン系粘着剤でろ過膜に接着したものを用いた以外、実施例5と同様の条件で微粒子の捕捉と観測を行った。
【0047】
(実施例7)
被覆シートとして、PETシートを主成分がアルミナである耐熱性無機系接着剤でろ過膜に接着したものを用いた以外、実施例5と同様の条件で微粒子の捕捉と観測を行った。
【0048】
(比較例)
被覆シートの開口部の面積を132mmとし、ろ過装置への通液量を820mlとした以外、実施例1と同様の条件で微粒子の捕捉と観測を行った。
【0049】
表1に、実施例1および比較例における、SEMによる検出粒子数とそこから算出された溶液の粒子濃度の結果を示す。
【0050】
【表1】
実施例1では、比較例と比べて、通液量が少ないにも関わらず、同じ視野数で検出される粒子数が多くなっていることが確認された。すなわち、実施例1では、ろ過膜の一部で微粒子を捕捉することで、ろ過膜の大部分で微粒子を捕捉した場合の比較例に比べて、少ない通液量でろ過膜上の微粒子をより効率的に観測できることが確認された。
【0051】
また、粒子濃度については、検出された粒子数からポアソン分布を用いて算出されるため、検出される粒子数が多くなるほど、その相対誤差は小さくなるが、このことは、実施例1において算出された粒子濃度がより信頼性の高い値であることを意味している。なお、比較例では、算出される粒子濃度の相対誤差を60%以下とするため、すなわち、粒子濃度を高い信頼性で算出するためには、10個以上の粒子数を検出する必要があり、そのためには1500視野以上の観察が必要となる。これには、多くの時間を要するため、この点でも、実施例1がより良好である。
【0052】
次に、表2に、実施例2〜7におけるSEMの観測結果、具体的には、溶液通液後のろ過膜の表面の様子および被覆シートとの接着状態を観測した結果を示す。
【0053】
【表2】
表2の「膜表面の様子」において、○は、膜表面に変化がないことを表し、×は、粘着剤または接着剤を由来とすると思われる粒子が多く観察されたことを表している。また、表2の「被覆シートの接着状態」において、○は、被覆シートの剥がれがなかったことを表し、△は、被覆シートの一部が剥がれていたことを表し、×は、被覆シートの全面が剥がれていたことを表している。
【0054】
表2から、被覆シートの接着方法については、有機溶媒を主成分とする溶液を対象とする場合、実施例2,3,5の熱溶着を用いる方法が優位であることが確認された。実施例2,3,5では、エネルギー分散型X線分析装置(EDX)を用いた組成分析を行ったところ、ろ過膜に捕捉された粒子がIPAに含まれるSi粒子であることが確認された。一例として、実施例2におけるろ過膜のSEM写真と観測した粒子のEDXスペクトルを、それぞれ図3(a)および図3(b)に示す。
【符号の説明】
【0055】
1 微粒子捕捉装置
2 供給タンク
3 廃液タンク
4 ガス導入管
5 溶液供給管
6 廃液回収管
10 ろ過装置
10a 流入口
10b 流出口
11 ろ過膜
12 ホルダ
13 被覆シート
13 開口部
14 上部プレート
15 下部プレート
図1
図2
図3