(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図示の実施の形態に基づき本発明を詳説する。
図1と
図2に示すように、本発明に係るシールリングSは、樹脂組成物から成るシール
リング本体1と、このシールリング本体1の内周面1Aに弾発付勢力Fをもって接触する
金属製の弾性C形リング2とを、有する。
シールリング本体(以下、リング本体という場合がある)1は円周1箇所に合せ口部3
を有し、全体円環状であって、樹脂組成物から成り、PES樹脂組成物等の熱可塑性樹脂
組成物が好適であり、射出成形にて一体に成形できる。なお、樹脂組成物の樹脂材料とし
ては、PPS,PEEK,PTFE等であっても良い。また、本発明にあっては、機械加
工にて、リング本体1の一部又は全体を形成しても良い。
【0012】
そして、
図2の簡略図に示す如く、リング本体1の合せ口部3と、弾性C形リング2の
切れ目4とを、周方向に位置をずらせて配設する。
図2に例示の如く、約180°反対─
──180°±30°───の位置に、合せ口部3と切れ目4とを、(対称状に)配設す
るのが望ましい。
【0013】
図3に示すように、本発明に係るシールリングSの用途の一例としては、(EGRバル
ブ等用に使用される)バタフライ弁5が挙げ得る。即ち、同図に示すように、バタフライ
弁5の円盤状の弁体6の外周(シール)凹溝7に嵌着され、軸心O
6廻りに揺動して、弁
座8の孔部8Aを開閉する。
図3中、2点鎖線は開状態を示し、実線は弁体6が矢印M
6
方向に揺動しつつ孔部8Aを閉じる直前状態を示し、その際に従来例の
図14にて述べた、
弁座角部46(
図3の符号9)への引掛り、損傷、脱落が防止できる点については、後述する。
【0014】
次に、
図4に示すように、樹脂組成物から成るリング本体1の内周面1Aには、周方向
凹溝13が設けられ、横断面円形の弾性C形リング2が該凹溝13に嵌着され、リング本体1の幅方向W
1に位置ずれしないように保持される。
この凹溝13の断面形状は、
図4(A)のような三角形状、同図(B)のような浅い円弧状、同図(C)のような浅い台形状、同図(D)のような台形状、あるいは、同図(E)のような逆台形(蟻溝)とすることができる。なお、これ以外の形状とすることも可能である。
【0015】
ところで、
図1の斜視図に示したように、この凹溝13は、リング本体1の内周面1Aの全体に形成せず、凹溝非形成領域Yを設ける。特に、
図1に示した如く、合せ口部3と180°±30°反対の位置に上記凹溝非形成領域Yを配設することによって、凹溝13に沿って弾性C形リング2が周方向に位置ずれを発生することを防止し、
図2に示したように切れ目4が合せ口部3と約180°反対位置に保たれるようにする。
【0016】
そして、本発明に係るシールリング本体1は、円周1箇所の上記合せ口部3を形成して
いる第1端部21・第2端部22を、合せ口部閉状態で、相互に係止可能な係止手段Zを備えている。
【0017】
図1,図
6に示した各実施形態に於ける合せ口部閉状態で、係止手段Zによって、第1端部21と第2端部22を相互に係止して、シールリング外径の最大拡径寸法D
1を「所定値」に規制する。
即ち、合せ口部閉状態でのシールリング外径の最大拡径寸法D
1とは、リング本体1に
ラジアル内方向の縮径力(外力)を付与しない状態で、前記係止手段Zのみの作用で合せ
口部閉状態が保たれているときのシールリング外径寸法を言う。
「所定値」とは、
図3に示したバタフライ弁5にあっては、弁体6が、孔部8Aの軸心
と直交面状となった「全閉状態」におけるシールリング本体1の外径寸法───密封状態
下の外径寸法D
8───よりも、僅かに大きな値(1.01・D
8〜1.08D
8)であ
る。即ち、弁座8の孔部8Aの内径寸法が、上記外径寸法D
8に相等しいのであるから、
「所定値」とは弁座8の孔部8Aの内径寸法よりも僅かに1%乃至8%だけ大きな値であ
る、と言い換えることができる。本発明に係るシールリングSは、直線運動するシリンダ
用ピストンに用いる場合は、「所定値」とは、ピストンがシリンダチューブ内面に摺接し
て、シールリングSによって密封状態となった際のシールリング本体1の外径寸法D
8よ
りも僅かに大きな値───1.01・D
8〜1.08D
8───である。つまり、シリン
ダチューブの内径寸法が密封状態のシールリング本体1の外径寸法D
8に相等しいのであ
るから、「所定値」とは、シリンダチューブの内径寸法よりも僅かに1%乃至8%だけ大
きな値であると、言い換えることができる。
【0018】
合せ口部閉状態では、弾性C形リング2の拡径弾発付勢力、及び、シールリング本体1
の拡径弾発付勢力を合わせた拡径弾発付勢力を、シールリングSによって発生している。
この合わせた拡径弾発付勢力に抗して、上記係止手段Zは、合せ口部閉状態におけるシー
ルリング外径の最大拡径寸法D
1を前記所定値に規制している。このように規制すること
によって、
図3に示した如く、(シールリングSの)リング本体1が弁座角部9に干渉せ
ずに矢印M
6方向に揺動しつつ弁体6を閉じてゆくことが可能となって、リング本体1の
損傷を防ぎ、かつ、リング本体1の凹溝7からの脱落(
図14に於て2点鎖線をもって示した従来例のシールリング43の脱落を参照)を防止できる。
【0019】
以下、係止手段Zについて具体的にその構成を説明する。
図5〜
図8に示す実施の一形
態に於て、第1端部21には、先端係止爪16を有する板状突片15が、リング本体1の厚み方向Tの中間位置から周方向Rに突設されている。上記板状突片15(係止爪16)は、リング本体1の全幅寸法に相当する幅寸法を有する場合を図示している。係止爪16は三角山型であって、板状突片15の最外端部からラジアル外方向に突設され、かつ、係止爪16の先端面16Aは傾斜状とすると共に基端面16Bは厚み方向Tに略一致する。
【0020】
また、第2端部22の先端には、厚み方向Tの中間位置から、周方向Rに、係止段付部18を有する奥方膨出空間部17を備えたスリット状の差込用凹溝19が、形成されている。上記差込用凹溝19は、奥方膨出空間部17を含む中間から奥部にわたっては、リング本体1の全幅寸法に相当する幅寸法を有する。奥方膨出空間部17は、差込用凹溝19の先端開口部から中間領域のラジアル方向のスリット寸法S
19よりも大きいラジアル方向寸法S
17を有し、この差込用凹溝19のラジアル外方側の天井面に係止段付部18が形成される。
【0021】
板状突片15が凹溝19に押込んでゆくと、その先端係止爪16が凹溝19を弾性的に拡大させつつ凹溝19の奥方へ差込まれ、奥方膨出空間部17に侵入(到達)し、先端係止爪16(の基端面16B)が、係止段付部18に係止自在な状態となる。
【0022】
奥方膨出空間部17を、リング本体1のアキシャル方向から見れば、不等辺台形状であり、係止段付部18はその鉛直状辺を成す。先端係止爪16が(リング本体1に外力が作用した際に)奥方膨出空間部17内を周方向Rに小寸法だけ移動可能な形状・寸法に上記不等辺台形状の奥方膨出空間部17を形成すると共に、リング本体1に外力を作用させない自由状態とすれば、
図1と
図6に示すように、先端係止爪16が係止段付部18に係止状となり、前述の最大拡径寸法D
1を維持できる。このように、
図1,
図6〜
図8に示した実施の一形態では、係止手段Zが、板状突片15と差込用凹溝19とをもって構成される。
【0023】
図7に於て第1端部21の形状等を追加説明すると共に、
図8に於て第2端部22の形状等を追加説明する。第1端部21は、
図7(C)に示したように底辺肉厚のL字形断面の基端部21Aと、
図7(D)に示したようにL字形断面の中間部21Bと、
図7(E)に示したように一文字形断面の板状突片本体15Aを形成する先端部21Cと、(前述した)先端係止爪16とを、有する。
L字形断面の基端部21A及び中間部21Bに於て、連続形状に形成される矩形凹部23には、第2端部22の一部が(後述の如く)嵌合する。
【0024】
第2端部22は、
図8(C)に示したように奥方膨出空間部17が一文字状断面をもって幅方向に打抜かれた断面形状の基端部22Aと、
図8(D)に示したようにL字形断面であって差込用凹溝19の中間本体部位が一文字状断面をもって幅方向に打抜かれた断面形状の中間部22Bと、
図8(E)に示したような矩形断面の先端部22Cを有する。
【0025】
図8(C)と(D)に示す空間部17(差込用凹溝19)が打抜かれた下方部22Eの上面22Dは、連続平面を形成し、また、
図8(D)の上方部22Fは、先端部22Cと同一形状・同一寸法の矩形断面にて連続し、
図7で説明した第1端部21の矩形凹部23に嵌合する。
第1端部21は、第1段付面31・第2段付面32・第3段付面33を有する3段ステップということができる。第2端部22は、第1段付面34と第2段付面35を有する2段ステップであって、これに差込用凹溝19が形成されていると言える。
【0026】
次に、
図9と
図10に示した
参考例について説明する。係止手段Zは、第1端部21の先端に於て、周方向に突設されると共に、ラジアル外方向へ突出状の先端係止爪16を有する板状突片15と、第2端部22の先端に於て、ラジアル内方向に開口状の凹窪部24と、から成る。しかも、第2端部22の凹窪部24の先端寄りの係止内端面25に、第1端部21の先端係止爪16が係止可能である。
図9と
図10を、前述した
図5と
図6に比較すれば明らかなように、
図9に於て、2点鎖線26,27をもって示した内周面層部位が、省略された形状・構造となっている。
【0027】
具体的には、
図9では、
図5の第2段付面32が省略されて、2段の段付面31A,33Aが第1端部21に設けられ、また、
図9では、
図5の差込用凹溝19が省略されて、ラジアル方向へ開口する凹窪部24が形成されている。
【0028】
次に、
図11と
図12に示した別の
参考例について説明する。
図11と
図12に示すように、係止手段Zは、第1端部21の先端に於て、周方向に突設されると共に、ラジアル外方向に突出状の先端係止爪16を有する突片55と、第2端部22の先端に於て、ラジアル内方向に開口状の凹窪部24と、から成る。
しかも、第2端部22の凹窪部24の先端寄りの係止内端面25に、第1端部21の先端係止爪16が係止可能である。以上は前述した
図9,
図10の実施の形態と概略同様の構成である。
【0029】
図11と
図12に示すように、上記突片55及び凹窪部24は、幅方向W
1の一方に片寄って配設され、例えば、突片55の幅寸法W
55を、リング本体1の幅方向寸法W
10の50%乃至75%とする。
しかも、幅方向W
1の他方には、第1端部21が第2端部22に対してラジアル内方向へ逃げるのを阻止する逃げ防止手段Gを、配設する。この逃げ防止手段Gは、突片55の先端係止爪16が、ラジアル内方向に開口状の凹窪部24の係止内端面25から、離脱することを確実に防止する。
【0030】
図11と
図12に示した第1端部21は、(前述した)
図9と
図10と比較すれば明らかとなるように、第1段付面31Aを設けて、この第1段付面31Aと同一幅にて突片55が周方向に突設されると共に、矩形断面の角棒状の係止用突出部28が突片55に沿って(周方向)に突設される。
これに対し、第2端部22は、
図9,
図10と同様の凹窪部24・係止内端面25を有しているが、幅方向W
1の他方に於て、上記係止用突出部28を、ラジアル内方位置にて受持する受け突片部29を突設する。
【0031】
図12(A)(B)(C)に於て、第1端部21が第2端部22に対してラジアル内方向(
図12(B)(C)の下方向)へ逃げて、係止内端面25に対して先端係止爪16が離脱しようとした際に、第2端部22の受け突片部29が、第1端部21の上記突出部28に係止しつつ強く受持し、上記離脱を阻止する構成である。
つまり、
図12(B)(C)のように、第1端部21がラジアル方向に、矢印Hの如く逃げようとした際に、幅方向W
1の他方の係止用突出部28が受け突片部29にて阻止される。
【0032】
このように、逃げ防止手段Gは、
図11と
図12では、第1端部21の係止用突出部28、及び、第2端部22の受け突片部29にて、構成されている。
なお、逃げ防止手段Gとしては、
図11,
図12に限定されず、同様の作用と機能を発揮する限り、例えば、(図示省略するが)周方向の凸条部と凹溝部との差込み構造等、設計変更自由である。また、
図11、
図12では、第1端部21の突片55の先端に先端係止爪16、第2端部22の凹窪部24の先端寄りの係止内端面25を形成しているが、第1端部21の係止用突出部28、第2端部22の受け突片部29にも、先端係止爪、凹窪部の先端寄りの係止内端面を形成してもよい。そうすることで、取付方向を気にすることなく装着できる。
【0033】
次に、
図13に示す、さらに他の
参考例について説明する。
第1端部21は、L字形断面の第1基端半部21は、L字形断面の第1基端半部51と、矩形断面の第1先端半部52とを有する。
第2端部22は、L字形断面の第2基端半部53と、矩形断面の第2先端半部54とを、有している。
【0034】
そして、第1基端半部51の矩形断面の第1凹部65に第2先端半部54が嵌合可能である。また、第2基端半部53の矩形断面の第2凹部56に第1先端半部52が嵌合可能である。
このようにして、第1端部21は、第1段付面57と第2段付面58(の2段ステップ)をもっている。また、第2端部22は、第1段付面59と第2段付面60(の2段ステップ)をもっている。
【0035】
このような合せ口部3の構成に於て、係止手段Zは、第1端部21の第1先端半部52の最先端、及び、第2端部22の第2先端半部54の最先端から、相互に接近する側内方へ突設された第1係止凸部61・第2係止凸部62をもって構成されている。
【0036】
なお、本発明は上述の実施の形態に限定されず、設計変更自由であって、リング本体1
の横断面形状は
図4(C)に示すように面取りした矩形や、
図4(A)(B)に示すよう
に摺接面63をアール状等にすることも望ましい。
【0037】
図1,
図5〜図
8に示すように、第1・第2端部21,22を2段乃至それ以上の複数段ステップとしたので、流体の漏れ量が十分に低減できて、安定して優れた密封性能を発揮できる。また、樹脂組成物から成るシール本体1と、金属製弾性C形リング2とを、組合せた(複合品とした)ので、シール面への密着性が向上し、流体漏れ量がさらに低減でき、
また、金属製C形リング2によって樹脂組成物のクリープ(変形)への十分な対策が施さ
れたこととなり、長期使用期間にわたって優れた密封性能を発揮する。
【0038】
また、
図1,
図5〜図
8に示した実施の形態では、シール機能を外周面側(ラジアル外
方面側)で発揮させ、ラジアル方向中間乃至内方面側に於て、係止手段Zを配設した構成
であるので、シール機能は安定して良好に保たれ、合理的であると言える。
【0039】
本発明に係るシールリングSの用途として、バタフライ弁に好適であり、さらに、自動
車等のEGRバルブのバタフライ弁に適用すると、EGRバルブ本来の排ガス制御機能を
精度良く、安定して、長期間にわたっての耐久性を発揮でき、さらには、バルブ開閉時の
シールリング脱落問題が解消されて、前記排ガス制御機能を精度良く長期にわたって発揮
する。
【0040】
本発明は、以上詳述したように、第1端部21と第2端部22によって形成された合せ口部3を円周1箇所に有する全体円環状の樹脂組成物から成るシールリング本体1と、該シールリング本体1の内周面1Aに拡径弾発付勢力をもって接触する金属製の弾性C形リング2とを、備えたシールリングに於て、合せ口部閉状態におけるシールリング外径の最大拡径寸法D
1を拡径弾発付勢力に抗して所定値に規制するための、上記第1端部21・第2端部22を相互に係止する係止手段Zを、具備
し、上記係止手段Zは、上記第1端部21の先端に於て、厚み方向Tの中間位置から周方向Rに突設されると共に、先端係止爪16を有する板状突片15と、上記第2端部22の先端に於て、厚み方向Tの中間位置から周方向Rに凹設された、係止段付部18を有する奥方膨出空間部17を備えた差込用凹溝19と、から成り、上記先端係止爪16が上記係止段付部18に係止するように構成されているので、バタフライ弁の弁座内周面やシリンダチューブ内周面等の被密封面に対して、非接触(非密封)状態から接触(密封)状態へ切換わる際、弁座角部やシリンダチューブ開口端角部等に対して、(バタフライ弁の弁体やピストン等に嵌着された)シールリングが噛み込みを起こして損傷を受けることを、防ぐことができ、さらに、上述のように接触(密封)状態へ切換わる際に上記弁座角部やシリンダチューブ開口端角部等に引掛ってシールリングが上記弁体やピストン等から脱落することを、確実に防止することができる。また、シールリングとして流体漏れ量が少なく、密封性能が優れ、かつ、長期使用にも耐えて寿命が長い。例えば、EGRバルブのバタフライ弁に適用すれば、排ガス制御の精度向上、及び、長寿命化に貢献できる。
また、先端係止爪16は一旦係止すると、その係止状態を確実に保ち、繰返してのバタフライ弁の開閉等にあっても、不意に外れることがない。このように、係止状態が長期にわたって安定して保たれ、シール性能の信頼性が高い。さらに、シールリングのシール機能に関与しない、ラジアル方向の中間乃至内周寄りに、板状突片15及び奥方膨出空間部17(差込用凹溝19)が配設されているので、シール機能に直接に関係する外周面側は十分に優れたシール性能を発揮できる。このように、流体漏れの低減と、シールリング脱落・損傷の防止という大きな効果を奏す
る。
【0041】
また、上記シールリング本体1の合せ口部3と、上記弾性C形リング2の切れ目4とを
、周方向に位置をずらせて配設したので、シールリングが360°全周にわたって、均等
にラジアル外方への弾発力を生じ、被密封内周面に対して均等に密接して、シール性能を
向上できると共に、前述のシールリングの損傷及び脱落を、一層確実に防ぎ得る。
【0042】
また、バタフライ弁5の弁体6の外周凹溝7に嵌着して用いられるようにすれば、シー
ルリングの損傷及び脱落の防止という本発明の著大な効果を最も発揮できる。