(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6650984
(24)【登録日】2020年1月23日
(45)【発行日】2020年2月19日
(54)【発明の名称】錦鯉の個体識別方法
(51)【国際特許分類】
A01K 61/95 20170101AFI20200210BHJP
G06T 7/60 20170101ALI20200210BHJP
【FI】
A01K61/95
G06T7/60 300A
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2018-188223(P2018-188223)
(22)【出願日】2018年10月3日
【審査請求日】2018年10月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】518352455
【氏名又は名称】株式会社メビウス
(74)【代理人】
【識別番号】100084102
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 彰
(72)【発明者】
【氏名】高橋 正幸
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 貴之
【審査官】
吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2017/0103257(US,A1)
【文献】
国際公開第2017/134812(WO,A1)
【文献】
中国特許出願公開第106980873(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 61/95
G06T 7/60
G01B 11/00
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚体の撮像の画像処理を行って、魚体平面視における頭部領域と鰭領域と胴体領域の頭部を上方とした場合の垂直方向及び水平方向の長さを算出し、頭部垂直方向長さを基準とした頭部水平方向長さ、鰭の水平方向長さ、胴体の垂直方向長さの各比率を識別指標とし、当該識別指標の一致性によって個体を特定する錦鯉の個体識別方法。
【請求項2】
魚体の撮像の画像処理を行って、魚体平面視における頭部領域と鰭領域と胴体領域の頭部を上方とした場合の垂直方向及び水平方向の長さを算出し、また魚体平面視における頭部及び鰭の輪郭ラインの座標を取得し、頭部長さを基準とした頭部水平方向長さ、鰭の水平方向長さ、胴体の垂直長さの各比率と、前記輪郭形状から最小二乗法で算出した近似式の係数又は算出したHuモーメントの不変量の双方又はいずれかを識別指標とし、当該識別指標の一致性によって個体を特定する錦鯉の個体識別方法。
【請求項3】
魚体の撮像の画像処理を行って、魚体の平面視から所定の寸法算出又は所定箇所の座標取得を行う際に、外形から重心座標を算出し、魚体の頭部方向と魚体の捻れ量を算出して補正してなる請求項1又は2記載の何れかの錦鯉の算出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、錦鯉の個体識別方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
錦鯉の養殖業者(養鯉業者)は多数の魚体を飼育している。これらの錦鯉は鑑賞魚で成魚によっては個体ごとに価格が相違する。このため出荷管理や飼育管理(分別飼育)において個体識別が必要となる。また他の業者や個人から預かって飼育している錦鯉も含まれる場合がある。このような多数飼育に際して自己所有の魚体と他者所有の魚体の区別が必要である。
【0003】
従前の個体識別は業者の視認対比(主として模様識別)によって行っているが、模様が類似している魚体が多数存在し、しかも模様は成長によって変化する場合もあり、個体識別が困難で且つ煩瑣な作業となる。また無地の品種では模様による個体識別が困難である。
【0004】
また魚体の判別に魚体の撮像を取得して、前記撮像を所定の手順で処理して、魚体の頭部切断位置を特定し、魚体の頭部を揃えてフィレマシーンに連続供給する手段が特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63−56246号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
錦鯉の出荷管理や飼育管理を魚体の撮像(画像ファイル)に基づく模様処理で行うことは容易に行うことができるが、前記したように魚体の模様は類似している場合が多く、また成長によって模様に変化が生ずる場合もある。更に無模様の魚体の場合には適用できない。このように魚体の模様を根拠とした個体識別は、魚体成長への対応に問題が生ずる虞がある。
【0007】
また個体識別指標(個体のデータ)の蓄積によって飼育管理への利用も考慮できるが、魚体の成長による模様変化が個体ごとに異なることによって、模様識別による個体識別管理では成長予測への適用は現実的でない。
【0008】
そこで本発明は、魚体の体形そのものに着目して新規な錦鯉の個体識別方法を提案した。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1記載に係る錦鯉の個体識別方法は、魚体の撮像(画像ファイル)の画像処理を行って、魚体平面視における頭部領域と鰭領域と胴体領域の頭部を上方とした場合の垂直方向及び水平方向の長さを算出し、頭部長さを基準とした頭部水平方向長さ、鰭の水平方向長さ、胴体の垂直長さの各比率を識別指標とし、当該識別指標の一致性によって個体を特定することを特徴とするものである。
【0012】
また本発明の請求項
2記載の錦鯉の個体識別方法は、魚体の撮像の画像処理を行って、魚体平面視における頭部領域と鰭領域と胴体領域の頭部を上方とした場合の垂直方向及び水平方向の長さを算出し、また魚体平面視における頭部及び鰭の輪郭ラインの座標を取得し、頭部長さを基準とした頭部水平方向長さ、鰭の水平方向長さ、胴体の垂直長さの各比率と、前記輪郭形状から最小二乗法で算出した近似式の係数又は算出したHuモーメントの不変量の双方又はいずれかを識別指標とし、当該識別指標の一致性によって個体を特定することを特徴とするものである。
【0013】
魚体が成長した場合、
図1に示すように魚体における各部位の比率変化を考慮すると、胴体幅(水平方向:W)は大きく変動するが、骨の成長は均一的になされるので魚体の垂直方向(L)における各部位の比率変化が小さい。そこで骨の割合の多い頭部1及び鰭2及び胴体3の長さに着目し、成長による変動が少ない寸法比率並びに外形(輪郭形状)に着目して識別指標(識別パラメータ)を設定し、成長変化した後にも当該魚体を計測することで、個体識別を可能としたものである。
【0014】
即ち頭部1の垂直方向長さm0を基準として頭部1の水平方向長さm1、鰭2の水平方向長さm2、胴体3の垂直長さm3の各比率m1/m0=X1,m2/m0=X2,m3/m0=X3を識別指標としたものである。
【0015】
また成長によって比率変動の少ない頭部輪郭11及び鰭輪郭21の一致性を判定基準とするために、当該輪郭11,21の最小二乗法による近似式の係数(Y1,Y2)や、Huモーメントの不変量(Z1,Z2)を識別指標(説明変数)としたものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明は魚体の撮像(画像ファイル)から所定の画像処理を行って、所定の算出をなして個体識別指標を得、当該識別指標に基づいて個体識別を行うもので、多数の個体にIDを付与し、その属性データと共に管理することで、各個体の成長程度の把握(今後の養鯉のためのデータ蓄積)がなされ、また必要に応じて個体の撮像(画像ファイル)を以て外部からアクセスすることで、当該個体の属性データを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図4】同撮像(画像ファイル)前処理のフローチャート。
【
図6】同識別指標(説明変数)の取得処理の全体のフローチャート
【
図8】部位特定処理経過及び捻れ補正の画像説明図(一部省略)。
【
図9】同頭部形状の形状評価処理のフローチャート。
【
図10】同鰭の形状の形状評価処理のフローチャート。
【
図12】同識別指標(説明変数)の取得のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に本発明の実施形態について説明する。本発明は、所定のデータベース(DB)06に個体登録を行っておき、携帯端末02からのアクセスで、当該個体の登録データを取得し、種々の便益に供するもので、特に個体の特定手法(識別手段)に特徴を有するものである。
【0019】
全体のシステムは、個体登録が、カメラ01で鯉03の個体ごとの撮像(画像ファイル)を取得し、前記撮像から所定のデータ処理手段05を以て識別指標(説明変数)を算出特定して、当該鯉03に個体IDを付与すると共に、当該個体の個体IDと属性データ(所有者・成長に関するデータ・模様データ他必要とする諸情報)を記録登録してDB06を構築しおくものである。
【0020】
個体識別要求は、携帯端末(スマートフォン等)02で識別対象の鯉04の撮像(画像ファイル)を取得し、DB06にアクセスすると共に、当該識別対象の撮像(画像ファイル)を送信する。DB06側では、所定のデータ処理手段05を以て識別指標(説明変数)を算出特定して、識別指標の一致性(最も近似する識別指標の一致)で個体IDを特定する。そして当該個体IDを必要とする特性データを携帯端末02に送信し、携帯端末02で必要とする当該個体04の属性データに取得するものである。
【0021】
個体のID付与(個体登録処理)は、
図3のフローチャートに示すように撮像(画像ファイル)のベース画像処理(ステップA)を行って鯉の表示領域を抽出し(ステップB)、識別指標の算出処理(説明変数計算処理・ステップC)を行い、データベースに登録する(DB登録処理・ステップD)。
【0022】
またデータベース登録に際して、識別指標の更新処理を行う(ステップE)。
【0023】
更に詳細に説明するとステップA(ベース画像作成処理)及びステップB(鯉の表示領域抽出処理)は、
図4のフローチャート及び
図5の画像処理例に示すように、撮像(画像ファイル)を読み込み(ステップa1)、鯉部分を矩形抽出して不要部分を削除して計算量を少なくする(ステップa2)。次に抽出画像の平滑化処理(ガウンシアンフィルタ処理:ステップa3)、ノイズ除去処理(バイラテラルフィルタ処理・ステップa4)を行って全体にぼかして細かな色変化を減らしてベース画像を取得する(ステップa5)。
【0024】
次に前記ベース画像から鯉の表示領域を抽出する(ステップB)。ステップBは、ベース画像を読み込み(ステップb1)、鯉の表示部分の外形を抽出するもので、HSV色空間での平滑化(ステップb2)、HSV色空間の青色部分の除去(ステップb3)、青色部分除去のマスク作成(ステップb4)、ベース画像を読み込んでマスクを適用して鯉の表示部分(表示領域)を抽出する(ステップb5,b6)。尚青色除去処理は、個体撮影に際して青色容器を採用した結果であり、撮像の背景色に対応して色彩除去処理を行うものである。
【0025】
ベース画像から鯉の表示領域を抽出した後に、鯉の個体特定するための説明変数(識別指標)を取得する処理を行う(ステップC)。この処理(ステップC)は、説明変数(識別指標)のために所定の部位(個体の想定外形)を特定する処理(ステップCa)、遊泳状態の個体のために当該個体の角度修正を行う角度計測処理(ステップCb)、個体の頭部形状の評価処理(ステップCc)、鰭の形状評価処理(ステップCd)、説明変数の計算処理(ステップCe)を行う。
【0026】
部位の特定処理(ステップCa)は、ステップBで取得した鯉の表示部分のデータを読み込み(ステップCa1)、データの縦方向と及び横方向の長さを取得(ステップCa2)、縦横で長い方の軸を基軸として領域を二分割(ステップCa3)、分割した領域の面積比較し(ステップCa4)、頭部が上になるように画像回転し(ステップCa5)、重心を計算して垂直補正を行い(ステップCa6)、輪郭の頂点及び凹みの二次元座標を獲得して(ステップCa7)、頭、鰭、尾の部位を特定する(ステップCa8)。
【0027】
次に角度計測処理(ステップCb)は、前記処理は個体の外形から
図8に示すようにL1〜L4の長さ比率を計算して個体(鯉)の傾き角度を推定し、識別指標(説明変数)の算出に際してのデータ補正を行う。
【0028】
個体の頭部形状の評価処理(ステップCc)は、頭部画像を読み込み(ステップCc1)、輪郭の座標を取得し(ステップCc2)、輪郭形状から近似したn次関数を最小二乗法で計算し(ステップCc3)、計算した関数の係数取得し(ステップCc4)、更にHuモーメント不変量を取得する(ステップCc5)。
【0029】
鰭の形状評価処理(ステップCd)は、鰭の画像を読み込み(ステップCd1)、左右を比較して領域面積の広い鰭を選択し(ステップCd2)、鰭の輪郭の座標を取得し(ステップCd3)、鰭上部の形状から近似したn次関数を最小二乗法で計算し(ステップCd4)、計算した関数の係数を取得し(ステップCd5)、更にHuモーメント不変量を取得する(ステップCd6)。
【0030】
説明変数の計算処理(ステップCe)は、頭部領域の垂直方向と水平方向の長さを取得し(ステップCe1)、鰭領域の横の長さを取得し(ステップCe2)、胴体領域の垂直方向の長さを取得し(ステップCe3)、角度計算処理で計算した角度(ステップCb)得た角度データを取得して、データ補正を行い(ステップCe4)、各識別指標を算出するものである。
【0031】
長さ比率を基準とした識別指標は、頭部領域の垂直方向の長さを基準に頭部領域の水平方向の長さ比率(識別指標X1)を計算し(ステップCe5)、頭部領域の垂直方向の長さを基準に鰭領域の水平方向の長さ比率(識別指標X2)を計算し(ステップCe6)、頭部領域の垂直方向の長さを基準に胴体領域の垂直方向の長さ比率(識別指標X3)を計算する(ステップCe7)。
【0032】
更に頭部形状評価処理(ステップCc)で得た近似式の係数(識別指標Y1)とHuモーメント不変量(識別指標Z1)を取得し(ステップCe8)、鰭形状評価処理(ステップCd)で得た近似式の係数(識別指標Y2)とHuモーメント不変量(識別指標Z2)を取得し(ステップCe9)、前記の各識別指標(説明変数)を当該個体の固有のものとしてDB登録処理(ステップD)を行う。
【0033】
DB登録処理は、個体識別に必要なIDを採番し、当該IDと各識別指標(説明変数)X1,X2,X3,Y1,Y2,Z1,Z2を所定のDBに登録する。尚必要に応じて当該個体の属性データも登録する。
【0034】
個体識別は、携帯端末02で識別対象04の撮像(画像ファイル)を取得し、当該撮像素をDB06に送信すると、登録時と同様の画像処理を行って識別指標(X1,X2,X3,Y1,Y2,Z1,Z2)を算出し、識別対象04の識別指標とDB登録した識別指標とを比較し、一致若しくは最も近似する識別指標を備えた個体が当該識別対象と判別して、個体IDと必要とする諸データを携帯端末02に送信するものである。
【0035】
前記の識別指標の一致性は長さ比率に基づく識別指標X1,X2,X3を用いて行っても良く、また近似式の係数による識別指標(説明変数)Y1,Y2でも、Huモーメント不変量Z1,Z2による識別指標は(説明変数)でも、また各々単独で一致性を判別しても良く、或いは適宜組み合わせ異なる識別指標を組み合わせて行っても良い。
【0036】
錦鯉20本に対して識別モデルを作成し、モデル作成時に使用した画像とは別の撮像データに基づき、それぞれの識別指標(Y1及びY2と、Z1及びZ2)を採用して、個体一致を検証した結果は、
図12のとおりであり、各単独の識別指標を採用した場合が65%以上の正解率を確認できた。
【0037】
また長さ比率の識別指標(X1,X2,X3)を採用した結果、及び長さ比率と近似式の係数とHuモーメント不変量のすべて(X1,X2,X3,Y1,Y2,Z1,Z2)を採用した結果は
図13のとおりである。また長さ比率と近似式の係数の各識別指標(X1,X2,X3,Y1,Y2)を採用した結果、及び長さ比率とHuモーメント不変量の各識別指標(X1,X2,X3,Z1,Z2)を採用した結果は、
図14のとおりである。
【符号の説明】
【0038】
1 頭部
11 頭部輪郭
2 鰭
21 鰭輪郭
3 胴体
01 カメラ
02 携帯端末
03 登録対象
04 識別対象
05 データ処理手段
06 DB(データベース)
【要約】
【課題】模様を判別基準としない錦鯉の個体識別方法を提供する。
【解決手段】魚体の撮像(画像ファイル)の画像処理を行って、魚体平面視における頭部領域と鰭領域と胴体領域の頭部を上方とした場合の垂直方向及び水平方向の長さを算出し、また魚体平面視における頭部1及び鰭2の輪郭形状11,21の座標を取得し、頭部長さm0を基準とした頭部水平方向長さm1、鰭の水平方向長さm2、胴体3の垂直長さm3の各比率、或いは前記輪郭形状11,21から最小二乗法で算出した近似式の係数又は算出したHuモーメントの不変量のいずれか、または組合せを識別指標とし、当該識別指標の一致性によって個体を特定する。
【選択図】
図1