特許第6651110号(P6651110)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6651110
(24)【登録日】2020年1月24日
(45)【発行日】2020年2月19日
(54)【発明の名称】物体検出装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 26/10 20060101AFI20200210BHJP
   G02B 26/08 20060101ALI20200210BHJP
   G01S 7/481 20060101ALI20200210BHJP
【FI】
   G02B26/10 104Z
   G02B26/10 C
   G02B26/08 E
   G01S7/481 A
【請求項の数】5
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2019-99001(P2019-99001)
(22)【出願日】2019年5月28日
【審査請求日】2019年6月4日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518237336
【氏名又は名称】Dolphin株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123881
【弁理士】
【氏名又は名称】大澤 豊
(74)【代理人】
【識別番号】100080931
【弁理士】
【氏名又は名称】大澤 敬
(72)【発明者】
【氏名】段 志輝
【審査官】 右田 昌士
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−199111(JP,A)
【文献】 特開2009−048081(JP,A)
【文献】 特開2012−226359(JP,A)
【文献】 特開2004−170965(JP,A)
【文献】 特開2008−170579(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0123158(US,A1)
【文献】 中国実用新案第207663045(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 26/10
G02B 26/00 − 26/08
G01S 7/48 − 7/51
G01S 17/00 − 17/95
G01B 11/00 − 11/30
G09G 1/00 − 99/00
G05D 1/00 − 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持部材に固定されたねじりばねと、前記ねじりばねに固定され、前記ねじりばねの回転軸を跨いだ一方側にN極が、他方側にS極が位置する永久磁石と、前記永久磁石の前記ねじりばねと反対側に配置された駆動コイルと、前記駆動コイルに周期的に電圧又は電流が変化する駆動信号を印加する駆動部と、前記ねじりばねに固定され、前記永久磁石と反対側に配置されたミラーユニットであって、前記ねじりばねの中央付近に位置する第1反射面と、前記第1反射面の周囲に位置し前記第1反射面と平行な第2反射面とを備えるミラーユニットとを備え、前記第1反射面を含む平面よりも前記第2反射面を含む平面の方が前記ねじりばねの回転軸に近い位置にあり、前記ミラーユニットが、前記駆動信号の印加に応じて往復運動をするアクチュエータと、
レーザビームを出力するレーザ光源と、
受光素子と、
前記レーザビームを、前記ミラーユニットの前記第1反射面で反射した後で外部へ投光すると共に、該投光と同じ光軸で、外部から入射する入射光を導光し、前記受光素子へ導く光学系と、
前記レーザビームの投光タイミング及び投光方向と、前記受光素子が出力する光検出信号のタイミングとに基づき、前記レーザビームの光路上の物体までの距離及びその物体がある方向を検出する物体検出部と、
前記ミラーユニットの回転速度を検出する検出部と、
前記検出部が検出した回転速度に応じて、前記レーザ光源の点滅周期を制御する周期制御部とを備えることを特徴とする物体検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の物体検出装置であって、
前記ミラーユニットの重心が、ほぼ前記ねじりばねの回転軸上にあることを特徴とする物体検出装置
【請求項3】
請求項1又は2に記載の物体検出装置であって、
前記ミラーユニットが、前記第1反射面を備える第1ミラーと、前記第2反射面を備える第2ミラーとを備えることを特徴とする物体検出装置
【請求項4】
請求項3に記載の物体検出装置であって、
前記第2ミラーの重心は、前記第1ミラーの重心よりも、前記ねじりばねの回転軸に近い位置にあることを特徴とする物体検出装置
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の物体検出装置であって、
前記ねじりばねと前記ミラーユニットと前記永久磁石とを含む可動子の重心が、ほぼ前記ねじりばねの回転軸上にあることを特徴とする物体検出装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、駆動対象を往復運動させるアクチュエータとレーザ光とを用いて該レーザ光の光路上の物体を検出する物体検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、レーザ光のパルスを外部へ照射し、物体により反射されて戻ってきたレーザ光を検出することにより、レーザ光の光路上にある物体及びその物体までの距離を検出する物体検出装置が知られている。このような物体検出装置は、ライダー(LiDAR:Light Detection and Ranging)と呼ばれる。
近年、ライダーは、自動車の自動運転の分野でも活用されるようになっている。外部の照明環境の影響を受けやすいカメラセンサーや、分解能が低いミリ波レーダーの欠点を補い、走行環境下の比較的小型の障害物を、精度よく検出するために、カメラセンサーやミリ波レーダーと併用する等である。
【0003】
自動運転の分野に利用し得るライダーの例は、例えば特許文献1に記載されている。特許文献1に記載のライダーは、測定角度に合わせ、光源としての近赤外線レーザと受信機としての光検出素子がペアとして基板上に配置され、視野内の高分解能の距離情報を取り込むために、32セット又は64セットの光源−受信機ペアが用いられている。従って、装置が非常に大型かつ高コストになる。
【0004】
また、別のライダーの例は、非特許文献1に記載されている。非特許文献1に記載のライダーは、それぞれ傾き角の異なる3つの面を持つポリゴンミラーを回転させ、そのポリゴンミラーでレーザビームを偏向することにより、垂直方向4.5°の視野角の範囲内にレーザビームを投射しつつ、物体からの反射光を、ポリゴンミラーの投射時と同じ面で反射して光検出素子に導いて検出する。
【0005】
非特許文献1に記載のライダーでは、1つの受光素子で、垂直方向の複数の位置からの反射光を検出可能である。しかし、非特許文献1に記載のライダーでは、反射面毎に傾き角が異なるポリゴンミラーを用いることから、その重心の設計が難しく、この点でコストが高くなるという問題があった。
回転ミラーを用いたライダーについては非特許文献2にも記載があるが、この文献ではライダーの構成について詳細な説明はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第8767190号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Cristiano Niclass, et al.,“A100-m Range 10-Frame/s 340 × 96-Pixel Time-of-Flight DepthSensor in 0.18-μm CMOS”, IEEE JOURNAL OF SOLID-STATECIRCUITS, Institute of Electrical and Electronics Engineers, FEBRUARY 2013,VOL. 48, NO. 2, p. 559-572
【非特許文献2】清水直茂、「レベル3実現に冗長系やLiDAR Audiが自動運転の先駆者に」、日経Automotive、株式会社日経BP、2017年9月、p.22−23
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、ライダーにおいて物体の検出精度や検出感度を上げるためには、所定の視野範囲内をレーザ光により高速かつ高密度に走査することが望ましい。一方で、ライダーを一般に普及させることを考えた場合、消費電力の低減が重要である。特に重量の大きなバッテリーを設けることが難しい小型の移動体に搭載したり、メガネやヘルメットなどのウェアラブル装置に搭載しようとする場合には、消費電力の制約は顕著である。また、いずれの場合にも、耐久性が高いことがもちろん好ましい。
特許文献1、非特許文献1及び非特許文献2に記載の技術は、走査に関し、このような要求に十分に応えることができるものではなかった。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、光ビームの投光方向を周期的に変動させる走査を、低消費電力かつ耐久性の高い構成で実現することを目的とする。なお、本発明は、ライダーのような物体検出装置に適用することが好適であるが、用途は物体検出に限られない。本発明は、他の用途の光走査にも適用可能であるし、本発明のアクチュエータを光走査以外の用途に用いることも妨げられない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上の目的を達成するため、本発明の物体検出装置は、支持部材に固定されたねじりばねと、上記ねじりばねに固定され、上記ねじりばねの回転軸を跨いだ一方側にN極が、他方側にS極が位置する永久磁石と、上記永久磁石の上記ねじりばねと反対側に配置された駆動コイルと、上記駆動コイルに周期的に電圧又は電流が変化する駆動信号を印加する駆動部と、上記ねじりばねに固定され、上記永久磁石と反対側に配置されたミラーユニットであって、上記ねじりばねの中央付近に位置する第1反射面と、上記第1反射面の周囲に位置し上記第1反射面と平行な第2反射面とを備えるミラーユニットとを備え、上記第1反射面を含む平面よりも上記第2反射面を含む平面の方が上記ねじりばねの回転軸に近い位置にあり、上記ミラーユニットが、上記駆動信号の印加に応じて往復運動をするアクチュエータと、レーザビームを出力するレーザ光源と、受光素子と、上記レーザビームを、上記ミラーユニットの上記第1反射面で反射した後で外部へ投光すると共に、その投光と同じ光軸で、外部から入射する入射光を導光し、上記受光素子へ導く光学系と、上記レーザビームの投光タイミング及び投光方向と、上記受光素子が出力する光検出信号のタイミングとに基づき、上記レーザビームの光路上の物体までの距離及びその物体がある方向を検出する物体検出部と、上記ミラーユニットの回転速度を検出する検出部と、上記検出部が検出した回転速度に応じて、上記レーザ光源の点滅周期を制御する周期制御部とを備える物体検出装置である。
【0011】
このような物体検出装置において、上記ミラーユニットの重心が、ほぼ上記ねじりばねの回転軸上にあるとよい。
さらに、上記ミラーユニットが、上記第1反射面を備える第1ミラーと、上記第2反射面を備える第2ミラーとを備えるとよい。
さらに、上記第2ミラーの重心が、上記第1ミラーの重心よりも、上記ねじりばねの回転軸に近い位置にあるとよい。
【0012】
さらに、上記ねじりばねと上記ミラーユニットと上記永久磁石とを含む可動子の重心が、ほぼ上記ねじりばねの回転軸上にあるとよい。
【0014】
また、この発明の別のアクチュエータは、柱状の磁石であって、S極とN極が中心軸を挟んで対向する磁石と、上記磁石を上記中心軸を中心に回転可能に支持する支持部と、上記磁石の近傍に配置された駆動コイルであって、上記中心軸に平行な導線の束を含む第1部分と、上記中心軸に平行な導線の束を含み通電時に上記第1部分と逆向きに電流が流れる第2部分とが、上記磁石を挟んで向かい合う位置に配置されている駆動コイルと、上記コイルの外側に上記中心軸に沿って配置されたヨークであって、上記中心軸に垂直な平面上における上記中心軸から上記ヨークまでの距離が、上記中心軸からの方向によって異なるヨークと、上記駆動コイルに周期的に電圧又は電流が変化する駆動信号を印加する駆動部とを備えるものである。
【0015】
このようなアクチュエータにおいて、上記磁石が角柱状か円柱状であるとよい。
さらに、上記駆動コイルに電圧が印加されていない場合に、上記磁石は特定の向きである中立位置に向かって移動し、上記駆動コイルの上記第1部分及び上記第2部分はそれぞれ、上記中立位置にある上記磁石の各磁極と対向する位置にあるとよい。
さらに、上記磁石の上記中立位置におけるN極側とS極側とで、上記中心軸から上記ヨークまでの距離が等しく、かつ、上記中立位置において、上記磁石のN極及びS極が、上記中心軸から上記ヨークまでの距離が最も近い方向を向くとよい。
【0016】
さらに、上記駆動コイルは、導線が、上記第1部分の一端部から上記磁石の上記中心軸の周りを上記磁石の表面に沿って回り込むようにして上記第2部分の一端部に繋がり、上記第2部分の他端部から、上記磁石の上記中心軸の周りを上記磁石の表面に沿って回り込むようにして上記第1部分の他端部に繋がるように形成されているとよい。
さらに、上記磁石が、上記駆動信号の印加に応じて、上記駆動信号を印加していない状態での位置を中心とした範囲で往復回転運動するとよい。
さらに、上記磁石の長手方向端部に固定されたミラーを備え、上記ミラーが、上記駆動信号の印加に応じて、上記駆動信号を印加していない状態での位置を中心とした範囲で往復回転運動するとよい。
【0017】
また、この発明の別の光走査装置は、上記のアクチュエータを備え、光ビームを、上記ミラーで反射した後で投光するものである。
また、この発明の別の物体検出装置は、上記のアクチュエータと、レーザビームを出力するレーザ光源と、受光素子と、上記レーザビームを、上記ミラーで反射した後で外部へ投光すると共に、外部から入射する入射光を導光し、上記受光素子へ導く光学系と、上記レーザビームの投光タイミング及び投光方向と、上記受光素子が出力する光検出信号のタイミングとに基づき、上記レーザビームの光路上の物体までの距離及びその物体がある方向を検出する物体検出部とを備えるものである。
【0018】
このような物体検出装置において、上記ミラーの回転速度を検出する検出部と、上記検出部が検出した回転速度に応じて、上記レーザ光源の点滅周期を制御する周期制御部とを設けるとよい。
さらに、上記アクチュエータの上記ミラーが、上記磁石側以外の端部に、第2磁石を備え、上記検出部が、上記第2磁石と対向する位置に設けた磁気センサを備え、上記磁気センサが検出した磁気の変動に基づき上記ミラーの回転速度を検出するとよい。
さらに、上記磁気センサが、磁気抵抗素子により磁界の方向を検出する磁気抵抗センサであるとよい。
【0019】
また、以上説明した各発明は、その説明した態様のみならず、装置、システム、方法、プログラム、プログラムを記録した記録媒体等、任意の態様で実施することができる。
【発明の効果】
【0020】
以上のような本発明によれば、光ビームの投光方向を周期的に変動させる走査を、低消費電力かつ耐久性の高い構成で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】この発明の一実施形態である物体検出装置10の主な構成要素をその機能に注目して区分して示すブロック図である。
図2】物体検出装置10における物体検出の原理について説明するための図である。
図3】物体検出装置10の主な構成要素の構造を示す分解斜視図である。
図4】物体検出装置10の外観を示す斜視図である。
図5】アクチュエータ300,380の概略の外観及び配置を示す図である。
図6】アクチュエータ300を構成する部品の構造と、その組み立て工程の概略を示す分解斜視図である。
図7】アクチュエータ300の可動子320を構成する部品の構造を示す分解斜視図である。
図8】可動子320の全体構成を示しミラーユニット301の機能について説明するための斜視図である。
図9図6の(d)に示したアクチュエータ300の一点鎖線で示す面における断面を、矢印M方向から見た断面図である。
図10】可動子320全体の重心位置について説明するための図である。
図11】可動子の比較例の構成を示す図である。
図12】ミラーユニットの変形例の構成を示す図である。
図13】アクチュエータ300,380の概略の外観及び配置を示す図である。
図14】アクチュエータ400の構成を示す斜視図である。
図15】アクチュエータ400の分解斜視図である。
図16】アクチュエータ400の、図15よりも細かく分解した状態の分解斜視図である。
図17】アクチュエータ400が行う往復回転運動の原理について説明するための図である。
図18】アクチュエータ400が行う往復回転運動の原理について説明するための別の図である。
図19】アクチュエータ400′の構成を示す、図14と対応する斜視図である。
図20】アクチュエータ400′の構成を示す、図15と対応する分解斜視図である。
図21】アクチュエータ400′の構成を示す、図16と対応する分解斜視図である。
図22】アクチュエータ400′が行う往復回転運動の原理について説明するための、図18と対応する図である。
図23A】アクチュエータ400におけるヨークの変形例の構成を示す図である。
図23B】アクチュエータ400におけるヨークの別の変形例の構成を示す図である。
図23C】アクチュエータ400におけるヨークのさらに別の変形例の構成を示す図である。
図24A】アクチュエータ400′におけるヨークの変形例の構成を示す図である。
図24B】アクチュエータ400′におけるヨークの別の変形例の構成を示す図である。
図24C】アクチュエータ400′におけるヨークのさらに別の変形例の構成を示す図である。
図25】ミラーユニット301の走査角と走査角速度の絶対値との関係を示すグラフである。
図26】LDモジュール21の駆動信号の例を示す図である。
図27図26の駆動信号を用いた場合に走査線上に形成される出射光L2によるスポットの例を示す図である。
図28】LDモジュール21の駆動信号のパルスの間隔を制御するための制御回路の構成を、その周辺の回路と共に示す図である。
図29図28の回路にて生成されるLDモジュール21の駆動信号の例を示す図である。
図30図29の駆動信号を用いた場合に走査線上に形成される出射光L2によるスポットの例を示す図である。
図31】アクチュエータ400″の構成を示す、図14と対応する斜視図である。
図32】アクチュエータ400″を用いる場合の、LDモジュール21の駆動信号のパルスの間隔を制御するための制御回路の構成を、その周辺の回路と共に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
この発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
〔1.物体検出装置の全体構成(図1乃至図4)〕
まず、この発明の一実施形態である物体検出装置の全体構成について、図1及び図2を用い、主な構成要素をその機能に注目して区分して説明する。図1は、物体検出装置の主な構成要素をその機能に注目して区分して示すブロック図である。図2は、物体検出装置における物体検出の原理について説明するための図である。
【0023】
この発明の一実施形態である物体検出装置10は、レーザビームを外部へ投光すると共に、外部の物体で反射されて戻ってくるレーザビームを検出し、その投光タイミングと反射光の検出タイミングとの差に基づき、レーザビームの光路上にある物体までの距離及びその物体がある方向を検出する装置である。この物体検出装置10は、図1に示すように、投光部20、走査部30、受光部40、フロントエンド回路51、TDC(時間−デジタル変換器:Time-to-Digital Converter)52、プロセッサ53、入出力部54を備える。
【0024】
これらのうち投光部20は、レーザビームを外部へ投光するためのモジュールであり、LD(レーザダイオード)モジュール21、レーザ駆動回路22、投光光学系23を備える。
LDモジュール21は、レーザ駆動回路22から印加される駆動信号に応じてレーザ光を出力するレーザ光源である。ここでは、複数の発光点を備えるものを用い、出力の強度を高めているが、発光点は1つであってもよい。レーザ光の波長に特に制約はないが、たとえば近赤外光のレーザ光を用いることが考えられる。レーザ光は、光ビームの一例である。
レーザ駆動回路22は、プロセッサ53から供給されるパラメータに従ったタイミングでLDモジュール21を点灯させるための駆動信号を生成し、LDモジュール21に印加するための回路である。LDモジュール21の点灯は、パルス波により間欠的に行う。
【0025】
投光光学系23は、LDモジュール21が出力するレーザ光を平行光のビームにするための光学系であり、この実施形態では、LDモジュール21が備える複数の発光点の中心に焦点が位置する凸レンズによるコリメートレンズを用いている。
なお、投光光学系23により形成されたレーザビームL1は、受光部のミラー41の透孔41aを通過し、走査部30のミラー31により反射されて、出射光L2として物体検出装置10の外部へ出力される。
【0026】
次に、走査部30は、投光部20により出力されるレーザビームを偏向して、所定の視野(FOV:Field of View)70内を走査させるためのモジュールであり、ミラー31を有するアクチュエータ32を備える。アクチュエータ32は、レーザビームの光路上に設けたミラー31の向きを周期的に変動させることにより、レーザビームの投光方向を周期的に変動させる。
【0027】
また、図1ではアクチュエータ32を1つしか示していないが、実際にはアクチュエータ32は図5に示すようにそれぞれ異なる軸を中心にミラーを揺動させる2つのアクチュエータ300,400で構成される。そして、アクチュエータ300は、主走査方向の走査を担当して主走査方向(Horizontal)走査線71aを形成し、アクチュエータ400は、主走査方向の走査の端部においてミラーの向きを変化させ、副走査方向(Vertical)走査線71bを形成すると共に、副走査方向の走査位置を調整する。
なお、LDモジュール21は間欠的に点灯するので、実際には走査線71は連続した線ではなくビームスポットの集合となる。
以上の投光部20及び走査部30が、光走査装置を構成する。
【0028】
次に、受光部40は、物体検出装置10の外部から入射する光を検出するためのモジュールであり、ミラー41、集光レンズ42、受光素子43、アパーチャー44を備える。この受光部40により検出したい光は、物体検出装置10から投光され外部の物体により反射されて戻ってくるレーザビームである。レーザビームは、物体面において乱反射されるが、そのうち投光時の光路と逆向きに反射された成分のみが、戻り光L3として物体検出装置10に戻る。この戻り光L3は、出射光L2とほぼ同じ経路を逆向きに進み、戻り光L4としてミラー41に到達する。
【0029】
ミラー41は、投光部20から出力されるレーザビームを通過させるための透孔41aを備えると共に、戻り光L4を受光素子43へ導くための固定のミラーである。ミラー41の位置において、戻り光L4はレーザビームL1に比べると広がりが大きいため、透孔41aよりも広い範囲でミラー41に当たり、透孔41a以外の位置に当たる成分が、受光素子43へ向けて反射される。
【0030】
集光レンズ42は、ミラー41で反射された戻り光L4を集光して所定の焦点面上に結像させるレンズである。
受光素子43は、所定の受光面上に当たった光の強度に応じた検出信号を出力する光検出素子である。この実施形態では、受光素子としてシリコンフォトマルチプライヤー(SiPM)を用いている。この点については後に詳述する。
アパーチャー44は、集光レンズ42の焦点面上に配置され、開口部以外の光を遮光することにより、外乱光が受光素子43に入射することを防止する。
以上のうちミラー41、集光レンズ42及びアパーチャー44が、受光光学系を構成する。
【0031】
次に、フロントエンド回路51は、受光素子43が出力する検出信号を、TDC52でのタイミング検出に適した波形に整形する回路である。
TDC52は、レーザ駆動回路22から供給される駆動信号と、フロントエンド回路51から供給される整形後の検出信号とに基づき、出射光となるレーザビームL1の点灯パルスのタイミングt0と、これと対応する戻り光L4のパルスのタイミングt1との時間差を示すデジタル出力を形成する回路である。
【0032】
出射光のパルスと、戻り光のパルスでは、光が光路上の物体に到達して戻ってくるのに要する時間だけの時間差があるので、その時間差Δtに基づき、図2に示すように物体検出装置10から物体までの距離sを、s=c(Δt)/2として求めることができる。cは光速である。なお、上記sは、正確には物体から受光素子43までの光路長である。
【0033】
プロセッサ53は、図1に示した各部の動作を制御する制御部である。CPU、ROM、RAM等を備え、ソフトウエアを実行する汎用のコンピュータにより構成してもよいし、専用のハードウエアにより構成してもよいし、それらの組み合わせであってもよい。プロセッサ53は例えば、TDC52からの出力信号に基づく物体までの距離の算出、戻り光の検出時点での走査部30による走査のタイミング(出射光L2の投光方向)に基づく物体のある方向の算出を行う。また、後に詳述するが、走査部30におけるミラー31の向きに応じたLDモジュール21の点灯間隔の制御も行う。
【0034】
入出力部54は、外部との間の情報の入出力を行うモジュールである。ここでいう情報の入出力には、外部の装置との間での有線あるいは無線による通信、ボタンやタッチパネル等を用いたユーザからの操作の受け付け、ディスプレイ、ランプ、スピーカ、バイブレータ等を用いたユーザへの情報の提示を含む。入出力部54が外部へ出力すべき情報としては、例えば、検出した物体に関する情報(距離や方向の生データでも、それらに基づき所定のサイズ、位置、移動速度等の物体を検出したことを示す情報でもよい)、物体検出装置10の動作状態や設定状態に関する情報が考えられる。入出力部54が外部から入力を受け付けるべき情報としては、例えば、物体検出装置10の動作の設定に関する情報が考えられる。
【0035】
入出力部54による通信の相手としては、例えば自動運転システムを備えた自動車やドローンなどの移動体が考えられる。物体検出装置10が検出した物体の情報を自動運転システムに供給すれば、自動運転システムは、その情報を参照し、検出した物体を回避するような走行ルートを計画することができる。
なお、この発明を、物体検出装置10と、その通信相手の自動車やドローン、航空機等の装置とを含むシステムとして実施することも考えられる。
【0036】
次に、物体検出装置10の概略の構造について、図3及び図4を用いて説明する。図3は、物体検出装置の主な構成要素の構造を示す分解斜視図、図4は、物体検出装置の外観を示す斜視図である。
物体検出装置10は、図3及び図4に示すように、トップカバー61とリアカバー62を、2つのカバークリップ63,63により結合した外装を備える。また、トップカバー61は、出射光L2を通過させるための窓を備え、その窓には塵の侵入を防ぐための、出射光L2の波長において透明な保護材64が嵌められている。
【0037】
これらの筐体の内側に、図1に示した各構成要素が格納されている。なお、図1に示したアクチュエータ32は、主走査方向の走査を担当するアクチュエータ300と、副走査方向の走査を担当するアクチュエータ380との、2つのアクチュエータとして示している。ミラーユニット301は、アクチュエータ300が備えるミラーである。
また、ミラー48は、図1には示していないが、ミラー41と集光レンズ42の間にあって戻り光L4の向きを変えるための光学素子である。破線65は、物体検出装置10の視野(出射光L2による走査範囲)を示し、図1の視野70と対応する。レーザ駆動回路22、プロセッサ53等の回路やモジュール間の配線は、図を見やすくするため図3では図示を省略している。
以上で全体構成の説明を終え、以下、物体検出装置10のいくつかの構成要素について個別に説明する。
【0038】
〔2.走査部30及びアクチュエータ300の構成(図5乃至図11)〕
走査部30が、アクチュエータ300と380を備えることは既に述べたが、これらのうちアクチュエータ300は特徴的な構成を備えるので、次にこの点について説明する。
図5に、アクチュエータ300,380の概略の外観及び配置を、図3よりも拡大して示す。
【0039】
図5に示すように、アクチュエータ300とアクチュエータ380は、その構成が大きく異なる。
アクチュエータ380は、出射光L2の副走査方向の偏向のために用いるので、さほど高速な運動は要求されないことから、物理的な軸を中心にミラーを回転運動させるタイプのアクチュエータを用いている。このアクチュエータ380は、ミラー381を軸382に固定し、軸382をホルダ383に差し込んで回転可能に取り付けて構成されている。そして、ミラー381の裏側に配置された永久磁石及びコイルの作用により、コイルに印加された電圧に応じて、ミラー381が軸382の中心を回転軸384として回転し、所定の角度範囲を往復運動する。電圧の強度を調整することにより、ミラーを運動範囲内の所望の角度で停止させることも可能である。
【0040】
このようなアクチュエータは、ガルバノミラーと呼ばれる。一般には、軸の一端に力を加えることにより軸の他端に取り付けられたミラーを回転させる構成が広く用いられているが、アクチュエータ380のように、軸に力を加える位置とミラーの取り付け位置が、軸の長手方向について同じ位置であっても、同様な原理での駆動が可能である。
【0041】
一方、アクチュエータ300は、出射光L2の主走査方向の偏向のために用いるので、高速な運動が要求され、またその高速な運動を長時間継続できる耐久性も求められる。そこで、アクチュエータ300としては、このような目的に合った新規なアクチュエータを用いている。
【0042】
その具体的な構成は図6乃至図10を用いて詳述するが、概略としては、アクチュエータ300は、ミラーユニット301を、直線状の突起部を有するねじりばね302の一方の面に、突起部を跨ぐように固定し、ねじりばね302の端部を支持部材としてのトップヨーク314に固定して構成されている。そして、ねじりばね302の他方の面側に配置された永久磁石及びコイルの作用により、コイルに印加された電圧に応じて、ねじりばね302及びミラーユニット301が、ねじりばね302の突起部の略中心に位置する回転軸304を中心に回転し、所定の角度範囲を往復運動する。
【0043】
走査部30は、以上のアクチュエータ300,380によりそれぞれ駆動されるミラーユニット301及びミラー381によりレーザビームL1を反射し、偏向することにより、図1に示した走査線71上を走査する出射光L2を、外部へ投光することができる。
なお、副走査方向の偏向走査を行うアクチュエータとして、アクチュエータ300と同じ構造のものを用いることも、もちろん妨げられない。
【0044】
次に、図6乃至図12を用いて、アクチュエータ300の構造と動作原理についてより詳細に説明する。
図6は、アクチュエータ300を構成する部品の構造と、その組み立て工程の概略を示す分解斜視図であり、その最終工程において完成したアクチュエータ300の斜視図も含む。図7は、アクチュエータ300の可動子320を構成する部品の構造を示す分解斜視図である。図8は、可動子320の全体構成を示しミラーユニット301の機能について説明するための斜視図である。図9は、図6の(d)に示したアクチュエータ300の一点鎖線で示す面における断面(平面部302bの中央付近を通り、突起部302cの長手方向に垂直な平面での断面)を、矢印M方向から見た断面図である。ただし、図を見やすくするため、図9においてコイルアッセンブリ313の図示は省略し、コイルの巻き方を模式的に示している。図10は、可動子320全体の重心位置について説明するための図である。図11は比較例、図12は変形例の構成を示し、詳細は後述する。
【0045】
アクチュエータ300は、図6の(a)に示すように、コアヨーク311、枠ヨーク312、コイルアッセンブリ313、トップヨーク314、可動子320を備える。
これらのうち枠ヨーク312とトップヨーク314は、コイルを囲む磁性体による外装を形成する。枠ヨーク312とトップヨーク314は、4組のねじ孔312b,314bを貫通する4本のねじ315により、内部にコイルアッセンブリ313を保持するように固定される。
【0046】
コイルアッセンブリ313は、非磁性体によるボビン313aに、図9に示す駆動コイル316及びセンシングコイル317の2本のコイルを巻き、その外側を保護カバー313cで覆ったものである。ボビン313aの内部には、コア部311aを通すための挿通孔313bが設けられている。また、保護カバー313cは、外装に覆われない位置に、駆動コイル316へ駆動信号を印加するための端子と、センシングコイル317に発生する信号を出力するための端子とを備える。
コアヨーク311は、駆動コイル316及びセンシングコイル317のコアとなる、強磁性体によるコア部311aを備える。
【0047】
これらの各部品は、図6の(b)に示すようにコアヨーク311のコア部311aを枠ヨーク312の挿通孔312aに挿入し、その後(c)に示すようにコイルアッセンブリ313の挿通孔313bにコア部311aを挿入してコイルアッセンブリ313の位置決めを行い、その後(d)に示すようにトップヨーク314と枠ヨーク312とをねじ315により固定して、一体化される。
【0048】
このとき、(a)から(b)の工程で、コア部311aを枠ヨーク312に固定し、(b)から(c)の工程で、コイルアッセンブリ313をコア部311a(及び枠ヨーク312)に固定する。この固定は、不図示のねじや溶接、または接着を用いて行ったり、挿入側の部材を受け入れ側のスペースよりも若干大きくして受け入れ位置へ圧入することにより行ったり、これらの組み合わせで行ったりすることが考えられる。
なお、図6の(b)及び(c)では、スペースの都合上、可動子320の図示は省略している。
【0049】
また、可動子320は、図7に示すように、ミラーユニット301及びねじりばね302の他、永久磁石321を備える。
これらのうちねじりばね302は、金属板をプレス加工又は折り加工等により折り曲げて形成したばねであり、その折れ目によって、V字型の断面を有する直線状の突起部302cを備える。また、突起部302cの中央付近には、突起部302cを跨ぐように両側に突出する平面部302bを備え、突起部302cの両端にはそれぞれ、突起部302cを跨ぐように両側に突出する平面部302aを備える。これらの突起部302cと平面部302a,302bは、全て一体であり、一枚の板状部材を折り曲げてこれらの各部を形成することにより、十分な強度を持ったねじりばね302を、低コストで形成することができる。
【0050】
また、両端の平面部302aと平面部302bとは、自然状態では全て同一平面上に位置する。しかし、両端の平面部302aを同一平面上に固定した状態で平面部302bに対して突起部302cを中心に回転する力を加えると、突起部302cがねじれ、平面部302bは突起部302cを中心に回転移動する。力をかけるのをやめると、ばねの復元力により突起部302cのねじれが解消し、平面部302bは平面部302aと同一平面上に戻る。
また、永久磁石321は、平面部302bの、突起部302cと反対側の面に、突起部を跨いた一方側にN極321nが、他方側にS極321sが位置するように固定される。N極321nとS極321sの位置は、図と逆でも問題ない。永久磁石321と平面部302bとの間の固定は、接着や溶接など、任意の方法で行うことができる。
【0051】
ミラーユニット301は、1枚の第1ミラー301aと2枚の第2ミラー301bとを、図7に示すように一部重ねて接着することにより構成したものであり、2枚の第2ミラー301bを、突起部302cの両側の平面部302bの、突起部302c側の面に接着することにより、ねじりばね302に固定されている。これらの接着に用いる接着剤は任意のものでよいが、硬化収縮の少ないものが望ましい。
【0052】
なお、図9に示すように、第1ミラー301aと突起部302cの先端とは接しておらず、若干の隙間がある。すなわち、第1ミラー301aは第2ミラー301bにのみ固定され、第2ミラー301bがスペーサとなっている。このようにしているのは、突起部302cは、ねじりばね302がねじれる際に若干変形するため、変形が起こっても周辺の部材と干渉しないよう、突起部302cの周りにはある程度の空間を確保することが好ましいためである。
【0053】
以上の可動子320は、図7に示した各部材を予め組み立てた後で、図6の(c)と(d)の間の工程で、トップヨーク314の可動子保持部314aに対して固定する。この固定は、可動子保持部314aに対して平面部302aを不図示のねじによりねじ止めして行ったり、平面部302aと可動子保持部314aとを接着あるいは溶接することにより行ったり、平面部302aを可動子保持部314aに設けたスリットに挿入して行ったり等、任意の方法で行うことができる。
【0054】
可動子320がトップヨーク314に固定された状態では、ねじりばね302の平面部302b及び永久磁石321は、トップヨーク314の開口部314cを通してコイルアッセンブリ313と対向する。より具体的には、図9に示すように、コイルアッセンブリ313内に設けられた駆動コイル316の軸の一端が、永久磁石321のN極321nとS極321sの中間点と対向する。永久磁石321から見ると、ねじりばね302と反対側に駆動コイル316が配置されていることになる。
【0055】
この状態で駆動コイル316に通電し、例えば永久磁石321と対向する側の端部がN極となると、永久磁石321のS極321sは駆動コイル316に引き寄せられ、N極321nは駆動コイル316と反発し、永久磁石321には、図9で見て時計回りに回転しようとする力が働く。その力はねじりばね302の平面部302bに伝わり、ねじりばね302は、突起部302cの断面の中心付近にある仮想的な回転軸304を中心に時計回りに回転してねじれる。これにつれて、平面部302bに固定されたミラーユニット301も、回転軸304を中心に時計回りに回転する。
そして、駆動コイル316と永久磁石321の間に生じる磁力と、ねじりばね302の復元力とが釣り合う位置で回転が止まる。駆動コイル316に流す電流の強さを変えることにより、この回転の速さと停止位置を調整可能である。
【0056】
次に、永久磁石321及びミラーユニット301が適当な位置まで時計回りに回転した状態で、駆動コイル316への通電方向を逆向きにすると、永久磁石321と対向する側の端部がS極となり、今度は永久磁石321のN極321nが駆動コイル316に引き寄せられ、S極321sが駆動コイル316と反発し、永久磁石321には、図9で見て反時計回りに回転しようとする力が働く。その力は時計回りの場合と同様にねじりばね302の平面部302bに伝わり、ねじりばね302は回転軸304を中心に反時計回りに回転して先ほどと逆向きにねじれる。これにつれて、平面部302bに固定されたミラーユニット301も、回転軸304を中心に反時計回りに回転する。
【0057】
駆動コイル316に印加する駆動信号の電圧又は電流の向きを定期的に反転させることにより、図9に矢印Vで示すようにミラーユニット301に上記の時計回り及び反時計回りの回転を交互に行わせ、回転軸304の廻りを所定の角度範囲で回転する往復運動をさせることができる。すなわち、ミラーユニット301を、所定の移動経路上で揺動させることができる。そして、このことにより、図1を用いて説明した、主走査方向の走査に必要なレーザビームL1の周期的な偏向を実現することができる。
【0058】
なお、ねじりばね302の寿命を考えると、揺動の範囲は自然状態に対して対称であることが望ましい。しかしこれは必須ではない。例えば、駆動コイル316に印加する電圧のオンオフを周期的に切り換えることにより、自然状態付近の位置を一端とする所定範囲での揺動を行うこともできる。駆動コイル316に印加する電圧又は電流を、適宜な範囲で周期的に変化させることにより、ねじりばね302の可動範囲内の任意の揺動範囲で、ミラーユニット301を揺動させることができる。
【0059】
ところで、図8に示すように、可動子320においてミラーユニット301は、第1ミラー301aの反射面(第1反射面)にて、投光光学系23により形成されたレーザビームL1を反射して適宜に偏向して出射光L2を形成する。一方、第1ミラー301aの反射面と第2ミラー301bの反射面(第2反射面)の両方で、外部からの戻り光L3を反射して、レーザビームL1と同一光軸で受光部40へ導くべき戻り光L4を形成する。
【0060】
これらのうち出射光L2に関しては、レーザビームL1のスポットは比較的小さいため、第1ミラー301aのサイズは小さくてよく、ミラーユニット301の考えられる回転範囲の全体で、レーザビームL1を第1反射面内に収められる程度のサイズがあればよい。
【0061】
一方、戻り光L4に関しては、検出対象物にて反射され乱反射された出射光L2の一部であるから、なるべく広い範囲の戻り光L4を受光部40に導くことが、検出感度向上の観点から好ましい。このため、第1ミラー301aと第2ミラー301bの合計サイズは、なるべく大きいことが好ましい。
【0062】
ミラーユニット301において、第1ミラー301aと第2ミラー301bに分けて設けているのは、大きな反射面積を確保しつつ、ミラーユニット301の回転のエネルギー効率を高めると共に、高速な回転を可能とするためである。すなわち、低消費電力で高速な走査を行えるようにするためである。この点についてさらに説明する。
【0063】
まず、図11に示す比較例のように、十分な大きさの1枚のミラー501を、突起部302cの先端付近を跨ぐように設ける場合を考える。この場合、ねじりばね302の平面部302b上でミラー501を支えるスペーサも必要となるが、その図示は省略した。
このような構成にすると、ねじりばね302の突起部302c側において、回転軸304から離れた位置にミラー501の大きな質量が位置することになり、回転軸304を中心とした回転運動に関する可動子320の慣性モーメントが大きくなってしまう。
【0064】
このことを避け、慣性モーメントを低減するためには、ミラー501を突起部302c上に設けることを避け、平面部302b上に設けて、全体的に回転軸304に近づけることが考えられる。すなわち、第2ミラー301bの位置に設けることが考えられる。しかし、この場合、ミラーは突起部302cを避けて設けなければならないため、単純にミラー501を2つに分けたサイズのミラーを第2ミラー301bの位置に設けると、ミラーの端部は、ミラー501の場合よりも回転軸304から遠い場所に配置されてしまい、慣性モーメントが却って増加してしまうことが考えられる。
【0065】
ミラーユニット301は、このような問題を解消するため、突起部302cを跨ぐ第1ミラー301aと、平面部302b上に配置する第2ミラー301bとに分けて設け、その合計により、十分な面積を確保しつつ、ミラーの位置を全体的に回転軸304に近づけたものである。
【0066】
この配置にすれば、サイズの大きい第2ミラー301bを回転軸304に近づけることができ、図11の配置に比べ、回転軸304を中心とした回転運動に関する慣性モーメントを小さくすることができる。
すなわち、第1ミラー301aを設けた分、第2ミラー301bのサイズを小さくすることができ、回転軸304から第2ミラー301bの端部までの距離が長くなりすぎないようにすることができる。また、第1ミラー301aは、突起部302を回避するため、回転軸304からある程度離れた位置に設けざるを得ないが、突起部302を跨ぎ、第2ミラー301bに固定できる程度のサイズで十分であるので、回転軸304から第1ミラー301aの端部までの距離は、さほど大きくならないようにすることができる。従って、回転軸304から遠い場所に大きな質量を置くことを避け、慣性モーメントを小さくすることができる。
【0067】
そして、このことにより、ねじりばね302をねじってミラーを回転させるために必要なエネルギーを低く抑えることができる。また、ねじり振動系において、共振周波数は、ばねのねじり剛性Kを慣性モーメントIで割った値の1/2乗に比例するので、慣性モーメントを小さくすれば、可動子320の共振周波数を高めることができ、走査の高速化にも資する。
第1ミラー301aと第2ミラー301bをそれぞれ、長手方向が回転軸304に沿う長方形状としているのも、慣性モーメントを低減するためである。
【0068】
なお、可動子320の共振周波数を高めるためには、ねじりばね302としてばね定数の大きいばねを用いることも考えられる。しかし、よりばね定数の大きいばねを作るためには、より厚い金属板を用いる必要があり、厚さが増すにつれて、製造誤差が大きくなってしまう。そこで、以上説明したような形状のミラーユニット301を採用して共振周波数を高めることが有効である。
【0069】
なお、上記の効果を得るために、ミラーユニット301を、平面状の第1ミラー301aと第2ミラー301bとに分けて構成すると、製造が容易である。しかし、このように構成することは必須ではない。第1ミラー301aと第2ミラー301bを一体にした、第1反射面と第2反射面との間に段差がある1枚のミラーを用いてもよい。さらには、図12に示すような断面を有する、第1反射面301a1と第2反射面301b1とが滑らかにつながっている1枚のミラー301′を用いてもよい。
いずれにせよ、第1反射面を含む平面よりも第2反射面を含む平面の方がねじりばね302の回転軸304に近い位置に来るようにすることにより、図6乃至図10に示した例の場合と同様、慣性モーメントを低減すると共に、共振周波数を高めることができる。
【0070】
また、以上に加え、可動子320において、第2ミラー301bの重心は概ね回転軸304上に位置するので、残りの第1ミラー301a、永久磁石321及びねじりばね302の部分の重心も回転軸304上に位置するように各部のサイズや重量を調整することにより、図10に示すように、可動子320全体の重心305を、回転軸304上に置くことができる。
【0071】
このように、可動子320の重心を概ね回転軸304上に置くことにより、ねじりばね302のねじれに伴うミラーユニット301の回動時に余計な振動が発生しないようにして、共振周波数をさらに高めることができる。
なお、可動子320の重心が正確に回転軸304上になくても、重心のずれによる振動が無視できる程度であれば、回転軸304上にある場合と同視できる。また、可動子320において、大きな重量を占めるのはミラーユニット301であるため、ミラーユニット301の部分のみの重心が回転軸304上にあるか、又は、永久磁石321と反対側に若干ずれた位置にあれば、可動子320の重心を概ね回転軸304上に置くことができる。
【0072】
また、回転軸304上の全ての点で、当該点を含み回転軸304に垂直な平面での可動子320の断面の重心が、回転軸304上にあると、共振周波数を高める効果が特に大きい。しかし、可動子320全体の重心が、回転軸304上のどこかにあるだけでも、十分有意義な効果を得ることができる。
【0073】
また、アクチュエータ300では、可動子320はその端部がトップヨーク314に固定されているが、実際に移動する平面部302b付近の部分は空中に浮いているため、揺動時に部品間の摩擦が発生せず、長時間連続で使用しても、発熱や摩耗が生じにくい。従って、高い耐久性を得ることができる。
また、コイルアッセンブリ313を磁性体のトップヨーク314及び枠ヨーク312で囲んでいるため、駆動コイル316に生じる磁力の漏れを防止し、高い駆動効率を得ることができる。ただし、このような磁性体の囲みを設けることは、必須ではない。
【0074】
また、ねじりばね302の材質は、例えばステンレスや、りん青銅とすることが考えられるが、その他、弾性ばねを形成可能な任意の材質を採用することができる。また、突起部302cの断面をV字型にしているのは、発明者らのシミュレーションにより、大きなばね定数が得られ、このことによりねじりばね302の共振周波数を高められることが見出されたためである。
しかし、断面の形状はV字型に限られることはなく、ねじりばねとして機能し得るのであれば、断面が角張ったn字型やU字型、またはM字型、W字型、開口部のない空芯薄壁閉断面など、他の形状であってもよい。
【0075】
なお、こうした直線状の突起部302cを有する構造は、平面構造のねじりばねに比べ、回転軸に直交する方向の剛性を高くすることができる。この剛性は、自動車内のような、常時振動する環境で安定した走査を行い、また揺動部の耐久性を確保する上で非常に有用である。
また、突起部302cを有するねじりばねは、立体形状であり、全体としての厚みが大きい。このため、板材を折り曲げて形成することは容易であるが、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)の技術を利用したウエーハープロセスで、十分な高さの突起部302cを有するねじりばねを形成することは、困難である。
【0076】
また、駆動コイル316は、図9の例では自然状態で平面部302bに対して垂直な向きに配置しているが、軸の一端が、永久磁石321のN極321nとS極321sの中間点と対向していれば、向きは図9に示したものに限られない。例えば、軸を突起部302cと平行に配置しても、図9の構成の場合と同様なミラーユニット301の揺動が可能である。
【0077】
また、駆動コイル316を、コイルアッセンブリ313に収納したり、ボビンに巻いたりすることも必須ではなく、コア部311aに直接巻くことも妨げられない。
また、センシングコイル317は、図25乃至図30を用いて後述するレーザビームL1の点灯タイミング調整を行うために設けたものであり、この調整を行わないのであれば、不要である。
【0078】
また、以上の他、永久磁石321に代えて、ミラーの駆動時に通電される電磁石を用いることも妨げられない。ただし、永久磁石321の方が、構造が単純で組み付け誤差が発生しにくく、余計なノイズを発生しない点で好ましい。
【0079】
〔3.アクチュエータの別の構成例(図13乃至図23C)〕
走査部30に設けるアクチュエータとしては、以上説明してきたアクチュエータ300に代え、全く動作原理の異なるアクチュエータを採用することもできる。次に、このような別のアクチュエータの例として、アクチュエータ400について説明する。
まず図13に、アクチュエータ300に代えてアクチュエータ400を設けた場合の、アクチュエータ400,380の概略の外観及び配置を、図5と同様に示す。
【0080】
概略としては、アクチュエータ400は、ミラー401を、永久磁石410に固定し、永久磁石410をベアリング403,405により保持して構成されている。そして、永久磁石410の磁力と、永久磁石410の周りに配置されたヨーク430と、永久磁石410とヨーク430との間に配置された駆動コイル420(図14参照)を流れる電流との相互作用により、コイルに印加された電圧に応じて、永久磁石410とミラー401とが一体として、永久磁石410の中心を通る回転軸404を中心に回転し、所定の角度範囲を往復運動する。
【0081】
走査部30は、以上のアクチュエータ400により駆動されるミラー401と、図5に示したものと同じアクチュエータ380により駆動されるミラー381とによりレーザビームL1を反射し、偏向することにより、図1に示した走査線71上を走査する出射光L2を、外部へ投光することができる。
なお、副走査方向の偏向走査を行うアクチュエータとして、アクチュエータ400と同じ構造のものを用いることも、もちろん妨げられない。
【0082】
次に、図14乃至図16を用いて、アクチュエータ400の構造についてより詳細に説明する。
図14は、アクチュエータ400の構成を示す斜視図である。図15及び図16はそれぞれアクチュエータの400の分解斜視図である。図16は、図15に比べ、永久磁石410周りの部品も分解した状態を示している。
アクチュエータ400は、図14乃至図16に示すように、ミラー401、ミラーホルダ402、ベアリング403、ベアリング405、磁石ホルダ406、永久磁石410、駆動コイル420、ヨーク430を備える。
【0083】
これらのうちミラー401は、レーザビームL1及び戻り光L4を反射するための反射面を有する平面状のミラーである。
ミラーホルダ402は、ベアリング403に対し、ミラー401を、その重心が永久磁石410の中心軸(回転中心)上に来るように、かつ永久磁石410の回転に伴って回転するように固定する。
【0084】
図14の例では、永久磁石410が嵌まるように薄肉に形成した薄肉部402b内に、円柱状の永久磁石410の上端を押し込むことにより、ミラーホルダ402を永久磁石410に対して固定する。その後、ミラー保持部402aを図で下側から上側へベアリング403の内輪403aに通して、そのままミラーホルダ402を、内輪403aに押し込むことにより、ミラーホルダ402を内輪403aに嵌め込んで固定する。ミラー401は、ミラー保持部402aに対して接着する。
【0085】
ベアリング403及びベアリング405はそれぞれ、永久磁石410を、その中心軸を中心として回転可能なように保持する。
永久磁石410のベアリング403への固定は、上記のようにミラーホルダ402を介して行う。永久磁石410のベアリング405への固定は、永久磁石410が嵌まるように形成された磁石ホルダ406の磁石保持部406aに対して端部を押し込んで永久磁石410と磁石ホルダ406とを一体化した上で、磁石ホルダ406のベアリング接続部406bを、ベアリング405の内輪405aに対して嵌め込んで行う。
以上により、永久磁石410とミラー401とが一体として、内輪403a及び内輪405aと共に回転可能なように、ベアリング403,405によって保持される。
【0086】
また、駆動コイル420は、ヨーク430の内側に接着や溶接などで固定され、ヨーク430は、ベアリング403及びベアリング405に対して、内輪403a,405aの回転を妨げないように、接着や溶接などで固定されている。
以上に挙げた、嵌め込み、接着、溶接などの固定方法は一例であり、他の方法を用いることももちろん可能である。
【0087】
アクチュエータ400において、永久磁石410は円柱状であり、円柱を径方向に2つに区分した領域の一方側がN極410n、他方側がS極410sとなっている(図17図18参照)。長手方向の両端部がそれぞれN極とS極となっている構成ではない。
【0088】
また、駆動コイル420には、永久磁石410(の中心)に平行な導線の束を含む第1部分421と、永久磁石410に平行な導線の束を含み通電時に第1部分421と逆向きに電流が流れる第2部分422とが、永久磁石410を挟んで向かい合うように配置されている。第1部分421と第2部分422とは、それぞれ永久磁石410の端部付近に永久磁石410の表面に沿って回り込むように配置される第1接続部423及び第2接続部424により接続される。
【0089】
駆動コイル420の一巻きは、例えば、第1部分421を永久磁石410に沿って図14で下から上に上がり、永久磁石410の上端部付近で第1接続部423に入って、永久磁石410の表面に沿って図14で上側から見て時計回りに回り込み、その後第2部分422に入って、永久磁石410に沿って図14で上から下に下がり、永久磁石410の下端部付近で第2接続部424に入って、永久磁石410の表面に沿って図14で上側から見て反時計回りに回り込み、次の周回の第1部分421に繋がる、というものである。永久磁石410の長手方向端面と対向する位置には、導線は配置されていない。
【0090】
この構成の駆動コイル420を用いることにより、ひとつのコイルだけで、後述するように、N極410n側とS極410s側とに異なる向きの電流を流し、N極410n側とS極410s側とに、トルクを同時に発生させることができる。また、第1接続部423と第2接続部424には、電流を流しても、永久磁石410に対してトルクを発生させることはないが、長さが短いため、導線の抵抗によるエネルギー損失は少なくて済む。これらの理由により、駆動コイル420によれば、高いエネルギー効率で、永久磁石410に対するトルクを発生させることができる。
また、上記構成の駆動コイル420は、平面シングル空芯コイルをU字型に折り曲げるだけで形成できるため、製造が容易である。
【0091】
なお、図示は省略したが、アクチュエータ400は、駆動コイル420に駆動信号を印加するための端子および配線を備えており、駆動コイル420は永久磁石410には接触しないように設ける。
ヨーク430は、駆動コイル420の外側に配置される磁性体であり、それぞれ平板の、連続した第1部分431、第2部分432及び第3部分433からなり、断面は概ね、一辺が欠けた正方形の残り3辺の形状である。
【0092】
以上のような構成のアクチュエータ400においては、永久磁石410の中心に垂直な平面上における、永久磁石410の中心からヨーク430までの距離が、永久磁石410の中心から見た方向によって異なるように、ヨーク430が設けられている。すなわち、永久磁石410から見た方向によって、永久磁石410からヨーク430までが近い箇所と、遠い箇所とがある。ヨーク430がない、正方形の欠けた一辺の方角は、永久磁石410からヨーク430までの距離が無限であると考えることができる。
【0093】
ヨーク430をこのように設けると、駆動コイル420に電圧を印加していない状態では、永久磁石410のN極410nとS極410sが、磁力によりそれぞれヨーク430までの距離が最も近い向きを向いて止まる。両極が共に「最も近い向き」を向けない場合には、適宜なつり合い位置を向いて止まる。
【0094】
図14の例では、N極410nとS極410sの一方が第1部分431の中心付近を、他方が第2部分432の中心付近を向いて止まる。このような位置を、「中立位置」と呼ぶことにする。そして、駆動コイル420への電圧印加により永久磁石410がこの位置から多少回転しても、電圧の印加をやめれば、永久磁石410は中立位置に戻る。この意味で、アクチュエータ400には、永久磁石410を中立位置に戻す復元力が働いている、ということができる。すなわち、ヨーク430との組み合わせにより、永久磁石410は、中立位置が自然状態であるばねのように振る舞う、ということができる。
【0095】
アクチュエータ400は、この復元力を利用して永久磁石410及びミラー401に往復回転運動をさせることにより、復元力の発生しない構成の、通常のガルバノミラーと比べ、特定の駆動周波数で駆動すれば、例えば、アクチュエータの可動部の共振周波数またはその近い周波数で駆動すれば、低消費電力で高速な走査を可能としている。
なお、永久磁石410から第3部分433までの距離は、第1部分431あるいは第2部分432までの距離より遠いことが好ましい。永久磁石410から第3部分433までの距離が近くても、一方の極が第3部分433側を向くと、他方の極に対向するヨークがないため、この向きは中立位置とはならないが、局所的に、永久磁石410の向きと復元力の強さとの関係に大きな乱れが発生し得るためである。
【0096】
次に、図17及び図18の説明図を用いて、アクチュエータ400が行う往復回転運動の原理について説明する。
図17及び図18は、永久磁石410に垂直な平面での、永久磁石410、駆動コイル420及びヨーク430の断面をミラー401側から見た状態を、模式的に示している。ただし、断面のハッチングは省略し、ヨーク430は、中立位置の形成に関与する第1部分431及び第2部分432のみを示している。また、符号B及びB′の矢印は、各状態で永久磁石410が発生させる磁力線の向きの代表を示す。符号F及びF′の矢印は、各状態で永久磁石410に与えられる力の向きを示す。いずれも、矢印の長さは必ずしも力の大きさとは対応しない。
【0097】
アクチュエータ400において、駆動コイル420に電圧を印加していない状態でしばらくおくと、永久磁石410は、図17(a)及び図18(a)に示す中立位置まで回転して停止する。なお、N極410nとS極410sの位置が図17(a)及び図18(a)の状態と反対の、N極410nが第1部分431と対向する位置も中立位置であり、こちらの場合でも同様な往復回転運動が可能であるが、ここでは、図17(a)の位置が中立位置であるとして説明を進める。
【0098】
図17(a)の状態から駆動コイル420に電圧を印加し、図17(b)に示すように、第1部分421に、紙面の手前から奥に向かう電流iを、第2部分422に、これと反対の奥から手前に向かう電流−iを、それぞれ流した状態を考える。
この状態では、第1部分421の周囲には時計回りの、第2部分422の周囲には反時計回りの磁界が形成され、永久磁石410の付近には、磁力線が図で下から上へ向かう磁界が形成される。永久磁石410は、この磁界からN極410nが上を向く方向への力を受け、時計回りに回転する。この力は、永久磁石410が発生させる磁界内で駆動コイル420に電流を流したことにより生じるローレンツ力の反作用であると考えることができる。
そして、ある程度回転した図17(c)の状態で駆動コイル420への電圧印加を停止すると、永久磁石410は、各極とヨーク430との間に発生する磁力により、図17(a)の自然状態に戻る。
【0099】
また、図18(b)のように、駆動コイル420に対し、図17(b)の場合と反対向きの電圧を印加し、反対向きに電流を流すと、永久磁石410の付近には、磁力線が図で上から下へ向かう磁界が形成される。永久磁石410は、この磁界からN極410nが下を向く方向への力を受け、反時計回りに回転する。
ある程度回転した図18(c)の状態で駆動コイル420への電圧印加を停止すると、永久磁石410は、各極とヨーク430との間に発生する磁力により、図18(a)の自然状態(図17(a)と同じ状態)に戻る。
【0100】
駆動コイル420に対して周期的に電圧又は電流が変化する駆動信号を印加して、以上の過程を繰り返すことにより、アクチュエータ400は、永久磁石410及びミラー401に往復回転運動(揺動)をさせることができる。
回転運動の範囲は自然状態に対して対称であってもよいし、対称でなくてもよい。例えば、駆動コイル420に印加する電圧のオンオフを周期的に切り換えることにより、中立位置付近の位置を一端とする所定範囲での揺動を行うこともできる。駆動コイル420に印加する電圧又は電流を、適宜な範囲で周期的に変化させることにより、任意の揺動範囲で、ミラー401を揺動させることができる。
【0101】
この場合において、揺動範囲の端部で永久磁石410を停止させる際には、エネルギーを投じてブレーキをかける必要がなく、単に駆動コイル420への電圧印加を止めるだけでよい。また、そこから永久磁石410を揺動範囲の端部から中立位置へ戻す際にも、電圧を印加する必要がない。その分、永久磁石410を中立位置から揺動範囲の端部まで回転させる際には、中立位置への復元力に抗するだけの電圧を駆動コイル420に印加する必要があるが、この点を加味しても、アクチュエータ400は、復元力がないガルバノミラーに比べ、少ない消費電力で永久磁石410及びミラー401を揺動させることができる。
【0102】
なお、揺動に際して永久磁石410の回転角が大きくなりすぎると、電圧印加を停止した際に、永久磁石410が元の中立位置に戻らず、N極410nとS極410sが入れ替わった中立位置に移行してしまう可能性がある。従って、揺動範囲はあまり大きくしないことが好ましい。図17及び図18の例では、初めの中立位置から±90°以上回転させるべきではない。
【0103】
また、自然状態からの変位が大きくなると、それにつれてエネルギー効率が低下するという問題もある。これは、変位が大きくなると、各極が、自然状態で対向していた導線だけでなく、反対側の導線からの影響も受けるようになるためである。反対側の導線には、自然状態で対向していた導線とは逆向きの電流が流れているため、この影響は回転に対するブレーキになる。
これらの観点から、回転運動の範囲が自然状態に対して対称であると、揺動範囲を広く取りつつ、高いエネルギー効率が得られ、好ましい。
【0104】
以上説明してきたアクチュエータ400において、永久磁石410を円柱状としていたが、永久磁石の形状はこれに限られない。円柱状であると、対称性が高いため、回転の安定性を高めることができるが、ベアリングやホルダ等を適切な形状として回転可能に保持できるのであれば、円柱状である必要はない。例えば、角柱状であってもよい。また、円柱や角柱といった場合にも、底面のサイズに比べて高さが大きい棒状だけでなく、例えば高さよりも底面の直径が大きい、円盤状の形状も取り得る。また、高さ方向の位置によって断面積が異なる、例えば中央部付近の断面積が大きい樽状の形状や、逆に端部付近の断面積が大きい形状であることも、妨げられない。
【0105】
ここで、永久磁石を角柱状としたアクチュエータ400′の構成を、図19乃至図21に示す。図19乃至図21はそれぞれ、アクチュエータ400の構成を示す、図14乃至16と対応する斜視図又は分解斜視図である。図19乃至図21において、アクチュエータ400と同じ部分には、図14乃至図16と同じ符号を付している。
このアクチュエータ400′では、永久磁石410′は四角柱であり、回転軸に垂直な平面での断面形状が長方形である(図22参照)。また、これに対応して、永久磁石410′を嵌め込むミラーホルダ402′の薄肉部402b′及び磁石ホルダ406′の磁石保持部406a′の形状も、断面を長方形状としている。他の部分は、アクチュエータ400と同じである。ミラーホルダ402′のミラー保持部402a及び磁石ホルダ406′のベアリング接続部406bも、アクチュエータ400の場合と同じ形状である。
【0106】
以上のように断面が長方形状の永久磁石410′でも、アクチュエータ400の永久磁石410の場合と同様、N極410n′及びS極401s′とヨーク430との間に発生する磁力により、中立位置を持つことができる。また、永久磁石410′は、駆動コイル420に流れる電流により生じる磁界により、回転する方向の力を受け、駆動コイル420に流れる電流がなくなると、中立位置に戻る点も、アクチュエータ400の場合と同様。図22に、図18と対応する例を用いて、アクチュエータ400′において永久磁石410′が受ける力を示す。
【0107】
次に、ヨーク430の形状の変形例について説明する。
ヨーク430の形状も、図13及び図14に示したものに限られない。例えば、アクチュエータ400において、図23A乃至図23Cに示す形状も採用可能である。図23A乃至図23Cでは、永久磁石410に垂直な平面でのヨークの断面形状を、永久磁石410及び、駆動コイル420の第1部分421及び第2部分422の断面形状と合わせて模式的に示している。
なお、アクチュエータ400′においても同様な形状を採用可能であり、この場合の構成例を図24A乃至図24Cに示す。しかし、各形状のヨークの機能は、アクチュエータ400の場合と同様であるので、代表として図23A乃至図23Cを参照しつつ説明する。
【0108】
図23Aに示すヨーク440は、ヨーク430と同様に一方側が空いた形状であるが、ヨーク430と異なり、第2部分432に当たる図で下側の部分が曲面状の曲面部443になっている。ヨークはこのように曲面を含む形状であってもよい。
図23Bに示すヨーク450は、断面が長方形状で、永久磁石410の全周を覆う形状である(ただし長手方向端部を覆う必要はない)。このように全周を覆ったとしても、ヨーク450に、永久磁石410の中心から近い部分(第1部分451及び第2部分452)と、遠い部分(その他の部分)とを作り、当該近い部分同士が対向する配置にすれば、永久磁石410の両磁極がそれぞれ当該近い部分を向く位置が中立位置となり、図13乃至図18を用いて説明したものと同様な永久磁石410の往復回転運動が可能である。
【0109】
図23Cに示すヨーク460も、断面が楕円形状で、永久磁石410の全周を覆う形状である。このように、ヨーク460の全体が連続する曲面で構成されていても、永久磁石410の中心から近い部分(符号461,462で示す部分)と遠い部分(その他の部分)とを作り、当該近い部分同士が対向する配置にすれば、図23Bの場合と同様に、永久磁石410の往復回転運動が可能である。ただし、駆動コイル420をヨーク430に固定する工程の容易さの観点からは、ヨーク450のように平面部分に駆動コイル420を固定できる配置の方が好ましい。
【0110】
なお、最低限、図17の第1部分431と第2部分432だけあれば、永久磁石410の中立位置を形成し、図13乃至図18を用いて説明したものと同様な永久磁石410の往復回転運動が可能である。第1部分431と第2部分432の幅は狭いものでも構わない。しかし、永久磁石410の周囲をなるべく広く覆った方が、閉磁路を形成して永久磁石410の磁力を効率よく回転運動に利用する観点からは好ましい。ヨーク450及びヨーク460は、この観点から、永久磁石410の全周を覆う形状としたものである。
しかし、永久磁石410の全周を覆ってしまうと、永久磁石410の磁極は、全ての方向に引き寄せられるため、中立位置に向かう復元力が弱くなってしまう。この観点からは、ヨーク430やヨーク440のように1方向を空けた構成の方が、中立位置への復元力を強くすることができ、好ましいといえる。
【0111】
なお、例えば、図23Bにおいて、永久磁石410の中心からヨーク450の第1部分451までの距離と第2部分452までの距離とが異なっていても、永久磁石410の中立位置が定まるのであれば、図13乃至図18を用いて説明したものと同様な永久磁石410の往復回転運動は可能である。
また、図23Aにおいて、永久磁石410の中心からヨーク440の第1部分441及び第2部分442までの距離よりも、曲面部443までの距離の方が近かったとしても、曲面部443の反対側にヨークがないため、全体として、永久磁石410の両磁極がそれぞれ第1部分441及び第2部分442を向く方向で安定し、その位置が中立位置となることも考えられる。このように、中立位置において、永久磁石410の磁極が、ヨーク440と最も近い側を向かないケースでも、安定した中立位置があれば、図13乃至図18を用いて説明したものと同様な永久磁石410の往復回転運動は可能である。
【0112】
しかし、中立位置において、永久磁石410の中心からヨークまでの距離が、N極410n側とS極410s側とで等しく、かつ、両磁極が、永久磁石410の中心からヨークまでの距離が最も近い向きを向くようにヨーク440の形状及び配置を定めると、永久磁石410の回転運動の途中で、永久磁石410の向きと復元力の強さとの関係に大きな乱れが生じてしまうことがなく、永久磁石410の回転の安定性の観点から好ましい。
【0113】
また、中立位置に関し、1つの中立位置があったときに、その位置から永久磁石410を180°回転させた、N極とS極が入れ替わった位置も、中立位置となる。しかし、それら2つ以外にも中立位置があることは、望ましくない。一の中立位置から、他の中立位置に近い位置まで永久磁石410を回転させてしまうと、永久磁石410が元の中立位置に戻らないため、中立位置が2組以上あると、往復回転運動の範囲を大きく取れないためである。例えば、ヨークの断面が正方形状であり、その中心が永久磁石410の中心と一致していると、90°毎に4つの中立位置が生じることになる。このような構成でも、±45°未満の往復回転運動であれば、図13乃至図18を用いて説明したものと同様に可能であるが、中立位置が2つのみである場合と比べ、運動可能な範囲は狭くなってしまう。
【0114】
また、駆動コイル420に関し、第1部分421と第2部分422は、中立位置において永久磁石410の磁極からなるべく近い位置にあることが好ましい。これらの部分に流れる電流による磁界の影響を、永久磁石410に強く及ぼすためである。そうすると、第1部分421と第2部分422は、永久磁石410から見て背後にヨークがある位置に配置することになり、この配置は、駆動コイル420をヨークに強固に固定することにも資する。
【0115】
〔5.主走査方向の走査位置に応じたビームの点灯間隔の制御(図25乃至図30)〕
次に、出射光L2の主走査方向の走査位置に応じた、ビームの点灯間隔の制御について説明する。
ここで説明する制御は、走査部30にアクチュエータ300を用いた場合に適用する制御である。この場合、主走査方向の走査位置は、アクチュエータ300におけるミラーユニット301(特にそのうち第1ミラー301a)の向きと対応するので、ここで説明する制御は、ミラーユニット301の向きに応じた制御でもある。
【0116】
まず、アクチュエータ300によるミラーユニット301の揺動動作の特徴について、図25乃至図27を用いて説明する。
図25は、ミラーユニット301の走査角と走査角速度の絶対値との関係を示すグラフ、図26は、LDモジュール21の駆動信号の例を示す図、図27は、走査線上に形成される出射光L2によるスポットの例を示す図である。
【0117】
発明者らの実験により、アクチュエータ300により揺動されるミラーユニット301の移動速度は一定ではないことがわかっている。ミラーユニット301は揺動経路の端部では停止し、他の部分では動いているので、移動速度に変動があるのは明らかだが、その速度は、図25に示すように、概ね揺動経路の端部に行くほど遅く、中央部に行くほど速くなっている。反時計回りに回転する際も時計回りに回転する際も、移動の向きが異なるのみで、同じ位置であれば速さはほぼ等しい。
【0118】
そこで、図25では、揺動経路上の位置(回転角により表現し、「走査角」と呼ぶことにする)を横軸に、その位置での角速度の絶対値を縦軸に取って速度の変化を図示している。
このようにミラーユニット301の回転速度に変動があるため、図26に示すような等間隔のパルスを有する駆動信号drv1によりLDモジュール21を駆動すると、走査線71上には、図27に示すような出射光L2のスポット72が形成されることになる。すなわち、主走査方向の中央部では粗く、端部では細かく分布するスポットが形成される。このため、物体の検出分解能も、中央部では端部よりも粗くなってしまう。
【0119】
物体検出装置10の用途として障害物の検出を考えた場合、視野の中央付近の重要度が最も高いと考えられるため、この状態は好ましくない。
そこで、物体検出装置10には、ミラーユニット301の走査角に応じてLDモジュール21の駆動信号のパルスの間隔を制御するための制御回路を設けている。
【0120】
図28に、その制御回路の構成を示す。
図28に示す制御回路351は、周期制御部に該当し、大きく分けて、駆動コイル316の駆動制御、ミラーユニット301の回転速度の検出、及びLDモジュール21の点灯間隔の制御に関する動作を行う。
【0121】
まず、駆動コイル316の駆動制御については、制御回路351は、駆動コイル316へ印加する駆動信号353を生成する駆動信号生成回路352に対し、アクチュエータ300に実行させる走査の範囲や周期の値を設定する。駆動信号生成回路352は、その設定された値に従い、適当な周期で変動する電圧の、適当なレベルの駆動信号353を生成してアクチュエータ300の駆動コイル316に印加する。このことにより、図9等を用いて説明したように、アクチュエータ300にミラーユニット301を揺動させることができる。
【0122】
次に、ミラーユニット301の回転速度の検出については、検出回路354が、アクチュエータ300のセンシングコイル317に生じる誘導電圧を検出し、ADC(アナログデジタルコンバータ)355がリアルタイムでその電圧をデジタル値に変換し、その値を差分算出部357によって補正して制御回路351に供給する。制御回路351は、その電圧値に基づき、ミラーユニット301の回転速度を算出する。センシングコイル317の巻数は、駆動コイル316と同じで、駆動コイル316と逆巻きにするとよいが、これに限られることはない。
【0123】
ここで、ミラーユニット301を揺動させる際、センシングコイル317には、2種類の要因による誘導起電力が発生する。
1つめの要因は、駆動コイル316に印加される駆動信号の電圧変動によって駆動コイル316が発生する磁界の強さ及び向きが変動することによる誘導起電力である。
2つ目の要因は、永久磁石321が揺動することによって生じる磁界の強さの変動による誘導起電力である。永久磁石321が図9等を用いて説明したように揺動する場合、それによってセンシングコイル317内に生じる磁界の強さの変動速度は、概ね永久磁石321の回転角速度に比例すると考えることができる。永久磁石321の回転角速度は、すなわちミラーユニット301の回転角速度でもあるので、2つめの要因で生じる誘導起電力の強さは、ミラーユニット301の回転角速度に比例すると考えることができる。
【0124】
相互誘導電圧パターン記憶部356及び差分算出部357は、以上のうち1つめの要因による誘導起電力分の値をADC355の出力から差し引くために設けたものである。
すなわち、相互誘導電圧パターン記憶部356は、アクチュエータ300において、永久磁石321を取り外した状態で駆動信号を駆動コイル316に印加した場合に相互誘導によりセンシングコイル317に生じる誘導電圧の電圧値の推移を、駆動信号の1周期分、駆動信号の位相と対応付けて記憶している。そして、駆動信号生成回路352は、ミラーユニット301を揺動させるために駆動信号を駆動コイル316に印加する際、相互誘導電圧パターン記憶部356に対し、駆動信号の位相を示すタイミング信号を供給する。相互誘導電圧パターン記憶部356は、このタイミング信号に基づき、現在のタイミングと対応する電圧値を、差分算出部357へ供給する。
【0125】
差分算出部357は、ADC355から供給される、実際にセンシングコイル317に生じている誘導電圧の値から、相互誘導電圧パターン記憶部356から供給される電圧値を、相互誘導の寄与分として減算し、その結果の差分を制御回路351へ供給する。
以上により、制御回路351へ、ミラーユニット301の回転角速度に比例した誘導電圧の値を供給することができる。制御回路351へ供給される誘導電圧の変化を、ミラーユニット301の揺動範囲の一端から他端まで半周期分の時間を横軸に取ってプロットすると、グラフ361に示すように、図25に示した回転角速度のグラフと概ね同様な形状になると考えられる。
【0126】
制御回路351は、時刻tにおいて差分算出部357から供給される電圧値VR(t)に、予め求めて設定された比例定数Kを乗じて、ミラーユニット301の角速度ω(t)を、ω(t)=K×VR(t)により求める。
Kの値は、例えば、半周期分のミラーユニット301の回転角を他の手段で計測した値と、半周期分の電圧値VR(t)の積分値とを比較することにより求められる。
【0127】
また、制御回路351は、ω(t)を用いて、主走査方向の走査線71a上で所望の分解能が得られるようにLDモジュール21を点灯させるための点灯間隔Tを求めることができる。分解能をψ度とすると、T=π・(ψ/180)/ω(t)である。
制御回路351は、LDモジュール21の点灯間隔の制御を行うため、差分算出部357からの電圧値VR(t)の供給に応じて、リアルタイムで点灯間隔Tを求め、そのTの値を示すパルス幅変調信号をパルス発生器358へ供給する。
【0128】
パルス発生器358は、そのパルス幅変調信号に従ってパルス幅変調を行い、間隔Tのパルスを有するタイミング信号を生成してレーザ駆動回路22に供給する。レーザ駆動回路22は、パルス発生器358から供給されるタイミング信号に含まれるパルスのタイミングでLDモジュール21を点灯させる駆動信号を生成して、LDモジュール21へ供給する。
【0129】
制御回路351がパルス発生器358へ供給するパルス間隔を、グラフ361と同様に時間を横軸に取ってミラーユニット301の揺動範囲の一端から他端までの期間について示すと、グラフ362のようになる。すなわち、制御回路351は、センシングコイル317に発生する誘導電圧に応じて、ミラーユニット301が揺動経路の中央付近にあってその誘導電圧が高いレベル(第1レベル)である場合に、ミラーユニット301が揺動経路の端部付近にあってその誘導電圧が低いレベル(第2レベル)である場合に比べて、LDモジュール21の点滅周期を短くするような制御を行っていることになる。
【0130】
その結果、レーザ駆動回路22が生成するLDモジュール21の駆動信号は、図29に示すdrv2のように、ミラーユニット301の移動速度に応じて異なるパルス間隔のものになる。そして、このように点灯制御されたレーザビームL1をミラーユニット301で偏向して得られるビームスポット72は、図30に示すように、主走査方向の走査線71a上に、その全長に亘って概ね等間隔で配列されることになる。そして、このことにより、物体検出装置10は、物体の検出を、その視野70内において概ね均等な分解能で行うことができる。
副走査方向については、主走査方向の1ライン分の走査を行う間ミラー381を静止させているため、上述のような問題は起こらず、点灯間隔の調整は不要である。
【0131】
なお、上述した制御回路351は、プロセッサ53の一部として設けても、プロセッサ53と別に設けてもよい。また、制御回路351の機能は、専用のハードウエアによって実現しても、汎用のプロセッサにソフトウエアを実行させることにより実現しても、それらの組み合わせでもよい。
また、図28では、センシングコイル317に生じる誘導電圧の電圧値に基づき制御を行う例について説明したが、誘導電流の電流値を用いても、同様な制御が可能である。
【0132】
〔6.主走査方向の走査位置に応じたビームの点灯間隔の制御の別例(図31及び図32)〕
次に、出射光L2の主走査方向の走査位置に応じた、ビームの点灯間隔の制御の別の例について説明する。
ここで説明する制御は、走査部30にアクチュエータ400を用いた場合に適用する制御である。アクチュエータ400′を用いた場合にも同様な制御を適用可能である。この制御は、基本的な考え方は図25乃至図30を用いて説明した制御と同じであり、ミラー401の走査位置あるいは角度を検出する方法が主に異なるので、この点を中心に説明する。
【0133】
図31は、ビームの点灯間隔の制御を行う場合の、アクチュエータ400の変形例であるアクチュエータ400″の構成を示す、図14と対応する斜視図である。
アクチュエータ400″においては、ミラー401″の先端側(永久磁石410と反対側)端部の中央付近に切り欠き部を設け、ここに検知用磁石481を固定している。検知用磁石481は、ミラー401″の回転軸404がその中心を通るように配置している。
【0134】
また、アクチュエータ400″は、検知用磁石481と対向する位置に、磁気センサ482を備える。磁気センサ482は、周囲の磁界の方向により抵抗値が変化する磁気抵抗素子を備え、周囲の磁界の方向に応じた電流又は電圧の信号を出力する磁気抵抗センサ(MRセンサ)である。この磁気センサ482を検知用磁石481の近くに配置することにより、検知用磁石481が発生させる磁界の向き、すなわち検知用磁石481の向きに応じた電流又は電圧の信号を出力することができる。
【0135】
磁気抵抗素子(MR素子)としては、異方性磁気抵抗素子(AMR素子)、巨大磁気抵抗素子(GMR素子)、トンネル磁気抵抗素子(TMR素子)など、種々のものを用いることができる。これらのMR素子は、磁界の強さに依存せずに磁界の向きを高精度に検出でき、ミラー401″の回転速度の検出に適している。この磁気センサ482は、ホルダ等を用いてアクチュエータ400″に固定してもよいが、アクチュエータ400″との間で位置決めして走査部30の構造体に固定したり、物体検出装置10の構造体に固定したりすることも考えられる。
【0136】
図32は、ビームの点灯間隔の制御を行う制御回路の構成を示す図である。図28と共通する部分には同じ符号を用いた。
図32に示す制御回路471は、周期制御部に該当し、大きく分けて、駆動コイル420の駆動制御、ミラー401″の回転速度の検出、及びLDモジュール21の点灯間隔の制御に関する動作を行う。
【0137】
まず、駆動コイル420の駆動制御については、制御回路471は、駆動コイル420へ印加する駆動信号473を生成する駆動信号生成回路472に対し、アクチュエータ400″に実行させる走査の範囲や周期の値を設定する。駆動信号生成回路472は、その設定された値に従い、適当な周期で変動する電圧の、適当なレベルの駆動信号473を生成してアクチュエータ400″の駆動コイル420に印加する。このことにより、図17及び図18等を用いて説明したように、永久磁石410を回転させ、アクチュエータ400″にミラー401″を揺動させることができる。このとき、検知用磁石481もミラー401″と共に揺動する。
【0138】
次に、ミラー401″の回転速度の検出については、磁気センサ482が検知用磁石481の向きをリアルタイムで検出し、その向きに応じた電流又は電圧の信号を出力する。ADC(アナログデジタルコンバータ)483は、磁気センサ482が出力する信号をリアルタイムでデジタル値に変換し、走査速度演算回路484に供給する。走査速度演算回路484は、予め格納しておいた、磁気センサ482の信号レベルと検知用磁石481との角度との対応関係に基づき、ADC483から供給される信号を検知用磁石481の角度に換算した上で、その時間変化から、検知用磁石481の回転角速度、すなわちミラー401″の回転角速度(走査速度)を求め、制御回路471へ供給する。
制御回路471へ供給される走査速度の変化を、ミラー401″の揺動範囲の一端から他端まで半周期分の時間を横軸に取ってプロットすると、グラフ491に示すように、図25に示した回転角速度のグラフと概ね同様な形状になると考えられる。
【0139】
制御回路471は、ADC483から供給される各時刻tのミラー401″の角速度ω(t)を用いて、主走査方向の走査線71a上で所望の分解能が得られるようにLDモジュール21を点灯させるための点灯間隔Tを求める。分解能をψ度とすると、T=π・(ψ/180)/ω(t)である。例えばψ=0.1とすることが考えられる。
制御回路471は、LDモジュール21の点灯間隔の制御を行うため、ADC483からの角速度ω(t)の供給に応じて、リアルタイムで点灯間隔Tを求め、そのTの値を示すパルス幅変調信号をパルス発生器358へ供給する。
【0140】
パルス発生器358の機能は、図28の場合と同じである。また、制御回路471がパルス発生器358へ供給するパルス間隔も、図28の場合と同様、グラフ362のようになる。これは、アクチュエータ400″も、アクチュエータ300と同様、中立位置への復元力を有する系を用いてミラーを往復回転運動させていることから、走査位置と走査速度との関係がアクチュエータ300の場合と似ているためである。
従って、図31及び図32の構成によっても、図28の場合と同様、ビームスポット72を、主走査方向の走査線71a上に、その全長に亘って概ね等間隔で配列することができる。
【0141】
なお、磁気センサ482としては、センシングコイルやホール素子を用いることもできる。また、検出用磁石481を、ミラー401″の端部中央付近に設けることも必須ではなく、磁気センサ482で磁力の変化を検出可能な位置であれば、任意の位置に設けることができる。ただし、検出精度を高めるためには、磁石410側でないことが好ましい。
また、磁気センサ482に代えて、ミラー401″あるいはミラー401″上に設けたマーカの位置を光学的に検出することにより、ミラー401″の角度を検出することも考えられる。この場合、検出用磁石481は不要である。
【0142】
〔7.その他の変形例〕
以上で実施形態の説明を終了するが、この発明において、装置の具体的な構成、具体的な動作の手順、部品の具体的な形状等は、実施形態で説明したものに限るものではない。
また、以上の各項目において説明した特徴は、それぞれ独立して装置やシステムに適用し得るものである。特に、アクチュエータ300、アクチュエータ400、可動子320等は、単独で部品としても流通し得るものである。また、その用途も、物体検出装置に限られない。
また、上述した物体検出装置10は、人の手のひらに載る程度のサイズで構成可能であり、自動車やドローンなどの移動体に搭載して、自動運転のための障害物検出装置として用いるために好適なものであるが、その利用目的はこれに限られない。柱や壁等に固定して、定点観測に用いることもできる。
【0143】
また、この発明のプログラムの実施形態は、1のコンピュータに、あるいは複数のコンピュータを協働させて、所要のハードウエアを制御させ、上述した実施形態における物体検出装置10における、LDモジュール21の発光タイミング調整機能を含む機能を実現させ、あるいは上述した実施形態にて説明した処理を実行させるためのプログラムである。
【0144】
このようなプログラムは、はじめからコンピュータに備えるROMや他の不揮発性記憶媒体(フラッシュメモリ,EEPROM等)などに格納しておいてもよい。メモリカード、CD、DVD、ブルーレイディスク等の任意の不揮発性記録媒体に記録して提供することもできる。さらに、ネットワークに接続された外部装置からダウンロードし、コンピュータにインストールして実行させることも可能である。
【0145】
また、以上説明してきた実施形態及び変形例の構成が、相互に矛盾しない限り任意に組み合わせて実施可能であり、また、一部のみを取り出して実施することができることは、勿論である。
【符号の説明】
【0146】
10…物体検出装置、20…投光部、21…LDモジュール、22…レーザ駆動回路、23…投光光学系、30…走査部、31…ミラー、32…アクチュエータ、40…受光部、41,48…ミラー、42…集光レンズ、43…受光素子、44…アパーチャー、51…フロントエンド回路、52…TDC、53…プロセッサ、54…入出力部、61…トップカバー、62…リアカバー、63…カバークリップ、64…保護材、70…視野、71…走査線、72…スポット、300,380,400,400′,400″…アクチュエータ、301…ミラーユニット、301a…第1ミラー、301b…第2ミラー、301a1…第1反射面、301b1…第2反射面、302…ねじりばね、304,384,404…回転軸、311…コアヨーク、312…枠ヨーク、313…コイルアッセンブリ、314…トップヨーク、315…ねじ、316…駆動コイル、317…センシングコイル、320…可動子、321…永久磁石、321s…S極、321n…N極、381,401,401″…ミラー、382…軸、383…ホルダ、402,402′…ミラーホルダ、403,405…ベアリング、406,406′…磁石ホルダ、410,410′…永久磁石、410s…S極、410n…N極、420…駆動コイル、421,422…駆動コイルの第1,第2部分、423,424…駆動コイルの第1,第2接続部、430,440,450,460…ヨーク、431〜433…ヨーク430の第1〜第3部分、441〜442…ヨーク440の第1〜第2部分、451〜452…ヨーク450の第1〜第2部分、481…検知用磁石、482…磁気センサ、L1…レーザビーム、L2…出射光、L3,L4…戻り光
【要約】
【課題】光ビームの投光方向を周期的に変動させる走査を、低消費電力かつ耐久性の高い構成で実現する。
【解決手段】アクチュエータに、支持部材であるトップヨーク314に固定されたねじりばね302と、N極321とS極321sとがねじりばね302の回転軸304を挟むように位置する永久磁石321と、駆動コイル316と、駆動コイル316に周期的に電圧又は電流が変化する駆動信号を印加する駆動部と、ねじりばね302の中央付近に位置する第1ミラー301aと第1ミラー301aの周囲に位置し第1ミラー301aと平行な第2ミラー301bとを備えるミラーユニット301とを設けた。第1ミラー301aの反射面を含む平面よりも第2ミラー301bの反射面を含む平面の方がねじりばね302の回転軸304に近い位置にあり、ミラーユニット301が、上記駆動信号の印加に応じて往復運動をする。
【選択図】 図9
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図23A
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図24A
図24B
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図32