【文献】
松本英輝,電気泳動堆積法による炭化ケイ素繊維の炭素被覆と炭化ケイ素/炭化ケイ素複合材料の作製,日本セラミックス協会シンポジウム講演予稿集,日本,日本セラミックス協会,2004年 9月17日,339頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
潤滑性物質が分散している懸濁液中において、導電性ポリマーで被覆された無機繊維と対極とを対向させ、前記無機繊維と前記対極との間に電場を印加することにより、前記無機繊維に潤滑性物質を被覆する工程と、
前記無機繊維に潤滑性物質を被覆する工程の前に、酸化剤及びドープ剤を溶解した水溶液中に前記無機繊維を浸漬した後に、当該水溶液中にモノマーを添加して、前記導電性ポリマーを被覆する工程と、を含む、表面被覆無機繊維の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の適用した一実施形態である表面被覆無機繊維及びその製造方法、並びに複合材料について詳細に説明する。
【0032】
<表面被覆無機繊維>
(第1の実施形態)
先ず、本発明を適用した第1の実施形態である表面被覆無機繊維について説明する。
第1の実施形態の表面被覆無機繊維は、低導電性の無機繊維と、潤滑性物質を含有する被覆層と、を備えて概略構成されている。
第1の実施形態の表面被覆無機繊維は、繊維表面全体に十分な量の潤滑性物質が均一に被覆されている。
【0033】
(無機繊維)
無機繊維は、材料に含有させることで、材料の機械的特性を向上させることができる。第1の実施形態で用いる無機繊維としては、低導電性の無機繊維であり、具体的には、例えば、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、ガラス繊維、ムライト繊維等が挙げられる。
【0034】
また、無機繊維の繊維径としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、繊維径が5〜150μmの無機繊維等を用いる事ができる。
また、無機繊維の繊維長としては、特に限定されない。
【0035】
(被覆層)
被覆層は、上述の無機繊維の表面を被覆するように設けられており、無機繊維を材料に含有する際は、界面層として機能する。界面層の働きにより、材料と無機繊維との界面に到達したき裂を偏向させることができるため、材料の機械的特性をより向上させることができる。
【0036】
また、被覆層は潤滑性物質を含有しており、潤滑性物質としては、後述のEPD法に用いる懸濁液が調製できるものであれば特に限定されないが、具体的には、例えば、カーボン、窒化ホウ素、リン酸ランタン等が挙げられる。
【0037】
また、潤滑性物質の形態としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、板状粒子等が好ましい。
【0038】
また、被覆層の厚さは、複合材料中において界面層として機能する際に、充分な潤滑性を発揮できる厚さであれば、特に限定されるものではない。具体的には、例えば、40〜1000nmの範囲であればよい。また、複合材料の耐酸化特性の観点からは、40〜100nmの範囲が好ましい。これにより、複合材料内への酸素の侵入を抑制することができる。
【0039】
ところで、上述したCVD法やCVI法といった従来の被覆方法では、100nm以下の厚さの被覆層を堆積させる際に、潤滑性物質が堆積した箇所と堆積しなかった箇所とで海島構造を形成してしまい、無機繊維の全方向全域に潤滑性物質を堆積させることが困難であった。そのため、従来法で作製した表面被覆無機繊維は、100nm以下の厚さの被覆層を備える場合、無機繊維の表面に被覆された潤滑性物質は海島構造を形成している。
【0040】
これに対して、本実施形態の表面被覆無機繊維は、被覆層が100nm以下の厚さであっても、無機繊維の表面に均一に潤滑性物質を被覆することができる。
【0041】
(第2の実施形態)
次に、本発明を適用した第2の実施形態である表面被覆無機繊維について説明する。
第2の実施形態の表面被覆無機繊維は、低導電性の無機繊維と、潤滑性物質を含有する被覆層と、無機繊維と被覆層との間に導電性ポリマー層と、を備えて概略構成されている。
第2の実施形態の表面被覆無機繊維は、第1の実施形態と同様に、繊維表面全体に十分な量の潤滑性物質が均一に被覆されている。
【0042】
なお、第2の実施形態の表面被覆無機繊維は、導電性ポリマー層を備えること以外は、第1の実施形態と同様であり、無機繊維と被覆層に関しては、上述した第1の実施形態と同様の構成であるため、説明を省略する。
【0043】
(導電性ポリマー層)
導電性ポリマー層は、無機繊維と被覆層との間に備えられており、低導電性の無機繊維に導電性を付与する働きをする。無機繊維に導電性を付与することで、後述するEPD法により、繊維表面全体に十分な量の潤滑性物質を均一に被覆させることができる。
【0044】
また、導電性ポリマー層を形成する導電性ポリマーとしては、無機繊維に導電性を付与することができるものであれば特に限定されないが、例えば、ポリアニリン系、ポリピロール系、ポリチオフェン系、ポリアセチレン系等のポリマーが挙げられる。
【0045】
また、導電性ポリマー層の厚さとしては、具体的には、例えば、50〜500nmであることが好ましい。50nm以上にすることで、潤滑性物質を均一に堆積させるために十分な導電性を無機繊維に付与することができる。
【0046】
<表面被覆無機繊維の製造方法>
次に、本実施形態の表面被覆無機繊維の製造方法について詳細に説明する。
本実施形態の表面被覆無機繊維の製造方法は、無機繊維を導電性ポリマーで被覆する工程(導電性ポリマー被覆工程)と、電気泳動堆積(EPD)法により無機繊維を潤滑性物質でさらに被覆する工程(電気泳動堆積工程)と、加熱により導電性ポリマーを除去する工程(加熱工程)と、を含む。
本実施形態の表面被覆無機繊維の製造方法は、低導電性の無機繊維の表面に、EPD法により潤滑性物質を堆積させて被覆するための方法である。
【0047】
(導電性ポリマー被覆工程)
導電性ポリマー被覆工程では、無機繊維を導電性ポリマーで被覆する。具体的には、先ず、酸化剤及びドープ剤を溶解した水溶液中に、無機繊維を浸漬する。次に、上記水溶液にモノマーを添加し、重合させる。その後、室温で乾燥することにより、導電性ポリマーで被覆された無機繊維を得ることができる。
【0048】
無機繊維及び導電性ポリマーとしては、上述した無機繊維及び導電性ポリマーを用いる事ができる。
【0049】
ポリマーを重合させるために添加するモノマーの量は、特に限定されるものではなく、無機繊維及び導電性ポリマーの種類や組合せ、並びに導電性ポリマー層の厚さに応じて適宜選択することができる。モノマーの添加量としては、具体的には、例えば、溶液中での濃度が、0.003〜0.015mol/Lとなるように添加するのが好ましい。0.003mol/L以上にすることで、導電性を付与するのに十分な厚さの導電性ポリマー層を形成することができる。一方、0.015mol/L以下にすることで、高い導電性を有する均一なポリマー層を形成することができる。
【0050】
ドープ剤を水中に溶解させることで、無機繊維に被覆した導電性ポリマー層にドープ剤を注入することができ、これにより導電性ポリマー層の導電性を上げることができる。
ドープ剤としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、2,6−ナフタレンスルホン酸ナトリウム、5-スルホイソフタル酸ナトリウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸、塩酸、硫酸等を用いる事ができる。
【0051】
また、ドープ剤の濃度としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、溶液中での濃度が、0.003〜0.015mol/Lとなるように添加することができる。
【0052】
酸化剤としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、塩化鉄(III)、ヨウ素酸カリウム等を用いる事ができる。
【0053】
また、酸化剤の濃度としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、溶液中での濃度が、0.003〜0.015mol/Lとなるように添加することができる。
【0054】
上述したドープ剤及び酸化剤は、被覆する導電性ポリマーの種類により、適宜選択することができる。例えば、被覆する導電性ポリマーがポリピロールの場合、ドープ剤として2,6−ナフタレンスルホン酸ナトリウム、酸化剤としてペルオキソ二硫酸アンモニウムを用いる事ができる。また、被覆する導電性ポリマーがポリアニリンの場合、ドープ剤として塩酸、酸化剤としてペルオキソ二硫酸アンモニウムを用いる事ができる。
【0055】
(電気泳動堆積工程)
電気泳動堆積工程では、上述した導電性ポリマー被覆工程により導電性ポリマーで被覆した無機繊維を、潤滑性物質でさらに被覆する。具体的には、先ず、導電性ポリマーで被覆した無機繊維を、潤滑性物質が分散した懸濁液に浸漬する。次に、潤滑性物質がマイナスに帯電している場合、導電性ポリマーで被覆した無機繊維を陽極とし、対極を陰極として電場を印加することにより、導電性ポリマーで被覆した無機繊維を、潤滑性物質でさらに被覆する。これに対して、潤滑性物質がプラスに帯電している場合、導電性ポリマーで被覆した無機繊維を陰極とし、対極を陽極として電場を印加することにより、導電性ポリマーで被覆した無機繊維を、潤滑性物質でさらに被覆してもよい。
【0056】
なお、本発明において、上記方法により無機繊維に潤滑性物質を被覆する方法を「電気泳動堆積(EPD)法」と記す。
【0057】
潤滑性物質としては、上述した潤滑性物質を用いる事ができる。
【0058】
懸濁液中の潤滑性物質の濃度としては、0.1〜0.5wt%が好ましい。0.1wt%以上にすることで、潤滑性物質を被覆した効果を得るのに十分な厚さの層を被覆させることができる。
【0059】
潤滑性物質を分散させる液体としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、水、エタノール、アセトン等を用いる事ができる。
【0060】
懸濁液に浸漬させる際の無機繊維の形態としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、無機繊維を一方向に並べて束にして、当該束を織り込んで作製した繊維プリフォーム等が挙げられる。
【0061】
対極としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、カーボン板、白金板、チタン板、ステンレス板等が挙げられる。
【0062】
EPD法を行う際の条件としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、水系懸濁液の場合には、泳動電圧3〜5V/cm、泳動時間60分以下で行う。EPD法により、懸濁液中において、マイナスに帯電した潤滑性物質を、陽極である無機繊維に堆積させることができる。これに対して、潤滑性物質をプラスに帯電させている場合は、無機繊維を陰極として用いることができる。
【0063】
ところで、CVI法によって無機繊維に潤滑性物質を被覆する場合には、例えば、室温から900〜1000℃に加熱し、10〜20時間蒸着処理し、その後、冷却を行う必要があった。このため、最低でも数十時間を要していた。
これに対して、EPD法を用いることにより、上述したように60分以下で無機繊維に潤滑性物質を被覆することができるため、被覆に要する時間を短縮することができる。
【0064】
(加熱工程)
加熱工程では、上述した電気泳動堆積工程により潤滑性物質で被覆した無機繊維を、加熱することにより、無機繊維に被覆した導電性ポリマー層を除去する。導電性ポリマー層の除去後は、被覆層が収縮することにより、被覆層が無機繊維と直接接触する。
【0065】
加熱温度としては、導電性ポリマー層を除去することができる温度であれば特に限定されないが、具体的には、例えば、300〜500℃程度で行う。
【0066】
なお、加熱工程は必須の工程ではなく、製造工程を簡略化するために省略することができる。
【0067】
<複合材料>
次に、本実施形態の複合材料について詳細に説明する。
本実施形態の複合材料は、低導電性の無機繊維と、無機繊維の表面を被覆する被覆層と、を備える複数の表面被覆無機繊維と、表面被覆無機繊維間を充填するマトリックス材料と、を含み、被覆層が無機繊維とマトリックス材料との界面に設けられた界面層を構成して概略構成されている。つまり、本実施形態の複合材料は、複数の上述した表面被覆無機繊維と、マトリックス材料と、界面層と、を含んで概略構成されている。
本実施形態の複合材料は、上述した表面被覆無機繊維を含むため、機械的特性に優れる。
【0068】
(マトリックス材料)
マトリックス材料としては、複数の表面被覆無機繊維間を充填することができるものであれば特に限定されないが、具体的には、例えば、炭化ケイ素、窒化ケイ素等の非酸化物や、酸化アルミニウム、ムライト等の酸化物が挙げられる。
【0069】
(界面層)
本実施形態の複合材料では、表面被覆無機繊維の被覆層が、マトリックス材料と界面を形成し、界面層として機能する。界面層の働きにより、マトリックス材料と無機繊維との界面に到達したき裂を偏向させることができるため、複合材料の機械的強度を向上することができる。
【0070】
<複合材料の製造方法>
次に、本実施形態の複合材料を製造するために用いられる製造方法について詳細に説明する。
具体的には、先ず、上述した表面被覆無機繊維の製造方法により製造した繊維プリフォームを、マトリックス材料が分散した水系懸濁液に浸漬する。次に、繊維プリフォームを陽極とし、カーボン板を陰極として、EPD法により、繊維間隔にマトリックス材料を含浸する。
【0071】
次に、マトリックス材料を含浸した繊維プリフォームと無機シートとを交互に積層し、脱脂後、ホットプレス焼結することにより、複合材料を製造する。
【0072】
マトリックス材料としては、上述したマトリックス材料を用いる事ができる。
【0073】
マトリックス材料を分散させる溶液としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、水、エタノール、アセトン等が挙げられる。
なお、上記溶液は、pHを調整したものであってもよい。
【0074】
無機シートとしては、特に限定されないが、具体的には、例えば、炭化ケイ素、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、ムライト等をテープキャスティングによりシート状にしたもの等が挙げられる。上記シートには、酸化アルミニウム、酸化イットリウム、炭酸カルシウム等の焼結助剤を含有させてもよい。
【0075】
なお、上述した複合材料の製造方法は一例であり、繊維プリフォームにマトリックス材料を含浸する方法は、EPD法による製造方法に限定されない。他の繊維プリフォームにマトリックス材料を含浸する方法としては、具体的には、例えば、CVI法、溶融含浸法、ポリマー溶液含浸−熱分解(PIP)法等が挙げられる。
【0076】
以上説明したように、本実施形態の表面被覆無機繊維によれば、低導電性の無機繊維と、無機繊維の表面を被覆する被覆層とを備え、被覆層が潤滑性物質を含む構成となっており、繊維表面全体に十分な量の潤滑性物質が均一に被覆された無機繊維を提供することができる。
【0077】
また、本実施形態の表面被覆無機繊維の製造方法によれば、潤滑性物質が分散している懸濁液中において、導電性ポリマーで被覆された無機繊維と対極とを対向させ、前記無機繊維と前記対極との間に電場を印加することにより、無機繊維に潤滑性物質を被覆する工程を含む構成となっている。そのため、繊維表面全体に十分な量の潤滑性物質が均一に被覆された無機繊維を製造することができる。さらに、短時間で無機繊維に潤滑性物質を被覆することができる。
【0078】
また、本実施形態の複合材料によれば、低導電性の無機繊維と、無機繊維の表面を被覆する被覆層と、を備える複数の表面被覆無機繊維と、表面被覆無機繊維間を充填するマトリックス材料とを含み、上記被覆層が無機繊維とマトリックス材料との界面に設けられた界面層を構成している。そのため、機械的特性に優れた複合材料を提供することができる。
【0079】
以上、この発明の実施形態について詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。例えば、上述した表面被覆無機繊維の製造方法では、電気泳動堆積工程の後に、加熱工程により、無機繊維に被覆した導電性ポリマー層を除去したが、加熱工程を行わなくても良い。これにより、製造工程を簡略化することができる。
【実施例】
【0080】
<導電性ポリマーで被覆された無機繊維の作製>
(実施例1)
先ず、蒸留水に、酸化剤としてペルオキソ二硫酸アンモニウム、ドープ剤として2,6−ナフタレンスルホン酸ナトリウムをそれぞれ0.01mol/Lとなるように溶解させた。次に、非晶質炭化ケイ素繊維を上記水溶液に浸漬し、その後、導電性ポリマーを被覆するためのモノマーとして、ピロールを0.01mol/Lとなるように添加した。重合時間は18時間とした。重合後、室温で乾燥した。以上の操作により、導電性ポリマー層としてポリピロール層を備えた無機繊維である、ポリピロール被覆炭化ケイ素繊維を得た。
【0081】
電界放射型走査型電子顕微鏡(S−4800、日立製作所製)により、炭化ケイ素繊維の表面に被覆したポリピロール被覆層の厚さを測定したところ、厚さは300〜500nmであった。
【0082】
<導電性ポリマー層の観察>
図1は、実施例1で作製したポリピロール被覆炭化ケイ素繊維の表面のSEM写真である。SEM写真は電界放射型走査型電子顕微鏡(S−4800、日立製作所製)により撮影した。
【0083】
図1より、ポリピロール被覆炭化ケイ素繊維の表面全体に均一にポリピロールが被覆されていることを確認した。
【0084】
<表面被覆無機繊維の作製>
(実施例2)
実施例1で作製したポリピロール被覆炭化ケイ素繊維を一方向に並べて束にして、繊維プリフォームを作製した。次に、潤滑性物質としてカーボン粒子を0.3wt%分散した水系懸濁液をpH10となるように調整し、この水系懸濁液中に上記繊維プリフォームを浸漬した。次に、対極としてカーボン板を用いて、繊維プリフォームを陽極、カーボン板を陰極とし、EPD法により、泳動電圧5〜6V/cm、泳動時間60分の条件で、炭化ケイ素繊維表面にカーボンを被覆した。以上の操作により、被覆層としてカーボンを含む層を備えた無機繊維である、カーボン被覆炭化ケイ素繊維を作製した。
【0085】
(実施例3)
繊維プリフォームを0.4wt%カーボン粒子水系懸濁液(pH10)に浸漬したこと以外は、実施例2と同様にしてカーボン被覆炭化ケイ素繊維を作製した。
【0086】
(実施例4)
繊維プリフォームを0.5wt%カーボン粒子水系懸濁液(pH10)に浸漬したこと以外は、実施例2と同様にしてカーボン被覆炭化ケイ素繊維を作製した。
【0087】
(比較例1)
ポリピロール等の導電性ポリマーを被覆していない炭化ケイ素繊維を一方向に並べて束にして、繊維プリフォームを作製した。次に、潤滑性物質としてカーボン粒子を0.3wt%分散した水系懸濁液をpH10となるように調整し、この水系懸濁液中に上記繊維プリフォームを浸漬した。次に、対極としてカーボン板を用いて、繊維プリフォームを陽極、カーボン板を陰極とし、EPD法により、泳動電圧5〜6V/cm、泳動時間60分の条件で、炭化ケイ素繊維表面にカーボンを被覆した。以上の操作により、被覆層としてカーボンを含む層を備えた無機繊維である、カーボン被覆炭化ケイ素繊維を作製した。
【0088】
<繊維表面の観察>
図2(a)、(b)は、それぞれ実施例2、比較例1で作製したカーボン被覆炭化ケイ素繊維の表面のSEM写真である。また、参考として
図2(c)に被覆層及び導電性ポリマーを被覆していない炭化ケイ素繊維の表面のSEM写真を示す。SEM写真は電界放射型走査型電子顕微鏡(S−4800、日立製作所製)により撮影した。
【0089】
比較例1で作製したカーボン被覆炭化ケイ素繊維では、繊維表面へのカーボン被覆が不十分であり、繊維がむき出しになっている箇所が多く見られるのに対し、実施例1で作製したカーボン被覆炭化ケイ素繊維では、繊維表面全体に均一にカーボン被覆が施されていることがわかる。以上の結果から、本発明の製造方法により、繊維表面全体に潤滑性物質であるカーボンを均一に被覆することができることを確認した。
【0090】
<被覆層厚さの測定>
表1に、実施例2〜4、比較例1で作製した各カーボン被覆炭化ケイ素繊維の被覆層厚さを示す。なお、カーボン被覆炭化ケイ素繊維の表面に被覆した被覆層の厚さは、電界放射型走査型電子顕微鏡(S−4800、日立製作所製)により測定した。
【0091】
実施例2の被覆層厚さが40〜100nmであるのに対し、比較例1の被覆層厚さが0〜50nmであることから、本発明の製造方法により、繊維表面全体に十分な量の潤滑性物質であるカーボンを被覆することができたことを確認した。また、実施例2〜4の被覆層厚さが順に、40〜100nm、50〜200nm、50〜400nmであることから、懸濁液中のカーボンの濃度が高くなると被覆層が厚くなることを確認した。
【0092】
【表1】
【0093】
<複合材料の作製>
(実施例5)
実施例2で作製したカーボン被覆炭化ケイ素繊維の繊維プリフォームを、マトリックス材料としてβ型炭化ケイ素及び酸化物(酸化アルミニウム、酸化イットリウム、炭酸カルシウム)が分散した水系懸濁液(pH10)に浸漬した。対極としてカーボン板を用い、繊維プリフォームを陽極、カーボン板を陰極とし、EPD法により、泳動電圧5V/cm、泳動時間60分の条件で、炭化ケイ素繊維間隙に炭化ケイ素マトリックスを含浸した。
【0094】
次に、炭化ケイ素マトリックス材料を含浸した繊維プリフォームと、テープキャスティングにより作製した酸化物(酸化アルミニウム、酸化イットリウム、炭酸カルシウム)含有炭化ケイ素シートと、を交互に積層し、脱脂後、1700
oCの温度でホットプレス焼結した。以上の操作により、1次元炭化ケイ素繊維強化炭化ケイ素基複合材料を作製した。
【0095】
(実施例6)
実施例3で作製したカーボン被覆炭化ケイ素繊維の繊維プリフォームを用いたこと以外は、実施例5と同様にして1次元炭化ケイ素繊維強化炭化ケイ素基複合材料を作製した。
【0096】
(実施例7)
実施例4で作製したカーボン被覆炭化ケイ素繊維の繊維プリフォームを用いたこと以外は、実施例5と同様にして1次元炭化ケイ素繊維強化炭化ケイ素基複合材料を作製した。
【0097】
(比較例2)
比較例1で作製したカーボン被覆炭化ケイ素繊維の繊維プリフォームを、マトリックス材料としてβ型炭化ケイ素及び酸化物(酸化アルミニウム、酸化イットリウム、炭酸カルシウム)が分散した水系懸濁液(pH10)に浸漬した。対極としてカーボン板を用い、繊維プリフォームを陽極、カーボン板を陰極とし、EPD法により、泳動電圧5V/cm、泳動時間60分の条件で、炭化ケイ素繊維間隙に炭化ケイ素マトリックスを含浸した。
【0098】
次に、炭化ケイ素マトリックス材料を含浸した繊維プリフォームと、テープキャスティングにより作製した酸化物(酸化アルミニウム、酸化イットリウム、炭酸カルシウム)含有炭化ケイ素シートと、を交互に積層し、脱脂後、1700
oCの温度でホットプレス焼結した、以上の操作により、1次元炭化ケイ素繊維強化炭化ケイ素基複合材料を作製した。
【0099】
<3点曲げ試験>
図3に、室温における、実施例5及び実施例7、比較例2で作製した1次元炭化ケイ素繊維強化炭化ケイ素基複合材料の、3点曲げ試験での荷重―クロスヘッド変位曲線を示す。また、表2に実施例5〜7、比較例2で作製した複合材料の、繊維含有率、曲げ強度、破壊エネルギーを示す。なお、3点曲げ強度の測定は、万能材料試験機(1185型、インストロン製)により行った。また、繊維含有率は、繊維の添加量と複合材の体積から求めた。
【0100】
図3より、室温での3点曲げ試験を行った結果、比較例2で作製した1次元炭化ケイ素繊維強化炭化ケイ素基複合材料では、脆性的な破壊挙動を示したのに対し、実施例5及び実施例7で作製した1次元炭化ケイ素繊維強化炭化ケイ素基複合材料では非脆性的な破壊挙動を示した。
【0101】
また、表2より、比較例2で作製した1次元炭化ケイ素繊維強化炭化ケイ素基複合材料の3点曲げ強度は110MPaであったのに対し、実施例5、実施例6、及び実施例7で作製した1次元炭化ケイ素繊維強化炭化ケイ素基複合材料は150〜190MPaであり、高い曲げ強度を示した。
【0102】
さらに、表2より、比較例2で作製した1次元炭化ケイ素繊維強化炭化ケイ素基複合材料の破壊エネルギーは420J/m
2であったのに対し、実施例5、実施例6、及び実施例7で作製した1次元炭化ケイ素繊維強化炭化ケイ素基複合材料では850〜1160J/m
2であり、2倍以上の値を示した。
以上の結果より、本発明の複合材料は機械的特性に優れることを確認した。
【0103】
【表2】
【0104】
<表面被覆無機繊維の作製>
(実施例8)
先ず、実施例1と同様の方法により、ポリピロール被覆炭化ケイ素繊維を得た。
次に、ポリピロール被覆炭化ケイ素繊維を一方向に並べて束にして、繊維プリフォームを作製した。次に、潤滑性物質として窒化ホウ素粒子を0.3wt%分散した水系懸濁液をpH10となるように調整し、この水系懸濁液中に上記繊維プリフォームを浸漬した。次に、対極としてカーボン板を用いて、繊維プリフォームを陽極、カーボン板を陰極とし、EPD法により、泳動電圧5〜6V/cm、泳動時間60分の条件で、炭化ケイ素繊維表面に窒化ホウ素を被覆した。以上の操作により、被覆層として窒化ホウ素を含む層を備えた無機繊維である、窒化ホウ素被覆炭化ケイ素繊維を作製した。
【0105】
(比較例3)
比較例3として、CVD法により炭化ケイ素繊維表面に窒化ホウ素を被覆した、窒化ホウ素被覆炭化ケイ素繊維(Hi-Nicalon、日本カーボン製)を用意した。
【0106】
<繊維表面の観察>
図4(a)、(b)は、それぞれ実施例8、比較例3で作製した窒化ホウ素被覆炭化ケイ素繊維の表面のSEM写真である。SEM写真は電界放射型走査型電子顕微鏡(S−4800、日立製作所製)により撮影した。
【0107】
比較例3で作製した窒化ホウ素被覆炭化ケイ素繊維の表面は凹凸がなく滑らかであるのに対し、実施例8で作製した窒化ホウ素被覆炭化ケイ素繊維の表面はうろこ状であった。この結果から、本発明で作製した窒化ホウ素被覆炭化ケイ素繊維とCVD法で作製した窒化ホウ素被覆炭化ケイ素繊維とでは、表面の形状が全く異なることを確認した。