【文献】
[おすすめ商品]バイオリン肩当て特集!,online,2017年12月28日,URL,https://web.archive.org/web/20171228130535/https://www.shimamura.co.jp/shop/kuzuha/winds-strings/20160708/136
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
バイオリンやビオラなどの弦楽器は、演奏者が弦楽器本体の下部を肩と顎との間に支持するとともにネック部を一方の手で保持しながら弦を押さえ、他方の手に保持した弓を使って演奏を行う。
これらの弦楽器の本体は木製であり固く滑りやすい上、発する音が重要視されるため、弦楽器本体の形状は特に演奏者が支持しやすい形状には作られてはいない。このため演奏者の顎の当たりを柔らかくしたり、弦楽器が滑り落ちにくくしたりする目的で、弦楽器本体の下部には顎当てを取り付けて使用する。
【0003】
さらに演奏者の肩での支持をより安定化するために、弦楽器の裏面側に肩当てが利用されることも多い。従来の肩当ては一般的には湾曲部を有する棒状又は細長い板状であり、両端部には弦楽器に取り付けるための取付け部が備えられている。通常バイオリンやビオラなどの弦楽器の演奏の際は、弦楽器は概ね一方の肩に沿う方向ないしは斜め前方に向くように支持される。このため肩当ては肩と交差する方向となるように、楽器本体下部の左右のふくらみ部に架け渡して取り付けられる。
【0004】
特許文献1は弦楽器から取り外した後の持ち運び性を改善したバイオリン等楽器用の肩当てに関する発明であるが、長尺で堅牢な基部と二つの端部に支持部と締結部材が折りたたみ可能に取り付けられた肩当てが開示されている。しかし本質的には楽器本体下部の左右のふくらみ部に架け渡して取り付けられる従来の方式のバイオリン用肩当ての一つと見ることができる。
【0005】
こうした従来の方式のバイオリン用肩当ては、弦楽器を安定して支持しようとすると、演奏者は弦楽器を概ね一方の肩に沿う方向に向け、頸椎を前に伸ばした形で顎当てに顎を載せる形となり、首に負担がかかりやすい。
さらに、従来の方式のバイオリン用肩当ては、弦楽器を支持した際や演奏中の動きに対して身体に対するフィット感が得られにくく、特に小柄で手の長くない演奏者にとっては必ずしも馴染みがよいものではない。支持しやすい位置に支持して演奏しようとすると、肩の上の高い位置に支持された弦楽器に対し、弦楽器を支持する側の手で押さえる弦の位置を変えながら、もう一方の手で弓を操作することになるが、姿勢の関係で弦楽器を支持する側の手では動きの中心となる肘が外側に開き気味になり、肘や肩甲骨が楽に回転し辛くなるため円滑なスライド動作を行いにくく、弓を操作する側の手では肩の動きが制約され、演奏に使用する弓の使用範囲が全長に亘って有効に使用し辛いためである。また楽器本体下部の左右のふくらみ部に架け渡して取り付けると、弦楽器本来の音の響きや音の伸びが十分発揮されないことが発明者によって見出された。
【0006】
そこで多くの演奏者にとって使いやすく、また弦楽器本来の音の響きを低下させることの無い弦楽器用の肩当ての提供が望まれる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明に係る弦楽器用肩当てを実施するための形態の具体例を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態による弦楽器用肩当ての弦楽器への取り付け状態を概略的に示す図であり、
図1(a)は弦楽器用肩当てを取り付ける弦楽器の裏面側から見た図であり、
図1(b)は、
図1(a)を右側面側から見た側面図である。
【0015】
図1を参照すると、本発明の実施形態による弦楽器用肩当て1は、演奏者の肩または胸で一部を支持しながら演奏する弦楽器100の裏面側に取り付けて使用する弦楽器用肩当てであって、一端から他端に延長される板状の本体部10と本体部10の両端に備えられた第1取付け部20及び第2取付け部30とを有する。
バイオリンやビオラなどの弦楽器100は、弦楽器本体110の中でも弦楽器本体下部130を肩と顎とで挟んで支持するのが基本的な持ち方なので、弦楽器用肩当て1の第2取付け部30は弦楽器本体下部130に取り付ける。
【0016】
従来技術の肩当ては、両端部の取付け部はともに弦楽器本体下部130に取り付けて使用され、弦楽器本体下部130をほぼ水平に横断するように架け渡されて取り付けられる。
これに対し、実施形態による弦楽器用肩当て1の第1取付け部20は、弦楽器本体110の中ほどにあるくびれ部120に掛かるように、より詳細には、くびれ部120と弦楽器本体下部130との境界をなすコーナー部140を跨ぐように取り付けられる。このように一端をくびれ部120の一部に掛かるように取り付けるのは、このような取り付け方をすることにより、従来技術の肩当てに比べて弦楽器100の発する音の響きが向上することが発明者により見出されているからである。
【0017】
弦楽器100の音は、弓によって与えられた弦の振動が、弦を支持する駒を介して表板に伝わり、更に表板と裏板との間に挿入された魂柱を経て裏板に伝わり、その結果、弦楽器本体110の中にある空気が表板と裏板により振動されてf字口から大きな音として発せられる。即ち、音質を低下させず、弦楽器100の本来の音を発生させるためには表板と裏板の振動を阻害しないことが重要である。
【0018】
弦楽器用肩当て1の取り付けられるコーナー部140は、裏板、くびれ部120の側板、及び弦楽器本体下部130の側板の3つの板材が集約される特異点であり、突起状に張り出した裏板のコーナー部140近傍は裏板の周辺にあるエッジ部にて2方向から拘束されるために最も振動に寄与しにくい部分となっている。このためこの部分に取付け部が接触しても裏板の振動を阻害することはなく、したがって弦楽器100本来の音を引き出すのに寄与していると考えられる。
【0019】
弦楽器用肩当て1の本体部10は、演奏者が弦楽器100を支持するのに有効に寄与する肩当て部11と、第1取付け部20を支持するために、肩当て部11からコーナー部140に向かって斜め方向に延長される支持部15とを含む。肩当て部11はさらに、主に演奏者の肩に当接する肩当て領域12と、主に演奏者の胸に当接する胸当て領域13とを含む。肩当て領域12は本体部10の支持部15とは反対側の端部にあり、第2取付け部30を支持する。
【0020】
弦楽器100は大半が左手で弦楽器100を支持し、右手に弓をもって演奏するように作られる。このため左肩に弦楽器100を支持した際に、演奏部分が顔より前に来るように、顎当て150は表側から見て弦楽器100の左側、即ち低音の弦が張られる側の弦楽器本体下部130に取り付けられる。
図1(a)の様に裏側から見ると顎当て150は右側の弦楽器本体下部130に取り付けられる。第2取付け部30は弦楽器本体下部130に取り付けられた顎当て150の近傍に取り付けられる。
【0021】
弦楽器100は表側から見ると弦は左側が一番低音であり、右側に行くほど高音の弦が張られる。逆に
図1(a)の様に裏側から見ると右側の弦が低音であり、一番左側の弦が高音である。そこでこの位置関係に着目すると、実施形態における弦楽器用肩当て1の第1取付け部20は弦楽器100の高音側の弦に近いくびれ部120の一部に掛かるように取り付けられ、第2取付け部30は顎当て150の第1取付け部20と対向する側の近傍に取り付けられる。
【0022】
図1(b)を参照すると、第2取付け部30は弦楽器本体110の裏板と側板の境界面に形成されたエッジ部を抱えるように弦楽器本体110に取り付けられ、弦楽器用肩当て1の本体部10は、第1取付け部20及び第2取付け部30により弦楽器本体110から離隔されて取り付けられる。
【0023】
図2は、本発明の実施形態による弦楽器用肩当ての本体部の形状を示す図面である。
図2(a)は弦楽器用肩当ての本体部を演奏者に当接する面から見た平面図であり、
図2(b)は板厚方向から見た正面図である。
図2を参照すると、本体部10は平板が2か所で折れ曲がった構造を有しており、肩当て部11と支持部15との間は折り曲げ線Bで仕切られ、肩当て部11内の肩当て領域12と胸当て領域13との間は折り曲げ線Aで仕切られる。バイオリンとビオラのように、弦楽器100によって弦楽器本体110の大きさが異なるので、本体部10の全体的な長さは弦楽器本体110の大きさに合わせて形成されるが、基本的な折れ曲がり構造を有することに変わりはない。
尚、
図2の本体部10の折り曲げ線は明確に外観で確認できるほど厳密である必要はなく、他の実施形態では肩当て部11と支持部15との間は丸みを帯びてなだらかにつながった形状でもよく、肩当て領域12と胸当て領域13との間も丸みを帯びてなだらかにつながった形状でもよい。また
図2では、肩当て領域12、胸当て領域13、支持部15はそれぞれ直線的な平板状に示すが、これらも湾曲した板や丸みを帯びた板で構成してもよい。
【0024】
図2(b)のように肩当て領域12を水平に置いてこれを基準にした場合、折り曲げ線Aは谷折り線であり、胸当て領域13は肩当て領域12との境界部から所定の角度で立ち上がる。
図1を併せて参照すると胸当て領域13は弦楽器本体110の裏板から離れる方向に立ち上がる。折り曲げ線Bは山折り線であり、支持部15は胸当て領域13との境界部から所定角度で立ち下がる。一番低くなる支持部15の末端の上縁は肩当て領域12の上面の高さと同じ高さとなるように構成される。
本体部10の形状で最も重要なのは演奏者の肩及び肩から胸にかけて当接する肩当て領域12と胸当て領域13であり、胸当て領域13が肩当て領域12から立ち上がった形状であれば支持部15の末端の上縁の高さは上記のように限定される必要はなく、様々な高さに変形可能である。
【0025】
肩当て部11が弦楽器100を支持するのに直接寄与する部分であるのに対し、支持部15は第1取付け部20を支持するための意味合いしかないことから、その形状は板状に限らず棒状でもよく、また直線状である必要もないが、胸当て領域13との境界部から所定角度で立ち下げることにより弦楽器100を様々な向きに支持した場合でも演奏者に邪魔にならないようになる。
実施形態では最も高くなる折り曲げ線Bの高さと、肩当て領域12の上面の高さとの高低差は約10mmであるが、この高低差は厳密なものではなく、弦楽器の種類や演奏者の体形により10mm以下でも10mm以上でもよい。
本体部10は、樹脂、木、金属など様々な材料で形成され得る。また演奏者の肩へのあたりを和らげるために樹脂、木、金属などの硬質な基材の上に柔軟な樹脂、布、皮革などの緩衝材を貼り合わせた複合体としてもよい。
【0026】
肩当て部11には湾曲部14が形成される。湾曲部14は演奏者の肩または胸の体形に合うように形成されるものである。弦楽器100を肩の上に支持する場合、肩当てを使用しなかったり、また使用しても適切な形状の肩当てでなかったりすると演奏者の鎖骨が圧迫されやすい。鎖骨の下には重要な血管が通っており、こうした重要な組織にダメージが直接伝わらないよう鎖骨自体は折れて衝撃を吸収しやすくなっている。このため鎖骨に外力を受ける状態は演奏者にあまり良い感触は得られず、漠然とした不安感を与えかねない。
図4を参照して後述するように、湾曲部14は演奏者の鎖骨が胸の前方に張り出している部分を回避するように形成する。
【0027】
図3は本発明の実施形態による弦楽器用肩当ての全体構造を示す図面である。
図3(a)は弦楽器用肩当ての本体部を弦楽器側から見た平面図であり、
図3(b)は板厚方向から見た正面図である。
図3を参照すると、弦楽器用肩当て1は支持部15側に第1取付け部20と肩当て部11の肩当て領域12側に第2取付け部30を含む。
第1取付け部20は、取付けフック21、スライダ22、スライダ22を固定する固定ネジ24、及びスライダ22に嵌合される第1台座23を含む。
【0028】
取付けフック21は第1台座23に取り付けるための支持棒と、支持棒から2方向に分岐しそれぞれの先端部に弦楽器100に直接掛けられるフック部とを備える。支持棒には第1台座23に設けられた雌ネジと螺合するように雄ネジが切られ、支持棒をどれだけ螺合させるかによってフック部の高さと向きが調整可能としている。フック部は略コの字状の形状を有し、弦楽器100の裏板と側板との境界に沿って設けられる突起状のエッジ部に掛けられるように構成される。
【0029】
スライダ22はL字状の形状を有し、板状の金属材料、樹脂材料等で構成され、L字の一方は支持部15の弦楽器100への取り付け面側に設けられた溝にスライドするように嵌合するスライド部であり、他方は第1台座23を支持する切り欠きを有する台座支持部である。スライド部には固定ネジ24を挿通するための穴が複数設けられ、支持部15に備えられたネジ穴と複数の穴のうちの1つを位置合わせして固定ネジ24で固定することにより、取付けフック21の支持部15に沿う方向の位置を調整可能である。
【0030】
第1台座23は直径の異なる3つの円柱が同軸上に積み重なった形状を有し、最も直径の大きい台座部には取付けフック21を取り付けるためのネジ穴を備える。中央に位置する最も直径の小さい嵌合部はスライダ22に設けた切り欠きに圧入するように嵌合されて固定される。このとき嵌合の強さを調節して第1台座23が抵抗を持ちつつ嵌合部の軸周りに回動可能となるように構成してもよいが、実施形態では演奏時にがたつきが出ないよう回動しないように固定する。3つ目の円柱は第1台座23が軸方向に抜けないようにストッパの役割を果たす。ここでは第1台座23は直径の異なる3つの円柱が同軸上に積み重なった形状であるとしたが、位置調整が可能なように取付けフック21が取り付けられれば、形状はこれに限らない。スライダと第1台座23は別の構成要素とするように示したが、例えばスライダの支持部を厚みのあるブロック状とし、厚みを増したブロック部に取付けフック21を取り付けるためのネジ穴を備えるようにして第1台座23とスライダ22とを一つの構成要素としてもよい。
【0031】
第2取付け部30は、取付けフック31、及び第2台座32を含む。
取付けフック31は取付けフック21と同様、支持棒と2つのフック部を備え、支持棒に設けられたネジにより第2台座32に高さと向きの調節が可能に取り付けられる。取付けフック31は取付けフック21と同一でもよいし、取り付け位置の違いに基づき、フック部の向きや2つのフック部の間隔を取付けフック21と異なるように構成してもよい。
【0032】
第2台座32は円柱の形状を有し、円柱の軸心の部分に取付けフック31の支持棒を取り付けるためのネジ穴を備える。第2取付け部30も第1取付け部20と同様スライダ22を用いて肩当て領域12に沿う方向の位置を調整可能としてもよい。実施形態では細かい位置調整は第1取付け部20側で行うため、第2取付け部30の第2台座32は本体部10にネジ又は接着剤で固定される。
【0033】
図4は本発明の実施形態による弦楽器用肩当てを使用する場合の演奏者による支持状態を概略的に示す図である。
演奏者が弦楽器用肩当て1を取り付けた弦楽器100を支持すると、肩当て部11の内、肩当て領域12が肩の上に位置し、演奏者の鎖骨200が胸の前方に張り出してから体の奥に入り込む部分で、弦楽器用肩当て1の湾曲部14が鎖骨200と交差するようになる。
このように湾曲部14が、鎖骨200の胸の前方に張り出している部分を回避するように湾曲しているため、演奏者の鎖骨200は圧迫されることがなく、演奏者は安心して弦楽器100を支持することができる。また、
図4の破線の矢印のように、弦楽器100を支持している方向を変えても、湾曲部14の効果により鎖骨200を圧迫することがなく、安定して支持することができる。
【0034】
このように弦楽器100を支持する方向を変えても、鎖骨200が胸の前方に張り出した部分を圧迫しないように、湾曲部14の曲率半径は顎当て150から鎖骨200が体の奥に入り込む部分までの距離と同等かそれ以上であることが望ましい。
また弦楽器100を支持する方向を変えても、安定して支持することができることから、演奏者は頸椎を伸ばして無理に弦楽器100を抑え込まなくても楽な姿勢で演奏ができるため首への負担を軽減することができる。
【0035】
さらに第1取付け部20は、従来技術の肩当てに比べて演奏者から遠い位置に取り付けられ、且つ支持部15が弦楽器100に向けて立ち下がっているので、弦楽器100を支持する方向を変える場合も第1取付け部20や支持部15が邪魔にならず取り回しがしやすい。
【0036】
このように本発明の実施形態による弦楽器用肩当て1は、音の響きや音の伸びを低下させることがない上、弦楽器100を様々な方向に支持しても、演奏者の鎖骨を圧迫することがないことから、演奏者は無理のない姿勢で安定して支持することができ、小柄で手の長くない演奏者にとっても取り回しが容易で使い勝手のよい支持方法を提供することができる。また従来技術の肩当てを使用する場合に比べ、弦楽器100を少し前方の低い位置でも安定して支持できることから、弦楽器100を支持する側の肘も楽に動かせるようになり、弦を抑える位置を変更するスライド動作も円滑に行えるようになる。
【0037】
以上、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲から逸脱しない範囲内で多様に変更することが可能である。