(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが近年、さらなる製造工程の高効率化が求められており、特に工程数の減少が求められている。本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、特定の凹部を有する重合体微粒子を効率よく提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、新たな表面形状を有する重合体微粒子を提供するため重合体微粒子を製造するための各工程及び用いる成分について鋭意検討した結果、特定のアルコキシシランを用いることにより、凹部を有する重合体微粒子を少ない工程数で得られることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち本発明に係る重合体微粒子は、エチレン性不飽和結合含有基を有するアルコキシシラン(A)100質量部と、テトラアルコキシシラン(B)40質量部以上とから形成され、長径が粒子径に対して0.5以上である凹部を少なくとも1つ有することを特徴とする。
前記重合体粒子のケイ素含有量は、15質量%以上であることが好ましい。
【0008】
前記重合体微粒子における凹部の形状が下記(a)、(c)、(d)から選ばれる1つ以上を満足するものであることが好ましい。
(a)凹部の外周形状が多角形である。
(c)凹部の短径(L2)と粒子径(D)との比(L2/D)が0.05以上1.0未満である。
(d)凹部の長径(L1)と短径(L2)との比(L2/L1)が1.0未満である。
【0009】
また、球に下記(a)〜(d)を満足する凹みが少なくとも1つ形成された外形を有し、ケイ素含有量が15質量%以上である重合体微粒子も本発明の範囲に包含される。
(a)凹みの外周形状が多角形である。
(b)凹みの長径(L1)と粒子径(D)との比(L1/D)が0.3以上1.0以下である。
(c)凹みの短径(L2)と粒子径(D)との比(L2/D)が0.05以上1.0未満である。
(d)長径(L1)と短径(L2)との比(L2/L1)が1.0未満である。
【0010】
球に下記(a)〜(d)を満足する凹みが少なくとも1つ形成された外形を有し、
(a)凹みの外周形状が多角形である。
(b)凹みの長径(L1)と粒子径(D)との比(L1/D)が0.3以上1.0以下である。
(c)凹みの短径(L2)と粒子径(D)との比(L2/D)が0.05以上1.0未満である。
(d)長径(L1)と短径(L2)との比(L2/L1)が1.0未満である。
BET法で測定した比表面積(S1)と下記式で求められる理論比表面積(S0)の比率(S1/S0)が1.5以上、20以下である重合体微粒子も本発明の範囲に包含される。
理論比表面積(S0)(m
2/g)=6/(真比重(g/cm
3)×体積平均粒子径(μm))
【0011】
前記エチレン性不飽和結合含有基は、(メタ)アクリル基、又は末端に二重結合を有するアルケニル基であることが好ましい。
【0012】
前記重合体微粒子において、凹部の非形成面全体に、前記凹部よりも浅い凹凸部が連続して形成されている事が好ましい。
前記重合体微粒子の比表面積は、2m
2/g以上、50m
2/g以下であることが好ましい。
【0013】
コールターカウンター法により測定した前記重合体微粒子の体積平均粒子径は0.5μm以上、30μm以下であることが好ましい。
前記重合体微粒子の粒子径の変動係数は、15%以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、特定のアルコキシシランを用いて重合体微粒子を形成することで、凹部を有する重合体微粒子を効率よく製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.重合体微粒子
上述のように本発明の重合体微粒子は、所定のアルコキシシランから形成されるものであり、凹部(以下、「第1の凹部」という場合がある)を少なくとも1つ有する。ここで凹部とは、重合体微粒子の表面に形成され、周囲に対して落ち込んでいる箇所を意味する。重合体微粒子に深い凹部が形成されていることで、圧縮荷重に対しては特異な変形挙動を示すようになり、樹脂と混合した場合には、第1の凹部に入り込んだ樹脂がアンカー効果を発揮して重合体微粒子が樹脂から脱離しにくくなる。さらに、重合体微粒子表面で光が散乱されやすくなり、各種の基材に光散乱能を付与することができる。
【0017】
このような観点から、第1の凹部はある程度の大きさであることが好ましく、第1の凹部の長径(L1)は、重合体微粒子の粒子径(D)に対して、その比(L1/D)が0.3以上であり、0.5以上であってもよく、より好ましくは0.6以上、さらに好ましくは0.65以上であり、1.0以下であることが好ましく、より好ましくは0.95以下である。
前記第1の凹部の長径は、第1の凹部の外周を結んだ形状の中心(重心)を通り、かつ第1の凹部の外周で区切られる線分のうち、最も長い線分(又はその長さ)を意味するものとする。
また、第1の凹部の外周とは、第1の凹部の面積が最大となる方向(以下、「法線方向」という場合がある。)から重合体微粒子表面を観察した走査型電子顕微鏡像において、第1の凹部の縁に現れる明度の高い部分を意味するものとする。そして各粒子ごとにL1/Dの値を求め、その平均値を重合体微粒子のL1/Dの代表値とする(L2/Dの場合も同じ)。
なお、重合体微粒子のL1/Dが所定範囲となる特徴を、「特徴(b)」という場合がある。
【0018】
また、本発明の重合体微粒子は、以下の特徴(a)、(c)、(d)のいずれかを満足するものであることが好ましい。
【0019】
特徴(a)
第1の凹部の形状は、その外周が、3以上の頂点を有する閉じた形状(以下、「多角形」という場合がある)となっていることが好ましい。本明細書でいう頂点は、幾何学で定義される尖った頂点の他、丸みを帯びたものも含む。こうした頂点は、周囲よりも曲率が小さくなっており、この頂点よりもなだらかな曲線又は直線である部分(以下、「辺」という場合がある)に比べて応力が集中しやすくなる。その結果、例えば重合体微粒子に圧縮荷重を負荷した際には、多角形の頂点部分が基点(応力集中箇所)となって第1の凹部を折りたたむように変形しやすくなる。また樹脂と混合した際にも、せん断応力などに対抗して、樹脂からの脱離を抑制しやすくなる。さらに、重合体微粒子表面の構造の規則性に変化を持たせ、光散乱能を高めやすくなる。前記多角形としては、凸多角形、凹多角形のいずれでもよく、凸多角形が好ましい。
【0020】
特徴(c)
また、前記第1の凹部の短径(L2)と、重合体微粒子の粒子径(D)との比(L2/D)は、0.05以上であることが好ましく、より好ましくは0.1以上、さらに好ましくは0.2以上であり、1未満であることが好ましく、より好ましくは1.0未満、さらに好ましくは0.9以下、特に好ましくは0.8以下である。前記比(L2/D)が大きくなるほど、低い圧力でも重合体微粒子を変形しやすくなるとともにアンカー効果、光散乱効果を発揮しやすくなり、小さくなるほど、重合体微粒子の破断を抑制しやすくなる。
なお、短径(L2)は、前記長径に直交し、かつ第1の凹部の外周で区切られる線分のうち、最も長い線分(又はその長さ)を意味するものとする。
【0021】
特徴(d)
前記第1の凹部の長径(L1)と短径(L2)との比(L2/L1)は、好ましくは1未満、より好ましくは1.0未満、さらに好ましくは0.9以下であり、0.7以下又は0.5以下であってもよい。前記比(L2/L1)は0.1以上であることが好ましく、より好ましくは0.2以上、さらに好ましくは0.3以上である。
【0022】
本発明の重合体微粒子は、上記特徴(a)、(c)、(d)の全てを満足するものであることがより好ましい。
【0023】
さらに、前記第1の凹部は、ある程度の深さを有するものであることが好ましく、この深さ(H)と粒子径(D)との比(H/D)は、0.1以上であることが好ましく、より好ましくは0.2以上であり、0.7以下であることが好ましく、より好ましくは0.6以下である。前記比(H/D)が大きくなるほど、低い圧力でも容易に変形しやすくなるとともに、アンカー効果を発揮しやすくなる。
凹部の深さは、重合体微粒子の断面において、凹部の起点1を結ぶ直線2から、凹部の底部3に垂線を下ろしたとき、最も長い垂線の長さとする。
【0024】
また、前記第1の凹部の内部(外周で囲まれる部分)は、滑らかな曲面であることが好ましく、少なくとも、22,000倍(加速電圧1.00kV)で観察した走査型電子顕微鏡像において、100nm以上の大きさの凹部や凸部が観察されないことが好ましい。
【0025】
なお、本発明の重合体微粒子の集合において、全ての重合体微粒子が、それぞれ凹部(第1の凹部)を1つ有するものであることが好ましいが、第1の凹部を有しない重合体微粒子が含まれていてもよい。この場合、第1の凹部を有しない重合体微粒子の割合は、20%以下であることが好ましく、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下である。
【0026】
前記第1の凹部の個数は、例えば、10以下であり、5つ以下であることがより好ましく、よりいっそう好ましくは3つ以下、さらに好ましくは2つ以下、特に好ましくは1つである。
【0027】
他方、前記第1の凹部の非形成面(凹部外周の外側)の全体に、第1の凹部よりも浅い(高低差が小さい)凹凸部が連続して形成されることが好ましい。第1凹部非形成面が、このような連続凹凸面になることにより、光が散乱されやすくなるとともに、第1凹部非形成面の局所的変形が抑制されやすくなる。
なお前記浅い凹凸面は、平坦面に複数の浅い凹部のみが形成された面、平坦面に複数の浅い凸部のみが形成された面を含む。前者の場合、平坦面が相対的に凸部に該当し、後者の場合、平坦面が相対的に凹部に該当する。
そして、凹凸面を形成する凹部或いは凸部に着目すると、いずれも第1の凹部よりも大きさが小さいものであることが好ましく、具体的には、凹部或いは凸部の平均長径(L3)と、第1の凹部の長径(L1)との比(L3/L1)は、0.01以上であることが好ましく、より好ましくは0.05以上であり、0.3以下であることが好ましく、0.2以下であることがより好ましい。
【0028】
前記第1の凹部よりも浅い(高低差が小さい)凹部或いは凸部の長径は、この凹部或いは凸部の外周を結んだ形状の中心(重心)を通り、かつこの凹部或いは凸部の外周で区切られる線分のうち、最も長い線分(又はその長さ)を意味するものとする。その平均長径(L3)は、前記凹部或いは凸部の長径を複数(例えば10個)測定し、その平均として算出することができる。なお凹部或いは凸部の外周とは、重合体微粒子表面を観察した走査型電子顕微鏡像において、高低差に由来する明度の差から凹部或いは凸部の縁と認められる部分を意味するものとする。
【0029】
前記凹凸面としては、例えば、第1の凹部よりも浅い凹部(以下、「ディンプル部」という場合がある)が連続して形成される凹凸面が好ましい。ディンプル部は、第1の凹部に対して小さくなっており、具体的には、ディンプル部の平均長径(L3)と、第1の凹部の長径(L1)との比(ディンプル部平均長径(L3)/L1)は、0.01以上であることが好ましく、より好ましくは0.1以上であり、0.3以下であることが好ましく、0.2以下であることがより好ましい。またディンプル部は、第1の凹部よりもなだらかなものであることが好ましい。
【0030】
また前記凹凸面としては、第1の凹部よりも高低差が小さい凸部が連続して形成される凹凸面であることも好ましい。この凸部は、例えば上部が筋状に尖った形状であることが好ましい。また、このような筋状凸部が、ランダムに配向しつつ互いに交差することなく密に配置されたていることがより好ましい。筋状凸部は、曲線状或いは直線状のいずれでもよく、折れ線状になっていてもよい。筋状凸部の平均長径(L3)と、第1の凹部の長径(L1)との比(筋状凸部平均長径(L3)/L1)は、0.01以上であることが好ましく、より好ましくは0.05以上であり、0.3以下であることが好ましく、0.2以下であることがより好ましい。
【0031】
本発明の重合体微粒子の比表面積(S1)は、上記第1の凹部及び場合によっては非凹部形成面の浅い凹凸面によって高められており、例えば1.2m
2/g以上であることが好ましく、より好ましくは1.4m
2/g以上、さらに好ましくは1.5m
2/g以上であり、50m
2/g以下であることが好ましく、より好ましくは30m
2/g以下、さらに好ましくは20m
2/g以下である。
重合体微粒子の比表面積(S1)は、BET法を用いて測定することができる。測定装置としては、自動比表面積/細孔分布測定装置〔例えば、日本ベル(株)製、商品名:BELLSORPMini−II〕を用いることができる。
【0032】
また上記比表面積(S1)と、重合体微粒子の体積平均粒子径及び真比重から求めた理論比表面積(S0)との比率(S1/S0)は、1.5以上であることが好ましく、より好ましくは2以上、さらに好ましくは2.5以上であり、20以下であることが好ましく、より好ましくは15以下である。前記比率(S1/S0)が大きいほど、重合体微粒子の比表面積が真球に比べて大きく、凹部、或いはディンプル部が顕著に形成されることになる。
【0033】
前記理論比表面積(S0)は、粒子形状に真球を仮定し、粒子の表面積と質量の比率(表面積/質量)に基づいて算出される値であり、具体的には、下記式に基づいて算出される値とする。
理論比表面積(S0)(m
2/g)=6/(真比重(g/cm
3)×体積平均粒子径(μm))
【0034】
本発明の重合体微粒子は、上記特定の形状を有するとともに、後述するように所定のアルコキシシランから形成されるものであるため、その内部にシロキサン結合(Si−O−Si)を有しておりケイ素含有量が高められている。このため、重合体微粒子の硬度を高めやすくなるとともに、光散乱能も調整しやすくなる。重合体微粒子のケイ素含有量は、例えば、15質量%以上であることが好ましく、より好ましくは18質量%以上であり、例えば50質量%以下であることが好ましく、より好ましくは40質量%以下である。
【0035】
前記ケイ素含有量は、重合体微粒子を空気などの酸化性雰囲気中、950℃で焼成したときの灰分質量(これをSiO
2量とする)からSi分に相当する質量を算出し、該Si量を焼成処理に供した重合体微粒子の質量で除すことにより求めることができる。灰分質量からSi分に相当する質量を算出するには、灰分質量に0.4672(Si原子量/SiO
2式量)を乗じることによって求めることができる。
【0036】
本発明の重合体微粒子は、シロキサン結合を有するため、耐熱性が高められており、その熱分解開始温度は、250℃以上であることが好ましく、より好ましくは280℃以上、さらに好ましくは290℃以上であり、例えば400℃以下、好ましくは350℃以下、より好ましくは320℃以下である。
【0037】
重合体微粒子の体積平均粒子径は、0.5μm以上であることが好ましく、より好ましくは1μm以上、さらに好ましくは2μm以上であり、30μm以下であることが好ましく、より好ましくは20μm以下、さらに好ましくは10μm以下である。
なお重合体微粒子の体積平均粒子径は、コールターカウンター法により測定された値であり、コールター原理を利用した精密粒度分布測定装置(例えば、ベックマンコールター(株)製「コールターマルチサイザーIII型」)により測定できる。
【0038】
また、重合体微粒子の粒子径の変動係数(CV値)は、好ましくは15%以下、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは8.5%以下である。なお、粒子径の変動係数とは、コールター原理を利用した精密粒度分布測定装置により測定される粒子の体積平均粒子径と、粒子径の標準偏差とを下記式に当てはめて得られる値である。
粒子径の変動係数(%)=100×(粒子径の標準偏差/体積平均粒子径)
【0039】
さらに前記重合体微粒子の真比重は、0.5以上であることが好ましく、より好ましくは0.9以上であり、2以下であることが好ましく、より好ましくは1.5以下である。
重合体微粒子の真比重は、気体置換法により求めることができる。測定装置としては、真比重計〔例えば、アキュピックII1340(島津製作所製)〕を用いることができる。
【0040】
2.重合体微粒子の製造方法
上記重合体微粒子は、エチレン性不飽和結合含有基を有するアルコキシシラン(A)と、テトラアルコキシシラン(B)とから形成することができる。具体的には、アルコキシシラン(A)及びテトラアルコキシシラン(B)(以下、アルコキシシラン(A)及びテトラアルコキシシラン(B)とをまとめて「単量体」と呼ぶ場合がある)を加水分解、重縮合してシロキサン粒子を製造し、次いで、このシロキサン粒子に含まれるエチレン性不飽和結合を重合することにより、極めて少ない工程数で上記所定の凹部を有する重合体微粒子を製造することができる。
【0041】
加水分解・重縮合の開始当初は、アルコキシシラン(A)及びテトラアルコキシシラン(B)は、均一に混ざり合っていると考えられる。ところが、アルコキシシラン(A)とテトラアルコキシシラン(B)とは、加水分解及び重縮合のされやすさが異なっており、相対的に加水分解・重縮合されやすい単量体が優先的に重合体を形成し、続いて相対的に加水分解・重縮合されにくい単量体が重合体を形成する。このためアルコキシシラン(A)に由来する成分とテトラアルコキシシランに由来する成分とで、分布に偏りが生じると考えられる。さらに加水分解・重縮合が進むにつれ、水や溶媒等が重合体内部から排出されて重合体の体積が減少していき、単量体組成の偏りが生じている部分に収縮応力が働く結果、上記凹部が形成されるものと考えられる。
さらに、重合体微粒子に残存しているエチレン性不飽和結合を重合することで、本発明の重合体微粒子を得ることができる。
【0042】
重合体微粒子に用いられる単量体のうちテトラアルコキシシラン(B)は、凹部を形成させる観点から、アルコキシシラン(A)100質量部に対して40質量部以上であることが好ましく、より好ましくは60質量部以上、さらに好ましくは80質量部以上、特に好ましくは100質量部以上であり、500質量部以下であることが好ましく、より好ましくは300質量部以下である。
【0043】
また、アルコキシシラン(A)に含まれるエチレン性不飽和結合含有基は、末端に二重結合を有する基であり、(メタ)アクリル基、又は末端に二重結合を有するアルケニル基であることが好ましい。末端に二重結合を有するアルケニル基としては、炭素数2〜4(好ましくは炭素数2〜3)のアルケニル基が好ましく、具体的には、ビニル基、アリル基、2−メチルプロペニル基等が挙げられる。
また、アルコキシシラン(A)のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ等の炭素数2〜4のアルコキシ基が挙げられ、メトキシ基又はエトキシ基が好ましく、メトキシ基が特に好ましい。
【0044】
前記アルコキシシラン(A)としては、具体的には、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等の(メタ)アクリル基を有するトリアルコキシシラン;3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン等の(メタ)アクリル基を有するジアルコキシシラン;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のビニルトリアルコキシシラン;ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン等のビニルジアルコキシシラン;アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン等のアリルトリアルコキシシラン;アリルメチルジメトキシシラン、アリルメチルジエトキシシラン等のアリルジアルコキシシラン;2−メチル−2−プロペニルトリメトキシシラン;等が挙げられる。中でも、トリアルコキシシランが好ましく、(メタ)アクリル基を有するトリアルコキシシラン、ビニルトリアルコキシシランがより好ましい。
前記アルコキシシラン(A)は、後述するテトラアルコキシシラン(B)よりも加水分解・重縮合されやすいものであることが好ましい。
【0045】
また、テトラアルコキシシラン(B)のアルコキシ基としては、同一でも異なっていてもよく、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等の炭素数1〜4のアルコキシ基が挙げられ、メトキシ基又はエトキシ基が好ましく、エトキシ基が特に好ましい。
アルコキシシラン(B)としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等が挙げられ、テトラメトキシシラン又はテトラエトキシシランが好ましく、テトラエトキシシランが特に好ましい。
【0046】
前記アルコキシシラン(A)及びテトラアルコキシシラン(B)を加水分解・重縮合する際の反応溶媒は、少なくとも水を含んでいればよく、1種又は2種以上の水溶性有機溶媒を含んでいてもよい。
前記水溶性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸エチル等のエステル類;等を挙げられる。中でも水溶性有機溶媒としては、アルコール類が好ましく、メタノール又はエタノールがより好ましく、メタノールが特に好ましい。
前記水溶性有機溶媒は、反応溶媒中50質量%以下であることが好ましく、より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは35質量%以下であり、20質量%以下であることが好ましい。
【0047】
また、アルコキシシラン(A)及びテトラアルコキシシラン(B)を加水分解・重縮合する際、触媒を共存させてもよい。触媒としては、アンモニア、尿素、エタノールアミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物等の塩基性触媒を用いることができる。
触媒は、反応溶媒100質量部に対して、0.05質量部以上であることが好ましく、より好ましくは0.1質量部以上、さらに好ましくは0.2質量部以上であり、2質量部以下である事が好ましく、より好ましくは1質量部以下、さらに好ましくは0.5質量部以下である。
加水分解・重縮合工程において、反応温度は0〜50℃の範囲にあることが好ましい。
【0048】
上記アルコキシシラン(A)及びテトラアルコキシシラン(B)の加水分解・重縮合によりシロキサン粒子中にはシロキサン結合(Si−O−Si)が形成される一方、アルコキシシラン(A)に由来するエチレン性不飽和結合が残留している。これを重合(ラジカル重合)することで重合体微粒子を製造することができる。
【0049】
重合開始剤としては、過酸化物系開始剤や、アゾ系開始剤等が使用可能である。
また、ラジカル重合の際の反応温度は、40℃以上が好ましく、より好ましくは50℃以上であり、100℃以下が好ましく、より好ましくは80℃以下である。反応温度を高めることによりエチレン性不飽和結合の重合度を高めることができ、反応温度を抑制することで、重合体微粒子の凝集を抑制できる。また、重合時間は、5〜600分が好ましく、より好ましくは10〜300分である。
【0050】
また、重合の際、乳化剤を共存させてもよい。乳化剤を共存させることで、粒子の分散状態を安定化させやすくなる。
前記乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンスチレン化アリールエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸アンモニウム等のアニオン性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、グリセリン脂肪酸エステル、オキシエチレン−オキシプロピレンブロックポリマー等のノニオン性界面活性剤;等が挙げられ、アニオン性界面活性剤が好ましい。
【0051】
重合工程は、加水分解・重縮合工程と連続的に実施してもよい。この場合、加水分解・重縮合工程により得られた反応液に、重合開始剤や必要に応じて乳化剤を加えればよい。
【0052】
本発明の重合体微粒子は、特定の凹部を有するため、特徴的な機械的特性を有するとともに、樹脂に対するアンカー効果や、光拡散効果を発揮することができ、アンチブロッキング剤、光拡散剤等の各種樹脂用添加剤;艶消し剤、トナー用添加剤、粉体塗料、水分散型塗料、化粧板用添加剤、人工大理石用添加剤、化粧品用充填剤、クロマトグラフィーのカラム充填剤等に用いることができる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、以下においては、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味する。
本発明の実施例で用いた測定法は、以下の通りである。
【0054】
体積平均粒子径、粒子径の変動係数
精密粒度分布測定装置(商品名「コールターマルチサイザーIII型」、ベックマンコールター株式会社製)を用いて、重合体微粒子の30000個の粒子の粒子径を測定し、体積基準での平均粒子径、標準偏差を測定した。また、得られた測定結果から、下記式を用いて重合体微粒子の粒子径の変動係数を算出した。
変動係数(%)=100×(標準偏差/平均粒子径)
【0055】
凹部の形状観察
走査型電子顕微鏡(SEM、日立社製「S−3500N」)を用いて、重合体微粒子20個を観察して、凹部の有無及び凹部の外周形状を確認した。また凹部が存在するものについては、凹部の長径(L1)、短径(L2)を測定し、粒子20個の平均値を求めた。
凹部の深さは、重合体微粒子をエポキシ樹脂に包埋し、ミクロトームで超薄切片(厚さ10nm)を作製した後、電界放出型走査型電子顕微鏡(FE−SEM、日立社製「S−4800」)を用いて断面の透過像を観察することにより測定した。具体的には、重合体微粒子の断面において、凹部の起点(周囲に対して凹み始める箇所)となる2点を結んだ直線から、凹部の底部へ下ろした垂線の長さが最も長い部分の深さを凹部深さ(H)とした。
また、凹部を有する粒子について、比(L1/D)、比(L2/D)、比(L2/L1)及び比(H/D)を測定し、それぞれ粒子20個の平均値を求めた。
【0056】
比表面積
得られた重合体微粒子の比表面積を自動比表面積/細孔分布測定装置〔日本ベル(株)製、商品名:BELLSORPMini−II〕を用い、BET法により測定した。
【0057】
ケイ素含有量
ケイ素含有量は、重合体微粒子1gを空気雰囲気下、950℃で焼成したときの灰分質量(これをSiO
2量とする)からSi分に相当する質量を算出し、該Si量を焼成処理に供した重合体微粒子の質量で除すことにより求めた。灰分質量からSi分に相当する質量は、灰分質量に0.4672(Si原子量/SiO
2式量)を乗じることによって求めた。
【0058】
真比重
製造例で得られた微粒子について、アキュピックII1340(島津製作所製)を用いて真比重を測定した。
【0059】
(製造例1)
冷却管、温度計、滴下口を備えた四つ口フラスコに、イオン交換水804部と、25%アンモニア水12部、メタノール396部を仕込み25℃に保持した。攪拌下、滴下口から、シラン単量体(シード形成モノマー)として3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、「KBM503」)53部、テトラエトキシシラン(信越化学工業社製、「LS−2430」)53部を添加し、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン及びテトラエトキシシランの加水分解、縮合反応を行って、ポリシロキサン粒子の分散液を調製した。このポリシロキサン粒子の体積基準の平均粒子径は4.10μm、粒子径の変動係数は4.2%であった。
【0060】
次いで、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩(第一工業製薬社製「ハイテノール(登録商標)NF−08」)の20%水溶液5.6部と、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業社製「V−65」)1.3部を加え、窒素雰囲気下で反応液を65℃まで昇温させて、65℃で2時間保持し、単量体成分のラジカル重合を行った。ラジカル重合後の乳濁液を固液分離し、得られたケーキをイオン交換水、メタノールで洗浄した後、窒素雰囲気下120℃で1時間乾燥させ、重合体微粒子(1)を得た。得られた重合体微粒子の各物性は表1に示すとおりであった。得られた重合体微粒子の走査型電子顕微鏡像(倍率22,000倍)を
図1に示す。
【0061】
(製造例2〜5)
シラン単量体の種類と使用量を表1に示す通りとした以外は製造例1と同様にして、重合体微粒子(2)〜(5)を得た。得られた重合体微粒子の各物性は表1に示すとおりであった。また製造例2で得られた重合体微粒子の走査型電子顕微鏡像(倍率22,000倍)を
図2に示し、製造例3で得られた重合体微粒子の走査型電子顕微鏡像(倍率22,000倍)を
図3に示した。
【0062】
(製造例6)
冷却管、温度計、滴下口を備えた四つ口フラスコに、イオン交換水804部と、25%アンモニア水1.2部、メタノール336.6部を入れ、攪拌下、滴下口から3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン50部及びメタノール59.4部の混合液を添加して、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランの加水分解、縮合反応を行って、ポリシロキサン粒子の乳濁液を調製した。反応開始から2時間後、得られたポリシロキサン粒子の体積基準の平均粒子径は2.20μmであった。
【0063】
続いて、一次ポリシロキサン粒子の乳濁液に、テトラエトキシシラン(信越化学工業社製、「LS−2430」)10.0部を添加し、25℃で30分撹拌し、二次ポリシロキサン粒子の乳濁液を調整した。
【0064】
次いで、乳化剤としてポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩の20%水溶液0.9部をイオン交換水35.0部で溶解した溶液に、単量体としてのスチレン35.0部、重合開始剤としての2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.9部を溶解した溶液を加え、乳化分散させて単量体成分の乳化液を調製した。
【0065】
得られた乳化液を、二次ポリシロキサン粒子の乳濁液中に添加して、さらに攪拌を行った。乳化液の添加から1時間後、混合液をサンプリングして顕微鏡で観察を行ったところ、二次ポリシロキサン粒子が単量体を吸収して肥大化していることが確認された。
【0066】
最後に、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル10質量%溶液(伯東社製「ポリストップ7010」)2.1質量部、及びイオン交換水27.9質量部を加え、反応液を窒素雰囲気下で65℃に昇温させて、65℃で2時間保持し単量体組成物のラジカル重合を行った。ラジカル重合後の反応液を固液分離し、得られたケーキをイオン交換水、メタノールで洗浄した後、120℃で2時間乾燥させて重合体粒子(6)を得た。得られた重合体微粒子の各物性は表1に示すとおりであった。
【0067】
【表1】
【0068】
表1に示されているように、本発明の重合体微粒子は、特定のアルコキシシランの重合体であって、少ない工程数で得られるものであり、特定の凹部を有する。