(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0012】
本実施形態に係る空気入りタイヤは、ベルト又はブレーカーの近傍に配置されるタイヤ部材のためのゴム組成物の構成に特徴があり、該ゴム組成物として、ジエン系ゴムからなるゴム成分100質量部に対し、吸油量が100〜1500ml/100gである吸油性ポリマー粒子を0.1〜20質量部含有するゴム組成物を用いる。本実施形態によれば、ベルト又はブレーカーの近傍に配置されたタイヤ部材に吸油性ポリマー粒子が配合されるので、その配合中のオイルを吸収して保持することができ、また、キャップトレッドなどの他の部位から移行してきたオイルも吸収することができる。そのため、ベルト又はブレーカーへのオイルの経時移行を軽減することができる。このことにより、ベルト又はブレーカーのエッジ部の損傷を抑制することができる。
【0013】
本実施形態において、ベルト又はブレーカーの近傍に配置されるタイヤ部材としては、キャップトレッドとベルト又はブレーカーとの間に配されるタイヤ部材や、ベルトの内周側に配されるタイヤ部材が挙げられる。例えば、ベーストレッド、カーカスプライ、ベルト又はブレーカーの外周側に設けられる補強層、及び、ベルト又はブレーカーのエッジ部の内周側に設けられるエッジ下パッドなどが挙げられる。すなわち、一実施形態に係るベルト又はブレーカーの近傍に配置されるタイヤ部材は、ベーストレッド、カーカスプライ、補強層、及び、エッジ下パッドからなる群から選択される少なくとも1種である。
【0014】
ベルト又はブレーカーの近傍に配置されるタイヤ部材として、より好ましくは、ベルト又はブレーカーに接するタイヤ部材であり、その配合中のオイルを保持して、ベルト又はブレーカーへのオイルの経時移行を、より効果的に低減することができる。
【0015】
本実施形態に係る空気入りタイヤは、ラジアルタイヤでもバイアスタイヤでもよい。ベルト及びブレーカーは、トレッドゴムとカーカスプライとの間に配置されるゴム引きコード層であり、一般に、ラジアルタイヤではベルト、バイアスタイヤではブレーカーと称される。以下、ベルトを備えたラジアルタイヤの場合について説明するが、ブレーカーを備えたバイアスタイヤについても同様である。
【0016】
図1は、空気入りタイヤの一例としての乗用車用空気入りラジアルタイヤの半断面図である。このタイヤは、左右一対のビード部(1)及びサイドウォール部(2)と、両サイドウォール部(2)間に設けられたトレッド部(3)とを備えて構成されており、一対のビード部(1)間にトロイダル状に延在するカーカスプライ(4)が設けられている。
【0017】
カーカスプライ(4)は、トレッド部(3)からサイドウォール部(2)を通り、ビード部(1)においてビードコア(5)の周りを内側から外側に折り返すことにより係止されている。カーカスプライ(4)は、有機繊維からなるカーカスコードをゴム被覆してなるタイヤ部材であり、タイヤ周方向に対し実質上直角に配列してなる少なくとも1プライで構成されている。
【0018】
カーカスプライ(4)のタイヤ内面側にはインナーライナー(6)が設けられている。インナーライナー(6)は、タイヤの内圧保持のための気体バリアゴム層であり、タイヤ内面を構成する。
【0019】
トレッド部(3)におけるカーカスプライ(4)の外周側(即ち、タイヤ半径方向外側)にはベルト(7)が配されている。ベルト(7)は、スチールコード等のベルトコードをゴム被覆してなるタイヤ部材である。ベルト(7)は、カーカスプライ(4)のクラウン部の外周に重ねて設けられており、1枚又は複数枚のベルト層で構成することができ、この例では内側の第1ベルト層(7A)と外側の第2ベルト層(7B)との2枚で構成されている。ベルト(7)は、ベルトコードをタイヤ周方向に対して一定角度で傾斜配列したものであり、2枚のベルト層(7A)(7B)間で、ベルトコードが互いに交差するように配設されている。
【0020】
ベルト(7)の外周側には、トレッドゴム(8)が設けられている。この例では、トレッドゴム(8)は、トレッド面(即ち、踏面部)をなすキャップトレッド(9)と、その内周側に設けられたベーストレッド(10)との2層で構成されている。
【0021】
ベルト(7)のエッジ部(幅方向端部)の内周側には、エッジ下パッド(11)が設けられている。エッジ下パッド(11)は、タイヤのショルダー部において、ベルト(7)のエッジ部とそのタイヤ半径方向内側のカーカスプライ(4)との間で、両者の隙間を埋めるように設けられたゴム部材である。
【0022】
図1に示すタイヤでは、ベーストレッド(10)とカーカスプライ(4)とエッジ下パッド(11)がベルト(7)と接しており、これらのベルト(7)に隣接するタイヤ部材の少なくとも一つに、上記の吸油性ポリマー粒子を含むゴム組成物を用いることが好ましい。一実施形態として、ベーストレッド(10)及び/又はカーカスプライ(4)に、該ゴム組成物を用いてもよい。
【0023】
図2は、他の実施形態に係る空気入りタイヤの断面図を示したものである。この例では、ベルト(7)の外周側において、ベルト(7)とトレッドゴム(8)との間に補強層(ベルト補強層)(12)が設けられており、この点で
図1に示す実施形態のタイヤとは異なる。
【0024】
補強層(12)は、ベルト(7)のタイヤ半径方向外側において、タイヤ周方向に沿って配列した有機繊維コードからなるものであり、該有機繊維コードをゴム被覆してなるタイヤ部材である。補強層(12)の有機繊維コードは、タイヤ周方向に実質的に平行に、すなわち略0°の角度(好ましくは5°以下の角度)で延びており、該コードがタイヤ幅方向に所定間隔で配列されている。なお、
図2に示す例では、補強層(12)を、ベルト(7)の幅方向全体を覆うキャッププライとしたが、ベルト(7)のエッジ部のみを覆うエッジプライでもよい。
【0025】
図2に示すタイヤでは、ベルト(7)の近傍に配置されるタイヤ部材として、例えば、ベーストレッド(10)、カーカスプライ(4)、補強層(12)及びエッジ下パッド(11)が挙げられ、これらの少なくとも一つに上記の吸油性ポリマー粒子を含むゴム組成物を用いることが好ましい。より好ましくは、この例では、カーカスプライ(4)と補強層(12)とエッジ下パッド(11)がベルト(7)と接しているので、これらのベルト(7)に隣接するタイヤ部材の少なくとも一つに上記の吸油性ポリマー粒子を含むゴム組成物を用いることである。このように補強層(12)を有する場合、ベーストレッド(10)の代わりに補強層(12)に、該ゴム組成物を用いてもよく、あるいはまた、ベーストレッド(10)と補強層(12)の双方に、該ゴム組成物を用いてもよい。一実施形態として、カーカスプライ(4)及び/又は補強層(12)に、該ゴム組成物を用いてもよい。
【0026】
次に、ベルト又はブレーカーの近傍に配置されるタイヤ部材のためのゴム組成物について説明する。
【0027】
該ゴム組成物において、ゴム成分として用いられるジエン系ゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)、ポリブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレン−イソプレン共重合体ゴム、ブタジエン−イソプレン共重合体ゴム、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合体ゴムなど、タイヤ用ゴム組成物において通常使用される各種ジエン系ゴムが挙げられる。これらジエン系ゴムは、いずれか1種単独で、又は2種以上ブレンドして用いることができる。より好ましくは、天然ゴム、ポリブタジエンゴム、及びスチレンブタジエンゴムよりなる群から選択される少なくとも一種である。
【0028】
一実施形態として、ゴム成分は、天然ゴム単独、又は天然ゴムと他のジエン系ゴム(例えば、ポリブタジエンゴム)とのブレンドでもよい。ブレンドの場合、ゴム成分100質量部は、30〜80質量部の天然ゴムと、20〜70質量部の他のジエン系ゴムからなるものでもよい。
【0029】
該ゴム組成物に配合する吸油性ポリマー粒子としては、吸油量が100〜1500ml/100gであるものが用いられる。このような吸油量の高い吸油性ポリマー粒子を配合することにより、配合中のオイルや隣接するゴム部材から移行してきたオイルを吸収することができる。吸油性ポリマー粒子の吸油量が100ml/100g以上であることにより、オイルの経時移行性を改良することができる。また、吸油量が1500ml/100g以下であることにより、加工性の悪化を抑えることができる。吸油量は、300〜1300ml/100gであることが好ましく、より好ましくは500〜1200ml/100gでもよく、700〜1200ml/100gでもよい。
【0030】
本明細書において、吸油量は、吸油性ポリマー粒子100g当たりの吸収可能なオイルの最大量(飽和状態での吸油量)であり、JIS K5101−13−1によって測定される値である。
【0031】
吸油性ポリマー粒子の平均粒径(吸油していない状態での平均粒径)は、特に限定されず、例えば10〜1000μmでもよく、100〜800μmでもよく、300〜700μmでもよい。ここで、平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して画像を得て、この画像を用いて、無作為抽出された50個の粒子の直径を計測することにより、その相加平均として求められる。粒子の直径は、例えば、MediaCybernetics社の画像処理ソフト「Image-Pro Plus」を用いて、粒子の外周の2点を結び、かつ重心を通る径を、2度刻みに測定した値の平均値とすることができる。
【0032】
吸油性ポリマー粒子は、上記の吸油量を持つ限り、その構成単位は特に限定されない。一実施形態として、吸油性ポリマー粒子は、その繰り返し単位としてスチレン単位とエチレン単位を含有するコポリマーでもよい。また、吸油性ポリマー粒子のガラス転移温度(Tg)も特に限定されず、例えば−50〜−70℃でもよく、−50〜−60℃でもよい。なお、ガラス転移温度は、JIS K7121に準拠して示差走査熱量測定(DSC)を用いて測定される値(昇温速度20℃/分)である。
【0033】
以上のような特性を持つ吸油性ポリマー粒子としては、名東化製(株)から「アクアN−キャップ」として市販されており、好ましく用いることができる。アクアN−キャップは、熱可塑性ブロックコポリマーからなる多孔性の顆粒状パウダーであり、吸油性熱可塑性ポリマー粒子である。アクアN−キャップは、オイルは吸収するが水は吸収しない親油疎水性を持ち、オイルをマイクロカプセル封入することができる。すなわち、オイルを吸収して膨潤(ゲル化)し、内部にオイルを保持することができる。
【0034】
該ゴム組成物中に含まれる吸油性ポリマー粒子の含有量は、上記ゴム成分100質量部に対して0.1〜20質量部であることが好ましい。この含有量が0.1質量部以上であることにより、オイルの経時移行性を改良することができる。また、この含有量が20質量部以下であることにより、加工性の悪化を抑えることができる。吸油性ポリマー粒子の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、0.3〜15質量部であることが好ましく、より好ましくは1〜10質量部である。
【0035】
該ゴム組成物には、ゴム成分及び吸油性ポリマー粒子とともに、オイルを配合することが好ましい。オイルとしては、ゴム組成物に配合される各種オイルを用いることができる。好ましくは、オイルとしては、炭化水素を主成分とする鉱物油を用いることである。すなわち、パラフィン系オイル、ナフテン系オイル、及びアロマ系オイルからなる群から選択される少なくとも1種の鉱物油を用いることが好ましい。
【0036】
該ゴム組成物中に含まれるオイルの含有量は、特に限定されず、例えば、上記ゴム成分100質量部に対して、1〜30質量部でもよく、2〜20質量部でもよく、3〜10質量部でもよい。
【0037】
一実施形態に係るゴム組成物において、吸油性ポリマー粒子とオイルは、吸油性ポリマー粒子にオイルを吸収させたオイル−ポリマー複合体として配合してもよい。すなわち、吸油性ポリマー粒子とオイルを予め混合して、吸油性ポリマー粒子にオイルを吸収させ、これにより得られたオイルを含む吸油性ポリマー粒子を、ジエン系ゴムに添加し混合するようにしてもよい。オイル−ポリマー複合体は、吸油性ポリマー粒子と、当該ポリマー粒子に吸収されたオイルとを含むものであり、これをゴム混練時に添加することにより、オイルの経時移行性の改良効果をより一層高めることができる。
【0038】
ここで、オイル−ポリマー複合体において、両成分の割合は、吸油性ポリマー粒子100質量部に対してオイルの量が30〜500質量部でもよく、50〜300質量部でもよい。
【0039】
このような好ましい一実施形態に係るゴム組成物には、オイル−ポリマー複合体とともに、別途、吸油性ポリマー粒子及び/又はオイルを配合してもよく、配合しなくてもよい。好ましくは、吸油性ポリマー粒子の50質量%以上(より好ましくは80質量%以上)は、オイル−ポリマー複合体として配合することである。いずれにしても、オイル−ポリマー複合体を配合する場合において、ゴム組成物中に含まれる吸油性ポリマー粒子及びオイルの含有量(複合体由来ではないものも含む含有量)は、上述したオイル−ポリマー複合体を用いない場合と同様、次の通りである。すなわち、該ゴム組成物中に含まれる吸油性ポリマー粒子の含有量は、上記ゴム成分100質量部に対して0.1〜20質量部であり、好ましくは0.3〜15質量部であり、より好ましくは1〜10質量部である。また、該ゴム組成物中に含まれるオイルの含有量は、上記ゴム成分100質量部に対して、1〜30質量部でもよく、2〜20質量部でもよく、3〜10質量部でもよい。
【0040】
本実施形態に係るゴム組成物には、上記した各成分に加え、通常のゴム工業で使用されているカーボンブラックやシリカなどの補強性充填剤、亜鉛華、ステアリン酸、ワックス、老化防止剤(アミン−ケトン系、芳香族第2アミン系、フェノール系、イミダゾール系等)、加硫剤、加硫促進剤(グアニジン系、チアゾール系、スルフェンアミド系、チウラム系等)などの配合薬品類を通常の範囲内で適宜配合することができる。
【0041】
補強性充填剤としてのカーボンブラックとしては、特に限定されず、公知の種々の品種を用いることができる。例えば、SAF級(N100番台)、ISAF級(N200番台)、HAF級(N300番台)、FEF級(N500番台)、GPF級(N600番台)(ともにASTMグレード)のものが好ましく用いられる。これら各グレードのカーボンブラックは、いずれか1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0042】
シリカとしても、特に限定されないが、湿式沈降法シリカや湿式ゲル法シリカなどの湿式シリカが好ましく用いられる。シリカを配合する場合、スルフィドシラン、メルカプトシランなどのシランカップリング剤を併用することが好ましく、その配合量はシリカ配合量に対して2〜20質量%であることが好ましい。
【0043】
カーボンブラック及び/又はシリカからなる補強性充填剤の配合量は、特に限定されず、例えば、上記ゴム成分100質量部に対して、10〜150質量部でもよく、20〜100質量部でもよく、30〜80質量部でもよい。補強性充填剤としては、好ましくは、カーボンブラック単独である。
【0044】
上記加硫剤としては、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などの硫黄が挙げられ、特に限定するものではないが、その配合量は上記ゴム成分100質量部に対して0.1〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。また、加硫促進剤の配合量としては、ジエン系ゴム100質量部に対して0.1〜7質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。
【0045】
本実施形態に係る空気入りタイヤの製造方法は、上記のゴム組成物を作製する工程と、得られたゴム組成物をベルト又はブレーカーの近傍に配置されるタイヤ部材に用いて未加硫タイヤ(グリーンタイヤ)を作製する工程と、得られた未加硫タイヤを加硫成型する工程とを含む。
【0046】
ゴム組成物の製造方法としては、通常に用いられるバンバリーミキサーやニーダー、ロール等の混合機を用いて、常法に従い混練する方法が挙げられる。例えば、ノンプロ練り工程で、ゴム成分に対し、吸油性ポリマー粒子及びオイルとともに、加硫剤及び加硫促進剤を除く他の添加剤を添加混合し、次いで、得られた混合物に、プロ練り工程で加硫剤及び加硫促進剤を添加混合してゴム組成物を調製することができる。
【0047】
吸油性ポリマー粒子とオイルは、ノンプロ練り工程において、それぞれゴム成分に添加して混合してもよく、あるいはまた、上記のように吸油性ポリマー粒子にオイルを吸収させたオイル−ポリマー複合体(即ち、吸油性ポリマー粒子とオイルの混合物)を、ジエン系ゴムからなるゴム成分に添加し混合してもよい。また、オイル−ポリマー複合体を添加するとともに、追加のオイル及び/又は吸油性ポリマー粒子を添加し混合してもよい。オイル−ポリマー複合体の作製方法としては、例えば、攪拌機を用いてオイルと吸油性ポリマー粒子を撹拌混合し、所定時間放置する方法が挙げられる。
【0048】
未加硫タイヤを作製する工程においては、ゴム組成物をベルト又はブレーカーの近傍に配置されるタイヤ部材に用いて、常法に従い、押出加工等によって所定の形状に成形して未加硫のタイヤ部材を作製し、該タイヤ部材を他の部材と組み合わせて未加硫タイヤを作製すればよい。その際、例えば、カーカスプライや補強層に該ゴム組成物を用いるときには、カーカスコードや有機繊維コードを被覆するトッピングゴムとして上記ゴム組成物を用いればよい。
【0049】
得られた未加硫タイヤを用いて、常法に従い、成形型内において、例えば140〜180℃で加硫成型することにより、空気入りタイヤを製造することができる。
【0050】
本実施形態に係る空気入りタイヤとしては、乗用車用タイヤ、トラックやバスの重荷重用タイヤなど各種用途及び各種サイズの空気入りタイヤが挙げられる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0052】
実施例における、キャップトレッド、ベーストレッド、ベルト用被覆ゴム、カーカスプライ用被覆ゴム、及び、インナーライナーについての基本配合を、表1〜5に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
【表3】
【0056】
【表4】
【0057】
【表5】
【0058】
[第1実施例]
上記表1及び3〜5に従って、キャップトレッド、ベルト用被覆ゴム、カーカスプライ用被覆ゴム、及び、インナーライナーの各ゴム組成物を調製した。また、下記表6に示す配合(質量部)に従って、ベーストレッド用ゴム組成物を調製した。ゴム組成物の調製は、バンバリーミキサーを使用し、まずノンプロ練り工程で、ジエン系ゴムに対し、硫黄及び加硫促進剤を除く他の配合剤を添加し混練(排出温度=160℃)し、次いで、得られた混練物に、プロ練り工程で、硫黄と加硫促進剤を添加し混練(排出温度=90℃)することにより行った。表6に示す配合は、表2に示す配合Bを基本配合としたものであり(比較例1が基本配合B)、それ以外の配合剤については、以下の通りである。
【0059】
・吸油性ポリマー粒子:名東化製(株)製「アクアN−キャップ」(吸油量:1000ml/100g、Tg:−56℃、平均粒径:500μm)
・複合体1(オイル−ポリマー複合体):パラフィンオイル(JX日鉱日石エネルギー(株)製「プロセスP200」)5質量部と吸油性ポリマー粒子(アクアN−キャップ)5質量部を予め混ぜ合わせて、24時間放置したもの。混合は、オイルと吸油性ポリマー粒子を所定の容器に投入し、一般的なプロペラ型羽根撹拌機により撹拌することにより実施(回転数:60min
-1、温度:50℃、時間:3min)。
【0060】
・ポリメタクリル酸メチル:東京化成工業(株)製「ポリメタクリル酸メチル」(吸油量:46.8ml/100g)
・油ゲル化剤:N−ラウロイル−L−グルタミン酸−α,γ−ジ−n−ブチルアミド、味の素(株)製「コアギュランGP−1」
【0061】
得られたベーストレッド用ゴム組成物について、加工性を評価した。また、上記で調製したキャップトレッド、ベルト用被覆ゴム、カーカスプライ用被覆ゴム、及びインナーライナーの各ゴム組成物とともに、表6に示す各配合のベーストレッド用ゴム組成物を用いて、上記の
図1に示す構造を持つ乗用車用空気入りラジアルタイヤ(サイズ:195/65R15)を、常法に従い加硫成型することにより作製して、ベルトへのオイル移行度を評価した。各評価方法は以下の通りである。
【0062】
・加工性(ムーニー粘度):JIS K6300に準拠して、東洋精機(株)製ロータレスムーニー測定機を用い、未加硫ゴムを100℃で1分間予熱後、4分後のトルク値をムーニー単位で測定し、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が大きいほど、ムーニー粘度が高く、加工性に劣ることを示す。±5%超で明確な差があるといえる。
【0063】
・オイル移行度:タイヤを製造後、70℃及び168時間の条件下に空気加熱老化処理を行った。老化処理後のタイヤよりベルトの被覆ゴムをサンプリングし、JIS K6229:2015に準拠したアセトン抽出法により、オイル量を求めた。比較例1のタイヤの老化処理後におけるベルト被覆ゴムのオイル量を基準とし、(老化処理後のオイル抽出量/比較例1の老化処理後のオイル抽出量)×100により熱老化に伴うベルト被覆ゴムへのオイル移行度を算出した。この指数が小さいほど、熱老化に伴うベルト被覆ゴムへのオイル移行が抑制されたことを意味する。−5%以下で効果に明確な差があるといえる。
【0064】
結果は表6に示す通りである。コントロールである比較例1に対し、吸油量の小さいポリメタクリル酸メチルを添加した比較例2では、ベルトへのオイル移行抑制効果はほとんどみられなかった。アミノ酸系油ゲル化剤を配合した比較例3では、オイル移行抑制効果が得られないだけでなく、加工性が大幅に悪化した。
【0065】
これに対し、吸油量の高い吸油性ポリマー粒子をベーストレッドに配合した実施例1〜3であると、比較例1に対して、加工性の悪化を伴うことなく、ベルトへのオイル移行抑制効果が得られた。これは、吸油性ポリマー粒子をベーストレッドに配合したことにより、オイル含有量の高いキャップトレッドからベルトへのオイル移行が、キャップトレッドとベルトとの間に介在するベーストレッドにより阻害されたためと考えられる。すなわち、キャップトレッドはベーストレッドよりもオイル含有量が高いため、オイルはキャップトレッドからベーストレッドを経てベルトに移行しようとするが、この移行してきたオイルをベーストレッドに配合された吸油性ポリマー粒子が吸収するので、ベルトへのオイルの移行が抑制される。また、もともとベーストレッドに配合されたオイルについても、吸油性ポリマー粒子に吸収されることで、ベーストレッド中に保持されるため、ベルトへの経時移行が抑制されたものと考えられる。
【0066】
オイル−ポリマー複合体を用いた実施例4では、吸油性ポリマー粒子の配合量が同じ実施例1に比べて、ベルトへのオイル移行抑制効果により優れていた。なお、実施例1〜3と比較例5との対比により、吸油性ポリマー粒子の配合量が多すぎると、加工性が悪化していた。
【0067】
【表6】
【0068】
[第2実施例]
上記表1〜3及び5に従って、キャップトレッド、ベーストレッド、ベルト用被覆ゴム、及び、インナーライナーの各ゴム組成物を調製した。また、下記表7に示す配合(質量部)に従って、カーカスプライ用被覆ゴムのためのゴム組成物を調製した。ゴム組成物の調製は、第1実施例と同様の手法による。表7に示す配合は、表4に示す配合Dを基本配合としたものであり(比較例6が基本配合D)、それ以外の配合剤については、以下の通りである。
【0069】
・吸油性ポリマー粒子及びポリメタクリル酸メチル:第1実施例と同じ
・複合体2(オイル−ポリマー複合体):パラフィンオイル(JX日鉱日石エネルギー(株)製「プロセスP200」)10質量部と吸油性ポリマー粒子(アクアN−キャップ)5質量部を予め混ぜ合わせて、24時間放置したもの。混合方法は、複合体1と同じ。
【0070】
得られたカーカスプライ用被覆ゴムのためのゴム組成物について、加工性を評価した。また、上記で調製したキャップトレッド、ベーストレッド、ベルト用被覆ゴム、及びインナーライナーの各ゴム組成物とともに、表7に示す各配合のカーカスプライ用被覆ゴムのためのゴム組成物を用いて、上記の
図1に示す構造を持つ乗用車用空気入りラジアルタイヤ(サイズ:195/65R15)を、常法に従い加硫成型することにより作製して、ベルトへのオイル移行度を評価した。各評価方法は、第1実施例と同じであるが、加工性については比較例6の値を100とした指数で表示し、オイル移行度については比較例6のタイヤの老化処理後におけるベルト被覆ゴムのオイル量を基準として算出した。
【0071】
結果は表7に示す通りであり、ベルトの内周側に位置するカーカスプライに吸油性ポリマー粒子を配合した場合においても、外周側のベーストレッドに配合した第1実施例の場合と同様、加工性の悪化を伴うことなく、ベルトへのオイル移行抑制効果が得られた。
【0072】
【表7】