(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施形態の加硫成型金型について図面に基づき説明する。なお
図5〜
図6において、
図1〜
図4と共通する部分には
図1〜
図4の符号と同じ符号が付してある。本実施形態では加硫成型金型として空気入りタイヤの加硫成型に用いられるタイヤ加硫成型金型10を例示する。
【0011】
図1に本実施形態のタイヤ加硫成型金型10を示す。タイヤ加硫成型金型10は、周上に並べられた複数のセクター12と、複数のセクター12が形成する円周の軸方向両側に設けられた一対のサイドプレート14と、同じく一対のビードリング16とを備える。セクター12、サイドプレート14、ビードリング16は、空気入りタイヤを成型する成型部材である。複数のセクター12は主にタイヤのトレッド部を、一対のサイドプレート14はタイヤのサイド部を、一対のビードリング16はタイヤのビード部を、それぞれ成型する。セクター12の材料は、限定されないが、例えばアルミニウム又はアルミニウム合金(例えばAl−Cu系、Al−Mg系、Al−Mn系、Al−Si系の合金)である。またサイドプレート14及びビードリング16の材料は、限定されないが、例えば、一般構造用圧延鋼材(例えばSS400)等の鋼材である。サイドプレート14の材料とビードリング16の材料とは同じであっても良いし異なっても良い。セクター12、サイドプレート14、ビードリング16は、加硫成型時には、図示しない電気ヒータや高温蒸気により加硫成型温度(例えば130〜200℃のうちのいずれかの温度)に熱せられる。
【0012】
成型部材であるセクター12及びサイドプレート14には複数のプラグ取付け孔20が設けられている。プラグ取付け孔20は断面円形で金型内側から金型外側に向かって延びている孔である。プラグ取付け孔20はセクター12及びサイドプレート14の金型内側の面(成型面)及び金型外側の面に開口している。従ってプラグ取付け孔20によって金型内側の空間と金型外側の空間とが連通している。プラグ取付け孔20は成型面のうち加硫成型の際に最後まで空気が残る場所に開口している。
【0013】
このプラグ取付け孔20に中空円筒状のベントプラグ30が嵌合されている。ベントプラグ30の長手方向(ベントプラグ長手方向)はプラグ取付け孔20の延びる方向と一致している。
【0014】
図2に示すように、ベントプラグ30の外径は、その長手方向のほとんどの領域において一定であるが、前端部36側(
図2の左側)の所定長さの範囲内では、前端部36側に行くほど外径が小さくなるテーパ状となっている。ベントプラグ30のこの範囲内の部分をテーパ部31とする。ベントプラグ30の外径は、限定されないが、例えば2.3〜3.0mmである。
【0015】
ベントプラグ30にはその長手方向に延びる通気孔32が開けられている。通気孔32はベントプラグ30の後端部34及び前端部36において開口している。そのため、通気孔32を通過してベントプラグ30の後端部34側から前端部36側へ(またその逆へも)空気が流れる。通気孔32の内径は、限定されないが、例えば0.6mm程度である。なお、後端部34はベントプラグ30がプラグ取付け孔20に嵌合したときに金型内側になる方の端部で、前端部36はベントプラグ30がプラグ取付け孔20に嵌合したときに金型外側になる方の端部である。
【0016】
また、ベントプラグ30の後端部34から前端部36側に向かって窪んでいる座ぐり部33が設けられている。座ぐり部33は前端部36側に行くほど内径が小さくなるテーパ状となっている。座ぐり部33はその前端部36側の端部において通気孔32と連続している。通気孔32の中心軸と座ぐり部33の中心軸とは一致している。座ぐり部33の深さL(座ぐり部33のベントプラグ長手方向の長さ)は、限定されないが、例えば1.0mm程度である。
【0017】
ベントプラグ30の外径面側には凹部40が設けられている。
図3に示すように、本実施形態における凹部40はベントプラグ30の周方向(ベントプラグ周方向)に一周している。ベントプラグ30は、凹部40のベントプラグ長手方向両側では外径が同一となっている。この凹部40のベントプラグ長手方向両側の部分は、プラグ取付け孔20へ嵌合される嵌合部46、47である。ベントプラグ30の外径は、後端部34側の嵌合部46(後側の嵌合部46とする)において一定であり、前端部36側の嵌合部47(前側の嵌合部47とする)においても一定である。そして後側の嵌合部46と前側の嵌合部47の外径は同じである。嵌合部46、47の外径はプラグ取付け孔20の内径より僅かに大きい。ベントプラグ30がプラグ取付け孔20に嵌合すると、後側の嵌合部46の外径面46a及び前側の嵌合部47の外径面47aは、プラグ取付け孔20の内径面に接する。
【0018】
凹部40のベントプラグ長手方向の長さM(
図2参照)は、後側の嵌合部46のベントプラグ長手方向の長さよりも短く、また前側の嵌合部47のベントプラグ長手方向の長さよりも短い。より好ましい形態としては、凹部40のベントプラグ長手方向の長さMは、ベントプラグ30の後端部34から凹部40の金型内側端部40aまでの長さの20%以上40%以下の長さである。
【0019】
図2の凹部40付近を拡大した
図4に示すように、凹部40は前端部36側の側壁(前側の側壁41aとする)と後端部34側の側壁(後側の側壁41bとする)と底面41cとにより形成されている。前側の側壁41aは前側の嵌合部47の外径面47aとの間で面取りの無い角部42を形成している。
図2及び
図4の実施形態では、前側の側壁41aと前側の嵌合部47の外径面47aとは直角に交わっている。一方、後側の側壁41bは後側の嵌合部46の外径面46aとの間で面取り部44を形成している。面取り部44は、
図2及び
図4ではベントプラグ長手方向の断面上で曲線を描いているが、
図5(a)に示す面取り部144のようにベントプラグ長手方向の断面上で直線を描くものであっても良い。
【0020】
ここで面取り部とは、
図4のように後側の側壁41bの少なくともベントプラグ径方向外側の部分がベントプラグ長手方向の断面上で曲線を描く場合は、その曲線を描く部分のことである。また面取り部とは、
図5(a)のように後側の側壁41bの少なくともベントプラグ径方向外側の部分がベントプラグ長手方向の断面上で直線を描く場合であって、その直線を描く部分と後側の嵌合部46の外径面46aとのなす角が、前側の側壁41aと前側の嵌合部47の外径面47aとのなす角より大きい場合は、その直線を描く部分のことである。
【0021】
面取り部44の深さN(すなわちベントプラグ径方向の長さ、
図4参照)は、凹部40の深さO(
図4参照)の0.5倍以上1.0倍以下であることが望ましい。つまり、凹部40の後側の側壁41bは、そのベントプラグ径方向外側の半分以上の部分が面取り部44となっていることが望ましく、
図5(b)に示すように後側の側壁41b全体が面取り部244となっていても良い。なお凹部40のベントプラグ径方向の深さは、限定されないが、例えば0.05mm以上0.30mm以下である。
【0022】
凹部40は、ベントプラグ30の後端部34から、ベントプラグ長手方向に、座ぐり部33の深さLの2倍以上の長さだけ離れていることが望ましい。また凹部40は、後側の嵌合部46の後端部34側の端部46bと前側の嵌合部47の前端部36側の端部47bとの中心より後端部34側にあることが望ましい。
【0023】
ベントプラグ30は、それが設けられる成型部材の材料よりも硬度が大きく熱膨張率が小さい材料からなることが望ましい。例えば、SS400であればアルミニウムよりも硬度が大きく熱膨張率が小さい。そこで、アルミニウム製のセクター12にベントプラグ30が設けられる場合は、ベントプラグ30の材料の1つの候補としてSS400が挙げられる。
【0024】
以上の構造のベントプラグ30は、まずそのテーパ部31がプラグ取付け孔20に金型内側から入れられ、次にハンマー等で通気孔32に完全に納まるまで打ち込まれる。その結果ベントプラグ30は締め付けられるようにしてプラグ取付け孔20に嵌合する。
【0025】
ベントプラグ30が設けられたタイヤ加硫成型金型10で空気入りタイヤの加硫成型が行われる際は、タイヤ加硫成型金型10の内部に未加硫タイヤがセットされる。そして、セットされた未加硫タイヤの内側に配置されている図示しないブラダーが膨張し、未加硫タイヤの表面が成型面に押し当てられる。またセクター12等の成型部材が上記の加硫成型温度に保持される。すると、タイヤ加硫成型金型10の内部に残っていた空気は、ベントプラグ30の通気孔32を通ってタイヤ加硫成型金型10の外部へ逃げる。その後続けて、未加硫タイヤのゴムがベントプラグ30の通気孔32に侵入する。加硫成型後の空気入りタイヤの表面には通気孔32に侵入したゴムからなるヒゲ状のスピューが形成されている。スピューの根元は、テーパ状の座ぐり部33に侵入したゴムからなる部分で太くなって補強されている。そのため加硫成型後にタイヤ加硫成型金型10から空気入りタイヤを取り出すと、スピューが根元で切れずに通気孔32から抜き出される。ベントプラグ30の通気孔32がゴムで詰まった場合は、ベントプラグ30が交換される。
【0026】
ここで、ベントプラグ30がプラグ取付け孔20に嵌合されてセクター12等の成型部材及びベントプラグ30が上記の加硫成型温度に上昇すると、成型部材が熱膨張し、プラグ取付け孔20の内径面が内径側に膨らんで、ベントプラグ30の凹部40に入り込む。するとベントプラグ30がプラグ取付け孔20から抜けにくくなる。また、成型部材及びベントプラグ30の温度上昇が何度も行われると、プラグ取付け孔20の内径面が内径側に膨らんだ状態が常態化し、常温においてもベントプラグ30がプラグ取付け孔20から抜けにくくなる。
【0027】
本実施形態のベントプラグ30が奏する効果は次の通りである。本実施形態のベントプラグ30には凹部40が設けられ、凹部40のベントプラグ長手方向両側には外径が同一の嵌合部46、47が設けられているため、まず、嵌合部46、47がプラグ取付け孔20にしっかりと嵌合される。さらに、凹部40にはプラグ取付け孔20の内径面が内径側に熱膨張して入り込むため、ベントプラグ30はプラグ取付け孔20の内部でベントプラグ長手方向に移動しにくくなる。これらのことから本実施形態のベントプラグ30はプラグ取付け孔20から抜けにくくなる。また、このようにベントプラグ30はプラグ取付け孔20から抜けにくいため、ベントプラグ30の外径をプラグ取付け孔20の内径より相当大きくしてベントプラグ30をプラグ取付け孔20に強く打ち込む必要が無い。そのためベントプラグ30が打ち込まれてもプラグ取付け孔20の周辺部分は変形しにくい。
【0028】
また、凹部40の後側の側壁41bが後側の嵌合部46の外径面46aとの間で面取り部44を形成しているため、面取り部44が無い場合と比較して、ベントプラグ30がプラグ取付け孔20に対して金型外側に向かって打ち込まれる際に、後側の側壁41bとプラグ取付け孔20の内径面との間で引っ掛かりが生じにくい。そのためベントプラグ30がプラグ取付け孔20に対してスムーズに打ち込まれる。一方、前側の側壁41aが前側の嵌合部47の外径面47aとの間で面取りの無い角部42を形成しているため、ベントプラグ30がプラグ取付け孔20に嵌合している状態では、この角部42とプラグ取付け孔20の内径面との間に引っ掛かりが生じている。そのためベントプラグ30はプラグ取付け孔20から金型内側へ抜けにくい。ここで、凹部40がベントプラグ周方向に一周しているため、角部42とプラグ取付け孔20の内径面との引っ掛かりの効果が大きい。
【0029】
また、ベントプラグ30の硬度がプラグ取付け孔20が形成されているセクター12等の成型部材の硬度よりも大きいため、ベントプラグ30はプラグ取付け孔20を押し広げながらスムーズに打ち込まれ、しかもベントプラグ30の通気孔32が潰れない。またセクター12等の成型部材の熱膨張率がベントプラグ30の熱膨張率よりも大きいため、ベントプラグ30の凹部40にプラグ取付け孔20の内径面が内径側に熱膨張して入り込み易い。
【0030】
また、凹部40のベントプラグ長手方向の長さMが、後側の嵌合部46のベントプラグ長手方向の長さよりも短く、また前側の嵌合部47のベントプラグ長手方向の長さよりも短いため、嵌合部46、47のプラグ取付け孔20への嵌合のための長さが十分確保され、ベントプラグ30がプラグ取付け孔20から抜けにくい。
【0031】
また本実施形態のタイヤ加硫成型金型10は、そのプラグ取付け孔20に上記の特徴を有するベントプラグ30が嵌合しているため、ベントプラグ30が抜ける不具合が生じにくい。
【0032】
また凹部40が、ベントプラグ30の後端部34から、ベントプラグ長手方向に、座ぐり部33の深さLの2倍以上の長さだけ離れていれば、凹部40の周辺及び座ぐり部33の周辺においてベントプラグ30の厚みが十分確保される。また、凹部40のベントプラグ径方向の深さが0.05mm以上0.30mm以下であれば、凹部40の上記効果を奏するために必要な深さが十分確保され、また凹部40が深過ぎることなく凹部40のベントプラグ径方向内側でベントプラグ30の厚みが確保され強度が確保される。
【0033】
以上の実施形態に対して、発明の要旨を逸脱しない範囲で、様々な変更、置換、省略等を行うことができる。まず、本実施形態のベントプラグ30は、空気入りタイヤだけでなく、様々なゴム製品の加硫成型金型に用いることができる。
【0034】
また、ベントプラグの凹部の形状は、上記実施形態のものに限定されない。例えば、
図5(c)に示す凹部240のように、凹部には面取り部が無いものも含まれる。ちなみに
図5(c)の凹部240の形状は、長手方向の断面上で面取り部の無い矩形である。また
図5(d)に示す凹部340の形状は、長手方向の断面上で半円形である。このようにベントプラグの凹部には様々な形状のものが含まれる。
【0035】
また、ベントプラグの凹部は、上記実施形態のようにベントプラグ周方向に一周していなくても良い。例えば
図6に示す凹部440のように、凹部はベントプラグ周方向の複数箇所(4箇所以上が望ましい)に設けられていても良い。その場合、凹部とプラグ取付け孔の内面との引っ掛かりが均等に生じるように、複数の凹部はベントプラグ周方向に等間隔で設けられていることが望ましい。またベントプラグの周方向に一周する凹部が2本以上設けられていても良い。