特許第6651372号(P6651372)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6651372-Sb含有残渣の処理方法 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6651372
(24)【登録日】2020年1月24日
(45)【発行日】2020年2月19日
(54)【発明の名称】Sb含有残渣の処理方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 30/02 20060101AFI20200210BHJP
   C22B 15/00 20060101ALI20200210BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20200210BHJP
   C22B 3/10 20060101ALI20200210BHJP
   C22B 3/12 20060101ALN20200210BHJP
【FI】
   C22B30/02
   C22B15/00 105
   C22B3/44 101A
   C22B3/10
   !C22B3/12
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-21205(P2016-21205)
(22)【出願日】2016年2月5日
(65)【公開番号】特開2017-137557(P2017-137557A)
(43)【公開日】2017年8月10日
【審査請求日】2017年11月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】500483219
【氏名又は名称】パンパシフィック・カッパー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100134511
【弁理士】
【氏名又は名称】八田 俊之
(72)【発明者】
【氏名】竹林 一彰
(72)【発明者】
【氏名】後田 智也
(72)【発明者】
【氏名】古薗 隆洋
【審査官】 神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−231397(JP,A)
【文献】 特開昭60−056030(JP,A)
【文献】 特開2012−246198(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 11/00−11/04
B01D 21/00−21/34
C02F 1/52−1/66
C02F 1/70−1/78
C22B 1/00−61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅製錬工程の銅電解澱物を脱銅浸出したSb含有残渣を塩酸と過酸化水素とにより塩化浸出し、塩化浸出反応時の塩酸濃度が4mol/Lを上回るように調整する工程と、
塩化浸出後液から塩化銀を分離し、塩化銀を分離後のアンチモンを含む塩化浸出後液を、希釈して塩酸濃度が4mol/L以下となるように調整して、鉛とアンチモンとを含む析出物を沈殿させる工程と、
前記析出物をアルカリ浸出後、固液分離により鉛とアンチモンを含むアルカリ浸出残渣を得る工程と、
を有することを特徴とするSb含有残渣の処理方法。
【請求項2】
前記塩化浸出反応時の塩酸濃度が5mol/L以上となるように調整することを特徴とする請求項1に記載のSb含有残渣の処理方法。
【請求項3】
前記塩化銀を分離後のアンチモンを含む塩化浸出後液を、塩酸濃度が3mol/L以下となるように調整することを特徴とする請求項1に記載のSb含有残渣の処理方法。
【請求項4】
前記塩化銀を分離後のアンチモンを含む塩化浸出後液を冷却することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のSb含有残渣の処理方法。
【請求項5】
前記塩化銀を分離後のアンチモンを含む塩化浸出後液を液温が50℃未満となるよう冷却することを特徴とする請求項4記載のSb含有残渣の処理方法。
【請求項6】
前記塩化銀を分離後のアンチモンを含む塩化浸出後液を液温が25℃以下となるよう冷却することを特徴とする請求項4記載のSb含有残渣の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Sb含有残渣の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、非鉄金属製錬事業において、リサイクル原料の比率が高まり、付随する希少有価物を効率的に分離回収する必要性が高まっている。アンチモン(Sb)は、電子基板屑等の発火を防ぐための難燃助剤として添加されており、銅製錬工程へのインプット量が増えてきている金属の一つである。
【0003】
アンチモンは溶錬工程でマットとスラグへと分配され、その後、マットは精製されアノードに鋳造される。アノードは電解工程で電気分解されるが、電気分解の際、アノードが含有するアンチモンの一部が電解液へと溶出し、残りが不溶性のアンチモン化合物として銅電解澱物へと分配される。銅電解澱物には貴金属が濃縮されているため、銅電解澱物の処理過程で発生したアンチモンを含む残渣は、貴金属の逸損を防ぐ目的で溶錬工程へ再投入される。
【0004】
湿式法による銅電解澱物の処理工程では、まず銅電解澱物を硫酸浴中で酸化浸出して銅を分離する。次に、脱銅した銅電解澱物を塩酸と過酸化水素とにより浸出し、金、白金、パラジウム、セレン、テルル、アンチモン、鉛を溶解し、銀を塩化銀として分離して鉄により還元する(特許文献1〜2)。
【0005】
塩化銀を分離した塩化浸出後液については、後工程において槽内や配管内で不純物が析出するのを避けるため、また製品の品質を高めるため、事前に塩酸濃度と液温とを下げることで、アンチモン、鉛、テルルの溶解度を下げ、生成した析出物を分離する。アンチモン、鉛、テルルの析出物は、アルカリ浸出工程でテルルを溶解し、硫酸で中和することで粗二酸化テルルを回収する。アンチモンと鉛は溶解せず残渣として回収され自溶炉へ再投入される(特許文献3)。
【0006】
塩化浸出後液からアンチモン、鉛、テルルを分離した濾液からは、金、白金、パラジウム、セレン、テルルなどが各々分離回収される。一方、分離できなかった成分を含む排液は中和された後、自溶炉へ再投入される(特許文献1〜2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−316735号公報
【特許文献2】特開2001−316736号公報
【特許文献3】特開2011−68528号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
塩化浸出工程では、アンチモンの一部が塩化銀へと分配されてしまうため、次の析出工程でアンチモンの回収率が下がってしまう。
【0009】
また、アルカリ浸出工程では、テルルを浸出後の、アンチモンを含むアルカリ浸出残渣が自溶炉へと再投入されており、溶錬工程へのアンチモンの再投入量が増加してしまう。
【0010】
本発明は上記の課題に鑑み、Sb含有残渣からのSb回収効率を向上させる、Sb含有残渣の処理方法を提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るSb含有残渣の処理方法は、銅製錬工程の銅電解澱物を脱銅浸出したSb含有残渣を塩酸と過酸化水素とにより塩化浸出し、塩化浸出反応時の塩酸濃度が4mol/Lを上回るように調整する工程と、塩化浸出後液から塩化銀を分離し、塩化銀を分離後のアンチモンを含む塩化浸出後液を、希釈して塩酸濃度が4mol/L以下となるように調整して、鉛とアンチモンとを含む析出物を沈殿させる工程と、前記析出物をアルカリ浸出後、固液分離により鉛とアンチモンを含むアルカリ浸出残渣を得る工程とを有することを特徴とする。
【0012】
この場合において、塩化浸出反応時の塩酸濃度が5mol/L以上となるように調整してもよい。前記塩化銀を分離後のアンチモンを含む塩化浸出後液を、塩酸濃度が3mol/L以下となるように調整してもよい。
【0013】
前記塩化銀を分離後のアンチモンを含む塩化浸出後液を冷却してもよい。この場合、前記塩化銀を分離後のアンチモンを含む塩化浸出後液を液温が50℃未満となるよう冷却してもよい。または、前記塩化銀を分離後のアンチモンを含む塩化浸出後液を液温が25℃以下となるよう冷却してもよい
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るSb含有残渣の処理方法によれば、Sb含有残渣からのSb回収効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】銅電解澱物の処理工程を表す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、銅電解澱物の処理工程を表す工程図である。図1で例示するように、出発原料は、銅電解澱物である。
【0017】
(脱銅工程)
銅電解澱物には各種有価物が濃縮されている。この銅電解澱物を硫酸浴にリパルプし、空気を吹き込み酸化浸出することで、銅電解澱物が脱銅される。銅電解澱物中のアンチモン(Sb)は酸化物となり、脱銅した澱物中に留まる。
【0018】
(塩化浸出工程)
脱銅した澱物に対しては、塩酸と過酸化水素とによる塩化浸出を行う。以下の化学反応式に示すとおり、アンチモンは過酸化水素と反応し溶解する。
SbO+H→HSbO+H
塩化物沈殿を生じる金属としては銀、鉛、及びアンチモンがある。
【0019】
塩酸濃度が4mol/Lを上回ると、アンチモン及び鉛の溶解度が非常に大きくなる。そこで、塩化浸出反応時の塩酸濃度を4mol/Lを上回るように調整する。それにより、アンチモン及び鉛と塩化銀との分離性を良くすることができる。塩化浸出反応時の塩酸濃度を4mol/Lを上回るように調整することで、塩化浸出後液の塩酸濃度も4mol/Lを上回るようになる。それにより、塩化浸出後液においても、アンチモンを溶解させておくことができる。なお、塩化浸出反応時の塩酸濃度は、5mol/L以上が好ましく、6mol/L以上がより好ましい。
【0020】
塩化銀とアンチモンとの分離は、塩化浸出後液の温度が高いほど分離性が良くなるため、50℃以上に保持しながら行うと効果が高い。
【0021】
(析出工程)
次に、塩化浸出後液から塩化銀を分離し、塩化銀を分離後の塩化浸出後液の塩酸濃度を希釈等により4mol/L以下になるよう調整する。これにより、鉛及びアンチモンの溶解度が小さくなり、鉛及びアンチモンが沈殿析出する。なお、塩化銀を分離後の塩化浸出後液の塩酸濃度は、3mol/L以下が好ましく、2mol/L以下がより好ましい。さらに、塩化浸出後液を冷却してもよい。この場合、冷却による塩化浸出後液の液温は50℃未満が好ましく、25℃以下がより好ましく、5℃以下がさらに好ましい。これにより、鉛及びアンチモンの溶解度をさらに小さくすることができる。冷却による塩化浸出後液の温度に特に下限はなく、塩化浸出後液が凍結しない範囲であればよい。塩化浸出後液から沈殿析出した析出物をX線回折分析した結果、鉛の形態は塩化鉛、アンチモンの形態は酸化物、あるいはテルル化合物であると推定される。
【0022】
(アルカリ浸出)
析出した、鉛とアンチモンとを含む析出物は、テルルやセレンを含有している。このためアルカリ浸出を施し、テルルとセレンを溶解分離する。浸出条件は、30〜60g/LのNaOHからなる80℃のアルカリ溶液で浸出するのがよい。スラリー濃度は100〜200g/Lであり、かつ浸出時間が2〜4時間である。この方法により、セレンとテルルを浸出することができ、浸出残渣中にアンチモンを濃縮することができる(特許文献3)。この浸出残渣がアルカリ浸出残渣である。
【0023】
(還元工程)
アルカリ浸出残渣には水分が含まれていることから、乾燥によって水分量を低減する。例えば、アルカリ浸出残渣をコルゲート缶などに入れ、蒸気熱を用いた乾燥設備等で乾燥を行う。次に、乾燥後のアルカリ浸出残渣を溶解炉に投入し、アルカリ浸出残渣に対して重量比で0〜10%のコークスを溶解炉に投入する。このとき、スラグ形成に必要なナトリウム量をアルカリ浸出残渣中のナトリウムで確保できないときは、アルカリ浸出残渣とともにソーダ灰(無水炭酸ソーダ)を投入してもよい。溶解炉の温度は、1000℃±100℃とすることが好ましい。この場合、溶解炉内が弱還元雰囲気となる。弱還元雰囲気では、アルカリ浸出残渣に含まれるアンチモン酸ソーダ(NaSbO)が酸化ナトリウムと酸化アンチモン(Sb、Sb)とに分解すると推定される。アンチモン酸ソーダ(NaSbO)の融点が1427℃であるのに対して、Sbの融点:656℃およびSbの融点:380℃が低くなっている。また、SbおよびSbの融点は、上記溶解炉の温度よりも低くなっている。したがって、アルカリ浸出残渣の溶解を促進することができる。
【0024】
また、上記コークスの添加によって、アルカリ浸出残渣を還元することができる。還元によって、アルカリ浸出残渣中の塩化成分から塩素が除去され、溶融メタルと、溶融スラグとに分離する。溶融メタルには、Sb,Pb,Agなどが含まれる。溶融スラグには、アルカリ浸出残渣やソーダ灰に含まれるNa,Oなどとともに、Se,Teなどが含まれる。なお、溶解炉から発生するダストにはSb,Pbなどが含まれるため、溶解炉にアルカリ浸出残渣とともに再度投入される。
【0025】
なお、上記溶解炉の温度範囲においては、コークスは固体状態で存在する。アルカリ浸出残渣が溶解しなければ、上記の還元は、固固反応によって進むことになる。この場合、良好な反応性が得られないため、還元率が低下する。これに対して、アルカリ浸出残渣が溶解すれば、上記の還元は、固液反応によって進むことになる。この場合、良好な反応性が得られるため、還元率が向上する。
【0026】
コークスの投入量が少な過ぎると、Sbの還元反応が不十分になるため、Sbがスラグへ残留するおそれがある。一方で、コークスの投入量が多すぎると、Sbの還元率が低下するおそれがある。したがって、コークスの投入量には最適な範囲が存在する。本発明者の鋭意研究によって、溶解炉に対するアルカリ浸出残渣の投入量に対するコークスの投入量は、重量比で、5%以上30%以下とすることが好ましいことがわかった。この範囲では、溶融メタルへのSbの分配率が特に高くなる。
【0027】
そこで、還元率を向上させるために、必要に応じて追加でコークスを溶解炉に投入することが好ましい。この場合において、溶解炉に投入するアルカリ浸出残渣に対するコークスの総量(重量比)が5%〜30%になるように、コークスを投入する。溶解炉に投入するアルカリ浸出残渣に対するコークスの総量(重量比)は、10%以上15%以下とすることがより好ましい。また、投入工程で投入するコークスの投入量は、溶解還元工程で投入するコークスの投入量以下であることが好ましい。この工程で得られるメタル状のSbは、本実施形態が対象とする「不純物を含むSb」となりうる。さらに、溶融メタルの状態で揮発工程に持ち込むことも可能である。
【0028】
(ソーダ処理工程)
しかしながら、不純物および不純物の量によっては、溶融メタルを揮発工程に直接持ち込むことが好ましくない場合がある。たとえば、Se,Te,Asなどを多く含む場合である。この場合には、溶融メタルを苛性ソーダ溶液でソーダ処理する必要がある。ソーダ処理によって、Se,Te,Asなどを、スカムとして溶融メタルから分離することができる。溶融メタルには、Pb,Ag,Biの1種以上が不純物として含まれるので、本実施形態が対象とする「不純物を含むSb」として、ソーダ処理工程後のメタルは、揮発工程に持ち込まれる。溶融メタルの状態で揮発工程に持ち込むことも可能である。
【0029】
(揮発工程)
溶融還元によって得られたメタルおよびソーダ処理によって得られたメタルを「不純物を含むSb」として、揮発炉に投入し、熱によって溶解する。さらに、溶湯を酸化することによって、Sbを酸化させて揮発性のSbを生成する。例えば、溶湯に対して酸素を吹き付ける、吹き込む、酸化剤を添加する、などによってSbを酸化させることができる。Sbは揮発性が高いため、溶湯から揮発する。それにより、Sbを回収することができる。例えば、溶湯温度を660℃〜700℃とし、溶湯への吹きつけ空気量を溶湯表面1mあたり51〜56Nm/hとすることが好ましい。溶湯温度を680℃〜700℃とすることがより好ましい。また、溶湯中のSb濃度を50mass%以下、好ましくは40mass%以下とすることで、不揮発性のSb,Sb13などの生成を抑制して、Sbを生成することができる。なお、溶湯中のSb濃度を希釈するに際して、Sb品位の低い(40mass%以下)原料を用いることができる。例えば、PbやBiなどの低融点金属を主成分とする原料を用いることが好ましい。ただし、Pbは揮発性を有していることから、Biを用いることがより好ましい。なお、揮発によって得られた揮発滓は、上記の溶解炉に戻して還元に供することが好ましい。
【0030】
本実施形態によれば、銅電解澱物を脱銅浸出したSb含有残渣を塩酸と過酸化水素とにより塩化浸出し、塩化浸出反応時の塩酸濃度が常に4mol/Lを上回るように調整することで、塩化浸出後液へのアンチモンの溶解度を高めることができる。これにより、アンチモンと塩化銀との分離性を良くすることができる。すなわち、塩化銀へと分配されるアンチモンを低減することができるため、アンチモンの回収効率を向上させることができる。なお、塩化浸出反応時の塩酸濃度は、5mol/L以上が好ましく、6mol/L以上がより好ましい。
【0031】
また、本実施形態によれば、塩化浸出後液から塩化銀を分離し、塩化銀を分離後のアンチモンを含む塩化浸出後液の塩酸濃度を4mol/L以下に調整することで、塩化浸出後液へのアンチモンの溶解度を下げ、アンチモンを含む析出物を回収することができる。なお、塩化銀を分離後の塩化浸出後液の塩酸濃度は、3mol/L以下が好ましく、2mol/L以下がより好ましい。
【0032】
また、本実施形態によれば、塩化銀を分離後の塩化浸出後液を冷却することで、塩化浸出後液へのアンチモンの溶解度を更に下げ、アンチモンを含む析出物を回収することができる。なお、冷却による塩化浸出後液の液温は50℃未満が好ましく、25℃以下がより好ましく、5℃以下がさらに好ましい。
【実施例】
【0033】
塩化浸出後液の塩酸濃度を予め調整した上で、80℃に加温してから、塩化アンチモン及び塩化鉛を飽和状態になるまで過剰に添加し撹拌し、その後、50℃、25℃、5℃に温度を下げていく過程でサンプリングし、溶解しているアンチモン及び鉛の濃度を測定した。また、同様の処理を塩化銀に対して行い、溶解している銀の濃度を測定した。塩酸濃度と液温とに対するアンチモンの溶解度は、表1に示すとおりである。また、塩酸濃度と液温とに対する鉛の溶解度は、表2に示すとおりである。また、塩酸濃度に対する銀の溶解度は、表3に示すとおりである。
【表1】
【表2】
【表3】
【0034】
表1及び表2に示すように、塩化浸出後液の塩酸濃度が4mol/Lを上回ると、アンチモン及び鉛の溶解度が非常に大きくなり、銅電解澱物中に含まれるアンチモンを基準物量として、塩化銀へと分配されるアンチモンは33%から19%へと低減した。
【0035】
一方、表3に示すように、塩化浸出後液中の銀の溶解度は、塩酸濃度が高くなるにつれて大きくなったが、塩酸濃度が4〜5mol/Lであっても銀濃度は200〜400mg/L程度であるため、塩化銀中の銀量に対して、塩化浸出後液への銀の分配率は約0.3%前後と銀の回収率には大きな影響を与えない。
【0036】
その後、塩化銀を分離後の塩化浸出後液の塩酸濃度を2mol/Lに調整し、液温を5℃まで冷却した。これにより、アンチモンの溶解度を小さくすることができ、回収した析出物をアルカリ浸出することで、アンチモンを濃縮した残渣を得ることができた。銅電解澱物中に含まれるアンチモンを基準物量として、残渣へと分配されるアンチモンは、63%から70%へと向上した。
【0037】
アルカリ浸出残渣中のアンチモンの形態は、アンチモン酸ナトリウムであり、アンチモン品位は40mass%前後であった。残渣中の鉛は水酸化鉛であると考えられ、鉛品位は10mass%前後であった。
【0038】
以上の結果によれば、塩化浸出反応時の塩酸濃度を4mol/Lを上回るように調整することで、アンチモンの回収効率を向上させることができることが明らかとなった。また、塩化銀を分離後の塩化浸出後液の塩酸濃度を4mol/L以下に調整することで、アンチモンの溶解度を下げ、アンチモンを沈殿析出させることができることが明らかとなった。さらに、塩化浸出後液を冷却することで、アンチモンの溶解度をさらに下げ、アンチモンを沈殿析出させることができることが明らかとなった。さらに、アンチモンと鉛とを含む析出物をアルカリ浸出することで、テルルを分離し、浸出残渣中のアンチモン品位を高めることができることが明らかとなった。
【0039】
また、アルカリ浸出工程によって得られたSb含有残渣を溶解炉に投入し、酸化させた後に、コークスを添加して還元を行った。還元においては、溶解炉を1000℃に維持し、還元時間を8時間とした。また、残渣に対するコークスの添加率を、重量比で、5%、10%、15%、25%として、Sbのメタルへの分配率を確認した。その結果、残渣に対するコークスの添加率が10%、15%では、80%を超えうる分配率であったが、5%、25%では、70%を下回った。
【0040】
また、ソーダ処理工程後の溶融メタルに対して揮発工程を実施した。7.1tの溶融メタルに対して、溶湯温度を680℃〜700℃とし、溶湯への吹きつけ空気量を100m/hとし、吹き付け位置を溶湯面から20mm〜40mmの高さとした。Sbを酸化させて揮発性のSbを生成させることによりSbを回収することができるが、Sb品位の低いPb電解澱物還元メタルを添加してSb濃度を50%以下にしたところ、より良好な速度で、Sbを揮発させることができた。なお、その際、溶湯表面の成分に対してXRD分析を行った結果、溶湯面に不揮発性のSb,Sb13などは生成しなかったことが確認された。
【0041】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
図1