(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施の形態を説明する。
光学面製造方法の各工程の説明に先立って、
図1を参照して用語等を説明する。
図1(a)において、符号1000及び符号MLAは共に「光学デバイス」を示している。
図1(a)に示す如く、光学デバイス1000は、複数の光学デバイスMLAが配列された構成となっている。以下の説明において、光学デバイスMLAとして「マイクロレンズアレイ」を例示する。從って、以下において、光学デバイスMLAをマイクロレンズアレイMLAとも称する。
図1(a)の光学デバイス1000は、複数のマイクロレンズアレイMLAを配列した構成となっている。
個々のマイクロレンズアレイMLAは「製品としての光学デバイス」である。光学デバイス1000は、マイクロレンズアレイを所謂「多数個どり」で製造するときに、同一の基板に多数のマイクロレンズアレイMLAを配列形成したものである。
この明細書においては、光学デバイス1000のように「複数のマイクロレンズアレイ(光学デバイス)を形成されたもの」も光学デバイスと呼ぶ。
製品となるマイクロレンズアレイMLAは、光学デバイス1000に配列形成されているマイクロレンズアレイMLAの個々をダイシングにより分割することにより得られる。
【0009】
図1(a)に示す例のように、光学デバイス1000に複数の光学デバイスMLAが形成されている場合、光学デバイス1000と光学デバイスMLAを区別する場合は、光学デバイスMLAを「製品としての光学デバイス」と呼ぶ。
図1(b)は、
図1(a)におけるマイクロレンズアレイMLAの配列の、上から2行目の3つのマイクロレンズMLAが並んでいる部分を示し、
図1(c)は、
図1(b)の「c−c断面図」を、説明図的に簡略化して示す図である。
図1(c)に簡略化して示すように、個々のマイクロレンズアレイMLAは、光学面SOPと、外枠領域CDを有する。
光学面SOPは、光学材料による基板100の表面に形成された「微細な凸部MLの配列による2次元領域」である。説明中の例では、微細な凸部MLは個々のマイクロレンズのレンズ面である。
即ち、
図1(a)に即して言えば、光学デバイス1000には、複数の光学面SOPが配列形成されている。
図1(c)において、外枠領域CDは、個々の光学面SOPを縁取るように光学面SOPに外接して形成された領域で、この部分は光学機能を持たない。
図1(c)において、符号CD1は、隣接するマイクロレンズアレイの光学面SOPの間の外枠領域が連なった部分である。
【0010】
上には、1つの光学デバイス1000に「製品としての光学デバイスであるマイクロレンズアレイMLA」が複数個形成されている場合を説明した。
光学デバイスMLAがマイクロレンズアレイである場合、個々のマイクロレンズアレイMLAの大きさは、例えば「5mm×5mm」程度から「20mm×30mm」程度まで種々の大きさが実施されている。
【0011】
図1(a)に示す光学デバイス1000が、例えば、直径:200mmの円板状である場合を考えると、マイクロレンズアレイを多数個どりで製造する場合、光学デバイス1000に形成されるマイクロレンズアレイMLAの数は、数十ないし数百個になる。
光学デバイスは、そのサイズによっては「個々の光学デバイスを個別に製造」する場合もある。例えば、
図1(a)における1個のマイクロレンズアレイMLAのサイズが大きく、光学デバイス1000に1個のマイクロレンズアレイMLAが形成される場合が考えられる。この場合、光学デバイス1000は1個のマイクロレンズアレイMLAを有することになり、光学デバイスとマイクロレンズアレイとを共に「光学デバイス」と呼ぶことに問題はない。
以上、用語として「光学デバイス」、「光学面」、「外枠領域」を説明した。また、光学面SOPが「光学材料による基板100の表面」に形成されることも説明した。さらに、外枠領域CDが「個々の光学面SOPを縁取るように光学面SOPに外接」して形成されることを説明した。
【0012】
補足すると、光学面は「光学機能を持ち、製品としての光学デバイスに対応する面」であり、上述の例では、1つのマイクロレンズアレイMLAにおいて「マイクロレンズ面である微細な凸部MLが配列した2次元領域」である。
図1(c)に示す基板100は平行平板状であるが、光学材料による基板の形態は平板状に限らず、他の形態として、例えば、プリズム状や楔状であってもよい。
光学面をなす「微細な凸部の配列による2次元領域」における微小な凸部は、凸球面形状や「凸の回転楕円面形状」以外にも、4角形状や6角形形状のように平面的に稠密な配列が可能な多角形形状を縁とする凸面形状であることができる。また、これ以外にも、凸シリンドリカル面形状やプリズム形状を挙げることができる。
凸球面形状等の場合、凸部は2次元的に配列されて2次元的なアレイ配列をなす。凸シリンドリカル形状の場合、長手方向に交わる方向へ配列することにより、凸シリンドリカル面が互いに接して配列した2次元領域を形成することができる。
また、断面形状が三角形形状で、断面に直交する長手方向には均一な形状を持つプリズム面を長手方向に交わる方向へ配列することにより、プリズム面が互いに接して配列した2次元領域を形成することができる。
【0013】
図2を参照して、この発明の光学面形成方法を説明する。
図2(a)は、光学面形成方法の基本的な工程を示す図である。
この基本的な工程は、樹脂層形成工程と、型押し工程と、樹脂硬化工程と、離形工程と、エッチング工程とを有する。
「樹脂層形成工程」は、光学材料による基板の「光学面を形成する側の面」に、未硬化状態の光硬化性樹脂による樹脂層を形成する工程である。
「光硬化性樹脂」は、特定の波長の光(電磁波)の照射により光重合して硬化する樹脂であり、粘性と流動性を有し、従来から種々のものが知られ、市販されている。樹脂層として形成する光硬化性樹脂としては、例えば、紫外光の照射により硬化する「UV硬化樹脂」を用いることができる。
光硬化性樹脂は、スピンコート等の塗布方法で、基板上に層状に塗布されて樹脂層として形成される。
【0014】
「型押し工程」は、樹脂層形成工程により基板表面に形成された樹脂層を、基板と押し型とで挟持して加圧し、挟持した樹脂層の押し型側の面を「押し型の型面の形状」に倣わせる。即ち、型押し工程で、樹脂層の押し型側の部分は、押し型の型面と密着し、型面の形状に倣うように変形する。
押し型の型面は、光学転写面と外枠領域転写面とを有する。
「光学転写面」は、光学面に対応する面形状を有する。例えば、
図1(a)の如く16個のマイクロレンズアレイMLAを1つの光学デバイス1000として形成する場合であれば、16個のマイクロレンズアレイの個々の光学面に対応して16面の光学転写面を有する。
【0015】
「外枠領域転写面」は、前記光学転写面に枠状に外接した転写面部分であり、光学デバイスにおける「光学面形状の外側の外枠領域」を形成する部分である。
【0016】
「樹脂硬化工程」は、型押し工程により「押し型と基板とに挟まれた状態の樹脂層」を光照射により硬化させる工程である。樹脂硬化工程において、樹脂層は基板と押し型とに挟持されているので、基板および押し型の少なくとも一方を「照射光(例えば紫外光)に対して透明」な材質で形成し、この材質で形成された基板もしくは押し型を介して光照射を行う。
「離形工程」は、樹脂硬化工程後、硬化した樹脂層から押し型を離形する工程である。
【0017】
「エッチング工程」は、離形工程後に、樹脂層の側から「異方性のエッチング」を行い、基板の表面形状として「1以上の光学面と、該光学面に枠状に外接する外枠領域」を形成する工程である。なお、「異方性のエッチンング」は、エッチングによる侵刻が1方向的に進行するエッチング方式である。
【0018】
図2(b)は(a)の変形例であって、離形工程の前に「樹脂硬化工程I」を行い、離形後のエッチング工程の前に「樹脂硬化工程II」を行う。
「樹脂硬化工程I」による硬化を「仮硬化」、「樹脂硬化工程II」による硬化を「本硬化」と呼ぶ。仮硬化後の樹脂層は完全に固化しているが、エッチングに対する耐性としては不十分である。仮硬化後に本硬化を行うことにより、樹脂層のエッチングに対する耐性を十分に高めてからエッチング工程を行う。
【0019】
図2(a)の場合も(b)の場合も、
図1(a)に示す場合のように同一の基板上に複数の光学デバイスMLAを形成する場合には、上記工程で得られた光学デバイス1000に対して「ダイシング工程」を行い、製品としての光学デバイスMLAに分割する。
【0020】
上に述べた工程の流れを模式的に示す
図3を参照して説明する。
図3(a)は、光学材料による基板10を示し、(b)は基板10の表面に、樹脂層形成工程によって、未硬化状態の光硬化性樹脂による樹脂層13を形成した状態を示す。
【0021】
図3(c)は、未硬化状態の樹脂層13を押し型15と基板10とで挟持して加圧する型押し工程を行った状態を示す。樹脂層13は未硬化状態であるので、押し型15の型面に倣って変形する。
【0022】
図3(d)は、型押し工程後に、押し型15と基板10とに挟まれた状態の樹脂層13を硬化用の光LTの照射により硬化させる樹脂硬化工程を示す。この樹脂硬化工程により、樹脂層13は固化し、押し型15に密着する側の面は、押し型の型面の形状に倣って変形した形状を固定される。この説明例では、押し型15は、硬化用の光LTに対して透明な材質で形成されている。
【0023】
図3(e)は、型押し工程後に離形工程を行って、押し型15を離形した状態を示している。固化した樹脂層13が露呈され、その表面は、押し型15の型面の形状を転写されている。
【0024】
図3(f)は、固化した樹脂層13の側から「異方性のエッチング」を行うエッチング工程を示している。エッチング工程で行われるエッチングは異方性であるので「ドライエッチング」であり、図中の符号EGは「エッチングガス」を示す。
【0025】
エッチング工程が終了すると、
図3(g)に示すように、基板10の表面に1以上の光学面が形成された「光学デバイス」が得られる。
【0026】
さて、この発明の光学面形成方法の特徴の一端は、型押し工程において「光硬化性樹脂のヒケ防止部」が樹脂層に形成される点にある。ヒケ防止部も、押し型の型面から転写されて形成されるので、前記特徴の一端は「押し型の型面形状」にもある。
【0027】
以下、ヒケ防止部と、その技術的意義を、
図4以下を参照して説明する。
【0028】
図4(a)は、光学面形成方法における型押し工程後の状態を断面図として模式的に示している。この説明例では、形成する光学面は「マイクロレンズアレイをなすマイクロレンズ面の2次元的な配列」であるが、模式図であるので、マイクロレンズ面は4面に簡略化して図示している。繁雑を避けるため、基板、樹脂層、押し型については、
図3におけると同一の符号を用いる。
図4に即して説明するのは、
図1に即して説明した如き「製品としての光学デバイスを多数個どり」する製造方法の場合であり、
図4(a)において符号UNは「製品としての1個の光学デバイス」に対応する部分を示す。
【0029】
多数個どりが行われるため、1個の光学デバイスに対応する部分UNは「実線で示された部分」が破線で示す如く図の左右方向にも、図面に直交する方向にも連なっている。
【0030】
以下、符号UNで示す部分を「ユニット部分」と呼ぶ。多数個どりされる場合の、複数のユニット部分は互いに同一であるので、以下では、
図4(a)に実線で示すユニット部分UNに即して説明する。
図4(b)は、押し型15を説明するための図であり、図中、符号TSUは「ユニット部分UNに対応する型面部分(以下「ユニット型面部分」と言う。)」を示している。
符号TSOPUで示す部分は「1個の光学面に対応する光学転写面」であり、以下「光学転写面TSOPU」と呼ぶ。説明中の例のように、押し型15が「多数個どり用」であれば、複数のユニット型面部分TSUが平面的に配列することになる。
【0031】
図4(b)に符号TCD1で示す部分は「外枠領域転写面」であり、光学転写面TSOPUに「枠状に外接」して形成されている。光学転写面TSOPUが隣接する部分では、各光学転写面TSOPUに外接して形成された外枠領域転写面TCD1が連接して符号TCDで示す如くになる。この領域を「外枠領域転写面TCD」と呼ぶ。
【0032】
図4(c)は、離形工程後の状態を示す。符号UN0で示す部分は、基板10上の樹脂層13にユニット型面部分TSUの面形状が転写された部分であり、以下「被エッチングユニットUN0」と称する。
図4(c)において、符号OP0Uは、押し型15の光学転写面TSOPUの面形状を転写された部分であり、以下「被転写光学面OP0U」と呼ぶ。なお、繁雑を避けるため、押し型15の光学転写面TSOPUの面形状を転写された部分を、樹脂硬化工程の前後に拘らず、被転写光学面OP0Uと呼ぶ。
図4(c)に符号HB1で示す「樹脂層部分」は、押し型15の外枠領域転写面TCD1の面形状を転写された部分であり、以下、この樹脂層部分を「ヒケ防止部HB1」と呼ぶ。
図4(c)は、上記の如く「離形工程後の状態」であるので、同図に示すヒケ防止部HB1は「樹脂硬化工程」を経て硬化している。硬化工程後の状態を説明するときは硬化ヒケ防止部HB1と呼ぶ。
【0033】
図4(b)に示すように、ユニット型面部分TSUが隣接する部分では、外枠領域転写面TCD1が連接して外枠領域転写面TCDとなる。これに応じて、
図4(c)に示すように、硬化ヒケ防止部HB1が一体となって硬化ヒケ防止部HBとなる。
【0034】
型押し工程において形成されるヒケ防止部HB1(HB)は、以下に説明するように、その高さを「光学転写面TSOPUの形状を転写された被転写光学面OP0Uに配列している凸部の基部の基板10の表面からの高さより大きい高さ」に形成される。
【0035】
図5を参照して、ヒケ防止部HB1(HB)を説明する。
図5(a)は、型押し工程により、樹脂層13に押し型15の型面の形状を転写した状態(樹脂硬化工程より前の状態)を示している。型面の形状を転写された樹脂層13におけるヒケ防止部HB1の「基板10の表面からの高さ:HAは、被転写光学面OP0Uにおける「微細な凸部の基部(凸部の最も低い部分)の基板表面からの高さ:H0」より大きい。
【0036】
図5(b)は、樹脂硬化工程後の状態を示す。
図5(c)は、
図5(b)の状態の被エッチングユニットUN0に対して異方性のエッチングを行い、基板10の表面形状として、光学面SOPと、光学面SOPに枠状に外接する外枠領域CD1を形成した状態を示している。
【0037】
図5(c)に符号UNDで示す部分は「製品としての1個の光学デバイス」に対応する部分であり、光学デバイスを「多数個どり」する場合であれば、このような光学デバイスUNDが、外枠領域CD1(CD)を介して2次元的に配列形成されることになる。
【0038】
図5(b)、(c)については、後述することとし、先ず「ヒケ」の問題を説明する。 一般に、光硬化性樹脂に光照射して硬化を行うと、樹脂が硬化する過程で「ヒケ」とよばれる現象が発生することが知られている。
光硬化性樹脂の硬化は有限の時間をかけて進行する。即ち、光硬化性樹脂に均一な光照射を行っても、樹脂全体が同時に均一に硬化するのではなく、光による硬化(光重合)が樹脂の一部から全体に広がるように進行する。
【0039】
光重合による硬化の進行途上において、硬化した部分には「樹脂の凝縮」による体積減少が生じる。樹脂の一部が硬化した状態でも、未硬化の部分はなお流動性を有しており、硬化により体積減少した部分に流動して体積減少分を補う。
【0040】
このとき、体積減少分が十分に補填されないと、最終的に固化した部分に「ヒケ」と呼ばれる「形状欠損」が生じる。
この「形状欠損」を、
図6を参照して説明する。
図6(a)は、型押し工程後の状態を示す図である。押し型15Aにより樹脂層13に形成された転写面で、被転写光学面OP0Uに外接する外枠領域CD0は、基板10の表面からの高さ:H0が、被転写光学面OP0Uをなす凸部の基部の高さと同じである。
この状態では、外枠領域CD0の部分の樹脂容積が「被転写光学面OP0Uを形成された樹脂部分の容積」に比して小さい。從って、樹脂硬化工程の際に外枠領域CD0の部分で硬化が先に進み、この部分で体積が減少する。
このとき、被転写光学面OP0Uを形成された樹脂部分では、未だ固化が全体に及んでおらず、内部の流動性を有する樹脂部分が、外枠領域CD0に生じた体積減少を補填するように移動する。一方、被転写光学面OP0Uを転写された樹脂部分でも硬化の進行と共に体積減少が生じる。この体積減少と、外枠領域CD0に生じた体積減少の補填のために流出した樹脂分が相まって、
図6(b)に示すような「ヒケによる形状欠損HK」を「あるパーセンテージの範囲」で生じる。
【0041】
形状欠損HKは、
図6(b)に示すように、被転写光学面OP0Uを転写された部分の「外枠領域CD0に隣接する部分」に発生するのが特徴的である。図には強調して描かれているが、形状欠損HKは、1個の凸部の体積の10%程度である。
図6(b)に示すような形状欠損HKを有する被エッチングユニットUN0に対してエッチング工程を行うと、エッチングの異方性により樹脂層13の「ヒケによる形状欠損HK」が基板10の表面に転写され、
図6(c)の如く、製品としての光学デバイスUNDにも形状欠損HK(混同の恐れは無いと思われるので、樹脂部における形状欠損HKと同じ符号を用いた。)が生じる。形状欠損HKを生じた光学デバイスUNDは製品としては不良品であり、光学デバイス製造における歩留まりが低くなる。例えば、歩留まりは60%程度に留まる。
【0042】
図5(a)に示す被エッチングユニットUN0では、ヒケ防止部HB1の高さ:HAが高さ:H0より大きく、ヒケ防止部HB1の樹脂部分が「十分」な体積をもっている。從って、
図6の場合と比較すると、樹脂硬化工程の際にヒケ防止部HB1の樹脂部分の固化が急速には進行せず、被転写光学面OP0Uを転写された樹脂部分からの「樹脂流入」が有効に阻止される。
また、被転写光学面OP0Uを転写された樹脂部分で固化による体積減少が生じた場合に、ヒケ防止部HB1内で流動性を保持している樹脂部分が流入して、上記体積減少分を補填するようにすることも可能である。このようにして、樹脂硬化工程後における樹脂層13における「ヒケによる形状欠損HKの発生」が有効に防止される。
なお、
図5(b)では、樹脂硬化工程後の硬化ヒケ防止部HB1の高さ:HA1が、
図5(a)における高さ:HAよりも小さくなっている。これは、樹脂硬化工程の際に「被転写光学面OP0Uを転写された部分へヒケ防止部HB1から樹脂が流入」した結果、ヒケ防止部HB1の樹脂量が減少したことに相当している。
樹脂硬化工程後に、樹脂層13の被転写光学面OP0Uに「ヒケによる形状欠損」が生じないので、
図5(c)に示す如く、エッチング工程後の光学デバイスUNDにも、光学面に形状欠損は生じない。
【0043】
「ヒケ防止部」は、上記の如く、樹脂硬化工程における「被転写光学面を有する樹脂部分に、ヒケによる形状欠損が生じるのを防止する機能」を持つものであり、この機能を発現させるためには、前記高さ:H1が、高さ:H0よりも大きいことが必要である。高さ:H1を高さ:H0に対して「どの程度大きく」するかは、光学デバイス製造の実際の条件に応じて、実験的に決定できる。
ヒケ防止部の形状は、ヒケ防止の機能が果たされる限りにおいて任意であり、種々の形状が許容される。例えば、
図7(a)に示すヒケ防止部HB2のような「斜面状」の形状でも良いし、同図(b)に示すヒケ防止部HB3のような断面三角形状、ヒケ防止部HB4のような断面半円形状、同図(c)に示すヒケ防止部HB5のような断面矩形形状等を例示することができる。
図7に示すヒケ防止部は、何れも、樹脂硬化工程前の形状である。
【0044】
上の説明で、樹脂硬化工程後における「基板10上の樹脂層13が、被転写光学面OP0Uとヒケ防止部HB1を有する状態」は、エッチング工程を実施できる状態であり、この状態の基板10と樹脂層13とを「光学デバイス作製用のエッチング基板」もしくは単に「エッチング基板」と称する。
図5(b)に即して説明した「被エッチングユニットUN0」を2次元的に配列したものは、エッチング基板の1例である。
このような「エッチング基板」は、
図2(a)における樹脂層形成工程から離形工程までの1連の工程により製造される。あるいは、
図2(b)における樹脂層形成工程から樹脂硬化工程IIまでの1連の工程により製造される。
また、上述の説明から明らかなように、エッチング基板に対してエッチング工程を施すことにより、光学デバイスが得られる。
「具体例」
以下、光学デバイスの製造方法の具体的な1例を説明する。
この具体例は、
図1に即して説明した光学デバイス1000の製造方法である。
光学デバイス1000を形成すべき光学材料による基板100として、直径:200mmの円形形状で、厚さ:1mmの平行平板状の石英ガラスを用いた。
製品としての光学デバイスMLAは「マイクロレンズアレイ」であり、後述するHUDに拡散板として用いられるものの1例である。
「製品としての光学デバイス」であるマイクロレンズアレイとして、10mm×10mmサイズのものを作製した。即ち、直径:200mmの基板に、200個のマイクロレンズアレイを形成した。
マイクロレンズアレイを構成するマイクロレンズは、レンズ径:100μmの円形状の微小レンズ面が、100μmピッチで100×100の正方行列状に配列している。
【0045】
このようなマイクロレンズアレイMLAの製造を、
図2(b)に示す工程により実施した。
石英ガラスの基板の片面に、光硬化性樹脂として「UV硬化樹脂(製品名:TB3042B 株式会社スリーボンド社製)」を、未硬化状態でスピンコートにより塗布し、厚さ:4μmの樹脂層として形成した(樹脂層形成工程)。
このように形成された樹脂層を、押し型と基板とで挟持して加圧し、樹脂層の表面を押し型の型面の形状に倣わせた(型押し工程)。
押し型は板状の石英ガラスの片面に「型面」が形成され、他方の面は平坦な面である。
【0046】
型面は「マイクロレンズの2次元的な配列による光学面に対応する光学転写面」と「外枠領域転写面」とを有する。
型押し工程により樹脂層に形成される光学転写面における「微小な凸部」は球面形状であり、その基部からの高さは2μmである。
【0047】
続いて、押し型の側から、樹脂硬化用の紫外光を、基板の全面に均一照射して樹脂を「仮硬化」させた。紫外光は強度:15mW/cm
2・secであり、1分間の照射で仮硬化を終了させた(樹脂硬化工程I)。
【0048】
次いで、押し型を離形させる「離形工程」を行った。
更に、強さ:15mW/cm
2・secの紫外光の均一照射を420秒間行って樹脂層を「本硬化」させた(樹脂硬化工程II)。
【0049】
その後、異方性のエッチングを行って、樹脂層の表面の形状を基板表面に転写した(エッチング工程)。
エッチング工程では、基板のエッチング速度が「樹脂層のエッチング速度に対して大きく」なるように選択比を設定し、エッチング後に、基板の表面に形成されるマイクロレンズのレンズ面の高さが光軸上で4μmとなるようにした。
エッチング工程後に、ダイシング工程を行って、個々のマイクロレンズアレイを分離した。上記各工程を、押し型の型面における「外枠領域転写面」を異ならせて繰り返した。光学転写面の形状は同一である。
【0050】
外枠領域転写面としては、
図5(a)のヒケ防止部HB1のタイプが形成されるものを用い、高さ:HAが「少しずつ段階的に変化」するように外枠領域転写面を形成した。
図5(a)に示すヒケ防止部HB1は、図示の断面形状が、図面に直交する方向へ、被転写光学面の(図面に直交する方向)の長さに亘って均一に連続している。この被転写光学面の長さ:100mmに、マイクロレンズとなる凸球面状の微細な凸面が、ピッチ:100μmで100個ならんでいる。
ヒケ防止部HB1の、
図5(a)に示された断面積をSHB1とすると、ヒケ防止部HB1における「1個の凸面当たりの体積:VHB」は、SHB1×PTであり、これは高さ:HAの関数となる。
【0051】
1個の凸球面状の凸面(
図5(a)でH0より上の部分)の体積をVOPとする。
高さ:HAを変数として、凸面1個当たりの「ヒケ防止部HB1の体積」に対し、離形工程後における樹脂層に「ヒケによる形状欠損」の生じる条件を調べた。
【0052】
その結果「HA>H0で、且つ、VHB≧VOP×0.3」のときに、ヒケによる形状欠損の発生を完全に防止できることが分かった。
【0053】
なお、
図6(a)に符号15Aで示す押し型を用い、
図6(a)における高さ:H0を変化させて、上記と同様の実験を行った。この場合、高さ:H0を3μm以上に大きくすると、ヒケによる形状欠損の発生を防止できることが分かった。しかし、この場合、樹脂層形成工程で基板上に形成する樹脂層の厚さを7μmまで厚くする必要があった。
【0054】
最後に、光学デバイスを用いる光学装置の1例としてHUDを説明する。光学装置としてのHUDに用いられる光学デバイスは「製品としての光学デバイス」で、拡散板として用いられるマイクロレンズアレイであり、上に説明した具体例で得られる「ヒケによる形状欠損の無いもの」である。
【0055】
図8は、HUDを説明図的な模式図として示している。
このHUDは、車載用のHUDである。
レーザ光源80から、表示すべき2次元画像に從って強度変調されたレーザビームが放射される。放射されたレーザビームは2次元搖動鏡82に入射し、2次元的に偏向されつつ、凹面鏡84に向けて反射される。凹面鏡84は、2次元的に偏向されて入射するレーザビームを拡散板86に向けて反射する。
【0056】
拡散板86に入射するレーザビームは、一定の方向を保ちつつ2次元的に平行に移動して拡散板86に入射し、拡散板86に「2次元走査像として2次元画像」を形成する。拡散板86はマイクロレンズアレイであり、透過するレーザビームを発散させる。発散したレーザビームは、上記2次元画像を構成する各画素からの物体光として、凹面鏡88に入射して反射される。
【0057】
凹面鏡88は「虚像結像光学系」であって虚像Imを結像する。虚像Imを結像するレーザビームはフロントガラス90により観察者の目EYに向かって反射され、観察者は、フロントガラス90の「外側」の虚像Imを視認する。即ち、虚像Imは上記「表示すべき2次元画像」である。
【0058】
表示すべき2次元画像を構成するレーザビームは、拡散板86により発散性となっているので、目EYの位置では、2次元的な広がりを有しており、このため目EYが左右上下に少々移動しても、良好な虚像Imを視認できる。
【0059】
凹面鏡88に代えて、実像結像用の凹面鏡を用いれば、2次元画像をスクリーン上に表示する「レーザプロジェクタ」を構成することができる。
【0060】
以上に説明したように、この発明によれば、以下の如き光学面形成方法および光学デバイス作製用のエッチング基板の製造
方法および押し型および光学デバイスの製造方法を実現できる。
【0061】
[1]
光学材料による基板(10)の表面に、微細な凸部の配列による2次元領域を光学面として1以上形成する方法であって、前記基板(10)の前記表面に、未硬化状態の光硬化性樹脂による樹脂層(13)を形成する樹脂層形成工程と、前記表面に形成された前記樹脂層(13)を、前記光学面に対応する光学転写面(TSOPU)と、該光学転写面に枠状に外接した外枠領域転写面(TCD1)とを型面(TSU)として有する押し型(15)と、前記基板(10)とにより挟持し、加圧して前記樹脂層を前記型面の形状に倣わせる型押し工程と、該型押し工程により前記押し型と前記基板とに挟まれた状態の前記樹脂層を光照射により硬化させる樹脂硬化工程と、該樹脂硬化工程後に、前記押し型を離形する離形工程と、該離形工程後に、前記樹脂層の側から異方性のエッチングを行って、前記基板の表面形状として、前記1以上の光学面(SOP)と、該光学面に外接する外枠領域(CD1)を形成するエッチング工程と、を有し、前記型押し工程において、前記外枠領域転写面の転写による前記光硬化性樹脂のヒケ防止機能を持つヒケ防止部(HB1)を、前記光学転写面の形状を転写された凸部の基部の、前記基板の表面からの高さ(H0)より大きい高さ(HA)に形成する光学面形成方法。(
図2、
図4、
図5)
[2]
[1]記載の光学面形成方法であって、前記押し型(15)が前記光硬化性樹脂を硬化させる光(LT)に対して透明であり、前記樹脂硬化工程を、前記押し型を介して前記樹脂層に前記光を照射する光学面形成方法。(
図3)
[3]
[1]または[2]記載の光学面形成方法であって、前記樹脂硬化工程において、仮硬化(樹脂硬化工程I)を行い、前記離形工程後、前記エッチング工程前に、本硬化(樹脂硬化工程II)を行う光学面形成方法。(
図2(b))
[4]
[1]ないし[3]の何れか1に記載の光学面形成方法の実施に用いられる押し型であって、1以上の光学面に対応する光学転写面(TSOPU)と、該光学転写面に枠状に外接した外枠領域転写面(TCD1)とを型面(TSU)として有する押し型(15
図4)。
【0062】
[5]
[1]記載の光学面形成方法における、樹脂層形成工程と、型押し工程と、樹脂硬化工程と、離形工程とを有し、前記光学転写面(TSOPU)の形状を転写され、前記型押し工程により転写されたヒケ防止部が硬化した硬化ヒケ防止部(HB1)を有する光学デバイス作製用のエッチング基板(UN0)の製造方法。
【0063】
[6]
[3]記載の光学面形成方法における、前記離形工程後に本硬化工程(樹脂硬化工程II)を有し、前記光学転写面(TSOPU)の形状を転写され、前記型押し工程により転写されたヒケ防止部が硬化した硬化ヒケ防止部(HB1)を有する光学デバイス作製用のエッチング基板(UN0)の製造方法。
【0064】
[7]
[5]または[6]に記載の製造方法により製造されたエッチング基板に対して、異方性のエッチングを行い、光学材料による基板(10)の表面に、硬化した光硬化性樹脂の表面形状を転写する光学デバイスの製造方法。
【0065】
[8]
光学デバイス(10)がマイクロレンズアレイである[7]記載の光学デバイスの製造方法。
【0066】
[7]記載の製造方法で製造されるマイクロレンズアレイは、光学材料による基板の表面に、微細な凸部の配列による2次元領域を光学面(SOP)として1以上有し、
硬化ヒケ防止部(HB1)の表面形状の転写形状(CD1)を有
する(図5)。
【0067】
また、光学材料による基板の表面に、微細な凸部の配列による2次元領域を光学面として1面有し、前記硬化ヒケ防止部の表面形状の転写形状を
有する。
【0068】
上記の如く製造されるマイクロレンズアレイは、図8に例示されるHUD等の光学装置に用いることができる。
【0069】
以上、発明の好ましい実施の形態について説明したが、この発明は上述した特定の実施形態に限定されるものではなく、上述の説明で特に限定していない限り、特許請求の範囲に記載された発明の趣旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
上の具体例の説明において言及したが、光学材料による基板に表面形状として形成される光学面の面形状は、離形工程後における樹脂層の表面形状と必ずしも一致しない。
離形工程後における樹脂層の表面形状を「前形状」、エッチング工程後の表面形状を「後形状」とすると、選択比等のエッチング条件の調整により、前形状を適宜に変形して所望形状の「後形状」を実現できる。
【0070】
この発明の実施の形態に記載された効果は、発明から生じる好適な効果を列挙したに過ぎず、発明による効果は「実施の形態に記載されたもの」に限定されるものではない。