(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項3記載のシートリクライニング装置の製造方法において、上記付勢部材を上記仮保持状態にするときに、上記ロック駆動部材に設けた中間保持部により上記湾曲部を保持するシートリクライニング装置の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明について説明する。なお、以下の説明中の左右方向は、
図2と
図7に記載した「左」、「右」の矢線方向に対応する。後述するシートリクライニング装置15では、右側が車外側、左側が車内側となる。また、内周側はシートリクライニング装置15の径方向の中心側(内径側)を意味し、外周側はシートリクライニング装置15の径方向の中心側とは反対側(外径側)を意味する。
【0014】
図1に示す車両用シートであるリクライニングシート10は、車両の進行方向に向かって右側の座席を構成するものであり、シートレールを介して車両の車内床面に支持されるシートクッション11と、シートクッション11の後部に対して傾動可能なシートバック12とを備えている。リクライニングシート10の内部には、シートクッション11をシートバック12に対して前方へ回転付勢する前倒付勢スプリング(不図示)が設けられている。
【0015】
シートクッション11の内部には左右一対のシートクッション側フレーム(図示略)が設けられ、シートクッション11の後部には上方に突出する後部フレーム(図示略)が固定状態で設けられている。シートバック12の内部には左右一対のシートバック側フレーム(図示略)が設けられている。左右の後部フレームの間に左右のシートバック側フレームが位置し、左右のシートバック側フレームと左右の後部フレームがそれぞれ左右方向(車幅方向)に対向する。リクライニングシート10の左側(車内側)では、後部フレームとシートバック側フレームは図示を省略した回転接続軸を介して回転可能に接続している。一方、
図1に表れているリクライニングシート10の右側(車外側)では、後部フレームとシートバック側フレームの間には両者を左右方向の軸回りに回転可能に接続するシートリクライニング装置15が設けられている。シートバック12はシートクッション11に対して、当該回転接続軸及びシートリクライニング装置15を中心に回転可能である。具体的にはシートバック12は
図1に符号12Aで示す前傾位置と符号12Bで示す後傾位置との間を傾動可能である。
図1に符号12Cで示す位置は、シートリクライニング装置15によってシートバック12の傾動が規制される初段ロック位置である。初段ロック位置12Cから前傾位置12Aの間は、シートリクライニング装置15によるロックがかからない自在傾動区間(後述するアンロック保持状態)となり、初段ロック位置12Cから後傾位置12Bの間は、シートリクライニング装置15に対してアンロック操作を行った場合のみシートバック12の傾動を行うことが可能なロック作動範囲である。
【0016】
続いてシートリクライニング装置15の詳しい構造について説明する。
図2に示すように、シートリクライニング装置15は主要な構成要素として、ベースプレート(ベース部材)20、ポール(ロック部材)30、回転カム(ロック駆動部材)40、レリーズプレート(ロック駆動部材)50、ラチェットプレート(ラチェット)60、ロックスプリング(付勢部材、バネ)70、押えリング80を具備している。
【0017】
金属製の円盤部材であるベースプレート20はプレス成形品であり、
図2、
図7、
図11に示すように、ベースプレート20の中心部には円形の軸挿通孔(開口部、貫通孔)21が貫通孔として形成されている。ベースプレート20の左側面の周縁部には円形の大径環状フランジ22が突設され、大径環状フランジ22の内側に収納空間が形成されている。ベースプレート20の左側面には軸挿通孔21を中心とする周方向に等角度(120°)間隔で並んだ3つの溝形成用突部23が突設されている。各溝形成用突部23はベースプレート20の内周側から外周側に進むにつれて周方向幅を大きくする略扇形状をなしており、各溝形成用突部23の外周面と大径環状フランジ22の間には円弧状の隙間が形成される。各溝形成用突部23の両側には案内平面23a,23bが設けられている。
図11に示すように、隣り合う溝形成用突部23の案内平面23a,23bは互いに略平行であり、その間に案内溝24が形成される。各溝形成用突部23には、案内平面23bの途中にバネ掛け凹部25が形成されている。
【0018】
シートリクライニング装置15は金属板のプレス成形品である3つのポール30を備えており、ベースプレート20の各案内溝24内にそれぞれポール30が1つずつ配設されている。ポール30の周方向の両側には案内平面23a,23bに沿って摺動可能な面が形成されている。ポール30の左側面にはカムフォロア32と保持突起33が突設されている。ポール30の円弧状をなす外周面には外歯34が形成されている。各ポール30の内周部には、内周側に向けて突出する被抑圧部35と被押圧部36が形成されている。
【0019】
各ポール30は
図3ないし
図10に示した態様で各案内溝24内に配設されている。各ポール30は、各案内溝24の底面(左側面)に対して面接触して支持されており、対応する案内溝24内を溝形成用突部23の案内平面23a,23bに沿ってベースプレート20の半径方向に移動可能である。各ポール30は、後述する回転カム40とレリーズプレート50によって、ベースプレート20の軸挿通孔21から離れる外周方向の噛合位置(
図3、
図6ないし
図8)と、軸挿通孔21に最も近づく内周方向の噛合解除位置(
図5)の間で半径方向に移動する。
図4は、ポール30が噛合位置から離れて噛合解除位置に向けて移動する途中のアンロック開始状態を示している。各ポール30とその両側に位置する案内平面23a,23bとの間には、ベースプレート20の半径方向への各ポール30の円滑な摺動を可能にし、かつ各ポール30を大きくガタつかせることのない程度のクリアランスが確保されている。
【0020】
回転カム40は金属板のプレス成形品であり、概ねポール30と同じ厚みを有している。
図2や
図12に示すように、回転カム40の中心部には非円形形状の中心非円形孔(軸結合孔)41が貫通孔として形成されている。回転カム40の外周部には、3つの抑制部42と3つの押圧部43がそれぞれ周方向に略等角度間隔で設けられている。回転カム40にはさらに周方向に等角度間隔で3つの回り止め突起44が形成されている。
図2に示すように、回り止め突起44は左方に向けて突出している。回転カム40はベースプレート20の収納空間の中央部に配設されており、押圧部43が形成された回転カム40の外周側に各ポール30が位置する(
図3ないし
図10参照)。
【0021】
回転カム40の中心非円形孔41内には、周方向に略等角度間隔で3つのバネ掛け凹部(係合部)45が形成されている。
図12に示すように、中心非円形孔41は3つの直線(平面)状の内辺46を有しており、各内辺46の間にバネ掛け凹部45が設けられている。各バネ掛け凹部45は、中心非円形孔41の内周側に開口し、この開口から回転カム40の周方向(後述する回転カム40のロック位置への進行方向)に向けて屈曲された形状をなしている。各内辺46には2つの凹部47が形成されている。
【0022】
レリーズプレート50は金属板のプレス成形品であり、
図2や
図13に示すように、中央開口51の周囲に周方向に略等角度間隔で3つのカム孔52が貫通形成されている。各カム孔52は、中央開口51からの距離が遠い外周側に位置するロック許容部52aと、中央開口51からの距離が近い内周側に位置するロック解除部52bとを有している。レリーズプレート50にはさらに、周方向に等角度間隔で3つの回り止め孔53が形成され、周方向に等角度間隔で3つのバネ保持突起(中間保持部)54が設けられている。バネ保持突起54は、板状をなすレリーズプレート50のうち中央開口51に臨む内縁の一部を曲げて形成したものであり、
図2に示すように左方に向けて突出している。
【0023】
レリーズプレート50は、3つの回り止め孔53に3つの回り止め突起44を嵌合させて回転カム40と結合される。各回り止め突起44と各回り止め孔53の嵌合によって回転カム40とレリーズプレート50の相対回転が規制され、回転カム40とレリーズプレート50は一体的に回転する。また、レリーズプレート50の3つのカム孔52内に、各ポール30に設けたカムフォロア32がそれぞれ挿入される。
図5に示すように、噛合解除位置よりも内周方向へのポール30の移動は、カムフォロア32とロック解除部52bの係合によって規制される。
図3ないし
図7に示すように、レリーズプレート50の中央開口51は回転カム40の中心非円形孔41よりも大きい開口であり、中心非円形孔41はレリーズプレート50によって覆われない。レリーズプレート50の3つのバネ保持突起54は、回転カム40が設けられている側(右方)と反対側(左方)に向けて突出しているため、ポール30や回転カム40とは干渉しない。
【0024】
金属製の円盤部材であるラチェットプレート60はプレス成形品であり、その右側面の周縁部には円形の小径環状フランジ61が突設され、小径環状フランジ61の内側には収納空間が形成される。
図2と
図7に示すように、ラチェットプレート60の中心部には断面円形の軸挿通孔(開口部、貫通孔)62が貫通孔として形成されている。軸挿通孔62はベースプレート20の軸挿通孔21よりも小径の孔である。ラチェットプレート60のうち軸挿通孔62に近い最も内周側の部分は円盤状のベース部63となっている。ベース部63と小径環状フランジ61の間の径方向位置には中間環状部64が形成されている。
図7から分かるように、中間環状部64は小径環状フランジ61の一段左側に位置して小径環状フランジ61よりも小径であり、ベース部63は中間環状部64の一段左側に位置して中間環状部64よりも小径である。小径環状フランジ61の内周面には内歯(噛合部)65が形成されている。中間環状部64の内周面には、周方向に等角度間隔で3つのアンロック保持用突部66が内周側に向けて突設されている。アンロック保持用突部66はラチェットプレート60の周方向に延びており、各アンロック保持用突部66の内周面はラチェットプレート60の中心点を中心とする円弧面となっている。
【0025】
ラチェットプレート60は、小径環状フランジ61を大径環状フランジ22の内周面と溝形成用突部23の外周面の隙間に挿入した状態でベースプレート20の左側面に被せられる(
図7参照)。この状態で各ポール30の外歯34とラチェットプレート60の内歯65が半径方向に対向する。
図6ないし
図8に示すように、ラチェットプレート60とベースプレート20の間の空間に3つのロックスプリング70が配設される。
図2、
図6、
図8に示すように、各ロックスプリング70は金属線材からなり、一端を右方に曲げて第1係止部(第1の接続部)71が形成され、他端を右方に曲げて第2係止部(第2の接続部)72が形成されている。第1係止部71と第2係止部72の間はC字状の湾曲部73となっている。各ロックスプリング70は、ラチェットプレート60の左方に湾曲部73を位置させ、第1係止部71をベースプレート20のバネ掛け凹部25に係合させ、第2係止部72を回転カム40のバネ掛け凹部45に係合させて取り付けられる。このようにして各ロックスプリング70をベースプレート20と回転カム40に取り付けた状態で、各ロックスプリング70は弾性変形して回転カム40を一方向に回転する付勢力を発生する。この付勢力は回転カム40を
図3ないし
図6、
図8の反時計方向に回転させる力であり、回転カム40と回転方向に一体化されたレリーズプレート50に対しても同方向の付勢力が働く。
【0026】
具体的には、
図6や
図8に示すように、左方から見て各ロックスプリング70は、第1係止部71を始点として湾曲部73が反時計方向に延設されながら徐々に内周側に近づく湾曲形状をなし、湾曲部73のうち第2係止部72に近い部分で曲率を大きくして中心非円形孔41に向かい、終点となる第2係止部72に至る。バネ掛け凹部25は、案内平面23bが延びる方向(案内溝24に沿うポール30の移動方向)には第1係止部71の移動を許す長さを有している。一方、周方向には、バネ掛け凹部25の内面とポール30の側部との間に挟まれて第1係止部71の移動が規制される。第2係止部72は、屈曲した形状のバネ掛け凹部45の最奥部に向けて押し付けられた状態にある。この状態で各ロックスプリング70の湾曲部73は、自由状態よりも第2係止部72と第1係止部71を離間させた撓み状態にあり、撓みを解消しようとする力によって、第1係止部71がバネ掛け凹部45の最奥部をさらに奥側に押し込もうとする。この力により、回転カム40に対して前述した
図3ないし
図6、
図8の反時計方向への付勢力が与えられる。
【0027】
金属製の円環状部材である押えリング80は、
図7に示すように、ベースプレート20の大径環状フランジ22の外周面と、ラチェットプレート60の小径環状フランジ61の左側面に対して嵌合する形で被せられ、ベースプレート20に対して固定される。この状態でベースプレート20と押えリング80の間にラチェットプレート60が挟まれて、ラチェットプレート60は、ベースプレート20及び押えリング80から脱落することなく、大径環状フランジ22の内周面に沿って相対回転可能となる。
【0028】
ベースプレート20はシートクッション11を構成する後部フレーム(図示略)に対して固定され、ラチェットプレート60はシートバック12を構成するシートバック側フレーム(図示略)に対して固定される。
【0029】
シートリクライニング装置15の側部(右側)には回転操作可能な操作レバー90(
図1)が設けられる。シートリクライニング装置15の径方向の中心にはシャフト(回転軸部材)91(
図1、
図7)が挿入されている。シャフト91の軸線はラチェットプレート60の回転中心と略一致しており、操作レバー90を回転操作すると、シャフト91がその軸線を中心として回転する。
図7に示すように、シャフト91は、軸挿通孔21、中心非円形孔41、中央開口51、軸挿通孔62を貫通しており、このうち中心非円形孔41に対して相対回転を規制された状態で嵌合している。具体的には、シャフト91は中心非円形孔41の直線状の3つの内辺46に対して嵌ることで相対回転が規制される。各内辺46に形成した凹部47もシャフト91との嵌合に関与する。そのため、シャフト91が回転すると回転カム40とレリーズプレート50が共に回転する。
【0030】
以上のように構成したシートリクライニング装置15の作動を説明する。なお、
図3ないし
図5では、ポール30や回転カム40よりも紙面手前側に位置するレリーズプレート50やラチェットプレート60や押えリング80を一点鎖線で仮想的に図示している。また、
図3ないし
図5では3つのロックスプリング70の図示を省略しており、
図3のロック状態での各ロックスプリング70を
図6ないし
図8に示している。
【0031】
回転カム40とレリーズプレート50に対して操作力を加えていないとき、シートリクライニング装置15は
図3、
図6ないし
図8に示すロック状態にある。このときの回転カム40とレリーズプレート50の位置をロック位置と呼ぶ。ロック状態では、回転カム40とレリーズプレート50は3つのロックスプリング70の付勢力(
図3ないし
図6、
図8中の反時計方向に付勢している)によってロック位置に保持される。回転カム40がロック位置にあるとき、押圧部43がポール30の被押圧部36をロック方向(外周側)に押圧する。こうしてロック方向へ押圧されたポール30はそれぞれの外歯34をラチェットプレート60の内歯65に噛合させた噛合位置に保持され、ベースプレート20とラチェットプレート60の相対回転が規制される。つまりシートクッション11に対するシートバック12の傾動が規制される。レリーズプレート50のロック位置では、各ポール30のカムフォロア32がカム孔52のロック許容部52aに位置しており、レリーズプレート50はポール30の位置設定には関与していない。また、ポール30のロック位置への移動時、及びロック位置での保持状態において、通常は回転カム40の抑制部42は被抑制部35と当接せず、ポール30が傾いた場合のみ当接する。
【0032】
各ロックスプリング70の付勢力に抗して操作レバー90を
図1の実線位置から二点鎖線位置へ回転させると、シャフト91(
図1、
図7)を介して回転カム40とレリーズプレート50が
図3、
図6、
図8の時計方向(アンロック方向)に回転する。レリーズプレート50がロック位置からアンロック方向に回転すると、各ポール30のカムフォロア32がレリーズプレート50に形成したカム孔52内でロック許容部52aからロック解除部52bへ位置を変化させ、カム孔52の内面によってカムフォロア32がベースプレート20の内周側へ押圧されて各ポール30が案内溝24内を内周側へ移動する。このとき回転カム40は、各ポール30への押圧方向と逆側に押圧部43を移動させるので、レリーズプレート50による各ポール30への移動を妨げない。
【0033】
図4は各ポール30の内周側への移動によって外歯34がラチェットプレート60の内歯65との噛合を解除し始めたアンロック開始状態を示している。回転カム40とレリーズプレート50が
図5に示すアンロック位置まで回転すると、各ポール30の外歯34がラチェットプレート60の内歯65から完全に噛合を解除した噛合解除位置に達する。外歯34と内歯65の噛合が解除されることで、ベースプレート20とラチェットプレート60の相対回転が可能になる。つまりシートクッション11に対するシートバック12の傾動が可能なアンロック状態になる。
図5に示すように、アンロック状態では、各ポール30の被抑制部35と被押圧部36の間の凹部にカム部材40の抑制部42が収まり、隣接するポール30の間のスペースにカム部材40の押圧部43が収まり、カム部材40に妨げられることなく各ポール30を噛合解除位置まで移動させることができる。
【0034】
アンロック状態では、各ロックスプリング70の第1係止部71と第2係止部72の間隔がロック状態よりも大きくなり(すなわち湾曲部73の撓み量が増大し)、回転カム40とレリーズプレート50に対してロック位置へ向けての付勢力が強く働く。そのため、
図5に示すアンロック状態で操作レバー90に対する操作を解除すると、回転カム40及びレリーズプレート50が各ロックスプリング70の付勢力によってアンロック位置からロック位置(
図3、
図6、
図8)へ向けて反時計方向に回転する。ポール30は、回転カム40がロック方向へ回転すると押圧部43によって被押圧部36が適宜押圧されて、案内溝24内を外周側へ移動して噛合位置(
図3、
図6ないし
図8)に達する。
【0035】
なお、各ポール30に形成した保持突起33とラチェットプレート60に形成したアンロック保持用突部66が径方向に対向する位置関係にあるときは、ロック動作の途中で保持突起33の外周面がアンロック保持用突部66の内周面に係合して外周側への各ポール30の移動が規制される。この段階で外歯34と内歯65は噛合しておらず、ベースプレート20に対するラチェットプレート60の相対回転が規制されない。すなわちアンロック操作を継続していなくてもシートバック12の傾動が可能なアンロック保持状態になる。
図1に示すシートバック12の初段ロック位置12Cと前傾位置12Aの間でこのアンロック保持状態になり、保持突起33とアンロック保持用突部66は初段ロック位置12Cから前傾位置12Aまでの間で係合(径方向に対向)するように周方向長さと相対位置が設定されている。シートバック12を初段ロック位置12Cまで引き起こすとアンロック保持状態(保持突起33とアンロック保持用突部66の対向状態)が解除されて、各ロックスプリング70の付勢力によって
図3、
図6ないし
図8のロック状態になる。ロック状態では、各保持突起33の外周面がアンロック保持用突部66の内周面よりも外周側に位置する。
【0036】
続いて、シートリクライニング装置15の組み立て作業(特にロックスプリング70の組み付け)について説明する。
図7に示すように、3つのロックスプリング70はいずれもシートリクライニング装置15の内部空間に設けられており、特に各ロックスプリング70のうち第1係止部71と第2係止部72を除いた中間部分である湾曲部73がベースプレート20とラチェットプレート60の間に位置している。ベースプレート20には軸挿通孔21が貫通形成され、ラチェットプレート60には軸挿通孔62が貫通形成されているが、軸挿通孔21や軸挿通孔62の大きさと形状の制約から、ベースプレート20とラチェットプレート60を組み合わせた状態で、各ロックスプリング70の全体を外部から軸挿通孔21や軸挿通孔62を通してシートリクライニング装置15内に組み付けることは難しい。そのため、ベースプレート20にラチェットプレート60を取り付ける前の段階から各ロックスプリング70の組み付けを開始する。
【0037】
図9と
図10に各ロックスプリング70の組み付け工程を示す。各ロックスプリング70の組み付けは、ベースプレート20に対して3つのポール30と回転カム40とレリーズプレート50を組み付けてから行う。各ロックスプリング70の組み付けの最初の段階では、
図9に示すように、ベースプレート20に3箇所設けたバネ掛け凹部25に対して第1係止部71のみを挿入(固定可能に接続)して、各ロックスプリング70を付勢力が発生していない仮保持状態にする。なお、
図9にはラチェットプレート60を一点鎖線で仮想的に示しているが、この段階ではラチェットプレート60は取り付けられていない。前述のように、ベースプレート20上にポール30を支持させた状態では、バネ掛け凹部25の内面とポール30の側部によって第1係止部71が挟まれて周方向の移動が規制される。各ロックスプリング70の湾曲部73はレリーズプレート50上に載せられる(
図7参照)。湾曲部73のうちレリーズプレート50と重ならない領域は、ポール30や溝形成用突部23に対して、レリーズプレート50の厚み分の隙間を空けて対向する。
【0038】
図9に示すように、各ロックスプリング70を仮保持する段階で、各ロックスプリング70の第2係止部72は、回転カム40のバネ掛け凹部45には係合させずに、バネ掛け凹部45以外の中心非円形孔41内に位置するように暫定的に挿入させる。レリーズプレート50の中央開口51は回転カム40の中心非円形孔41よりも大きい開口であるため、中心非円形孔41への第2係止部72の挿入がレリーズプレート50によって妨げられることはない。
図7に示すように、シートリクライニング装置15の軸線方向(左右方向)への第2係止部72の長さは、回転カム40とレリーズプレート50厚みの和よりも大きく、第2係止部72の先端はベースプレート20の軸挿通孔21の内周側まで達する。なお、
図7にはシャフト91を挿通した状態のシートリクライニング装置15を示しているが、シートリクライニング装置15の組立作業段階ではシャフト91は挿入されていない。従って、
図9のように各ロックスプリング70の一部(第2係止部72と湾曲部73の一部)が中心非円形孔41の内辺36よりも内周側に突出しても、シャフト91との干渉は生じない。
【0039】
図9に示すように、仮保持状態にある各ロックスプリング70は、レリーズプレート50に設けたバネ保持突起54に湾曲部73が当接して内周(縮径)側への移動が制限され、ポール30に設けた保持突起33に湾曲部73が当接して外周(拡径)側への移動が制限され、第2係止部72をバネ掛け凹部45に係合させていなくても各ロックスプリング70の脱落が生じにくく、仮保持状態での安定性に優れている。各ロックスプリング70の第2係止部72は中心非円形孔41の内辺46に当接(場合によっては内辺46上の凹部47に係合)しておおよその位置が定まるが、バネ掛け凹部45内に係合させた場合と異なり、回転カム40をロック方向へ強く押し込む付勢力は働かない。
【0040】
続いて、各ロックスプリング70を仮保持状態にしたままでベースプレート20にラチェットプレート60を取り付ける。ラチェットプレート60の取り付けに際してポール30と干渉しないように、回転カム40とレリーズプレート50をアンロック方向に少し回転させて各ポール30を内周側に引き込んでおく。例えば本実施形態の
図9では、回転カム40とレリーズプレート50をロック位置からアンロック方向に約15°回転させている。この段階では回転カム40とレリーズプレート50に対して各ロックスプリング70の付勢力が働いていないので、強い操作力を要さない。なお、内周側への各ポール30の引き込みは、先に述べた各ロックスプリング70の仮保持(バネ掛け凹部25への第1係止部71の挿入)よりも前の段階で予め行っておいてもよい。
【0041】
ベースプレート20へのラチェットプレート60の取り付け後に、押えリング80によってラチェットプレート60を保持させる。これにより、各ロックスプリング70の側方(左方)がラチェットプレート60によって覆われ、かつベースプレート20に対するラチェットプレート60の離脱も規制されるので、各ロックスプリング70がベースプレート20とラチェットプレート60の間の内部空間から脱落しなくなる(
図7参照)。
【0042】
最後に、
図10に示すように、各ロックスプリング70の第2係止部72を回転カム40のバネ掛け凹部45に係合させて固定し、各ロックスプリング70を仮保持状態から付勢状態(組み付け完了状態)にする。
図10ではラチェットプレート60と押えリング80を一点鎖線で仮想的に示しているが、この段階でラチェットプレート60と押えリング80の取り付けが完了している。前述のように、第2係止部72を回転カム40の中心非円形孔41(内辺46)内に仮保持させた状態で、第2係止部72の先端がベースプレート20の軸挿通孔21の内側まで達しているため(
図7参照)、軸挿通孔21を通して右方から第2係止部72にアクセスしてバネ掛け凹部45への係合作業を行うことができる。
図7や
図8に示すように、軸挿通孔21は中心非円形孔41よりも大きな開口であり、バネ掛け凹部45を含む中心非円形孔41の全体を軸挿通孔21を通して視認できるので、ベースプレート20に妨げられずに効率的にバネ掛け凹部45への第2係止部72の係合(固定)作業を行うことができる。なお、
図9に示すように、各ロックスプリング70の仮保持状態では、第2係止部72だけでなく湾曲部73の一部も中心非円形孔41を通して視認できる位置にあるので、第2係止部72を直接に保持する代わりに、この湾曲部73の一部を保持しながらバネ掛け凹部45への第2係止部72の係合(固定)を行うこともできる。
【0043】
また、
図7に示すように、ラチェットプレート60の軸挿通孔62側からも各ロックスプリング70の第2係止部72や湾曲部73の一部を視認できる位置関係にあるため、軸挿通孔62を通して左方から各ロックスプリング70にアクセスしてバネ掛け凹部45への係合(固定)作業を行うことも可能である。本実施形態のシートリクライニング装置15では、軸挿通孔21と軸挿通孔62の開口の大きさの違いや第2係止部72に対する位置関係といった条件から、上記のように軸挿通孔21を通して第2係止部72の係合(固定)を行う方が作業性に優れているが、軸挿通孔62の開口径を拡大するなどして、軸挿通孔62側からのアクセス性を向上させてもよい。
【0044】
第2係止部72をバネ掛け凹部45に係合(固定)させることで湾曲部73の撓み量が大きくなり、各ロックスプリング70が回転カム40とレリーズプレート50に対する付勢手段として機能するようになる。バネ掛け凹部45への第2係止部72の係合(固定)作業は、ラチェットプレート60によって各ロックスプリング70の側方(左方)が塞がれた状態で行われるので、各ロックスプリング70の撓み量が大きくなっても側方へ外れてしまうことがなく、作業者が各ロックスプリング70を側方から押さえる手間がかからない。従って、各ロックスプリング70の仮保持状態から付勢状態への移行を簡単かつ確実に行わせることができる。
【0045】
以上のように、本発明を適用した製造方法によれば、ベースプレート20とラチェットプレート60の間の内部空間にロックスプリング70を配したシートリクライニング装置15の組立作業性が向上する。特に、各ロックスプリング70による強い付勢力が働かない仮保持状態でラチェットプレート60の取り付けを行い、ラチェットプレート60によって各ロックスプリング70の脱落を規制した後で仮保持状態から付勢状態へ移行させるので、いずれの段階でも作業の負担が軽減され、内蔵タイプのロックスプリング70の組み込みが極めて容易になる。
【0046】
以上、本発明を図示実施形態に基づいて説明したが、本発明はこの実施形態に限定されるものではなく、様々な変形を施しながら実施可能である。例えば、図示実施形態のシートリクライニング装置15の付勢部材は、それぞれが湾曲した線状の3つのロックスプリング70として構成されているが、これと異なる形態の付勢部材を備えたシートリクライニング装置にも本発明を適用可能である。具体的な例として、1本の金属線を複数回巻回した渦巻き状のバネを付勢部材として用いるタイプのシートリクライニング装置が知られており、このタイプに本発明の製造方法を適用してもよい。
【0047】
図示実施形態では、各ポール30を噛合位置に押圧させる回転カム40に各ロックスプリング70の第2係止部72を接続(係合)させているが、ラチェットプレート60の取り付け後に仮保持状態から付勢状態への移行が可能であることを条件として、第2係止部72に相当する部位をレリーズプレート50に対して接続(係合)させることも可能である。回転カム40とレリーズプレート50は一体的に回転するため、付勢部材を直接的に接続させる対象が回転カム40とレリーズプレート50のいずれであっても付勢力の付与が可能である。
【0048】
図示実施形態では、各ロックスプリング70の第2係止部72を回転カム40のバネ掛け凹部45に係合させる作業を、ベースプレート20の軸挿通孔21(またはラチェットプレート60の軸挿通孔62)を通して行う。軸挿通孔21や軸挿通孔62はシャフト91を挿通させる部位として設けられており、軸挿通孔21や軸挿通孔62を第2係止部72の係合作業用の開口部として流用することで、ベースプレート20やラチェットプレート60に別途開口部を設ける必要がないという利点が得られる。また、軸挿通孔21や軸挿通孔62は、第2係止部72が位置するシートリクライニング装置15の内周側に形成されているので、第2係止部72付近へのアクセスのしやすさという点でも軸挿通孔21や軸挿通孔62を作業用の開口部として用いることが合理的である。但し、付勢部材の形状などの条件が異なる別形態のシートリクライニング装置では、ベースプレート20やラチェットプレート60において軸挿通孔21や軸挿通孔62以外の位置に作業用の開口部を形成することも可能である。
【0049】
図示実施形態では、仮保持状態にある各ロックスプリング70の湾曲部73を保持する中間保持部として、レリーズプレート50のバネ保持突起54を備えているが、これと異なる位置や部材に設けた中間保持部を用いることもできる。例えば、回転カム44に設けた回り止め突起44はバネ保持突起54と同方向(左方)に突出しており、回り止め突起44の位置やロックスプリング70の形状が条件を満たす場合、回り止め突起44を中間保持部として用いてもよい。この場合、レリーズプレート50から左方に突出してロックスプリング70に当接可能にするべく、回り止め突起44の突出量を大きくさせる。
【0050】
図示実施形態では、ロックスプリング70の第1係止部71を固定可能に接続する部分として、ベースプレート20の案内平面23bの途中にバネ掛け凹部25を設けているが、バネ掛け凹部25に代えて、溝形成用突部23の内側に第1係止部71を固定可能に接続する部分を備えることも可能である。
【0051】
図示実施形態では、ロックスプリング70の組み付けの際に、最初に第1係止部71をバネ掛け凹部25に接続し、続いて第2係止部72を回転カム40のバネ掛け凹部45に固定しているが、これと逆に、最初に第2係止部72をバネ掛け凹部45に接続し、続いて第1係止部71をバネ掛け凹部25に固定してもよい。すなわち、付勢部材(ロックスプリング70)を仮保持状態にさせる際には、2つの接続部(第1係止部71と第2係止部72)のいずれを先に接続してもよい。
【0052】
図示実施形態とは逆に、ベースプレート20をシートバック12側のフレームに対して固定し、ラチェットプレート60をシートクッション11側のフレームに対して固定したタイプのシートリクライニング装置において本発明の製造方法を適用することも可能である。
【0053】
また、図示実施形態ではシートクッション11とシートバック12のそれぞれを構成する左右のフレームうち車両の進行方向に向かって右側のフレームの間をシートリクライニング装置15で接続しているが、進行方向に向かって左側のフレームの間をシートリクライニング装置15で接続したタイプに本発明の製造方法を適用してもよい。さらに左右両方のフレームの間をシートリクライニング装置15で接続し、左右のシートリクライニング装置15の回転カム40同士を連結パイプ等で接続して、左右のシートリクライニング装置15の動きを連動させるようにしたタイプに本発明の製造方法を適用してもよい。