【文献】
PURWASASMITA Bambang Sunendar, et al.,Synthesis and Characterization of Carbon Nanocoil with Catalytic Graphitization Process of Oryza Sativa Pulp Precursors,Journal of the Australian Ceramic Society,2013年,Vol.49, No.1,pp.119-126
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記植物から道管を取り出す工程と、前記道管の表面に導電性高分子を被覆する工程との間に、前記道管に対してアルカリ処理または酸処理を行う工程をさらに有することを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の螺旋状複合体の製造方法。
前記導電性高分子が、アニリン、エチレンジオキシチオフェン、ピロールからなる群のいずれか一つの重合体であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の螺旋状複合体の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、螺旋の回転方向の揃った螺旋状炭素体及び螺旋状複合体を、簡便かつ安価に製造することはできなかった。
【0007】
例えば、非特許文献1に記載の方法は、アセチレンガスをCVD装置で処理することが記載されている。しかしながら、アセチレンガスは反応性が高く取扱いに注意が必要である。またCVD装置自体が高価であることから、簡便に作製することが難しかった。またヘリカルカーボンを得る際に、金属が(触媒あるいは基板の形として)必要不可欠となる。
またこの方法では、螺旋構造を有する炭素体を作製することはできるが、その螺旋の回転方向が右巻きのものと左巻きのものが混在し、作り分けを行うことができなかった。
【0008】
またヘリカルポリマーを焼成したヘリカルカーボンも開発されている。この方法により、炭素の巨視的な螺旋が作製されている。
しかしながら、以下の問題がある。
(1)原料に反応性の高い気体を用いること。
(2)空気との反応性の高い遷移金属触媒による重合反応を行う必要が有るため、高度に調整された実験装置及び厳密な真空ラインを用いた熟練な合成作業が必要なこと。
【0009】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、螺旋の回転方向の揃った螺旋状炭素体及び螺旋状複合体を、簡便かつ安価に製造する螺旋状複合体及び螺旋状炭素体の製造方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、鋭意検討の結果、植物に含まれる維管束(特に道管)を用いることで、螺旋の回転方向が所定の方向に揃った螺旋状炭素体及び螺旋状複合体を簡便かつ安価に製造できることを見出し、発明を完成させた。
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0011】
(1)本発明の一態様に係る螺旋状複合体の製造方法は、植物から道管を取り出す工程と、前記道管の表面に導電性高分子を被覆する工程とを備える。
【0012】
(2)上記(1)に記載の螺旋状複合体の製造方法において、前記植物から道管を取り出す工程において、前記植物を沸騰水中で10〜20分加熱してもよい。
【0013】
(3)上記(1)または(2)のいずれかに記載の螺旋状複合体の製造方法において、前記植物から道管を取り出す工程と、前記道管の表面に導電性高分子を被覆する工程との間に、前記道管に対してアルカリ処理または酸処理を行う工程をさらに有してもよい。
【0014】
(4)上記(1)〜(3)のいずれか一つに記載の螺旋状複合体の製造方法において、前記導電性高分子が、アニリン、エチレンジオキシチオフェン、ピロールからなる群のいずれか一つの重合体であってもよい。
【0015】
(5)本発明の一態様に係る螺旋状炭素体の製造方法は、上記(1)〜(4)のいずれか一つの螺旋状複合体の製造方法によって製造された螺旋状複合体を、酸素欠乏雰囲気中で燃焼する螺旋状炭素体の製造方法。
【0016】
(6)本発明の一態様に係る螺旋状炭素体の製造方法は、植物から道管を取り出す工程と、前記道管を酸素欠乏雰囲気中で燃焼する工程を有する。
【0017】
(7)上記(5)または(6)のいずれかに記載の螺旋状炭素体の製造方法は、前記燃焼を、アルゴン雰囲気または窒素雰囲気下で行ってもよい。
【0018】
(8)本発明の一態様にかかる螺旋状複合体は、植物から取出された道管と、前記道管の表面を被覆する導電性高分子と、を有する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の螺旋状複合体及び螺旋状炭素体の製造方法を用いることで、螺旋の回転方向の揃った螺旋状炭素体及び螺旋状複合体を、簡便かつ安価に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を適用した螺旋状複合体及び螺旋状炭素体の製造方法について詳細に説明する。
以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0022】
(螺旋状複合体の製造方法)
本発明の一態様に係る螺旋状複合体の製造方法は、植物から道管を取り出す工程と、前記道管の表面に導電性高分子を被覆する工程とを備える。
【0023】
植物の道管は、螺旋の軸方向に対して垂直な幅(螺旋を平面視した際の直径)が10μm〜100μm程度のマイクロコイル構造を有する。
植物の道管は所定の向きに回転する螺旋構造を有し、この回転方向は、植物内で一定である。そのため、複数の道管は、それぞれ同じ向きに回転する螺旋構造を有する。
【0024】
まず、植物から道管を取り出す。
用いることができる植物としては、水とミネラルを植物全体に輸送することができる維管束を有する維管束植物であれば特に問わない。
例えば、蓮、セロリ、キャベツ、白菜、ふき、すすき、ロマネスコの葉、大根の葉、ブロッコリーの葉、山茶花の葉等、用いることができる。また道端の雑草等からも取り出すことができる。
【0025】
植物から道管を取り出す方法は、植物の茎を縦方向に割き、はぎ取られた部分についてくる道管をピンセット等で取り出すことができる。特に蓮は、道管を比較的簡単に取り出すことができる。
【0026】
植物の道管は、熱湯中で加熱してから取り出すことがより好ましい。道管は、周囲の細胞壁等の多糖類で固定されていることが多く、そのまま引っ張ると道管が切れることがある。加熱により植物が軟らかくすることで、維管束の周りの組織を手やピンセット等で剥ぎ取り易くなる。またこの加熱時間は10分から20分程度加熱することが好ましい。加熱時間が10分未満であると、植物が十分に軟らかくならない場合がある。これに対し、加熱時間が長すぎると、維管束が一部切れてしまう場合がある。
【0027】
取出した道管にはアルカリ処理または酸処理を施してもよい。アルカリ処理を施すことで、道管の周囲に残存した外壁の細胞を除去することができる。例えば、これらの溶液に浸すことにより剥がれやすくなった残存する組織を、針等の尖った先端を有するものを用いて、例えば光学顕微鏡下で容易に除去することができる。
【0028】
アルカリ処理及び酸処理に用いる溶液は、外壁の細胞を道管から剥がれやすくすることができるものであれば、特に問わない。例えば、水酸化ナトリウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液、アンモニア水、硫酸、塩酸、酢酸、過酸化水素水等を用いることができる。またアルカリ処理溶液及び酸溶液の濃度は、0.1M(mol/L、mol/m
3)〜0.5Mであることが好ましく、0.1M〜0.2Mであることがより好ましい。この範囲にすることで、道管を除去することなく、残存した外壁の細胞のみを容易に除去することができる。濃度が濃くなれば、それだけ反応速度を速めることができる。一方で、濃度が濃すぎると、安全性の面から好ましくない。
【0029】
また取り出した道管に、超音波処理を加えてもよい。超音波により、道管の周囲の残存する組織が剥がれやすくなる。
【0030】
植物から道管を取り出す際には、これらの工程を複数回繰り返してもよい。
【0031】
この取出した道管の表面に導電性高分子を付着する。導電性高分子としては、アニリン、エチレンジオキシチオフェン、ピロールからなる群のいずれか一つの重合体を用いることができる。
【0032】
道管の表面に導電性高分子を付着する方法を、導電性高分子としてポリアニリンを付着する場合を例に説明する。まず、取り出した道管を水中に分散させる。この分散させた道管を、ペルソオキソ二硫化アンモニウムと、(+)−10−カンファースルホン酸または硫酸と、アニリンとが存在する条件下で0〜5℃で撹拌すると、道管表面にポリアニリンが被覆される。
ここで、ポリアニリンはアニリンが重合することで道管表面に付着し、道管表面を被覆する。道管を含んだ溶液中でポリアニリンを重合することで、重合して得られたポリアニリン粉末の中に、道管が存在することになる。そのため、自然と道管表面に導電性高分子が付着すると考えられる。
【0033】
重合は、化学重合で行ってもよいし、電解重合で行ってもよい。化学重合は、外部から電界をかける必要がなく、撹拌のみで行うことができるため好ましい。
ここで、ペルオキソ二硫化アンモニウムは、反応の開始剤として寄与する。また(+)−10−カンファースルホン酸または硫酸は酸化剤として寄与する。電解重合の場合は、酸化剤なしで、電界のみで重合反応を進めることができる。
【0034】
アニリンの代わりにエチレンジオキシチオフェンを用いることで、道管表面に被覆される導電性高分子をポリチオフェンとすることができる。またアニリンの代わりにピロールを用いることで、道管表面に被覆される導電性高分子をポリピロールとすることができる。
【0035】
道管を分散させる溶液は、ペルソオキソ二硫化アンモニウムと、(+)−10−カンファースルホン酸または硫酸と、を加えた水溶液には限られない。例えば、ポリアニリンの重合に用いることができる溶媒であれば、公知の物を用いることができる。例えばN−メチルピロリドン等を用いることができる。コストを安く抑える観点からは、溶媒として水を用いること好ましい。
【0036】
撹拌する温度は、0〜5℃であることが好ましい。温度が0℃未満であると、反応速度が遅くなる。これに対し、温度が5℃超であると、高分子膜としてではなく、粉末状に高分子が重合してしまうことが多くなる。すなわち、道管を被覆する以外に導電性高分子が使用されることとなり、無駄が多くなる。
【0037】
上述の工程を経ることにより、道管の表面に導電性高分子が被覆された螺旋状複合体を簡便かつ安価に作製することができる。植物の道管は、小さな雑草にも存在するため、入手が容易であり、安価である。また導電性高分子を被覆する工程においても、CVD装置等の高価な装置を用いる必要が無く、螺旋状複合体を非常に安価かつ簡便に作製することができる。
【0038】
(螺旋状炭素体の製造方法)
螺旋状炭素体は、上述の工程で得た螺旋状複合体、または道管そのものを酸素欠乏雰囲気中で焼成することで得ることができる。
ここで、酸素欠乏雰囲気とは、完全に無酸素であることが好ましい。しかしながら、反応空間中に一部酸素が残存していてもよい。具体的には、反応空間における酸素が占める割合が10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、2%以下であることがさらに好ましく、1%以下であることが特に好ましい。
【0039】
酸素欠乏環境下は、反応空間を窒素またはアルゴン等の不活性元素で置換することで実現することができる。不活性元素は、反応に寄与しないため特に好ましい。またこの他にも、閉塞系で加熱を行うことで実現してもよい。
【0040】
焼成温度は、350℃〜1100℃の範囲内で行うことが好ましく、500℃〜1000℃の範囲で行うことより好ましく、900℃〜1000℃の範囲で行うことがさらに好ましい。350℃未満であると、十分に道管を炭化させることが難しくなる。また1100°超では、加熱のために必要な設備が高価となってくる。
【0041】
上述の方法で、螺旋状複合体または道管を酸素欠乏状態で焼成することで、螺旋状複合体又は道管は炭化する。
【0042】
螺旋状複合体を経ずに直接道管を焼成する場合は、焼成後の螺旋状炭素体に水分を加えることが好ましい。焼成により螺旋状炭素体の断面が円形から六角形に変形している場合があるためである。この変形は焼成時に水分が蒸発するために生じるものと考えられる。水分を加えると、元の道管と同様に円形の断面を有する螺旋状炭素体に戻る。なお、用途に応じては、螺旋状炭素体の断面の形状は六角形のままとしてもよい。
一方、螺旋状複合体を経る場合は、導電性高分子によって被覆されているため、このような形状変化は生じにくい。
【0043】
上述の工程を経ることにより、螺旋構造を有する螺旋状炭素体を簡便かつ安価に作製することができる。植物の道管は、小さな雑草にも存在するため、入手が容易であり、安価である。また各工程において、高価な装置は必要なく、安価かつ簡便に螺旋状炭素体を作製することができる。
【0044】
(螺旋状複合体、螺旋状炭素体)
本発明の一態様にかかる螺旋状複合体は、植物から取出された道管と、道管の表面に被覆した導電性高分子とを有する。また螺旋状炭素体は、植物の道管又は螺旋状複合体を炭化したものである。
【0045】
螺旋状複合体及び螺旋状炭素体の大きさは、植物の道管の大きさによって決まる。そのため、螺旋状複合体及び螺旋状炭素体は、螺旋の軸方向に対して垂直な幅(螺旋を平面視した際の直径)が10μm〜100μm程度のマイクロコイル構造を有する。
【0046】
螺旋状複合体における導電性高分子は、導電性を有する高分子材料を用いることができる。ここで、「導電性」とは、高分子を1cm角の立方体とした際の導電率が1×10
−7S/cm以上であることを意味する。例えば、ポリチオフェン系樹脂、ポリアセチレン系樹脂、ポリアニリン系樹脂、ポリピロール系樹脂を用いることができる。具体的には、アニリン、エチレンジオキシチオフェン、ピロールからなる群のいずれか一つの重合体を用いることができる。
【0047】
導電性高分子の厚みは、5nm以上であることが好ましい。導電性高分子の厚みが10nm以上であれば、道管のほぼ全表面を導電性高分子で覆うことができる。そのため、螺旋状複合体の導電性を十分高めることができる。
【0048】
螺旋状炭素体を構成する線状の炭化物の断面は、用途に応じて設計することが好ましい。例えば、電磁的コイル(ソレノイド)として利用する場合は円形であることが好ましい。炭化物の断面を円形にする方法は、上述のように、炭化物に水分を供給することで行うことができる。なお、ここで円形とは、真円に限られない。例えば、楕円等も含む。一方、高インダクタンスや機械的強度が要求される場合は、炭化物の断面形状を六角形とし、ハニカムコイルとすることが好ましい。
【0049】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0050】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0051】
(実施例1)
まずキャベツから道管を取り出した。まず準備したキャベツを沸騰水中に浸漬し、キャベツから道管を取り出した。取り出した道管にアルカリ処理を行った。
次いで、アルカリ処理後の道管を水中に分散させた。そして、さらにペルソオキソ二硫酸アンモニウム、硫酸、アニリン存在下で、0〜5℃の温度範囲に制御しながら撹拌を行った。そして、道管の表面にポリアニリンを被覆した螺旋状複合体を作製した。
得られた螺旋状複合体をアルゴン雰囲気中、1000℃で加熱して螺旋状炭素体を作製した。
図1は、キャベツの道管の電子顕微鏡写真であり、(a)は処理前のキャベツの道管の写真であり、(b)はポリアニリンを付着した螺旋状複合体の写真であり、(c)は焼成後の螺旋状炭素体の写真である。
また電子顕微鏡は、日本電子株式会社製のJSM−521SEMを用いて測定した。
【0052】
図2は、キャベツの道管、キャベツの道管から作製した螺旋状複合体、キャベツの道管から作製した螺旋状炭素体の赤外吸収スペクトル測定結果である。赤外吸収スペクトルは、日本分光株式会社製のFT−IR550を用いて測定した。
この結果から、螺旋状複合体はポリアニリンが良く付着していることが確認できる。また螺旋状炭素体は、カーボン系材料に特徴的な特有の幅の広いピークを有しており、螺旋状複合体が好適に炭化されていることが確認できる。
【0053】
(実施例2)
植物をキャベツから白菜に変更した点が実施例1と異なる。その他の点は実施例1と同様の処理を行った。
図3は、白菜の道管の電子顕微鏡写真であり、(a)はアルカリ処理後の白菜の道管の写真であり、(b)はアルカリ処理後の白菜を、螺旋状複合体を介さずに直接炭化させた螺旋状炭素体の写真であり、(c)ポリアニリンを付着した螺旋状複合体の写真であり、(d)は焼成後の螺旋状炭素体の写真である。
【0054】
図4は、白菜の道管、白菜の道管から作製した螺旋状複合体、白菜の道管から作製した螺旋状炭素体の赤外吸収スペクトル測定結果である。蓮と同様に白菜でも、螺旋状複合体はポリアニリンが良く付着していることが確認できる。また螺旋状炭素体が好適に得られていることが確認できる。
【0055】
また実施例2では、白菜の焼成時の熱重量測定(TG測定)も行った。熱重量測定は、セイコーインスツール株式会社製のEXSTAR7000:TG/DTA7300:X−DSC7000を用いて行った。
図5は、その結果を示す。
図5に示すように、100℃付近で水分の蒸発のピークが確認できる。その後、250℃及び320℃付近で大きな重量変化が確認できる。この重量変化は、道管のセルロースやヘミセルロースが分解していることを示唆する。すなわち、焼成後の道管は炭化していることがわかる。また焼成後の道管が導電性を有することも確認した。
【0056】
(参考例1〜5)
参考例1としてセロリ、参考例2として生ふき、参考例3としてすすき、参考例4としてロマネスコ、参考例5として大根の葉の電子顕微鏡写真を測定した。
図6は、セロリの道管の電子顕微鏡写真である。
図7は、生ふきの道管の電子顕微鏡写真である。
図8はすすきの電子顕微鏡写真である。
図9はロマネスコの電子顕微鏡写真である。
図10は大根の葉の電子顕微鏡写真である。セロリ、生ふき、すすき、ロマネスコ及び大根の葉でも同様に、螺旋状の道管が確認できる。すなわち、これらを用いても同様に螺旋状複合体及び螺旋状炭素体を得ることができる。