(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の好ましい形態について具体的に説明するが、本発明は以下の記載のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。なお、以下に記載される本発明の個々の好ましい形態を2又は3以上組み合わせた形態も、本発明の好ましい形態に該当する。
【0012】
〔水溶性フィルム〕
本発明の水溶性フィルムは、グラフト重合体と水溶性樹脂とを含む。なお、本発明の水溶性フィルムは、グラフト重合体のみを必須とするものであってもよく、例えばグラフト重合体のみで構成してもよく、このようなグラフト重合体を含む水溶性フィルムもまた本発明の一態様である。また、必要に応じて他の成分を更に含んでもよい。各含有成分は、それぞれ1種又は2種以上を使用することができる。
【0013】
上記水溶性フィルムは、主として水溶性樹脂とグラフト重合体とから構成されるものであることが好ましい。上記水溶性フィルムが主として水溶性樹脂とグラフト重合体とから構成されるものであるとは、上記水溶性フィルムにおける水溶性樹脂の質量割合とグラフト重合体の質量割合が、それぞれ、グラフト重合体及び水溶性樹脂以外のいずれの成分の質量割合よりも大きいことを言う。なお、上記水溶性フィルムは、水溶性樹脂及びグラフト重合体のみからなるものであってもよい。水溶性樹脂とグラフト重合体との配合比(水溶性樹脂/グラフト重合体)は、質量比で、例えば、1〜99/99〜1であることが好ましい。フィルム強度と冷水への溶解性とのバランスの観点から、水溶性樹脂とグラフト重合体との総量100質量%に対する水溶性樹脂の割合が1質量%以上、10質量%以上、20質量%以上、30質量%以上、40質量%以上、50質量%以上、60質量%以上であることが、この順に好ましく(数値が大きいほどより好ましい)、当該水溶性樹脂の割合が99質量%以下、98質量%以下、95質量%以下であることが、この順に好ましい(数値が小さいほどより好ましい)。
【0014】
すなわち言い替えれば、水溶性樹脂とグラフト重合体との総量100質量%に対するグラフト重合体の割合が1質量%以上、2質量%以上、5質量%以上であることが、この順に好ましく(数値が大きいほどより好ましい)、当該グラフト重合体の割合が99質量%以下、90質量%以下、80質量%以下、70質量%以下、60質量%以下、50質量%以下、40質量%以下であることが、この順に好ましい(数値が小さいほどより好ましい)。
【0015】
上記水溶性フィルムの厚さは、用途等に応じて適宜設定すればよく特に限定されないが、例えば、フィルム強度と冷水への溶解性とのバランスの観点から、例えば、5〜300μmとすることが好ましい。より好ましくは6〜200μm、更に好ましくは7〜150μm、一層好ましくは8〜100μm、特に好ましくは9〜90μm、最も好ましくは10〜80μmである。
【0016】
上記水溶性フィルムは、膜厚を40μmとしたときの6℃の冷水への溶解時間が5〜240秒であることが好ましい。より好ましくは6〜200秒、更に好ましくは7〜180秒、一層好ましくは8〜160秒、より一層好ましくは9〜140秒、特に好ましくは10〜120秒、最も好ましくは15〜100秒である。溶解時間が速すぎる(短すぎる)と、吸湿性が強くなり、一般的な保管状態に於いて空気中の湿気によりフィルムの形状を充分に保つことができないことがあり、また、溶解時間が遅すぎる(長すぎる)と、薬剤をより効率的に分散することができないことがある。
溶解時間(40μm換算)は、後述する実施例に記載の溶解性の評価方法に基づいて求めることができる。
【0017】
上記水溶性フィルムはまた、伸長性が23%以上であることが好ましい。伸長性が23%以上であると耐荷重性に優れたフィルムとなるため、薬剤や洗剤等の包装材料としてより有用なものとなる。より好ましくは25%以上、更に好ましくは30%以上である。
伸長性は、後述する実施例に記載の伸長性の評価方法に基づいて求めることができる。
【0018】
上記水溶性フィルムはまた、耐硬性が94%以上であることが好ましい。耐硬性が94%以上であると、硬度の高い水へ投入しても沈殿が生じたり、水が濁ったりすることがないが、耐硬性が94%未満であると、硬度の高い水へ投入した時に、塩を形成して沈殿が生じたり、水が濁ったりすることをより充分に抑制することが困難になる。より好ましくは95%以上、更に好ましくは96%以上、特に好ましくは97%以上である。
耐硬性は、後述する実施例に記載の耐硬性の評価方法に基づいて求めることができる。
【0019】
上記水溶性フィルムは更に、膜厚を40μmとしたときのフィルム強度が0.05J以上であることが好ましい。強度が0.05J以上であると、安定的に薬剤や洗剤等の梱包をより充分に維持することができる。より好ましくは0.08J以上、更に好ましくは0.1J以上である。
フィルム強度(40μm換算)は、後述する実施例に記載の強度の評価方法に基づいて求めることができる。
【0020】
以下に、水溶性フィルムに含まれるグラフト重合体及び水溶性樹脂や、その他の好適な含有成分等について更に説明する。
【0021】
<グラフト重合体>
グラフト重合体は、基幹重合体に1種又は2種以上の単量体をグラフト重合させて得られるものであればよい。好ましくは、幹鎖に、ポリアルキレングリコール鎖及び/又はビニルラクタム単位を有する重合体である。このようなグラフト重合体を用いることで、本発明の作用効果をより充分に発揮することが可能となる。また、枝鎖にアニオン性基及び/又はラクタム基を有する重合体であることも好ましい。より好ましくは、(i)幹鎖にポリアルキレングリコール鎖を有し、かつ枝鎖にアニオン性基及び/又はラクタム基を有する形態;(ii)幹鎖にビニルラクタム単位を有し、かつ枝鎖にアニオン性基を有する形態;のいずれか又は両者を満たす形態である。
【0022】
上記グラフト重合体の重量平均分子量(Mw)は特に限定されないが、フィルム強度及び溶解性をより高める観点から、例えば、2000〜20万であることが好ましい。重量平均分子量は、より好ましくは3000以上、更に好ましくは5000以上であり、また重量平均分子量は、より好ましくは15万以下、更に好ましくは10万以下、特に好ましくは5万以下である。
グラフト重合体の重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)による測定値であり、後述する実施例に記載の測定条件にて測定することができる。
【0023】
上記形態(i)のグラフト重合体は、例えば、基幹重合体としてのポリアルキレングリコール鎖含有重合体に、アニオン性基含有単量体及び/又はビニルラクタム系単量体を含む単量体成分をグラフト重合させる工程を含む製造方法によって好適に得ることができる。グラフトさせるアニオン性基含有単量体及びビニルラクタム系単量体の使用量は特に限定されないが、例えば、フィルム強度と冷水への溶解性とのバランスの観点から、アニオン性基含有単量体の使用量を、ポリアルキレングリコール鎖含有重合体100重量部に対して1〜90重量部とすることが好ましい。より好ましくは3〜80重量部、更に好ましくは5〜70重量部である。同様の観点から、ビニルラクタム系単量体の使用量を、ポリアルキレングリコール鎖含有重合体100重量部に対して1〜90重量部とすることが好ましい。より好ましくは3〜70重量部、更に好ましくは5〜50重量部である。
【0024】
上記形態(ii)のグラフト重合体は、例えば、基幹重合体としてのビニルラクタム単位含有重合体に、アニオン性基含有単量体を含む単量体成分をグラフト重合させる工程を含む製造方法によって好適に得ることができる。グラフトさせるアニオン性基含有単量体の使用量は特に限定されないが、例えばフィルム強度と冷水への溶解性とのバランスの観点から、ビニルラクタム単位含有重合体100重量部に対して0.5〜90重量部とすることが好ましい。より好ましくは1〜50重量部、更に好ましくは3〜10重量部である。
【0025】
ここで、グラフト重合体の製造に使用される原料成分(基幹重合体やそれを構成する原料単量体、枝鎖を与える単量体等)は、各々1種又は2種以上を使用することができる。以下に、原料成分やグラフト重合工程について更に説明する。
【0026】
−原料成分等−
1)基幹重合体
1−1)ポリアルキレングリコール鎖含有重合体
ポリアルキレングリコール鎖含有重合体は、1種又は2種以上のアルキレングリコール基(オキシアルキレン基とも称す)を構成単位として含む化合物である。オキシアルキレン基としては特に限定されないが、例えば、炭素数2〜18のオキシアルキレン基が好ましく、より好ましくは2〜8のオキシアルキレン基、更に好ましくは炭素数2〜4のオキシアルキレン基、特に好ましくは炭素数2のオキシアルキレン基、すなわちオキシエチレン基である。
【0027】
このように上記ポリアルキレングリコール鎖含有重合体はオキシエチレン基を含むことが好ましい。中でも、ポリアルキレングリコール鎖含有重合体が有するポリアルキレングリコール鎖は、オキシエチレン基を主体とすることが好適である。ここでいう「主体」とは、ポリアルキレングリコール鎖を構成する全オキシアルキレン基の存在数において、大半を占めることを意味する。これにより、重合時にポリアルキレングリコール鎖含有重合体へのグラフト反応が進行しやすくなり、かつ水への溶解性等がより向上するという効果も得られる。具体的には、ポリアルキレングリコール鎖を構成する全オキシアルキレン基100モル%に対し、オキシエチレン基が50〜100モル%であることが好ましい。より好ましくは60モル%以上、更に好ましくは80モル%以上、特に好ましくは90モル%以上、最も好ましくは100モル%である。
【0028】
上記ポリアルキレングリコール鎖が2種以上のオキシアルキレン基により構成される場合は、2種以上のオキシアルキレン基がランダム付加、ブロック付加、交互付加等のいずれの形態で付加したものであってもよい。
【0029】
上記ポリアルキレングリコール鎖におけるアルキレンオキシドの平均繰り返し数、すなわちオキシアルキレン基の平均付加モル数は特に限定されないが、2〜300が好ましい。この下限値としてより好ましくは3以上、更に好ましくは5以上、特に好ましくは10以上、最も好ましくは15以上である。上限値としてより好ましくは200以下、更に好ましくは150以下、特に好ましくは100以下、最も好ましくは80以下である。
なお、上記オキシアルキレン基の平均付加モル数とは、ポリアルキレングリコール鎖含有重合体が有するポリアルキレングリコール鎖1モルにおいて付加しているアルキレンオキシド(オキシアルキレン基)のモル数の平均値を意味する。
【0030】
上記ポリアルキレングリコール鎖含有重合体中のポリアルキレングリコール鎖の含有割合は、例えば、グラフト効率の観点から、ポリアルキレングリコール鎖含有重合体100質量%中、20質量%以上であることが好ましい。より好ましくは30質量%以上である。
【0031】
上記ポリアルキレングリコール鎖含有重合体として好ましくは、下記一般式(1):
【0033】
(式中、Rは、水素原子、炭素数1〜30のアリール基、炭素数1〜30のアルキル基又は炭素数1〜30のアルケニル基を表す。Xは、カルボニル基又はフェニレン基を表す。pは0又は1である。Yは、−O−R
1−基、−S−R
2−基、−(O=)S(=O)−R
3−基、又は、−N(−R
5)−R
4−基を表す。R
1、R
2、R
3及びR
4は、同一又は異なって、炭素数2〜6のアルキレン基を表す。R
5は、水素原子、炭素数1〜30のアルキル基、又は、−R
6−(O−R
7)
s−OHを表す。R
6及びR
7は、同一又は異なって、炭素数2〜6のアルキレン基を表す。sは、0〜100の数である。Zは、1種又は2種以上のオキシアルキレン基を表す。qは、1〜300の数である。rは、1〜6の整数である。)で表される構造を有する化合物である。
【0034】
上記式(1)中、Rは、水素原子、炭素数1〜30のアリール基、炭素数1〜30のアルキル基又は炭素数1〜30のアルケニル基を表すが、中でも水素原子、アルキル基又はアルケニル基を表すことが好ましい。アルキル基及びアルケニル基は、直鎖状であってもよいし、分岐状であってもよいし、環状であってもよい。また、アリール基、アルキル基及びアルケニル基は、炭素数が1〜30である限り、任意の置換基を有していてもよい。アリール基、アルキル基及びアルケニル基の炭素数として好ましくは1〜18、更に好ましくは1〜13である。
【0035】
Yが表す上記基中、R
1、R
2、R
3及びR
4は、同一又は異なって、炭素数2〜6のアルキレン基を表す。また、R
5が表し得る上記基中、R
6及びR
7は、同一又は異なって、炭素数2〜6のアルキレン基を表す。これらのアルキレン基の炭素数は、それぞれ、好ましくは2〜6、より好ましくは2〜4、更に好ましくは2〜3、特に好ましくは2である。sは、0〜100の数であるが、好ましくは0〜70、より好ましくは0〜55、更に好ましくは0〜50、特に好ましくは0〜30である。なお、sが2以上である場合、R
7としては1種のみが単独で存在していてもよいし、2種以上が混在していてもよい。Yとして特に好ましくは、−O−R
1−基である。
【0036】
Zは、オキシアルキレン基を表す。オキシアルキレン基の好ましい形態等は上述したとおりである。qは、Zで表されるオキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、この好ましい範囲も上述したとおりである。
【0037】
rは、1〜6の整数である。rが2以上である場合、上記ポリアルキレングリコール鎖含有重合体は、Rに、上記式(1)中の括弧書きで表される基がrの数だけそれぞれ直接結合していることを意味する。rは、好ましくは1〜4、より好ましくは1〜2、更に好ましくは1である。
【0038】
本発明では、ポリアルキレングリコール鎖含有重合体として、市販品を使用してもよいが、自ら調製したものを使用することもできる。市販品としては、例えば、ソフタノール(登録商標)Mシリーズ(日本触媒社製)、非イオン界面活性剤のニューコールシリーズ(日本乳化剤社製)等が挙げられる。
【0039】
自ら調製する方法としては特に限定されないが、例えば、特開2007−254679号公報〔0043〕や特開2013−40279号公報〔0012〕〜〔0013〕等に記載のように、重合開始点となる化合物の存在下でアルキレンオキシドを重合(付加)する方法等が挙げられる。重合開始点となる化合物として好ましくは、水、アルコール、アンモニア、アミン等の1種又は2種以上であり、中でも水、アルコール及び/又はアミンがより好ましい。
【0040】
上記ポリアルキレングリコール鎖含有重合体はまた、上記重合により得られた化合物の末端水酸基の少なくとも1個を、カルボキシル基、エステル基、イソシアネート基、アミノ基又はハロゲン基等を有する化合物と反応させたもの等を用いてもよい。
【0041】
上記ポリアルキレングリコール鎖含有重合体の分子量は特に限定されないが、例えば、数平均分子量(Mn)が100以上であることが好ましい。これにより、グラフト率が向上する。より好ましくは200以上、更に好ましくは300以上である。数平均分子量の上限は特に限定されないが、粘度の観点から、10万以下であることが好ましい。より好ましくは5万以下、更に好ましくは1万以下である。
【0042】
1−2)ビニルラクタム単位含有重合体
ビニルラクタム単位含有重合体(N−ビニルラクタム単位含有重合体とも称す)は、1種又は2種以上のラクタム基(ラクタム環構造とも称す)を構成単位として含む化合物である。ラクタム基としては特に限定されないが、例えば、α−ラクタム基、β−ラクタム基、γ−ラクタム基、σ−ラクタム基が好ましい。中でも、γ−ラクタム基(ピロリドン基)が好ましい。
【0043】
上記ビニルラクタム単位含有重合体としては、市販品を使用してもよいが、自ら調製したものを使用することもできる。市販品としては、例えば、日本触媒社製のポリビニルピロリドン等が挙げられる。自ら調製する方法としては特に限定されず、例えば、1分子中に、1個以上の不飽和二重結合(炭素炭素二重結合)と、1個以上のラクタム基とを有する化合物(ビニルラクタム系単量体とも称す)を含む単量体成分を単独重合又は共重合させる方法が挙げられる。
【0044】
上記ビニルラクタム系単量体としては、例えば、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニル−4−ブチルピロリドン、N−ビニル−4−プロピルピロリドン、N−ビニル−4−エチルピロリドン、N−ビニル−4−メチルピロリドン、N−ビニル−4−メチル−5−エチルピロリドン、N−ビニル−4−メチル−5−プロピルピロリドン、N−ビニル−5−メチル−5−エチルピロリドン、N−ビニル−5−プロピルビロリドン、N−ビニル−5−ブチルピロリドン、N−ビニル−4−メチルカプロラクタム、N−ビニル−6−メチルカプロラクタム、N−ビニル−6−プロピルカプロラクタム、N−ビニル−7−ブチルカプロラクタム等が好ましく例示される。中でも、重合性が高い点で、N−ビニルピロリドン及び/又はN−ビニルカプロラクタムが好ましい。
【0045】
上記ビニルラクタム単位含有重合体がビニルラクタム系単量体とその他の単量体との共重合体である場合、その他の単量体としては特に限定されず、例えば、後述する枝鎖を構成するグラフト成分(グラフトさせる単量体)として例示する単量体等の1種又は2種以上を使用することができる。中でも好ましくは、後述するアニオン性基含有単量体;酢酸ビニル等の脂肪酸エステル類;(メタ)アクリル酸エステルやマレイン酸エステル等の不飽和カルボン酸エステル類;スチレン等の芳香族化合物類;アクリロニトリル等のニトリル類;アルキルビニルエーテル等のエーテル類;等の他、N−ビニルイミダゾール、ビニルピリジン、アリルアルコール、オレフィン類等が挙げられる。より好ましくは酢酸ビニルである。なお、上記エステルとしては特に限定されず、例えば、炭素数1〜20のアルキルエステル、ジメチルアミノアルキルエステル及びその四級塩、ヒドロキシアルキルエステル等が挙げられる。
【0046】
上記ビニルラクタム単位含有重合体中のビニルラクタム単位(N−ビニルラクタム単位)の含有割合は、例えば、グラフト効率の観点から、ビニルラクタム単位含有重合体100質量%中、20質量%以上であることが好ましい。より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは50質量%以上である。
【0047】
2)グラフト成分
2−1)アニオン性基含有単量体
アニオン性基含有単量体とは、1分子中に、1個以上の不飽和二重結合(炭素炭素二重結合)と、1個以上のアニオン性基を有する化合物である。アニオン性基としては、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、炭酸基、ケイ酸基、ホスホン酸基、硝酸基、硫酸基等が挙げられる。アニオン性基は塩の形態になっていてもよく、アニオン塩の基もアニオン性基に含むものとする。本発明では、より優れた冷水への溶解性を発揮できる観点から、カルボキシル基及び/又はカルボン酸塩(これをカルボン酸(塩)基とも総称する)が好ましい。
【0048】
上記アニオン性基含有単量体としては、例えば、カルボン酸(塩)基を有するカルボン酸系単量体;スルホン酸基及び/又はスルホン酸塩(スルホン酸(塩)基とも総称する)を有するスルホン酸系単量体;リン酸(塩)基を有するリン酸系単量体;等の1種又は2種以上が好ましい。より好ましくはカルボン酸系単量体及び/又はスルホン酸系単量体であり、更に好ましくはカルボン酸系単量体である。
なお、アニオン性基含有単量体として、1分子中に2種以上のアニオン性基を有する単量体を用いてもよいことは言うまでもない。
【0049】
カルボン酸系単量体は、不飽和二重結合(炭素炭素二重結合)と、カルボン酸(塩)基とを含む化合物である。中でも、1分子中に不飽和二重結合と1つのカルボン酸(塩)基とを含む不飽和モノカルボン酸系単量体;1分子中に不飽和二重結合と2つのカルボン酸(塩)基とを含む不飽和ジカルボン酸系単量体;が好適である。
【0050】
ここで、カルボン酸塩としては、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩が好ましい。金属塩を構成する金属原子としては、例えば、ナトリウム、リチウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等の1価金属;マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等の2価金属;アルミニウム等の3価金属;鉄等のその他の金属;等が挙げられる。有機アミン塩を構成する有機アミン基としては、例えば、モノエタノールアミン基、ジエタノールアミン基、トリエタノールアミン基等のアルカノールアミン基;モノエチルアミン基、ジエチルアミン基、トリエチルアミン基等のアルキルアミン基;エチレンジアミン基、トリエチレンジアミン基等のポリアミン基;等が挙げられる。塩の中でも好ましくは、アンモニウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩であり、より好ましくはナトリウム塩である。
【0051】
上記不飽和モノカルボン酸系単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、αーヒドロキシアクリル酸、α−ヒドロキシメチルアクリル酸及びその誘導体等の不飽和モノカルボン酸や、これらの塩等が挙げられる。なお、アクリル酸及びメタクリル酸を総称して「(メタ)アクリル酸」という。
【0052】
上記不飽和ジカルボン酸系単量体としては、例えば、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、フマル酸、メサコン酸、2−メチレングルタル酸等の不飽和ジカルボン酸や、これらの塩や無水物等が挙げられる。また、これら不飽和ジカルボン酸系単量体とアルコール類(例えば、炭素数1〜22個のアルコール)とのハーフエステル、不飽和ジカルボン酸系単量体とアミン類(例えば、炭素数1〜22のアミン)とのハーフアミド、不飽和ジカルボン酸系単量体とグリコール類(例えば、炭素数2〜4のグリコール)とのハーフエステル、マレアミド酸とグリコール類(例えば、炭素数2〜4のグリコール)とのハーフアミド等であってもよい。
【0053】
上述したカルボン酸系単量体の中でも、(メタ)アクリル酸、マレイン酸及び/又はこれらの塩が好適である。より好ましくは、(メタ)アクリル酸及び/又はその塩である。これにより、冷水への溶解性及び強度により一層優れる水溶性フィルムを得ることができる。更に好ましくは、アクリル酸及び/又はその塩である。
【0054】
スルホン酸系単量体は、不飽和二重結合(炭素炭素二重結合)と、スルホン酸(塩)基とを含む化合物である。スルホン酸塩としては、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩が好ましく、金属原子及び有機アミン基については上述したとおりである。スルホン酸塩として好ましくは、アンモニウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩であり、より好ましくはナトリウム塩である。
【0055】
上記スルホン酸系単量体として具体的には、例えば、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、3−(メタ)アリルオキシ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸、3−(メタ)アリルオキシ−1−ヒドロキシプロパンスルホン酸、2−(メタ)アリルオキシエチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アリルオキシベンゼンスルホン酸、イソプレンスルホン酸、2−メチルプロパンスルホン酸(メタ)アクリルアミド、2−ヒドロキシ−3−アリルオキシスルホン酸、スルホエチル(メタ)アクリレート、スルホプロピル(メタ)アクリレート、スルホブチル(メタ)アクリレート等の不飽和スルホン酸類や、これらの塩等が挙げられる。
【0056】
上記スルホン酸系単量体として特に好ましくは、経済性及び構造上の安定性の観点から、下記一般式(2)で表される化合物である。この化合物は、例えば、特許第5558357号明細書に記載の手法により得ることができる。
【0058】
式中、R
8は、水素原子又はCH
3基を表す。R
dは、CH
2基、CH
2CH
2基又は直接結合を表す。X及びYは、同一又は異なって、水酸基又はスルホン酸(塩)基を表し、X及びYのうち少なくとも一方は、スルホン酸(塩)基を表す。
【0059】
上記式(2)において、R
8は、水素原子又はCH
3基を表すが、好ましくは水素原子である。R
dは、CH
2基、CH
2CH
2基又は直接結合を表すが、好ましくはCH
2基である。X及びYは、同一又は異なって水酸基又はスルホン酸(塩)基を表すが、X及びYのうちいずれかがスルホン酸(塩)基を表し、もう一方が水酸基を表すことが好ましい。
【0060】
2−2)ビニルラクタム系単量体
ビニルラクタム系単量体とは、1分子中に、1個以上の不飽和二重結合(炭素炭素二重結合)と、1個以上のラクタム基とを有する化合物である。ラクタム基及びビニルラクタム系単量体の具体例や好ましい形態は、上述したとおりである。
【0061】
2−3)その他の単量体
その他の単量体とは、アニオン性基含有単量体及び/又はビニルラクタム系単量体と共重合可能な単量体であれば特に限定されるものではない。例えば、酢酸ビニル等の脂肪酸エステル類;(メタ)アクリル酸エステルやマレイン酸エステル等の不飽和カルボン酸エステル類;スチレン等の芳香族化合物類;アクリロニトリル等のニトリル類;アルキルビニルエーテル等のエーテル類;等の他、N−ビニルイミダゾール、ビニルピリジン、アリルアルコール、オレフィン類等が挙げられる。具体的には、特開2007−254679号公報〔0045〕〜〔0046〕、特開2009−256656号公報〔0044〕〜〔0045〕、WO2008/020556号公報〔0021〕〜〔0022〕、特開2013−40279号公報〔0030〕、特開2001−278922号公報〔0010〕に記載の化合物のうち、本発明における好ましいグラフト成分に該当しない化合物を1種又は2種以上を使用することができる。
【0062】
−グラフト重合工程−
グラフト重合工程は、基幹重合体に、上述したグラフト成分をグラフト重合させる工程である。基幹重合体及びグラフト成分(単量体)は、それぞれ一括仕込みしてもよいし、逐次添加してもよいが、基幹重合体は、反応時間の短縮や生産性等を考慮すると、初期一括仕込みすることが好ましい。グラフト成分は、グラフト効率や反応制御の観点から、逐次添加することが好ましい。
なお、グラフト重合工程の後、必要に応じて熟成工程や、後処理工程を行ってもよい。
【0063】
グラフト重合工程は、1種又は2種以上の重合開始剤の存在下で行うことが好ましい。重合開始剤としては、公知のラジカル重合開始剤を使用することが好ましく、アゾ系開始剤や過酸化物系開始剤が挙げられる。中でも、グラフト効率の観点から、過酸化物系開始剤が好ましい。具体的には、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩;過酸化水素;の他、ケトンパーオキサイド類;ハイドロパーオキサイド類;ジアルキルパーオキサイド類;パーオキシエステル類;パーオキシケタール類;ジアシルパーオキサイド類;等の有機過酸化物が挙げられる。具体的には、WO2008/020556号公報、特開2007−254679号公報、特開2013−40279号公報、特開2009−256656号公報、特開2001−278922号公報に記載された開始剤等が挙げられる。
【0064】
上記過酸化物系開始剤の中でも、基幹重合体やグラフト成分の種類等によって適宜選択することが好適である。例えば、上記形態(i)のグラフト重合体を得る場合には、有機過酸化物を用いることが好ましい。中でもジアルキルパーオキサイド類がより好ましく、ジ−t−ブチルパーオキサイドが更に好ましい。上記形態(ii)のグラフト重合体を得る場合には、過硫酸塩又は過酸化水素を用いることが好ましく、より好ましくは過硫酸塩である。
【0065】
上記重合開始剤の使用量は特に限定されないが、グラフト効率の向上や未反応重合開始剤の低減、製造コストの低減等の観点から、例えば、枝鎖を形成するグラフト成分の総量100重量部に対し、0.1〜15重量部とすることが好ましい。より好ましくは0.5〜10重量部、更に好ましくは1〜8重量部である。
【0066】
グラフト重合工程では、重合開始剤に加えて、必要に応じて重合開始剤の分解触媒や還元剤等を併用してもよい。重合開始剤の分解触媒や還元剤は特に限定されず、例えば、特開2013−40279号公報に記載の化合物等が挙げられる。
【0067】
ここで、上記形態(i)のグラフト重合体を得る場合には、グラフト効率の観点から、非水系で行うことが好ましく、また溶媒を極力用いずに行うことが好ましい。具体的には、溶媒の使用量を、反応系の全量100質量%に対して10質量%以下とすることが好ましい。より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは3質量%以下、特に好ましくは1質量%以下、最も好ましくは実質的に0質量%である。実質的に0質量%であるとは、重合時に積極的に溶媒を添加しないことを意味し、不純物程度の溶媒の混入は許容され得ることを意味する。溶媒を使用する場合、使用される溶媒は特に限定されないが、単量体成分の溶媒への連鎖移動定数が小さいものや、常圧下で使用可能な沸点70℃以上の化合物等が好ましい。具体的には、例えば、特開2013−40279号公報に記載の、アルコール類、ジエーテル類、酢酸系化合物等が挙げられ、1種又は2種以上を使用することができる。
【0068】
一方、上記形態(ii)のグラフト重合体を得る場合には、溶液重合にてグラフト重合を行うことが好ましい。すなわち溶媒の存在下でグラフト重合工程を行うことが好ましい。溶媒としては、ビニルラクタム単位含有重合体が溶解するものであれば特に限定されないが、例えば、水の他、アルコール類、エーテル類、ケトン類、エステル類、アミド類、スルホキシド類、炭化水素等の有機溶媒や、水と有機溶媒との混合溶媒が挙げられる。中でも、水が特に好ましい。溶媒には、例えば酸の中和やpH制御等の目的で、有機アミンやアンモニアを添加してもよいし、水を含む溶媒においては、アルカリ金属水酸化物を使用してもよい。
【0069】
上記溶媒の使用量は、グラフト効率の向上の観点から、基幹重合体であるビニルラクタム単位含有重合体の反応系中の濃度が10質量%以上となるように設定することが好ましい。乳化重合や懸濁重合によりグラフト重合を行う場合は、ビニルラクタム単位含有重合体が溶解している相における当該重合体の濃度が10質量%以上となるように調整することが好ましい。具体的には、溶媒の使用量を、ビニルラクタム単位含有重合体100重量部に対して5〜900重量部とすることが好ましい。より好ましくは25〜400重量部である。なお、溶媒は、初期一括仕込みしてもよいし、逐次添加してもよい。
【0070】
重合温度は特に限定されないが、例えば、粘度及び反応効率を考慮すると、50℃以上とすることが好ましい。より好ましくは70℃以上、更に好ましくは80℃以上である。また、熱分解や単量体の揮発等の発生をより抑制する観点から、200℃以下が好ましく、より好ましくは160℃以下、更に好ましくは150℃以下である。
【0071】
重合時間は特に限定されず、例えば、30〜420分とすることが好ましい。より好ましくは45〜390分、更に好ましくは60〜360分、特に好ましくは90〜300分である。なお、重合時間とは、グラフト成分を添加しながら重合を進める場合には、グラフト成分を添加している時間及び熟成時間の合計時間を意味し、グラフト成分を一括添加して重合開始剤を添加しながら重合を進める場合には、重合開始剤を添加している時間を意味し、グラフト成分及び重合開始剤を共に一括で添加して重合する場合には、加熱している時間を意味する。
【0072】
<水溶性樹脂>
本発明で使用される水溶性樹脂は、水中で容易に溶解又は分散する性質を有する。具体的には、20℃の水100gに0.05g以上溶解する樹脂であることが好ましく、より好ましくは0.1g以上溶解する樹脂である。このような性質を有する樹脂であれば、その材質は特に限定されないが、例えばセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース及びその塩のようなセルロースの誘導体;ポリビニルアルコール系;プルラン;デンプン系;ポリアルキレンオキサイド系;等が使用できる。
【0073】
上記水溶性樹脂は、例えば、プルランよりなるものとしてプルランフィルム(林原社製);セルロース及びカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩よりなるものとしてディゾルボ(三島製紙社製);ポリビニルアルコール系重合体よりなるものとしてソルブロン(アイセロ化学社製)、ハイセロン(日合フィルム社製)、トスロン(東京セロハン紙社製)、クラレビニロンフィルム(クラレ社製);ポリアルキレンオキサイド系のものとして、アルコックス(ポリエチレンオキサイド樹脂)のフィルム(明成化学工業社製)、フレキシーヌ(ポリオキシアルキレングリコールと多価カルボン酸及びその低級アルキルエステルよりなる水溶性樹脂パオゲンをフィルム状としたもの、第一工業製薬社製);等の商品名で入手することができる。
【0074】
上記水溶性樹脂の中でも、フィルム強度や水溶性等の観点から、ポリビニルアルコール系重合体が特に好ましい。すなわち本発明の水溶性フィルムは、ポリビニルアルコール系重合体と、グラフト重合体とを含むものであることが特に好適である。
以下では、ポリビニルアルコール系重合体について更に説明する。
【0075】
ポリビニルアルコール系重合体は、ビニルエステル、及び、必要に応じてビニルエステル以外の単量体(他の単量体とも称す)を重合して得られたポリビニルエステル(ポリビニルエステル系重合体)をけん化して得られる重合体であり、下記一般式(3)で表される構造単位を有する。式中、nは平均重合度を表し、1以上の数である。
【0077】
上記ポリビニルエステル系重合体を与えるビニルエステル(単量体)としては、例えば、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、安息香酸ビニル、ステアリン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等の1種又は2種以上が挙げられる。中でも、生産性や入手容易性の観点から、酢酸ビニルが好適である。
【0078】
ポリビニルエステル系重合体を与える単量体は、更に上述した他の単量体を必要に応じて含んでいても良い。他の単量体としては、例えば、N−ビニルホルムアミド、N−メチル−N−ビニルホルムアミド等のN−ビニルホルムアミド系単量体;N−ビニルアセトアミド、N−メチル−N−ビニルアセトアミド等のN−ビニルアセトアミド系単量体;N−ビニル−2−ピロリドン、N−ビニル−3−プロピル−2−ピロリドン、N−ビニル−5,5−ジメチル−2−ピロリドン等のN−ビニルピロリドン系単量体;N−ビニル−2−カプロラクタム、N−ビニル−3−プロピル−2−カプロラクタム等のN−ビニルカプロラクタム系単量体;ポリオキシエチレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシプロピレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシエチレン(1−(メタ)アクリルアミド−1,1−ジメチルプロピル)エステル、ポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテル等のオキシアルキレン基を有する不飽和単量体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、エチレングリコールビニルエーテル、1,3−プロパンジオールビニルエーテル、1,4−ブタンジオールビニルエーテル等のビニルエーテル系単量体;エチレン、プロピレン、1−ヘキセン等のα−オレフィン類;アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド等のアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド等のメタクリルアミド誘導体;アリルアセテート;プロピルアリルエーテル等のアリルエーテル類;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシラン類;酢酸イソプロペニル;3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、7−オクテン−1−オール等のヒドロキシ基を含有するα−オレフィン類;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等に由来するスルホン酸基を有する単量体;ビニロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシブチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシエチルジメチルアミン、ビニロキシメチルジエチルアミン、N−アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドジメチルアミン、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、メタアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアリルアミン、アリルエチルアミン等に由来するカチオン基を有する単量体等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用することができる。
【0079】
他の単量体の含有量は、ポリビニルエステル系重合体を与える全単量体100モル%中、50モル%以下であることが好ましく、20モル%以下であることがより好ましく、10モル%以下であることが更に好ましく、1モル%以下であることが特に好ましい。
【0080】
上記ポリビニルアルコール系重合体の平均けん化度は、例えば、フィルム強度及び冷水への溶解性をより高める観点から、50〜100モル%であることが好ましい。平均けん化度の下限は、より好ましくは60モル%以上、更に好ましくは70モル%以上であり、また上限は、より好ましくは100モル%未満、更に好ましくは99モル%以下、特に好ましくは95モル%以下である。けん化については、後により詳しく説明する。
【0081】
上記ポリビニルアルコール系重合体の平均重合度(式(3)中のn)は、例えば、フィルム強度及び冷水への溶解性をより高める観点から、200〜10000であることが好ましい。平均重合度は、より好ましくは500以上、更に好ましくは1000以上であり、また平均重合度は、より好ましくは6000以下、更に好ましくは4000以下である。
【0082】
上記ポリビニルアルコール系重合体の製法としては、ビニルエステル、及び、必要に応じて他の単量体を重合して得られたビニルエステル系重合体を溶媒中でけん化する方法等が挙げられる。
【0083】
上記ビニルエステル系重合体を得るためのビニルエステル、及び、必要に応じて他の単量体の重合としては、例えば、溶液重合、懸濁重合、乳化重合、バルク重合、沈殿重合等が挙げられる。溶媒を使用する場合、溶媒としては、アルコール等の公知の溶媒を使用できる。重合に使用される開始剤としては、例えば、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)等のアゾ重合開始剤や過酸化ベンゾイル等の過酸化物等が挙げられる。重合温度は、例えば0℃〜150℃の範囲とすることができる。
【0084】
上記ポリビニルアルコール系重合体は、上記ビニルエステル系重合体をけん化することにより得ることができる。けん化の溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール、酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル、ジメチルスルホキシド、これらの混合溶媒等を使用できる。けん化の触媒は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、硫酸、塩酸、過酸化水素等を使用できる。その他のけん化反応の条件は、目的とするけん化度等によって適宜調整すれことができるが、例えば反応温度を0〜200℃とし、0.1〜24時間の反応時間とすることができる。
【0085】
<他の成分>
本発明の水溶性フィルムには、必要に応じて、グラフト重合体及び水溶性樹脂以外の成分(他の成分とも称す)を1種又は2種以上含んでもよい。他の成分としては特に限定されず、各種添加剤や各種重合体が挙げられる。
他の成分の含有量は、本発明の水溶性フィルム100質量%中、0〜20質量%であることが好ましく、1〜10質量%であることがより好ましい。
【0086】
〔水溶性フィルムの製造方法〕
本発明の水溶性フィルムは、上述したようにグラフト重合体に加えて水溶性樹脂を更に含むことが好適である。このような水溶性フィルムは、グラフト重合体と水溶性樹脂とを混合する工程(混合工程とも称す)を含む製造方法によって製造することが好適であり、このような製造方法もまた、本発明の1つである。また、製膜工程を更に含むことが好ましく、通常のフィルム作製で適用される1又は2以上のその他の工程を含んでもよい。
以下、各工程について更に説明する。
【0087】
<混合工程>
混合工程(ブレンド工程とも称す)は、上述したグラフト重合工程で得られるグラフト重合体と水溶性樹脂(好ましくはポリビニルアルコール系重合体)とを混合する工程である。混合工程では、必要に応じて他の成分を更に混合してもよい。各成分の混合は、一度に行ってもよいし、混合成分の一部を混合した後に残りを混合させてもよい。
【0088】
上記混合工程において、グラフト重合体と、水溶性樹脂と、必要に応じて更に他の成分との混合手段は特に限定されず、例えば、溶媒下で溶解又は分散してもよいし、溶融混練してもよい。溶媒を用いる場合、溶媒としては特に限定されず、水、有機溶媒、又は、水と有機溶媒との混合溶媒を用いることができる。有機溶媒としては特に限定されず、例えば、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、フェノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、n−ブタノール、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸n−アミル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルアセトアミド、クロロホルム、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールターシャリーブチルエーテル、3−メチル−3−メトキシブタノール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。中でも、水を用いることが好ましい。
【0089】
上記混合工程は、20〜90℃の温度下で行うことが好ましい。これにより、グラフト重合体と水溶性樹脂(好ましくはポリビニルアルコール系重合体)とがより充分に混合され、より均一性の高い水溶性フィルムを得ることができる。より好ましくは50〜90℃である。
【0090】
<製膜工程>
製膜工程は、上記混合工程で得た混合物を用いて製膜する工程である。製膜手段は特に限定されず、例えば、上記混合物を基材に塗布し、乾燥又は硬化した後、必要に応じて該基材から剥離することにより形成する方法(塗布法又はコーティング法と称す)や、支持体に、上記混合物から形成されたフィルムを熱圧着することにより形成する方法の他、練込法等も挙げられる。これらの中でも、塗布法を採用することが好ましい。
【0091】
〔用途〕
本発明の水溶性フィルムは、冷水への溶解性に優れ、かつ伸長性の他、耐薬品性も有する。したがって、農薬等の薬品類や洗剤の包装材料として特に有用である。すなわち、本発明の水溶性フィルムは、薬品及び/又は洗剤を包装するために用いられるものであることが好ましい。また、本発明の水溶性フィルムは、薬品及び/又は洗剤の包装に用いるために適したものであることが好ましい。包装対象(薬品類等)の形態(粉末状、顆粒状、液状等)や大きさ、粒度分布等は特に限定されず、例えば洗剤としては、粉末洗剤、液体洗剤、ジェル状洗剤等のいずれも好適である。また、包装対象には、必要に応じて分散剤、結合剤、界面活性剤等の各種添加剤を含んでもよい。また、本発明の水溶性フィルムは更に、再汚染防止能や洗浄力に優れるというビルダー性能を有するため、洗剤の包装材料として特に有用である。
【0092】
<組成物>
本発明はまた、グラフト重合体と水溶性樹脂とを含む組成物(混合物)でもある。この組成物を成膜することにより本発明の水溶性フィルムを好適に得ることができる。この組成物は、グラフト重合体と水溶性樹脂(好ましくはポリビニルアルコール系重合体)とを混合することにより得ることができる。
【0093】
<包装物>
本発明はまた、本発明の水溶性フィルムに薬品及び/又は洗剤が包装されてなる包装物でもある。本発明の包装物は、例えば、グラフト重合体と水溶性樹脂(好ましくはポリビニルアルコール系重合体)とを含む水溶性フィルムに薬品及び/又は洗剤が包装されてなる包装物である。包装物や包装物中の薬品及び/又は洗剤の形態や大きさは特に限定されず、適宜設計することができる。包装の形態は、密封包装であってもよく、非密封包装であってもよいが、包装物をより容易かつ安全に使用する観点から、例えば密封包装であることが好ましい。
【0094】
<包装物の製造方法>
本発明は更に、本発明の水溶性フィルムを用いて薬品及び/又は洗剤を包装する工程を含む包装物の製造方法でもある。本発明の包装物の製造方法は、例えば、グラフト重合体と水溶性樹脂(好ましくはポリビニルアルコール系重合体)とを混合する工程、該混合工程で得た混合物を用いて製膜する工程、及び、該製膜工程で得た水溶性フィルムを用いて薬品及び/又は洗剤を包装する工程を含む水溶性フィルムの製造方法である。
【0095】
<包装方法等>
本発明はそして、本発明の水溶性フィルムを用いて薬品及び/又は洗剤を包装する工程を含む包装方法でもある。本発明の包装方法は、例えば、
グラフト重合体と水溶性樹脂(好ましくはポリビニルアルコール系重合体)とを混合する工程、該混合工程で得た混合物を用いて製膜する工程、及び、該製膜工程で得た水溶性フィルムを用いて薬品及び/又は洗剤を包装する工程を含む包装方法である。本発明はまた、本発明の水溶性フィルムを用いて薬品及び/又は洗剤を包装する工程を含む本発明の水溶性フィルムの使用方法でもある。本発明の使用方法は、例えば、
グラフト重合体と水溶性樹脂(好ましくはポリビニルアルコール系重合体)とを混合する工程、該混合工程で得た混合物を用いて製膜する工程、及び、該製膜工程で得た水溶性フィルムを用いて薬品及び/又は洗剤を包装する工程を含む水溶性フィルムの使用方法である。
【実施例】
【0096】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。特に断りのない限り、「%」とは「質量%」を意味する。
なお、以下の実施例及び比較例では、ポリビニルアルコール系重合体(PVA)として、ALDRICH社製の試薬・ポリビニルアルコール系重合体(重量平均分子量85000〜124000、けん化度87〜89%)を用いた。以下では、このポリビニルアルコール系重合体を単にポリビニルアルコールとも言う。
【0097】
<重量平均分子量(Mw)の測定方法>
(1)GPC測定条件1
以下の実施例等で用いたグラフト重合体の重量平均分子量(Mw)の測定は、以下の条件にて行った。
装置:東ソー社製 高速GPC装置(HLC−8320GPC)
検出器:RI検出器
カラム:昭和電工社製 SHODEX Asahipak GF−310−HQ,GF−710−HQ,GF−1G 7B
カラム温度:40℃
流速:0.5ml/min
検量線:GLサイエンス社製 ポリエチレングリコールスタンダード
溶離液:0.1N酢酸ナトリウム/アセトニトリル=3/1(質量比)
【0098】
(2)GPC測定条件2
比較例2で使用したポリアクリル酸(HL−415)の重量平均分子量(Mw)の測定は、以下の条件にて行った。
装置:東ソー社製、HLC−8320GPC
検出器:RI
カラム:東ソー社製 TSK−guard column、及び、TSK−GEL G3000PWXL2本の計3本を直列
カラム温度:35℃
流速:0.5ml/min
検量線:創和科学社製、POLY SODIUM ACRYLATE STANDARD
溶離液:リン酸二水素ナトリウム12水和物/リン酸水素二ナトリウム2水和物(34.5g/46.2g)の混合物を純水にて5000gに希釈した溶液
検量線:American Polymer Standard Corp.製、POLYACRYLIC ACID STANDARD
【0099】
<グラフト重合体の合成>
合成例1(重合体1)
温度計、還流冷却器、攪拌機を備えたガラス製の500mLセパラブルフラスコに、フェノールへのエチレンオキシド(平均20モル)付加体185.6gを仕込み、攪拌下、128℃に昇温した。次いで攪拌下、128℃一定状態の重合反応系中にジ−t−ブチルパーオキサイド(以下「DTBP」とも称する)3900μL、100%アクリル酸(以下「AA」とも称する)72.2gをそれぞれ別個の滴下ノズルより滴下した。DTBPの滴下開始のタイミングを反応開始とした。それぞれの滴下時間及び滴下シーケンスについては、DTBPは反応開始から195分間で一定速度、AAは反応開始の20分後から225分間で一定速度とした。全ての滴下終了後、更に70分間にわたって反応溶液を128℃に保持して熟成し重合を完結せしめた。その後、純水135.7gを添加した。このようにして、重量平均分子量12000、固形分65%の重合体1を得た。
【0100】
合成例2(重合体2)
温度計、還流冷却器、攪拌機を備えたガラス製の500mLセパラブルフラスコに、日本触媒社製のソフタノール(登録商標)120を150.9g仕込み、攪拌下、128℃に昇温した。次いで攪拌下、128℃一定状態の重合反応系中にDTBP8800μL、AA100.6gをそれぞれ別個の滴下ノズルより滴下した。DTBPの滴下開始のタイミングを反応開始とした。それぞれの滴下時間及び滴下シーケンスについては、DTBPは反応開始から220分間で一定速度、AAは反応開始の20分後から210分間で一定速度とした。全ての滴下終了後、更に60分間にわたって反応溶液を128℃に保持して熟成し重合を完結せしめた。その後、純水86.2gを添加した。このようにして、重量平均分子量7100、固形分71%の重合体2を得た。
【0101】
合成例3(重合体3)
温度計、還流冷却器、攪拌機を備えたガラス製の500mLセパラブルフラスコに、日本触媒社製のソフタノール(登録商標)300を145.7gと、マレイン酸(以下「MA」とも称する)48.6gを仕込み、攪拌下、128℃に昇温した。次いで攪拌下、128℃一定状態の重合反応系中にDTBP8500μL、MA48.6gをそれぞれ別個の滴下ノズルより滴下した。DTBPの滴下開始のタイミングを反応開始とした。それぞれの滴下時間及び滴下シーケンスについては、DTBPは反応開始から170分間で一定速度、MAは反応開始の20分後から210分間で一定速度とした。全ての滴下終了後、更に60分間にわたって反応溶液を128℃に保持して熟成し重合を完結せしめた。その後、純水70.4gを添加した。このようにして、重量平均分子量6500、固形分50%の重合体3を得た。
【0102】
合成例4(重合体4)
温度計、還流冷却器、攪拌機を備えたガラス製の500mLセパラブルフラスコに、日本乳化剤社製のニューコール2310を132.0g仕込み、攪拌下、128℃に昇温した。次いで攪拌下、128℃一定状態の重合反応系中にDTBP6600μL、AA88.0gをそれぞれ別個の滴下ノズルより滴下した。DTBPの滴下開始のタイミングを反応開始とした。それぞれの滴下時間及び滴下シーケンスについては、DTBPは反応開始から220分間で一定速度、AAは反応開始の20分後から210分間で一定速度とした。全ての滴下終了後、更に60分間にわたって反応溶液を128℃に保持して熟成し重合を完結せしめた。その後、純水75.1gを添加した。このようにして、重量平均分子量23000、固形分62%の重合体4を得た。
【0103】
合成例5(重合体5)
温度計、還流冷却器、攪拌機を備えたガラス製の500mLセパラブルフラスコに、純水76.3gと、日本触媒社製のポリビニルピロリドン(PVP)K−30を99.0g仕込み、重合反応系とした。これを撹拌下、85℃に昇温した。
別途、100質量%アクリル酸水溶液(以下「100%AA」とも称する)5.5g、純水28.6g、25%アンモニア水溶液2.6gを混合した溶液を調整し、モノマー水溶液とした。攪拌下、85℃一定状態の重合反応系中に上記モノマー水溶液を36.7g、3質量%過硫酸アンモニウム水溶液(以下「3%APS」とも称す)7.3gを、それぞれ別個の滴下ノズルより滴下した。100%AA、3%APSの滴下開始のタイミングを反応開始とした。それぞれの滴下時間及び滴下シーケンスについては、100%AAは反応開始から90分間で一定速度、3%APSは反応開始から90分間で一定速度とした。また、滴下開始時間に関して、100%AA、3%APSは同時とした。全ての滴下終了後、30分間かけて77℃に降温した。攪拌下、77℃一定状態の反応液に、和光純薬工業社製V−50の10%水溶液0.66gを3回に分けて添加した。添加シーケンスについては、77℃に降温後、0分で0.22g、30分で0.22g、60分で0.22gとした。このようにして、重量平均分子量35000、固形分26.0%の重合体5を得た。
【0104】
合成例6(重合体6)
温度計、還流冷却器、攪拌機を備えたガラス製の500mLセパラブルフラスコに、日本乳化剤社製のニューコール740を82.1g仕込み、攪拌下、135℃に昇温した。次いで攪拌下、135℃一定状態の重合反応系中にDTBP4400μL、N−ビニルピロリドン(以下「NVP」とも称する)35.2gをそれぞれ別個の滴下ノズルより滴下した。DTBPの滴下開始のタイミングを反応開始とした。それぞれの滴下時間及び滴下シーケンスについては、DTBPは反応開始から225分間で一定速度、NVPは反応開始の20分後から205分間で一定速度とした。全ての滴下終了後、更に60分間にわたって反応溶液を135℃に保持して熟成し重合を完結せしめた。その後、純水120.9gを添加した。このようにして、重量平均分子量7600、固形分49%の重合体6を得た。
【0105】
<フィルムの作製>
実施例1
50mLのスクリュー管に、重合体1を3.7g、ポリビニルアルコール3.6g、水32.7gを、この順で投入し、70℃のウォーターバス中での加熱と撹拌を繰り返しながら、溶解させ、固形分15%の水溶液を調整した。この水溶液を、離型フィルム(シリコン処理されたPETフィルム)上に、アプリケーターを用いて塗工した。塗工時の厚みは乾燥後のフィルムの厚みが表2に記載の値となるように設定した。このように塗工処理した離型フィルムを、100℃の熱風循環オーブン中で10分間乾燥させた。次いで、オーブンから取り出し室温にまで冷却後、離型フィルムを剥がすことにより、水溶性フィルム1を得た。
【0106】
実施例2
50mLのスクリュー管に、重合体1を1.8g、ポリビニルアルコール4.8g、水34.0gを、この順で投入し、70℃のウォーターバス中での加熱と撹拌を繰り返しながら、溶解させ、固形分15%の水溶液を調整した。この水溶液を用いて、実施例1に記載の内容と同様の工程を経ることにより、水溶性フィルム2を得た。
【0107】
実施例3
50mLのスクリュー管に、重合体1を0.46g、ポリビニルアルコール5.7g、水33.8gを、この順で投入し、70℃のウォーターバス中での加熱と撹拌を繰り返しながら、溶解させ、固形分15%の水溶液を調整した。この水溶液を用いて、実施例1に記載の内容と同様の工程を経ることにより、水溶性フィルム3を得た。
【0108】
実施例4
50mLのスクリュー管に、重合体2を3.3g、ポリビニルアルコール3.6g、水33.1gを、この順で投入し、70℃のウォーターバス中での加熱と撹拌を繰り返しながら、溶解させ、固形分15%の水溶液を調整した。この水溶液を用いて、実施例1に記載の内容と同様の工程を経ることにより、水溶性フィルム4を得た。
【0109】
実施例5
50mLのスクリュー管に、重合体3を4.8g、ポリビニルアルコール3.6g、水31.6gを、この順で投入し、70℃のウォーターバス中での加熱と撹拌を繰り返しながら、溶解させ、固形分15%の水溶液を調整した。この水溶液を用いて、実施例1に記載の内容と同様の工程を経ることにより、水溶性フィルム5を得た。
【0110】
実施例6
50mLのスクリュー管に、重合体4を3.9g、ポリビニルアルコール3.6g、水32.5gを、この順で投入し、70℃のウォーターバス中での加熱と撹拌を繰り返しながら、溶解させ、固形分15%の水溶液を調整した。この水溶液を用いて、実施例1に記載の内容と同様の工程を経ることにより、水溶性フィルム6を得た。
【0111】
実施例7
50mLのスクリュー管に、重合体5を4.6g、ポリビニルアルコール4.8g、水30.6gを、この順で投入し、70℃のウォーターバス中での加熱と撹拌を繰り返しながら、溶解させ、固形分15%の水溶液を調整した。この水溶液を用いて、実施例1に記載の内容と同様の工程を経ることにより、水溶性フィルム7を得た。
【0112】
実施例8
50mLのスクリュー管に、重合体6を4.9g、ポリビニルアルコール3.6g、水31.5gを、この順で投入し、70℃のウォーターバス中での加熱と撹拌を繰り返しながら、溶解させ、固形分15%の水溶液を調整した。この水溶液を用いて、実施例1に記載の内容と同様の工程を経ることにより、水溶性フィルム8を得た。
【0113】
比較例1
50mLのスクリュー管に、水を44.0g、ポリビニルアルコール6.0gを、この順で投入し、70℃のウォーターバス中での加熱と撹拌を繰り返しながら、溶解させ、固形分15%の水溶液を調整した。この水溶液を用いて、実施例1に記載の内容と同様の工程を経ることにより、比較用水溶性フィルム1を得た。
【0114】
比較例2
50mLのスクリュー管に、日本触媒社製のアクアリックHL−415(ポリアクリル酸、Mw12000、固形分46%。以下「HL−415」とも称する)を5.2g、ポリビニルアルコール3.6g、水31.2gを、この順で投入し、70℃のウォーターバス中での加熱と撹拌を繰り返しながら、溶解させ、固形分15%の水溶液を調整した。この水溶液を用いて、実施例1に記載の内容と同様の工程を経ることにより、比較用水溶性フィルム2を得た。
【0115】
比較例3
50mLのスクリュー管に、日本触媒社製のポリビニルピロリドン(PVP K30、固形分49%。以下「PVP K30」とも称する)を2.4g、ポリビニルアルコール4.8g、水32.8gを、この順で投入し、70℃のウォーターバス中での加熱と撹拌を繰り返しながら、溶解させ、固形分15%の水溶液を調整した。この水溶液を用いて、実施例1に記載の内容と同様の工程を経ることにより、比較用水溶性フィルム3を得た。
【0116】
各実施例及び比較例で用いた配合ポリマーの詳細を表1に示す。また、実施例及び比較例で得た各フィルムについて、以下の評価試験を行った。結果を表2に示す。
【0117】
<フィルムの評価試験>
1、溶解性
100mLビーカーに5℃の純水100gを投入し、マグネティックスターラーと撹拌子を用いて撹拌した。撹拌中の水中に4×4cmの大きさに切り取ったフィルムを投入し、完全に溶解するまでの時間(投入してから、目視でフィルムが見えなくなるまでの時間)を計測した。計測した時間(溶解時間)を表2に示す。更に、この溶解時間を下記式を用いて換算し、厚さ40μmフィルムの溶解時間とした。この溶解時間が短いほど溶解性が良好であることを意味する。
溶解時間(40μm換算)(秒)=(40/フィルムの厚さ(μm))
2×溶解時間(秒)
なお、フィルムの膜厚は、Coolant Proof Micrometer IP65を用いて測定した。フィルムの6箇所をランダムに測定し、その平均値をフィルムの膜厚とした。
【0118】
2、耐硬性
グリシン67.6gと塩化ナトリウム52.6gを秤りとった1Lのビーカーに純水と48%水酸化ナトリウムを加えて、pH10のグリシン緩衝原液600gを調整した。このグリシン緩衝原液を別の1Lビーカーに54.0gを秤りとり、純水を加えて1000gになるまで希釈し、グリシン緩衝希釈液とした。別途、フィルムを水に溶解させ、2.5%フィルム水溶液を調整しておき、このフィルム水溶液2.5gにグリシン緩衝希釈液80gを加えて、試験液とした。更に別途、1mol/Lの塩化カルシウム水溶液を調整し、硬水とした。平沼産業社製自動滴定装置COM−1700を用いて、試験液に、硬水を3秒毎に0.1mLずつ滴下し、6mL滴下した時点での650nm光の透過率(%)を測定した。数値が100に近いほど耐硬性が良好であることを意味する。
【0119】
3、強度
3×3cmの大きさに切り取ったフィルム上に、重さ11.84gの金属球を、自由落下させた。落下位置を調節し、フィルムが破れた時の高さにおける金属球の位置エネルギーを下記式:
強度(J)=0.01184(kg)×9.8(m/s
2)×金属球落下位置の高さ(m)
より算出し、強度とした。更に、このようにして算出した値を、下記式:
強度(40μm換算)(J)=(40/フィルムの厚さ(μm))
2×強度(J)
を用いて換算することで、厚さ40μmフィルムの強度とした。値が大きいほど強度が高いことを意味する。
なお、フィルムの膜厚は、Coolant Proof Micrometer IP65を用いて測定した。フィルムの6箇所をランダムに測定し、その平均値をフィルムの膜厚とした。
【0120】
4、伸長性
1.5×9.0cmの大きさに切り取ったフィルムを、室温下、引っ張り試験機(島津製作所社製、オートグラフAGS−100D)にて、初期標線距離60mm、引っ張り速度5mm/minの条件で引っ張り破断した時のひずみ(最大ひずみ)(%)を伸長性として評価した。最大ひずみが大きいほど伸長性が高いことを意味する。
【0121】
5、消臭性
ガラス製シャーレを用意し、フィルムを2.5g秤量して入れた。またブランクとして空のシャーレを用意した。これらのシャーレをそれぞれ、コック付きサンプリングバッグ(GLサイエンス社製、スマートバッグPA、容量3L)に入れ、ヒートシールして完全に密閉した。各サンプリングバッグ内を真空にした後、窒素ガス2Lを量り入れた。各バッグ内のシャーレを開けた後、酢酸飽和窒素ガスを、シリンジを用いて5mL量り取り入れた。2時間静置した後、酢酸用の検知管(ガステック社製、No.81又は81L)を用い、バッグ内の気体100mLを吸引して、酢酸濃度の低減率(%)を比較した。なお、測定値は、検知管の説明書に記載の換算スケールを用いて酢酸濃度に換算した。
酢酸の低減率は下式のように算出した。
低減率(%)=(ブランクのガス濃度−試料入りのガス濃度)÷(ブランクのガス濃度)×100
【0122】
6、再汚染防止能
Testfabric社より入手したポリエステル布を5cm×5cmに切断し、白布を作成した。この白布を予め日本電色工業社製の測色色差計SE6000型を用いて、白色度を反射率にて測定した。塩化カルシウム2水和物4.41gに純水を加えて15kgとし、硬水を調製した。ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム4.0g、炭酸ナトリウム6.0g、硫酸ナトリウム2.0gに純水を加えて100.0gとし、界面活性剤水溶液を調製した。ターゴットメーターを25℃ にセットし、硬水1L及び界面活性剤水溶液5g、各実施例又は比較例で得たフィルム(固形分換算)の10%水溶液1g、ゼオライト0.15g、カーボンブラック0.25gをポットに入れ、100rpmで1分間攪拌した。その後、白布5枚を入れ100rpmで10分間攪拌した。手で白布の水を切り、25℃にした水道水1Lをポットに入れ、100rpmで2分間攪拌した。再度、手で白布の水を切り、25℃にした水道水1Lをポットに入れ、100rpmで2分間攪拌した。手で白布の水を切り、白布に当て布をして、アイロンでしわを伸ばしながら乾燥させた後、上記測色色差計にて再度白布の白色度を反射率にて測定した。以上の測定結果から下記数式により再汚染防止率(%)を求めた。なお、再汚染防止率が高いほど、再汚染防止能に優れることを意味する。
再汚染防止率(%)=(洗浄後の白色度)/(原白布の白色度)×100
【0123】
7、カーボンブラック分散能
グリシン67.56g、塩化ナトリウム52.60g、48%水酸化ナトリウム5.00gに純水を加えて600.0gとした後、48%水酸化ナトリウムでpH10とし、グリシンバッファーを調製した。次に、このグリシンバッファー6.00gとエタノール11.10gに純水を加えて1000.0gとし、分散液を調製した。また、各実施例又は比較例で得たフィルム(固形分換算)の5.0%水溶液を約10g調製した。100mlのねじ口瓶にカーボンブラック0.03gを取り、ここに上記5.0%水溶液9.0g、分散液81.0gを加え、試験液とした。試験液の入ったねじ口瓶を超音波洗浄器に5分間かけ、更に、長さ10mmのスターラーチップを入れて500rpmで5分間攪拌した。攪拌を止めて3時間静置した後、試験液の外観を観察した。判定基準は以下の通りとした。
(1)カーボンブラック水和能:
〇:目視にて、カーボンブラックがほとんど液面に見られなかった。
△:目視にて、少量のカーボンブラックが液面に浮いていた。
×:目視にて、多量のカーボンブラックが液面に浮いていた。
(2)カーボンブラック分散:
〇:目視にて、液中にカーボンブラックが濃厚に分散していた。
△:目視にて、液中にカーボンブラックが均一に分散していた。
×:目視にて、液中のカーボンブラックが分散していなかった。
【0124】
8、洗浄力
人工汚染布として、洗濯科学協会より入手した湿式人工汚染布を用いた。人工汚染布は、予め測色色差計SE6000(日本電色工業社製)を用いて、白色度を反射率で測定した。塩化カルシウム2水和物1.47gに純水を加えて10kgとし、硬水を調製した。ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム(AES)4.8g、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(AE)0.6g、ホウ酸ナトリウム0.6g、クエン酸0.9g、プロピレングリコール2.4gに純水を加えて全体で80gとした。水酸化ナトリウム水溶液でpHを8.2に調整した後に純水を加えて全体で100gとし、界面活性剤水溶液を調製した。ターゴットメーターを27℃ にセットし、硬水1000mL、各実施例又は比較例で得たフィルム(固形分換算)の濃度2.75%溶液5mL、界面活性剤水溶液4.8mL、人工汚染布5枚、JIS L0803準拠綿白布5枚をポットに入れ、100rpmで10分間攪拌した。人工汚染布をポットから取り出し、人工汚染布の水分を手で絞った。ポットに硬水1000mLを入れ、水分を絞った人工汚染布をポットに入れ、100rpmで2分間攪拌した。人工汚染布をポットから取り出し、手で水分を絞った後、人工汚染布に当て布をして、アイロンでしわを伸ばしながら乾燥させた。乾燥した人工汚染布の白色度を測色色差計で反射率により測定した。以上の方法により測定された値と下式により洗浄率(%)を求めた。
洗浄率(%)=(洗浄後の人工汚染布の白色度−洗浄前の人工汚染布の白色度)÷(人工汚染布の元白布(EMPA221)の白色度−洗浄前の人工汚染布の白色度)×100
【0125】
【表1】
【0126】
【表2】
【0127】
表2より、以下のことを確認した。
実施例1〜8と比較例1とは、グラフト重合体を用いるか否かの点で主に相違するが、溶解性及び伸長性に顕著な差が生じたことが分かる。実施例1、4〜6、8と比較例2とは、グラフト重合体を用いるか又はポリアクリル酸を用いるかの点で主に相違するが、溶解性及び耐硬性に顕著な差が生じたことが分かる。従って、グラフト重合体を含む構成とすることで、冷水への溶解性、耐硬性及び伸長性のいずれにも優れる水溶性フィルムとなることが分かった。また、実施例2及び7と比較例3とは、グラフト重合体を用いるか又はポリビニルピロリドンを用いるかの点で主に相違するが、この場合、溶解性はほぼ同等であった。それゆえ、グラフト重合体を含む構成とすることで、高価なポリビニルピロリドンを必須としなくても、それとほぼ同等の高い溶解性を有する水溶性フィルムが得られることが分かった。
【0128】
表には記載していないが、実施例1〜8で得たフィルムが高強度を有することも確認した。実施例1〜8で得たフィルムはまた、比較例3で得たフィルム(ポリビニルピロリドン使用)に比べて、再汚染防止能や洗浄力に優れていることも確認した。更に、実施例1〜8で得たフィルムは、消臭性や、無機微粒子(カーボンブラック)の分散能にも優れた性能を有することを確認した。