(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
高耐圧、低損失および高耐熱を実現できる次世代のスイッチング素子として、バンドギャップの大きな酸化ガリウム(Ga
2O
3)を用いた半導体装置が注目されており、インバータなどの電力用半導体装置への適用が期待されている。しかも、広いバンドギャップからLEDやセンサー等の受発光装置としての応用も期待されている。当該酸化ガリウムは非特許文献1によると、インジウムやアルミニウムをそれぞれ、あるいは組み合わせて混晶することによりバンドギャップ制御することが可能であり、InAlGaO系半導体として極めて魅力的な材料系統を構成している。ここでInAlGaO系半導体とはIn
XAl
YGa
ZO
3(0≦X≦2、0≦Y≦2、0≦Z≦2、X+Y+Z=1.5〜2.5)を示し、酸化ガリウムを内包する同一材料系統として俯瞰することができる。
【0003】
しかしながら、従来のInAlGaO系半導体は、水素濃度が高く、水素濃度が高いと、酸化物半導体に含まれる元素と水素の結合により、水素の一部がドナーまたはアクセプターとなり、キャリアである電子が増えたり減ったりしてしまうなどの問題があった。
【0004】
特許文献1には、MBE法を用いてコランダム構造を有する酸化ガリウムを成膜することが記載されている。しかしながら、このような方法では、コランダム構造が壊れたりする等の課題が多々あり、成膜そのものが困難であった。また、MBE法で得られる膜は水素濃度も非常に高かった。
【0005】
なお、水素濃度を減らすために、成膜後、アニール処理やプラズマ処理などを行うことも検討されているが、水素濃度を5×10
17(atoms/cm
3)以下にすることは困難であった。
【0006】
特許文献2〜4には、ミストCVD法を用いてコランダム構造を有する酸化ガリウムを成膜することが記載されている。しかしながら、このような画期的な方法を用いて、コランダム構造を有する酸化ガリウムを成膜しても、得られた膜の水素濃度は依然として高いままであり、必ずしも満足のいくものではなかった。
【0007】
非特許文献2には、HVPE法を用いてコランダム構造を有する酸化ガリウムを成膜することが記載されている。しかしながら、このようにして得られる膜は、ハロゲンの不純物濃度が高いという問題があった。また、水素濃度もせいぜい3×10
17(atoms/cm
3)程度までしか低減できず、水素濃度についても満足のいくものではなく、より水素濃度が低減されたコランダム構造を有する半導体が待ち望まれていた。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の結晶性半導体膜は、コランダム構造を有する半導体を主成分として含む結晶性半導体膜であって、膜の一部または全部における水素濃度が2×10
17(atoms/cm
3)以下であることを特徴とする。
【0016】
前記水素濃度は、二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectroscopy)によって測定される。前記水素濃度は、軽水素の濃度を意味する。本発明において、前記水素濃度が測定される膜中の測定領域は、最表面から100nm以上の深さにおける任意の100nmの範囲であれば特に限定されない。なお、最表面を測定領域に含めないのは、SIMS測定において、スパッタリング不安定領域とスパッタリング安定領域とがあり、スパッタリング不安定領域は、例えば、1次イオン種、エネルギー、入射角などに依存して元素分布が変化しやすく、そのため、正確な分析ができない問題があるからである。本発明においては、前記水素濃度が、1×10
17(atoms/cm
3)以下であるのが好ましく、8×10
16(atoms/cm
3)以下であるのがより好ましい。
【0017】
前記結晶性半導体膜は、コランダム構造を有する半導体を主成分として含む。前記半導体は、コランダム構造を有していれば特に限定されず、酸化物半導体であっても、窒化物半導体であっても、炭化物半導体であっても、ケイ素含有半導体であってもよいが、本発明においては、前記半導体が、酸化物半導体であるのが好ましい。また、前記半導体は、アルミニウム、インジウムおよびガリウムの少なくともいずれか一つを含むのが好ましく、少なくともガリウムを含むのがより好ましい。前記半導体としては、InAlGaO系半導体等が好適な例として挙げられ、より具体的に例えば、In
XAl
YGa
ZO
3(0≦X≦2、0≦Y≦2、0≦Z≦2、X+Y+Z=1.5〜2.5)等が挙げられる。本発明においては、前記InAlGaO系半導体が、ガリウムを含むのが好ましい。なお、「主成分」とは、例えば前記半導体がα−Ga
2O
3である場合、膜中の金属元素中のガリウムの原子比が0.5以上の割合でα−Ga
2O
3が含まれていればそれでよい。本発明においては、前記膜中の金属元素中のガリウムの原子比が0.7以上であることが好ましく、0.8以上であるのがより好ましい。また、結晶性半導体膜の厚さは、特に限定されず、1μm以下であってもよいし、1μm以上であってもよい。なお、前記結晶性半導体膜は、通常、単結晶であるが、多結晶であってもよい。
【0018】
前記結晶性半導体膜は、ドーパントが含まれているのが好ましい。前記ドーパントは、特に限定されず、公知のものであってよい。前記ドーパントとしては、例えば、スズ、ゲルマニウム、ケイ素、チタン、ジルコニウム、バナジウムまたはニオブ等のn型ドーパント、またはp型ドーパントなどが挙げられる。本発明においては、前記ドーパントが、SnまたはGeであるのが好ましく、Geであるのがより好ましい。ドーパントの含有量は、前記結晶性半導体膜の組成中、0.00001原子%以上であるのが好ましく、0.00001原子%〜20原子%であるのがより好ましく、0.00001原子%〜10原子%であるのが最も好ましい。
【0019】
前記結晶性半導体膜は、例えば、重水素を含む原料溶液を霧化または液滴化し(霧化・液滴化工程)、得られたミストまたは液滴をキャリアガスでもって成膜室内に搬送し(搬送工程)、ついで、成膜室内で前記ミストまたは液滴を熱反応させることによって、基体上に、コランダム構造を有する半導体を主成分として含む結晶性半導体膜を積層する(成膜工程)ことにより好適に得られる。
【0020】
(霧化・液滴化工程)
霧化・液滴化工程は、前記原料溶液を霧化または液滴化する。前記原料溶液の霧化手段または液滴化手段は、前記原料溶液を霧化または液滴化できさえすれば特に限定されず、公知の手段であってよいが、本発明においては、超音波を用いる霧化手段または液滴化手段が好ましい。超音波を用いて得られたミストまたは液滴は、初速度がゼロであり、空中に浮遊するので好ましく、例えば、スプレーのように吹き付けるのではなく、空間に浮遊してガスとして搬送することが可能なミストであるので衝突エネルギーによる損傷がないため、非常に好適である。液滴サイズは、特に限定されず、数mm程度の液滴であってもよいが、好ましくは50μm以下であり、より好ましくは1〜10μmである。
【0021】
(原料溶液)
前記原料溶液は、霧化または液滴化が可能な材料を含んでおり、重水素を含有していれば特に限定されず、無機材料であっても、有機材料であってもよいが、本発明においては、金属または金属化合物であるのが好ましく、ガリウム、鉄、インジウム、アルミニウム、バナジウム、チタン、クロム、ロジウム、ニッケル、コバルト、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、シリコン、イットリウム、ストロンチウムおよびバリウムから選ばれる1種または2種以上の金属を含むのがより好ましい。
【0022】
本発明においては、前記原料溶液として、前記金属を錯体または塩の形態で有機溶媒または水に溶解または分散させたものを好適に用いることができる。錯体の形態としては、例えば、アセチルアセトナート錯体、カルボニル錯体、アンミン錯体、ヒドリド錯体などが挙げられる。塩の形態としては、例えば、有機金属塩(例えば金属酢酸塩、金属シュウ酸塩、金属クエン酸塩等)、硫化金属塩、硝化金属塩、リン酸化金属塩、ハロゲン化金属塩(例えば塩化金属塩、臭化金属塩、ヨウ化金属塩等)などが挙げられる。
【0023】
また、前記原料溶液には、ハロゲン化水素酸や酸化剤等の添加剤を混合してもよい。前記ハロゲン化水素酸としては、例えば、臭化水素酸、塩酸、ヨウ化水素酸などが挙げられるが、中でも、臭化水素酸またはヨウ化水素酸が好ましい。前記酸化剤としては、例えば、過酸化水素(H
2O
2)、過酸化ナトリウム(Na
2O
2)、過酸化バリウム(BaO
2)、過酸化ベンゾイル(C
6H
5CO)
2O
2等の過酸化物、次亜塩素酸(HClO)、過塩素酸、硝酸、オゾン水、過酢酸やニトロベンゼン等の有機過酸化物などが挙げられる。
【0024】
前記原料溶液には、ドーパントが含まれていてもよい。原料溶液にドーパントを含ませることで、ドーピングを良好に行うことができる。前記ドーパントは、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されない。前記ドーパントとしては、例えば、スズ、ゲルマニウム、ケイ素、チタン、ジルコニウム、バナジウムまたはニオブ等のn型ドーパント、またはp型ドーパントなどが挙げられる。ドーパントの濃度は、通常、約1×10
16/cm
3〜1×10
22/cm
3であってもよいし、また、ドーパントの濃度を例えば約1×10
17/cm
3以下の低濃度にしてもよい。また、さらに、本発明によれば、ドーパントを約1×10
20/cm
3以上の高濃度で含有させてもよい。
【0025】
原料溶液の溶媒は、特に限定されず、水等の無機溶媒であってもよいし、アルコール等の有機溶媒であってもよいし、無機溶媒と有機溶媒との混合溶媒であってもよい。本発明においては、前記溶媒が水を含むのが好ましく、水または水とアルコールとの混合溶媒であるのがより好ましい。
【0026】
前記重水素は、添加剤として前記原料溶液に含まれていてもよいし、原料溶液の溶質や溶媒の水素原子を重水素で置換したものを用いることによって、前記原料溶液に含まれていてもよい。溶媒の水素原子を重水素で置換したものとしては、例えば、重水等が挙げられる。添加剤として重水素を原料溶液に含ませる場合には、例えば、酸として、重塩酸、臭化重水素酸、ヨウ化重水素酸などを用いることなどが挙げられる。
【0027】
(搬送工程)
搬送工程では、キャリアガスでもって前記ミストまたは前記液滴を成膜室内に搬送する。前記キャリアガスとしては、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、例えば、酸素、オゾン、窒素やアルゴン等の不活性ガス、または水素ガスやフォーミングガス等の還元ガスなどが好適な例として挙げられる。また、キャリアガスの種類は1種類であってよいが、2種類以上であってもよく、流量を下げた希釈ガス(例えば10倍希釈ガス等)などを、第2のキャリアガスとしてさらに用いてもよい。また、キャリアガスの供給箇所も1箇所だけでなく、2箇所以上あってもよい。キャリアガスの流量は、特に限定されないが、0.01〜20L/分であるのが好ましく、1〜10L/分であるのがより好ましい。希釈ガスの場合には、希釈ガスの流量が、0.001〜2L/分であるのが好ましく、0.1〜1L/分であるのがより好ましい。
【0028】
(成膜工程)
成膜工程では、成膜室内で前記ミストまたは液滴を熱反応させることによって、基体上に、結晶性半導体膜を成膜する。熱反応は、熱でもって前記ミストまたは液滴が反応すればそれでよく、反応条件等も本発明の目的を阻害しない限り特に限定されない。本工程においては、前記熱反応を、通常、溶媒の蒸発温度以上の温度で行うが、高すぎない温度(例えば1000℃)以下が好ましく、650℃以下がより好ましく、300℃〜650℃が最も好ましい。また、熱反応は、本発明の目的を阻害しない限り、真空下、非酸素雰囲気下、還元ガス雰囲気下および酸素雰囲気下のいずれの雰囲気下で行われてもよいが、非酸素雰囲気下または酸素雰囲気下で行われるのが好ましい。また、大気圧下、加圧下および減圧下のいずれの条件下で行われてもよいが、本発明においては、大気圧下で行われるのが好ましい。なお、膜厚は、成膜時間を調整することにより、設定することができる。
【0029】
(基体)
前記基体は、前記結晶性半導体膜を支持できるものであれば特に限定されない。前記基体の材料も、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、公知の基体であってよく、有機化合物であってもよいし、無機化合物であってもよい。前記基体の形状としては、どのような形状のものであってもよく、あらゆる形状に対して有効であり、例えば、平板や円板等の板状、繊維状、棒状、円柱状、角柱状、筒状、螺旋状、球状、リング状などが挙げられるが、本発明においては、基板が好ましい。基板の厚さは、本発明においては特に限定されない。
【0030】
前記基板は、板状であって、前記結晶性半導体膜の支持体となるものであれば特に限定されない。絶縁体基板であってもよいし、半導体基板であってもよいし、金属基板や導電性基板であってもよいが、前記基板が、絶縁体基板であるのが好ましく、また、表面に金属膜を有する基板であるのも好ましい。前記基板としては、例えば、コランダム構造を有する基板材料を主成分として含む下地基板、またはβ−ガリア構造を有する基板材料を主成分として含む下地基板、六方晶構造を有する基板材料を主成分として含む下地基板などが挙げられる。ここで、「主成分」とは、前記特定の結晶構造を有する基板材料が、原子比で、基板材料の全成分に対し、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、更に好ましくは90%以上含まれることを意味し、100%であってもよい。
【0031】
基板材料は、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されず、公知のものであってよい。前記のコランダム構造を有する基板材料としては、例えば、α−Al
2O
3(サファイア基板)またはα−Ga
2O
3が好適に挙げられ、a面サファイア基板、m面サファイア基板、r面サファイア基板、c面サファイア基板や、α型酸化ガリウム基板(a面、m面またはr面)などがより好適な例として挙げられる。β−ガリア構造を有する基板材料を主成分とする下地基板としては、例えばβ−Ga
2O
3基板、又はGa
2O
3とAl
2O
3とを含みAl
2O
3が0wt%より多くかつ60wt%以下である混晶体基板などが挙げられる。また、六方晶構造を有する基板材料を主成分とする下地基板としては、例えば、SiC基板、ZnO基板、GaN基板などが挙げられる。
【0032】
本発明においては、前記基体が、コランダム構造を有するのが好ましく、コランダム構造を有する基板材料を主成分とする下地基板であるのがより好ましく、サファイア基板またはα型酸化ガリウム基板であるのが最も好ましい。また、前記基体は、アルミニウムを含むのが好ましく、コランダム構造を有するアルミニウム含有基板材料を主成分とする下地基板であるのがより好ましく、サファイア基板(好ましくはc面サファイア基板、a面サファイア基板、m面サファイア基板、r面サファイア基板)であるのが最も好ましい。また、前記基体は、酸化物を含むのが好ましく、前記酸化物としては、例えば、YSZ基板、MgAl
2O
4基板、ZnO基板、MgO基板、SrTiO
3基板、Al
2O
3基板、石英基板、ガラス基板、β型酸化ガリウム基板、チタン酸バリウム基板、チタン酸ストロンチウム基板、酸化コバルト基板、酸化銅基板、酸化クロム基板、酸化鉄基板、Gd
3Ga
5O
12基板、タンタル酸カリウム基板、アルミン酸ランタン基板、ランタンストロンチウムアルミネート基板、ランタンストロンチウムガレート基板、ニオブ酸リチウム基板、タンタル酸リチウム基板、アルミニウムタンタル酸ランタンストロンチウム、酸化マンガン基板、ネオジウムガレード基板、酸化ニッケル基板、スカンジウムマグネシウムアルミネート基板、酸化ストロンチウム、チタン酸ストロンチウム基板、酸化スズ基板、酸化テルル基板、酸化チタン基板、YAG基板、イットリウム・アルミネート基板、リチウム・アルミネート基板、リチウム・ガレート基板、LAST基板、ネオジムガレート基板、イットリウム・オルトバナデイト基板などが挙げられる。
【0033】
(アニール工程)
本発明においては、前記成膜工程の後、アニール処理を行うのが好ましい。アニール処理を行うことにより、軽水素のみを用いて成膜した場合に比べ、より水素濃度を低減させることができる。アニールの処理温度は、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、通常、300℃〜650℃であり、好ましくは350℃〜550℃である。また、アニールの処理時間は、通常、1分間〜48時間であり、好ましくは10分間〜24時間であり、より好ましくは30分間〜12時間である。なお、アニール処理は、本発明の目的を阻害しない限り、どのような雰囲気下で行われてもよいが、好ましくは非酸素雰囲気下であり、より好ましくは窒素雰囲気下である。
【0034】
また、本発明においては、前記基体上に、直接、結晶性半導体膜を設けてもよいし、バッファ層(緩衝層)や応力緩和層等の他の層を介して結晶性半導体膜を設けてもよい。各層の形成手段は、特に限定されず、公知の手段であってよいが、本発明においては、ミストCVD法が好ましい。
【0035】
上記のようにして結晶性半導体膜を製造することで、膜の一部または全部における水素濃度を2×10
17(atoms/cm
3)以下、好ましくは1×10
17(atoms/cm
3)以下にまで低減することができる。前記結晶性半導体膜は、重水素を用いたことによる悪影響もなく、半導体特性、特に電気特性に非常に優れたものとなり、半導体装置等に有用である。また、前記結晶性半導体膜は、その表面の一部または全部におけるハロゲン濃度が、通常、5×10
16(atoms/cm
3)以下、好ましくは1×10
16(atoms/cm
3)以下、より好ましくは5×10
15(atoms/cm
3)以下、最も好ましくは3×10
15(atoms/cm
3)以下にまで低減されており、特に、原料にハロゲン化合物を用いた場合であっても、ハロゲン不純物が低減されており、より良好な半導体特性を発揮することができる。なお、前記ハロゲンとしては、例えば、塩素や臭素等が挙げられるが、本発明においては、前記ハロゲンが塩素または臭素が好ましく、塩素および臭素がより好ましい。
【0036】
本発明においては、前記結晶性半導体膜を、前記基体等から剥離する等の公知の手段を用いた後に、半導体装置等に用いてもよいし、そのまま積層構造体として、半導体装置等に用いてもよい。
【0037】
前記半導体装置としては、例えば、半導体レーザ、ダイオードまたはトランジスタなどが挙げられ、より具体的には例えば、MISやHEMT等のトランジスタやTFT、半導体−金属接合を利用したショットキーバリアダイオード、他のP層と組み合わせたPN又はPINダイオード、受発光素子等が挙げられる。本発明においては、前記半導体装置が、ダイオードまたはトランジスタであるのが好ましい。
【0038】
本発明においては、前記半導体装置が、前記結晶性半導体膜と電極とを少なくとも含む半導体装置であるのが好ましい。前記電極は、例えば、前記半導体装置がショットキーバリアダイオードである場合には、ショットキー電極やオーミック電極であってよく、また、例えば、前記半導体装置がMOSFETである場合には、ゲート電極、ソース電極、ドレイン電極であってよい。前記電極材料としては、例えば、Al、Mo、Co、Zr、Sn、Nb、Fe、Cr、Ta、Ti、Au、Pt、V、Mn、Ni、Cu、Hf、W、Ir、Zn、In、Pd、NdもしくはAg等の金属またはこれらの合金、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウム錫(ITO)、酸化亜鉛インジウム(IZO)等の金属酸化物導電膜、ポリアニリン、ポリチオフェン又はポリピロ−ルなどの有機導電性化合物、またはこれらの混合物などが挙げられる。電極の形成は、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法などの公知の手段により行うことができる。
【0039】
前記半導体装置は、水素が低減された結晶性半導体膜を有しているので、半導体特性、特に電気特性に優れている。前記結晶性半導体膜は、重水素を用いずに、ミストCVD法により成膜されたコランダム構造を有する半導体膜よりも、例えば移動度が格段に向上する。
【実施例】
【0040】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)
1.成膜装置
図1を用いて、本実施例で用いたミストCVD装置1を説明する。ミストCVD装置1は、キャリアガスを供給するキャリアガス源2aと、キャリアガス源2aから送り出されるキャリアガスの流量を調節するための流量調節弁3aと、キャリアガス(希釈)を供給するキャリアガス(希釈)源2bと、キャリアガス(希釈)源2bから送り出されるキャリアガス(希釈)の流量を調節するための流量調節弁3bと、原料溶液4aが収容されるミスト発生源4と、水5aが入れられる容器5と、容器5の底面に取り付けられた超音波振動子6と、成膜室7と、ミスト発生源4から成膜室7までをつなぐ供給管9と、成膜室7内に設置されたホットプレート8と、熱反応後のミスト、液滴および排気ガスを排出する排気口11とを備えている。なお、ホットプレート8上には、基板10が設置されている。
【0042】
2.原料溶液の作製
臭化ガリウムと臭化スズを重水に混合し、ガリウムに対するスズの原子比が1:0.08となるように水溶液を調整し、この際、臭化重水素酸を体積比で10%を含有させ、これを原料溶液とした。
【0043】
3.成膜準備
上記2.で得られた原料溶液4aをミスト発生源4内に収容した。次に、基板10として、サファイア基板をホットプレート8上に設置し、ホットプレート8を作動させて成膜室7内の温度を600℃にまで昇温させた。次に、流量調節弁3a、3bを開いて、キャリアガス源であるキャリアガス供給手段2a、2bからキャリアガスを成膜室7内に供給し、成膜室7の雰囲気をキャリアガスで十分に置換した後、キャリアガスの流量を5.0L/分に、キャリアガス(希釈)の流量を0.5L/分にそれぞれ調節した。なお、キャリアガスとして酸素を用いた。
【0044】
4.結晶性半導体膜の形成
次に、超音波振動子6を2.4MHzで振動させ、その振動を、水5aを通じて原料溶液4aに伝播させることによって、原料溶液4aを霧化させてミスト4bを生成させた。このミスト4bが、キャリアガスによって、供給管9内を通って、成膜室7内に導入され、大気圧下、600℃にて、成膜室7内でミストが熱反応して、基板10上に膜が形成された。なお、膜厚は3.2μmであり、成膜時間は240分間であった。
【0045】
5.評価
XRD回折装置を用いて、上記4.にて得られた膜の相の同定を行ったところ、得られた膜はα−Ga
20
3であり、抵抗率は8mΩcmであった。また、得られた膜につき、二次イオン質量分析装置を用いて、膜中の水素濃度を測定した。SIMSの結果を
図2に示す。
図2から明らかなとおり、水素濃度が2×10
17(atoms/cm
3)以下であった。また、得られた膜につき、ホール効果測定を実施したところ、キャリア密度7.80×10
18cm
−3において、移動度が13.81cm
2/Vsであった。これは、重水素を用いずに成膜した場合に比べ、約5倍以上の効果の差があり、本発明の結晶性半導体膜の電気特性が優れていることがわかる。
【0046】
(実施例2)
実施例1で得られた膜を窒素雰囲気中500℃にて1時間アニール処理した。アニール処理で得られた膜を実施例2の膜とし、実施例1と同様に評価した。得られた膜の相の同定を行ったところ、得られた膜はα−Ga
20
3であり、抵抗率は10mΩcmであった。また、得られた膜につき、二次イオン質量分析装置を用いて、膜中の水素濃度を測定した。SIMSの結果を
図2に示す。
図2から明らかなとおり、水素濃度が1×10
17(atoms/cm
3)以下であった。
【0047】
(実施例3)
1.成膜装置
図3を用いて、実施例3で用いたミストCVD装置19を説明する。ミストCVD装置19は、基板20を載置するサセプタ21と、キャリアガスを供給するキャリアガス供給手段22aと、キャリアガス供給手段22aから送り出されるキャリアガスの流量を調節するための流量調節弁23aと、キャリアガス(希釈)を供給するキャリアガス(希釈)供給手段22bと、キャリアガス(希釈)供給手段22bから送り出されるキャリアガスの流量を調節するための流量調節弁23bと、原料溶液24aが収容されるミスト発生源24と、水25aが入れられる容器25と、容器25の底面に取り付けられた超音波振動子26と、内径40mmの石英管からなる供給管27と、供給管27の周辺部に設置されたヒーター28とを備えている。サセプタ21は、石英からなり、基板20を載置する面が水平面から傾斜している。成膜室となる供給管27とサセプタ21をどちらも石英で作製することにより、基板20上に形成される膜内に装置由来の不純物が混入することを抑制している。
【0048】
2.原料溶液の作製
臭化ガリウムと臭化スズを重水に混合し、ガリウムに対するスズの原子比が1:0.08となるように水溶液を調整し、この際、臭化重水素酸を体積比で10%を含有させ、これを原料溶液とした。
【0049】
3.成膜準備
上記2.で得られた原料溶液24aをミスト発生源24内に収容した。次に、基板20として、サファイア基板をサセプタ21上に設置し、ヒーター28を作動させて成膜室27内の温度を550℃にまで昇温させた。次に、流量調節弁23a、23bを開いて、キャリアガス源であるキャリアガス供給手段22a、22bからキャリアガスを成膜室27内に供給し、成膜室27の雰囲気をキャリアガスで十分に置換した後、キャリアガスの流量を5L/分に、キャリアガス(希釈)の流量を0.5L/分にそれぞれ調節した。なお、キャリアガスとして酸素を用いた。
【0050】
4.半導体膜形成
次に、超音波振動子26を2.4MHzで振動させ、その振動を、水25aを通じて原料溶液24aに伝播させることによって、原料溶液24aを霧化させてミストを生成した。このミストが、キャリアガスによって成膜室27内に導入され、大気圧下、550℃にて、成膜室27内でミストが反応して、基板20上に半導体膜が形成された。なお、膜厚は3.6μmであり、成膜時間は170分間であった。
【0051】
5.評価
XRD回折装置を用いて、上記4.にて得られた膜の相の同定を行ったところ、得られた膜はα−Ga
20
3であり、抵抗率は10mΩcmであった。また、得られた膜につき、二次イオン質量分析装置を用いて、膜中の水素濃度を測定した。SIMSの結果を
図4に示す。
図4から明らかなとおり、膜中の水素濃度が2×10
17(atoms/cm
3)以下であった。また、水素濃度を測定した場合と同様に、二次イオン質量分析装置を用いて、膜中のハロゲン(臭素、塩素)の濃度も測定した。臭素濃度の測定結果を
図5に示し、塩素濃度の測定結果を
図6に示す。
図5および
図6から明らかなとおり、膜中の臭素濃度が、3×10
15(atoms/cm
3)以下であり、塩素濃度が、2×10
15(atoms/cm
3)以下であり、ハロゲンの濃度が低いことがわかる。
【0052】
(実施例4)
実施例3で得られた膜を窒素雰囲気中400℃にて10時間アニール処理した。アニール処理で得られた膜を実施例4の膜とし、実施例3と同様に評価した。得られた膜の相の同定を行ったところ、得られた膜はα−Ga
2O
3であった。また、得られた膜につき、二次イオン質量分析装置を用いて、膜中のハロゲン(塩素、臭素)の濃度を測定した。臭素濃度の測定結果を
図5に示し、塩素濃度の測定結果を
図6に示す。
図5および
図6から明らかなとおり、塩素濃度が、2×10
15(atoms/cm
3)以下であり、臭素濃度も2×10
15(atoms/cm
3)以下であり、ハロゲンの不純物が2×10
15(atoms/cm
3)以下と低いことがわかる。しかしながら、ハロゲンの場合は、アニール処理前と処理後では、例えばハロゲン不純物が低減する等の変化を確認することはできなかった。
【0053】
実施例から明らかなとおり、本発明の結晶性半導体膜は、いずれも水素濃度が、2×10
17(atoms/cm
3)以下であり、半導体特性にも優れていることがわかる。