特許第6651687号(P6651687)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6651687ヘッドホン用イヤパッド及びヘッドホンおよびイヤーマフ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6651687
(24)【登録日】2020年1月27日
(45)【発行日】2020年2月19日
(54)【発明の名称】ヘッドホン用イヤパッド及びヘッドホンおよびイヤーマフ
(51)【国際特許分類】
   H04R 1/10 20060101AFI20200210BHJP
【FI】
   H04R1/10 102
   H04R1/10 103
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-243817(P2015-243817)
(22)【出願日】2015年12月15日
(65)【公開番号】特開2017-112446(P2017-112446A)
(43)【公開日】2017年6月22日
【審査請求日】2018年9月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000128566
【氏名又は名称】株式会社オーディオテクニカ
(74)【代理人】
【識別番号】100088856
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 佳之夫
(72)【発明者】
【氏名】秋野 裕
【審査官】 冨澤 直樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭54−087523(JP,A)
【文献】 特開2010−010984(JP,A)
【文献】 特開平01−196999(JP,A)
【文献】 特開2009−105841(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0218775(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/10
A61F 9/00−11/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者の耳の周囲を取り囲むリング状のパッド部を備え、
前記パッド部は、ヘッドバンドの両端に設けられたハウジングに取り付けられ、使用者の耳の周囲を取り囲む内部空間と外部空間とを連通する経路をなす隙間を有し、
前記パッド部は、複数のパッド部材から構成され、
前記隙間は、隣り合う前記パッド部材によって形成されていて、
前記隙間は厚み方向に圧縮されるにつれて縮小される
ことを特徴とするイヤパッド。
【請求項2】
前記隙間が複数形成されている請求項記載のイヤパッド。
【請求項3】
前記パッド部は、中央を基準として径方向に略同心円状に前記パッド部材が配置されてなる
請求項1又は2に記載のイヤパッド。
【請求項4】
前記パッド部は、第1パッド部と、前記第1パッド部の外側に配置されている第2パッド部と、からなる請求項3記載のイヤパッド。
【請求項5】
前記第1パッド部の前記パッド部材同士で形成される隙間と、前記第2パッド部の前記パッド部材同士で形成される隙間とは、中央を基準とした半径方向において互いに異なる位置に形成されている請求項記載のイヤパッド。
【請求項6】
使用者の頭部に対応して湾曲する形状を有する板ばねと、
前記板ばねの両端側にそれぞれ設けられ音源部を収納する一対のハウジングと、
各ハウジングに取付けられている請求項1乃至のいずれかに記載のイヤパッドと、
前記板ばねの両端の距離を調整するための調整用部材と、前記板ばねに対する調整用部材の位置を調整する位置調整機構と、を備えるヘッドホン。
【請求項7】
前記調整用部材及び前記位置調整機構は前記板ばねの外側に配置されている請求項6記載のヘッドホン。
【請求項8】
使用者の頭部に対応して湾曲する形状を有する板ばねと、
前記板ばねの両端側にそれぞれ設けられる一対のハウジングと、
各ハウジングに取付けられている請求項1乃至のいずれかに記載のイヤパッドと、
前記板ばねの両端の距離を調整するための調整用部材と、前記板ばねに対する調整用部材の位置を調整する位置調整機構と、を備えるイヤーマフ。
【請求項9】
前記調整用部材及び前記位置調整機構は前記板ばねの外側に配置されている請求項8記載のイヤーマフ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘッドホンやイヤーマフに利用されるイヤパッド及びこのイヤパッドを用いたヘッドホンおよびイヤーマフに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ヘッドホンは、音源ユニットがそれぞれ搭載された左右一対の筐体(ハウジング)をヘッドバンドと呼ばれる板ばね内蔵の支持部材で結合し、かかるハウジングを使用者の両耳に挟み込むようにして保持させる構造を備えている。そして、使用時には、ヘッドホンを人体頭部に固定するために、使用者の両耳近傍の頭部に「側圧」と呼ばれる力が加えられる。ヘッドホンの側圧は、一対のハウジングに設けられたイヤパッドを圧縮する方向に働く力であり、主にヘッドバンド内の板ばねの弾性力によって発生する。ヘッドホンの側圧に関し、JEITA RC−8141Bでは、左右イヤパッド間に生じる力を測定することで側圧を測定する旨が規定されている。
【0003】
ところで、イヤパッドで耳全体を覆う密閉型のヘッドホン(以下、「密閉型耳覆いヘッドホン」と称する)は、遮音性に優れていることから、音楽鑑賞用のみならず、聴音用や高騒音下など、種々の用途や環境下で使用されている。高騒音環境などで高い遮音性が求められる場合において、この密閉型耳覆いヘッドホンの側圧は、比較的高くなければならない。すなわち、外来音からの遮音性はイヤパッドの気密性と音波による振動に依存するため、イヤパッドの気密性を高め、外来音でイヤパッドが振動しないように、比較的高い側圧が加えられる。
【0004】
他方、ヘッドホンに高い側圧を加えてイヤパッドの気密性を高めた場合、長時間の使用時に体温によってイヤパッド内の温度が上昇する。この温度上昇は、使用者に対して発汗など不快感を伴う不都合を発生させる。したがって、側圧を増減させることによって気密性が調整できるイヤパッドやヘッドホンがあると便利である。
【0005】
特許文献1のヘッドホンは、イヤパッド内の空気層の内圧を調整することで装着感などを調節できるようにしている。特許文献2のヘッドホンは、形状記憶合金からなる円弧状のスタビライザーをヘッドバンドの近傍に装着し、かかるスタビライザーを交換することでヘッドバンドの側圧を変更できるようにしている。他方、特許文献1及び2では、側圧を増減させることによって気密性が調整できるイヤパッド及びヘッドホンについては教示していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−88889号公報
【特許文献2】特開2009−290621号公報
【発明の概要】
【0007】
本発明は、側圧を増減させることによって気密性を調整可能なイヤパッド、及びこのイヤパッドを用いたヘッドホンおよびイヤーマフを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るイヤパッドは、使用者の耳の周囲を取り囲むリング状のパッド部を備え、前記パッド部は、ヘッドバンドの両端に設けられたハウジングに取り付けられ、使用者の耳の周囲を取り囲む内部空間と外部空間とを連通する経路をなす隙間を有し、前記パッド部は、複数のパッド部材から構成され、前記隙間は、隣り合う前記パッド部材によって形成されていて、前記隙間は厚み方向に圧縮されるにつれて縮小されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、側圧を増減させることによって気密性を調整可能なイヤパッド及びこのイヤパッドを用いたヘッドホンおよびイヤーマフを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態によるヘッドホン用イヤパッドの構成を説明するための要部断面図である。
図2】上記イヤパッドの構成を示す平面図である。
図3】上記イヤパッドが側圧により圧縮される状態を示す要部断面図である。
図4】上記イヤパッドが側圧により圧縮される状態を説明するための平面図である。
図5】上記イヤパッドが装着された側圧調整機構付きヘッドホンの全体構成を説明するための正面図である。
図6】上記ヘッドホンから板ばねと側圧調整用ばねを取り外した状態を示す正面図である。
図7図5のアジャスタ部の構成を説明するための拡大断面図である。
図8図5の取付部材を示す拡大平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態によるヘッドホンを、図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
図1に示すように、実施形態のヘッドホン1は、音源部としてのドライバユニット10と、ドライバユニット10を収容するハウジング2と、イヤパッド3と、ドライバユニット10及びイヤパッド3をハウジング2に取り付けるためのバッフル板21と、を有する。イヤパッド3は、バッフル板21の前面(図1において左側面)側外周縁部に沿って固着されている。ドライバユニット10は、バッフル板21の中央部に固定されている。ハウジング2は、バッフル板21の背面側外周縁部に沿って固着されている。
【0013】
バッフル板21の中央部には比較的大きな孔があけられていて、この孔にはドライバユニット10のフレーム11の外周が嵌められて固定されている。フレーム11の中央部には筒形の孔が形成されていて、この孔には磁性材からなる皿状のヨーク12が開口端を前方に向けて嵌合され固定されている。ヨーク12の内側の底面には板状のマグネット13が固定され、マグネット13に重ねてポールピース14が固定されている。フレーム11の前面側にはドーム形の振動板15が配置されている。
【0014】
振動板15は中央のメインドームとこのメインドームの外周を取り囲むサブドームを有してなる。サブドームの外周縁部がフレーム11に固着され、この固着部を支点として振動板15は前後に動くことができるようになっている。上記メインドームとサブドームの境界線に沿って、ボイスコイル16の一端が振動板15の背面側に固着されている。ボイスコイル16は、ヨーク12の内周面とポールピース14の外周面との間に形成されている磁気ギャップに位置している。この磁気ギャップは、マグネット13からヨーク12、ポールピース14を通り、マグネット13に至る磁気回路中にある。この磁気ギャップには、磁界が形成されている。ボイスコイル16に楽音信号が入力されると、上記磁界と楽音信号との電磁気力によりボイスコイル16は楽音信号に従って前後に振動し、音波を発するようになっている。
【0015】
ハウジング2によってバッフル板21の背面側およびドライバユニット10が覆われ、バッフル板21とハウジング2によって密閉状の後部キャビティが形成されている。ヘッドホンの使用態様では、イヤパッド3で使用者の耳Eを覆うことで、使用者の側頭部とイヤパッド3とバッフル板21で区切られる前部キャビティが形成される。前部キャビティの容積や使用者の耳Eから音源部までの距離は、ヘッドホン1の側圧によって変化する。すなわち、ヘッドホン1の側圧が高くなるほど、使用者の耳Eから音源部までの距離が短くなり、前部キャビティの容積が小さくなる。
【0016】
振動板15の前方には、振動板15を保護するプロテクタが設けられる(図示省略)。ドライバユニット10の内部にも、振動板15、フレーム11、ヨーク12で区切られたキャビティが形成されている。このキャビティと後部キャビティを連通させる孔がフレーム11に形成され、この孔は音響抵抗材17で塞がれている。
【0017】
以下、本実施形態の特徴となるイヤパッド3の構造について説明する。図1及び図2に示すように、イヤパッド3は、図1において左側から見た正面視において、全体略リング状(円環状)の外形を有するパッド部30を備えている。イヤパッド3は、かかるパッド部30に隙間G(G1〜G7)を有する構造となっている。それぞれの隙間G1〜G7は、パッド部30を分割するようにパッド部30の厚み方向に伸びるように設けられている。かかる隙間Gは、音源部であるドライバユニット10と外気とを連通する経路としての役割を有しており、その詳細は後述する。
【0018】
パッド部30の内径C0および厚みD0は、使用者の耳Eの周囲を囲むのに十分な大きさに形成されている。本実施形態では、パッド部30は、複数のパッド部材311〜313,321〜323が相互に隙間G(G1〜G7)を有するように配置されてなる。パッド部30は、内側に3つ、外側に3つの合計6つのパッド部材311〜313,321〜323からなる。パッド部材311〜313,321〜323は、それぞれ弾性体であり、基端側の面がバッフル板21に固着されていて、先端側が使用者の側頭部に当接される。
【0019】
より具体的に、パッド部30は、内側に配置されているパッド部材311〜313からなる第1パッド部31と、第1パッド部の外側に配置されているパッド部材321〜323からなる第2パッド部32とを有する。図2に示すように、第1パッド部31と第2パッド部32とは、中央を基準として径方向に同心円状に配置されている。
【0020】
本実施形態では、第1パッド部31は、3つのパッド部材311,312,313が同一円周上に配置されてなる。ここで、各パッド部材311,312,313は、相互に同一の形状である。第1パッド部31は、パッド部材311及び312の端部同士が接近して隙間G1を形成するように配置される。同様に、パッド部材312及び313、パッド部材313及び311も、その端部同士が接近して隙間G2およびG3が形成されるように配置される。総じて、第1パッド部31は、3つのパッド部材311,312,313が相互に隙間G(G1,G2,G3)を有するように配置された3分割型の構成である。
【0021】
第2パッド部32は、3つのパッド部材321,322,323が同一円周上に配置されてなる。ここで、各パッド部材321,322,323は、相互に同一の形状である。第2パッド部32は、パッド部材321及び322の端部同士が接近して隙間G4を形成するように配置される。同様に、パッド部材322及び323の各端部、パッド部材323及び321の各端部同士は隙間G5及びG6を形成するように接近して配置される。総じて、第2パッド部32は、3つのパッド部材321,322,323が相互に隙間G(G4,G5,G6)を有するように配置された3分割型の構成である。
【0022】
図2に示すように、第1パッド部31のパッド部材同士で形成される隙間G1,G2,G3と、第2パッド部32のパッド部材同士で形成される隙間G4,G5,G6とは、中央を基準とした半径方向において互いに異なる位置に設けられている。
【0023】
さらに、パッド部30は、隙間G7が形成されるように第1パッド部31と第2パッド部32が接近して配置されて、構成される。より詳細には、第1パッド部31の各パッド部材(311〜313)の外側面と、第2パッド部32の各パッド部材(321〜323)の内側面との間に隙間G7が形成されるように、これらパッド部材311〜313、321〜323が接近して配置される。
【0024】
図1及び図2は、ヘッドホン1に側圧が加えられていない場合の各隙間G1〜G7の状態を示している。各隙間G1〜G7は、パッド部30の厚み方向に形成されている。言い換えると、各隙間G1〜G7はバッフル板21から垂直に立ち上がるように形成されている。図3及び図4は、ヘッドホン1の使用時に幾分強い側圧が加えられた場合の各隙間G1〜G7の状態を示す。
【0025】
図1及び図2から分かるように、ヘッドホン1に側圧が加えられていない場合、あるいは弱い側圧の場合には、各隙間G1〜G7によって薄い空気層が形成される。したがって、ヘッドホン1の使用時において、前部キャビティの空気は、隙間G1〜G3、隙間G7、及び隙間G4〜G6を通じて外気に連通される。言い換えると、各隙間G(G1乃至G7)は、使用者の耳の周囲を取り囲む内部空間と外部空間とを連通する経路をなす。
【0026】
これに対して、ヘッドホン1の使用時に側圧が加えられると、図3及び図4に示すように、イヤパッド3は使用者の側頭部を押圧するとともに、その弾性によりイヤパッド3自らが変形する。すなわち、イヤパッド3は、厚み(D)方向に圧縮され、部材の厚みがD0からD1に縮小する(D0>D1)。イヤパッド3において、かかる部材の変形により、隣接するパッド部材の端部同士及び側面同士が接触し、各隙間G1〜G7が小さくなる。ここで、各隙間G1〜G7が縮小するレベルは、各パッド部材311〜313、321〜323の変形のレベルすなわち加えられる側圧のレベルに対応する。
【0027】
より具体的には、ヘッドホン1の使用状態において徐々に強い側圧が加えられると、イヤパッド3は徐々に圧縮されることで、部材の厚みDが徐々に縮小する。このとき、部材の厚みDの幅及び長手方向のサイズが徐々に広がる(膨張する)ように各パッド部材が変形する。かかる部材の変形により、イヤパッド3は、隣接するパッド部材の端部及び側面における厚みD方向の主に中央部同士から接触しはじめる。かかる接触部位は、側圧の大きさに対応して徐々に増大していく。このような動作により、各隙間G1〜G7は次第に小さくなり、前部キャビティと外気とを連通する経路が徐々に狭くなっていく。そのため、前部キャビティの密閉性が高められる。
【0028】
そして、加えられる側圧のレベルがある程度強くなると、各パッド部材311〜313、321〜323がさらに変形して、各隙間G1〜G7が十分に縮小される。そのため、使用者の耳の周囲を取り囲む内部空間である前部キャビティと外部空間とを連通する経路が閉じられる。これにより、前部キャビティと外気との連通が遮断され、前部キャビティは密閉状態になる。
【0029】
この密閉状態から側圧のレベルが徐々に弱められると、各隙間G1〜G7は徐々に広がり、前部キャビティと外気とを連通する経路が開かれる。そのため、前部キャビティと外部とが連通され、さらに前部キャビティと外部とを連通する経路が徐々に広くなっていく。したがって、側圧のレベルが弱められることにより、前部キャビティの密閉性が低くなる。かくして、側圧が弱められて各隙間G1〜G7が広くなるほど遮音性は低下するが、反面、各隙間G1〜G7を通じての通気性が良くなり、イヤパッド3の内外を空気が通り抜けやすく。そのため、発汗等のイヤパッド3内部の温度上昇に伴う不快感を軽減することができる。
【0030】
さらに、本実施形態では、各隙間G1〜G7によって形成される薄い空気層がローパスフィルターの機能を担うことから、前部キャビティの密閉性を低くしていった場合に、高い周波数の遮音性が急激に低下することがない。
【0031】
このように、本実施形態では、ヘッドホン1の側圧を調整することにより、遮音性および前部キャビティの密閉性を調整することが可能となる。したがって、本実施形態によれば、高騒音などで遮音性が必要な場合には側圧を高くして前部キャビティの密閉性を高め、イヤパッド3が外来音で振動しにくいようにし、遮音性を弱めてもよい場合や発汗に伴う不快感を軽減したい場合に側圧を低くするといった使い方を実現できる。さらには、ヘッドホン1の側圧の連続的な調整によって、隙間G1〜G7によって形成される薄い空気層の状態が微調整でき、かかる空気層による音響インピーダンスや遮音性を連続的に可変することが可能となる。したがって、本実施形態によれば、側圧の調整により、ヘッドホン1の周波数応答特性などの音響特性をユーザの好みに応じて変えるといった使い方を実現できる。
【0032】
本実施形態は、中央を基準として径方向に第1パッド部31及び第2パッド部32の2つのパッド部が配置されている2段の構成としている。変形例として、中央を基準として径方向に3つ以上のパッド部が同心円状に配置されてもよい。あるいは、第1パッド部31または第2パッド部32のいずれかが省かれた一段の構成もできる。
【0033】
本実施形態では、第1パッド部31及び第2パッド部32は、それぞれ3つのパッド部材(311〜313及び321〜323)からなる3分割の構成としている。変形例として、第1パッド部31及び第2パッド部32は、それぞれ2つのパッド部材からなる2分割の構成とすることもできる。或いは、第1パッド部31及び第2パッド部32は、それぞれ4つ以上のパッド部材からなる4分割の構成とすることもできる。さらに、第1パッド部31と第2パッド部32との分割数すなわちパッド部材の構成数は相互に異なる構成でもよい。これら各変形例において、第1パッド部31のパッド部材同士で形成される隙間と、第2パッド部32のパッド部材同士で形成される隙間とは、中央を基準とした半径方向において互いに異なる位置にすることが好ましい。隙間の位置がこのように設定されることで、側圧が連続的に弱く調整された場合の遮音性の低下を可及的に緩やかにすることができる。
【0034】
イヤパッド3の各パッド部材は、本実施形態ではスポンジ製である。イヤパッド3は、弾性体であればよく、例えば各パッド部材が中空の構造であってもよい。パッド部材の外皮の素材として、音波を通しにくい材料、例えば塩化ビニールなどの合成樹脂材料、あるいは皮などの材料を用いることができる。
【0035】
(側圧調整機構付きヘッドホン)
次に、図5以下を参照して、上述したイヤパッド3が装着された側圧調整機構付きヘッドホンの構成を説明する。
【0036】
図5に示すヘッドホン1は、一対のイヤパッドでユーザの耳全体を覆うオーバーヘッド型のヘッドホンである。このヘッドホン1は、ハウジング2、バッフル板21、バッフル板21に固定される上述したイヤパッド3、ハウジング2を回動可能に支持するハンガー4、ハンガー4を支持する支持部材5をそれぞれ一対備える。また、ヘッドホン1は、側圧を微調整するためのアジャスタ部7を一対備える。これら各部は、使用者の頭部に掛け渡されるヘッドバンド6の両端側に配置される。
【0037】
上記の一対の各部品は相互に同等の構成であるため、以下は特記しない限り、片方(図5の左側)の構成についてのみ説明する。なお、図5では、ハウジングを支持する部位が幾分模式的に描かれており、信号コードなどの本発明に直接関係しない部分の図示は省略されている。
【0038】
ハウジング2は、カップ状に形成され(図1参照)、音源部となる上述したドライバユニット10を内部に収納する。ハウジング2において、ドライバユニット10からの音声が出力される放音側には、ドライバユニット10及びイヤパッド3が固定されるバッフル板21が設けられている。ハウジング2は、ハンガー4により回転可能に支持されるための軸受孔22が前後に一対形成されている。
【0039】
ハンガー4は、支持部材5に取付けられる基部41と、かかる基部41から二股状に分岐したアーム部42とを有する。例えば、ハウジング2を支持するアーム部42の先端側が「L」字状に屈曲し、かかる先端部がハウジング2の軸受孔22にそれぞれ挿入されることで、アーム部42はハウジング2を図5の矢印AB方向に回転可能に支持する。
【0040】
ヘッドバンド6は、ユーザの頭部に対応したアーチ状ないし円弧状の形状を有する。かかるヘッドバンド6は、板ばね60を主要部材として備える。
【0041】
板ばね60は、使用者の頭部に対応して湾曲する形状とされ、アーチ状の外形を有する弾性体である。以下、板ばね60のユーザの頭部に対峙する面側を内側と称し、その反対面側を外側と称する。図5に示すように、板ばね60の内側の端部は支持部材5と結合される。板ばね60の外側の端部は、後述するアジャスタ部7の固定部材71と結合される。
【0042】
図5は、簡明化のため、ハンガー4の基部41が支持部材5に対して固定された例を示している。他の例として、使用時のヘッドバンド6とユーザの頭部との間隔を調整するため、ハンガー4の基部41が支持部材5に対して相対移動可能な接続構造とすることもできる。
【0043】
本実施形態のヘッドホン1は、装着時に板ばね60により発生する側圧を調整するための側圧調整機構を有する。以下、側圧調整機構について詳述する。
【0044】
ヘッドホン1は、側圧調整機構として、板ばね60の外側に設けられる側圧調整用部材61と、板ばね60と側圧調整用部材61との間に配置されるスペーサ62と、板ばね60に対する側圧調整用部材61の位置を調整するためのアジャスタ部7とを備える。
【0045】
側圧調整用部材61は、板ばね60の両端の距離を調整することにより側圧を微調整するための部材である。側圧調整用部材61は、本実施形態では弾性体であり、この例では板ばねを用いている。以下、かかる板ばねと、ヘッドバンド6の主要部である上述の板ばね60とを区別するため、「側圧調整用部材」を「側圧調整用ばね」とも称する。図6に、ヘッドホン1から取り外した状態の板ばね60と側圧調整用ばね61を並べて示す。図6から分かるように、板ばね60及び側圧調整用ばね61は、どちらもアーチ状に湾曲しているが、側圧調整用ばね61の湾曲度は板ばね60の湾曲度よりも小さい。したがって、側圧調整用ばね61は、ヘッドホン1に取り付けられることにより、板ばね60の両端部間の距離(図6のW0)を大きくする機能、及び、板ばね60の弾性力を弱める機能を有する。
【0046】
側圧調整用ばね61の長尺方向の長さ(図6のL1)は、板ばね60の長尺方向の長さと略同一である。但し、かかる構成に制限されるものではなく、例えば側圧調整用ばね61の方が長い構成、あるいはこの逆の構成とすることもできる。側圧調整用ばね61の上記長さと直交する幅及び厚みも板ばね60と同一であるが、同様に、かかる構成に制限されない。
【0047】
板ばね60と側圧調整用ばね61との間には、スペーサ62が配置される。本実施形態のスペーサ62は、例えば半球状の部材であり、その部材の平面部が板ばね60の外側の面に取り付けられている。スペーサ62は、例えば合成樹脂材であり、板ばね60の外側の面に複数個(この例では9個)接着されて板ばね60に固定されている。図の例ではスペーサ62は9個配置されているが、スペーサ62の配置数は任意である。
【0048】
このように、板ばね60と側圧調整用ばね61との間にスペーサ62が介在することにより、これら各ばね60,61が接触、干渉して異音(ノイズ)を発生するなどの問題を防ぐことができる。また、本実施形態では、スペーサ62の形状を半球状としており、側圧調整用ばね61がスペーサ62の球面に当接するので、後述の側圧調整時において側圧調整用ばね61がスペーサ62に対して滑らかにスライド移動する。
【0049】
かくして、板ばね60の外側にスペーサ62を介して側圧調整用ばね61を配置して各ばね60,61をヘッドホンに一体に取り付けることで、側圧調整用ばね61の弾性力により板ばね60の両端を外側に広げようとする力が働く。すなわち、側圧調整用ばね61が取り付けられていない状態では、板ばね60の両端部間の距離は、図6に示すようにW0である。これに対して、スペーサ62及び側圧調整用ばね61が取り付けられると、板ばね60の両端部間の距離は、側圧調整用ばね61の弾性力によってW1に広げられ、各ばね60,61の弾性力が釣り合った値となる。
【0050】
なお、意匠的観点から、ヘッドバンド6として、各ばね60,61を外装材で覆う構成としてもよい。
【0051】
次に、図7及び図8を参照して、側圧および板ばね60の両端部間の距離(W)を調整するためのアジャスタ部7の構成を説明する。
【0052】
アジャスタ部7は、板ばね60の外側に配置され板ばね60に対する側圧調整用ばね61の位置を調整する位置調整機構である。本実施形態では、アジャスタ部7は、板ばね60に結合される固定部材71と、ユーザにより操作される回転部材72と、側圧調整用ばね61に結合される取付部材73とを有する。
【0053】
固定部材71は、半円柱状すなわち円柱を軸方向に切り欠いた外形を有する。平面視での固定部材71の中央部には、ねじ孔711が形成されている。固定部材71は、平面をなす側面部の上側が板ばね60の外側面に固着され、側面部の下側が上述の支持部材5に固着されている。
【0054】
回転部材72は、ツマミ付きねじの先端にフランジ部を設けた構成となっている。すなわち、回転部材72は、固定部材71のねじ孔711と螺合するねじ溝が形成されたねじ部721を有する。図示のように、ねじ部721の長さは、固定部材71のねじ孔711の長手方向のサイズよりも長い。回転部材72の一端側すなわち下端には、ユーザが回転操作する操作部としてのツマミ722が形成されている。この実施形態において、ツマミ722は平面円形の形状を有し、その側面に溝が設けられている。ツマミ722の他の形状として、例えば平面多角形状としたり、棒状の形状とすることもできる。
【0055】
ツマミ722が回転操作されることによって、ねじ部721は一体に回転する。そのため、かかる構成を有する回転部材72は、固定部材71に対して相対移動する。すなわち、ねじ部721が回転することにより、ねじ部721は該回転方向と直交する方向である上下方向に移動する。
【0056】
回転部材72の他端側すなわち上端部は、後述の取付部材73に相対回転自在に結合される。取付部材73から抜けないようにするため、回転部材72の上端にはフランジ部723が設けられている。かかるフランジ部723は、例えばナットをねじ込んでねじ部721に溶接したり、合成樹脂などのリング状の部材をねじ込んで接着するなどにより、ねじ部721の先端に設けることができる。
【0057】
取付部材73は、図8に示すように、略カップ状であり、その中央に回転部材72のねじ部721が挿入される孔731が形成されている。また、取付部材73は、側圧調整用ばね61の端部611に結合される溝732を備えている。
【0058】
本実施形態では、ツマミ722の時計方向への回転によって、ねじ部721は固定部材71に進入し、取付部材73は上昇する。逆に、ツマミ722の反時計方向への回転によって、取付部材73は下降する。
【0059】
かかる構成のアジャスタ部7でヘッドホンの側圧を調整する場合、以下のような操作が行われる。
【0060】
ヘッドホンの側圧を弱くしたい場合、各ばね60,61との相対関係において、板ばね60の弾性力が弱められる或いは側圧調整用ばね61の弾性力が強められるように側圧調整用ばね61を移動させる方向にツマミ722が回転させられる。
【0061】
具体的には、側圧を弱くしたい場合、ツマミ722は反時計方向に回転させられる。かかる操作により、取付部材73とともに側圧調整用ばね61の端部が下降し、側圧調整用ばね61の変形度が大きくなる。かかる動作により、側圧調整用ばね61の弾性力が相対的に強められ、図5に示す板ばね60の両端部間の距離W1の値が大きくなる。板ばね60の両端部間の距離が大きくなると、一対のハウジング2,2間の距離も大きくなるので、ヘッドホン装着時にイヤパッド3を通じてユーザの頭部にかかる側圧が低くなる。すなわち、ユーザの耳から音源部であるドライバユニット10までの距離も大きくなる。
【0062】
他方、ヘッドホンの側圧を強くしたい場合、各ばね60,61との相対関係において、板ばね60の弾性力が強められる或いは側圧調整用ばね61の弾性力が弱められるように側圧調整用ばね61を移動させる方向にツマミ722が回転させられる。
【0063】
具体的には、側圧を強くしたい場合、ツマミ722は時計方向に回転させられる。かかる操作により、取付部材73とともに側圧調整用ばね61の端部が上昇する。かかる動作により、板ばね60の弾性力が相対的に強められ、図5に示す板ばね60の両端部間の距離W1の値が小さくなる。板ばね60の両端部間の距離が小さくなると、一対のハウジング2,2間の距離も小さくなるので、ヘッドホン装着時にイヤパッド3を通じてユーザの頭部にかかる側圧が高くなる。すなわち、ユーザの耳からドライバユニット10までの距離も小さくなる。
【0064】
このように、本実施形態のヘッドホン1によれば、板ばね60の両端部間ひいてはハウジング2,2間の距離を調整することで、装着時の側圧をユーザが自ら微調整することができる。また、ヘッドホン1は上述したイヤパッド3を備えていることから、装着時の側圧を調整することにより、遮音性および前部キャビティの密閉性を調整することが可能となる。さらには、装着時の側圧の調整により、ヘッドホン1の周波数応答特性などの音響特性をユーザの好みに応じて微調整することも可能になる。
【0065】
なお、上述した図5の例は、アジャスタ部7を左右両側に設ける構成だが、アジャスタ部7が左右のいずれか一方だけに設けられる構成でもよい。
【0066】
本発明のイヤパッド及びヘッドホンは、特許請求の範囲に記載した技術思想を逸脱しない範囲で設計変更可能である。また、本発明の技術思想は、音源部を有しない防音用のイヤーマフにも適用可能である。
【符号の説明】
【0067】
1 ヘッドホン
2 ハウジング
21 バッフル板
10 ドライバユニット(音源部)
3 イヤパッド
30 パッド部
31 第1パッド部
311,312,313 パッド部材
32 第2パッド部
321,322,323 パッド部材
G(G1〜G7)隙間
6 ヘッドバンド
60 板ばね
61 側圧調整用部材
7 アジャスタ部

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8