特許第6651742号(P6651742)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6651742
(24)【登録日】2020年1月27日
(45)【発行日】2020年2月19日
(54)【発明の名称】灌流吸引装置
(51)【国際特許分類】
   A61F 9/007 20060101AFI20200210BHJP
【FI】
   A61F9/007 130B
【請求項の数】2
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-171306(P2015-171306)
(22)【出願日】2015年8月31日
(65)【公開番号】特開2017-46822(P2017-46822A)
(43)【公開日】2017年3月9日
【審査請求日】2018年8月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000135184
【氏名又は名称】株式会社ニデック
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 信雄
【審査官】 石田 智樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−099208(JP,A)
【文献】 特表2010−524527(JP,A)
【文献】 特開2008−006292(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 9/007
A61M 5/168
A61M 1/14
A61M 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着脱可能なカセットが、本体に装着される灌流吸引装置であって、
前記カセットには、
灌流液が流れる流路と、
前記流路の途中に設けられて、陥没形状で形成された陥没部と、
前記流路の周囲、且つ、前記陥没部に隣接して設けられる周辺部と、
前記陥没部と前記周辺部とを覆う、可撓性を有するシール部材と、
前記陥没部と前記シール部材とで形成される、前記灌流液が流れる中空部と、
が含まれ、
前記本体には、
前記シール部材を介して、前記陥没部に対向する第1接触部と、
前記シール部材を介して、前記周辺部に対向する第2接触部と、
前記シール部材に前記第2接触部を押し当てて、前記シール部材を前記周辺部に押し付ける押付機構と、
前記シール部材に前記第1接触部を押し当てて、前記中空部の断面積を減少させる変形機構と、
が含まれ、
前記押付機構と前記変形機構とを同時に駆動する駆動機構を備え、
前記駆動機構は、 前記押付機構を用いて、前記シール部材を前記周辺部に押し付けた後に、前記変形機構を用いて、前記シール部材に前記第1接触部を押し当てる、
ことを特徴とする灌流吸引装置。
【請求項2】
請求項1に記載の灌流吸引装置であって、
前記押付機構は弾性部材を備えるのと共に、前記弾性部材を用いて、前記第2接触部を前記シール部材に弾性的に付勢し、
前記カセットは、複数の前記周辺部を有すると共に、複数の前記周辺部同士は、前記陥没部を介して対向する位置に設けられている、
ことを特徴とする灌流吸引装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、患者眼に灌流液を供給し、これを廃棄組織と共に吸引する灌流吸引装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ピンチ弁により、灌流液経路を開閉する灌流吸引装置が知られている。特許文献1の灌流吸引装置は、装置本体の第1カセット保持ユニットに、白内障手術用カセットが取り付けられる。白内障手術用カセットは、灌流経路用のチューブを含む。灌流経路用のチューブは、チューブ押さえ部材とピンチ弁とで挟み込まれて、灌流が遮断される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−099208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、灌流吸引装置に用いるカセットは、簡素な構成であるほど好ましい。例えば、灌流量を調節する流路箇所にチューブを用いると、カセットの製造が複雑になる可能性がある。また、例えば、カセットに流量調節機構を設けると、カセットが高価になる可能性がある。
【0005】
本開示は、簡素な構成でありながらも、灌流量を好適に調節できる灌流吸引装置を提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は以下のような構成を備えることを特徴とする。
(1) 着脱可能なカセットが、本体に装着される灌流吸引装置であって、前記カセットには、灌流液が流れる流路と、前記流路の途中に設けられて、陥没形状で形成された陥没部と、前記流路の周囲、且つ、前記陥没部に隣接して設けられる周辺部と、前記陥没部と前記周辺部とを覆う、可撓性を有するシール部材と、前記陥没部と前記シール部材とで形成される、前記灌流液が流れる中空部と、が含まれ、前記本体には、前記シール部材を介して、前記陥没部に対向する第1接触部と、前記シール部材を介して、前記周辺部に対向する第2接触部と、前記シール部材に前記第2接触部を押し当てて、前記シール部材を前記周辺部に押し付ける押付機構と、前記シール部材に前記第1接触部を押し当てて、前記中空部の断面積を減少させる変形機構と、が含まれ、前記押付機構と前記変形機構とを同時に駆動する駆動機構を備え、前記駆動機構は、 前記押付機構を用いて、前記シール部材を前記周辺部に押し付けた後に、前記変形機構を用いて、前記シール部材に前記第1接触部を押し当てる、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、簡素な構成でありながらも、灌流量を好適に調節できる灌流吸引装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態の灌流吸引装置の外観略図である。
図2図1の灌流吸引装置の、概略構成図である。
図3】本実施形態の弁部の、外観斜視図である。
図4図3の弁部の、A−A断面図である。
図5】第1移動部材および第2移動部材である。
図6】流路部の説明図である。
図7】流路部の説明図である。
図8】本実施形態の弁部を用いた流量調節を説明するための概略説明図である。
図9】本実施形態の流路部を、移動軸の基端方向からみた概略説明図である。
図10】比較用の流路部を、移動軸の基端方向からみた概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を用いて、本開示における典型的な実施形態を説明する。図1は、本実施形態の灌流吸引装置1の外観略図である。図2は、図1で示した灌流吸引装置1の、概略構成図である。本実施形態の灌流吸引装置1は、一例として、本体10およびカセット20を備えている。
【0010】
<本体>
本実施形態の本体10は、モニタ11、タッチパネル11a、接続パネル15、保持ユニット17、ポール14、アーム14a、インターフェース部、フットスイッチ18、および制御部100(図2参照)を備えている。本実施形態のタッチパネル11aは、術者が各種入力操作を行う。本実施形態の接続パネル15には、複数のコネクタが設けられている。接続パネル15には、一例として、手術用ハンドピース210を制御するためのケーブル230等が接続される。本実施形態のモニタ11には、手術条件の設定画面、および手術結果(手術装置の駆動結果)の一覧表等が表示される。
【0011】
本実施形態の保持ユニット17には、カセット20が装着される。例えば、保持ユニット17には、白内障手術用のカセットが装着される。本実施形態の保持ユニット17には、弁機構73a、弁機構74a、検出部70a、およびポンプ部40が含まれる。例えば、カセット20が保持ユニット17に装着される際に、術者が、保持ユニット17のカバー17aを本体側(図1では紙面右上方向)に押すことで、カセット20が本体10にローディングされてもよい。
【0012】
本実施形態のポール14は、灌流瓶13を支持する。本実施形態の灌流瓶13には、流体が注入されている。詳細には、本実施形態の灌流瓶13には、灌流液LQPが注入されている。本実施形態の灌流液LQPは液体であり、生理食塩水とされている。灌流液LQPとして、例えば、粘性を有する流体を用いてもよい。本実施形態のアーム14aは、灌流瓶13をポール14の上端部で吊り下げる。本実施形態では、制御部100が駆動機構19を制御することで、ポール14が上下移動される。
【0013】
本実施形態のインターフェース部に、情報端末(パーソナルコンピューター等)を接続してもよい。詳細には、インターフェース部から、手術結果等を電子データで外部転送してもよい。例えば、LAN,USBストレージデバイス等を介して、インターフェース部と情報端末とを接続してもよい。本実施形態のフットスイッチ18は、術者が、灌流液LQPの流出量を調節するために用いられる。例えば、術者がフットスイッチ18を踏み込むと、手術用ハンドピース210の穴から、灌流液LQPが流出される。本実施形態のフットスイッチ18を、手術用ハンドピース210の先端部に設けられている可動チップの、超音波振動や吸引動作などに用いてもよい。本実施形態の制御部100は、灌流吸引装置1の各種動作を制御する。
【0014】
<制御部>
図2を併用して、本実施形態の制御部100を説明する。本実施形態の制御部100には、モニタ11、タッチパネル11a、接続パネル15、フットスイッチ18、駆動機構19、インターフェース、メモリ101、弁機構73a、弁機構74a、検出部70a、ポンプ部40のモーター、および手術用ハンドピース210が接続されている。本実施形態では、制御部100と手術用ハンドピース210とが、ケーブル230を用いて接続されている。
【0015】
本実施形態のメモリ101は、記憶手段(記憶部)とされている。本実施形態のメモリ101に、例えば、手術を実行するためのプログラム、および本体10の手術動作で取得された各種手術情報を記憶してもよい。例えば、制御部100を、モニタの表示を制御するための表示制御手段として用いてもよい。例えば、タッチパネル11a等からの入力信号に基ついて、制御部100が、モニタ11の表示状態を変更してもよい。
【0016】
本実施形態の制御部100は、例えば、メモリ101に記憶されている灌流吸引プログラムを読み出して、弁機構73aの駆動を制御するプロセッサとして働く。なお、プロセッサとして、CPU(マイクロプロセッサ)、DSP(デジタル・シグナル・プロセッサ)、PLD(プログラマブル・ロジック・デバイス)等を用いてもよい。また、CPU、DSP、PLDを組み合わせて、プロセッサとしてもよい。プロセッサ(制御部100)が、例えば、灌流吸引プログラムを記憶する記憶手段を有してもよい。
【0017】
<手術用ハンドピース>
本実施形態では、手術用ハンドピース210として、USハンドピース(超音波ハンドピース)を用いている。本実施形態のUSハンドピースは、白内障によって不透明になり硬化した水晶体核を、先端に設けられた破砕用チップの超音波振動により乳化吸引除去する。手術用ハンドピースとして、例えば、I/Aハンドピース220(灌流吸引用ハンドピース)を用いてもよい。
【0018】
本実施形態の手術用ハンドピース210とカセット20の接続部62とは、チューブ5bに接続されている。本実施形態の手術用ハンドピース210とカセット20の接続部63とは、チューブ6aに接続されている。本実施形態のチューブ5bおよびチューブ6aは、柔軟性を有し、且つ、可撓性を有する。本実施形態では、チューブ5bおよびチューブ6aに、シリコンチューブを用いている。
【0019】
<カセット>
本実施形態のカセット20は、筐体20c、接続部61、接続部62、接続部63、接続部64、接続部65、接続部66、流路22、流路24、流路4、流路部73b、流路部74b、圧力変形部70b、チューブ6b、およびバッグ20bを備えている。本実施形態の筐体20cは、樹脂材料を用いた射出成形で形成されている。
【0020】
本実施形態の筐体20cは、2つの部材を合体させて形成している。2つの部材の各々には、陥没形状が形成されている。本実施形態では、2つの部材同士を嵌め合うと、流路22、流路24、接続部61、接続部62、接続部63、接続部64、接続部65、接続部66、および流路4が成形される。つまり、本実施形態のカセット20は、部品点数の増加を抑制している。これにより、例えば、カセット20の組み立てが容易になる。また、シリコンチューブの使用量を抑制することで、カセット20を安価に製造できる。
【0021】
なお、本実施形態の筐体20cには、流路部73b、流路部74b、および圧力変形部70bが嵌め込まれる。本実施形態の流路部73bは、灌流瓶13から手術用ハンドピースまで続く流路8の一部とされている。また、本実施形態の流路部74bは、手術用ハンドピースからバッグ20bまで続く流路9の一部とされている。流路部73bおよび流路部74bの詳細は、後述する。
【0022】
本実施形態のチューブ6bは、接続部64と接続部65を繋ぐ。本実施形態の接続部65には、バッグ20bの口部が接続される。本実施形態のバッグ20bは、ビニール袋とされている(図1参照)。本実施形態の接続部61には、チューブ5aが接続される。本実施形態の接続部62には、チューブ5bが接続される。本実施形態の接続部63には、チューブ6aが接続される。なお、本実施形態の灌流吸引装置1は、患者毎に新品のカセット20を用いる。つまり、本実施形態のカセット20は、ディスポーサブル型とされている。なお、カセット20内の流路を、チューブ(例えばシリコンチューブ)で形成してもよい。
【0023】
<供給手段>
本実施形態の灌流吸引装置1は、灌流液LQPを患者眼Eに供給するための供給手段7を備えている。本実施形態では、供給手段7として、駆動機構19、ポール14、アーム14a、灌流瓶13、チューブ5a、流路22、弁部73、チューブ5b、および手術用ハンドピース210を用いている。
【0024】
本実施形態では、チューブ5a、流路22、弁部73、チューブ5b、および手術用ハンドピース210内の流路(灌流用)により、流路8が形成されている。本実施形態の流路8には、灌流液LQPが流れる。換言するなら、本実施形態の流路8には、灌流瓶13(上流側)から患者眼E(下流側)へと、灌流液LQPが流れる。なお、本実施形態の手術用ハンドピース210には、灌流液LQPを流出するための流出孔が設けられている。
【0025】
本実施形態では、制御部100が駆動機構19を駆動すると、ポール14が上下動される。本実施形態では、ポール14の上下動に伴い、灌流瓶13から流れる灌流液LQPの供給圧が調節される。なお、灌流液LQPに圧力を加える圧力源を用いて、灌流圧を調節してもよい。
【0026】
本実施形態の弁部73は、流路8の途中に設けられている。本実施形態の弁部73は、患者眼Eに供給する灌流液LQPの流量を調節する。なお、本実施形態では、弁部73が行う灌流液LQPの調節に、遮断も含まれる。本実施形態の弁部73は、流路部73bおよび弁機構73aを有する。本実施形態の流路部73bは、カセット20に含まれる。一方で、本実施形態の弁機構73aは、保持ユニット17(本体10)に含まれる。本実施形態の流路部73bには、灌流液LQPが流れる。本実施形態の弁機構73aは、流路部73bを流れる灌流液LQPの流量を調節できる。換言するなら、本体10の弁機構73aは、カセット20を流れる灌流液LQPの流量を調節できる。本実施形態の弁機構73aは、制御部100に接続されている。本実施形態の制御部100は、弁機構73aを制御して、流路部73bを流れる灌流液LQPの流量を調節できる。なお、弁部73については、後ほど詳細に説明する。
【0027】
<吸引手段>
本実施形態の灌流吸引装置1は、患者眼Eから廃液LQWを吸引するための吸引手段を備えている。詳細には、本実施形態の吸引手段は、手術用ハンドピース210の先端に設けられた吸引孔から、廃液LQWを吸引する。なお、本実施形態の廃液LQWに、灌流液LQPが含まれていてもよい。
【0028】
本実施形態の吸引手段は、手術用ハンドピース210、チューブ6a、流路24、チューブ6b、ポンプ部40、およびバッグ20bを備える。本実施形態では、手術用ハンドピース210内の流路(廃液用)、チューブ6a、流路24、およびチューブ6bにより、流路9が形成されている。本実施形態の流路9には、廃液LQWが流れる。換言するなら、本実施形態の流路9には、患者眼E(上流側)からバッグ20b(下流側)へと、廃液LQWが流れる。
【0029】
本実施形態では、流路9の途中に、圧力センサ部70およびポンプ部40が配置されている。本実施形態の圧力センサ部70は、制御部100が流路9の圧力を検出するために用いられる。本実施形態の圧力センサ部70は、圧力変形部70bおよび検出部70aを有する。本実施形態の圧力変形部70bは、カセット20に含まれる。一方で、本実施形態の検出部70aは、保持ユニット17(本体10)に含まれる。本実施形態の圧力変形部70bは、流路9内の圧力が変化すると、圧力変形部70bを形成する筐体の一部が変形する。本実施形態の検出部70aは、圧力変形部70bの変形を検出する。つまり、本実施形態の制御部100は、本体10の検出部70aで、流路9の圧力を検出できる。本実施形態の検出部70aは、制御部100に接続されている。
【0030】
本実施形態では、流路8(灌流液LQPの供給用)と流路9(廃液LQWの吸引用)とが、流路4を介して連通している。本実施形態の流路4は、患者眼Eの内圧の低下を抑制するために用いられる。本実施形態では、流路4の途中に、弁部74が設けられている。本実施形態の弁部74は、流路4を流れる液体(例えば灌流液LQP)の流量を調節できる。
【0031】
本実施形態の弁部74は、流路部74bおよび弁機構74aを有する。本実施形態の流路部74bは、カセット20に含まれる。一方で、本実施形態の弁機構74aは、保持ユニット17(本体10)に含まれる。本実施形態の流路部74bには、流路4を流れる液体(灌流液LQPまたは廃液LQW)が流れる。本実施形態の弁機構74aは、流路部74bを流れる液体の流量を調節できる。換言するなら、本体10の弁機構74aは、カセット20の流路4を流れる液体の流量を調節できる。本実施形態の弁機構74aは、制御部100に接続されている。本実施形態の制御部100は、弁機構74aを制御できる。本実施形態では、弁部73と弁部74とが同じ構造とされている。つまり、本実施形態では弁部73と弁部74とで、同一の部品を用いている。これにより、本実施形態では、カセット20と本体10の少なくともいずれかを、より安価に提供できる。なお、弁部74の詳細な説明については、後ほど詳細に説明する弁部73の箇所を参照されたし。
【0032】
<ポンプ部>
次いで、本実施形態のポンプ部40を説明する。本実施形態のポンプ部40は、廃液LQWを患者眼Eから吸引する。本実施形態では、ポンプ部40として、蠕動型吸引ポンプが用いられている。本実施形態の蠕動型吸引ポンプは、例えば、ペリスタルティック・タイプ・ポンプと呼ばれることがある。
【0033】
本実施形態のポンプ部40は、チューブ6b(弾性部材)を、ポンプ部40のしごき部材でしごいて吸引する。本実施形態のポンプ部40は、回転台、しごき部材、チューブ受け、回転シャフト、およびモーターを備えている。本実施形態の回転台には、4つのしごき部材が設けられている。回転台の中心には、回転シャフトが配置されている。回転シャフトは、モーターに接続されている。モーターは制御部100に接続されている。本実施形態の4つのしごき部材は、回転台の同一円周上に配置されている。本実施形態の4つのしごき部材は、回転シャフトを中心として、90度の角度毎に配置されている。
【0034】
本実施形態では、制御部100がポンプ部40のモーターを駆動すると、回転台が回転される。回転台に設けられたしごき部材は、順次、チューブ6bを押し潰す。つまり、本実施形態では、しごき部材が、流路9を閉塞させながら回転走行する。これにより、チューブ6b内の廃液LQWが移送される。よって、灌流液LQPを含む廃液LQWを、患者眼Eから吸引するための吸引圧が発生する。なお、本実施形態のチューブ6bは、シリコンチューブとされている。
【0035】
<弁部>
図3図10を用いて、本実施形態の弁部73を詳細に説明する。図3は、本実施形態の弁部73を、斜め下方から見た斜視図である。図4は、図3のA−A断面図である。図5は、本実施形態の第1移動部材55と第2移動部材56を説明するための説明図であり、移動軸Lの先端側からみた斜視図である。なお、図5では、説明用として、第1移動部材55と第2移動部材56が重ならないように配置している。図6(a)は、本実施形態の流路部73bを右斜め下方からみた斜視図である。図6(a)は、説明用として、本実施形態の流路部73bを構成するシール部材81とベース部材82とを分離させた状態の斜視図である。図7(a)は、本実施形態の流路部73bを、移動軸Lの基端側からみた図である。図7(b)は、図7(a)のB−B断面図である。図7(c)は、図7(a)のC−C断面図である。図8は、本実施形態の弁部73を用いた流量調節を説明するための概略説明図である。図9は、本実施形態の流路部73bを、移動軸Lの基端側からみた概略説明図である。図10は、比較用の流路部であり、移動軸Lの基端側からみた概略説明図である。
【0036】
本実施形態の弁部73は、弁機構73aおよび流路部73bを有する(図3参照)。本実施形態の流路部73bには、少なくとも流路8の一部が含まれる。本実施形態の流路部73bには、灌流液LQP(流体)が流れる。本実施形態の弁機構73aは、流路部73bを流れる灌流液LQPの流量を調節できる。なお、本実施形態の流路部73bは、カセット20の筐体20cと嵌合して、カセット20の一部となる。つまり、図3は、説明のために、カセット20から流路部73bを取り外した状態である。本体10にカセット20が装着された状態では、弁機構73aと流路部73bとは、図3に示す位置関係とされる。
【0037】
<弁機構>
本実施形態の弁機構73aは、固定ユニット700と移動ユニット600を備える(図3参照)。本実施形態の固定ユニット700は、保持ユニット17(図1参照)の筐体に固定されている。換言するなら、本実施形態の固定ユニット700は、本体10に固定されている。一方で、本実施形態の移動ユニット600は、固定ユニット700に対して変位される。詳細には、本実施形態の移動ユニット600は、移動軸Lに沿って移動する。
【0038】
本実施形態の移動ユニット600には、第1移動部材55、第2移動部材56、第3移動部材54、弾性部材31、弾性部材32、および弾性部材33が含まれる(図4を合わせて参照)。本実施形態の固定ユニット700には、回転板53、モーター51、回転検出部52、および支基34が含まれる。本実施形態の流路部73bには、シール部材81、およびベース部材82が含まれる。
【0039】
本実施形態の弁機構73aは、移動ユニット600を、移動軸Lに沿って移動させる。換言するなら、本実施形態の弁機構73aは、第1移動部材55および第2移動部材56を、移動軸Lに平行な軸に沿って移動させる。本実施形態の第1移動部材55および第2移動部材56は、シール部材81に接触して、灌流液LQPの流量を調節する。詳細には、本実施形態では、第1移動部材55がシール部材81に接触すると共に、第1移動部材55の周囲では、第2移動部材56がシール部材81に接触する。本実施形態では、第1移動部材55がシール部材81に接触した状態(図8(b)参照)から、第1移動部材55が移動軸Lの先端方向に移動(図8(c)参照)した移動量により、灌流液LQPの流量を調節できる。換言するなら、本実施形態の弁部73は、第1移動部材55でシール部材81を変形させると共に、シール部材81の変形量により、流路部73bを流れる灌流液LQPの流量を調節できる。
【0040】
<移動ユニット>
本実施形態の第1移動部材55は、柱形状の部材である。詳細には、本実施形態の第1移動部材55は、円柱形状であり、先端に向かうほど先細る(図5を合わせて参照)。本実施形態では、第1移動部材55の先端(つまり、先細り形状の先端)には、第1接触部55aが配置されている。本実施形態の第1接触部55aは、先端部分が半球形状で形成されている。本実施形態の第1接触部55aの断面形状は、陥没部83の断面形状に対応されている(図6図7(b),図8参照)。本実施形態の第1接触部55aは、シール部材81に接触して、接触したシール部材81の部位を、陥没部83側へと変形させる。これにより、シール部材81と陥没部83の陥没形状とで形成される中空部89(換言するなら隙間)の断面積を減少させる。つまり、本実施形態の陥没部83と第1接触部55aとは、中空部89の断面積を減少させる変形機構とされている。なお、本実施形態では、シール部材81の変形に、弾性部材31も関わる。第1接触部55aの作用については、後ほど、図8を用いて詳細に説明する。
【0041】
本実施形態の第2移動部材56は、筒形状の部材とされている(図4図5を合わせて参照)。詳細には、本実施形態の第2移動部材56は、円筒形状とされている。本実施形態では、円筒形状の内径は、第1移動部材55の外径よりも大きく形成されている。したがって、本実施形態の第1移動部材55は、第2移動部材56の内部を、移動軸Lに沿って移動できる。本実施形態では、第2移動部材56の先端には、第2接触部56aが配置されている(図5参照)。本実施形態の第2接触部56aは、移動軸Lに直交する平面とされている。換言するならば、本実施形態の第2接触部56aの形状は、周辺部82aの形状に対応している。つまり、第2接触部56aの断面形状は、周辺部82aの断面形状に対応している(図5〜8参照)。
【0042】
本実施形態の第2接触部56aは、シール部材81に接触して、接触したシール部材81の部位を周辺部82aに押し付ける。これにより、本実施形態の第2接触部56aは、シール部材81と周辺部82aとの間の隙間を低減すると共に、シール部材81の劣化を抑制できる。換言するなら、本実施形態の第2接触部56aは、シール部材81を周辺部82aに押し付ける押付機構とされている。なお、本実施形態では、第2接触部56aがシール部材81を周辺部82aに押し付ける際には、弾性部材32も関わる。なお、本実施形態では、第1接触部55aがシール部材81を押した際には、周辺部82aと第2接触部56aとで挟み込まれたシール部材81の領域は、移動軸Lに直交する方向に変形可能とされている。第2接触部56aの作用については、後ほど、図8を用いて詳細に説明する。
【0043】
引き続き、移動ユニット600について説明する。本実施形態の第3移動部材54(図4参照)は、第1移動部材55および第2移動部材56を、移動軸Lと平行な方向に移動できる。換言するなら、本実施形態の第3移動部材54は、第2接触部56aと第1接触部55aとを同時に駆動(移動)させる駆動機構(移動機構)とされている。本実施形態の第3移動部材54は、弾性部材32および弾性部材33を介して、第1接触部55aおよび第2接触部56aを、移動軸Lの先端方向に移動できる。本実施形態の移動機構は、第2接触部56aおよび第1接触部55aを、第2接触部56a、第1接触部55aの順でシール部材81に接触させることができる。換言するなら、本実施形態の移動機構は、第2接触部56aでシール部材81を周辺部82aに押し付けた後に、シール部材81に第1接触部55aを押し付ける(後ほど、図8を用いて詳細に説明する)。
【0044】
本実施形態の第3移動部材54は、第1ガイド部54aと第2ガイド部54bを備える(図4参照)。本実施形態の第1ガイド部54aおよび第2ガイド部54bは、第3移動部材54を移動軸Lの基端方向に陥没させて形成されている。本実施形態では、第1移動部材55の移動は、第1ガイド部によりガイドされる。本実施形態の移動ユニット600を、移動軸Lの先端側からみると、移動軸L上に第1移動部材55が配置されている。本実施形態では、第2移動部材56の移動は、第2ガイド部54bによりガイドされる。本実施形態の移動ユニット600を、移動軸Lの先端側からみると、第1移動部材55の周囲に第2移動部材56が配置されている。
【0045】
本実施形態の第1移動部材55の、移動軸Lの先端方向への移動は、第1規制機構で規制されている。本実施形態の第1規制機構は、第1移動部材55に設けられているロックピン55bと、第3移動部材54に形成されている溝とを含む。本実施形態では、第3移動部材54に形成された溝の端部にロックピン55bが接触されることで、移動軸Lの先端方向への第1移動部材55の移動が規制されている。一方で、本実施形態では、移動軸Lの基端方向への第1移動部材55の移動は、弾性部材33で規制されている。詳細には、第1移動部材55の基端と、第3移動部材54の壁との間に、弾性部材33が配置されている(図4参照)。本実施形態では、弾性部材33を用いることで、第1移動部材55と陥没部83との距離を、容易に設定できる。詳細には、例えば、弾性部材33の弾性力を用いて、第1移動部材55が、シール部材81を押し潰してしまう事象を抑制できる。また、弾性部材33の弾性力を用いて、第1移動部材55の押付け量が不足する事象を低減できる。また、例えば、灌流吸引装置1の組み立て時に、カセット20と保持ユニット17との位置合わせ精度を緩和できる。本実施形態では、弾性部材33として、バネを用いているが、他の弾性部材(ゴム等)を使用してもよい。
【0046】
本実施形態では、移動軸Lの先端方向への第2移動部材56の移動は、第2規制機構で規制されている。第2規制機構は、第2移動部材56に設けられている突起56bと、第3移動部材54が有する突起54cとを含む。本実施形態では、突起56bが突起54cに接触して、移動軸Lの先端方向への第1移動部材55の移動を規制する。一方で、本実施形態では、移動軸Lの基端方向への第2移動部材56の移動は、弾性部材32で規制されている。詳細には、第2移動部材56の基端と、第3移動部材54の壁との間に、弾性部材32が配置されている(図4参照)。詳細には、例えば、弾性部材33の弾性力を用いて、第2移動部材56が、シール部材81を押し潰してしまう事象を抑制できる。また、弾性部材33の弾性力を用いて、第1移動部材55の押付け量が不足する事象を低減できる。また、例えば、灌流吸引装置1の組み立て時に、カセット20と保持ユニット17との位置合わせ精度を緩和できる。本実施形態では、弾性部材32として、バネを用いているが、他の弾性部材(ゴム等)を使用してもよい。
【0047】
本実施形態では、弾性部材(弾性部材32または弾性部材33)を用いることで、第1移動部材55と第2移動部材56との位置精度(移動軸L方向)が緩和されている。つまり、弾性部材が変形されることで、第1移動部材55と第2移動部材56との位置精度が緩和されている。なお、灌流吸引装置1が、弾性部材32および弾性部材33を備えなくてもよい。また、灌流吸引装置1が、弾性部材32と弾性部材33のいずれか一方を備えなくてもよい。また、カセット20側に弾性部材(弾性部材32または弾性部材33)を配置してもよい。
【0048】
以上説明したように、本実施形態の第1ガイド部54aは、第1移動部材55を支持する。また、移動軸Lの先端方向への第1移動部材55の移動は、第1規制機構で規制されている。また、移動軸Lの先端方向への第1移動部材55の移動は、弾性部材33で規制されている。また、本実施形態の弾性部材33は、移動軸Lの先端方向へと、第1移動部材55に対して弾性的に付勢している。
【0049】
また、本実施形態の第2ガイド部54bは、第2移動部材56を支持する。また、移動軸Lの先端方向への第2移動部材56の移動は、第2規制機構で規制されている。また、移動軸Lの先端方向への第2移動部材56の移動は、弾性部材32で規制されている。また、本実施形態の弾性部材32は、移動軸Lの先端方向へと、第2移動部材56に対して弾性的に付勢している。
【0050】
<固定ユニット>
次いで、本実施形態の固定ユニット700について説明する。本実施形態の回転板53は、運動変換手段である。詳細には、本実施形態の回転板53は、モーター51で発生された回転運動を、移動軸Lと平行な方向への直進運動に変換する。これにより、モーター51が生み出す動力で、移動軸Lに平行な方向へと移動ユニット600を移動できる。なお、本実施形態の回転板53は、円板形状であり、モーター51の軸は回転板53に接続されている。本実施形態では、回転板53の回転軸が偏芯されている。
【0051】
本実施形態のモーター51は、動力源とされている。詳細には、本実施形態のモーター51は、移動ユニット600を移動するための動力源として用いられている。本実施形態では、モーター51として、ステッピングモーターが用いられている。本実施形態の制御部100は、モーター51の軸の回転速度、回転角度、および回転量を調節できる。なお、モーター51の種類は、適宜選択すればよい。例えば、モーター51に、DCモーターを用いてもよい。
【0052】
本実施形態の回転検出部52は、モーター51の軸の回転を検出できる。本実施形態の回転検出部52は、制御部100に接続されている。例えば、モーター51の軸が正常に回転されているか否かを、回転検出部52が検出してもよい。また、弁機構73aが、回転検出部52を備えなくてもよい。
【0053】
本実施形態のモーター51には、支基34が接続されている。本実施形態の支基34は、第3ガイド部34aを備える。本実施形態の第3ガイド部34aは、移動軸Lに沿った第3移動部材54の移動をガイドできる。本実施形態の第3ガイド部34aは、中空形状とされている。本実施形態の第3ガイド部34aの形状は、移動ユニット600の形状に対応されている。
【0054】
本実施形態の第3移動部材54の基端には、突起54dが設けられている。本実施形態では、支基34と突起54dとの間に、弾性部材31が配置されている(図3,4参照)。本実施形態では、弾性部材32として、バネを用いている。本実施形態の弾性部材32は、回転板53の開展により移動軸Lの先端方向に移動された移動ユニット600を、移動軸Lの基端方向に移動できる(戻す)。換言するなら、本実施形態の弾性部材31は、第3移動部材54を、移動軸Lの基端方向へと弾性的に付勢している。
【0055】
<流路部>
次いで、本実施形態の流路部73bを説明する。本実施形態の流路部73bは、シール部材81とベース部材82を含む(図6参照)。本実施形態のシール部材81は、可撓性を有している。本実施形態のシール部材81は、シリコンで形成されている。例えば、シール部材81の材料として、他の軟性材料(例えばゴム)を用いてもよい。本実施形態のベース部材82は、樹脂で形成されている。例えば、筐体20cおよびベース部材82を一体成形してもよい。例えば、シール部材81の材料として、他の材料(例えば、金属)を用いてもよい。例えば、シール部材81とベース部材82とが共に、可撓性を有していてもよい。
【0056】
本実施形態のベース部材82は、陥没部83、周辺部82a、嵌合部84b、および穴部86を含む(図6図7参照)。本実施形態の陥没部83は、周辺部82aに対して陥没されている。換言するなら、本実施形態の陥没部83は、周辺部82aに対して、第1接触部55aから遠ざかる方向に陥没されている。更に換言するなら、本実施形態の陥没部83は、溝形状とされている。本実施形態の周辺部82aは、陥没部83に隣接して設けられている。本実施形態のベース部材82は、複数の周辺部82aを備えている。本実施形態では、複数の周辺部82aは、陥没部83を介して対向する位置に設けられている(図7(b)など参照)。なお、ベース部材82が周辺部82aを1つだけ備えてもよい。なお、本実施形態の陥没部83は、直線形状の溝により形成されている。しかし、例えば、湾曲形状の溝で陥没部83が形成されていてもよい。灌流液LQPの進行方向に対して直交する平面内に、陥没部83と周辺部82aが配置されていればよい(図7(b)参照)。
【0057】
本実施形態の陥没部83には、穴部86が接続されている(図7(b)参照)。本実施形態では、一対の穴部86が陥没部83に接続されている。これにより、一対の穴部86同士が陥没部83を介して連通されている。本実施形態では、流路部73bを筐体20cに嵌合すると、穴部86の開口部はカセット20の流路22に接続される。これにより、灌流液LQPが流路部73bを流れる。
【0058】
本実施形態の陥没部83および周辺部82aは、シール部材81に覆われている。本実施形態のシール部材81とベース部材82とは、嵌合部84で嵌合されている。換言するなら、本実施形態のシール部材81は、ベース部材82に係止されている。本実施形態では、シール部材81とベース部材82が嵌合されると、シール部材81と周辺部82aが密接される。また、本実施形態では、シール部材81とベース部材82が嵌合されると、陥没部83とシール部材81の間に中空部89が形成される(図7(b)参照)。本実施形態では、灌流LPQが中空部89を流れる。なお、シール部材81とベース部材82の形状は、または中空部89の形状は、本実施形態の形状に限るものではない。
【0059】
<弁部の動作>
図8〜10を用いて、本実施形態の弁部73の動作を説明する。なお、本実施形態では、制御部100がモーター51を駆動することで、移動ユニット600と流路部73bの距離が変化される。以降で説明する初期状態とは、移動ユニット600が流路部73bから最も遠ざかった状態である。以降で説明する閉状態とは、移動ユニット600が流路部73bに最も近づいた状態である。以降で説明する開状態では、移動ユニット600の位置は、初期状態のときと閉状態のときの間に位置する。
【0060】
<初期状態>
図8(a)は、本実施形態の弁部73の初期状態である。本実施形態における初期状態とは、例えば、術者が、保持ユニット17に、カセット20を装着した直後の状態である。初期状態では、第1接触部55aおよび第2接触部56aが、シール部材81から離間している。
【0061】
<開状態>
図8(b)は、本実施形態の弁部73の開状態である。本実施形態における開状態とは、弁が開かれた状態とされている。換言するなら、開状態とは、灌流液LQPが流路部73bを流れる状態とされている。本実施形態の開状態は、例えば、灌流瓶13に注入されている灌流液LQPを、患者眼Eに供給する際に用いられる。なお、本実施形態の開状態とは、移動ユニット600が初期状態の位置から前進した状態とされている。
【0062】
本実施形態の開状態では、第2接触部56aが、シール部材81を周辺部82aに押し付けている。これにより、例えば、周辺部82aとシール部材81の間に、隙間が形成され難い。換言するなら、灌流液LQPが、周辺部82aを流れ難い。一方で、本実施形態の開状態では、陥没部83とシール部材81の間に、中空部89(大きな隙間)が形成されている。本実施形態の開状態では、灌流液LQPが中空部89を流れ易い。このようにして、本実施形態の開状態では、弁部73に流路8の一部(中空部89)が形成されている。なお、本実施形態の第2移動部材56は、弾性部材32により弾性的に付勢されている。したがって、例えば、シール部材81への第2接触部56aの押し当て量に、厳密さを要し難い。例えば、灌流吸引装置1を組み立て易い。
【0063】
<閉状態>
図8(c)は、本実施形態の弁部73の閉状態である。本実施形態における閉状態とは、弁が閉じた状態とされている。換言するなら、本実施形態の閉状態とは、灌流液LQPが流路部73bを流れ難い状態とされている。本実施形態の閉状態は、例えば、患者眼Eに供給している灌流液LQPを、遮断する際に用いられる。本実施形態の閉状態を、灌流吸引装置1のスタンバイ状態としてもよい。例えば、閉状態にて術者がフットスイッチ18を踏み込むと、弁部73が、開状態になってもよい。本実施形態の閉状態では、移動ユニット600は、開状態の位置から前進されている。換言するなら、閉状態では、第3移動部材54が、開状態の位置よりもベース部材82に近づいた状態とされている。
【0064】
本実施形態の閉状態では、第2接触部56aと第1接触部55aがシール部材81に接触されている。詳細には、開状態と同様に、本実施形態の閉状態では、第2接触部56aが、シール部材81を周辺部82aに押し付けている。また、本実施形態の閉状態では、第1接触部55aが、シール部材81を陥没部83側に押し付けている。本実施形態では、第1接触部55aで押し付けられたシール部材81は、陥没部83側に変形されている。本実施形態では、第1接触部55aが、シール部材81を押し付けることで、陥没部83の表面とシール部材81が接触されている。本実施形態の閉状態では、周辺部82aとシール部材81の間に、隙間が形成され難い。また、本実施形態の閉状態では、陥没部83とシール部材81の間にも、隙間(中空部89)が形成され難い。よって、本実施形態の閉状態では、灌流液LQPが流路部73bを流れ難い。
【0065】
なお、本実施形態の弁部73は、図7(c)で示すように、流路8が矩形状で形成されている。しかし、流路8の形状は、これに限るものではない。一例として、弁部73に形成される流路8が、方端(上流側)から他端(下流側)まで直線状に形成されていてもよい。また、例えば、方端(上流側)から他端(下流側)まで、流路8が緩やかな湾曲形状で形成されていてもよい。本実施形態の弁部73は、開状態の際に、灌流液LQPを直線的に流すことができる。つまり、本実施形態の弁部73は、灌流液LQPを迂回させなくても開状態と閉状態を作り出せる。よって、本実施形態の弁部73は、灌流液LQPの供給応答性(負荷応答性)を良好にできる。したがって、流路8がより直線状に形成されるほど、灌流液LQPの供給応答性をより向上できる。
【0066】
なお、本実施形態の第2移動部材56は、弾性部材32によって弾性的に付勢されている。本実施形態では、弾性部材32が縮むことで、第1接触部55aはシール部材81に接触できる。つまり、本実施形態では、弾性部材32を用いることで、第1移動部材55と第2移動部材56との位置精度(移動軸L方向)が緩和されている。また、本実施形態の第1移動部材55は、弾性部材33によって弾性的に付勢されている。よって、例えば、シール部材81への第1接触部55aの押し当て量に、厳密さを要し難い。例えば、灌流吸引装置1を組み立て易い。
【0067】
<シール部材の変形>
次いで、図9図10を用いて、シール部材81の変形を説明する。なお、図9図10は、簡略図である。図9(a)にて、ハッチングで示す領域S1は、第1接触部55aをシール部材81に投影した領域である。図9(a)にて、ハッチングで示す領域S2は、第2接触部56aをシール部材81に投影した領域である。枠Uで示す破線は、陥没部83の陥没開始位置(エッジ部分)である。
【0068】
第1接触部55aがシール部材81を押すと、シール部材81に変形が発生される。本実施形態では、移動軸Lの位置を中心として、シール部材81に張力が発生する。シール部材81の変形量は、移動軸Lに近い部位ほど大きくなる。図9(b)は、閉状態(図8(c)参照)における、シール部材81の張力分布を示す概略図である。図9(b)中の矢印の長さは、各部位におけるシール部材81の張力(換言するなら変形量)を表す。閉状態では、陥没部83の陥没形状内に第1接触部55aが入り込んでゆくため、シール部材81の各部位が、移動軸Lに向かって引っ張られてゆく。張力(変形量)は、移動軸Lに近い部位ほど大きくなる。換言するなら、張力(変形量)は、第1接触部55aとの接触領域に近い部位ほど大きくなる。
【0069】
図10は、比較用の流路部の図である。図9と同じ符号の箇所の説明は省略する。図10(a)でハッチングした領域Mは、周辺部82aとシール部材81とを接着した箇所である。換言するなら、比較用の流路部では、シール部材81は、領域Mの箇所で、周辺部82cに固定されている。領域Mは、周辺部82cであり、且つ、陥没部83との略境界に位置している。
【0070】
図10(b)は、シール部材81に第1接触部55aを押し付けた状態での、シール部材81の張力分布を示す図である。本実施形態(図9)と同様に、シール部材81は、移動軸Lに向かって引っ張られる。しかし、シール部材81は、領域Mの箇所で周辺部82cに接着されているため、枠Uの外側からは引き込まれない。例えば、図10(c)において領域Nで示す箇所は、シール部材81に強い張力が発生し易いと考えられる箇所である。本実施形態では、例えば、領域Nで示した箇所での強い張力を抑制して、シール部材81の劣化を抑制する。例えば、弁部73の開平動作を繰り返すと、シール部材81の変形が繰り返されて、シール部材81の劣化が進む。このとき、陥没部83を形成する溝のエッジ部分(図8(c)の符号K箇所を参照)では、ベース部材82の表面形状が大きく変化する。したがって、溝のエッジ部分と接触するシール部材81の箇所には、強い張力が生じ易い。よって、溝のエッジ部分と接触するシール部材81の箇所は、シール部材81の劣化の進行が早い。本実施形態では、陥没部83の周辺で、シール部材81を周辺部82aに押し付けており、シール部材81にかかる張力を分散し易い。換言するなら、本実施形態では、シール部材81の特定の領域に掛かる張力の集中を抑制している。したがって、本実施形態では、弁部73が開閉動作を繰り返しても、シール部材81の劣化が生じ難い。
【0071】
なお、本実施形態では、第2接触部56aをシール部材81に押し付けた後に、第1接触部55aをシール部材81に押し付けて、灌流液LQPの流量を調節する。しかし、この順番が逆であってもよい。また、灌流吸引装置1が、本実施形態の押付機構と変形機構のいずれか一方のみを備えてもよい。例えば、本実施形態として例示した、弾性部材33を用いた変形機構により、組立精度を緩和できる。また、部品の加工精度を緩和できる。よって、灌流吸引装置の組み立てを簡易化できる。なお、本実施形態では、第1移動部材55および第2移動部材56を、モーター51を用いて移動させている。しかし、複数の動力源(アクチュエータ)を用いて、第1移動部材55と第2移動部材56とを各々独立して移動させてもよい。
【0072】
なお、本実施形態の弁部73は流路8の開閉を行うが、弁部73で中間流量(一例として、開状態に流れる流量の50&)に調節してもよい。弁部73で、灌流液LQP(流体)の流量を変化できればよい。また、シール部材81の面積を、ベース部材の面積よりも大きくしてもよい。これにより、シール部材81を、弁部73と、弁部73以外のカセット20の部位とで共用してもよい。例えば、シール部材が、弁部73内部の流路の形成に寄与すると共に、弁部73以外の箇所(カセット20内部)の流路の形成に寄与してもよい。例えば、ベース部材82を筐体20cに嵌め込んだ後に、筐体20cに形成されている溝(流路用)およびベース部材82に形成されている溝(流路用)を、シール部材で同時に覆ってもよい。つまり、シール部材をベース部材82側と筐体20c側とで共用してもよい。これによって、カセット20の製造を、より簡素化できる可能性がある。
【0073】
なお、周辺部82c、陥没部83、第1接触部55a、第2接触部56a、シール部材81等の形状を、適宜変形してもよい。第2接触部56aにより、シール部材81を周辺部82cに押し付けることで、シール部材81と周辺部82cとの間に隙間(中空部)が生じ難くなればよい。また、第1接触部55aを用いて、シール部材81を陥没部83側に押し付けることで、シール部材81と陥没部83との間の隙間(中空部)を、減少できればよい。また、第2接触部56aがシール部材81を周辺部82cに押し付けた状態で、第1接触部55aがシール部材81を陥没部83側へ変形させた際に、周辺部82cと面するシール部材81の部位が、陥没部83の方向に変形(変位または伸縮)できればよい。
【0074】
<作用および効果>
本実施形態の灌流吸引装置1は、着脱可能なカセット20が、本体10に装着される灌流吸引装置1であって、カセット20には、灌流液LQPが流れる流路8と、流路8の途中に設けられて、陥没形状で形成された陥没部83と、流路8の周囲、且つ、陥没部83に隣接して設けられる周辺部82aと、陥没部83と周辺部82aとを覆う、可撓性を有するシール部材81と、陥没部83とシール部材81とで形成される、灌流液LQPが流れる中空部89と、が含まれる。そして、本体10には、シール部材81を介して、陥没部83に対向する第1接触部55aと、シール部材81を介して、周辺部82aに対向する第2接触部56aと、シール部材81に第2接触部56aを押し当てて、シール部材81を周辺部82aに押し付ける押付機構と、シール部材81に第1接触部55aを押し当てて、中空部89の断面積を減少させる変形機構と、が含まれている。
【0075】
これによって、例えば、カセット20を簡素な構成にできる。例えば、チューブを用いずに、灌流液LQPの流量を調節できる。これによって、カセット20の組み立てが容易になる。詳細には、例えば、柱状の部材で形成された流路にチューブの端部を接続する作業は、手間が発生し易い。本実施形態では、流路の一部を形成する溝を、シール部材で覆うだけで、カセット20内部に流路を形成できる。例えば、部品点数の増加を抑制できると共に、チューブを部材に差し込む作業時間を減少できる。また、例えば、押付機構によって、シール部材81に掛かる張力を分散できる。これによって、シール部材81の劣化を低減できる。
【0076】
また、本実施形態の灌流吸引装置1の押付機構は、弾性部材32を備えるのと共に、弾性部材32を用いて、シール部材81に第2接触部56aを弾性的に付勢する。これによって、押付機構を容易に製造できる。例えば、押付機構を構成する部品の精度を緩和できる。また、例えば、押付機構の組み立て精度を緩和できる。これにより、灌流吸引装置1を安価に提供できる。また、弁部73での流路8の開閉において、故障(流量の調節不良等)し難い。例えば、第2接触部56aがシール部材81を押し付け過ぎて、カセット20が破損してしまう事象を抑制できる。
【0077】
また、本実施形態の灌流吸引装置1のカセット20は、複数の周辺部82aを有すると共に、複数の周辺部82a同士は、陥没部83を介して対向する位置に設けられている。換言するなら、複数の周辺部82a同士は、流路8に直交する面上、且つ、陥没部83を介して対向する位置に設けられている(図7(b)参照)。これによって、シール部材81に第1接触部55aを押し付けた際に、流路8に直交する方向では、シール部材81は対照的に変形される。シール部材81が非対称的に変形される場合に対して、シール部材81に掛かる張力をより分散できる。よって、シール部材81の劣化を、より低減できる。例えば、シール部材81の変形負担を、分散できる。
【0078】
また、本実施形態の灌流吸引装置1は、押付機構と変形機構とを同時に駆動する駆動機構を備える。これによって、灌流吸引装置1の構成を簡素化できる。例えば、モーターの数を減らせる。また、例えば、制御回路を簡素化できる。これにより、灌流吸引装置1を安価に提供できる。
【0079】
また、本実施形態の灌流吸引装置1の駆動機構は、押付機構を用いて、シール部材81を周辺部82aに押し付けた後に、変形機構を用いて、シール部材81に第1接触部55aを押し当てる。これにより、灌流液LQPの流量を好適に調節できる。例えば、流量を調節する際に、シール部材81が意図せぬ変形をし難い。よって、流路8を流れる流量を、弁部73で好適に調節できる。
【0080】
また、本実施形態の灌流吸引装置1の変形機構は、弾性部材33を備えるのと共に、弾性部材33を用いて、シール部材81に第1接触部55aを弾性的に付勢する。これによって、変形機構を容易に製造できる。例えば、変形機構を構成する部品の精度を緩和できる。また、例えば、変形機構の組み立て精度を緩和できる。これにより、灌流吸引装置1を安価に提供できる。
【0081】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲及びこれと均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0082】
1 :灌流吸引装置
8 :流路
55a :第1接触部
56a :第2接触部
83 :陥没部
81 :シール部材
89 :中空部
LQP :灌流液
図1
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