(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
心筋トロポニンIは心筋梗塞の診断に利用されているが、心筋トロポニンIの測定値は、血液試料の種類によって異なる値を示すことがある。例えば、血清を血液試料として用いた場合の心筋トロポニンIの測定値、及び血漿を血液試料として用いた場合の心筋トロポニンIの測定値は必ずしも同一の値を示さないことが知られている。また医療の現場では、種々の抗凝固剤(例、ヘパリン、EDTA、クエン酸)を含む採血管が血漿の調製に利用されているが、血漿中の心筋トロポニンIの測定値は、血漿の調製に用いた抗凝固剤の種類によって異なる値を示すことがある。したがって、心筋トロポニンI量を測定する心筋梗塞の診断においては、心筋トロポニンIのカットオフ値として血液試料の種類によらない一定の値を採用し難い場合があるという課題がある。
【0007】
また、急性心筋梗塞に対する処置を早期に行うことは生命予後の改善に重要であることから、急性心筋梗塞の診断には迅速性が要求される。したがって、急性心筋梗塞の診断には、血餅の凝集反応及び血餅の除去という時間を消費する処理を要する血清よりも、かかる処理を要しない血漿が汎用されている。しかし、上述したとおり、血漿の調製に用いた抗凝固剤の種類によって心筋トロポニンIの測定値は異なる値を示すことがある。したがって、心筋トロポニンI量を測定する心筋梗塞の診断においては、血漿の調製に用いるべき抗凝固剤の種類、ひいては採血管の種類が指定されているのが通常である。しかしながら、心筋トロポニンI量を採血管の種類によらず一定の値として測定できれば、採血管の種類の指定が不要になる点で汎用性に優れる上、指定外の採血管の誤用といった不注意に伴う問題も回避できることから、望ましい。したがって、血漿の調製に用いるべき採血管の種類によらず、心筋トロポニンI量を一定の値として測定できる方法の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、ポリアニオン性高分子の存在下で心筋トロポニンI量を測定することにより、各種試料間における心筋トロポニンI量の測定値の乖離を抑制できること、ひいては上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[11]を提供する。
[1]心筋トロポニンIに対する抗体、及びポリアニオン性高分子を含む、心筋トロポニンI測定試薬。
[2]ポリアニオン性高分子が、スルフェート基、スルホナート基、及びカルボキシラート基からなる群より選ばれる基を含む、[1]記載の試薬。
[3]前記試薬が、前記抗体及び前記高分子を含有する溶液を含む、[1]又は[2]記載の試薬。
[4]前記溶液中の前記高分子の濃度が0.06mg/mL以上85mg/mL以下である、[3]記載の試薬。
[5]前記抗体が固相化抗体である、[1]〜[4]のいずれか一つに記載の試薬。
[6]心筋トロポニンIに対する別の抗体を更に含む、[1]〜[5]のいずれか一つに記載の試薬。
[7]前記別の抗体が標識化抗体である、[6]記載の試薬。
[8]ポリアニオン性高分子の存在下において、心筋トロポニンIに対する抗体を用いて血液試料中の心筋トロポニンI量を測定することを含む、心筋トロポニンIの測定方法。
[9]血液試料が血漿である、[8]記載の方法。
[10]以下(1)〜(3)を含む方法である、[8]又は[9]記載の方法:
(1)心筋トロポニンIに対する抗体、ポリアニオン性高分子、及び血液試料の混合液を調製すること;
(2)混合液をインキュベートすること;及び
(3)混合液において心筋トロポニンI量を測定すること。
[11]前記混合液における前記高分子の濃度が0.05mg/mL以上5.0mg/mL以下である、[10]記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、各種試料間における心筋トロポニンI量の測定値の乖離を抑制できる。したがって、本発明には、心筋トロポニンI量を測定する心筋梗塞の診断において、心筋トロポニンIのカットオフ値として血液試料の種類によらない一定の値を採用し易いという利点がある。また、本発明には、血漿の調製に用いるべき採血管の種類によらず、心筋トロポニンI量を一定の値として測定できるという利点がある。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<1.本発明の試薬>
本発明は、心筋トロポニンIに対する抗体、及びポリアニオン性高分子を含む、心筋トロポニンI測定試薬を提供する。
【0013】
本発明の試薬で測定される心筋トロポニンI(cTnI)は、心筋収縮の調節に関与する心筋トロポニン複合体を構成する3種のサブユニット(トロポニンI、C及びT)の一つである。本発明で測定される心筋トロポニンIは、任意の動物由来の心筋トロポニンIであるが、好ましくは、哺乳動物(例、ヒト、サル、チンパンジー等の霊長類;マウス、ラット、ウサギ等の齧歯類;イヌ、ネコ等の愛玩動物;ブタ、ウシ等の家畜;ウマ、ヒツジ等の使役動物)由来の心筋トロポニンIであり、より好ましくは霊長類由来の心筋トロポニンIであり、特に好ましくは、ヒト由来の心筋トロポニンIである。ヒト由来の心筋トロポニンIのアミノ酸配列については、例えばGenBank:CAA62301.1を参照のこと。勿論、ヒト由来の心筋トロポニンIは、上記番号で参照されるアミノ酸配列からなるものに限定されず、その変異体(例、天然に生じる変異体)であってもよい。また、本発明で測定される心筋トロポニンIは、遊離型、トロポニンC及び/又はトロポニンTとの複合体の形態、及び自己抗体などの他の分子との複合体の形態のいずれであってもよい。
【0014】
本発明の試薬に含まれる心筋トロポニンIに対する抗体は、心筋トロポニンIのアミノ酸配列の少なくとも一部をエピトープとして認識する抗体である。心筋トロポニンIに対する抗体により認識されるエピトープとしては、特異的エピトープを始めとして種々のものが知られている(例、Filatov vl et al.,Biochem.Mol.Biol.Int.1998,45(6):1179−1187;国際公開第2012/115221号)。したがって、心筋トロポニンIに対する抗体は、特に限定されず、このような種々のエピトープを認識する抗体であってもよいが、好ましくは、心筋トロポニンIに対する抗体を用いた心筋トロポニンIの臨床検査で汎用されているエピトープであってもよい。このようなエピトープとしては、ヒト由来の心筋トロポニンIのアミノ酸配列において、例えば、20番目〜60番目のアミノ酸残基からなるペプチド部分中に見出されるエピトープ(例、24〜40番目、又は41〜49番目のアミノ酸残基からなるペプチド)、61番目〜120番目のアミノ酸残基からなるペプチド部分中に見出されるエピトープ(例、86〜90番目のアミノ酸残基からなるペプチド)、130番目〜150番目のアミノ酸残基からなるペプチド部分中に見出されるエピトープ、及び160番目〜209番目のアミノ酸残基からなるペプチド部分中に見出されるエピトープが挙げられる。好ましくは、心筋トロポニンIに対する抗体は、心筋トロポニンI特異的エピトープ(特に、ヒト心筋トロポニンI特異的エピトープ)を認識する抗体である。
【0015】
心筋トロポニンIに対する抗体は、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体のいずれであってもよい。心筋トロポニンIに対する抗体は、免疫グロブリン(例、IgG、IgM、IgA、IgD、IgE、IgY)のいずれのアイソタイプであってもよい。心筋トロポニンIに対する抗体はまた、全長抗体であってもよい。全長抗体とは、可変領域および定常領域を各々含む重鎖および軽鎖を含む抗体(例、2つのFab部分およびFc部分を含む抗体)をいう。心筋トロポニンIに対する抗体はまた、このような全長抗体に由来する抗体断片であってもよい。抗体断片は、全長抗体の一部であり、例えば、定常領域欠失抗体(例、F(ab’)
2、Fab’、Fab、Fv)が挙げられる。心筋トロポニンIに対する抗体はまた、単鎖抗体等の改変抗体であってもよい。
【0016】
心筋トロポニンIに対する抗体は、従前公知の方法を用いて作製することができる。例えば、心筋トロポニンIに対する抗体は、上記のエピトープを抗原として用いて作製することができる。また、上述したようなエピトープを認識する心筋トロポニンIに対する多数の抗体が市販されているので、このような市販品を使用することもできる。
【0017】
心筋トロポニンIに対する抗体は、固相に固相化されていてもよい。本明細書において、固相に固相化された抗体を、単に固相化抗体ということがある。固相としては、例えば、液相を収容または搭載可能な固相(例、プレート、メンブレン、試験管等の支持体、及びウェルプレート、マイクロ流路、ガラスキャピラリー、ナノピラー、モノリスカラム等の容器)、ならびに液相中に懸濁または分散可能な固相(例、粒子等の固相担体)が挙げられる。固相の材料としては、例えば、ガラス、プラスチック、金属、及びカーボンが挙げられる。固相の材料としてはまた、非磁性材料、又は磁性材料を用いることができるが、操作の簡便性等の観点から、磁性材料が好ましい。固相は、好ましくは固相担体であり、より好ましくは磁性固相担体であり、さらにより好ましくは磁性粒子である。抗体の固相化方法としては、従前公知の方法を利用することができる。このような方法としては、例えば、物理的吸着法、共有結合法、親和性物質(例、ビオチン、ストレプトアビジン)を利用する方法、及びイオン結合法が挙げられる。特定の実施形態では、心筋トロポニンIに対する抗体は、固相に固相化された抗体であり、好ましくは、磁性の固相に固相化された抗体であり、より好ましくは、磁性粒子に固相化された抗体である。
【0018】
心筋トロポニンIに対する抗体は、標識物質で標識化されていてもよい。本明細書において、標識物質で標識化された抗体を、単に標識化抗体ということがある。標識物質としては、例えば、酵素(例、ペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、ルシフェラーゼ、βガラクトシダーゼ)、親和性物質(例、ストレプトアビジン、ビオチン)、蛍光物質またはタンパク質(例、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、緑色蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質)、発光又は吸光物質(例、ルシフェリン、エクオリン、アクリジニウム)、放射性物質(例、
3H、
14C、
32P、
35S、
125I)が挙げられる。また、本発明の方法で2次抗体(例、後述するさらなる抗体)が用いられる場合、2次抗体は、このような標識物質で標識化されていてもよい。
【0019】
本発明の試薬には、ポリアニオン性高分子もまた含まれる。
【0020】
本発明において、用語「ポリアニオン性高分子」とは、アニオン性部分を複数含む高分子を意味する。用語「アニオン性部分」とは、負に荷電した基又は原子を意味する。アニオン性部分としては、例えば、スルフェート基〔−O−S(=O)
2−O
−〕、スルホナート基〔−S(=O)
2−O
−〕、カルボキシラート基〔−C(=O)−O
−〕、ホスフェート基〔−O−P(=O)(−O
−)
2〕、ハイドロジェンホスフェート基〔−O−P(=O)(−OH)(−O
−)〕、負に荷電した硫黄原子〔−S
−〕、及び負に荷電した酸素原子基〔−O
−〕が挙げられる。好ましくは、アニオン性部分は、スルフェート基、スルホナート基、及びカルボキシラート基からなる群より選ばれる基である。ポリアニオン性高分子は、1種又は2種以上のアニオン性部分を含んでいてもよい。ここで、ポリアニオン性高分子に含まれるアニオン性部分の数は、心筋トロポニンI量の測定値の乖離を抑制できる限り特に限定されず、アニオン性部分の種類によっても異なり得るが、通常5個以上であり、好ましくは15個以上であり、より好ましくは30個以上である。ポリアニオン性高分子に含まれるアニオン性部分の数はまた、500個以下、400個以下、又は300個以下であってもよい。ポリアニオン性高分子の分子量は、心筋トロポニンI量の測定値の乖離を抑制できる限り特に限定されず、アニオン性部分の種類及び数、並びにポリアニオン性高分子の種類によっても異なり得るが、通常500以上であり、好ましくは1000以上であり、より好ましくは3000以上である。また、ポリアニオン性高分子の分子量は、100000以下、70000以下、又は50000以下であってもよい。なお、ポリアニオン性高分子が後述するようにポリアニオン性ポリマーである場合、分子量は、特段の説明がない限り、重量平均分子量を意味する。
【0021】
ポリアニオン性高分子は、塩の形態であってもよい。塩としては、例えば、無機塩及び有機塩が挙げられる。無機塩としては、例えば、アンモニウム塩及び金属塩が挙げられる。金属塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等の一価の金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等の二価の金属塩が挙げられる。有機塩としては、例えば、アルキル基で置換されたアンモニウム塩、含窒素複素環化合物塩(例、ピリジニウム塩)が挙げられる。
【0022】
好ましい実施形態では、ポリアニオン性高分子は、上述したような1種又は2種以上のアニオン性部分を含む繰り返し単位を含むポリマーであってもよい。本発明では、1種又は2種以上のアニオン性部分を含む繰り返し単位を含むポリマーを、「ポリアニオン性ポリマー」と称することがある。ポリアニオン性ポリマーは、1種又は2種以上のアニオン性部分を含む繰り返し単位以外の構成単位を含んでいてもよい。したがって、ポリアニオン性ポリマーは、ホモポリマーであっても、コポリマー(例、ブロックコポリマー)であってもよい。また、ポリアニオン性ポリマーは、線状ポリマー、分岐構造を有するポリマー、又はデンドリマーであってもよい。さらに、ポリアニオン性ポリマーは、アニオン性部分を含むモノマー(必要に応じて、他の構成単位とのブロック単位)の重合により得られるポリマー、又はアニオン性部分を含まないポリマーに複数のアニオン性部分を導入することにより得られるポリマー(例、特許第3327070号公報に記載される、水酸基が硫酸エステルで置換されたデキストラン化合物)であってもよいが、好ましくは、アニオン性部分を含むモノマーの重合により得られるポリマーである。ポリアニオン性ポリマーは、塩の形態であってもよい。
【0023】
本発明において、ポリアニオン性ポリマーにおける繰り返し単位の数は、心筋トロポニンI量の測定値の乖離を抑制できる限り特に限定されないが、例えば、5個以上、10個以上、15個以上、20個以上、30個以上、又は40個以上であってもよい。ポリアニオン性ポリマーにおいて、アニオン性部分を含む繰り返し単位の数は、例えば、500個以下、400個以下、又は300個以下であってもよい。
【0024】
具体的には、ポリアニオン性ポリマーとしては、例えば、ポリ硫酸化合物(例、デキストラン硫酸、コンドロイチン硫酸)、ポリスルホン酸化合物(例、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸)、ポリカルボン酸化合物(例、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸、ポリフマル酸)、ポリアニオン性多糖類(例、デキストラン硫酸、カルボキシメチルデキストラン、カラギーナン、キサンタンガム)、及びポリアニオン性タンパク質(例、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸)が挙げられる。好ましくは、ポリアニオン性ポリマーは、デキストラン硫酸、ポリスチレンスルホン酸、又はポリアクリル酸であってもよい。
【0025】
ポリアニオン性高分子は、従前公知の方法により作製することができる。例えば、アニオン性部分を含むモノマーを重合する方法、又はアニオン性部分を含まない高分子に、アニオン性部分を導入する方法により作製することができる。ポリアニオン性高分子としては、市販品を用いてもよい。
【0026】
また、本発明の試薬は、上述した心筋トロポニンIに対する抗体、及びポリアニオン性高分子以外に、さらなる抗体を含んでいてもよい。さらなる抗体としては、例えば、上述した心筋トロポニンIに対する抗体と異なるエピトープを認識する心筋トロポニンIに対する別の抗体、心筋トロポニンIに対する抗体の定常領域を認識する抗体、及び心筋トロポニンIに対する抗体と心筋トロポニンIとの複合体を認識する抗体が挙げられる。このようなさらなる抗体は、例えば、2次抗体として使用することができる。
【0027】
特定の実施形態では、本発明の試薬は、さらなる抗体として、心筋トロポニンIに対する抗体と異なるエピトープを認識する心筋トロポニンIに対する別の抗体を含む。このような別の抗体が認識するエピトープの詳細は、上述した心筋トロポニンIに対する抗体について詳述したエピトープと同様である(但し、併用される場合、エピトープの種類は異なる)。心筋トロポニンIに対する抗体により認識されるエピトープと、心筋トロポニンIに対する別の抗体により認識されるエピトープとの組合せは、特に限定されない。例えば、心筋トロポニンIに対する抗体として20番目〜60番目のアミノ酸残基からなるペプチド部分中に見出される特定のエピトープ(例、24〜40番目、又は41〜49番目のアミノ酸残基からなるペプチド)を認識する抗体を用いる場合、心筋トロポニンIに対する別の抗体として当該特定のエピトープ以外のエピトープ、例えば、20番目〜60番目のアミノ酸残基からなるペプチド部分中に見出される別のエピトープ(例、24〜40番目、又は41〜49番目のアミノ酸残基からなるペプチド)、61番目〜120番目のアミノ酸残基からなるペプチド部分中に見出されるエピトープ(例、86〜90番目のアミノ酸残基からなるペプチド)、130番目〜150番目のアミノ酸残基からなるペプチド部分中に見出されるエピトープ、又は160番目〜209番目のアミノ酸残基からなるペプチド部分中に見出されるエピトープを認識する抗体を用いることができる。このような別の抗体の使用は、例えば、サンドイッチ法が利用される場合に好ましい。
【0028】
さらに、本発明の試薬は、上述した物質以外の成分を含んでいてもよい。このような成分としては、例えば、緩衝液又は希釈液(例、MES緩衝液、リン酸緩衝液、Tris緩衝液、炭酸緩衝液)、上述したような標識物質、及び標識物質と反応する基質(例、標識物質が酵素である場合、酵素の基質)が挙げられる。緩衝液のpHは抗体を含有する緩衝液のpHとして通常採用されているpHと同様であるが、心筋トロポニンIに対する抗体を含む緩衝液を用いる場合、当該緩衝液のpHとして、ポリアニオン性高分子中のアニオン性部分が負に荷電した状態を維持できるようなpHであることが必要である。このようなpHは、ポリアニオン性高分子の種類によっても異なるが、例えば5〜9、好ましくは5.6〜7.6である。
【0029】
本発明の試薬は、心筋トロポニンIに対する抗体を使用するイムノアッセイにおいて利用することができる。このようなイムノアッセイとしては、例えば、直接競合法、間接競合法、及びサンドイッチ法が挙げられる。また、このようなイムノアッセイとしては、化学発光イムノアッセイ(CLIA)(例、化学発光酵素免疫測定法(CLEIA))、免疫比濁法(TIA)、酵素免疫測定法(EIA)(例、直接競合ELISA、間接競合ELISA、及びサンドイッチELISA)、放射イムノアッセイ(RIA)、ラテックス凝集反応法、蛍光イムノアッセイ(FIA)、及びイムノクロマトグラフィー法が挙げられる。
【0030】
本発明の試薬は、互いに隔離された形態または組成物の形態において各構成成分を含む。具体的には、各構成成分はそれぞれ異なる容器(例、チューブ、プレート)に収容された形態で提供されてもよいが、一部の構成成分が組成物の形態(例、同一溶液中)で提供されてもよい。あるいは、本発明の試薬は、デバイスの形態で提供されてもよい。具体的には、構成成分の全部がデバイス中に収容された形態で提供されてもよい。あるいは、構成成分の一部がデバイス中に収容された形態で提供され、残りのものがデバイス中に収容されない形態(例、異なる容器に収容された形態)で提供されてもよい。この場合、デバイス中に収容されない構成成分は、標的物質の測定の際に、デバイス中に注入されることにより使用されてもよい。
【0031】
特定の実施形態では、心筋トロポニンIに対する抗体、及びポリアニオン性高分子を含む本発明の試薬は、心筋トロポニンIに対する抗体についての溶液又は粉末、及びポリアニオン性高分子についての溶液又は粉末を、同一又は異なる容器に含むキットの形態で提供されてもよいが、用事調製の手間を省く等の観点から、心筋トロポニンI、及び心筋トロポニンIに対する抗体を同一溶液に含む形態(プレミックス)で提供されてもよい。本発明の試薬においてポリアニオン性高分子が溶液として提供される場合、溶液中のポリアニオン性高分子の濃度は、分析されるべき試料との混合比率、及び希釈倍率等の使用条件によっても異なるが、例えば0.06mg/mL以上85mg/mL以下である。溶液中のポリアニオン性高分子の濃度は、好ましくは0.08mg/mL以上、より好ましくは0.2mg/mL以上、更により好ましくは0.8mg/mL以上であってもよい。溶液中のポリアニオン性高分子の濃度はまた、好ましくは8.5mg/mL以下、より好ましくは4.0mg/mL以下、更により好ましくは3.0mg/mL以下であってもよい。
【0032】
好ましい実施形態では、本発明の試薬は、採用されるべきイムノアッセイの種類に応じた構成を有していてもよい。例えば、サンドイッチ法が採用される場合、本発明の試薬は、必須の構成成分として、i)心筋トロポニンIに対する抗体、及びii)ポリアニオン性高分子、並びに任意の構成成分として、iii)心筋トロポニンIに対する別の抗体、iv)標識物質、v)希釈液(緩衝液)、及び、必要に応じて、vi)標識物質と反応する基質を含んでいてもよい。i)及びii)の構成成分は、同一溶液に含まれていてもよい。iii)の構成成分は、iv)標識物質で標識化されていてもよい。好ましくは、心筋トロポニンIに対する抗体は、磁性粒子に固相化されていてもよい。本発明の試薬の構成の具体例は、i’)心筋トロポニンIに対する抗体が固相化された磁性粒子、及びポリアニオン性高分子を含む緩衝液、ii’)心筋トロポニンIに対する別の抗体(標識物質で標識化)を含む緩衝液、及びiii’)希釈液(緩衝液)である。
【0033】
本発明の試薬は、血液試料中の心筋トロポニンI量を血液試料の種類によらない一定の値として測定できることから、例えば、血液試料を利用する検査薬として有用である。本発明の試薬はまた、血液試料中の心筋トロポニンI量を血液試料の種類によらない一定の値として測定できるという事実からも明らかであるように、試料中に混入している多種多様な夾雑物の影響を排除することにより心筋トロポニンIと抗体との相互作用を安定化できると考えられることから、多種多様な夾雑物が混入している、血液試料以外の試料中の心筋トロポニンI量の測定にも優れると考えられる。血液試料等の試料としては、予備処理に付されたものを用いてもよい。このような予備処理としては、例えば、遠心分離、分画、抽出、ろ過、沈殿、加熱、凍結、冷蔵、及び攪拌が挙げられる。
【0034】
好ましい実施形態では、本発明の試薬は、疾患(例、急性心筋梗塞、心筋炎)の診断薬として使用することができる。試料としては、血液試料が好ましい。
【0035】
血液試料としては、任意の種類の血液試料を利用することができるが、例えば、血清及び血漿が挙げられる。血漿としては、抗凝固剤で処理されたもの(例、抗凝固剤を含む採血管中に採取されたもの)を利用することができる。このような抗凝固剤としては、例えば、ヘパリン、EDTA、クエン酸及びそれらの塩、並びにフッ化ナトリウムが挙げられるが、これらに限定されない。また、血液試料としては、任意の動物由来の血液試料を利用することができるが、好ましくは、上述したような哺乳動物の血液試料であり、より好ましくは、上述したような霊長類の血液試料である。ヒトへの臨床応用の観点からは、ヒトの血液試料が特に好ましい。
【0036】
EDTA血漿としては、通常、全血試料中にEDTA塩を適量(例、EDTA二ナトリウムであれば約1.5mg/mL若しくは約2.0mg/mL、または、EDTA二カリウムであれば約1.8mg/mL、約1.85mg/mL、若しくは約1.9mg/mL)を加え、転倒混和した後、遠心分離により血球成分を除去したものが使用される。クエン酸血漿としては、通常、全血試料中にクエン酸塩を適量(例、クエン酸ナトリウムであれば約3.2mg/mL)加え、転倒混和した後、遠心分離により血球成分を除去したものが使用される。ヘパリン血漿としては、通常、全血試料中にヘパリン塩を適量(例、ヘパリンナトリウムであれば約13IU/mL)加え、転倒混和した後、遠心分離により血球成分を除去したものが使用される。
【0037】
本発明の試薬は、その心筋トロポニンI測定値の各種血液試料間での乖離を抑制し得るものである。各種血液試料間での測定値の乖離割合(基準となる血液試料(例、血清)の測定値をaとし、基準となる血液試料と比較される血液試料(例、EDTA血漿、クエン酸血漿、ヘパリン血漿)の測定値をbとした場合に、測定値aと測定値bとの差の絶対値|a−b|の、測定値aに対する百分率であり、(|a−b|/a)×100(%)で算出される。)は、15%未満であることが好ましく、10%未満であることがより好ましく、5%未満であることが更に好ましく、1%未満であることが更により好ましく、0.5%未満であることが特に好ましい。
【0038】
<2.本発明の方法>
本発明はまた、心筋トロポニンIの測定方法を提供する。本発明の方法は、ポリアニオン性高分子の存在下において、心筋トロポニンIに対する抗体を用いて血液試料中の心筋トロポニンI量を測定することを含む。心筋トロポニンI、心筋トロポニンIに対する抗体、ポリアニオン性高分子、及び血液試料の定義、例、及び好ましい例は、上述したとおりである。
【0039】
本発明の方法で用いられるポリアニオン性高分子は、血液試料の種類による心筋トロポニンI量の測定値の乖離を抑制できる量において存在すればよい。
【0040】
心筋トロポニンI量の測定は、例えば、上述したイムノアッセイにより行うことができる。特に限定されるものではないが、なかでもサンドイッチ法及び/又は化学発光酵素免疫測定法(CLEIA)が好ましい。
【0041】
具体的には、本発明の方法は、以下(1)〜(3)を含んでいてもよい。
(1)心筋トロポニンIに対する抗体、ポリアニオン性高分子、及び血液試料の混合液を調製すること;
(2)混合液をインキュベートすること;及び
(3)混合液において心筋トロポニンI量を測定すること。
【0042】
工程(1)では、混合液は、心筋トロポニンIに対する抗体についての溶液又は粉末、ポリアニオン性高分子についての溶液又は粉末、及び血液試料、並びに必要に応じて希釈液を適宜混合することにより調製することができる。溶液又は希釈液としては、例えば、水(例、蒸留水、滅菌水、滅菌蒸留水、及び純水)、並びに上述したような緩衝液が挙げられるが、緩衝液が好ましい。好ましくは、心筋トロポニンIに対する抗体、及びポリアニオン性高分子を含む溶液を予め調製し、次いで、このようにして調製された溶液を、血液試料、及び必要に応じて希釈液と混合してもよい。
【0043】
混合液中のポリアニオン性高分子の濃度は、血液試料の種類による心筋トロポニンI量の測定値の乖離を抑制できる濃度である限り特に限定されず、試料の種類によっても異なり得るが、例えば、0.05mg/mL以上5.0mg/mL以下である。混合液中のポリアニオン性高分子の濃度は、好ましくは0.1mg/mL以上、より好ましくは0.3mg/mL以上、更により好ましくは0.5mg/mL以上であってもよい。混合液中のポリアニオン性高分子の濃度はまた、好ましくは2.0mg/mL以下、より好ましくは1.5mg/mL以下、更により好ましくは1.0mg/mL以下であってもよい。
【0044】
工程(2)では、混合液のインキュベーションは、血液試料中に存在し得る心筋トロポニンIと、心筋トロポニンIに対する抗体との複合体が形成されるのに十分な時間において適切な温度で行うことができる。このような時間は、通常のイムノアッセイで採用されるのと同様の時間であり、例えば、1分間〜24時間である。このような温度は、通常のイムノアッセイで採用されるのと同様の温度であり、例えば、5〜40℃である。
【0045】
工程(3)では、混合液における心筋トロポニンI量の測定は、心筋トロポニンIに対する抗体を利用することにより、上述したようなイムノアッセイにおいて行うことができる。混合液中の心筋トロポニンI量を測定することにより、血液試料中に存在していた心筋トロポニンI量を評価することができる。
【0046】
本発明の方法は、予備処理の工程を含んでいてもよい。このような工程としては、例えば、遠心分離、分画、抽出、ろ過、沈殿、加熱、凍結、冷蔵、及び攪拌が挙げられる。
【0047】
本発明の方法は、血液試料中の心筋トロポニンI量を血液試料の種類によらない一定の値として測定できることから、例えば、血液試料を利用する検査に有用である。好ましくは、本発明の方法は、上述したような疾患の診断に有用である。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0049】
[実施例1]心筋トロポニンI測定試薬の調製、測定法及び被検試料の調製
心筋トロポニンI測定試薬として、抗体ペアの異なる以下の試薬A及び試薬Bを調製した。
<試薬A>
・抗体結合粒子溶液(固相化抗体溶液):0.025%(w/v)の、カルボキシル化磁性粒子(富士レビオ製)に心筋トロポニンIのアミノ酸配列(例えばGenBank:CAA62301.1を参照、以下同様)41〜49番目をエピトープとして認識するマウスモノクローナル抗体を結合した抗体結合磁性粒子、50mMの2−モルホリノエタンスルホン酸(MES)、1.0%(w/v)のウシ血清由来アルブミン(BSA)、及び50mMのNaClを含む、抗体結合粒子溶液(pH6.8)を調製した。
・標識化抗体溶液:0.5μg/mLの、心筋トロポニンIのアミノ酸配列86〜90番目をエピトープとして認識する抗体をアルカリフォスファターゼ(高比活性、糖低減の組換え体、ロシュ製)により標識して得られた標識化抗体、50mMのMES、2.5%(w/v)のBSA、100mMのNaCl、0.3mMのZnCl
2、及び1.0mMのMgCl
2を含む、標識化抗体溶液(pH6.8)を調製した。
これらの溶液を自動免疫測定装置(ルミパルスG1200、富士レビオ製)用のカートリッジに充填した。
【0050】
<試薬B>
・抗体結合粒子溶液(固相化抗体溶液):0.025%(w/v)の、カルボキシル化磁性粒子(富士レビオ製)に心筋トロポニンIのアミノ酸配列24〜40番目をエピトープとして認識するマウスモノクローナル抗体を結合した抗体結合磁性粒子、50mMの2−モルホリノエタンスルホン酸(MES)、1.0%(w/v)のBSA、及び50mMのNaClを含む、抗体結合粒子溶液(pH6.8)を調製した。
・標識化抗体溶液:0.5μg/mLの、心筋トロポニンIのアミノ酸配列41〜49番目をエピトープとして認識する抗体をアルカリフォスファターゼ(高比活性、糖低減の組換え体、ロシュ製)により標識して得られた標識化抗体、50mMのMES、2.5%(w/v)のBSA、100mMのNaCl、0.3mMのZnCl
2、及び1.0mMのMgCl
2を含む、標識化抗体溶液(pH6.8)を調製した。
これらの溶液を自動免疫測定装置(ルミパルスG1200、富士レビオ製)用のカートリッジに充填した。
【0051】
自動免疫測定装置(ルミパルスG1200、富士レビオ製)を用いて、以下の手順に従って、被検試料の心筋トロポニンI量を測定した。
(1)抗体結合粒子溶液150μLに被検試料100μLが分注されて、第1反応液が調製される。第1反応液は撹拌後37℃で10分間インキュベートされて、磁性粒子に結合した抗心筋トロポニンI抗体と被検試料に含まれる心筋トロポニンI抗原との免疫複合体が形成される。
(2)インキュベーション後、磁性粒子は磁石によって管壁に集められ、磁性粒子に未結合の物質が除去される。その後、洗浄液(ルミパルス(登録商標)洗浄液、富士レビオ社製)の注入及び洗浄液の除去が繰り返され、磁性粒子が洗浄される。
(3)洗浄後、標識化抗体溶液250μL及び磁性粒子が混合され、第2反応液が調製される。第2反応液は37℃で10分間インキュベートされて、磁性粒子に固相化された抗心筋トロポニンI抗体−心筋トロポニンI抗原−アルカリフォスファターゼにより標識された抗心筋トロポニンI抗体から構成される免疫複合体が形成される。
(4)インキュベーション後、磁性粒子は再び磁石によって管壁に集められ、磁性粒子に未結合の物質が除去される。その後、洗浄液の注入及び洗浄液の除去が繰り返され、磁性粒子が洗浄される。
(5)AMPPD(3−(2’−スピロアダマンタン)−4−メトキシ−4−(3’−ホスホリルオキシ)フェニル−1,2−ジオキセタン・2ナトリウム塩)を含む基質液(ルミパルス(登録商標)基質液、富士レビオ社製)200μLが磁性粒子に加えられ、撹拌後37℃で5分間インキュベートされる。基質液に含まれるAMPPDが、磁性粒子に間接的に結合したアルカリフォスファターゼの触媒作用により分解し、波長477nmに発光極大を持つ光が放出される。発光強度は磁性粒子に結合した心筋トロポニンI量を反映するため、波長477nmの発光強度を測定することで心筋トロポニンI量を測定することができる。
【0052】
被検試料として、4例又は5例の心筋トロポニンI高値検体(ProMedDx社製)及び4例又は5例の血清血漿ペア検体(同一ドナーより得られた血清、EDTA血漿、クエン酸血漿及びヘパリン血漿)を準備し、心筋トロポニンI高値検体を血清血漿ペア検体に1/10容量以下となるように添加して調製した。
【0053】
[実施例2]心筋トロポニンI測定におけるデキストラン硫酸ナトリウムの血清血漿相関性への影響
デキストラン硫酸ナトリウム(デキストラン硫酸ナトリウム5000、和光純薬工業製)を、試薬Aの抗体結合粒子溶液中に0、0.77、1.55、又は2.32mg/mL(第1反応液中の濃度は、それぞれ0、0.462、0.930、又は1.392mg/mL)となるように添加し、被検試料を測定した。結果を表1及び
図1〜
図3に示す。各測定値は、波長477nmの発光強度(カウント値)である。対血清カウント値(平均)は、各検体につき、血清のカウント値に対する各血漿のカウント値の百分率を算出し、次いで、それらの平均値を算出することにより得た。実施例3及び実施例4における対血清カウント値(平均)も同様にして得られた値である。
【0054】
【表1】
【0055】
その結果、デキストラン硫酸ナトリウム非存在下における測定では、被検試料の測定値が、血清、EDTA血漿、クエン酸血漿、及びヘパリン血漿間で大きく異なっていた(表1、及び
図1〜3)。他方、デキストラン硫酸ナトリウムを含有する抗体結合粒子溶液を用いて、心筋トロポニンIの測定をデキストラン硫酸ナトリウムの存在下で行うことにより、被検試料の測定値が、血清、EDTA血漿、クエン酸血漿、及びヘパリン血漿間で概ね一致した(表1、及び
図1〜3)。
【0056】
以上より、心筋トロポニンIの測定をデキストラン硫酸ナトリウムの存在下で行うことにより、血清と血漿の測定値の乖離が抑制されることが明らかとなった。
【0057】
[実施例3]デキストラン硫酸ナトリウム存在下の心筋トロポニンI測定における血清血漿相関性への抗体エピトープの種類の影響
デキストラン硫酸ナトリウム(デキストラン硫酸ナトリウム5000、和光純薬工業製)を試薬Bの抗体結合粒子溶液中に0、0.5、1.0、又は2.0mg/mL(第1反応液中の濃度は、それぞれ0、0.3、0.6、1.2mg/mL)となるように添加し、その他の条件は実施例2と同様として、被検試料を測定した。結果を表2及び
図4〜
図7に示す。各測定値は、波長477nmの発光強度(カウント値)である。
【0058】
【表2】
【0059】
その結果、実施例2で用いられた試薬Aで使用された抗体ペア(固相化抗体及び標識化抗体)とは異なる心筋トロポニンI抗原の部位を認識する抗体ペア(固相化抗体及び標識化抗体)を用いた試薬Bを用いた場合においても、デキストラン硫酸ナトリウムを含有する抗体結合粒子溶液を用いて、心筋トロポニンIの測定をデキストラン硫酸ナトリウムの存在下で行うことにより、被検試料の測定値が、血清、EDTA血漿、クエン酸血漿、及びヘパリン血漿間で概ね一致した(表2、及び
図4〜7)。
【0060】
以上より、心筋トロポニンIの測定をデキストラン硫酸ナトリウムの存在下で行うことにより、抗体が認識する心筋トロポニンIのエピトープ位置によらず、血清と血漿の測定値の乖離が抑制されることが明らかとなった。
【0061】
[実施例4]心筋トロポニンI測定における各種ポリアニオン性高分子の血清血漿相関性への影響
デキストラン硫酸ナトリウム(デキストラン硫酸ナトリウム5000、和光純薬工業製)、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム(重量平均分子量:〜70000、Sigma Aldrich製)、ポリアクリル酸ナトリウム(重量平均分子量:〜5100、Sigma Aldrich製)、N−ラウロイルサルコシンナトリウム(分子量271、ナカライテスク製)又はL−アスパラギン酸(分子量133、和光純薬工業製)を試薬Bの抗体結合粒子溶液中に1.5mg/mL(第1反応液中の濃度は、0.9mg/mL)となるように添加し、その他の条件は実施例2及び3と同様として、被検試料を測定した。結果を表3及び
図8〜
図11に示す。各測定値は、波長477nmの発光強度(カウント値)
である。
【0062】
【表3】
【0063】
その結果、心筋トロポニンIの測定をデキストラン硫酸ナトリウム、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、又はポリアクリル酸ナトリウム(ポリアニオン性高分子)の存在下で行うことにより、被検試料の測定値が、血清、EDTA血漿、クエン酸血漿、及びヘパリン血漿間で概ね一致した(表3、及び
図8〜11)。一方、低分子アニオン性化合物(アニオン性部分を含む低分子化合物)である、N−ラウロイルサルコシンナトリウム、L−アスパラギン酸の存在下では、血清と各種血漿との測定値の乖離は軽減されなかった。
【0064】
以上より、心筋トロポニンIの測定をポリアニオン性高分子の存在下で行うことにより、血清と各種血漿の測定値の乖離が抑制されることが明らかとなった。