特許第6651826号(P6651826)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6651826-水素利用システム及び方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6651826
(24)【登録日】2020年1月27日
(45)【発行日】2020年2月19日
(54)【発明の名称】水素利用システム及び方法
(51)【国際特許分類】
   F02C 7/22 20060101AFI20200210BHJP
   F23G 7/06 20060101ALI20200210BHJP
   H02K 9/08 20060101ALI20200210BHJP
   H02K 9/19 20060101ALI20200210BHJP
   F23K 5/00 20060101ALI20200210BHJP
【FI】
   F02C7/22 B
   F23G7/06 Z
   H02K9/08 Z
   H02K9/19 Z
   F23K5/00 303
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-240230(P2015-240230)
(22)【出願日】2015年12月9日
(65)【公開番号】特開2017-106372(P2017-106372A)
(43)【公開日】2017年6月15日
【審査請求日】2018年11月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】谷川 博昭
(72)【発明者】
【氏名】和田 泰孝
【審査官】 中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/043992(WO,A1)
【文献】 特表平08−502879(JP,A)
【文献】 特開2005−124343(JP,A)
【文献】 特開平02−279501(JP,A)
【文献】 特開平01−315238(JP,A)
【文献】 特開昭53−118705(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02C 7/22
F23G 7/06
F23K 5/00
H02K 9/08
H02K 9/19
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機器において使用された水素、または前記機器とは異なる装置において発生した水素を燃焼装置の燃料として利用するための水素利用システムであって、
前記機器と前記燃焼装置の燃料系統とを連通して接続し、これら機器と燃料系統との間に、前記機器から取り出した前記水素を貯蔵する貯蔵部を備え、
前記水素を炭酸ガスに置換しながら前記機器から取り出した場合、当該水素と炭酸ガスとの混合ガスを前記貯蔵部に貯蔵した後、前記燃料系統に送給すると共に、前記水素を前記装置から前記置換することなく取り出した場合、当該水素を、前記貯蔵部を介すことなく直接前記燃料系統に送給する
ことを特徴とする水素利用システム。
【請求項2】
前記貯蔵部と前記燃料系統との間に設けられ、前記貯蔵部から送給される前記混合ガスを水素と二酸化炭素とに分離する分離部を更に備え、
前記分離部は、前記分離した水素の一部を前記燃料系統に送給し、当該水素の他部を専用の水素タンクに貯蔵すると共に、前記分離した二酸化炭素を専用の二酸化炭素タンクに貯蔵する
ことを特徴とする請求項1に記載の水素利用システム。
【請求項3】
機器において使用された水素、または前記機器とは異なる装置において発生した水素を、燃焼装置の燃料として利用するための水素利用方法であって、
前記機器と前記燃焼装置の燃料系統とを連通して接続する接続工程と、
前記水素を炭酸ガスに置換しながら前記機器から取り出した場合、当該水素と炭酸ガスとの混合ガスを、前記機器と前記燃料系統との間に設けられた貯蔵部に貯蔵した後、前記燃料系統に送給する間接送給工程と、
前記水素を前記装置から前記置換することなく取り出した場合、当該水素を、前記貯蔵部を介すことなく直接前記燃料系統に送給する直接送給工程と、を備える
ことを特徴とする水素利用方法。
【請求項4】
前記間接送給工程は、
前記貯蔵部からの前記混合ガスを、前記貯蔵部と前記燃料系統との間に設けられた分離部に送給して水素と二酸化炭素とに分離した後、当該分離した水素の一部を前記燃料系統に送給する分離水素送給工程と、
前記分離した水素の他部を専用の水素タンクに貯蔵する水素貯蔵工程と、
前記分離した二酸化炭素を専用の二酸化炭素タンクに貯蔵する二酸化炭素貯蔵工程と、を更に備える
ことを特徴とする請求項3に記載の水素利用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機器にて使用され、または発生した水素を燃焼装置の燃料として利用するための水素利用システム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燃焼装置を備える発電設備などで用いられる機器においては、冷却剤として使用される水素ガスを利用した水素冷却発電機や、冷却剤として利用する海水から塩素を生成する際に水素が発生する海水電解装置などが知られている。
【0003】
例えば、水素冷却発電機では、機器の保守,点検作業に先立ち、内部に封入されている水素ガスを抜き取る必要がある。これは、水素ガスに対する空気の混合比が4〜75%の爆発範囲になると、化学反応によって爆発を生じる虞があるためである。そのため、このような水素ガスの抜取作業としては、発電機内に炭酸ガスを封入し水素ガスを大気中に放出して炭酸ガスに置換し、さらに空気を封入して炭酸ガスを大気中に放出し空気に置換することで、発電機の内部点検が可能な状態を確保している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−149040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年では、地球環境の保全対策が論議され、特に大気中のCO2の増加による地球温暖化現象の防止のため、発電設備としての火力発電プラントにおいても大気中に放出されるCO2を抑制する技術の開発が大気汚染物質(SOx、NOx、ばいじん等)を抑制する技術の開発と共に急務となっていた。そのため、火力発電プラントから放出される排ガスからCO2を分離、回収して処理する技術がいろいろと研究され、基本的にはほぼ確立されつつある。
【0006】
しかしながら、火力発電プラントから放出される排ガス中のCO2濃度は5〜10mol%と極めて低いため、多量のガス量からCO2を効率よく分離、回収することは困難で、経済性に優れた有効な実用化技術は未だ確立されていない。そして、たとえ実用化されても、CO2分離、回収するための装置、設備の追設が必要であり、その設備および運用管理に要する費用を考慮すれば、経済性に難点があり、所要動力等のエネルギーを必要としプラント効率が損なわれることが懸念されている。
【0007】
また、従来の置換装置を用いた水素の抜取作業では、炭酸ガスに置換する水素や空気に置換する炭酸ガスは大気中に放出され、他の用途に再利用されることはなかった。一方、特許文献1の技術では、炭酸ガスは回収されて次工程のガス置換に再利用されるものの、水素に関しては未だ未回収のままであるという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は上述したような問題に鑑みなされたものであり、従来、大気放出していた水素や水素を取り出すための置換に用いる炭酸ガスの有効利用を図ることが可能となる水素利用システム及び方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係る水素利用システムは、
機器において使用された水素、または前記機器とは異なる装置において発生した水素を、燃焼装置の燃料として利用するための水素利用方法であって、
前記機器と前記燃焼装置の燃料系統とを連通して接続し、これら機器と燃料系統との間に、前記機器から取り出した前記水素を貯蔵する貯蔵部を備え、
前記水素を炭酸ガスに置換しながら前記機器から取り出した場合、当該水素と炭酸ガスとの混合ガスを前記貯蔵部に貯蔵した後、前記燃料系統に送給すると共に、前記水素を前記装置から前記置換することなく取り出した場合、当該水素を、前記貯蔵部を介すことなく直接前記燃料系統に送給することを特徴とする。
【0010】
このとき、前記貯蔵部と前記燃料系統との間に設けられ、前記貯蔵部から送給される前記混合ガスを水素と二酸化炭素とに分離する分離部を更に備え、
前記分離部は、前記分離した水素の一部を前記燃料系統に送給し、当該水素の他部を専用の水素タンクに貯蔵すると共に、前記分離した二酸化炭素を専用の二酸化炭素タンクに貯蔵することが好ましい。
【0011】
また、本発明に係る水素利用方法は、
機器において使用された水素、または前記機器とは異なる装置において発生した水素を、燃焼装置の燃料として利用するための水素利用方法であって、
前記機器と前記燃焼装置の燃料系統とを連通して接続する接続工程と、
前記水素を炭酸ガスに置換しながら前記機器から取り出した場合、当該水素と炭酸ガスとの混合ガスを、前記機器と前記燃料系統との間に設けられた貯蔵部に貯蔵した後、前記燃料系統に送給する間接送給工程と、
前記水素を前記装置から前記置換することなく取り出した場合、当該水素を、前記貯蔵部を介すことなく直接前記燃料系統に送給する直接送給工程と、を備えることを特徴とする。
【0012】
このとき、前記間接送給工程は、
前記貯蔵部からの前記混合ガスを、前記貯蔵部と前記燃料系統との間に設けられた分離部に送給して水素と二酸化炭素とに分離した後、当該分離した水素の一部を前記燃料系統に送給する分離水素送給工程と、
前記分離した水素の他部を専用の水素タンクに貯蔵する水素貯蔵工程と、
前記分離した二酸化炭素を専用の二酸化炭素タンクに貯蔵する二酸化炭素貯蔵工程と、を更に備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来、大気放出していた水素や水素を取り出すための置換に用いる炭酸ガスの有効利用を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態による水素利用システムを備えた発電設備を示す概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施形態による水素利用システムを備えた発電設備を示す概要図である。なお、図中に表す矢印は水素,炭酸ガス,およびそれらの混合ガス,二酸化炭素が配管等の流路内を流れる方向を示している。また、以下の説明では、水素冷却発電機を備える発電設備(発電プラント)を適用する場合について述べるが、本発明はこれに限ることはない。
【0016】
図1に示すように、本実施形態における水素利用システムは、後述する発電プラントに接続されて用いられ、当該発電プラントの水素冷却発電機1(以下、単に発電機1と称す)から送給される水素および炭酸ガスを貯蔵する貯蔵タンク2と、貯蔵タンク2から送給される水素および炭酸ガスから二酸化炭素(CO2)を分離するCO2分離装置3と、CO2分離装置3によって分離された水素と二酸化炭素とをそれぞれ貯蔵するタンク4,5とを備えている。
【0017】
この発電プラントでは、メタンを主成分とした天然ガスを冷却し液化した無色透明の液体であるLNG(Liquefied Natural Gas:液化天然ガス)を、燃料系統に設けられた混合器6を介して水素利用システムから供給される水素(または水素と炭酸ガスとの混合ガス)と混合した燃料ガスを、燃焼装置としてのボイラ7や燃焼器8に供給する。燃焼器8は混合器6から供給された燃料ガスを圧縮機9から送られる高圧の空気と混合,燃焼させる。これにより発生する高温高圧の燃焼ガスによりガスタービン10を回転させる。ガスタービン10は、その出力軸に連結された圧縮機9を回転駆動させると共に、発電機1を回転駆動させて発電を行う。一方、ボイラ7は、混合器6からの燃料ガスを燃焼させた燃焼熱によって、不図示の復水器から送給される復水を加熱して蒸気を発生させ、不図示の蒸気タービンを駆動させることで発電を行うことが可能となっている。そして、発電機1で発電された電力は、不図示の変圧器や送電線を介して需要家に供給(送電)される。また、蒸気を直接利用することも可能である。
【0018】
ここで、本実施形態による水素利用システムを用いた水素利用方法について説明する。まず、水素利用システムを発電プラントに接続して(接続工程)、発電機1内部に封入された水素を炭酸ガスで置換しながら放出し、これら水素と炭酸ガスとを貯蔵タンク2に貯蔵する。
【0019】
次に、発電機1から放出された水素および炭酸ガスをCO2分離装置3に送給し(間接送給工程)、水素と二酸化炭素とに分離した後、当該分離された水素の一部が、ボイラ7やガスタービン10の燃料系統である混合器6に供給される(分離水素送給工程)。そして、混合器6においてLNGと混合され、ボイラ7やガスタービン10の燃料ガスとして再利用される。このとき、分離された他方(すなわち、残り)の水素と、二酸化炭素とは、それぞれ専用の水素タンク4および二酸化炭素タンク5に貯蔵され、別の用途に使用することが可能となっている(水素貯蔵工程,二酸化炭素貯蔵工程)。
【0020】
なお、発電機1からの放出が初期の段階においては、水素のみ、または水素濃度の高い状態で放出されるため、貯蔵タンク2に貯蔵された水素を、CO2分離装置3を介すことなく混合器6に供給してもよい。
【0021】
また、上述した実施形態では、発電機1からの水素を、貯蔵タンク2を介してCO2分離装置3や混合器6に供給する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えば、発電プラントが海水電界装置11を備える場合、当該海水電界装置11から炭酸ガスによる置換を行うことなく放出された水素を、貯蔵タンク2およびCO2分離装置3を介すことなく、直接混合器6に供給するようにしてもよい(直接供給工程)。但し、海水電界装置11からの水素に対する炭酸ガス成分の含有量が増え、水素の濃度が薄まってきた場合、上述した実施形態と同様にCO2分離装置3にて分離するか、または放出するかする。ここで、海水電界装置11は、発電プラントにおいて冷却剤として利用される海水から塩素を生成するもので、当該塩素の生成の際に水素が発生する。例えば、発電プラントにおいて、不図示の蒸気タービンから排出された蒸気は復水器(不図示)に送気され、当該復水器内部において循環ポンプ(不図示)を介して供給される冷却水としての海水によって冷却されて凝縮し、復水するようになっている。
【0022】
以上、説明したように、本実施形態では、発電器1と混合器6との間に連通して接続され、発電機1から取り出した水素を貯蔵する貯蔵タンク2を備えており、水素を炭酸ガスに置換しながら発電機1から取り出した場合、当該水素と炭酸ガスとの混合ガスを貯蔵タンク2に貯蔵した後、混合器6に送給すると共に、水素を海水電界装置11から置換することなく取り出した場合、当該水素を、貯蔵タンク2を介すことなく直接混合器6に送給し、ボイラ7やガスタービン10の燃料ガスとして再利用することが可能となっている。これにより、従来、大気放出していた水素や水素を取り出すための置換に用いる炭酸ガスの有効利用を図ることができる。
【0023】
このとき、貯蔵タンク2と混合器6との間に、当該貯蔵タンク2から送給される水素と炭酸ガスとの混合ガスから、水素と二酸化炭素とを分離するCO2分離装置3を更に設け、
CO2分離装置3が、分離した水素の一部を混合器6に送給し、当該水素の残りの他部を専用の水素タンク4に貯蔵すると共に、分離した二酸化炭素を専用の二酸化炭素タンク5に貯蔵することが好ましい。これにより、これら水素および二酸化炭素を別の用途に使用することが可能となる。
【0024】
なお、本発明は、請求の範囲および明細書全体から読み取ることのできる発明の要旨または思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う水素利用システムおよび水素利用方法もまた本発明の技術思想に含まれる。
【0025】
また、上述した実施形態においては、水素を既存の燃料系統(混合器6)に導入する場合について述べたが、水素単独で燃焼させるようにしてもよい。
【0026】
さらに、発電プラントとしては、上述した実施形態の発電プラントに限らず、その他種々の発電プラントを広く適用することができる。例えば、発電プラントとして、加圧流動床ボイラを用い石炭を燃焼させた燃焼熱により蒸気を発生させ、蒸気タービン(図示省略)を駆動すると共に、燃焼ガスでガスタービン10を駆動させ発電する複合発電プラントとしての加圧流動床複合発電(PFBC:Pressurized Fluidized Bed combined Cycle)プラントや石炭ガス化複合発電(IGCC:Integrated coal Gasification Combined Cycle)を適用してもよい。
【符号の説明】
【0027】
1 発電機
2 貯蔵タンク(貯蔵部)
3 CO2分離装置(分離部)
4 水素用タンク
5 二酸化炭素用タンク
6 混合器(燃料系統)
7 ボイラ
8 燃焼器
9 圧縮機
10 ガスタービン
11 海水電界装置
図1