(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明を実施するための好適な形態につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、均等の範囲のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。
【0022】
(第1実施形態)
以下、図面を参照して、第1実施形態に係る磁気抵抗効果素子1について説明する。
【0023】
(基本構造)
図1は、第1実施形態に係る磁気抵抗効果素子1の斜視図である。
図1に示すように、磁気抵抗効果素子1は、チャネル層7と、第1強磁性層12Aと、第2強磁性層12Bと、参照電極20とを有している。チャネル層7および参照電極20は、下地絶縁層80を介して支持基板30上に設けられている。第1強磁性層12Aと、第2強磁性層12Bと、参照電極20とは、互いに離間し、かつ、チャネル層7を介して互いに電気的に接続されている。第1強磁性層12Aと、第2強磁性層12Bとは、チャネル層7の厚み方向から見て互いに重ならずに離間している。チャネル層7は、第1強磁性層12Aと第2強磁性層12Bとが並ぶ方向(膜面内における方向)が長辺方向であり、その長辺方向に垂直な方向(膜面内における方向)が短辺方向である矩形の平面視形状を有しており、直方体形状となっている。
【0024】
チャネル層7は、チャネル層7の厚み方向で互いに対向する第1の面と第2の面とを有している。磁気抵抗効果素子1では、第1強磁性層12Aおよび第2強磁性層12Bは、チャネル層7の第1の面の側(
図1に示される例では、チャネル層7の上面側)に設けられている。
【0025】
第1強磁性層12Aおよび第2強磁性層12Bは、これらの間を第1強磁性層12Aから第2強磁性層12Bへチャネル層7を介してスピン偏極キャリア(電子またはホール)が流れる部分であり、第2強磁性層12Bおよび参照電極20は、チャネル層7を介して電圧が検出される部分である。
【0026】
チャネル層7は、第1強磁性層12Aとチャネル層7の厚み方向から見て重なる第1領域A1、第2強磁性層12Bとチャネル層7の厚み方向から見て重なる第2領域A2および、第1領域A1と第2領域A2との間の第3領域A3を有している。
【0027】
参照電極20は少なくとも一部が、第1領域A1、第2領域A2および第3領域A3からなる領域に接するように設けられている。
図1に示す例では、参照電極20は少なくとも一部が、第2領域A2に接するように設けられている。磁気抵抗効果素子1では、参照電極20が、チャネル層7の第2の面の側(
図1に示す例では、チャネル層7の下面側)に設けられ、第2領域A2の下面に接するように配置されている。すなわち、参照電極20は、第2強磁性層12Bとチャネル層7の厚み方向から見て重なる位置に配置されている。磁気抵抗効果素子1では、参照電極20は、第2領域A2の下面の全面のみでチャネル層7と接しており、第1領域A1および第3領域A3とは接していない。
【0028】
磁気抵抗効果素子1では、第1強磁性層12A、第1領域A1、第3領域A3、第2領域A2および第2強磁性層12Bがスピン輸送経路に相当する領域(スピン偏極キャリアが流れる部分)であり、第2強磁性層12B、第2領域A2および参照電極20がスピン検出経路に相当する領域(電圧が検出される部分)である。
【0029】
第1強磁性層12Aとチャネル層7との間には、障壁層14Aが設けられ、第2強磁性層12Bとチャネル層7との間には、障壁層14Bが設けられている。
【0030】
(支持基板および下地絶縁層)
支持基板30の材料としては、例えば、AlTiCまたはSiが挙げられる。支持基板30上に設けられる下地絶縁層80の材料としては、例えばSiO
x(酸化シリコン)、HfO
x(酸化ハフニウム)またはSiN
x(窒化シリコン)などが挙げられる。下地絶縁層80の熱伝導率は、チャネル層7の熱伝導率よりも小さくなっている。
【0031】
(強磁性層)
第1強磁性層12A及び第2強磁性層12Bの材料としては、例えば、Co、Fe及びNiからなる群から選択される金属、Cr、Mn、Co、Fe及びNiからなる群の金属を1種以上含む合金、又は、Cr、Mn、Co、Fe及びNiからなる群から選択される1又は複数の金属と、B、C、N、Al、Si、Ga及びGeからなる群から選択される1種以上の元素とを含む合金が挙げられ、具体的には、CoFeBまたはNiFe等が挙げられる。
【0032】
(障壁層)
第1強磁性層12Aとチャネル層7との間には、障壁層14Aが設けられているので、第1強磁性層12Aからチャネル層7へスピン偏極したキャリア(電子またはホール)を多く注入することが可能となり、磁気抵抗効果素子1の出力信号を高めることが可能となる。第2強磁性層12Bとチャネル層7との間には、障壁層14Bが設けられているので、第2強磁性層12Bとチャネル層7との間におけるスピン偏極キャリアのスピン偏極率の低下が抑制され、第1強磁性層12Aから第2強磁性層12Bへの効率的なスピンの輸送が可能になる。
【0033】
障壁層14A、14Bは、トンネル障壁層であることが好ましい。トンネル障壁層の材料として、例えば酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、スピネル酸化膜または酸化亜鉛などを用いることができる。抵抗の増大を抑制し、トンネル障壁層として機能させる観点から、トンネル障壁層の膜厚は、3nm以下であることが好ましい。また、トンネル障壁層の膜厚は、1原子層の厚みを考慮して、0.4nm以上であることが好ましい。
【0034】
(チャネル層)
チャネル層7はスピンが輸送・蓄積される層である。チャネル層7の材料は、非磁性材料であり、スピン拡散長が長い材料であることが好ましい。磁気抵抗効果素子1では、チャネル層7の材料は非磁性半導体となっている。この場合、チャネル層7の材料(母材)は、Si、Ge、GaAsおよびCのうちのいずれか1つを含む半導体とすることができる。また、チャネル層7の材料は、Cu、AgまたはAl等の非磁性金属とすることもできる。磁気抵抗効果素子1では、チャネル層7の材料は第1領域A1、第2領域A2および第3領域A3で同じである。
【0035】
チャネル層7の材料として非磁性半導体を用いる場合、母材となる半導体材料には導電性を付与するための不純物を少量添加(不純物ドーピング)することが好ましい。不純物ドーピングの手法としては、例えば、イオン注入法、熱拡散法などが挙げられる。例えば、母材となる半導体材料としてSi、GeまたはCなどの14族(IV族)の元素を用いる場合、N、P、AsまたはSbなどの15族(V族)の元素を不純物としてドーピングすれば、電子が多数キャリアとなるため、キャリア濃度として電子の濃度を調整することができる。この場合、チャネル層7はn型半導体となる。また、B、AlまたはGaなどの13族(III族)の元素を不純物としてドーピングすれば、ホールが多数キャリアとなるため、キャリア濃度としてホールの濃度を調整することができる。この場合、チャネル層7はp型半導体となる。チャネル層7の不純物濃度は、1.0×10
16〜1.0×10
21cm
−3とすることが好ましい。
【0036】
チャネル層7の材料がn型半導体である場合は、電子がスピン偏極キャリアとなる。この場合、第2強磁性層12Bから第1強磁性層12Aへチャネル層7を介して流れる電流が、第1強磁性層12Aおよび第2強磁性層12Bから印加される。この場合、第1強磁性層12Aによってスピン偏極を起こした電子が、第1強磁性層12Aから注入され、チャネル層7の内部を第1強磁性層12Aから第2強磁性層12Bの方向に輸送される。これにより、チャネル層7の内部(第2領域A2)にスピンの非平衡状態(スピン蓄積)が生成される。
【0037】
チャネル層7の材料がp型半導体である場合は、ホールがスピン偏極キャリアとなる。この場合、第1強磁性層12Aから第2強磁性層12Bへチャネル層7を介して流れる電流が、第1強磁性層12Aおよび第2強磁性層12Bから印加される。この場合、第1強磁性層12Aによってスピン偏極を起こしたホールが、第1強磁性層12Aから注入され、チャネル層7の内部を第1強磁性層12Aから第2強磁性層12Bの方向に輸送される。これにより、チャネル層7の内部(第2領域A2)にスピンの非平衡状態(スピン蓄積)が生成される。
【0038】
(参照電極)
図1に示すように、磁気抵抗効果素子1では、参照電極20が、下地絶縁層80の凹部に設けられ、チャネル層7の第2領域A2の下面に接している。
【0039】
参照電極20の材料は導体である非磁性材料、特に非磁性の金属であることが好ましい。さらに、参照電極20の熱伝導率は、チャネル層7の熱伝導率よりも小さいことが好ましい。表1に、参照電極20またはチャネル層7に用いることができる主な非磁性材料の例とその熱伝導率を示す。例えば、チャネル層7の材料としてSiを用いる場合、参照電極20に用いる好ましい材料として、Ti、Zr、V、Ta、CrまたはNbなどが挙げられる。チャネル層7の材料としてCuを用いる場合、参照電極20に用いる好ましい材料として、Al、W、Mo、Ti、Zr、V、Ta、CrまたはNbなどが挙げられる。なお、参照電極20の材料として、これらの元素を主成分とする合金や窒化物などを用いてもよい。
【0041】
磁気抵抗効果素子1では、スピン輸送経路に相当する領域にスピン偏極キャリアを流すために、第1強磁性層12Aと第2強磁性層12Bとの間に電流が流される。第1強磁性層12Aと第2強磁性層12Bとの間に電流が流れる間、スピン輸送経路内には電流値の二乗とスピン輸送経路の材料の抵抗値に比例した量の熱(ジュール熱)が発生するが、磁気抵抗効果素子1のようにチャネル層7の材料が第1領域A1、第2領域A2および第3領域A3で同じ場合、チャネル層7のそれぞれの領域においてジュール熱は均一に発生する。
【0042】
ここで、参照電極20の熱伝導率がチャネル層7の熱伝導率よりも大きい場合、参照電極20とチャネル層7とが接する面において、チャネル層7(熱伝導率が小さい側)から参照電極20(熱伝導率が大きい側)への方向に向かって熱の拡散(放熱)が起こり、チャネル層7の内部に温度勾配が生じてしまう。より具体的には、チャネル層7の温度分布は、第1領域A1側(参照電極20から離れた側)で温度が高く、第2領域A2側(参照電極20に近い側)で温度が低いものになる。
【0043】
一方、参照電極20の熱伝導率がチャネル層7の熱伝導率よりも小さい場合、チャネル層7の内部で生じたジュール熱の参照電極20の方向への拡散(放熱)は抑制され、チャネル層7の内部において生じる温度勾配は小さく抑制される。チャネル層7の内部における温度勾配が小さいほど出力ノイズが小さくなるので、この場合、磁気抵抗効果素子1のSN比をさらに高くすることができる。したがって、参照電極20の熱伝導率は、チャネル層7の熱伝導率よりも小さいことが好ましい。
【0044】
(作製方法)
磁気抵抗効果素子1は、例えば、以下の手順で作製することが好ましい。
【0045】
支持基板30上に絶縁層を有する基板を準備し、フォトリソグラフィ、イオンミリングおよびスパッタリング法などにより、下地絶縁層80に相当する絶縁層、および参照電極20に相当する非磁性導体層からなる構造体を作製する。
【0046】
次に、CMP(化学機械研磨)処理などにより、上記構造体の表面を平坦化し、下地絶縁層80および参照電極20を形成する。また、薬液洗浄やプラズマ処理などにより、下地絶縁層80および参照電極20からなる構造体表面の付着物(パーティクル、有機物、及び自然酸化膜など)を除去し、清浄化する。
【0047】
次に、MBE(分子線エピタキシー)法などにより、上記構造体上に非磁性半導体層、障壁層および強磁性層を成膜し、積層膜を形成する。
【0048】
次に、フォトリソグラフィおよびイオンミリングなどにより、上記の積層膜を矩形状にパターニングして、上記構造体の上部にチャネル層7、障壁層および強磁性層からなる積層構造体を作製する。なお、上記積層構造体は、チャネル層7の第2領域に相当する領域の下面のみが、参照電極20の上面と接するようにパターニングされる。
【0049】
最後に、フォトリソグラフィおよびイオンミリングなどにより、上記の積層構造体の障壁層および強磁性層をパターニングし、障壁層14A、第1強磁性層12A、障壁層14Bおよび第2強磁性層12Bを形成する。これにより、チャネル層7の第1領域A1の上部には障壁層14Aおよび第1強磁性層12Aが積層しており、チャネル層7の第2領域A2の上部には障壁層14Bおよび第2強磁性層12Bが積層した構造が作製される。
【0050】
このように作製された磁気抵抗効果素子1では、チャネル層7の長辺側の側面と、第1強磁性層12Aおよび第2強磁性層12Bの側面(第1強磁性層12Aおよび第2強磁性層12Bの配列方向に沿う側面)とが、同一の面上に存在している。また、チャネル層7の短辺側の一方の側面と、第1強磁性層12Aの側面(第1強磁性層12Aおよび第2強磁性層12Bの配列方向に交差する側面であって、第2強磁性層12Bとは反対側の側面)とが、同一の面上に存在している。また、チャネル層7の短辺側の他方の側面と、第2強磁性層12Bの側面(第1強磁性層12Aおよび第2強磁性層12Bの配列方向に交差する側面であって、第1強磁性層12Aとは反対側の側面)とが、同一の面上に存在している。
【0051】
なお、チャネル層7における第1強磁性層12Aから第2強磁性層12Bまでの距離は、チャネル層7に用いる材料のスピン拡散長以下であることが好ましい。
【0052】
(効果の説明)
チャネル層7の材料としてn型半導体を用い、スピン輸送経路内において、第2強磁性層12Bを正、第1強磁性層12Aを負とする電圧を印加した場合、第2強磁性層12Bからチャネル層7を介して第1強磁性層12Aへと電流が流れるとともに、チャネル層7の内部には、第2領域A2側を正、第1領域A1側を負とした電界が生じる。この場合、第1強磁性層12Aによってスピン偏極を起こした電子が第1強磁性層12Aから注入され、チャネル層7を介し、第2強磁性層12Bへと輸送されるが、チャネル層7の内部においては、スピン偏極した電子が流れる方向と同じ方向にスピン偏極した電子を加速させて輸送しようという力(ドリフト電界)が、スピン偏極した電子に加わる。これにより、スピン偏極した電子が第2領域A2(特に、第2強磁性層12Bと第2領域A2との間の界面付近)に高密度に蓄積する。
【0053】
チャネル層7の材料としてp型半導体を用い、スピン輸送経路内において、第1強磁性層12Aを正、第2強磁性層12Bを負とする電圧を印加した場合、第1強磁性層12Aからチャネル層7を介して第2強磁性層12Bへと電流が流れるとともに、チャネル層7の内部には、第1領域A1側を正、第2領域A2側を負とした電界が生じる。この場合、第1強磁性層12Aによってスピン偏極を起こしたホールが第1強磁性層12Aから注入され、チャネル層7を介し、第2強磁性層12Bへと輸送されるが、チャネル層7の内部においては、スピン偏極したホールが流れる方向と同じ方向にスピン偏極したホールを加速させて輸送しようという力(ドリフト電界)が、スピン偏極したホールに加わる。これにより、スピン偏極したホールが第2領域A2(特に、第2強磁性層12Bと第2領域A2との間の界面付近)に高密度に蓄積する。
【0054】
このように、スピン偏極キャリアが、第1強磁性層12Aから第2強磁性層12Bの方向に輸送され、第2領域A2にスピンの非平衡状態(スピン蓄積)が生成されることにより、磁気抵抗効果素子1には、第1強磁性層12Aの磁化と第2強磁性層12Bの磁化に起因した磁気抵抗効果が発生し、第1強磁性層12Aの磁化方向と第2強磁性層12Bの磁化方向の相対角の変化に応じた抵抗変化が生じる。このうち、主に、第2強磁性層12Bとチャネル層7の第2領域A2との間の磁気抵抗効果による抵抗変化に対応した電圧変化(出力値)が、チャネル層7を介して第2強磁性層12Bおよび参照電極20の間において検出される。
【0055】
磁気抵抗効果素子1では、参照電極20の少なくとも一部が、第1領域A1、第2領域A2および第3領域A3からなる領域に接している。そのため、第1領域A1、第2領域A2および第3領域A3からなる領域と参照電極20とが離間して配置されている場合(従来例)に比べて、チャネル層7の延在部(チャネル層全体からスピン輸送経路に相当する領域を除いた部分)の体積を小さくすることができる。
【0056】
従来例に係る磁気抵抗効果素子1xの斜視図を
図9に示す。
図9に示すように、磁気抵抗効果素子1xのチャネル層7xは、第2領域A2xから離間して設けられた参照電極20xとチャネル層7xの厚み方向から見て重なる領域と、この領域と第2領域A2xとの間の領域とからなる領域である延在部AExを有している。磁気抵抗効果素子1xにおいて、チャネル層7xは、第1領域A1x、第2領域A2x、第1領域A1xと第2領域A2xの間の領域である第3領域A3xおよび延在部AExから構成されている。参照電極20xは、第2領域A2xには接しておらず、延在部AExに接している。
【0057】
第2領域A2(A2x)に蓄積したスピンは、第2領域A2(A2x)を中心にチャネル層7(7x)の内部を三次元的に拡散する性質がある。したがって、磁気抵抗効果素子1のように、チャネル層7の延在部の体積を小さくすることにより、第2領域A2に蓄積したスピンの第2領域A2から延在部への方向への拡散を抑制することができる。その結果、第2領域A2にスピンを高密度に蓄積することができ、磁気抵抗効果素子1の出力信号を大きくすることができる。したがって、磁気抵抗効果素子1は、高いSN比を有することができる。
【0058】
なお、磁気抵抗効果素子1では、チャネル層7において、スピン偏極キャリアが流れる部分(スピン輸送経路)と電圧が検出される部分(スピン検出経路)とが重なる領域が存在する。チャネル層7におけるスピン輸送経路とスピン検出経路とが重なる領域の体積を小さくするほど、スピン輸送経路に生じる電圧降下の影響を小さくすることができ、出力ノイズを小さくすることができる。また、チャネル層7と参照電極20との接触面積が大きいほど、スピン検出経路における抵抗値を小さくすることができ、出力ノイズを小さくすることができる。磁気抵抗効果素子1は、参照電極20の少なくとも一部が第2領域A2に接しているので、参照電極20の少なくとも一部が第1領域A1、第2領域A2および第3領域A3からなる領域と接するとともに第2領域A2と参照電極20とが離間して配置されている場合に比べて、チャネル層7と参照電極20との接触面積が同じである場合で比較すると、チャネル層7におけるスピン偏極キャリアが流れる部分(スピン輸送経路)と電圧が検出される部分(スピン検出経路)とが重なる領域の体積を小さくすることができる。その結果、磁気抵抗効果素子1の出力ノイズを小さくすることができる。
【0059】
また、磁気抵抗効果素子1では、参照電極20が第1領域A1に接していないので、チャネル層7におけるスピン偏極キャリアが流れる部分(スピン輸送経路)と電圧が検出される部分(スピン検出経路)とが重なる領域が、第1領域A1においては存在せず、チャネル層7におけるスピン輸送経路とスピン検出経路とが重なる領域の体積が小さい。その結果、磁気抵抗効果素子1の出力ノイズを小さくすることができる。
【0060】
また、磁気抵抗効果素子1では、参照電極20が第3領域A3に接していないので、チャネル層7におけるスピン偏極キャリアが流れる部分(スピン輸送経路)と電圧が検出される部分(スピン検出経路)とが重なる領域が、第3領域A3においても存在せず、チャネル層7におけるスピン輸送経路とスピン検出経路とが重なる領域の体積が小さい。その結果、磁気抵抗効果素子1の出力ノイズをさらに小さくすることができる。
【0061】
なお、第1実施形態の磁気抵抗効果素子1では、第1強磁性層12Aと第2強磁性層12Bとがチャネル層7の上面側に、参照電極20がチャネル層7の下面側に設けられている例で説明したが、第1強磁性層12Aと第2強磁性層12Bとがチャネル層7の下面側に、参照電極20がチャネル層7の上面側に設けられていてもよい。また、第1強磁性層12Aと参照電極20とがチャネル層7の上面側に、第2強磁性層12Bがチャネル層7の下面側に設けられていてもよい。また、第1強磁性層12Aと参照電極20とがチャネル層7の下面側に、第2強磁性層12Bがチャネル層7の上面側に設けられていてもよい。
【0062】
また、第1実施形態の磁気抵抗効果素子1では、参照電極20が第2領域A2の下面に接するように配置される例で説明したが、参照電極20が第2領域A2の側面に接するように配置されていてもよい。
図2に、第2領域A2が第3領域A3と接する面に対向する第2領域A2の端面(チャネル層7の短辺側の側面)に参照電極20が配置されている磁気抵抗効果素子1aの斜視図を示す。磁気抵抗効果素子1aにおいても、参照電極20が第2領域A2に接するように設けられていることで、高いSN比が得られる。
【0063】
(第2実施形態)
以下、第2実施形態に係る磁気抵抗効果素子2について、第1実施形態の磁気抵抗効果素子1と異なる点について主に説明し、共通する事項は適宜説明を省略する。
【0064】
磁気抵抗効果素子2は、第1実施形態の磁気抵抗効果素子1に対して、チャネル層7の構成が異なる。
図3に示すように、磁気抵抗効果素子2では、第2領域A2が第3領域A3と接する面に対向する第2領域A2の端面から、第3領域A3から離れる方向へ向かって延びる延在部AEを有している。
図3に示す磁気抵抗効果素子2では、延在部AEは、チャネル層7が参照電極20とチャネル層7の厚み方向から見て重なる領域から、第2領域A2を除いた領域となっている。参照電極20は、第2領域A2および延在部AEの下面に接している。磁気抵抗効果素子2のその他の点は、第1実施形態の磁気抵抗効果素子1と同じである。
【0065】
磁気抵抗効果素子2では、従来例(磁気抵抗効果素子1x)と同様、チャネル層7に延在部AEが設けられているが、参照電極20の少なくとも一部が第1領域A1、第2領域A2および第3領域A3からなる領域に接するように設けられていることにより、従来例(磁気抵抗効果素子1x)よりも延在部AEの体積が小さくなっている。そのため、磁気抵抗効果素子2では、第2領域A2に蓄積したスピンの第2領域A2から延在部AEへの方向への拡散を抑制することができる。これにより、磁気抵抗効果素子1に比べて出力信号増大効果は小さくなるものの、出力信号を従来例に比べて大きくすることができる。
【0066】
また、磁気抵抗効果素子2では、第2領域A2および延在部AEの下面に参照電極20が設けられていることにより、磁気抵抗効果素子1よりもチャネル層7と参照電極20との接触面積が大きくなっている。そのため、磁気抵抗効果素子2は、磁気抵抗効果素子1に比べて出力ノイズを小さくすることができる。その結果、磁気抵抗効果素子2においても、高いSN比が得られる。
【0067】
なお、第2実施形態の磁気抵抗効果素子2では、チャネル層7の形状が直方体である例で説明したが、チャネル層7がテーパー形状を有していてもよい。
図4にチャネル層7の延在部AEの側面(第1強磁性層12Aおよび第2強磁性層12Bの配列方向に交差する側面であって、第2領域A2とは反対側の側面)の部分の形状がテーパー形状である磁気抵抗効果素子2aの斜視図を示す。磁気抵抗効果素子2aにおいては、チャネル層7は、チャネル層7の厚み方向に垂直な断面が、上面側(第2強磁性層12Bとの対向面側)から下面側(参照電極20との対向面側)に向かって広くなるような形状となっている。磁気抵抗効果素子2aにおいては、チャネル層7の第1強磁性層12A側の側面(第1強磁性層12Aおよび第2強磁性層12Bの配列方向に交差する側面)と、第1強磁性層12Aの側面(第1強磁性層12Aおよび第2強磁性層12Bの配列方向に交差する側面であって、第2強磁性層12Bとは反対側の側面)とは、同一の面上に存在している。
【0068】
磁気抵抗効果素子2aは、例えば、非磁性半導体層、障壁層および強磁性層からなる積層膜をパターニングする工程において、テーパーを有する側面を形成する際にイオンミリングの傾斜角を大きくすることにより、作製することができる。
【0069】
磁気抵抗効果素子2aは、チャネル層7の形状が直方体である場合(磁気抵抗効果素子2)に比べて、チャネル層7と参照電極20との接触面積が同じ場合で比較すると、チャネル層7における延在部AEの体積を小さくすることができる。これにより、磁気抵抗効果素子2aでは、チャネル層7と参照電極20との接触面積を大きくすることによって得られる出力ノイズ低減効果を備えながら、第2領域A2の上部(第2強磁性層12Bと第2領域A2との間の界面付近)に蓄積したスピンの第2領域A2から延在部AEへの方向への拡散を抑制することができ、出力信号を大きくすることができる。したがって、磁気抵抗効果素子2aでは、磁気抵抗効果素子2よりも高いSN比が得られる。
【0070】
(第3実施形態)
以下、第3実施形態に係る磁気抵抗効果素子3について、第1実施形態の磁気抵抗効果素子1と異なる点について主に説明し、共通する事項は適宜説明を省略する。
【0071】
磁気抵抗効果素子3は、第1実施形態の磁気抵抗効果素子1に対して、参照電極20の設置位置が異なる。
図5に示すように、磁気抵抗効果素子3では、参照電極20は、チャネル層7の第2領域A2の下面の一部に接するように設けられている。
【0072】
磁気抵抗効果素子3は、参照電極20を形成する工程、チャネル層7を形成する工程、および第2強磁性層12Bを形成する工程のそれぞれのパターンレイアウトを、磁気抵抗効果素子1の作製方法に対して変更することにより、作製することができる。
【0073】
磁気抵抗効果素子3は、参照電極20が第2領域A2の下面全体に接している場合(磁気抵抗効果素子1)に比べて、チャネル層7と参照電極20との接触面積が小さくなっている。これにより、チャネル層7におけるスピン偏極キャリアが流れる部分と電圧を検出する部分とが重なる領域の体積を小さくすることができる。その結果、磁気抵抗効果素子3の出力ノイズを小さくすることができる。
【0074】
なお、磁気抵抗効果素子3では、参照電極20が第2領域A2の下面全体に接している場合(磁気抵抗効果素子1)に比べて、チャネル層7と参照電極20との界面における抵抗値が大きくなっている。この場合、スピン検出経路の抵抗値に起因する出力ノイズは磁気抵抗効果素子1に比べて大きくなるが、チャネル層7におけるスピン偏極キャリアが流れる部分と電圧を検出する部分とが重なる領域の体積を小さくすることによる出力ノイズ低減効果が得られる。したがって、磁気抵抗効果素子3においても、高いSN比が得られる。
【0075】
なお、これまで説明した第1〜第3実施形態では、参照電極20がチャネル層7と第2領域A2のみで接するように配置される例で説明したが、参照電極20が第2領域A2の下面だけでなく、第3領域A3または第1領域A1の下面においても接するように配置されていてもよい。
図6に、参照電極20が第2領域A2および第3領域A3の下面に接するように配置されている磁気抵抗効果素子3aの斜視図を示す。磁気抵抗効果素子3aにおいても、参照電極20は、第1強磁性層12Aおよび第2強磁性層12Bから離間して設けられている。
【0076】
磁気抵抗効果素子3aでは、参照電極20がチャネル層7と第2領域A2のみで接するように配置される場合(磁気抵抗効果素子1)に比べて、チャネル層7と参照電極20との界面における抵抗値が小さくなっている。これにより、磁気抵抗効果素子3aの出力ノイズを小さくすることができる。
【0077】
一方、磁気抵抗効果素子3aでは、参照電極20がチャネル層7と第2領域A2のみで接するように配置される場合(磁気抵抗効果素子1)に比べて、チャネル層7におけるスピン偏極キャリアが流れる部分と電圧を検出する部分とが重なる領域の体積が大きくなっている。この場合、チャネル層7におけるスピン偏極キャリアが流れる部分と電圧を検出する部分とが重なる領域の体積に起因する出力ノイズは磁気抵抗効果素子1に比べて大きくなるが、スピン検出経路の抵抗値を小さくすることによる出力ノイズ低減効果が得られる。したがって、磁気抵抗効果素子3aにおいても、高いSN比が得られる。
【0078】
また、第1〜第3実施形態では、参照電極20の少なくとも一部が第2領域A2に接している例で説明したが、参照電極20が第2領域A2に接していなくても良い。例えば、チャネル層7と参照電極20の少なくとも一部が、第1領域A1と第3領域A3の両方のみ、またはいずれか一方のみで接するように設けられていてもよい。このような場合の磁気抵抗効果素子であっても、参照電極20の少なくとも一部が、第1領域A1、第2領域A2および第3領域A3からなる領域に接していることで、第1領域A1、第2領域A2および第3領域A3からなる領域と参照電極20とが離間して配置されている場合に比べて、チャネル層7の延在部の体積を小さくすることができ、高いSN比を実現することができる。
【0079】
(第4実施形態)
以下、第4実施形態に係る磁気センサ100について説明する。
図7は、磁気センサ100の要部断面図であり、
図8は、
図7における磁性媒体Mから見た側面図(X方向から見た側面図)である。
図7および
図8に示すように、磁気センサ100は、支持基板30上に下地絶縁層80を介して、磁気抵抗効果素子1と、磁気抵抗効果素子1を膜面直交方向(Z方向)に挟むように設けられた下部磁気シールド40及び上部磁気シールド50とを有している。また、
図8に示すように、磁気センサ100は、磁気抵抗効果素子1の幅方向であるY方向(
図7においては紙面直交方向)の両側に設けられたバイアス磁界印加層16を有している。チャネル層7と下部磁気シールド40の間、および磁気抵抗効果素子1とバイアス磁界印加層16の間には絶縁膜4が設けられている。絶縁膜4は、バイアス磁界印加層16と磁気抵抗効果素子1を絶縁分離するとともに、下部磁気シールド40およびバイアス磁界印加層16などによるスピンの吸収を抑制するために形成される。バイアス磁界印加層16は、磁気抵抗効果素子1の第1強磁性層12Aを単磁区化するために、第1強磁性層12AにY方向のバイアス磁界を印加する。絶縁膜4の材料は、例えばAl
2O
3またはSiO
2など、バイアス磁界印加層16の材料は、例えばCoPtまたはCoCrPtなど、下部磁気シールド40及び上部磁気シールド50の材料は、例えばNiFeなどが好ましい。
【0080】
図7に示すように、下部磁気シールド40は、チャネル層7および参照電極20の下部に設けられている。参照電極20は、下部磁気シールド40の凹部に接して設けられている。上部磁気シールド50は、第1強磁性層12Aの上部に設けられている。第2強磁性層12Bの上部には、配線5が設けられている。上部磁気シールド50は磁気抵抗効果素子1に電流を印加するための配線を兼ねている。下部磁気シールド40は磁気抵抗効果素子1の電圧を検出するための配線を兼ねている。配線5の材料は、下部磁気シールド40及び上部磁気シールド50の材料と同じであってもよい。上部磁気シールド50と配線5との間には電流源60が接続され、チャネル層7を介して第1強磁性層12Aと第2強磁性層12Bとの間に電流が印加されるようになっている。配線5と下部磁気シールド40との間には電圧計70が接続され、第2強磁性層12Bと参照電極20との間の電圧が検出されるようになっている。
【0081】
磁気センサ100について、検出する外部磁界として、磁性媒体Mから生じる磁界を検出する例で説明する。
図7に示すように、磁気センサ100では、磁気抵抗効果素子1の先端部(第1強磁性層12Aの一端)が、磁気センサ100の磁性媒体Mとの対向面に配置されている。磁気センサ100において、第1強磁性層12Aは、磁性媒体Mから生じる磁界に応じてその磁化方向が変化する層(磁化自由層)として機能する。第1強磁性層12Aとしては、特に軟磁性材料が適用される。なお、磁気センサ100の磁性媒体Mとの対向面には、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)等の保護膜が形成されていることが好ましいが、
図7および
図8においては、保護膜は省略している。
【0082】
図7に示すように、磁気センサ100において、第2強磁性層12Bは、磁性媒体Mから離れた位置に配置されている。このため、第2強磁性層12Bは、磁性媒体Mから生じる磁界の影響を受けにくくなっているため、その磁化方向が一方向に固定された層(磁化固定層)として機能する。第2強磁性層12Bの磁化の固定をより強固にする(第2強磁性層12Bの保磁力を大きくする)ために、第2強磁性層12Bに形状異方性を付与してもよい。または、第2強磁性層12B上に反強磁性層を積層することにより、第2強磁性層12Bと反強磁性層との間に働く交換結合を利用してもよい。または、第2強磁性層12Bをシンセティックピンド構造にすることにより、第2強磁性層12Bの内部に働く交換結合を利用してもよい。
【0083】
チャネル層7を介して第1強磁性層12Aと第2強磁性層12Bとの間に電流が印加され、第2強磁性層12Bと参照電極20の間の電圧を測定することにより、磁性媒体Mから生じる磁界を検出することが可能となる。磁性媒体Mから生じる磁界の変化に応じて、第1強磁性層12Aの磁化方向と第2強磁性層12Bの磁化方向の相対角が変化して、第2強磁性層12Bと参照電極20との間の電圧が変化する。
【0084】
磁気センサ100は、高いSN比を得ることができる磁気抵抗効果素子1を有するので、精度よく外部磁場を検出することができる。
【0085】
第4実施形態の磁気センサ100は、磁気抵抗効果素子1を有する例であるが、磁気抵抗効果素子1にかえて、磁気抵抗効果素子1a、磁気抵抗効果素子2、磁気抵抗効果素子2a、磁気抵抗効果素子3または磁気抵抗効果素子3aを用いてもよい。