特許第6652125号(P6652125)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6652125
(24)【登録日】2020年1月27日
(45)【発行日】2020年2月19日
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0587 20100101AFI20200210BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20200210BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20200210BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20200210BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20200210BHJP
   H01M 2/26 20060101ALI20200210BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20200210BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20200210BHJP
【FI】
   H01M10/0587
   H01M4/48
   H01M4/36 E
   H01M4/133
   H01M4/587
   H01M4/36 A
   H01M2/26 A
   H01M4/38 Z
   H01M4/58
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-506052(P2017-506052)
(86)(22)【出願日】2016年2月22日
(86)【国際出願番号】JP2016000922
(87)【国際公開番号】WO2016147564
(87)【国際公開日】20160922
【審査請求日】2019年2月7日
(31)【優先権主張番号】特願2015-50951(P2015-50951)
(32)【優先日】2015年3月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001889
【氏名又は名称】三洋電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104732
【弁理士】
【氏名又は名称】徳田 佳昭
(74)【代理人】
【識別番号】100116078
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 浩希
(72)【発明者】
【氏名】草河 孝一
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 和弘
(72)【発明者】
【氏名】長崎 顕
【審査官】 結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−110453(JP,A)
【文献】 特開2014−225325(JP,A)
【文献】 特開2002−203557(JP,A)
【文献】 特開2000−3722(JP,A)
【文献】 特開2010−212228(JP,A)
【文献】 特開2001−110456(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0587
H01M 2/26
H01M 4/00−4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極板と正極板がセパレータを介して巻回された電極体と、非水電解質と、前記電極体と前記非水電解質を収納する外装缶と、前記外装缶の開口部を封止する封口体とを備え、
前記負極板は負極集電体上に形成された負極合剤層を有し、
前記負極合剤層はケイ素材料及び黒鉛を負極活物質として含み、
前記負極板の巻始め端部に負極タブが接続された第1負極集電体露出部が設けられ、前記負極板の巻終り端部に前記外装缶の内壁面と接触する第2負極集電体露出部が設けられている、
非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記ケイ素材料が、一般式SiO(0.5≦x<1.6)で表される酸化ケイ素である請求項1記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記ケイ素材料が、ケイ素粒子と黒鉛粒子が非晶質炭素で互いに結着している複合体である請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記ケイ素材料が、一般式Li2zSiO(2+z)(0<z<2)で表されるケイ酸リチウム相にケイ素粒子が分散している複合体である請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
前記ケイ素材料の含有量は、前記ケイ素材料と前記黒鉛の合計質量に対して3質量%以上20質量%以下である請求項1から4のいずれかに記載の非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高容量で負荷特性に優れた非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、非水電解質二次電池はスマートフォン、タブレット型コンピュータ、ノートパソコン及び携帯型音楽プレイヤーなどの携帯型電子機器の駆動電源として広く用いられている。さらに非水電解質二次電池の用途は電動工具、電動アシスト自転車及電気自動車などに拡大しており、非水電解質二次電池には高容量化とともに高出力化も求められている。
【0003】
非水電解質二次電池の負極活物質としては黒鉛などの炭素材料が主に用いられている。炭素材料はリチウム金属に匹敵する放電電位を有しながら、充電時におけるリチウムのデンドライト成長を抑制することができる。そのため、炭素材料を負極活物質として用いることで安全性に優れた非水電解質二次電池を提供することができる。黒鉛はリチウムイオンをLiCの組成になるまで吸蔵することができ、その理論容量は372mAh/gを示す。
【0004】
ところが、現在使用されている炭素材料は既に理論容量に近い容量を示しており、負極活物質を改良することによる非水電解質二次電池の高容量化は難しくなっている。そこで、近年は炭素材料よりも高い容量を有するケイ素や酸化ケイ素などのケイ素材料が非水電解質二次電池の負極活物質として注目されている。例えば、ケイ素はLi4.4Siの組成となるまでリチウムイオンを吸蔵することができ、その理論容量は4200mAh/gを示す。そのため、ケイ素材料を負極活物質として用いることで非水電解質二次電池を高容量化することができる。
【0005】
ケイ素材料は炭素材料と同様に充電時におけるリチウムのデンドライト成長を抑制することができる。しかし、ケイ素材料は炭素材料に比べて充放電に伴う膨張収縮が大きいため、負極活物質の微粉化や導電ネットワークからの脱落などが原因で炭素材料に比べてサイクル特性に劣るという問題を有している。
【0006】
特許文献1は、負極活物質としてSiとOを構成元素に含む材料及び黒鉛を含有する負極合剤層と、正極活物質としてNiやMnなどを必須の構成元素とするリチウム遷移金属複合酸化物を含有する正極合剤層とを有する非水電解質二次電池を開示している。SiとOを構成元素に含む材料の比率を所定範囲に規定することで、高容量で良好な電池特性を有する非水電解質二次電池が得られることが報告されている。
【0007】
非水電解質二次電池の出力特性を向上させる手段として、特許文献2は非水電解質二次電池の負極板の両端に設けられた負極活物質の未塗布領域のそれぞれに負極タブを接続することを開示している。
【0008】
特許文献3には、電池缶内の余剰空間を最小にするために電極体の最外周の負極集電体を電池缶の内壁面と導電性の弾性部材を介して接触させた非水電解質二次電池を開示している。また、特許文献3は電極体の最外周の負極集電体を電池缶の内壁面と接触させるために電池缶の側面にくぼみを設けることも開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−212228号公報
【特許文献2】特開2001−110453号公報
【特許文献3】特開2000−3722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献2に開示されているように、負極板の両端に負極タブを接続する方法は非水電解質二次電池の負荷特性を向上させる手段として有効である。しかしながら、負極板の両端に負極タブを接続した非水電解質二次電池において充電時の体積変化が大きいケイ素や酸化ケイ素などのケイ素材料を負極活物質として用いると、電極体が変形しやすいことが本発明者らの検討によって明らかとなった。
【0011】
また、負極板に複数の負極タブを接続すると、充放電に寄与しない部材が電池内部の空間の一部を占有することになるため電池の高容量化の障害となる。
【0012】
特許文献3に記載された技術によれば負極タブを用いる必要はない。しかし、負極集電体と外装缶とを確実に電気的に接続するためには、導電性の弾性部材を負極板と外装缶の間に介在させることや外装缶の周囲に環状の溝を設けることが必要である。そのため、特許文献3に記載された技術では非水電解質二次電池の高容量化と負荷特性の向上を両立させることは難しい。
【0013】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、負極活物質としてケイ素材料及び黒鉛を用い、高容量で負荷特性に優れた非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために本発明の一態様に係る非水電解質二次電池は、正極板と負極板がセパレータを介して巻回された電極体と、非水電解質と、電極体と非水電解質を収納する外装缶と、外装缶の開口部を封止する封口体とを備え、負極板は負極集電体上に形成された負極合剤層を有し、ケイ素材料及び黒鉛を負極活物質として含み、負極板の巻始め端部に負極タブが接続された第1負極集電体露出部が設けられ、負極板の巻終り端部に外装缶の内壁面と接触する第2負極集電体露出部が設けられていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一態様によれば、高容量で負荷特性に優れた非水電解質二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は実施例に係る非水電解質二次電池の断面斜視図である。
図2図2は実施例に係る負極板の平面図である。
図3図3は実施例に係る正極板の平面図である。
図4図4は実施例に係る電極体の斜視図である。
図5図5は比較例2及び比較例3に係る負極板の平面図である。
図6図6は比較例2及び比較例3に係る電極体の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明を実施するための形態を実施例及び比較例を用いて詳細に説明する。なお、本発明は下記の形態に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することができる。
【実施例】
【0018】
(実施例1)
(負極活物質の作製)
SiO(一般式SiOのx=1に対応)の組成を有する酸化ケイ素を炭化水素系のガスを含むアルゴン雰囲気下で加熱し、炭化水素系のガスを熱分解させる化学蒸着(CVD)法によりSiOの表面を炭素で被覆した。炭素の被覆量はSiOの質量に対して10質量%とした。次に、炭素で被覆されたSiO粒子をアルゴン雰囲気下、かつ1000℃で不均化反応させることによりSiO粒子中に微細なSi相とSiO相を形成した。得られた粒子を所定の粒度に分級してケイ素材料としてのSiOを得た。このSiOと黒鉛を、SiOの質量と黒鉛の合計質量に対してSiOの質量が4質量%となるように混合して負極活物質を作製した。
【0019】
(負極板の作製)
負極活物質が97質量部、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)が1.5質量部、結着剤としてのスチレンブタジエンゴム(SBR)が1.5質量部となるように混合した。この混合物を分散媒としての水に投入し、混練して負極合剤スラリーを調製した。この負極合剤スラリーを、厚み8μmの銅製の負極集電体の両面にドクターブレード法により塗布し、乾燥して負極合剤層23を形成した。その際、完成した負極板21の両端に対応する位置にその両面に負極合剤層23が形成されていない第1負極集電体露出部24aと第2負極集電体露出部24bを設けた。そして、この負極合剤層23をローラーにより圧縮し、その圧縮された極板を所定サイズに切断した。最後に、第1負極集電体露出部24aにニッケル製の負極タブ22aを接続して図2に示す負極板21を作製した。
【0020】
(正極活物質の作製)
式Ni0.82Co0.15Al0.03で表されるニッケル複合酸化物の金属元素の総モル数に対してリチウム元素のモル数が1.025の割合になるように水酸化リチウムを混合した。この混合物を酸素雰囲気下で、750℃で18時間焼成して、LiNi0.82Co0.15Al0.03で表されるリチウムニッケル複合酸化物を作製した。
【0021】
(正極板の作製)
正極活物質としてのLiNi0.82Co0.15Al0.03が100質量部、導電剤としてのアセチレンブラックが1質量部、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)が0.9質量部となるように混合した。この混合物を分散媒としてのN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に投入し、混練して正極合剤スラリーを調製した。この正極合剤スラリーをドクターブレード法により厚み15μmのアルミニウム製の正極集電体の両面に塗布し、乾燥して正極合剤層33を形成した。その際、完成した正極板31の中央部に対応する位置にその両面に正極合剤層33が形成されていない正極集電体露出部34を設けた。この正極合剤層33をローラーにより圧縮し、その圧縮された極板を所定のサイズに切断した。最後に、正極集電体露出部34にアルミニウム製の正極タブ32を接続して図3に示す正極板31を作製した。
【0022】
(電極体の作製)
上記のようにして作製した負極板21と正極板31をポリエチレン製の微多孔膜からなるセパレータ11を介して巻回して電極体14を作製した。このとき第1負極集電体露出部24aを電極体14の巻始め側に配置し、第2負極集電体露出部24bを電極体14の最外周の全てを占めるように配置した。負極板21の巻終り端部には厚みが30μmのポリプロピレン製の巻留テープ15を図4のように貼り付けた。
【0023】
(非水電解質の調製)
エチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、及びジメチルカーボネート(DMC)を25:5:70の体積比(1気圧、25℃)で混合して非水溶媒を調製した。この非水溶媒に電解質塩としてのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)を1.4mol/Lの濃度で溶解して非水電解質を調製した。
【0024】
(非水電解質二次電池の作製)
電極体14の上下にそれぞれ上部絶縁板12と下部絶縁板13を配置した。次いで、負極タブ22aを電極体14の中心方向へ折り曲げて電極体14を外装缶18へ収納し、負極タブ22aを外装缶18の底部に一対の電極を用いて抵抗溶接により溶接した。正極タブ32は封口体17の端子板に接続した。非水電解質を外装缶18の内部へ注液した後、ガスケット16を介して封口体17を外装缶18の開口部にかしめ固定して、直径18mm、高さ65mmの図1に示す非水電解質二次電池10を作製した。
【0025】
(実施例2〜7)
負極活物質中のSiOの含有量を表1に記載された値に変更したこと以外は実施例1と同様にして実施例2〜7に係る非水電解質二次電池10を作製した。
【0026】
(実施例8)
炭素で被覆されたSiOに代えてケイ素(Si)を用いたこと以外は実施例2と同様にして実施例8に係る非水電解質二次電池10を作製した。
【0027】
(実施例9〜14)
負極活物質中のSiの含有量を表1に記載された値に変更したこと以外は実施例8と同様にして実施例9〜14に係る非水電解質二次電池10を作製した。
【0028】
(実施例15)
(ケイ素−黒鉛複合体の作製)
窒素ガス雰囲気中で、単結晶のSi粒子をビーズミルとともに溶媒のメチルナフタレンへ投入し、平均粒径(メジアン径D50)が0.2μmになるようにSi粒子を湿式粉砕してケイ素含有スラリーを作製した。そのケイ素含有スラリーに黒鉛粒子と炭素ピッチを加えて混合し、炭素ピッチを炭化させた。その生成物を所定範囲の粒度になるように分級し、炭素ピッチを加えた。さらにその炭素ピッチを炭化させて、Si粒子及び黒鉛粒子が非晶質炭素で結着したケイ素−黒鉛複合体を得た。この複合体中のケイ素の含有量は20.9質量%であった。
【0029】
炭素で被覆されたSiOに代えて、上記のようにして作製したケイ素−黒鉛複合体を用いたこと以外は実施例1と同様にして実施例15に係る非水電解質二次電池10を作製した。
【0030】
(実施例16)
(ケイ素−ケイ酸リチウム複合体の作製)
不活性雰囲気中で、Si粒子とケイ酸リチウム(LiSiO)粒子を、42:58の質量比で混合し、その混合物を遊星ボールミルでミリング処理を行った。そして不活性ガス雰囲気中でミリング処理した粒子を取り出し、600℃で4時間の熱処理を不活性ガス雰囲気中で行った。熱処理した粒子(以下、母粒子という)を粉砕し、石炭ピッチと混合して800℃で5時間の熱処理を不活性雰囲気中で行って母粒子の表面に炭素の導電層を形成した。導電層に含まれる炭素量は、母粒子及び導電層の合計質量に対して5質量%とした。最後に、母粒子を分級して平均粒径が5μmのケイ素−ケイ酸リチウム複合体を作製した。
【0031】
(ケイ素−ケイ酸リチウム複合体の分析)
ケイ素−ケイ酸リチウム複合体の断面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察した結果、複合体中に含まれるSi粒子の平均粒径は100nm未満であった。また、LiSiOからなるマトリックス中にSi粒子が均一に分散していることが確認された。ケイ素−ケイ酸リチウム複合体のXRDパターンには、SiとLiSiOに帰属される回折ピークが確認された。X線回折(XRD)パターンの2θ=27°付近に現れるLiSiOの面指数(111)の半値幅は0.233であった。なお、XRDパターンにSiOに帰属される回折ピークは確認されず、Si−NMRで測定したSiOの含有量は検出下限値未満であった。
【0032】
炭素で被覆されたSiOに代えて、上記のようにして作製したケイ素−ケイ酸リチウム複合体を用いたこと以外は実施例1と同様にして実施例16に係る非水電解質二次電池10を作製した。
【0033】
(比較例1)
負極活物質として黒鉛のみを用いたこと以外は実施例1と同様にして比較例1に係る非水電解質二次電池を作製した。
【0034】
(比較例2)
第2負極集電体露出部24bに負極タブ22bを接続した負極板51を用いて最外周がセパレータ11で覆われた電極体64を作製し、2本の負極タブ22a、22bを外装缶18の底部に溶接したこと以外は実施例1と同様にして比較例2に係る非水電解質二次電池を作製した。
【0035】
(比較例3)
第2負極集電体露出部24bに負極タブ22bを接続した負極板51を用いて最外周がセパレータ11で覆われた電極体64を作製し、2本の負極タブ22a、22bを外装缶18の底部に溶接したこと以外は実施例11と同様にして比較例3に係る非水電解質二次電池を作製した。
【0036】
(放電負荷特性の評価)
実施例1〜16及び比較例1〜3の各電池について、次に述べる条件により放電負荷特性を評価した。まず、各電池を4.2Vになるまで0.5Itの定電流で充電し、電流値が0.02Itになるまで4.2Vの定電圧で充電した。20分の休止後、各電池を電池電圧が2.5Vになるまで0.2Itの定電流で放電して、0.2It放電容量を測定した。次いで、上記の充電方法と同じ条件で各電池を充電した後、各電池を電池電圧が2.5Vになるまで1Itの定電流で放電して、1It放電容量を測定した。0.2It放電容量に対する1It放電容量の百分率を放電負荷特性として算出した。その結果を表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
表1から、実施例1の放電負荷特性は99.4%と比較例1に比べて向上していることがわかる。実施例1の放電負荷特性は負極板の第1及び第2負極集電体露出部のそれぞれに負極タブが接続されている比較例2と同等である。この結果は、実施例1における第2負極集電体露出部と外装缶との接触による通電機能が、負極タブと外装缶の接続による通電機能と同等の効果を発揮していることを示している。
【0039】
実施例1にみられた上記の効果は負極活物質として充電時の膨張量が大きいSiOを用いたことによって発揮されているものと考えられる。しかし、放電負荷特性が向上していることは負極活物質が収縮する放電末期においても負極集電体と外装缶との接触が十分に確保されていることを示している。上記の効果は充電時の負極活物質の膨張量が大きいことから予測される範囲を超えている。
【0040】
SiOの含有量について、実施例2と比較例1を比較するとSiOは含有量が1質量%の場合でも放電負荷特性が向上していることがわかる。SiOはその含有量が微量であっても放電負荷特性を向上するように作用することが期待される。そのため、SiOの含有量は下限値を限定する必要はない。しかし、SiOの含有量が3質量%以上であれば負極板に2本の負極タブを接続した比較例2と同等の放電負荷特性が得られていることから、SiOの含有量は3質量%以上であることが好ましい。
【0041】
実施例8〜14と比較例3の結果から、ケイ素材料としてSiOに代えてSiを用いた場合でも上記と同様の効果が発揮されていることがわかる。つまり、Siを含むケイ素材料であって、リチウムイオンを可逆的に吸蔵、放出することができるものであれば、本発明の効果が発揮されることが期待される。
【0042】
実施例15及び16の結果から、ケイ素材料としてSiOに代えてケイ素−黒鉛複合体やケイ素−ケイ酸リチウム複合体を用いた場合にも本発明の効果が得られることがわかる。
【0043】
以上の実施例及び比較例の結果も踏まえつつ、以下に本発明を実施するための形態についてさらに説明する。
【0044】
上記の実施例では、第1及び第2負極集電体露出部ともに負極板の両面に設けた。このように負極集電体露出部を負極板の両面に設ける場合、負極集電体露出部の負極板の長手方向の長さを表裏で異なるようにすることもできる。例えば、第1負極集電体露出部のうち内側の長さを長くすることで、充放電に寄与しない負極合剤層を削減することができる。一方、第2負極集電体露出部には負極タブが接続されないため、外装缶の内壁面と対向する外側にのみ第2負極集電体露出部を設けてもよい。
【0045】
第1負極集電体露出部の負極板の長手方向の長さは、負極タブを接続するための領域が確保でき、電池容量が過度に低下しない範囲で決定することができる。その第1負極集電体露出部の長さは3mm以上30mm以下の範囲で決定することが好ましい。
【0046】
第2負極集電体露出部の負極板の長手方向の長さは、外装缶の内壁面との接触を十分に確保することができる範囲で決定することができる。その第2負極集電体露出部の長さは負極板の最外周部分の外側の表面積の30%以上を占める範囲で決定することが好ましい。
【0047】
負極活物質として、ケイ素材料及び黒鉛が用いられる。負極活物質はいずれも粒子状であることが好ましく、それらの平均粒子径は5μm以上30μm以下であることが好ましい。
【0048】
ケイ素材料は黒鉛に比べて電子伝導性が低いため、実施例で示したようにケイ素材料の表面を炭素で被覆することが好ましい。炭素の被覆量はケイ素材料に対して0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。ただし、ケイ素材料の表面に炭素を被覆することは必ずしも必須ではなく、炭素を被覆しない場合であっても本発明の効果は十分に発揮される。ケイ素材料の表面を被覆する炭素の質量はケイ素材料の質量には含まれない。
【0049】
負極活物質中のケイ素材料の含有量は特に制限されないがケイ素材料と黒鉛の合計質量に対して3質量%以上であることが好ましい。ケイ素材料の含有量が3質量%以上であれば非水電解質二次電池の負荷特性を向上させることができるが、サイクル特性など他の電池特性のバランスを考慮すると、ケイ素材料の含有量はケイ素材料と黒鉛の合計質量に対して20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
【0050】
ケイ素材料として、酸化ケイ素を用いることができる。サイクル特性など他の電池特性とのバランスを考慮すると、一般式SiO(0.5≦x<1.6)で表される酸化ケイ素を用いることが好ましい。
【0051】
ケイ素材料として、ケイ素を単独で又は他の材料との複合体として用いることもできる。ケイ素には単結晶ケイ素、多結晶ケイ素、及び非晶質ケイ素のいずれも用いることができるが、結晶子の大きさが60nm以下の多結晶ケイ素及び非晶質ケイ素が好ましい。このようなケイ素を用いることで、充放電時の粒子の割れなどが抑制され、サイクル特性が向上する。ケイ素の平均粒径(メジアン径D50)は0.1μm以上10μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.1μm以上5μm以下である。このような平均粒径を有するケイ素を得るための手段として、ジェットミルやボールミルを用いた乾式粉砕法やビーズミルやボールミルを用いた湿式粉砕法が挙げられる。ケイ素はニッケル、銅、コバルト、クロム、鉄、銀、チタン、モリブデン、及びタングステンからなる群から選ばれる少なくとも1つの金属元素と合金化することもできる。
【0052】
ケイ素と複合体を形成する材料として、ケイ素の充放電に伴う大きな体積変化を緩和する作用を有する材料を用いることが好ましい。そのような材料として、黒鉛及びケイ酸リチウムが例示される。
【0053】
ケイ素−黒鉛複合体は、実験例8で示したようにケイ素粒子と黒鉛粒子が互いに非晶質炭素で結着されていることが好ましい。黒鉛として、人造黒鉛及び天然黒鉛のいずれも用いることができる。ケイ素粒子と黒鉛粒子を結着する非晶質炭素の前駆体として、ピッチ系材料、タール系材料、及び、樹脂系材料を用いることができる。樹脂系材料として、ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、及びフェノール系樹脂が例示される。これらの非晶質炭素前駆体は、700〜1300℃の熱処理を不活性ガス雰囲気中で行うことで非晶質炭素に変化させることができる。このように非晶質炭素がケイ素粒子と黒鉛粒子を結着する場合は、非晶質炭素はケイ素−黒鉛複合体の構成要素に含まれる。ケイ素−黒鉛複合体中のケイ素含有量は10質量%以上60質量%以下であることが好ましい。
【0054】
ケイ素−ケイ酸リチウム複合体は、実験例16で示したようにケイ酸リチウム相中にケイ素粒子が分散した構造を有することが好ましい。ケイ素−ケイ酸リチウム複合体中のケイ素含有量は40質量%以上60質量%以下であることが好ましい。
【0055】
SiOは微視的にはSiO相中にSi粒子が分散した構造を有している。このSiO2がSiの充放電時の膨張、収縮を緩和するように作用していると考えられる。しかし、SiOを負極活物質に用いた場合、充電時にSiO2が式(1)のようにリチウム(Li)と反応する。
2SiO+8Li+8e → LiSi+LiSiO ・・・ (1)
【0056】
SiOとLiの反応によって生成したLiSiOは可逆的にリチウムを挿入、脱離することができない。そのため、SiOを負極活物質として含む負極には、初回充電時にLiSiOの生成に伴う不可逆容量が蓄積される。一方、ケイ酸リチウムはSiOのような不可逆容量を蓄積する化学反応が起きないため、負極の初回充放電効率を低下させることなくSiの充放電時の体積変化を緩和することができる。
【0057】
ケイ酸リチウムとして、実験例14で示したLiSiOに限定されず、一般式Li2zSiO(2+z)(0<z<2)で表されるケイ酸リチウムを用いることができる。また、XRDパターンにおけるケイ酸リチウムの(111)面の回折ピークの半値幅が0.05°以上であることが好ましい。これにより、ケイ素−ケイ酸リチウム複合体粒子内のリチウムイオン伝導性やSiの体積変化の緩和効果がさらに向上する。
【0058】
黒鉛としては、人造黒鉛及び天然黒鉛のいずれも用いることができる。これらは単独で又は組み合わせて用いることができる。
【0059】
正極活物質としては、リチウムイオンを可逆的に吸蔵、放出することができる材料であれば適宜選択して使用することができる。例えば、LiMO(MはCo、Ni、及びMnの少なくとも1種)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物、LiMn、及び、LiFePOなどを用いることができる。これらは単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、これらの正極活物質はジルコニウム、マグネシウム、アルミニウム、及びチタンの少なくとも1種を添加又は遷移金属元素と置換して用いること
ができる。
【0060】
セパレータとしては、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)などのポリオレフィンを主成分とする微多孔膜を用いることができる。微多孔膜は1層単独で又は2層以上を積層して用いることができる。2層以上の積層セパレータにおいては、融点が低いポリエチレン(PE)を主成分とする層を中間層に、対酸化性に優れたポリプロピレン(PP)を表面層とすることが好ましい。さらに、セパレータには酸化アルミニウム(Al)、酸化チタン(TiO)及び酸化ケイ素(SiO)のような無機粒子を添加することができる。このような無機粒子はセパレータ中に担持させることができ、セパレータ表面に結着剤とともに塗布することもできる。セパレータの表面にアラミド系の樹脂を塗布することもできる。
【0061】
本発明においては、第2負極集電体露出部が外装缶の内壁面に接触するため、電極体の最外周には負極板が配置される。電極体の最外周の全てを負極板が占有していることが好ましいが、本発明はそのような構成に限定されない。例えば、負極板の巻終り端部には第2負極集電体露出部と外装缶の内壁面の接触を妨げない範囲で巻留テープを貼り付けることができる。巻留テープを貼り付ける範囲は、第2負極集電体露出部と外装缶の内壁面が直接対向する面積が負極板の最外周部の外側の面積の30%未満とならない範囲で決定することが好ましい。巻留テープの厚みは第2負極集電体露出部と外装缶の内壁面との接触が阻害されない範囲のものを用いることができる。巻留テープの厚みは50μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましい。
【0062】
非水電解質としては、非水溶媒中に電解質塩としてのリチウム塩を溶解させたものを用いることができる。非水溶媒に代えて、又は非水溶媒とともにゲル状のポリマーを用いた非水電解質を用いることもできる。
【0063】
非水溶媒としては、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、環状カルボン酸エステル及び鎖状カルボン酸エステルを用いることができ、これらは2種以上を混合して用いることが好ましい。環状炭酸エステルとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)及びブチレンカーボネート(BC)が例示される。また、フルオロエチレンカーボネート(FEC)のように、水素の一部をフッ素で置換した環状炭酸エステルを用いることもできる。鎖状炭酸エステルとしては、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)及びメチルプロピルカーボネート(MPC)などが例示される。環状カルボン酸エステルとしてはγ−ブチロラクトン(γ−BL)及びγ−バレロラクトン(γ−VL)が例示され、鎖状カルボン酸エステルとしてはピバリン酸メチル、ピバリン酸エチル、メチルイソブチレート及びメチルプロピオネートが例示される。
【0064】
リチウム塩としては、LiPF、LiBF、LiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiN(CFSO)(CSO)、LiC(CFSO、LiC(CSO、LiAsF、LiClO、Li10Cl10及びLi12Cl12が例示される。これらの中でもLiPFが特に好ましく、非水電解質中の濃度は0.5〜2.0mol/Lであることが好ましい。LiPFにLiBFなど他のリチウム塩を混合することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明によれば、高容量で出力特性に優れた非水電解質二次電池を提供することができる。よって、本発明の産業上の利用可能性は大きい。
【符号の説明】
【0066】
10 非水電解質二次電池
11 セパレータ
14 電極体
17 封口体
18 外装缶
21 負極板
22a 負極タブ
23 負極合剤層
24a 第1負極集電体露出部
24b 第2負極集電体露出部
31 正極板
図1
図2
図3
図4
図5
図6