(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6652243
(24)【登録日】2020年1月27日
(45)【発行日】2020年2月19日
(54)【発明の名称】固形粉末化粧料の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 8/81 20060101AFI20200210BHJP
A61Q 1/12 20060101ALI20200210BHJP
A61K 8/37 20060101ALI20200210BHJP
【FI】
A61K8/81
A61Q1/12
A61K8/37
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-59915(P2016-59915)
(22)【出願日】2016年3月24日
(65)【公開番号】特開2017-171615(P2017-171615A)
(43)【公開日】2017年9月28日
【審査請求日】2019年1月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】592262543
【氏名又は名称】日本メナード化粧品株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小坂 仁美
(72)【発明者】
【氏名】細見 恵児
【審査官】
星 浩臣
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−285409(JP,A)
【文献】
特開2010−047542(JP,A)
【文献】
特開2009−269863(JP,A)
【文献】
特開昭61−037714(JP,A)
【文献】
特開2017−014147(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00−8/99
A61Q 1/00−90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレス面が錐体型、略錐体型、及びドーム型から選択される形状の成型ヘッドで、下記成分(A)及び(B)を含有する粉体組成物を圧縮成型する固形粉末化粧料の製造方法。
(A)球状粉末:5質量%以上
(B)油剤:8質量%以下
【請求項2】
プレス面が錐体型、略錐体型、及びドーム型から選択される形状の成型ヘッドで、凸面の高さHと、平面視においてプレス面の中心点を通りかつ横断長が最小となるように引かれた直線Dとの比(H/D) が0.005〜0.1である請求項1記載の固形粉末化粧料の製造方法。
【請求項3】
プレス面が略錐体型の成型ヘッドで、平面視において天面の中心点を通り、かつ天面の横断長が最小となるように引かれた直線D´と、平面視においてプレス面の中心点を通り、かつ横断長が最小となるように引かれた直線Dとの比(D´/D) が1/3以下である請求項1又は2記載の固形粉末化粧料の製造方法。
【請求項4】
固形粉末化粧料が白粉であることを特徴とする請求項1〜3いずれか一項記載の固形粉末化粧料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、優れた使用感、化粧持ち及び経時的な安定性を有する固形粉末化粧料の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、固形粉末化粧料は肌に塗布しやすく携帯性に優れることから、白粉、ファンデーション、頬紅、アイシャドー等のメイクアップ化粧品やベビーパウダー等で広く利用されてきた。
【0003】
一般に固形粉末化粧料は、粉末と油剤を含有する粉末組成物を中皿に充填した後、圧縮成型により固形状に成型し、中皿とともにコンパクト容器に収容し使用する。
【0004】
近年、滑らかな感触を得るために粉末組成物中に球状粉体を配合したり、化粧持ちを向上させるために粉末組成物中の油剤の含有量を少なくした固形粉末化粧料が多く発売されている。
【0005】
しかし、このような固形粉末化粧料は長期間保存したときに、成型品の硬度の変化量が大きいということが問題となっていた。具体的には保存後の成型品の硬度が低下することにより、耐衝撃性が悪化するという問題点や、使用時の取れ量が経時的に変化するという問題点が生じていた。
【0006】
このような課題を解決するため、ワックスとデキストリン脂肪酸エステルを配合した固形粉末化粧料(特許文献1)、水溶性保湿剤とシリコーン球状粉末を配合した固形粉末化粧料(特許文献2)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4870923号公報
【特許文献2】特許第5349867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記方法で得られた固形粉末化粧料は、温度変化の大きい環境下では上記したような問題点を解決するのに充分ではなく、いまだに優れた使用感、化粧持ち及び経時的な安定性の点で満足のいく固形粉末化粧料を得られていないのが現状であった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、下記成分(A)及び(B)を含有する固形粉末化粧料の製造方法において、粉末組成物を圧縮成型し固型にするために用いられる成型ヘッドのプレス面を凸面状とすることにより、使用感、化粧持ち、及び経時的な安定性に優れる固形粉末化粧料が得られることを見出した。すなわち本願発明は、下記成分(A)及び(B)を含有する粉体組成物を、プレス面が凸面状の成型ヘッドで圧縮成型する固形粉末化粧料の製造方法を提供するものである。
(A)球状粉末:5質量%以上
(B)油剤:8質量%以下
【発明の効果】
【0010】
本願発明によれば、優れた使用感、化粧持ち及び経時的な安定性を有する固形粉末化粧料を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本願発明を詳細に説明する。本願発明に用いられる成分(A)の球状粉末とは、形状が略球形の粉末をいい、球状粉末の長径/短径の比が1.2以下のものである。通常化粧料に使用されるものであればいずれのものも使用することができ、1種又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。例えば、球状シリカ、ナイロンパウダー、アクリル樹脂粉末、シリコーン樹脂等が挙げられるが、使用感の観点からポリメタクリル酸メチルが好ましい。球状粉末の市販品としては、シリカマイクロビード P−1500(日揮触媒化成社製)、ナイロン微粒子 SP−500(東レ社製)、テクポリマー MB−8C(積水化成品工業社製)、トスパール2000B*(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製)等が挙げられる。また、これらをシリコーン処理、脂肪酸処理、フッ素処理等の表面処理したものも使用できる。
【0013】
本願発明で用いられる成分(A)の含有量は、滑らかな使用感が得られる点から、粉末組成物中に5質量%以上であり、8質量%以上がより好ましい。
【0014】
本願発明の固形粉末化粧料に用いられる上記以外の粉末は、通常化粧料に用いられる粉末であれば特に限定されない。例えば、タルク、セリサイト、マイカ、合成マイカ、シリカ、硫酸バリウム、アルミナ、窒化ホウ素、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛等の無機粉末、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリスチレン等の有機粉末等が挙げられる。また、これらをシリコーン処理、脂肪酸処理、フッ素処理等の表面処理したものも使用できる。含有量は特に限定されないが、成型性の観点から粉末組成物中にタルクが40質量%以上含有されているのが好ましい。
【0015】
本願発明で用いられる成分(B)の油剤は、通常化粧料に使用されるものであればいずれのものも使用することができ、1種又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。例えば、動物油、植物油、合成油等の起源及び、固形油、半固形油、液体油、揮発性油等の性状を問わず、炭化水素類、油脂類、ロウ類、硬化油類、エステル油類、高級アルコール類、シリコーン油類、フッ素系油類、ラノリン誘導体類等の油剤が挙げられる。
【0016】
本願発明で用いられる成分(B)の含有量は、滑らかな使用感と優れた化粧持ちが得られる点から、粉末組成物中に8質量%以下である。
【0017】
本願発明の固形粉末化粧料には、上記成分に加えて、化粧料において一般的に用いられるその他の成分を配合してもよい。具体的には、薬効成分、清涼剤、安定化剤、酸化防止剤、防腐剤、pH調整剤、粘度調整剤、湿潤剤等が挙げられる。
【0018】
本願発明の粉末組成物は、通常の化粧料を製造する装置を使用し、上記成分を撹拌混合して調製される。具体的には、まず成分(B)の油剤を必要に応じて加熱溶解し、成分(A)を含む粉末に加えて均一に分散させ、粉砕することにより調製される。このようにして得られる粉末組成物をプレス面が凸面状の成型ヘッドで圧縮成型することにより、本願発明の固形粉末化粧料を得ることができる。
【0019】
図1は、本願実施形態に係る成型ヘッドの外見斜視図である。
図1に示したA―A部分の断面図は、
図2、
図3、又は
図4のようになっている。この成型ヘッド1は、粉末組成物を圧縮成型し、固形粉末化粧料を製造するために用いられ、図示しないプレス機が備えるプレス可動部に取り付けられる。成型ヘッド1はプレス面2を有する。
【0020】
本願発明で用いられる成型ヘッドのプレス面2の形状は、凸面状であればどのような形状でもよく、
図2のような錐体型、
図3のようなドーム型、
図4のような略錐体型等が挙げられるが、
図2のような錐体型が好ましく、中でも円錐体型がより好ましい。
プレス面2が
図4のような略錐体型の場合は、平面視において天面の中心点を通り、かつ天面の横断長が最小となるように引かれた直線D´と、平面視においてプレス面の中心点を通り、かつ横断長が最小となるように引かれた直線Dとの比(D´/D)は、1/3以下が好ましい。
【0021】
プレス面2の凸面の高さHと、平面視においてプレス面の中心点を通り、かつ横断長が最小となるように引かれた直線Dとの比(H/D)は、0.005〜0.1が好ましく、0.01〜0.05がより好ましい。H/Dの値が小さい場合は、圧縮成型により固形粉末化粧料中心部の空気が抜けず、経時的に中心部の硬度低下が起き、耐衝撃性が悪化する。H/Dの値が大きい場合は、圧縮成型により固形粉末化粧料の中心部の圧力が高くなり、使用時の取れが悪くなり、ケーキングの原因となる。
【0022】
本願発明の固形粉末化粧料の形状はいずれでも良いが、好ましくは円柱形状である。
【0023】
本願発明の固形粉末化粧料は、目的に応じて種々の製品形態とすることができる。製品形態としては、白粉、ファンデーション、チークカラー、アイシャドー等のメイクアップ化粧品やベビーパウダー等が挙げられるが、好ましくは白粉である。
【0024】
以下に実施例を挙げて本願発明を具体的に説明するが、本願発明はこれにより限定されるものではない。尚、表中の数値は含有量(質量%)を示す。
【0025】
実施例1〜4および比較例1〜3:白粉
表1に示す処方及び成型ヘッドで下記製造方法により白粉を調製し、下記に示す評価方法及び判定基準により評価した。これらの結果を併せて表1に記載した。
【実施例】
【0026】
【表1】
【0027】
(製造方法)
成分(1)〜(7)をヘンシェル型ミキサーにて均一に混合し、アトマイザーにて粉砕を行った。次に、成分(1)〜(7)の混合粉砕物と、予め混合しておいた成分(8)〜(10)とをヘンシェル型ミキサーに加えて均一に混合し、アトマイザー粉砕後、ふるいを通し、粉末組成物を得た。さらに、粉末組成物を
図1及び
図2に示す成型ヘッドを利用して圧縮成型して固形粉末化粧料を得た。成型ヘッドは、プレス面の凸面の高さHと、平面視においてプレス面の中心点を通りかつ横断長が最小となるように引かれた直線Dとの比(H/D)により表1に示した。
【0028】
(評価方法)
〔使用感評価〕
専門パネラー10名により、化粧料を専用パフでとって顔に塗布してもらい、パフへの取れや塗布時の滑らかさ等について評価した。パネル各人が下記絶対評価にて5段階に評価し評点を付け、試料毎にパネル全員の評点合計から、その平均値を算出し、下記4段階判定基準により判定した。
(評点):(評価)
5:非常に良好
4:良好
3:普通
2:やや不満
1:不満
(判定基準)
(評点平均値) (判定)
4.5以上 :◎
3.5以上4.5未満 :○
2以上3.5未満 :△
2未満 :×
【0029】
〔化粧持ち評価〕
専門パネラー10名により、化粧料を専用パフでとって顔に塗布してもらい、5時間後の化粧持ちを評価した。パネル各人が下記絶対評価にて5段階に評価し評点を付け、試料毎にパネル全員の評点合計から、その平均値を算出し、下記4段階判定基準により判定した。
(評点):(評価)
5:非常に良好
4:良好
3:普通
2:やや不満
1:不満
(判定基準)
(評点平均値) (判定)
4.5以上 :◎
3.5以上4.5未満 :○
2以上3.5未満 :△
2未満 :×
【0030】
〔経時安定性評価〕
圧縮成型した試料を−5℃〜40℃の6時間サイクル試験槽に、1ヶ月間静置し、1ヶ月後の状態を観察した。サイクル試験槽に静置する前と比較して硬度変化のないものから硬度低下しているものまで、下記4段階判定基準により判定した。ここでの硬度は、FUDOHレオメーター RT−3002D(株式会社レオテック製)を用い、2mmφアダプターを20mm/minのスピードで試料中に上方から1.5mm針入させたときの応力のピーク値(単位g)を測定した。
(判定基準)
(状態) :(判定)
硬度低下が10%未満 : ◎
硬度低下が10%以上20%未満 : ○
硬度低下が20%以上30%未満 : △
硬度低下が30%以上 : ×
【0031】
表1から明らかなように、実施例1〜4は経時安定性に優れ、しかも使用感及び化粧持ちが良好であった。これに対し、球状粉末の含有量が少ない比較例1及び油剤の含有量が多い比較例2は、使用感及び化粧持ちが不良であり、また、成型ヘッドのプレス面が平面状である比較例3では、経時安定性が不良であった。
【0032】
実施例5
(処方)ファンデーション 含有量(質量%)
1.タルク 25.0
2.シリコーン処理タルク 22.0
3.シリコーン処理合成金雲母 残量
4.シリコーン処理酸化チタン 15.0
5.シリコーン処理酸化鉄 3.0
6.球状シリカ※2 3.0
7.ポリメタクリル酸メチル※1 5.0
8.ステアリン酸亜鉛 3.0
9.メトキシケイヒ酸エチルヘキシル 3.0
10.イソノナン酸イソトリデシル 4.0
11.ジメチコン 1.0
12.香料 適量
合計 100.0
※2:シリカマイクロビード P−1500(日揮触媒化成社製)
(製造方法)
成分(1)〜(8)をヘンシェル型ミキサーにて均一に混合し、アトマイザーにて粉砕を行った。次に、成分(1)〜(8)の混合粉砕物と、予め混合しておいた成分(9)〜(12)とをヘンシェル型ミキサーに加えて均一に混合し、アトマイザー粉砕後、ふるいを通し、粉末組成物を得た。さらに、粉末組成物をプレス面が凸面状の成型ヘッドで圧縮成型して固形粉末化粧料を得た。上記成型ヘッドは、プレス面の凸面の高さHと、平面視においてプレス面の中心点を通りかつ横断長が最小となるように引かれた直線Dとの比(H/D)が0.02であるものを使用した。
【0033】
実施例5は、使用感、化粧持ち及び経時安定性に優れた化粧料であった。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本願発明の固形粉末化粧料の製造方法は、粉末組成物を圧縮成型し固形にするために用いられる成型ヘッドのプレス面を凸面状とすることにより、球状粉末を5質量%以上、及び油剤を8質量%以下含有した固形粉末化粧料において、優れた使用感、化粧持ち及び経時安定性を有することができる。
【符号の説明】
【0035】
(1)成型ヘッド
(2)プレス面