(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
調湿機能を有する多孔質基材の表面に、水、水分散性樹脂、及び色材を少なくとも含む水性インクジェットインクを用いてインクジェット印刷する工程を備える、加飾物品の製造方法であって、
前記インクジェット印刷工程の前に、水、水分散性樹脂、及び平均1次粒子径が300nm以下の無機微粒子を少なくとも含む前処理液を、前記多孔質基材の表面に塗布する前処理工程を含む、加飾物品の製造方法。
調湿機能を有する多孔質基材を載置するための載置部と、前記多孔質基材の表面にインクを吐出してインクジェット印刷するように配置されたインクジェット記録ヘッドと、前記インクジェット印刷の前に、前記多孔質基材の表面に前処理液を塗布するための前処理液塗布部と、を少なくとも備えてなる加飾物品の製造装置であって、水、水分散性樹脂、及び色材を少なくとも含む水性インクジェットインクを用い、且つ、水、水分散性樹脂、及び平均1次粒子径が300nm以下の無機微粒子を少なくとも含む前処理液を用いる、加飾物品の製造装置。
水、水分散性樹脂、及び平均1次粒子径が300nm以下の無機微粒子を少なくとも含む前処理液が塗布された、調湿機能を有する多孔質基材の表面に、インクジェット印刷により形成された画像を備えた加飾物品であって、該画像は水、水分散性樹脂、及び色材を含む水性インクジェットインクを用いて形成されたものである、加飾物品。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を詳しく説明するが、本発明がこれらの実施形態に限定されることはなく、様々な修正や変更を加えてもよいことは言うまでもない。なお、本明細書において「重量」と「質量」は同じ意味で用いられるので、以下、「重量」に統一して記載する。
以下の記載において、水性インクジェットインクを単に「インク」又は「水性インク」と記すことがあり、調湿基材を「調湿機能を有する多孔質基材」又は単に「多孔質基材」と記すことがある。
【0022】
本発明の一実施形態において、水性インクジェットインクが調湿建材等の多孔質基材に吐出されると、溶媒成分は揮発する一方で、色材(以下、色材を代表して「顔料」と記す場合もある。)及び水分散性樹脂は、粒子径が数十nmから数百nmと小さく、多孔質基材の表面に定着(あるいは付着)しても細孔を塞がないので、調湿性能を損なうことなく、少量の色材で鮮やかな発色が得られる。調湿性能については、画像面積を特に制限することなく、上記表1に示される調湿建材の等級を、加飾後にも低下させずに、加飾前と同一等級を維持することができる。具体的には、画像の印刷領域が多孔質基材の全面にわたっても、調湿建材の等級を維持することができる。また、画像の記録面積の制限がないため、様々な絵柄や文字等を自由に表現することができる。
【0023】
一方、水性インクジェットインク中に樹脂成分の代わりにアニオン性物質を含有させ、多孔質基材にカチオン性物質を含有させて、イオン反応(カチオン−アニオン反応)を利用して多孔質基材に顔料を定着させることも考えられる。しかし、調湿建材のように表面の凹凸が大きい多孔質基材の場合、イオン反応(カチオン−アニオン反応)による定着のみでは弱く、さらに色材を樹脂で物理的に定着することが必要とされる。
【0024】
本発明では、水性インク中に水分散性樹脂を含ませることとしたので、色材の定着性が改善され、また、好ましい実施形態においてその含有量を適度な範囲とすることにより、色材のさらに優れた定着性が達成できる。このため、平均粒子径が小さく、少量でも高い着色性を示す色材を含む水性インクを用いれば、加飾後も多孔質基材の細孔が塞がれることがなく、上記の物理的定着のみで、インクを多孔質基材に良好に定着させることができる。この結果、多孔質基材の調湿機能を損なうことなく、耐水擦過性に優れた加飾画像を多孔質基材上に形成することができる。
【0025】
調湿機能を有する多孔質基材の細孔としては、メソ孔、マクロ孔がある。定義の仕方によっては、メソ孔よりも微細なミクロ孔があるが、本明細書では、メソ孔にミクロ孔も含めるものとする。メソ孔の大きさは、直径1〜50nm程度であり、マクロ孔は、直径50nmより大きい孔である。マクロ孔の直径の上限値には特に制限はないが、平均的には200nm以下程度のもの、あるいは100nm以下程度のもの(50nm超100nm以下)が多い。これらの細孔は、適度に水分子を吸収又は放出することで、湿度の調整を行う機能を備える。
【0026】
一方、インクに含まれる水分散性樹脂は、好ましくは透明な塗膜を形成するものであり、加飾物品の被印刷面の光沢性を高めるのに寄与する。インクに含まれる顔料の大きさは、平均粒子径として60nm〜200nm程度であるところ、水分散性樹脂の大きさは、顔料同士の結着性を高めるために、顔料よりも小さいことが好ましい。そのため一例を挙げると、顔料の平均粒子径が概ね80nm〜100nm程度である場合は、配合する水分散性樹脂の大きさは、平均1次粒子径として概ね40nm(平均値)が好ましい。ここで、水分散性樹脂の1次粒子径を大きくすると、インク吐出性が悪くなる恐れがある。
以降の記載において、水分散性樹脂及び微粒子の平均1次粒子径を単に「1次粒子径」とも記し、特に断りが無い限り、動的光散乱法により体積基準で測定した値(メジアン径)を指す。動的光散乱式粒子径分布測定装置としては、ナノ粒子解析装置nano Partica SZ−100(株式会社堀場製作所)等を使用することができる。
【0027】
好ましい一実施形態において、インクを用いてインクジェット印刷する前に、水、水分散性樹脂、及び1次粒子径が300nm以下の微粒子を少なくとも含む前処理液を、前記多孔質基材の表面に塗布する前処理工程を含むことができる。前処理液は、加飾部分の光沢性を高める等のために好ましく使用できる。
この前処理では、例えばナノオーダーのシリカのような、吸水性が高い微粒子が、多孔質基材の大きな穴の一部を塞ぎ表面粗さRaを小さくする一方で、多孔質基材の細孔を完全には塞がないため、調湿性を低下させることがない。また、この微粒子は、インク中の成分が多孔質基材の孔に入り込むことを抑制することができるので、前処理を行わない場合に比べて、上記前処理により、多孔質基材の表面が平滑となって、該表面に形成される画像のドットの均一性が良くなり、インクや前処理液に含まれる樹脂のもつ光沢性を良好に発現させることができる。なお、単に多孔質基材の表面を研磨して表面粗さRa(算術平均粗さ)を小さくしても、前処理により得られる効果に相当する効果を得ることはできない。
【0028】
さらに好ましい一実施形態によれば、前処理液に含まれる1次粒子径が300nm以下の微粒子は、その1次粒子径が、インクに含まれる水分散性樹脂の平均1次粒子径と同じかそれ以上である(つまり、インクに含まれる水分散性樹脂の平均1次粒子径をxnmとすると、1次粒子径がxnm以上300nm以下の)第一の微粒子と、その1次粒子径が、インクに含まれる水分散性樹脂の平均1次粒子径よりも小さい第二の微粒子との混合物から構成することができる。これにより、光沢性及び調湿性をさらに両立させることが可能となり、その理由は、以下によるものと考えられるが、本発明の範囲が下記の理論に拘束されることはない。
【0029】
顔料は、通常インク中において、粒子が凝集する態様となるため、メソ孔、マクロ孔ともに、その内部に入り込むことは通常少ない。これに対して、メソ孔、マクロ孔には、インク中の水分散性樹脂が入り込む可能性がある。ここで、マクロ孔に水分散性樹脂が入り込んでも、マクロ孔の大きさは、通常、水分散性樹脂より大きいので、上述の湿度調整機能を損なうことは少ない。他方、メソ孔の場合には、例えば、水分散性樹脂の1次粒子径が概ね40nmで、メソ孔の直径の最大サイズが概ね50nmである場合、インクの水分散性樹脂が入り込むとそのまま孔に埋まってしまい、上述の湿度調整機能を損なう場合がある。
【0030】
このため、一実施形態では、前処理液に、インクの水分散性樹脂の大きさと同等以上の大きさの微粒子(第一の微粒子)と、該第一の微粒子よりも小さい、すなわちインクの水分散性樹脂の大きさよりも小さい微粒子(第二の微粒子)とを含ませるようにすることが好ましい。これにより、多孔質基材表面において、第一の微粒子の間に、第二の微粒子が存在した状態になり、インク中の水分散性樹脂がメソ孔に入り込むことが妨げられる。その結果、インクジェット印刷後の加飾物品の光沢性及び調湿性を一層両立させることが可能となる。この効果は、特に、インクに含まれる水分散性樹脂の平均1次粒子径が多孔質基材のメソ孔の直径の最大値よりも小さい場合において有用である。
一例として、水分散性樹脂の1次粒子径が概ね40nmであるインクと組み合わせて使用する場合は、前処理液には、1次粒子径が40nm以上300nm以下の第一の微粒子と、1次粒子径が40nm未満の第二の微粒子を含ませることが好ましい。
【0031】
他の好ましい一実施形態では、少なくとも、水性インクを用いてインクジェット印刷した後の時点で、前記多孔質基材を加熱する工程を含むことができる。加熱温度は、50〜100℃が好ましい。
【0032】
1.水性インクジェットインク
本発明で使用する水性インクジェットインクは、水、水分散性樹脂及び色材を少なくとも含み、必要に応じて、その他の成分を含有してもよい。このインクはすなわち、調湿基材(例えば、調湿建材)に特に好ましく適用するために調製されたインクである。
【0033】
1−1.水
水は、インクの溶媒、すなわちビヒクルとして機能するものであれば特に限定されず、水道水、イオン交換水、脱イオン水等が使用できる。水は揮発性の高い溶媒であり、多孔質基材に吐出された後、容易に蒸発するので、加飾後の多孔質基材の細孔が塞がれるのを防止し、加飾された多孔質基材の調湿性能の低下を防止する作用を奏する。また、水は、無害で安全性が高く、VOCのような問題が無いので、加飾された多孔質基材(加飾物品)を環境にやさしいものとすることができる。
インク中の水の含有量が多ければ多いほど、多孔質基材の調湿性能の低下を防止する効果が高まるので、水は、インク全量の60重量%以上であることが好ましく、65重量%以上であることがより好ましい。また、水の含有量は95重量%以下であることが好ましく、90重量%以下であることがより好ましい。
【0034】
なお、インクの溶媒は、ほとんどが水で構成されることが好ましいが、必要に応じて、水以外に、水溶性有機溶剤を含んでもよい。水溶性有機溶剤としては、例えば、グリコール系溶剤、グリコールエーテル類、グリコールエーテル類のアセタート、炭素数1〜6の低級アルコール、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、ポリグリセリン、イミダゾリジノン系溶剤、3−メチル−2,4−ペンタンジオールなどが挙げられる。これらは、単独で使用してもよく、また、単一の相を形成する限り、2種以上混合して使用してもよい。
水溶性有機溶剤の含有量は、粘度調整と保湿効果の観点から、インク中に30重量%以下(あるいは、溶媒中に50重量%以下)であることが好ましい。
【0035】
1−2.色材
色材としては、顔料及び染料の何れも使用することができ、単独で使用しても両者を併用してもよい。加飾画像の耐候性及び印刷濃度の点から、色材として顔料を使用することが好ましい。
色材は、インク全量に対して0.01〜20重量%の範囲で含有されることが好ましい。さらに、インク全量に対して色材は、0.1重量%以上であることがより好ましく、0.5重量%以上であることがさらに好ましく、1重量%以上であることが一層好ましい。また、インク全量に対して色材は、15重量%以下であることがより好ましく、10重量%以下であることがさらに好ましく、8重量%以下であることが一層好ましい。
【0036】
1−2−1.染料
染料としては、印刷の技術分野で一般に用いられているものを使用でき、特に限定されない。具体的には、塩基性染料、酸性染料、直接染料、可溶性バット染料、酸性媒染染料、媒染染料、反応染料、バット染料、硫化染料等が挙げられ、これらのうち、水溶性のもの及び還元等により水溶性となるものが使用できる。より具体的には、アゾ染料、ローダミン染料、メチン染料、アゾメチン染料、キサンテン染料、キノン染料、トリフェニルメタン染料、ジフェニルメタン染料、メチレンブルー等が挙げられる。これらの染料は単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0037】
1−2−2.顔料
顔料としては、有機顔料、無機顔料を問わず、印刷、塗料等の技術分野で一般に用いられているものを使用でき、特に限定されないが、多孔質基材に対する着色力の点から、有機顔料およびカーボンブラックが好ましい。かかる有機顔料およびカーボンブラックとしては、具体的には、ピグメントイエロー12、13、14、17、20、24、74、83、86、93、94、95、109、110、117、120、125、128、137、138、139、147、148、150、151、154、155、166、168、180、185;ピグメントオレンジ16、36、38、43、51、55、59、61、64、65、71;ピグメントレッド9、48、49、52、53、57、97、122、149、168、177、178、179、206、207、209、242、254、255;ピグメントバイオレット19、23、29、30、37、40、50;ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4、15:6、22、30、64、80;ピグメントグリーン7(塩素化フタロシアニングリーン)、36(臭素化フタロシアニングリーン);ピグメントブラウン23、25、26;ピグメントブラック7(カーボンブラック)、26、27、28等、が挙げられる。
【0038】
有機顔料の具体例としては、LIONOL BLUE FG−7400G(東洋インキ製造社製 フタロシアニン顔料)、YELLOW PIGMENT E4GN(バイエル社製 ニッケル錯体アゾ顔料)、Cromophtal Pink PT(BASF社製 キナクリドン顔料)、ELFTEX 415(キャボット社製 カーボンブラック)、Fastogen Super Magenta RG(DIC社製 キナクリドン顔料)、YELLOW PIGMENT E4GN(ランクセス社製 ニッケル錯体アゾ顔料)、イルガライトブルー8700(BASF社製 フタロシアニン顔料)、E4GN−GT(ランクセス社製 ニッケル錯体アゾ顔料)などが挙げられる。カーボンブラックの具体例としては、モナーク1000(キャボット社製 カーボンブラック)が挙げられる。これらの顔料は単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0039】
1−2−3.顔料分散剤
インク中における顔料の分散を良好にするために、インクに必要に応じて顔料分散剤を添加することができる。使用できる顔料分散剤としては、顔料を溶媒中に安定して分散させるものであれば特に限定されないが、例えば、高分子分散剤や界面活性剤に代表される公知の顔料分散剤を使用することが好ましい。高分子分散剤の具体例としては、日本ルーブリゾール(株)製のソルスパース(商品名)シリーズ、ジョンソンポリマー社製のジョンクリル(商品名)シリーズなどが挙げられる。界面活性剤の具体例としては、花王(株)製デモール(商品名)シリーズが挙げられる。
顔料分散剤の含有量は、上記顔料を十分に上記溶媒中に分散可能な量であれば足り、例えば顔料1に対し重量比で0.01〜2の範囲内で、適宜設定できる。
【0040】
1−3.水分散性樹脂
インクには、調湿機能を有する多孔質基材に色材を十分に定着させるために、水分散性樹脂を含有させる必要がある。水分散性樹脂としては、代表的には、水性樹脂エマルジョン、特に水中油(O/W)型樹脂エマルションを使用することができる。この水性樹脂エマルジョンを形成する樹脂としては、透明の塗膜を形成する樹脂を用いることが好ましく、例えば、エチレン−塩化ビニル共重合樹脂エマルジョン、アクリル樹脂エマルジョン、スチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂エマルジョン、ウレタン樹脂エマルジョン、酢酸ビニル−アクリル共重合体樹脂エマルジョン、酢酸ビニル−エチレン共重合体樹脂エマルジョン等が挙げられる。
【0041】
これらの水性樹脂エマルジョンのうち、インクジェットヘッドからの安定吐出性能の観点、及び調湿建材等の多孔質基材の原料として使用されている珪藻土、バーミキュライト、カオリナイト、石膏、タイルシャモット、消石灰、セラミック多孔質粉などの無機多孔質材料に対する密着性の観点から、ガラス転移温度(Tg)が−35〜10℃のウレタン樹脂エマルジョンが好ましい。かかる水性樹脂エマルジョンの具体例としては、第一工業製薬(株)のスーパーフレックス460、460S、470、610、700、170、840(いずれも商品名)などが挙げられる。
水分散性樹脂は、ウレタン樹脂エマルジョン等の1種単独の樹脂エマルションから構成されてもよく、又は、複数種の樹脂エマルションを組み合わせて構成されてもよい。
【0042】
さらに、水分散性樹脂は、1次粒子径が5nm以上であり、10nm以上であることがより好ましい。一方、水分散性樹脂の大きさは顔料よりも小さいことが好ましいことから、150nm以下であり、130nm以下であることがより好ましく、100nm以下であることがさらに好ましく、80nm以下であることが一層好ましい。
【0043】
インク中における水分散性樹脂の配合量(固形分量)は、色材と水分散性樹脂の比率(色材:水分散性樹脂)で1:0.5〜1:7(重量比)が好ましい。水分散性樹脂の配合量をこの範囲にすることで、多孔質基材の表面に印刷された画像の耐水擦過性と高画質性を十分に確保することができる。色材1に対する水分散性樹脂の比率が0.5より小さいと、顔料の定着性が悪くなる可能性があり、7より大きいと、粘度が高くなり、インクを吐出するヘッドからインクを吐出できなくなる可能性がある。
【0044】
1−4.その他の成分
インクには、インクの性状に悪影響を与えない限り、上記の成分以外に、例えば、保湿剤、表面張力調整剤(例えば、界面活性剤)、消泡剤、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤等の他の成分を添加できる。
【0045】
1−5.水性インクジェットインクの製造方法
インクの製造方法は、特に限定されず、公知の方法により適宜製造することができる。例えば、ビーズミル等の公知の分散機に全成分を一括又は分割して投入して分散させ、所望により、メンブレンフィルター等の公知のろ過機を通すことにより調製できる。例えば、予め水と色材の全量を均一に混合させた混合液を調製して分散機にて分散させた後、この分散液に残りの成分を添加してろ過機を通すことにより調製することができる。
【0046】
2.前処理液
加飾物品の製造にあたり、上記水性インクを用いて多孔質基材の表面にインクジェット印刷する前に、該多孔質基材の表面を前処理液で前処理しておくことが好ましい。前処理することで、インクで加飾した部分の発色性、光沢性を高めることが可能となる。特に、吸放湿量及び/又は平均含水率が低い多孔質基材、例えば、調湿性が低くJIS A 1470-1(2002)及び/又はJIS A 1475(2004)に規定される等級の低い調湿建材の場合、少ないインク量でも高い発色性を得ることは可能であるが、単位時間当たりのインク打ち込み量を多くするとインク溢れが発生し、画像の滲みやインク溜りが生じやすく、インク溜りは画像品位を低下させるばかりか、多孔質基材の細孔の一部を塞ぎ、調湿性能を低下させる原因となる恐れがある。このような場合には、印刷前に多孔質基材の表面に前処理液を塗布し乾燥させて、前処理しておくことが好ましい。
前処理液は、水、水分散性樹脂、及び1次粒子径が300nm以下の微粒子を少なくとも含み、その他の任意の成分を含んでいてもよい。
【0047】
2−1.水
前処理液において、水は、前処理液の溶媒として機能するものであり、インクについて上記したことが、総て当てはまる。同様に、前処理液の溶媒として、水に加えて上記した水溶性有機溶剤を含んでもよい。
【0048】
2−2.1次粒子径が300nm以下の微粒子
微粒子としては、1次粒子径が300nm以下の微粒子であれば、特に限定されない。微粒子の1次粒子径が300nmを超えると、微粒子が多孔質基材の表面に乗った状態となるため、加飾画像の耐水擦過性が低下し、また、前処理部の透明性が低下するため前処理部と非前処理部の外観の違いが目立つようになり、好ましくない。
前処理液中の微粒子の配合量(固形分量)は、0.8重量%以上であることが好ましく、1.3重量%以上であることがより好ましく、また、6.0重量%以下であることが好ましく、5.4重量%以下であることがより好ましい。
【0049】
加飾画像の光沢性を一層向上させるために、前記1次粒子径が300nm以下の微粒子は、1次粒子径がインクの水分散性樹脂の1次粒子径と同じかそれ以上である第一の微粒子と、1次粒子径がインクの水分散性樹脂の1次粒子径よりも小さい第二の微粒子とを組み合わせて用いることが好ましい。
【0050】
具体的には例えば、1次粒子径30nm以上300nm以下の大粒子径の第一の微粒子と1次粒子径30nm未満の小粒子径の第二の微粒子との混合物から構成されることが好ましい。特に、インクに含まれる水分散性樹脂の1次粒子径が、多孔質基材のメソ孔の直径の最大値よりも小さい場合に、大粒子径の微粒子と小粒子径の微粒子とを組み合わせることが好ましい。さらに、前記微粒子は、1次粒子径40nm以上300nm以下の大粒子径の第一の微粒子と1次粒子径40nm未満の小粒子径の第二の微粒子との混合物から構成されることも好ましい。
このような混合物は、1次粒子径が30nm(又は40nm)未満の領域と30nm(又は40nm)〜300nmの領域でピークを有する2峰性の粒度分布を示す場合がある。第一の微粒子と第二の微粒子の合計100重量%に対する第一の微粒子の配合比率は、加飾部の光沢性の観点から、5〜95重量%が好ましく、15〜95重量%がより好ましく、50〜95重量%が特に好ましい。
【0051】
なお、前記微粒子を第一の微粒子のみで構成した場合、後述する実施例2のように、前処理をしない場合よりは、光沢性が向上するが、微粒子が多孔質基材上に堆積された状態にあっても、微粒子間にインクの水分散性樹脂の通過を許容するようなサイズの隙間が形成され、最終的にインクの水分散性樹脂がメソ孔に入ってしまうことがあり、光沢性の向上効果がやや劣る。一方、前記微粒子を第二の微粒子のみで構成した場合、後述する実施例8のように、前処理をしない場合よりは、光沢性が向上するが、微粒子が多孔質基材上に堆積された状態にあったときに微粒子間に上述のようなサイズの隙間は生じないものの、微粒子自体がメソ孔に入ってしまうことがあり、光沢性の向上効果がやや劣る。これに対し、上述したように、前記微粒子を、例えば1次粒子径が300nm以下40nm以上の第一の微粒子と、例えば1次粒子径が40nm未満の第二の微粒子とで構成すると、後述する実施例6のように、光沢性の向上に優れ、この態様は、前記インクに含まれる水分散性樹脂の1次粒子径が、前記メソ孔の直径の最大値よりも小さい場合に、特に、前記インクに含まれる水分散性樹脂の1次粒子径が概ね40nmである場合に有用である。別の一実施形態として、例えばインクに含まれる水分散性樹脂の1次粒子径が概ね25nm〜30nmである場合には、1次粒子径が300nm以下30nm以上の第一の微粒子と、1次粒子径が30nm未満の第二の微粒子とで微粒子を構成することが好ましい。
【0052】
微粒子としては、無機微粒子を好ましく用いることができる。具体的には、シリカ微粒子、バーミキュライト、炭酸カルシウム、アルミナなどが挙げられ、中でも、シリカ微粒子が好ましい。また、タルク、珪藻土、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、アルミナホワイト、シリカ、カオリン、マイカ、酸性白土、活性白土、ベントナイト等の体質顔料を用いることも好ましい。これらの微粒子は、複数種を組み合わせて使用することもできる。
【0053】
2−3.水分散性樹脂
前処理液において、水分散性樹脂は、多孔質基材に上記1次粒子径が300nm以下の微粒子を十分に定着させるために含有されるものであり、樹脂の耐水性、多孔質基材との密着性が確保できれば特に限定されず、具体的には、上記インクについて述べた各種水分散性樹脂を使用することができる。複数の水分散性樹脂を組み合わせて使用することもできる。
【0054】
前処理液中における水分散性樹脂の配合量は、上記微粒子と水分散性樹脂の比率(上記微粒子:水分散性樹脂)で15:1〜25:1(重量比)が好ましい。水分散性樹脂の配合量をこの範囲にすることで、多孔質基材に上記微粒子が十分に定着する。
前処理液中における水分散性樹脂の1次粒子径は、加飾しようとする多孔質基材のメソ孔の直径よりも大きいことが好ましく、具体的には、40nmよりも大きいことがより好ましく、45nm以上であることがより好ましく、80nm以上であることがより好ましく、150nm以上であることがさらに好ましい。前処理液に含まれる水分散性樹脂は、多孔質基材のメソ孔に入り込むことなく、微粒子同士間及び微粒子と多孔質基材との間の結着を達成すればよいため、前処理液に含まれる水分散性樹脂の1次粒子径は、上記メソ孔よりも大きいことが好ましい。
前処理液に含まれる水分散性樹脂の配合量は、上記インク中における水分散性樹脂の配合量に比べて少なくてよい。
【0055】
なお、インク中又は前処理液中において、微粒子及び水分散性樹脂は、独立した微粒子の状態で存在する場合と、独立した微粒子が集合した凝集体の状態で存在する場合とが考えられるが、本発明において、1次粒子径とは、上述のとおり、動的光散乱法で測定した粒子径(メジアン径)を意味する。
【0056】
2−4.その他の成分
前処理液には、前処理液の性状に悪影響を与えない限り、上記成分以外に、例えば、保湿剤、消泡剤、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤等の他の成分を添加できる。
【0057】
2−5.前処理液の作製方法
前処理液は、水、水分散性樹脂、及び1次粒子径が300nm以下の微粒子を、例えばビーズミル等の公知の分散機に全成分を一括又は分割して投入して分散させ、所望により、メンブレンフィルター等の公知のろ過機を通すことにより調製できる。例えば、予め水と上記微粒子の全量を均一に混合させた混合液を調製して分散機にて分散させた後、この分散液に残りの成分を添加してろ過機を通すことにより調製することができる。
【0058】
3.加飾物品の製造方法(加飾方法)
加飾物品、すなわち調湿基材の表面が加飾されてなる物品の製造は、調湿基材の表面に、上記インクを用いたインクジェット印刷方式により画像を印刷することにより行われる。
調湿基材としては、調湿建材として規定される1級以上の調湿性能を有する基材を用いることが好ましい(上記表1参照)。具体的には例えば、JIS A 1470−1(2002)(又はISO 24353:2008)に従って測定される3時間後の吸湿量が15g/m
2より多い吸湿性能を有するものを使用することが好ましい。また、インクジェット印刷後の加飾物品も、調湿建材として規定される1級以上の調湿性能を有することが好ましく、具体的には例えば、JIS A 1470−1(2002)(又はISO 24353:2008)に従って測定される3時間後の吸湿量が15g/m
2より多い吸湿性能を有することが好ましい。
【0059】
インクジェット印刷を行う前に、多孔質基材の表面に上記前処理液を塗布して乾燥する前処理工程を行うことにより、その後のインクジェット印刷によって印刷された画像の発色性、光沢性を向上させることができる。
前処理液の多孔質基材表面への塗布は、刷毛、ローラー、バーコーター、エアナイフコーター、スプレーを使用して多孔質基材表面に一様に浸透させることによって行ってもよく、又は、インクジェット印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷などの印刷手段によって画像を印刷することで行ってもよい。すなわち、前処理液は、多孔質基材表面の全面に塗布されてもよいし、必要な箇所にのみ、例えば上記インクを用いたインクジェット印刷が行われる箇所にのみ塗布されてもよい。
【0060】
前処理液の塗工量は、多孔質基材の吸放湿量及び平均含水率によって異なるが、加飾画像の一定の発色及び光沢を達するためには、多孔質基材の吸放湿量及び平均含水率が低いほど塗工量(固形分)を多くすることが好ましい。また、表面粗さRaが15μm程度の多孔質基材の場合、前処理後のRaを好ましくは10μm以下、より好ましくは8μm以下とするに十分な量の前処理液を塗工すると、印刷された画像の発色性及び光沢性が向上するので好ましい。一方、前処理する前に多孔質基材表面を研磨するなどして表面粗さを改善しても細孔構造への影響はほとんどないが、前処理液で多孔質基材表面を前処理する場合に、前処理前に該表面を研磨するなどして表面粗さRaを好ましくは10μm以下より好ましくは8μm以下にしておくと、その後、この研磨された表面に前処理を行って、インクジェット印刷を施すと、印刷された画像の発色性及び光沢性が一層向上する。表面粗さRaは、KEYENCE社のLaseer Scaning Microscope VK−8700などで測定が可能である。測定の際には、多孔質基材の大きな凹凸、欠落部などの特異的な部分は除外してよい。
【0061】
前処理液の好ましい塗工量は、上記のように多孔質基材の調湿性能により異なるため一律に規定することはできないが、塗布面積あたりの固形分量として、例えば1級の調湿建材の場合は15g/m
2〜30g/m
2程度、2級の調湿建材の場合は5g/m
2〜15g/m
2程度、3級の調湿建材の場合は、3g/m
2〜10g/m
2程度とすることができる。
【0062】
前処理するか否かに拘わらず、高品位の加飾画像を得るために、(i)インク滴を小さくする、(ii)印刷速度を遅くする、(iii)片方向印刷をする、(iv)多孔質基材を温めながら印刷する、(v)印刷解像度を低くする、又は、(vi)これらの方法を組み合わせて印刷するなどの印刷条件を用いることが有効である。特に、吸放湿量及び/又は平均含水率が低い多孔質基材、例えば、調湿性が低く、上記調湿建材の調湿性能評価基準に規定される等級の低い調湿建材(例えば、上記1級の調湿建材)の場合、前処理しないと画像の滲みやインク溜りが生じやすいが、上記方法を採用することにより、前処理しなくても画像の滲みやインク溜りを避けることができる。
【0063】
多孔質基材を温めながら印刷する上記印刷条件は、多孔質基材の性能に関わらず、少ないインク量で高発色の画像を得ることが必要な場合、凹凸が多い多孔質基材やインクの吸水性能が異なる複数の多孔質基材にまたがった絵柄を均一に印刷する場合の印刷条件としても有効である。多孔質基材を温めながら印刷することで、インク中の水以外の成分である顔料等の存在位置を多孔質基材の表面近くに形成させることが可能となるため、多孔質基材の調湿性能や形状への影響が小さくなり、安定した画像を得ることが可能となる。
【0064】
多孔質基材を温める方法としては、印刷直前までヒーターで多孔質基材を加熱し、その余熱で印刷中の多孔質基材を温める方法、シート状のヒーターを多孔質基材の下に敷くなどにより、温めながら印刷する方法、両者を組み合わせた方法が挙げられる。ヒーターとしては、セラミックヒーター、カーボンヒーター、赤外線を発光しやすいように表面処理をしたシーズヒーターなどの赤外線を照射するヒーターが挙げられる。多孔質基材の加熱温度は、インクジェット印刷に用いるノズルが乾燥し吐出が不安定にならない温度であれば特に限定されない。
【0065】
印刷終了後に多孔質基材を、例えば50〜100℃の範囲で加熱する工程を行ってもよく、この加熱方法として、上記した印刷前又は印刷時と同じ方法を採用してもよい。上記のようにして多孔質基材を加熱することで、インク中の水やその他の揮発性成分を完全に揮発させると同時に、インク中の色材を水分散性樹脂によって多孔質基材に定着させることができる。
【0066】
加飾物品を製造するための調湿機能を有する多孔質基材は、表面に多数の細孔を備え、この細孔が吸放湿性を発揮するものであれば、特に限定されない。上記のように、調湿建材として規定される1級以上の調湿性能を有する基材を用いることが好ましい(上記表1参照)。多孔質基材の形状は通常、ボード状すなわち板状であるが、これに限定されるものではない。
かかる調湿機能を有する多孔質基材の細孔の直径は、例えば、1〜200nmあるいは1〜100nm程度のものがあり、より詳細には、直径1〜50nmのメソ孔と直径50nm超(例えば50nm超200nm以下又は50nm超100nm以下程度)のマクロ孔とを有する。メソ孔の直径は、例えば水銀ポロシメーターによる水銀圧入法によって測定することができる。
【0067】
代表的な多孔質基材としては、ケイ酸カルシウム等の無機材料の硬化体であって、吸放湿機能を有する無機粉体、例えば、ケイ酸質粉体、シリカゲル、珪藻土、活性白土、ゼオライト、ベントナイト、モンモリロナイト、セピオライトなどを含有するものが挙げられ、該硬化体を更に焼成されたものも含まれる。多孔質基材の具体例としては、調湿建材等の材料として使用されているものが挙げられ、好ましくは、一般社団法人日本建材・住宅設備産業協会に登録された調湿建材が挙げられる。すなわち、上記表1に示した調湿性性能評価基準に合致した性能を有する調湿建材を好ましく使用することができる。具体的には、例えば、上述のとおり、JIS A 1470−1(2002)に規定する3時間後の吸湿量が15g/m
2より多い多孔質基材である。
【0068】
かかる調湿建材としては、例えば、特開2003−146775号公報に記載のような石膏、ケイ酸カルシウム、セメント、スラグ石膏もしくは塩基性炭酸マグネシウムの一種以上から選択される親水性素材を成形して得られる調湿建材、及び該親水性素材に膨張・剥離性鉱物を配合した素材を成形して得られる調湿建材、特開2002−4447号公報に記載のような主成分が炭酸カルシウムと非晶質シリカである成形体を炭酸硬化反応によって製造した調湿建材などが挙げられる。特に、特開2003−146775号公報に記載のようなケイ酸カルシウムに未膨張バーミキュライトを配合してなる素材を成形して得られる調湿建材を、多孔質基材として好ましく使用できる。
【0069】
上記多孔質基材への水性インクを用いたインクジェット印刷は、一般的な記録ヘッドを用いて行うことができ、印刷方式や使用する装置等に特に制限はない。印刷(加飾)後は、乾燥させることにより、多孔質基材の表面に、インクジェット印刷されたインクから水及びその他の揮発性成分が揮発して、水分散性樹脂と色材から主として構成される画像を備えてなる、調湿機能を有する加飾物品、特に加飾建材が得られる。なお、加飾物品の画像には、水分散性樹脂と色材以外に、界面活性剤等の少量のインク由来の不揮発成分が含まれる場合がある。
【0070】
上記特開2002−4447号公報に記載のような炭酸硬化反応によって製造される調湿建材の場合、通常、素材混合→プレス成形→炭酸ガス硬化(発熱)→乾燥の工程で製造され、加飾工程は、炭酸ガス硬化体に対して行われ、具体的には、炭酸ガス硬化体→加飾印刷→加熱→自然冷却(完成)の工程で行われる。一実施形態において加飾は、かかる調湿建材に対し、炭酸ガス硬化体に対して行うこともできるが、別の実施形態においては、プレス成形された後の炭酸ガス硬化前の成形品に対しても加飾を行うことができる。後者の場合、素材混合→プレス成形→加飾印刷→炭酸ガス硬化(発熱)→乾燥(完成)という工程で加飾建材を製造することができるので、炭酸ガス硬化工程及び乾燥工程の熱を利用してインクの水及びその他の揮発性成分を揮発させることができ、エネルギー消費を低く抑えられるとともに、工程が短縮され、加飾前の在庫ストックが不要になるなどの利点が生じる。
【0071】
4.加飾物品の製造装置(加飾装置)
加飾装置は、調湿基材を載置するための載置部と、調湿基材の表面にインクを吐出してインクジェット印刷するように配置されたインクジェット記録ヘッドとを少なくとも備える。
別の実施形態において、加飾装置は、調湿基材を載置するための載置部と、調湿基材の表面に前処理液を塗布するための前処理液塗布部と、前記前処理液塗布後の調湿基材の表面にインクを吐出してインクジェット印刷するように配置されたインクジェット記録ヘッドとを少なくとも備える。
【0072】
図1は、加飾物品を製造するための加飾装置の一例を示した概略斜視図である。加飾装置は、加飾しようとする画像の電子データ(各画素に対応する画素値を備えるもの)を提供するための入力部(図示せず、例えば、スキャナ)と、多孔質基材1の表面に水性インクを吐出して画像を記録する記録ヘッド部10、多孔質基材1を載置した状態で記録ヘッド部10の下面に形成された吐出ノズルと対向する位置に多孔質基材1を搬送する搬送部20、及び、多孔質基材1が記録ヘッド部10に至る前に、多孔質基材1の表面に前処理液を吐出して前処理液を多孔質基材上に塗布する前処理液塗布部30を備えている。また、図示の例では、加飾装置は、搬送部20に設けられた一対のローラ21の間に加熱部40を備え、印刷中及び印刷前後の多孔質基材1を温めて多孔質基材1上の加飾領域を加熱し、吐出された前処理液やインクの乾燥を促進できるようにしている。加熱部40は、セラミックヒーター、カーボンヒーター、赤外線を照射するヒーターなどであってよい。なお、搬送部20は、本発明の請求項の載置部に対応する構成であり、図示の例では、多孔質基材1を図中の矢印Yの方向に搬送する。
【0073】
また、加飾装置は、搬送部20の両端に設けられた基材セット部(図示せず)と基材受け取り部(図示せず)を備え、基材セット部は、搬送部20に多孔質基材1を送り出すものであり、基材受け取り部は、搬送部20から搬送されてきた多孔質基材1を受け取るものである。また、加飾装置は、各部を制御する制御部(図示せず)を備える。
【0074】
図示の記録ヘッド部10は、多孔質基材1の副走査方向Y(搬送方向)に対して直交する主走査方向の画像形成領域の全幅にわたって複数のノズルが一列に配列されたラインヘッド(フルライン型インクジェット記録ヘッド)であり、副走査方向Yに沿って異なる色(イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック)のインクを吐出するヘッドユニット10Y、10M、10C、10Kが配列されている。
【0075】
記録ヘッド部10のインクの吐出方式は特に限定されず、例えば、荷電変調方式、マイクロドット方式、帯電噴射制御方式及びインクミスト方式等の連続方式、ステムメ方式、パルスジェット方式、バブルジェット(登録商標)方式及び静電吸引方式等のオン・デマンド方式が挙げられる。また、図示の記録ヘッドは、ラインヘッドであるが、シリアル型の記録ヘッドを用いてもよい。また、ヘッドユニットは、上記4色のインクを吐出するものに限定されず、さらに他の色(例えば、ライトマゼンタ、ライトシアン、レッドなど)のインクを吐出するヘッドであってもよい。
【0076】
前処理液塗布部30は、多孔質基材1の副走査方向Y(搬送方向)に対して直交する主走査方向の画像形成領域の全幅にわたって複数のノズルが一列に配列されたラインヘッドであり、インクジェット方式で前処理液を吐出するものである。
【0077】
図示の搬送部20は、一対のローラ21間に架けわたされた無端の搬送ベルト22を備え、ローラ21を回転駆動することにより搬送ベルト22に載置された多孔質基材1を副走査方向Yに移動させ、多孔質基材1の全表面に画像を印刷できるようにしている。
【0078】
次に、加飾装置の動作の説明を行う。多孔質基材1の表面に加飾を行う場合、先ず、ユーザは、多孔質基材1を基材セット部にセットするとともに、スキャナ等からなる入力部に原稿を読み取らすことにより、加飾しようとする画像のデータを入力する。制御部は、基材セット部及び搬送部20を制御して、多孔質基材1を副走査方向Yへ連続搬送させるとともに、加熱部40を制御して、搬送部20を加熱するようにする。制御部の制御指示に基づいて、前処理液塗布部30は、搬送されてくる多孔質基材1上の所定領域(画像データに基づく画像形成領域)に前処理液を吐出により塗布する。そして、制御部は、画像データに基づいて搬送部20と記録ヘッド部10を駆動制御して、各画素に対応する多孔質基材上の位置にインクを吐出することで多孔質基材1の表面に画像記録を行う。
【0079】
なお、本実施形態は、前処理液塗布時、記録ヘッドによるインク吐出時、及びインク吐出後も多孔質基材1を加熱できるように構成されているが、少なくとも、記録ヘッドによるインク吐出後に加熱を行えることが好ましく、さらに、インク吐出の前、インク吐出中の加熱を任意で行えるように構成してもよい。インク吐出の前、インク吐出中の加熱は、低等級の調湿建材への加飾、等級違いの複数の調湿建材への同時加飾、凹凸が激しい調湿建材への加飾の場合に、行うようにしてもよい。
また、加熱装置40に加えて又は加熱装置40の代わりに、多孔質基材1をその上方から加熱する加熱装置を設けてもよい。
【0080】
5.加飾物品
加飾物品は、調湿基材の表面に、インクジェット印刷により形成された、水分散性樹脂と色材を含む画像を備える、加飾物品(調湿加飾物品)である。インクとしては、平均1次粒子径が5nm以上150nm以下の水分散性樹脂を含むものを使用する。
調湿基材は、上記「3.加飾物品の製造方法」で説明したと同様のものを使用できる。例えば、調湿建材を好ましく使用できるが、加飾物品は、建材以外にも、例えばコースター、足ふきマット等であってもよい。
【0081】
インクジェット印刷後に得られた加飾物品も、調湿建材として規定される1級以上の調湿性能を有することが好ましく、例えば上述のとおり、JIS A 1470−1(2002)に規定する3時間後の吸湿量が15g/m
2より多い吸湿性能を有することが好ましい。
インクジェット印刷により形成される画像は、先に所定の前処理液により表面処理された、つまり前処理液が塗布された多孔質基材の表面に形成されたものであることが好ましい。前処理液は、上記加飾物品の製造方法において説明したとおりである。画像の記録面積は、特に限定されず、任意の絵柄又は文字、あるいは絵柄と文字との組合せ等を、自由に選択することができる。
【実施例】
【0082】
以下、本発明を実施例及び参考例(以下、「比較例」と記す。)により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0083】
<実施例1〜17、比較例1〜4>
(1)水性インクの作製
表2に示す各成分を表2に示す割合で、ホモジナイザーを用いて混合し、得られた分散液をメンブレンフィルター(開口径3μm)でろ過し、水性インク1を得た。また、水分散性樹脂を重合度300、けん化度87〜89mol%の水溶性樹脂(ポリビニルアルコール)に変更した以外、上記同様にして、水性インク2を得た。
【0084】
【表2】
【0085】
なお、表2において、各商品名は下記を意味する。
CAB-O-JET 250C:キャボット社製シアン顔料分散液「CAB-O-JET 250C(商品名)」
CAB-O-JET 260M:キャボット社製マゼンタ顔料分散液「CAB-O-JET 260M(商品名)」
CW-2:オリヱント化学工業社製ブラック顔料分散液「BONJET BLACK CW-2(商品名)」
CAB-O-JET 270Y:キャボット社製イエロー顔料分散液「CAB-O-JET 270Y(商品名)」
スーパーフレックス460:第一工業製薬社製自己乳化型水系ウレタン樹脂「スーパーフレックス460(商品名)」、1次粒子径40nm。
サーフィノール465:日信化学工業社製界面活性剤「サーフィノール465(商品名)」
【0086】
(2)前処理液の作製
表3に示す各成分を表3に示す割合でプレミックスした後、超音波分散機にて1分間分散し、水性分散液を得た。表3から明らかなように、前処理液1〜3、7、14及び15は1種類の微粒子を含む一方、前処理液4〜6及び8〜13は1次粒子径の異なる2種類の微粒子を含んでいる。
【0087】
【表3】
【0088】
なお、表3において、各成分の詳細は下記の通りである。
アエロジルOX50:日本アエロジル(株)製親水性ヒュームドシリカ「アエロジルOX50(商品名)」、1次粒子径40nm。
スノーテックス30:日産化学社製コロイダルシリカ「スノーテックス30(商品名)」、1次粒子径10−15nm、30%水分散液。
スノーテックス20L:日産化学社製コロイダルシリカ「スノーテックス30(商品名)」、1次粒子径40−50nm、20%水分散液。
スノーテックスMP−2040:日産化学社製コロイダルシリカ「スノーテックスMP−2040(商品名)」、1次粒子径170−230nm、40%水分散液。
スノーテックスMP−4540M:日産化学社製コロイダルシリカ「スノーテックスMP−4540M(商品名)」、1次粒子径420−480nm、40%水分散液。
スミエリート1010:住化ケムテックス社製エチレン−塩化ビニル共重合樹脂エマルジョン「スミエリート1010(商品名)」、1次粒子径200nm。
スーパーフレックス460:第一工業製薬社製自己乳化型水系ウレタン樹脂「スーパーフレックス460(商品名)」粒子径40nm。
スーパーフレックス470:第一工業製薬社製自己乳化型水系ウレタン樹脂「スーパーフレックス470(商品名)」粒子径50nm。
【0089】
(3)調湿建材の加飾
調湿建材として、メソ孔とマクロ孔を備え、調湿性能評価基準の吸放湿量が3級で平衡含水率が3級の市販の調湿建材A(厚さ6mm、表面粗さRa15μm、表面の60°光沢度2.5)を用意した。実施例1〜3、9及び10並びに比較例1〜3では、調湿建材Aをそのまま用い、その他の実施例及び比較例では、調湿建材Aの表面を表面粗さがRa8μmになるまで研磨して用いた。そして、上記調湿建材Aの全表面に表4及び表5に示すインクを用いて自然画像(風景等の絵画の画像)及び木目調画像をインクジェット印刷し、この調湿建材を70℃のシートヒーター上で130秒加熱して、印刷面を乾燥させた。この印刷における自然画像の記録面積は、被印刷面積の100%であり、木目調画像の記録面積は100%であった。
【0090】
実施例1〜17並びに比較例1及び4では、水性インク1を用い、比較例2では、紫外線硬化型(UV)インクを用い、比較例3では、水性インク2を用いた。また、実施例1〜2及び5〜17並びに比較例1及び4では、インクジェット印刷する前に、調湿建材の印刷しようとする表面に表4及び表5に示す前処理液をスプレーすることにより塗布し、この調湿建材を70℃のシートヒーター上で130秒加熱して前記表面を乾燥させた。前処理液の塗布量は、液量で78g/m
2(固形分量で約6.2g/m
2)であった。
【0091】
なお、調湿建材の被印字部の表面粗さRaは、KEYENCE社製VK-8700(商品名)で測定した。なお、被印字部とは、前処理液で前処理しない場合は調湿建材Aそのものの表面を意味し、前処理液で前処理した場合は調湿建材Aの前処理された表面を意味する。
【0092】
(4)加飾表面の評価
上記(3)で得られた加飾調湿建材を下記の方法で評価した。結果を表4及び表5に示す。
【0093】
(4−1)客観的視覚評価(画像の濃度、滲みの評価)
調湿建材に印刷された自然画像を目視で観察し、画像の濃度及び滲み(にじみが無いこと)について、下記の基準で評価した。
◎:濃度、にじみともに良好であり非常によく表現できている。
○:濃度、にじみともに良好でありよく表現できている。
△:濃度、又は、にじみに違和感が少しある。
×:表現できていない。
【0094】
(4−2)加飾部の光沢性
調湿建材に印刷された木目調画像の表面の60°光沢度を、KONICA MINOLTA社製Muli-Gloss268(商品名)で測定した。
【0095】
(4−3)加飾された調湿建材の性能評価
加飾された調湿建材についてJIS A 1470-1の吸放湿量及びJIS A 1475の平衡含水率を測定し、下記基準で評価した。
○:全ての項目の等級が維持されている。
△:いずれか1つの項目の等級が低下した。
×:2つ以上の項目の等級が低下したか、又は、少なくとも1つの項目が1級よりも下のレベルとなった。
【0096】
(4−4)印刷された画像の耐水擦過性の評価
調湿建材に印刷された自然画像を濡れたスポンジで擦り、下記の基準で評価した。
◎:スポンジ擦り30回以上でも画像が取れない。
○:スポンジ擦り10回以上30回未満で画像が取れる。
△:スポンジ擦り5回以上10回未満で画像が取れる。
×:スポンジ擦り5回未満で画像が取れる。
【0097】
【表4】
【0098】
【表5】
【0099】
表4及び表5の結果から、以下のことがわかる。実施例1〜17から、水分散性樹脂を含有する水性インクを使用してインクジェット印刷することで、調湿建材の調湿性能を損なうことなく、つまり同一等級を維持して、高品位で耐水擦過性に優れた画像を調湿建材に施すことができることがわかる。
【0100】
特に、実施例4と実施例5〜8との対比、又は、実施例3と実施例9との対比から、1次粒子径が300nm以下の微粒子を含有する前処理液で前処理した場合は、加飾部の画像の品位及び光沢性が向上し、この場合、実施例9と実施例5との対比から、前処理前に調湿建材を研磨して表面粗さRaを小さくすることにより、さらに加飾部の光沢性が向上することがわかる。研磨すると大きな凹凸がなくなり、画質向上につながると考えられる。
【0101】
実施例5又は6と実施例7及び8との対比から、前処理液の微粒子を1次粒子径40nm以上300nm以下の大粒子径のもの(第一の微粒子)と1次粒子径40nm未満の小粒子径のもの(第二の微粒子)との混合物から構成した場合、さらに加飾部の光沢性が向上することがわかる。
実施例11〜16から、第一の微粒子の第二の微粒子の合計100重量%に対する第一の微粒子の配合比率は、加飾部の光沢性の観点から、5〜95重量%が好ましく、15〜95重量%がより好ましく、50〜95重量%が特に好ましいことがわかる。
【0102】
上記実施例3及び4に示されるとおり、前処理を行わなくても良好な画像を形成することができるが、前処理を行う場合に、比較例1に示されるとおり、1次粒子径が300nmを超える微粒子を含有する前処理液を用いると、画像の耐水擦過性が低下した。1次粒子径が40nmの水分散性樹脂を含有する前処理液を用いた比較例4においても、画像の耐水擦過性に劣っていた。
【0103】
従来の紫外線硬化型(UV)インクを使用した比較例2では、画像の品位がやや劣るだけでなく、調湿建材の調湿性能及び画像の耐水擦過性が悪化した。
水分散性樹脂の代わりに水溶性樹脂を含有する水性インクを使用した比較例3では、画像の耐水擦過性が悪化した。ポリビニルアルコールのような水溶性樹脂を用いると、多孔質基材表面の親水性が高くなり、印刷面の耐水性が低下するためと考えられる。
【0104】
<実施例18>
表6に示す調湿建材B(厚さ9.5mm)を70℃のシートヒーター上で加熱しながら、所定のインクジェットノズルを用い、インクのドロップ量を「小」に、解像度を「中」に設定し、片方向印字モードにより、上記水性インク1を用いて、前記調湿建材の全表面に自然画像をインクジェット印刷した。その後、この調湿建材を70℃のシートヒーター上で130秒加熱して印刷面を乾燥させた。得られた加飾表面を上記と同様の方法で評価した。結果を表7に示す。
【0105】
<実施例19〜21>
表6に示す調湿建材C(厚さ5.5mm)を用い、印刷条件を表7に示す条件に変更した以外、実施例18と同様に加飾を行い、評価した。結果を表7に示す。
【0106】
【表6】
【0107】
【表7】
【0108】
表7の結果から、本発明に係る加飾物品の製造方法(加飾方法)は、JIS A 1470-1の吸放湿量が1級以上のレベルでJIS A 1475の平衡含水率が1級以上のレベルの調湿建材の加飾に使用できることがわかる。
【0109】
<実施例22〜26、比較例5〜6>
水分散性樹脂をそれぞれ以下の樹脂に変更する他は、上記水性インク1と同様にして、水性インク3〜6を調製した。
水性インク3:SF460S:第一工業製薬社製自己乳化型水系ウレタン樹脂「スーパーフレックス460S(商品名)」、1次粒子径30nm。
水性インク4:SF150HS:第一工業製薬社製自己乳化型水系ウレタン樹脂「スーパーフレックス150HS(商品名)」、1次粒子径80nm。
水性インク5:SF420:第一工業製薬社製自己乳化型水系ウレタン樹脂「スーパーフレックス420(商品名)」、1次粒子径10nm。
水性インク6:SF740:第一工業製薬社製自己乳化型水系ウレタン樹脂「スーパーフレックス740(商品名)」、1次粒子径200nm。
【0110】
上記水性インク3〜6のいずれかを用いて、上記実施例3と同様に前処理なしで調湿建材の加飾を行い、又は上記実施例5と同様に前処理液4を用いて調湿建材の加飾を行って、それぞれ評価した。また、吐出安定性(印字安定性)として、上記客観的視覚評価に使用した自然画像と木目調画像を、ノズル抜けなく印刷可能である(評価○)か否(評価×)かを評価した。結果を表8に示す。
下記表には記載されていないが、上記水性インク1についても吐出安定性評価を行った結果、良好な吐出安定性(評価○)が得られた。
【0111】
【表8】