【実施例】
【0029】
以下、本発明を具体化した成形型用金型の実施例について、図面を参照して説明する。なお、実施例で記す材料、構成、数値は例示であって、適宜変更できる。
【0030】
<実施例1>
図1及び
図2は、実施例1の成形用金型及びその製造方法を示している。この成形用金型は、
図1(d1)(d2)に示すように、金型本体1と、金型本体1の背面に添設された有孔導電シートとしての金網5と、金網5にその複数の貫通孔を埋め塞いで電着した電鋳金属8とを備える。
【0031】
金型本体1は、ニッケルにより厚さ15mmに形成されたものであり、中央部が凹となった表面(成形面)2と、中央部が凸となった背面3とを備えている。背面3には深さ10mm、幅10mmで広範囲に蛇行した溝4が形成されている。
【0032】
有孔導電シートとしての金網5は、線径0.14mmのステンレス鋼線よりなる60メッシュ、目開き0.28mmのものであり、その多数の網目6が複数の貫通孔に相当する。金網5は蛇行した帯状であり、溝4を平らに跨いで金型本体1の背面3に添設され、溝4より両側方の金型本体1の背面3にスポット溶接部7によって仮止めされている。
【0033】
電鋳金属8は、金型本体1の背面3及び金網5に該金網5の網目6を埋め塞いで厚さ約3mmに電着したニッケルの層である。金網5の溝4を跨ぐ部分に電着した電鋳金属8は平らな形状である。また、金網5の溝4より両側方の部分に電着した電鋳金属8は、網目6を通して金型本体1の背面3にも電着して一体化している。
【0034】
金網5の溝4を跨ぐ部分に電着した電鋳金属8の内面と、溝4の内面とが、蛇行した流体通路10の内面を構成している。流体通路10の金型本体1表面2からの距離は5mmである。流体通路10の両端部に流入管11と流出管12が電鋳金属8を突き抜けて取り付けられ、温度調節用流体を流すことができるようになっている。
【0035】
次に、上記成形用金型の製造方法を、工程順に説明する。
(1)金型本体形成ステップ:
図1(a1)(a2)に示すように、金型本体1を公知の方法(例えばニッケル電鋳加工)により形成する。
(2)溝形成ステップ:
図1(b1)(b2)に示すように、金型本体1の背面3に溝4を機械加工する。
(3)シート添設ステップ:
図1(c1)(c2)に示すように、金型本体1の背面3に金網5を添設し、スポット溶接部7によって仮止めする。スポット溶接部7は、金網5の要所にスポット溶接機の電極(図示略)を押し当て、該電極と金型本体1との間に電流を流して形成する。このスポット溶接時の熱はわずかであり、金型本体1にはほとんど影響を与えない。
【0036】
(4)電鋳ステップ:
図1(d1)(d2)に示すように、金型本体1の背面及び金網5に公知の電鋳加工により電鋳金属8を形成する。この電鋳加工の経過を
図2に示す。
図2(a)のように金網5の網目6を通して溝4の中にも電鋳液15が入る。このため、同図(b)のように電鋳金属8は金網5の内面側にも電着し、やがて同図(c)のように網目6を埋めて塞ぐ。また、電鋳金属8は金網5の網目6を通して金型本体1の背面にも電着するので、電鋳金属8と金網5が金型本体1の背面に「面」で固定され、強度が高くなり、熱的結合性も高くなる。
【0037】
なお、
図2(d)に示す比較例は、金網に代えて無孔のステンレス鋼薄板20を用いたものであるが、電鋳金属8は、ステンレス鋼薄板20の内面側には電着しない。このため、ステンレス鋼薄板20はその両縁部が金型本体1の背面に「線」で固定され、強度が落ち、熱的結合性も落ちる。
【0038】
本実施例によれば、次の作用効果が得られる。
(i)金網5は、従来の剛性のある金属配管よりも柔軟性があるため、金型本体1の背面3に沿って追従性良く且つ容易に曲げながら添設することができる。添設した金網5は、電鋳金属8の電着の基礎となり、また複数の網目6が電鋳液15を通すことから、添設した金網5の外面のみならず内面にも電鋳金属8が電着する。
(ii)金網5に該金網5の網目6を埋め塞いで電着した電鋳金属8は、上述したように曲げた金網5の形状と倣った形状となり、また、金網5を通して金型本体1の背面3にも電着し一体化される。
(iii)その電鋳金属8の内面と溝4の内面とが流体通路10の内面を構成するため、流体通路10の三次元的自由度が高く、また、従来の金属配管のような密着性不備に起因する熱伝導ロスがない。
(iv)また、電鋳加工後の電鋳金属8の内側の電鋳液15は容易に抜き取ることができることから、従来のワックス等の消失性材料のような除去の手間及び困難性の問題がない。
(v)流体通路10の金型本体1の表面2からの距離は5mmであるが、溝4の深さを増減することによりこの距離を任意に変更することができる。
【0039】
<実施例2>
次に、
図3(a)に要部を示す実施例2の成形用金型は、次の点で実施例1と相違し、その他の構成及び製造方法は実施例1と共通するものである。金型本体1の背面3に形成された溝4の深さが5mmである。金網5の溝4を跨ぐ部分及び同部分に電着した電鋳金属8が金型本体1から離れる方向へ湾曲した形状である。電鋳金属8の内面の頂部は金型本体1の背面3から5mmの高さである。流体通路10の金型本体1の表面2からの距離は10mmとなる。この実施例2によっても、実施例1と同様の作用効果が得られる。
【0040】
<実施例3>
次に、
図3(b)に要部を示す実施例3の成形用金型は、次の点で実施例1と相違し、その他の構成及び製造方法は実施例1と共通するものである。金型本体1の背面3に溝が形成されていない。金網5は、シート添設ステップで金型本体1の背面3に当接してスポット溶接部7で仮止めされた2つの当接部と、両当接部の間の、シート添設ステップで金型本体1から離れる方向へ湾曲した形状とされた湾曲部とを含むものである。湾曲部に電着した電鋳金属8も金型本体1から離れる方向へ湾曲した形状であり、その内面と金型本体1の背面とが蛇行した流体通路10の内面を構成している。電鋳金属8の内面の頂部は金型本体1の背面3から10mmの高さである。流体通路10の金型本体1の表面2からの距離は15mmとなる。この実施例3によっても、実施例1と同様の作用効果が得られる。
【0041】
以下で説明する実施例4〜14は、それぞれで説明する点で実施例1等と相違し、その他の構成及び製造方法は実施例1と共通するものである。これらの実施例4〜14によっても、実施例1と同様の作用効果が得られる。
【0042】
<実施例4及びその変更例>
図4に示す実施例4の成形用金型は、実施例1の流体通路の蛇行間隔を小さくしたものである(実施例2においても実施可能)。溝4は、実施例1よりも蛇行の折り返しを小さくして形成されている。金網5は実施例1のようには蛇行しない幅広の帯状である。金網5は、溝4の蛇行により並んだ複数の溝要素4aを跨ぐように金型本体1の背面3に添設され、各溝要素4aより両側方の金型本体1の背面3にスポット溶接部7によって仮止めされている。金網5の溝4を跨ぐ部分に電着した電鋳金属8の内面と、溝4の内面とが、蛇行した流体通路10の内面を構成している。
【0043】
溝4は容易に機械加工することができるので、前述した金属配管の曲げ加工(
図18(a))よりも、蛇行の折り返しを小さくすることができ、もって流体通路10の蛇行間隔を小さくすることができる。
図4(b)に例示した流体通路10の蛇行間隔は、流体通路10の幅以下である。前述したように、金属配管は曲げた外側で管厚が薄くなりやすいが(
図18(b))、
図4(c)に示すように、溝4においては折り返しの外側でそのような問題がない。また、
図5に示す変更例のように、溝4をコ字状に折り返すこともできる。
【0044】
<実施例5>
図6に示す実施例5の成形用金型は、実施例3の流体通路の蛇行間隔を実施例4のように小さくしたものである(実施例2においても実施可能)。金網5は幅広の帯状である。金網5は、シート添設ステップで金型本体1の背面3に当接してスポット溶接部7で仮止めされた2つの当接部と、両当接部の間の、シート添設ステップで金型本体1から離れる方向へ湾曲した形状とされた湾曲部とを含むものである。湾曲部は平面視で蛇行するように形成され、
図6(b)の断面視では当接部と湾曲部とが幅方向に繰り返されている。湾曲部に電着した電鋳金属8の内面と、溝4の内面とが、蛇行した流体通路10の内面を構成している。
【0045】
金網5は柔軟に変形させることができるので、前述した金属配管の曲げ加工(
図18(a))よりも、蛇行の折り返しを小さくすることができ、もって流体通路10の蛇行間隔を小さくすることができる。
図6(b)に例示した流体通路10の蛇行間隔は、流体通路10の幅以下である。前述したように、金属配管は曲げた外側で管厚が薄くなりやすいが(
図18(b))、
図6(c)に示すように、金網5及び電鋳金属8においては、折り返しの外側でそのような問題がない。
【0046】
<実施例6>
図7に示す実施例6の成形用金型は、実施例1の溝の構成及び形成方法を変更したものである(実施例2においても実施可能)。溝形成ステップでは、金型本体1の背面3に幅広の凹所13を機械加工した後、凹所13に複数の仕切壁14を取り付けることにより、凹所13の内壁と仕切壁14との間及び仕切壁14どうしの間に、蛇行した溝4を形成している。金網5は幅広の帯状である。金網5は、溝4の蛇行により並んだ複数の溝要素4aを連続して跨ぐように金型本体1の背面3に添設され、金型本体1の背面3と仕切壁14にスポット溶接部7で仮止めされている。金網5の溝4を跨ぐ部分に電着した電鋳金属8の内面と、溝4の内面とが、蛇行した流体通路10の内面を構成している。
【0047】
仕切壁14の厚さで流体通路10の蛇行間隔が決まるから、仕切壁14を薄いものにすれば流体通路10の蛇行間隔を小さくできる。仕切壁14としては金属板や金属網を用いることができ、これらは凹所13の底に溶接(レーザー溶接、スポット溶接等)等で固定することができる。金属網を用いた場合、その網目は前記電鋳金属8の電鋳加工時に塞がれる。
【0048】
<実施例7>
図8に示す実施例7の成形用金型は、実施例3の流体通路の構成及び形成方法を変更したものである(実施例2においても実施可能)。金型本体1の背面3には複数の仕切壁14が取り付けられている。仕切壁14に関しては実施例6で説明したとおりである。金網5は幅広の帯状である。金網5は、シート添設ステップで金型本体1の背面3に当接してスポット溶接部7で仮止めされた2つの当接部と、両当接部の間の、シート添設ステップで金型本体1から離れる方向へ湾曲した形状とされた幅広の湾曲部とを含むものである。幅広の湾曲部は、複数の仕切壁14の端部に当接してスポット溶接部7で仮止めされている。幅広の湾曲部に電着した電鋳金属8の内面と、仕切壁14の側面と、金型本体1の背面3とが、蛇行した流体通路10の内面を構成している。
【0049】
<実施例8及びその変更例>
図9に示す実施例8の成形用金型は、実施例1の蛇行した流体通路を分岐のある流体通路10に変更したものである(実施例2においても実施可能)。溝4は、途中で分岐して2つの溝要素4aになってからまた合流するように、金型本体1の背面3に形成されている。金網5は幅広の帯状である。金網5は、2つ溝要素4aを跨ぐように金型本体1の背面3に添設され、各溝要素4aより両側方の金型本体1の背面3にスポット溶接部7によって仮止めされている。金網5の溝4を跨ぐ部分に電着した電鋳金属8の内面と、溝4の内面とが
、流体通路10の内面を構成している。
図10に示す変更例のように、溝4を3つ以上(同図では4つ)に分岐することもできる。
【0050】
前述したように、金属配管で分岐のある流体通路を形成しようとすると複数本の金属配管とそれらの接続作業が必要になるが(
図19)、溝4と金網5と電鋳金属8によれば分岐した流体通路10を容易に形成することができる。
【0051】
<実施例9>
図11に示す実施例9の成形用金型は、実施例5の蛇行した流体通路を分岐のある流体通路10に変更したものである(実施例2においても実施可能)。金網5は幅広の帯状である。金網5は、シート添設ステップで金型本体1の背面3に当接した2つの当接部と、両当接部の間の、シート添設ステップで金型本体1から離れる方向へ湾曲した形状とされた湾曲部とを含むものである。湾曲部は平面視で1つから途中で4つに分岐してからまた1つに合流するように形成され、
図11(b)の断面視では当接部と湾曲部とが幅方向に繰り返されている。湾曲部に電着した電鋳金属8の内面と、金型本体1の背面3とが、分岐のある流体通路10を形成している。
【0052】
前述したように、金属配管で分岐のある流体通路を形成しようとすると複数本の金属配管とそれらの接続作業が必要になるが(
図19)、金網5と電鋳金属8によれば分岐した流体通路10を容易に形成することができる。
【0053】
<実施例10>
図12に示す実施例10の成形用金型は、実施例1の蛇行した流体通路を、金型本体1の背面3にある凸状部31の頂面の略全体に接する幅広の流体通路10に変更したものである(実施例2においても実施可能)。凸状部31の頂面にはその周縁部を残して幅広の溝4が形成され、溝4の両端には流入管と流出管(図示略)を嵌合する凹部16が形成されている。金網5は、溝4を平らに跨いで凸状部31の頂面に添設され、溝4の周囲の凸状部31の頂面にスポット溶接部7によって仮止めされている。金網5の溝4を跨ぐ部分に電着した電鋳金属8の内面と、溝4の内面とが、幅広の流体通路10の内面を構成している。
【0054】
本実施例によれば、凸状部31の頂面の略全体に接する流体通路10を温度調節用流体が広がって流れるので、凸状部31の頂面の全体ないしその反対の表面2をより均一に温度調節することができる。
【0055】
<実施例11>
図13に示す実施例11の成形用金型は、実施例3の蛇行した流体通路を、金型本体1の背面3にある凸状部31の頂面の略全体に接する幅広の流体通路10に変更したものである(実施例2においても実施可能)。金網5は、凸状部31の側面に当接した周縁の(断面視では2つの)当接部と、両当接部の間の、凸状部31の頂面から離れる方向へ湾曲した形状である湾曲部とを含むものである。当接部は凸状部31の側面にスポット溶接部7で仮止めされている。湾曲部に電着した電鋳金属8の内面と、凸状部31の頂面とが、流体通路10の内面を構成している。
【0056】
本実施例によっても、凸状部31の頂面の略全体に接する流体通路10を温度調節用流体が広がって流れるので、凸状部31の頂面の全体ないしその反対の表面2をより均一に温度調節することができる。
【0057】
<実施例12>
図14に示す実施例12の成形用金型は、実施例3の蛇行した流体通路を、金型本体1の背面3の略全体に接する流体通路10に変更したものである(実施例2においても実施可能)。金網5は、背面3の平坦部に当接した周縁の(断面視では2つの)当接部と、両当接部の間の、背面3から離れる方向へ湾曲した形状である湾曲部とを含むものである。当接部は背面3の平坦部にスポット溶接部7で仮止めされている。湾曲部に電着した電鋳金属8の内面と、金型本体1の背面3の略全体とが、流体通路10の内面を構成している。
【0058】
本実施例によれば、背面3の略全体に接する流体通路10を温度調節用流体が広がって流れるので、背面3の全体ないしその反対の表面2をより均一に温度調節することができる。
【0059】
<実施例13>
図15に示す実施例13の成形用金型は、実施例1の蛇行した流体通路に代えて又は加えて、金型本体1の背面3にある凸状部31の凸コーナー部32及び凹コーナー部33に流体通路10を形成したものである(実施例2においても実施可能)。溝4は、凸コーナー部32及び凹コーナー部33に形成されている。金網5は、溝4を平らに又は湾曲して跨いで背面3に添設され、溝4より両側方の背面3にスポット溶接部7によって仮止めされている。金網5の溝4を跨ぐ部分に電着した電鋳金属8の内面と、溝4の内面とが
、流体通路10の内面を構成している。
【0060】
前述したように、金属配管は凸コーナー部及び凹コーナー部に線当たりして熱伝導しにくいが(
図17)、本実施例の流体通路10は凸コーナー部32及び凹コーナー部33の付近に「面」で固定されて熱伝導しやすいため、温度調節効率が良い。
【0061】
<実施例14>
図16に示す実施例14の成形用金型は、実施例3の蛇行した流体通路に代えて又は加えて、金型本体1の背面3にある凸状部31の凸コーナー部32及び凹コーナー部33に流体通路10を形成したものである(実施例2においても実施可能)。金網5は、背面3に当接した2つの当接部と、両当接部の間の、各コーナー部32,33から離れる方向へ湾曲した形状である湾曲部とを含むものである。当接部は背面3にスポット溶接部7で仮止めされている。湾曲部に電着した電鋳金属8の内面と、各コーナー部32,33付近の背面3とが、流体通路10の内面を構成している。
【0062】
本実施例の流体通路10も凸コーナー部32及び凹コーナー部33の付近に「面」で固定されて熱伝導しやすいため、温度調節効率が良い。
【0063】
なお、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、例えば次のように、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することができる。
(1)流体通路の断面積や断面形状を流体通路の流れ方向において変化させて、金型の部位に応じて温度調節効率を変えること。これは、従来の金属配管では困難なことであるが、本発明では容易なことである。
(2)実施例10〜12において、金網5の湾曲部を、金型本体1の背面3に取り付けた仕切壁(図示略)に当接させること。この仕切壁により、湾曲部に電着した電鋳金属8を支えて補強することができる。