(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0022】
本実施の形態に係る断熱性能検査装置(以下「検査装置」と略す)は、建物の屋内空間と屋外空間との間に位置する部位の断熱性能を検査する。検査対象の部位を、「対象部位」という。対象部位は、外壁、1階の床、および最上階の天井などの面部材である。なお、面部材は、単層の部材に限定されず、複数層で構成された部材であってもよい。屋外空間には、床下空間および小屋裏空間が含まれる。
【0023】
この検査装置は、検査の対象部位の断熱性能を表わす指標(以下「断熱指標」という)として、熱貫流率(U値)を推定する機能を有している。
【0024】
(基本構成について)
はじめに、
図1〜
図3を参照して、本実施の形態に係る検査装置1の基本構成について説明する。
【0025】
検査装置1は、建物の屋内空間において用いられ、本体部12と、制御装置13とを備える。本体部12および制御装置13は、筐体10に収容されている。筐体10は、角当や設置の衝撃等に耐えうる素材、たとえば鋼板により構成される。
【0026】
筐体10は、たとえば、略U字状断面を有する箱状体として形成されている。すなわち、筐体10は、本体部12および制御装置13の制御基板等を取り囲む側面部10aと、側面部10aの一端側に連結された底面部10bとで構成され、側面部10aの他端側に開口部10cが設けられている。検査の際、検査装置1は、開口部10cが対象部位80側に位置するように、対象部位80の屋内面(屋内側の面)に設置される。
【0027】
筐体10内において、本体部12は開口部10c側に配置され、制御装置13は底面部10b側に配置されている。本体部12と制御装置13との間には、仕切り板14が介在されていてもよい。
【0028】
図2に示されるように、本体部12は、基準板21と、ヒータ22と、断熱部材23と、一対の温度センサ24,25とを含む。なお、
図2では、ヒータ22および温度センサ24,25の配線の図示は省略されている。
【0029】
基準板21は、熱貫流率U
1が既知である板状部材である。熱貫流率は熱抵抗値の逆数であるため、基準板21は所定の熱抵抗値を有していると換言できる。基準板21の表面21aは、筐体10の開口部10cから露出する。そのため、検査の際に、基準板21は、対象部位80の屋内面に対面状態で配置される。
【0030】
基準板21は、たとえば、押出法ポリスチレンフォームなど樹脂系の断熱材により形成されている。基準板21は、対象部位80に熱を伝えることができ、かつ、熱抵抗が高すぎない材質であればよい。具体的には、基準板21の熱抵抗値(R値)は、0.30〜0.80m
2k/Wであることが望ましい。また、断熱性能が経年変化しないことが望ましい。あるいは、経年変化した場合に交換可能なものであることが望ましい。
【0031】
ヒータ22は、基準板21の裏面21b側に設けられる。ヒータ22は、面状の発熱体(たとえばラバーヒータ)により構成される。ヒータ22の表面が基準板21の裏面21bに当接する。ヒータ22は、基準板21と略同じ面積であることが望ましい。ヒータ22のON/OFFは、制御装置13によって制御される。
【0032】
断熱部材23は、ヒータ22の裏面側に設けられ、基準板21とヒータ22と断熱部材23とが、層状に形成されている。断熱部材23の厚みは、基準板21の厚みよりも大きい。断熱部材23の熱抵抗は、基準板21の熱抵抗よりも十分に高く、ヒータ22の熱が、基準板21の反対方向へ逆流するのを防止する。その結果、ヒータ22の熱の大部分を対象部位80側に伝えられることができる。
【0033】
温度センサ24は、基準板21の裏面21bに設けられ、基準板21の裏面21b側の温度を検知する。温度センサ25は、基準板21の表面21aに設けられ、基準板21の表面21a側の温度を検知する。ここで、理想的には、
図4に示されるように、基準板21の表面21aは、対象部位80の屋内面に当接して配置される。この場合、温度センサ25により検知される基準板21の表面側温度は、対象部位80の屋内面の温度、より特定的には、対象部位80の屋内面のうち基準板21の表面21aと面接触することで加熱される部分(以下「被加熱面」という)の温度と等しい。温度センサ24,25の検知信号は、制御装置13に入力される。
【0034】
図3に示されるように、制御装置13は、各種演算処理および各部の制御を行う演算処理部31と、各種データおよびプログラムを記憶する記憶部32と、ユーザからの指示を受け付ける操作部33と、各種情報を表示する表示部34と、着脱可能な記録媒体35aからのデータの読出しおよび書き込みを行うドライブ装置35と、各部に電力を供給する電源部36と、演算処理部31からの指示に基づき、ヒータ22の出力を制御する加熱制御部37と、計時動作を行う計時部(図示せず)とを含む。演算処理部31および記憶部32は、1つの制御基板(たとえばマイクロコンピュータ)に実装されてもよい。
【0035】
(制御装置の機能構成について)
次に、
図3および
図4を参照して、制御装置13の機能構成について説明する。
【0036】
制御装置13の演算処理部31は、その機能構成として、計測処理部41、予測処理部42、推定部43、および結果処理部44を含んでいる。計測処理部41、予測処理部42、推定部43、および結果処理部44の機能は、この検査装置1が対象部位80に取り付けられた状態において、演算処理部31により実現される。記憶部32には、基準板21の熱貫流率U
1または熱抵抗値が予め記憶されている。
【0037】
計測処理部41は、温度センサ24,25からの検知信号に基づいて、ヒータ22により対象部位80に熱が伝えられた状態における、各位置の温度を計測する。すなわち、
図4を参照して、基準板21の裏面側温度Th、および、基準板21の表面側温度(対象部位80の屋内面温度)Tiを計測する。計測された各点の温度(℃)は、演算処理部31の内部メモリなどの記憶手段に一時記憶される。
【0038】
また、計測処理部41は、加熱制御部37を介してヒータ22の運転を行い、対象部位80を屋内空間側から加熱する。つまり、加熱制御部37は、計測処理部41からの指示に応じて、ヒータ22の出力を制御する。加熱制御部37によるヒータ22の出力制御については後述する。
【0039】
推定部43は、対象部位80の加熱後における、基準板21の表裏温度(表面側温度および裏面側温度)Th,Ti、および、対象部位80の屋外側温度Toそれぞれの温度勾配から、対象部位80の熱貫流率を推定する。
【0040】
屋外側温度Toは、対象部位80の屋外面(屋外側の面)の温度に相当する。ヒータ22の加熱による対象部位80の屋外面の温度の上昇率は僅かであるため、屋外側温度Toは、外気温で代替してもよいし、外気温に空気の熱伝達率を掛けて対象部位80の屋外面の温度を推定してもよい。たとえば対象部位80が1階床の場合、対象部位80の屋外面の温度は、床下温度に代替することができる。このような場合、屋外側温度Toは、たとえば操作部33を介して入力可能である。あるいは、屋外側温度Toを検知するための温度センサ(図示せず)が、筐体10とは別に設けられ、この温度センサからの検知信号を制御装置13に入力させるように構成してもよい。
【0041】
対象部位80の熱貫流率は、各位置の温度Th、Ti、Toと、記憶部32に記憶された基準板21の熱貫流率U
1とに基づいて推定される。推定部43による対象部位80の熱貫流率の基本的な推定原理は、以下の通りである。
【0042】
基準板21の熱貫流率は既知であるため、その値U
1と、基準板21の表裏温度Th,Tiとから、基準板21を通過する熱流W
1(単位:W/m
2)を推定することができる。すなわち、次式(1)により、基準板21を通過する熱流W
1を推定することができる。
【0043】
W
1=U
1×(Th−Ti) ・・・(1)
一方、対象部位80を通過する熱流W
0は、未知の熱貫流率U
0と、対象部位80の表裏温度Ti,To(対象部位80の屋内面温度に相当する基準板21の表面側温度Tiおよび対象部位80の屋外側温度To)とから、次式(2)が成り立つ。
【0044】
W
0=U
0×(Ti−To) ・・・(2)
ここで、対象部位80を通る熱流W
0と、基準板21を通る熱流W
1とは、一次元で考えると同じであるため、次式(3)が成り立つ。
【0045】
U
1×(Th−Ti)=U
0×(Ti−To) ・・・(3)
よって、求めたい対象部位80の熱貫流率U
0は、次式(4)により求められる。
【0046】
U
0=U
1×(Th−Ti)/(Ti−To) ・・・(4)
すなわち、基準板21の表裏温度Th,Tiの温度差と、基準板21の熱貫流率U
1とを乗算することにより得られる基準板21の熱流の推定値(W
1)を、対象部位80の表裏温度Ti,Toとの温度差で除算することにより、対象部位80の熱貫流率U
0が導出される。
【0047】
上記推定原理に基づいて、理想的には、式(4)で表される算出式に、基準板21の熱貫流率と上記3点の温度とを代入することで、対象部位80の熱貫流率U
0を推定(算出)することができる。
【0048】
ここで、推定部43により対象部位80の熱貫流率U
0を精度良く推定するためには、本来、基準板21の表裏温度(Th,Ti)および対象部位80の屋外側温度(To)がそれぞれ略一定となり安定するまで待つ必要がある。なお、上述のように、対象部位80の屋外側温度(To)は、対象部位80の加熱状態に関わらず一定とみなせるため、実際には、基準板21の表裏温度(Th,Ti)が安定するまで待つ必要がある。基準板21の表裏温度が安定するまでの時間は、対象部位80の熱容量の大きさによって異なる。一般的に、床材の熱容量は、外壁の熱容量よりも大きい。床材は、典型的には、屋内空間に面する合板(たとえばフローリング、木床など)と、その裏側に設けられた断熱材(たとえばポリスチレンフォーム)とで構成されている。
【0049】
対象部位80が床材のような熱容量の大きい面部材である場合に、仮に、ヒータ22の出力を一定出力として対象部位80を加熱した場合、
図16(A)に示すように、基準板21の裏面側温度Thと、基準板21の表面側温度(対象部位80の屋内面温度)Tiとの双方が安定するまでに、9時間近く掛かることがある。この場合、当然ながら、
図16(B)に示すように、対象部位80の熱貫流率U
0が真値Utと近い値となるまでに、9時間近く掛かる。これは、熱容量の大きい対象部位80の場合、ヒータ22からの熱が対象部位80に蓄熱されながら、2点の温度Th,Tiが上昇するためであると考えられる。
図16において、基準板21の表裏温度Th,Tiの双方が安定し、推定U値が真値と略一致したときの時間が、「tz」で示されている。また、1階床の屋外面の実測温度がTo
1で示され、床下温度がTo
2で示されている。
【0050】
入居中の実物件での断熱性能の検査は、2時間以下の短時間で終了することが望ましい。
図16に示すようなケースにおいて、加熱開始から理想の測定終了時間(二点鎖線で示されている)となったタイミングで熱貫流率の算出を試みた場合、その時点では基準板21の表裏温度Th,Tiは未だ上昇を続けており、それぞれの安定温度TSh,TSiに達していない。したがって、その時点で得られた基準板21の表裏温度Th,Tiを上記算出式(4)に当て嵌めたとしても、推定U値と真値(Ut)との誤差は非常に大きい。
【0051】
そこで、本実施の形態では、基準板21の裏面側温度Thを一定に制御し、変数を基準板21の表面側温度Tiのみとすることにより、加熱開始から短時間で、表面側温度Tiの安定温度を予測する。ヒータ22の一定温度制御は加熱制御部37により行われ、基準板21の表面側安定温度の予測は予測処理部42により行われる。なお、以下の説明においては、理解を容易にするために、基準板21の裏面側温度Thを「ヒータ温度Th」、基準板21の表面側温度Tiを「設置面温度Ti」という。
【0052】
加熱制御部37は、
図5のグラフに示されるように、運転開始直後からヒータ22の温度を急速に上げて、計測処理部41により計測されたヒータ温度Thが設定温度TShとなるように制御する。このような一定温度制御は、たとえばヒータ22のON/OFFを繰り返すことにより実現される。なお、温度センサ24からの検知信号は、計測処理部41を経由することなく加熱制御部37に入力されてもよい。
【0053】
予測処理部42は、加熱制御部37による一定温度制御が行われている際に、時系列に得られる設置面温度(実測値)Tiに基づいて、安定温度TSiを予測する。なお、測定開始後、安定温度TSiが予測可能となるのは、ヒータ温度Thが略一定となり、設置面温度Tiの上昇勾配が安定した時点(
図5の時間ta)以降である。設置面の安定温度の予測方法については、
図6のグラフを参照して説明する。
【0054】
図6に示す時間tbが、理想の測定終了時間(典型的には、測定開始後30分〜60分の間)であると仮定する。時間tbの段階では、設置面温度Tiは安定しておらず、上昇を続けている。通常、設置面温度Tiの上昇は、理想終了時間tbから長時間経過してやっと収束する。予測処理部42は、時間tb以前の温度変化から関数近似を行って収束値bを導出することで、設置面の安定温度TSiを予測する。つまり、予測処理部42は、設置面温度の変化過程において、ヒータ温度が一定の状態のときに得られる実測値(Ti)に基づいて、近似曲線の収束値bを算出することによって、設置面の安定温度TSiを予測する。
【0055】
近似曲線は、次式(5)により表わされる。
【0056】
y=−Ca
x+b (ただし、0<a<1) ・・・(5)
ここで、
図6のグラフに示されるように、測定開始時ではなく、特定時点を近似曲線のx=0とし、特定時点における実測値をy
0とする。その場合、式(5)の近似式に、x=0、y=y
0を代入すると、
y
0=−Ca
0+b=−C+b
となるため、
C=b−y
0
が成り立つ。よって、式(5)の近似式を、次式(6)の方程式に置き換える。
【0057】
y=−(b−y
0)a
x+b ・・・(6)
この方程式(6)を用いる場合、未知数bは、最終的に求めたい収束値であるが、未知数aが定まれば計算できる。したがって、予測処理部42は、特定時点よりも後の第1時点(x
1)および第2時点(x
2)の実測値(y
1,y
2)から、方程式(6)の未知数aを導出する。なお、本実施の形態において、特定時点は、典型的には、ヒータ温度Thが安定した時点(時間ta)である。したがって、特定時点を以下「ヒータ安定時点」という。第1時点は、ヒータ安定時点よりもΔt1分後の時点であり、第2時点は、ヒータ安定時点よりもΔt2分(Δt2>Δt1)後の時点である。なお、特定時点は、時間taよりも後であってもよい。
【0058】
具体的には、まず、未知数aを1未満の任意の数値として仮定する。そして、次式(7)により、第1時点の実測値から、収束値bの暫定値(以下、「暫定収束値b
*」と表わす)を求める。
【0059】
b
*=(y
1−y
0a
x1)/(1−a
x1) ・・・式(7)
暫定収束値b
*が求められると、それよりも後の時間における設置面温度Tiの予測式を次式(8)のように設定することができる。
【0060】
y=−(b
*−y
0)a
x+b
* ・・・式(8)
予測式は、第1時点の実測値に基づき算出された暫定収束値b
*が用いられることから、本実施の形態では、第1時点、すなわちヒータ安定時点(x=0)からΔt1分経過した時点を「予測式作成タイミング」という。なお、
図7には、第1時点が「予測式作成時刻」として示されている。
【0061】
図7には、予測式作成タイミング(x
1)において、未知数a=0.50と仮定したときの予測式のグラフ、未知数a=0.90と仮定したときの予測式のグラフ、未知数a=0.99と仮定したときの予測式のグラフが示されている。当然ながら、未知数aの仮定値によって、暫定収束値b
*は様々な値をとる。たとえば、x
1=10、未知数a=0.90と仮定した場合、暫定収束値b
*は、「b
*={y
10−y
0(0.9)
10}/{1−(0.9)
10}」として表せる。なお、「y
10」は、x=10のときの設置面温度Ti(実測値)である。
【0062】
次に、予測処理部42は、ヒータ安定時点からΔt2時間(x
2)経過した第2時点において、予測式(8)より算出される予測値「−(b
*−y
0)a
x2+b
*」と、そのときの実測値y
2とを比較する。これにより、未知数aの仮定値が正しいかどうかを判定(確認)する。
【0063】
予測値と実測値y
2とが異なる場合には、未知数aが正しくないと判定できる。この場合、予測処理部42は、予測値と実測値y
2とが同じになるまで未知数aの仮定値を変更する。たとえば、
図8に示されるように、予測値が実測値y
2よりも小さい場合、仮定した未知数aは本来の値よりも小さすぎることが分かる。逆に、
図9に示されるように、予測値が実測値y
2よりも大きい場合、未知数aの仮定値は本来の値よりも大きすぎることが分かる。
【0064】
これに対し、
図10に示すように、予測値と実測値y
2とが一致していれば、未知数aの仮定値は正しいとみなすことができる。したがって、予測処理部42は、このときの予測値の算出に用いた暫定収束値b
*を、収束値bとして判定することで、設置面の安定温度TSiを予測することができる。
【0065】
このように、第2時点の実測値に基づき未知数aの仮定値および暫定収束値b
*が正しいかを確認することから、本実施の形態では、第2時点、すなわちヒータ安定時点(x=0)からΔt2分経過した時点を「確認タイミング」という。なお、
図8〜
図10には、第2時点が「確認時刻」として示されている。
【0066】
このような予測方法を用いることで、設置面温度Tiが安定していない段階で、その収束値b、すなわち安定温度TSiを予測することができる。したがって、短時間で、対象部位80の熱貫流率U
0を推定することができる。
【0067】
なお、温度センサ25の特性上、2点の実測値y
1,y
2の一方または双方には、±0.5℃以下の誤差が含まれる可能性がある。実測値y
1,y
2のいずれかに誤差があれば、収束値bの算出結果にも影響する。したがって、予測処理部42は、さらに、確認タイミングにおいて収束値bとして予測した値(収束値bの候補値)が、異常値でないか否かを判定してもよい。
【0068】
また、本実施の形態のような安定温度の予測方法によれば、ヒータ安定時点と予測式作成タイミングとの時間差Δt1、および、予測式作成タイミングと確認タイミングとの時間差(Δt2−Δt1)は、等しくなくてもよい。そのため、予測式作成タイミングおよび確認タイミングを、理想終了時間内で自由に設定できる。
【0069】
したがって、実測値y
0とy
1との差、および、実測値y
1とy
2との差が、それぞれ比較的大きくなる2点を、予測式作成タイミングおよび確認タイミングとして選択することができる。その結果、収束値の算出誤差を低減することができる。
【0070】
また、確認タイミングを自由に設定できることから、確認タイミングを、測定開始時を基準とした理想終了時間tbとして定めてもよい。この場合、理想終了時間tbから安定時間taを引いた時間が、x
2の値(Δt2)となる。あるいは、確認タイミングを、ヒータ安定時点からの目標予測時間として定めてもよい。
【0071】
なお、予測式作成タイミングおよび確認タイミングをそれぞれ特定するための情報は、予め記憶部32に記憶されていてもよいし、測定開始時にユーザにより入力されてもよい。後者の場合、具体的な時刻(時分)が入力されてもよいし、安定時間taからの経過時間(Δt1,Δt2)が入力されてもよい。あるいは、測定開始時からの経過時間(ta+Δt1,ta+Δt2)が入力されてもよい。
【0072】
再び
図3を参照して、結果処理部44は、推定部43による推定結果(対象部位80の熱貫流率U
0)の記録処理を行う。具体的には、結果処理部44は、推定部43による推定結果を、ドライブ装置35を介して記録媒体35aに記録する。この際、対象部位80を識別するための識別情報と、熱貫流率の推定データとを関連付けて、記録媒体35aに記憶させてもよい。結果処理部44は、推定結果をユーザに報知するために、推定結果を表示部34に表示する処理を行ってもよい。
【0073】
なお、推定結果は、着脱可能な記録媒体35aに記録されることとしたが、記憶部32の所定領域に記録されてもよい。また、その場合、ユーザによる所定の操作によって、記憶部32に記録された推定結果を、通信部(図示せず)を介して、他の情報処理装置(たとえば、パーソナルコンピュータ、スマートフォンなど)に送信できるようにしてもよい。
【0074】
本実施の形態では、上記した計測処理部41、予測処理部42、推定部43、および結果処理部44の機能は、演算処理部31がソフトウェアを実行することで実現されるものとしたが、これらのうちの少なくとも1つについては、ハードウェアにより実現されてもよい。
【0075】
(外観および構造の具体例について)
図11〜
図13を参照して、検査装置1の外観および本体部12の構造の具体例について説明する。
図11および
図12には、検査装置1の外観が示されている。
図13には、
図11のXIII−XIII線に沿う検査装置1の断面構造が模式的に示されている。
【0076】
筐体10は平面視において(底面部10b側から見て)矩形形状(略正方形状)である。この場合、側面部10aは、互いに直交する4つの側板部により形成されている。
【0077】
図12に示されるように、側面部10aのうち1つの側板部には、電源のON/OFFを指示するための電源スイッチ33aと、検査開始を指示するためのスタートスイッチ33bと、表示部34と、記録媒体35aを抜き差しするための挿入口35bと、測定終了時に点灯するランプスイッチ53とが設けられている。電源スイッチ33aおよびスタートスイッチ33bは、操作部33に含まれる。
【0078】
表示部34には、検査の進行度合を示す情報、たとえばヒータ温度Thおよび設置面温度Tiそれぞれの実測値、ならびに、検査開始からの経過時間などが表示される。なお、表示部34は、筐体10の底面部10bに設けられてもよい。この場合、検査の進行度合を確認し易い。
【0079】
他の側板部には、
図11に示されるように、たとえば、電源ケーブルを挿入するための挿入口51と、主電源スイッチ52とが設けられている。また、さらに他の側面部分には、持ち運び用の把持部15が設けられていることが望ましい。
【0080】
本実施の形態では、筐体10の開口部10cが保護板11により覆われている。この場合、保護板11の表面が対象部位80の屋内面に当接するように、検査装置1が設置される。このように、基準板21は、保護板11を介して、対象部位80の屋内面に対面状態で配置される。保護板11は、耐熱性を有する材料、たとえばABS樹脂により形成される。
【0081】
図13に示されるように、本実施の形態では、筐体10内において、仕切り板14側から順に、本体部12の構成要素である断熱部材23、ヒータ22、均熱板26、および基準板21が配置され、基準板21の表面21aに当接するように保護板11が設けられている。つまり、断熱部材23、ヒータ22、均熱板26、基準板21、および保護板11が、層状に構成されている。
【0082】
基準板21は、一例として、厚みL1が15mm、熱伝導率が0.028W/mKの断熱材である。つまり、基準板21の熱抵抗値は0.54m
2k/W程度である。断熱部材23の厚みL2は、基準板21の厚みL1の2倍以上であり、断熱部材23の熱抵抗値は、基準板21の熱抵抗値の2倍以上である。
【0083】
ヒータ22は、平面視においてたとえば正方形状であり、その一辺の長さL3が約400mmである。株式会社建築環境ソリューションズ製のINSYS伝熱&結露計算シリーズ「非定常 熱・湿気計算システムH&M」により、ヒータ22のサイズを100mm角、200mm角、300mm角とした場合のそれぞれの温度分布と、一次元計算による温度分布とを比較した。それぞれの温度分布は、ヒータ22の設定温度を60℃として、加熱開始から23時間後の温度分布である。
【0084】
このシミュレーションの結果、200mm角以下では、中心部における温度であっても、一次元計算の温度よりも極端に低い値を示した。これに対し、300mm角では、中心部における温度が、一次元計算の温度と同じではないものの、近い分布を示した。このシミュレーション結果から、発熱面積が過小であると、周辺部への熱の回り込みにより、基準板21の表面(設置面)21aの温度が想定よりも下がることが判明した。
【0085】
そのため、安全側をみて、ヒータ22のサイズを300mmよりも大きい400mm角とすることで、熱伝達の効率低下を防止することができる。なお、上記シミュレーションの結果から、ヒータ22のサイズは、400mmでなくてもよく、300mm以上であればよい。
【0086】
本実施の形態では、ヒータ22の熱を基準板21に均等に伝えるために、ヒータ22と基準板21との間に、熱伝導率の高い均熱板26が設けられている。均熱板26は、たとえばアルミニウム材料により形成される。ヒータ22および均熱板26は、基準板21を加熱する加熱部材27を構成する。なお、ヒータ22の温度ムラが殆ど無い場合には、加熱部材27は、ヒータ22のみによって構成されてもよい。
【0087】
ヒータ22の加熱能力としては、70℃程度まで加熱可能であることが望まれる。検査装置1は、既存の建物の床等に設置して使用されるため、ヒータ22の過加熱を防止するための過加熱防止手段(安全装置)が設けられていることが望ましい。具体的には、ヒータ22の裏面側に、サーミスタ28が設けられ、サーミスタ28により検知される温度が一定温度に達すると、強制的にヒータ22の電源がオフされる。ヒータ22の過加熱の判断は、制御装置13の演算処理部31により行われてもよい。
【0088】
ここで、
図13に示されるように、加熱部材27および基準板21は、それらを取り囲む筐体10の側面部10aから離れて配置されている。つまり、加熱部材27および基準板21の端部と筐体10の側面部10aとの間には、隙間60が設けられている。これにより、加熱部材27のヒータ22から発せられた熱が、基準板21ではなく筐体10の側面部10aに流れ、意図せず放熱されてしまうことを防止することができる。加熱部材27および基準板21と側面部10aとの間の間隔は、たとえば5mm程度である。
【0089】
本実施の形態では、仕切り板14と保護板11とで本体部12を挟み込む形態とすることで、加熱部材27および基準板21を、筐体10に直接接触しないように固定している。保護板11は、たとえば、側面部10aの開口部10c側端部に設けられたフランジ16に、ビスなどにより固定される。仕切り板14は、たとえば、側面部10aの中央部付近に設けられたフランジ17に、ビスなどにより固定される。なお、保護板11および仕切り板14の筐体10への固定方法は、特に限定されない。
【0090】
このように、筐体10の開口部10cを覆う保護板11が設けられることにより、基準板21の表面21aまたは温度センサ25の破損を防止するだけでなく、加熱部材27および基準板21を筐体10の側面部10aから離間した状態で固定することができる。
【0091】
なお、加熱部材27(ヒータ22および均熱板26)と基準板21との双方が、筐体10の側面部10aから離れていることが望ましいが、少なくとも加熱部材27が筐体10の側面部10aから離れていればよい。
【0092】
また、本実施の形態では、加熱部材27および基準板21と筐体10の側面部10aとの間に隙間60を設けることとしたが、これらの間に基準板21よりも熱抵抗の大きい断熱材等を介在させてもよい。
【0093】
(対象部位の熱貫流率U
0の補正について)
上述の例では、筐体10の開口部10cから露出する基準板21の表面21aが、保護板11により面接触状態で塞がれる。この場合、保護板11が熱を伝導するため、対象部位80の被加熱面の温度が想定よりも下がってしまう。つまり、基準板21の表面側温度Tiと、対象部位80の被加熱面の温度とに、ずれが生じてしまう。そのため、上記基本の算出式(4)を用いた場合、対象部位80の熱貫流率U
0の推定精度が低下する。
【0094】
そこで、本実施の形態では、保護板11の素材を、熱貫流率または熱抵抗値が既知である素材とする。これにより、推定部43は、上記式(4)による算出結果を、保護板11の熱抵抗値(あるいは熱貫流率)に応じて補正することで、対象部位80の熱貫流率を推定する。なお、保護板11の熱抵抗値は、基準板21の熱抵抗値と同程度であることが望ましい。
【0095】
具体的には、
図14に示すように、保護板11の熱貫流率を「U
2」で表わすと、対象部位80の熱貫流率U
0は、上記式(4)に代えて、次の式(9)により求められる。
【0096】
U
0=1/[1/{U
1×(Th−Ti)/(Ti−To)}−1/U
2] ・・・(9)
(動作について)
次に、検査装置1の動作について説明する。検査装置1の動作は、演算処理部31が、記憶部32に記憶されたプログラムを読み出して熱貫流率推定処理を実行することで実現される。
【0097】
図15は、本実施の形態における熱貫流率推定処理を示すフローチャートである。
図15に示す処理は、検査装置1の保護板11を対象部位80の屋内面に接触させた状態で、スタートスイッチ33bが押下された場合に開始される。
【0098】
図15を参照して、はじめに、演算処理部31の計測処理部41は、加熱制御部37を介してヒータ22の加熱処理を開始するとともに(ステップS2)、加熱処理に並行して、上記した各位置の温度計測を開始する(ステップS4)。つまり、計測処理部41は、ヒータ22の加熱中、温度センサ24,25からの検知信号に基づいて、ヒータ温度Thおよび設置面温度Tiを計測する。対象部位80の屋外側温度Toは、たとえば検査開始時に、操作部33から入力される。
【0099】
加熱制御部37は、ヒータ温度Thが設定温度(たとえば60℃〜70℃程度)となるように、ヒータ22の一定温度制御を行う。設定温度は、予め記憶部32に記憶されていてもよい。
【0100】
続いて、演算処理部31の予測処理部42は、安定温度予測処理を実行する(ステップS6)。安定温度予測処理については、上述の通りである。すなわち、設置面温度Tiの実測値と予測値とが同じと判定されるまで、未知数aの仮定値の変更および暫定収束値b
*の算出が繰り返される。実測値と予測値とが同じと判定された場合、予測処理部42は、実測値と同じと判定された予測値の算出に用いた最新の暫定収束値b
*を収束値b(候補)として判定する。これにより、収束値bが出力される。
【0101】
具体的には、たとえば、予測式作成タイミングを、ヒータ安定時点から10分、確認タイミングを、ヒータ安定時点から30分とし、未知数aの仮定値の初期値を0.9とする。また、たとえば、未知数aの仮定値は、初期値からたとえば0.001ずつ順に変更していき、実測値と予測値とが、小数点第3位以上一致していれば、これらは同じであると判断する。
【0102】
なお、予測式作成タイミングおよび確認タイミングにおける実測値は、それぞれ、移動平均処理が行われることによって、計測値の極端なばらつきが抑えられていることが望ましい。また、測定開始時においても、一定時間(たとえば5分程度)継続して実測値の移動平均処理を行うことにより、滑らかな曲線を得ておくことが望ましい。
【0103】
安定温度予測処理が終わると、演算処理部31の推定部43は、記憶部32から基準板21の熱貫流率U
1および保護板11の熱貫流率U
2を示す数値データを読み出して(ステップS8)、対象部位80の熱貫流率U
0を推定する(ステップS10)。具体的には、上記式(9)で示される算出式に、ヒータ22の設定温度(Th)と、上記予測処理で求められた収束値(Ti)と、対象部位80の屋外側温度(To)と、ステップS8で読み出した数値(U
1,U
2)とを代入することにより、対象部位80の熱貫流率の推定値(U
0)を算出する。なお、式(9)の文字U
1,U
2に予め基準板21の熱貫流率が代入された算出式を、記憶部32に予め記憶させておいてもよい。ステップS8の処理(U
1値およびU
2値の読み出し)は、本推定処理の開始時に行われてもよい。
【0104】
対象部位80の熱貫流率(U
0)が推定されると、演算処理部31の結果処理部44は、推定結果(U
0)を記録媒体35aに記録する(ステップS12)。これにより、他の情報処理装置において、記録媒体35aに記録された対象部位80の熱貫流率を確認することができる。
【0105】
このように、対象部位80の熱貫流率を記録することで、対象部位80の面積を入力すれば、対象部位80から逃げる熱量を求めることもできる。また、建物において、断熱性能の評価対象となる全ての部位について、熱貫流率推定処理が終わると、記録媒体35aに記憶された部位ごとの熱貫流率と、それらの面積とを参照して、建物全体の外皮平均熱貫流率や熱損失係数を推定することもできる。
【0106】
上述のように、本実施の形態によれば、検査装置1によって屋内空間側から対象部位80に強制的に熱を与えるため、実際の内外温度差が小さい時期であっても、対象部位80の熱貫流率の推定を行うことができる。また、検査装置1の基準板21の面積は対象部位80の面積よりも十分に小さく、対象部位80の一部分のみを加熱するだけでよいため、従来よりも、短時間で断熱性能を検査することができる。
【0107】
また、熱貫流率の検査に用いる機材としては、単体の検査装置1のみであるため、システム構成を簡易にすることができる。
【0108】
また、熱流計により熱流を計測する場合、真値との誤差が生じやすいが、本実施の形態では、対象部位80に熱が伝えられた状態において各位置の温度を計測するだけでよいため、誤差を少なくすることができる。
【0109】
さらに、本実施の形態では、ヒータ22の加熱開始後、早期の段階で、基準板21の表面側の安定温度(収束値)を予測可能である。そのため、熱容量の大きい対象部位80を検査対象とする場合でも、測定時間を短時間(理想的には、1時間以下)に抑えることができる。つまり、簡単かつ短時間で、対象部位80の熱貫流率を精度良く推定することができる。したがって、本実施の形態の検査装置1は、入居中の実物件にも適用することが可能である。また、既存の建物全体の断熱性能も容易に評価できるため、検査装置1を利用することで、リフォーム事業を活性化することもできる。
【0110】
なお、本実施の形態では、検査装置1の制御装置13において、対象部位80の熱貫流率の推定が行われた。しかしながら、
図3に示した演算処理部31の機能のうち、推定部43および結果処理部44の機能は、他の情報処理装置(以下「推定装置」という)により実現されてもよい。このような場合、検査装置1と推定装置とによって、断熱性能推定システムが構成されてもよい。
【0111】
この場合、検査装置1の演算処理部31には、計測処理部41と、予測処理部42との機能が含まれていればよい。この場合、熱貫流率の推定に必要な温度データが記録媒体35aに記録され、推定装置において、記録媒体35aに記録された温度データに基づいて、対象部位80の熱貫流率U
0が推定される。記録媒体35aに記録されるデータには、少なくとも、予測された設置面安定温度TSiが含まれ、望ましくは、ヒータ安定温度TSh(一定制御の設定温度)および対象部位80の屋外側温度Toがさらに含まれる。
【0112】
あるいは、記録媒体35aに記録されるデータは、熱貫流率の推定に用いられる安定温度のデータに代えて、安定温度に至るまでの時系列の温度データを含んでいてもよい。この場合、検査装置1の演算処理部31には、予測処理部42の機能も含まれなくてもよく、計測処理部41の機能だけが含まれてもよい。つまり、記録媒体35aには、演算処理部31の処理結果のうち、計測処理部41による計測結果のみが記録されてもよい。
【0113】
なお、本実施の形態では、対象部位の断熱性能を表わす指標として、熱貫流率を例に説明したが、上述の推定原理を利用できる指標であれば、これに限定されない。
【0114】
また、本実施の形態では、検査装置1の筐体10の形状が平面視において矩形形状であることとしたが、限定的ではなく、たとえば円形状であってもよい。その場合、本体部12を構成する部材も、平面視において矩形形状でなくてもよい。
【0115】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。