(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
堆積した有機汚泥類に該有機汚泥類の容重(kg/L)に基づいた通気量で高温ガスを通気させて好気性好熱細菌による好気性発酵を促進し、該好気性発酵によって生じた発酵熱により、該有機汚泥類を乾燥させ、
前記高温ガスの通気量は、以下の条件式(1)を満足していることを特徴とする有機汚泥類乾燥方法。
0.73×D−0.09 < V ≦ 0.67×D+0.23 ・・・(1)
ただし、条件式(1)におけるDは前記有機汚泥類の容重(kg/L)、Vは前記高温ガスの通気量(m3/m3−有機汚泥類/分)である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の従来の方法では、発酵した有機汚泥類に可燃性廃棄物、固形燃料等の発熱量調整剤を添加して発熱量を上昇させることによって燃料としての質を高めているものの、有機汚泥類の十分な乾燥を行うためには、1〜2カ月かかるという問題があった。そのため、従来の方法では、発酵が促進しやすい状態を長期間維持しなければならず、燃料化施設の設備コストや運転コストが増大してしまうおそれがあった。
【0006】
ところで、乾燥した有機汚泥類を材料とした燃料は、有機汚泥類に含まれる有機分が多いほど燃料としての質の高いものとなる。しかし、発酵熱による乾燥を行うと、発酵の際に有機汚泥類に含まれる有機分が減少する。そのため、従来の方法によって有機汚泥類を長期間乾燥させると、その有機汚泥類を材料とする燃料の質が低下してしまうおそれがあった。
【0007】
本発明は以上の点に鑑みてなされたものであり、燃料としての質の低下を抑制しつつ、有機汚泥類の乾燥を迅速に行うことができる有機汚泥類乾燥方法及びそれを用いた燃料製造方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願の発明者は、上記目的を達成するために、鋭意検討した結果、有機汚泥類の乾燥に際し、発酵だけではなく高温ガスの通気を併用した場合、有機汚泥類の水分の低減のし易さ、及び、乾燥熱量に占める好気性発酵による発酵熱の割合が良好となる処理条件が、有機汚泥類の容重(kg/L)で異なることを見出した。
【0009】
ここで、容重とは、環境省通達環整九五号の単位容積重量の測定方法に準拠して、有機汚泥類を円筒形状の内容積1Lの容器に入れ、30cmの高さから3回落とした後、目減り量を補充してすり切った場合の重量(kg)をいう。
【0010】
すなわち、上記目的を達成するために、本発明の有機汚泥類乾燥方法は、堆積した有機汚泥類に該有機汚泥類の容重(kg/L)に基づいた通気量で高温ガスを通気させて好気性好熱細菌による好気性発酵を促進し、該好気性発酵によって生じた発酵熱により、該有機汚泥類を乾燥させ
、前記高温ガスの通気量は、以下の条件式(1)を満足していることを特徴とする
。
0.73×D−0.09 < V ≦ 0.67×D+0.23 ・・・(1)
ただし、条件式(1)におけるDは前記有機汚泥類の容重(kg/L)、Vは前記高温ガスの通気量(m3/m3−有機汚泥類/分)である。
このように、本発明の有機汚泥類乾燥方法では、有機汚泥類に高温ガスを通気することによって、有機汚泥類の温度を上昇させて、好気性好熱細菌による好気性発酵を促進している。そのため、通気する高温ガスそのものと通気によって増加した発酵熱とにより有機汚泥類が乾燥されることになる。したがって、本発明の有機汚泥類乾燥方法によれば、従来の方法に比べ非常に迅速に、有機汚泥類の十分な乾燥を行うことができる。
【0011】
例えば、容重が0.2〜0.7kg/Lの有機汚泥類を屋内ヤードに堆積させた状態で、50℃以上140℃以下の高温ガスを、有機汚泥類1m
3あたり0.2m
3/分以上、0.4m
3/分以下の割合で通気すると、1〜4日で燃料として使用し得る程度に乾燥させることができる。これに対し、従来の方法のように高温ガスの通気を行わずに発酵熱のみによる乾燥を行った場合には、乾燥するまでに1〜2か月もの時間が必要となる。
【0012】
また、本発明の有機汚泥類乾燥方法では、容重に応じて通気させる高温ガスの量を制御することによって、過剰な発酵を防止している。これにより、燃料としての質に影響する有機分の低減を抑制している。したがって、本発明の有機汚泥類乾燥方法によれば、乾燥させた有機汚泥類の燃料としての質の低下が防止される。
【0014】
また、本発明の有機汚泥類乾燥方法においては、前記高温ガスの通気量は、以下の条件式(2)を満足していることがさらに好ましい。
0.57×D+0.09 ≦ V ≦ 0.57×D+0.10 ・・・(2)
ただし、条件式(2)におけるDは前記有機汚泥類の容重(kg/L)、Vは前記高温ガスの通気量(m
3/m
3−有機汚泥類/分)である。
【0015】
この上記条件式(1)の範囲内、さらに好ましくは上記条件式(2)の範囲内で高温ガスを通気させると、有機汚泥類の水分減量率における発酵寄与率を高めつつ、有機分分解率を燃料として使用する際に問題がない範囲に抑制しやすくなる。
【0016】
また、本発明の有機汚泥類乾燥方法においては、乾燥させる前における前記有機汚泥類の容重は、0.4kg/L〜0.7kg/Lの範囲内であることが好ましい。
【0017】
乾燥させる前における有機汚泥類の容重を上記の範囲とすると、高温ガスを適度に通気させやすくなるので、さらに良好に乾燥を行うことができる。
【0018】
また、本発明の有機汚泥類乾燥方法においては、前記高温ガスの温度は、50℃以上140℃以下であることが好ましい。
【0019】
このように高温ガスの温度を設定すると、有機汚泥類の温度を、好気性好熱細菌による発酵が適度に行われる範囲に設定しやすくなる。また、有機汚泥類内に存在していた大腸菌や寄生虫卵を死滅させることができる。
【0020】
また、本発明の有機汚泥類乾燥方法においては、前記有機汚泥類に有機材料を含む水分調整材を混合して、該有機汚泥類の水分量を55〜70質量%にした後、前記高温ガスを通気させることが好ましい。
【0021】
このように乾燥前の有機汚泥類の水分量を設定すると、水分調整材に含まれる有機材料によって、発酵の促進及び燃料としての有機分の補充を行うことができる。また、高温ガスの通気のし易さも向上するので、通気による乾燥も効率よく行うことができる。
【0022】
また、本発明の有機汚泥類乾燥方法においては、前記高温ガスは、セメント製造設備からの排ガスであることが好ましい。
【0023】
有機汚泥類を乾燥することで得られた燃料は、セメント製造に用いられることが多いので、高温ガスとしてセメント製造設備からの排ガスを利用するようにすると、設備の簡略化を行うことができる。さらに、セメント製造設備からの排ガスは、適度に高温なものであるので、ガスの温度を上昇させて高温ガスを生成するための設備を小型化又は省略ができる。
【0024】
また、上記目的を達成するために、本発明の燃料製造方法は、上記いずれかの有機汚泥類乾燥方法で前記有機汚泥類を乾燥させた後、該有機汚泥類を所定の形状に成形して燃料を製造することを特徴とする。
【0025】
このように、本発明の燃料製造方法では、上記いずれかの有機汚泥類乾燥方法を用いて燃料を製造しているので、従来の方法に比べ非常に迅速に、質の高い燃料を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して、本発明に係る有機汚泥類乾燥方法及び燃料製造方法を行うための汚泥処理施設及び燃料製造工場について説明する。
【0028】
ここで、有機汚泥類とは、下水汚泥、製紙汚泥、ビルピット汚泥、食品汚泥、消化汚泥、都市ごみ(家庭ごみ)等であり、好気性発酵が可能なものをいう。
【0029】
まず、
図1〜
図3を参照して、汚泥処理施設Pの概略構成について説明する。なお、
図1において、実線の矢印は液類の流れを示し、破線の矢印はガスの流れを示している。
【0030】
汚泥処理施設Pは、セメント製造工場内(不図示)で発生した排ガスを高温ガスG1として利用するために、セメント製造工場の構内、又は、近接地に設けられている。また、汚泥処理施設Pの構内、又は、近接地には、汚泥処理施設Pで処理された有機汚泥類を材料として燃料を製造する燃料製造工場(不図示)が設けられている。
【0031】
図1に示すように、汚泥処理施設Pは、密閉性の高い建屋1と、建屋1の内部に複数配置された汚泥発酵槽2と、汚泥発酵槽2に高温ガスG1を供給する供給管3と、建屋1の内部の雰囲気ガスG2を排出するための排気管4と、排気管4を介して建屋1の内部の雰囲気ガスG2が流入する臭気脱臭装置5と、建屋1の天井に配置された複数の冷却管6と、冷却管6から回収水Wを捕集するためのスクレーパ7と、スクレーパ7で捕集された回収水Wを排出するための排水管8と、排水管8を介して回収水Wが流入する凝縮水タンク9とを備えている。
【0032】
供給管3は、セメント製造工場のセメントキルンKからの排ガス(50℃〜140℃)を、高温ガスG1として複数の汚泥発酵槽2の各々に供給する。供給管3のセメントキルンKと汚泥発酵槽2との間には、流量計付きのガス流量調整弁3aが設けられている。このガス流量調整弁3aにより、汚泥発酵槽2に供給される高温ガスG1の流量が制御されている。
【0033】
高温ガスG1として用いることが可能な排ガスとしては、セメントキルンKからの排ガスの他、クリンカクーラ、廃熱ボイラ、塩素バイパス系からの排ガス等が用い得る。特に、温度、水分含有量及び酸素含有率を考慮すると、クリンカクーラや塩素バイパス系の間接冷却器からの排ガスを用いることが好ましい。
【0034】
臭気脱臭装置5は、処理中の有機汚泥類から発生した臭気ガス等の雰囲気ガスG2を脱臭した後、大気に放出して排気する。この臭気脱臭装置5では、例えば、酸化剤であるオゾンと、反応効率を改善するためにオゾンを吸着する高シリカ質のハニカム状触媒とを組み合わせたもの等の酸化触媒とを使用して、アンモニアやアルデヒド等を脱臭処理して雰囲気ガスG2を清浄する。また、触媒として活性炭を用いたり、生物脱臭等を行ったりしてもよい。
【0035】
冷却管6は、管内に流れる冷却水によって、雰囲気ガスG2に含まれる水蒸気を凝集し、表面に付着させる。スクレーパ7は、冷却管6の表面に沿って移動可能に構成されており、冷却管6の表面に付着している水を捕集する。捕集された水は、回収水Wとして、排水管8を介して、凝縮水タンク9に搬送され、貯留される。
【0036】
このようにして貯留された回収水Wは、冷却管6を流れる冷却水、又は、併設されているセメント工場及び燃料製造工場等で用いられる各種工程水として利用される。具体的には、脱硝剤の希釈水、汚泥の潤滑水、熱交換管用の冷却水、生物脱臭槽の散水用水等の各種工程水として利用される。
【0037】
なお、汚泥処理施設Pにおいては、高温ガスG1として、セメント製造工場で発生した排ガスを利用している。これにより、汚泥処理施設Pの設備の簡略化やガスの温度を上昇させて高温ガスを生成するための設備を省略している。しかし、本発明における高温ガスは、セメント製造工場で発生した排ガスに限定されるものではない。例えば、別途熱源を設け、空気等の気体を加熱して、高温ガスを生成するようにしてもよい。
【0038】
また、汚泥処理施設Pにおいては、冷却管6を建屋1の天井に複数並列して配置しているが、冷却管の配置位置や数、各冷却管の相対位置は、建屋の形状に応じて、適宜変更してもよい。例えば、天井だけでなく壁にも配置してもよいし、網目状に配置してもよい。
【0039】
また、汚泥処理施設Pにおいては、雰囲気ガスG2を脱臭処理するために、臭気脱臭装置5を設けている。しかし、臭気脱臭装置5を設けずに、雰囲気ガスG2をセメント製造工場の燃焼設備で高温処理するようにしてもよい。
【0040】
次に、
図2及び
図3を参照して、有機汚泥類Sを堆積するとともに、高温ガスG1を通気して乾燥するための汚泥発酵槽2について詳細に説明する。
【0041】
図2に示すように、汚泥発酵槽2は、有機汚泥類Sを堆積し、発酵させるための発酵槽本体2aと、発酵槽本体2aの内側底部に形成された砂利層2bと、砂利層2bに埋設され、供給管3(
図1参照)に接続された高温ガス用配管2cとを有している。
【0042】
発酵槽本体2aは、高さ3m、幅2.5m、長さ30mの直方体であり、上部が開口されている。砂利層2bは、発酵槽本体2aの内部に、0.1m〜0.2mの厚さとなるようにして形成されている。この発酵槽本体2aでは、有機汚泥類Sを、砂利層2bの上に2m程度の高さとなるまで投入することができるようになっている。
【0043】
図3に示すように、砂利層2bに埋設されている高温ガス用配管2cは、直径5cmの管部2c1の上面側に約4cm間隔で、吹出口2c2が複数形成されている。この吹出口2c2からは、供給管3を介して高温ガス用配管2cに供給された高温ガスG1が吹き出す。
【0044】
汚泥発酵槽2では、砂利層2bを介して、高温ガス用配管2cから吹き出された高温ガスG1を有機汚泥類Sに通気させている。すなわち、砂利層2bによって、高温ガス用配管2cと有機汚泥類Sとの直接の接触が防止されている。
【0045】
これにより、砂利層2bによって高温ガス用配管2cを保護して、吹出口2c2が有機汚泥類Sに閉塞されることを防止している。また、砂利層2bを介して高温ガスG1を供給する(すなわち、砂利層2bを形成する砂利同士の隙間を高温ガスG1の通路とする)ことによって、有機汚泥類Sに対して高温ガスG1を吹き付け可能な面積を広げ、高温ガスG1と有機汚泥類Sとを効率的に接触できるようにしている。
【0046】
なお、汚泥発酵槽2の形状(すなわち、容量)及び設置基数は、供給可能な高温ガスG1の量に応じて、適宜変更してよい。また、砂利層2bの厚さも適宜変更してよい。さらに、汚泥発酵槽としては、高温ガス用配管を発酵槽本体の底面部と一体化するとともに砂利層を省略したものを用いてもよい。
【0047】
次に、
図1及び
図4を参照して、汚泥処理施設Pで行われる有機汚泥類の乾燥処理及び燃料製造工場で行われる燃料製造処理について説明する。なお、
図4は、汚泥処理施設P及び燃料製造工場で行われる各工程を示すフローチャートである。
【0048】
まず、汚泥処理施設Pに運び込まれた種々の有機汚泥類を混合撹拌して、発酵させる有機汚泥類を全体が均質な状態とする(
図4/STEP1)。
【0049】
この混合撹拌は、有機汚泥類の好気性発酵を汚泥全体で同程度に生じさせるために行われるものである。そのため、乾燥させる有機汚泥類が1か所から搬送されたものである場合等、有機汚泥類が当初から均質なものである場合には、この工程は省略してもよい。
【0050】
次に、均質化した有機汚泥類に、好気性好熱細菌の担体となる有機材料を含む水分調整材(例えば、木屑や廃畳等)を混合させる(
図4/STEP2)。
【0051】
このように、水分調整材として有機材料を用いると、発酵の促進及び燃料としての有機分が補充される。また、高温ガスG1の通気のし易さも向上するので、通気による乾燥も効率よく行うことができるようになる。
【0052】
また、混合する水分調整材の混合量は、混合後の有機汚泥類の水分量が55〜70質量%となる量とするとよい。例えば、均質化後の有機汚泥類の水分量は一般的に75〜85質量%であるので、水分量を20質量%程度低減する量が最適な混合量となる。
【0053】
また、混合後の有機汚泥類の容重は、高温ガスG1の通気性や発酵させやすさの点から、0.4kg/L〜0.7kg/Lの範囲内となるようにするとよい。
【0054】
なお、有機汚泥類の均質化のための撹拌、及び、水分調整材の混合は、臭気対策として、建屋1の内部の土間等の密閉された空間で行うとよい。
【0055】
次に、水分調整材が混合された有機汚泥類に、好気性好熱細菌を投入し、さらに混合する(
図4/STEP3)。
【0056】
好気性好熱細菌としては、市販のものを用いればよい。例えば、商品名:ウルトラバイオ高温菌(株式会社コスモスエンタープライズ製)等を用いればよい。
【0057】
次に、有機汚泥類の特性値(具体的には、容重、水分量及び灰分量)の測定を行う(
図4/STEP4)。
【0058】
次に、有機汚泥類を、全体として高さが均一になるように、汚泥発酵槽2に投入する(
図4/STEP5)。
【0059】
次に、有機汚泥類に通気させる高温ガスG1の通気量を決定する(
図4/STEP6)。
【0060】
具体的には、有機汚泥類に通気させる高温ガスG1の通気量は、STEP4で測定された特性の1つである有機汚泥類の容重(kg/L)、及び、STEP5で各汚泥発酵槽2に投入された有機汚泥類の体積(m
3)に基づいて、以下の条件式(1)を用いて決定される。
0.73×D−0.09 < V ≦ 0.67×D+0.23 ・・・(1)
ただし、条件式(1)におけるDは有機汚泥類の容重(kg/L)、Vは高温ガスG1の通気量(m
3/m
3−有機汚泥類/分)である。
【0061】
さらに好ましくは、以下の条件式(2)を満足するように決定される。
0.57×D+0.09 ≦ V ≦ 0.57×D+0.10 ・・・(2)
ただし、条件式(2)におけるDは有機汚泥類の容重(kg/L)、Vは高温ガスG1の通気量(m
3/m
3−有機汚泥類/分)である。
【0062】
この上記条件式(1)の範囲内、さらに好ましくは上記条件式(2)の範囲内で高温ガスG1を通気させることにより、有機汚泥類の水分減量率における発酵寄与率が十分な高さとなり、かつ、有機分分解率が燃料として使用する際に問題がない範囲に抑制される。
【0063】
なお、上記条件式(1),(2)によらず、高温ガスG1の通気量を増加させた場合には、有機汚泥類の処理量を増加することが可能となる。しかし、高温ガスG1の通気量が過剰になると、有機汚泥類の発酵熱による水分低減の寄与割合が低減して、発酵熱に対する乾燥できる有機汚泥類の量が低下することになる。
【0064】
また、通気する高温ガスG1としては、セメントキルンKからの排ガスが用いられている。この排ガスは、温度が50℃〜140℃であり、水分含有率が低く、さらに酸素含有率が大気成分とほぼ同様となっている。
【0065】
このような温度範囲の高温ガスを用いると、常温ガスを用いた場合と比較して、供給される熱量によって発酵が促進され、有機汚泥類の発酵が効率的に生じる。また、有機汚泥類内に存在している大腸菌や寄生虫卵を死滅させることができる。なお、発酵過程の有機汚泥類の温度は、使用する高温ガスG1の温度範囲がこの範囲である限り、高温ガスG1の温度に影響されず、60℃〜70℃で安定する。
【0066】
また、水分含有率の低いガスを用いることによって、効果的に有機汚泥類の水分減量率を向上させることができる。また、酸素含有率が大気成分とほぼ同様のガスを用いることによって、有機汚泥類の発酵効率を向上させることができる。
【0067】
次に、有機汚泥類に決定された通気量で高温ガスを通気させて乾燥させる(
図4/STEP7)。
【0068】
具体的には、上記条件式(1),(2)によって決定した通気量となるように、供給管3に設けられたガス流量調整弁3aで高温ガスG1の流量を制御する。これにより、汚泥発酵槽2の底部に配置されている高温ガス用配管2cから吹き出された高温ガスG1は、砂利層2bを介して、有機汚泥類に浸透する。
【0069】
このように有機汚泥類に高温ガスG1が通気されると、高温ガスG1から酸素が供給されることによって、好気性好熱細菌による有機汚泥類の発酵が促進され、その発酵熱により有機汚泥類の温度が上昇する。すなわち、通気する高温ガスそのものと通気によって増加した発酵熱とにより有機汚泥類が乾燥されることになる。
【0070】
以上のSTEP1〜STEP7までの処理が、汚泥処理施設Pで行われる有機汚泥類乾燥方法である。
【0071】
このように、有機汚泥類処理施設Pで行われる有機汚泥類乾燥方法では、有機汚泥類に高温ガスを通気することによって、有機汚泥類の温度を上昇させて、好気性好熱細菌による好気性発酵を促進している。そのため、通気する高温ガスそのものと通気によって増加した発酵熱とにより有機汚泥類が乾燥されることになる。したがって、有機汚泥類処理施設Pで行われる有機汚泥類乾燥方法によれば、従来の方法に比べ非常に迅速に、有機汚泥類の十分な乾燥を行うことができる。
【0072】
また、有機汚泥類処理施設Pで行われる有機汚泥類乾燥方法では、容重に応じて通気させる高温ガスの量を制御することによって、過剰な発酵を防止している。これにより、有機汚泥類に含まれる有機分の低減を抑制している。したがって、有機汚泥類処理施設Pで行われる有機汚泥類乾燥方法によれば、乾燥させた有機汚泥類の燃料としての質の低下が防止される。
【0073】
その後、乾燥させた有機汚泥類を粒状化燃料とするために成形する(
図4/STEP8)。
【0074】
このSTEP8の処理が、汚泥処理施設Pに併設された燃料製造工場で行われる燃料製造方法である。
【0075】
具体的には、乾燥させた有機汚泥類に発熱量調整材を混合した後、加圧成形装置で粒状化させる。なお、発熱量調整材としては、廃プラ類、塗料カス、廃油等の可燃性廃棄物、固形燃料等を用いることができる。なお、燃料として要求される発熱量がそれほど高くない場合等には、発熱量調整材を混合させなくてもよい。また、燃料の形状は粒状の他、適宜変更してもよく、乾燥後の有機汚泥類のハンドリング性に問題がない場合は成型しなくてもよい。
【0076】
最後に、
図5を参照して、上記の乾燥処理に係る試験結果について説明する。なお、
図5は、乾燥処理に係る試験結果を示すグラフであり、横軸は有機汚泥類の容重、縦軸は高温ガスの通気量を示す。
【0077】
まず、各種特性値の定義を説明する。
水分減量率(%)は、下記の式(3)で表される。この水分減量率は、乾燥処理前の有機汚泥類(いわゆる脱水ケーキ)の水分量W
1(質量%)を100とした場合における、水分量W
1と乾燥処理後の有機汚泥類の水分量W
2(質量%)との差分(減量分)である。
水分減量率(%) = (W
1−W
2)/W
1×100 ・・・(3)
【0078】
この水分減量率が大きい有機汚泥類ほど、含有される水分量が少なく燃料化には好ましいものとなる。なお、有機汚泥類に含まれる水分量の測定は、環境省通達環整九五号の水分の測定方法に準拠して行えばよい。
【0079】
有機分分解率(%)は、下記の式(4)で表される。この有機分分解率は、乾燥処理前の有機汚泥類の灰分量(A
1)と乾燥処理後の有機汚泥類の灰分量(A
2)とに基づいて求められる。
有機分分解率(%) = (A
2−A
1)/A
1×100 ・・・(4)
【0080】
この有機分分解率が大きい程、有機汚泥類中の有機分が分解され、発酵熱が多量に発生したことを意味するが、一方で、最終的な燃料としての有機分が減少することにもなる。そのため、燃料化の材料とするために発酵熱を利用した乾燥を行う場合には、発酵による発熱量と有機分の減少とのバランスをとる必要がある。なお、有機汚泥類に含まれる灰分量の測定は、環境省通達環整九五号の灰分の測定方法に準拠して行えばよい。
【0081】
発酵熱寄与率(%)は、下記の式(5)で表される。この発酵熱寄与率は、有機汚泥類の乾燥に用いられた全熱量に対する、有機汚泥類中の有機分の発酵による発熱量(発酵熱量)の比率を表す。
発酵熱寄与率(%) =
発酵熱量
*1(MJ/kg
−有機汚泥類)
/(有機汚泥類の水分蒸発潜熱
*2(MJ/kg
−有機汚泥類)
+有機汚泥類の昇温熱量
*3(MJ/kg
−有機汚泥類))×100 ・・・(5)
*1:発酵熱量=17.6MJ/kg
−有機汚泥類×有機分分解率(%)
*2:有機汚泥類の水分蒸発潜熱=水分減量率(%)/100×2.257
*3:有機汚泥類の昇温熱量=(T
1−T
2)×2.1×10
−6
ただし、「2.1」との値は有機汚泥類の比熱(kJ/kg/K)、T
1は乾燥時の有機汚泥類の温度(℃)(代表値:65)、T
2は乾燥処理前の有機汚泥類の温度(℃)(代表値:25)である。
【0082】
この発酵熱寄与率が大きい程、発酵のために消費された有機分に対して発酵熱が効率的に生じていることになるので、乾燥後の有機汚泥類が燃料として好ましいものとなる。
【0083】
発酵寄与率(%)は、下記の式(6)で表される。この発酵寄与率は、有機汚泥類の水分減量率において発酵熱が寄与した比率を表す。
発酵寄与率(%)= 水分減量率(%)×発酵熱寄与率(%)/100 ・・・(6)
【0084】
この発酵寄与率が大きい程、外部からの熱量供給に対して有機汚泥類の水分が効率的に減少していることになるので、供給熱量に対して効率的に有機汚泥類が乾燥されていることになる。
【0085】
乾燥寄与率(%)は、下記式(7)で表される。この乾燥寄与率は、有機汚泥類の水分減量率において高温ガスが寄与した比率を表す。
乾燥寄与率(%) = 水分減量率(%)−発酵寄与率(%) ・・・(7)
【0086】
この乾燥寄与率が小さい程、外部からの熱量供給に対して有機汚泥類の水分が効率的に減少していることになるので、供給熱量に対して効率的に有機汚泥類が乾燥されていることになる。
【0087】
次に、試験方法について説明する。
試料として、下記の表1に記載の3種類の下水汚泥を用いた。これらの下水汚泥は、汚泥処理施設Pにおいて均質化、水分調整材の混合及び好気性好熱細菌の投入を行ったもの(具体的には、乾燥処理におけるSTEP1〜STEP3の工程を行ったもの)である。
【0089】
これらの3種類の試料の各々に対し、下記の表2に記載の条件(試験水準)で高温ガスG1を3日間(72時間)通気させた。
【0092】
以下の表3〜表5に、各試料における試験結果を示す。なお、表3は下水汚泥Aに関する試験結果、表4は下水汚泥Bに関する試験結果、表5は下水汚泥Cに関する試験結果を示す。また、「試験水準」は、上記の表2に記載の試験条件を表す。
【0097】
上記の表3に示すように、下水汚泥A1〜A5(水分量W
1:62質量%,容重:0.4kg/L)においては、下水汚泥A4における試験水準(高温ガスG1の通気量:0.33m
3/m
3-有機汚泥類/分)において、発酵寄与率が最も大きな値となった。
【0098】
また、上記の表4に示すように、下水汚泥B1〜B5(水分量W
1:63質量%,容重:0.55kg/L)においては、下水汚泥B4における試験水準(高温ガスG1の通気量:0.40m
3/m
3-有機汚泥類/分)において、発酵寄与率が最も大きな値となった。
【0099】
また、上記の表5に示すように、下水汚泥C1〜C5(水分量W
1:64質量%,容重:0.7kg/L)においては、下水汚泥C4における試験水準(高温ガスG1の通気量:0.50m
3/m
3-有機汚泥類/分)において、発酵寄与率が最も大きな値となった。
【0100】
ここで、
図5に示すように、横軸は下水汚泥(有機汚泥類)の容重、縦軸は高温ガスの通気量として、試験結果をプロットしてみると、発酵寄与率が最も大きくなる試験水準(すなわち、高温ガスの通気量)と有機汚泥類の容重とは、相関性の高い線形関係にあることが判明した(
図5において間隔の狭いハッチングを施した領域参照。)。
【0101】
その相関性は、下水汚泥A4,B4,C4に基づき、以下の条件式(2)となると考えられる。
0.57×D+0.09 ≦ V ≦ 0.57×D+0.10 ・・・(2)
ただし、条件式(2)におけるDは有機汚泥類の容重(kg/L)、Vは高温ガスの通気量(m
3/m
3−有機汚泥類/分)である。
【0102】
したがって、この条件式(2)を満足するように高温ガスG1の通気量を制御すれば、有機汚泥類の好気性発酵による発酵熱を最も効率よく利用することができる。
【0103】
ところで、燃料としての使用を考えた場合、乾燥処理後の有機汚泥類の有機分分解率は小さいほど好ましく、さらに水分減量率は大きいほど好ましい。具体的には、有機分分解率が30%以下であって、水分減量率が40%以上であれば、燃料として十分に使用できる。
【0104】
そこで、試験結果を参照しつつ、そのような条件を満足する範囲を検討すると、少なくとも、以下の条件式(1)の範囲(
図5において間隔の広いハッチングを施した領域参照。)であれば、燃料として質の高い有機汚泥類を得られると考えられる。
0.73×D−0.09 < V ≦ 0.67×D+0.23 ・・・(1)
ただし、条件式(1)におけるDは有機汚泥類の容重(kg/L)、Vは高温ガスの通気量(m
3/m
3−有機汚泥類/分)である。
【0105】
この条件式(1),(2)は、試料である有機汚泥類の容重(kg/L)が0.4〜0.7の範囲について成立しているが、高温ガスの通気量と有機汚泥類の容重との相関性が比例関係であることを考慮すれば、容重がそれ以外の範囲にある有機汚泥類についても成立すると考えられる。
【0106】
以上説明したように、本発明の有機汚泥類乾燥方法は、上記の試験結果に基づいて判明した高温ガスの通気量と有機汚泥類の容重との相関性に基づいた方法であるので、燃料としての質の低下を抑制しつつ、有機汚泥類の乾燥を迅速に行うことができる。