(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6652632
(24)【登録日】2020年1月27日
(45)【発行日】2020年2月26日
(54)【発明の名称】燃料噴射器の状態変化を識別する方法
(51)【国際特許分類】
F02M 63/00 20060101AFI20200217BHJP
F02D 41/22 20060101ALI20200217BHJP
F02D 41/02 20060101ALI20200217BHJP
【FI】
F02M63/00 C
F02M63/00 L
F02D41/22
F02D41/02
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-505439(P2018-505439)
(86)(22)【出願日】2016年7月7日
(65)【公表番号】特表2018-528348(P2018-528348A)
(43)【公表日】2018年9月27日
(86)【国際出願番号】EP2016066075
(87)【国際公開番号】WO2017021091
(87)【国際公開日】20170209
【審査請求日】2018年2月1日
(31)【優先権主張番号】102015214817.3
(32)【優先日】2015年8月4日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】390023711
【氏名又は名称】ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】クラウス ヨース
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー シェンク ツー シュヴァインスベルク
(72)【発明者】
【氏名】アヒム ヒアヒェンハイン
【審査官】
村山 禎恒
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−309081(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0150417(US,A1)
【文献】
特開平7−4333(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 37/00−71/04
F02D 41/02
F02D 41/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関(100)の燃料噴射器(130)の状態変化を識別する方法であって、
前記燃料噴射器(130)の前記状態変化は、前記燃料噴射器(130)を通る燃料の静的流量率(Qstat)に影響を及ぼす前記燃料噴射器(130)の変化であり、
前記燃料噴射器(130)を通る燃料の前記静的流量率(Qstat)は、前記燃料噴射器(130)の累積的体積流量Vの勾配を示す値である、
方法において、
前記燃料噴射器(130)を用いて、燃料が、高圧蓄積器(120)から燃焼室(105)内へ噴射され、
前記燃料噴射器(130)を通る燃料の
前記静的流量率(Q
stat)についての
代替値(R
stat,2)が
、前記燃料噴射器(130)の少なくとも1つの噴射過程において、前記高圧蓄積器(120)内で前記噴射過程に基づいて発生した圧力降下(Δp)と、前記噴射過程における噴射持続時間(Δt)との間の商形成によって圧力率(Rstat,2=Δp/Δt)として求められ、
前記
代替値(R
stat,2)が、
前記内燃機関(100)のすべての又は残余のすべての前記燃料噴射器(130)の対応する前記代替値(Rstat)の平均値として求められる比較値
【数1】
から第1の閾値(ΔR
1)を超えて偏差している場合には、前記燃料噴射器(130)の
機能制限が
前記状態変化として推定され
、
前記燃料噴射器(130)の前記状態変化の識別を実施する以前における前記燃料噴射器(130)の流量率の事前調整なしで、前記代替値(Rstat,2)が、前記比較値
【数2】
から前記第1の閾値(ΔR1)を超えて偏差している場合には、前記燃料噴射器(130)の使用開始前から存在する欠陥が前記機能制限として推定され、
前記燃料噴射器(130)の前記状態変化の識別を実施する以前における前記燃料噴射器(130)の流量率の事前調整の後で、前記代替値(Rstat,2)が、前記比較値
【数3】
から前記第1の閾値(ΔR1)を超えて偏差している場合には、前記燃料噴射器(130)の前記事前調整後に発生した欠陥が前記機能制限として推定される、
方法。
【請求項2】
前記燃料噴射器(130)の前記状態変化の識別を実施する以前における前記燃料噴射器(130)の流量率
を複数回増加させる又は複数回減少させる複数回事前調整の後で、前記
代替値(R
stat,2)が、前記比較値
【数4】
から
前記第1の閾値(ΔR1)を超えて偏差している場合には、カーボン付着が前記機能制限として推定される、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
前記比較値
【数5】
が、初期に求められた前記燃料噴射器(130)の
前記代替値(R
stat,2)
である場合には、
前記機能制限の代わりに前記燃料噴射器(130)の交換の実施が前記状態変化として推定される、請求項
1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記
代替値(R
stat,2)が、前記比較値
【数6】
から前記第1の閾値(ΔR
1)を超えて偏差している場合には、前記状態変化に関する情報がエラーメモリに格納される、請求項
1乃至3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記
代替値(R
stat,2)が、前記比較値
【数7】
から、前記第1の閾値(ΔR
1)よりも大きい第2の閾値(ΔR
2)を超えて偏差している場合には、前記内燃機関(100)を含む自動車の運転者に警告が行われる、請求項1乃至
4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記比較値
【数8】
は、繰り返し又は連続的に更新される、請求項1乃至
5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記内燃機関(100)の出力に関する、前記比較値
【数9】
からの前記
代替値(R
stat,2)の偏差の経過が検出されて格納される、請求項1乃至
6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
計算ユニット(180)上で実行されるときに、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の方法を前記計算ユニット(180)に実施させるためのコンピュータプログラム。
【請求項9】
請求項8に記載のコンピュータプログラムを実行するように構成されている計算ユニット(180)。
【請求項10】
請求項8に記載のコンピュータプログラムが記憶されている機械可読記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料噴射器の状態変化を識別する方法、並びに、その実施のための計算ユニット及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術
自動車においては、遵守しなければならない有害物質の排出規制に関し、一時的に非常に厳しい制限値が適用されることがある。現在の、そして特に将来的な排出規制値及び排気ガス規制値を遵守するためには、噴射における正確な燃料調量が重要である。
【0003】
しかしながら、その際に考慮しなければならないことは、調量において、様々な許容誤差が生じることである。そのような調量における許容誤差は、一般的にはサンプル依存性のニードル動特性とサンプル依存性の燃料噴射器の静的流量率との結果から生じている。ニードル動特性の影響は、例えば電子機械技術による取り組み、例えばいわゆる「バルブ操作制御方式“Controlled Valve Operation”」などによって低減することができる。このバルブ操作制御方式では、燃料噴射器の駆動制御時間が、閉ループ制御方式で例えば自動車の耐用年数を見越して調整される。
【0004】
静的流量率において生じ得る誤差は、噴射孔の幾何学的形状及びニードルストロークの許容誤差に起因する。噴射孔の幾何学的形状は、大抵は、良好な排出値に関して最適化されるが、但し、これによって、カーボン付着に対する感度は増加し得る。そのような誤差は、これまでのところ概ね包括的な補正しかできていない。即ち、内燃機関のすべての燃料噴射器に対して共通の、例えばラムダ制御又は混合気調整に基づく補正が可能である。しかしながら、その際には、内燃機関の個々の燃料噴射器が、それらの静的流量率に関する偏差を有しているかどうか(即ち、同一の開放持続時間のもとで放出量に差がないかどうか)までを認識することはできず、このことは排気ガスの放出状態や機関の円滑な動作状態に深く関わりかねない。
【0005】
未だ事前公開されていない先行文献の独国特許出願第102015205877号明細書(DE102015205877)からは、燃料噴射器の静的流量率又はそれについての代表値を求めるための方法が知られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】独国特許出願第102015205877号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第102009002593号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の開示
本発明によれば、独立請求項に記載された特徴を有する、燃料噴射器の状態変化を識別する方法、並びに、その実施のための計算ユニット及びコンピュータプログラムが提案される。好ましい実施形態は、従属請求項及び以下の説明の態様である。
【0008】
発明の利点
本発明に係る方法は、燃料噴射器を用いて燃料が高圧蓄積器から燃焼室内に噴射される内燃機関の燃料噴射器の状態変化を識別するために使用される。ここでは、燃料噴射器を通る燃料の静的流量率についての代表値が求められる。この代表値が、比較値から第1の閾値を超えて偏差している場合には、燃料噴射器の状態変化(通常は機能悪化)が推定される。この変化の種類と程度とに対応するエラー除去手段及び/又はエラーメモリエントリ及び/又は警告(例えばエンジンコントロールランプ(英語表記;Malfunction Indicator Light;MIL)の作動)により、運転者に応答することができる。
【0009】
本発明は、ここでは、燃料噴射器を通る静的燃料流量率の比較値からの偏差を所期のように識別することを利用しており、これによって、静的流量率のドリフトが、即ち、比較値からの緩慢な偏差が推測でき、このことは、燃料噴射器の状態変化に対しても現れる。状態変化は、通常は、噴射される燃料量がより少なくなることにつながるので、より小さい圧力降下が高圧蓄積器内で発生し、従って、このことは、比較値から下方への偏差を意味する。このような方法は、内燃機関の各燃料噴射器毎に同様に実施することができることを理解されたい。
【0010】
好ましくは、比較値として、内燃機関の少なくとも1つのさらなる燃料噴射器を考慮している比較値が使用される場合には、燃料噴射器の機能制限が状態変化として推定される。このようにして、関係する燃料噴射器と、内燃機関の残余の1つ以上、特にすべての燃料噴射器との間で比較が可能となり、これによって、非常に簡単に機能制限を推定することができる。なぜなら、特に、他の燃料噴射器に対する静的流量率の変化を求めることができるからである。その際、1つの燃料噴射器の代表値が、複数の他の燃料噴射器の代表値から偏差している場合には、通常は、当該1つの燃料噴射器に機能制限が生じていることを仮定することができる。
【0011】
好ましくは、事前に燃料噴射器の流量率の調整(いわゆる適合化)が実施されていた形跡なしで、代表値が比較値から偏差している場合には、燃料噴射器の動作開始以降から存在する欠陥が機能制限として推定される。即ち、燃料噴射器が最初から所定の閾値を超えて存在する偏差を有している場合には、この燃料噴射器が最初から不良であったことを仮定することができる。従って、このようにして非常に簡単に不良の燃料噴射器を識別することが可能になる。このケースでは、関係する燃料噴射器を、例えば交換することができる。
【0012】
好ましくは、事前に燃料噴射器の流量率の調整が実施されていた後で、代表値が比較値から偏差している場合には、燃料噴射器の動作中の欠陥が機能制限として推定される。即ち、燃料噴射器が、例えば早期時点で偏差が確認されたために、既に一度調整されていて、さらにここにおいて新たに所定の閾値を超える偏差が識別される場合には、次のことを仮定することができる。即ち、この燃料噴射器は当初は機能していたのだが動作中に不良になってしまったことである。従って、このようにして非常に簡単に不良の燃料噴射器を識別することが可能になる。このケースでも、関係する燃料噴射器を、例えば交換することができる。ここでは、最初からの欠陥と、動作中になってからの欠陥とを区別する能力によって、燃料噴射器の品質をも評価することができる点に留意されたい。
【0013】
好ましくは、事前に燃料噴射器の流量率の複数の調整がそれぞれ同一方向で実施されていた後で、代表値が比較値から偏差している場合には、カーボン付着が機能制限として推定される。この場合、例えば、多くの調整又は追加調整が行われた後であっても、燃料噴射器の代表値が同一方向に何度も偏差してしまうことがあり得る。ここでは、これらの追加調整にもかかわらず、比較値からの所定の閾値分の偏差が確認される場合には、カーボン付着の形態の汚染があることを仮定することができる。従って、このようにして非常に簡単にカーボン付着の燃料噴射器を識別することが可能になる。このケースでは、関係する燃料噴射器を例えば洗浄することができる。しかしながら、付加的な予防措置として、例えば、残余のすべての燃料噴射器を洗浄することも可能である。但し、例えば、1回以上の洗浄過程の後で、依然として偏差があるのならば、燃料噴射器の例えば製造誤差に基づく不良を仮定又は推定することができる。このケースでは、関連する燃料噴射器を、例えば交換することができる。
【0014】
有利には、比較値は、内燃機関のすべての又は残余のすべての燃料噴射器の対応する代表値を考慮して、特に平均値として求められる。それにより、残余の燃料噴射器との特に効果的な比較が可能になる。特に、この取り組みでは、それぞれの代表値のみが用いられるだけなので、実際の流量率を求める必要はなく、このことは相対比較に対して、即ち、場合により、1つの燃料噴射器における流量率が他の燃料噴射器の流量率から偏差しているかどうかの特定には十分である。特に、このようにして、場合によって起こり得る系統的測定誤差も無視することができる。但し、代表値を関連する流量率に換算するための換算値が分かっている場合には、代表値として直接流量率を使用することも考えられる。この場合、これらの換算値には、例えば、燃料の種類、特に、エタノール含量、燃料温度、及び、高圧蓄積器内の圧力、いわゆるレール圧力に関する十分に正確な情報が含まれる。特に、ここでは、各燃料噴射器毎の流量率又は代表値の偏差が通常は異なっていることを利用することができる。
【0015】
好ましくは、比較値として、初期に求められた燃料噴射器の代表値が用いられる場合には、燃料噴射器の交換が状態変化として推定される。この状態変化は、この場合、特に、2つの順次連続する走行周期の間の状態変化を含む。この比較値は、ここでは例えば、先行する走行周期において求められたものであってもよい。即ち、1つの走行周期から次の走行周期において、流量率の急激な変化又は顕著な変化が確認された場合には、燃料噴射器
の交換
の実施を非常に簡単に識別することができる。それに応じて、例えば、新品として識別された燃料噴射器の調整を行うことができる。
【0016】
好ましくは、代表値が比較値から第1の閾値を超えて偏差している場合には、状態変化に関する情報が格納される。ここでは第1の閾値として、例えば比較値の10%を用いることができる。そのような偏差の場合、機能制限は、通常はまだ安全上問題はないが、しかしながら、次の工場訪問の際には取り除かれるべきものである。その限りでは、情報の格納は、エラーメモリへのエントリも含み得る。このようにして、燃料噴射器の交換についての簡単な指示が可能になる。
【0017】
好ましくは、代表値が比較値から、第1の閾値よりも大きい第2の閾値を超えて偏差している場合には、内燃機関を含む自動車の運転者に警告が行われる。ここでは第2の閾値として、例えば比較値の25%を用いることができる。そのような偏差の場合、機能制限は、場合によっては既に安全上問題があり、できるだけ早い工場訪問か又は少なくとも負担の少ない走行スタイルが実施されるべきである。その限りでは、警告は、例えば警告ランプ(例えばMIL)及び/又は自動車内のディスプレイのメッセージを含むことができる。このようにして、安全上問題のある状況の簡単な回避が可能になる。
【0018】
好ましくは、比較値は、繰り返し又は連続的に更新される。それにより、常に、最新の状態又は状態変化の兆候が考慮され得る。特に、このようにして、燃料噴射器の繰り返される又は連続する検査も行われ得る。
【0019】
有利には、内燃機関の出力に関する比較値からの代表値の偏差の経過が検出されて格納される。この格納は、例えば、実行されるべき制御装置内のメモリ上で行うことができる。このようにして、工場にとって、複数のデータが非常に簡単に利用できるようになる。特に、それにより、例えば、不良の燃料噴射器のより簡単な所期の交換が可能になる。さらに、これらのフィールドデータは記憶され、例えば、後の時点で評価され得る。
【0020】
好ましくは代表値は、燃料噴射器の少なくとも1つの噴射過程において、高圧蓄積器内で噴射過程に基づいて発生した圧力差と、噴射過程に対して特徴付けられる関連した持続時間との比を求めることによって、求められる。ここでは、燃料噴射器によって噴射過程中に放出される燃料量又はその体積流量が、関連する圧力差に、即ち、高圧蓄積器内の噴射過程前後の圧力差に比例しており又は少なくとも十分に比例していることが利用可能である。ここにおいて、さらに噴射過程に対して特徴付けられる持続時間が既知である場合には、この圧力差と、関連する持続時間との比から、燃料噴射器を通る静的流量率の比例要因にまで相当する値を求めることができる。このようにして、非常に簡単に、流量率を表す値を得ることができる。
【0021】
本発明に係る計算ユニット、例えば制御装置、特に自動車のエンジン制御装置は、特にプログラミング技術によって、本発明に係る方法を実施するように構成されている。
【0022】
また、コンピュータプログラムの形態でこの方法を実施することも有利である。なぜなら、このことは、特に、実行する制御装置が、別の目的にも使用されるためにいずれにせよ既存のものである場合には、非常に僅かなコストしか掛からないからである。コンピュータプログラムの提供に適したデータ担体は、特に、磁気的、光学的及び電気的記憶手段、例えば、ハードディスク、フラッシュメモリ、EEPROM、DVDなどである。また、コンピュータネットワーク(インターネット、イントラネット等)を介したプログラムのダウンロードも可能である。
【0023】
本発明のさらなる利点及び実施形態は、明細書及び添付の図面から明らかとなる。
【0024】
本発明は、いくつかの実施例に基づいて図面に概略的に示されており、以下では、これらの図面を参照して本発明を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明に係る方法の実施に適したコモンレールシステムを備えた内燃機関の概略図。
【
図2】燃料噴射器における体積流量を時間軸に亘って示した線図。
【
図3】噴射過程中の高圧蓄積器内の圧力経過を示した線図。
【
図4】好ましい実施形態での、本発明に係る方法における静的流量率についての代表値及び比較値を示した図。
【
図5】さらに好ましい実施形態での、本発明に係る方法における静的流量率についての代表値の経過を示した図。
【
図6】さらに好ましい実施形態での、本発明に係る方法における静的流量率についての代表値の経過を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
発明の実施形態
図1には、本発明に係る方法を実施するのに適した内燃機関100が概略的に示されている。例示的に、この内燃機関100は、3つの燃焼室、即ち、関連するシリンダ105を含む。各燃焼室105には、1つの燃料噴射器130が割り当てられており、この燃料噴射器130は、それぞれ高圧蓄積器120、いわゆるレールにも接続されており、それを介して燃料噴射器130に燃料が供給される。なお、本発明に係る方法は、任意の別の気筒数の内燃機関、例えば4気筒、6気筒、8気筒又は12気筒の内燃機関でも実施可能であることを理解されたい。
【0027】
さらに、この高圧蓄積器120は、高圧ポンプ110を介して燃料タンク140からの燃料を蓄積する。この高圧ポンプ110は、内燃機関100に連結されており、詳細には例えば高圧ポンプが、内燃機関のクランク軸又はカム軸(これもクランク軸に連結されている)を介して駆動されるように連結されている。
【0028】
各燃焼室105への燃料を調量するための燃料噴射器130の駆動制御は、エンジン制御装置180として構成された計算ユニットを介して行われる。なお、見易くする理由から、ここでは、エンジン制御装置180から1つの燃料噴射器130までの接続しか示していないが、しかしながら、各燃料噴射器130もこのエンジン制御装置に相応に接続されていることを理解されたい。この場合、各燃料噴射器130は、個別に駆動制御可能である。さらに、エンジン制御装置
180は、高圧蓄積器120内の燃料圧力を、圧力センサ190を用いて検出するように構成されている。
【0029】
図2の線図では、燃料噴射器の長く持続する駆動制御のもとで、燃料噴射器を通って累積する累積的体積流量Vが、時間軸tに亘って示されている。この場合、時点t
0で駆動制御時間が開始され、時点t
1でバルブニードルの持ち上げが開始される。それにより、この時点t
1では、燃料噴射器の開放持続時間も開始される。その際には、累積的体積流量V、又は、燃料噴射器を通って流れる燃料量が、短い持続時間の後のバルブニードルが持ち上げられている間のさらなる領域に亘って一定して増加していることが見て取れる。この領域では、バルブニードルは、いわゆるフルリフト状態にあり、即ち、バルブニードルは、完全に又は目標高さまで持ち上げられている。
【0030】
この期間の間は、燃料噴射器の開弁によって、単位時間当たり一定の燃料量が流れており、即ち、累積的体積流量Vの勾配を示す静的流量率Q
statは一定である。ここでの静的流量率の大きさは、冒頭で既に述べたように、噴射過程の間に噴射された燃料量全体を決定する重要な要因である。それ故、静的流量率における偏差又は許容誤差は、噴射過程当たりの噴射燃料量に影響を及ぼす。
【0031】
時点t
3では、駆動制御時間が終了し、閉鎖時間が開始される。その際、バルブニードルは、降下を開始する。この閉鎖時間及び開放持続時間は、バルブニードルが再び完全にバルブを閉じた場合における時点t
4で終了する。
【0032】
図3の線図では、噴射過程中の高圧蓄積器内の圧力経過が、時間軸tに亘って示されている。ここでは、高圧蓄積器内の圧力pが、ポンプ吐出と噴射による燃料排出とに基づく所定の変動は別にして、実質的に一定であることが見て取れる。持続時間Δtだけ続く噴射過程の間、高圧蓄積器内の圧力pは、値Δpだけ低下する。
【0033】
それに続いて圧力pは、ここでも所定の変動は別にして、高圧ポンプによる追加吐出によって圧力pが再び初期レベルに上昇するまで、低いレベルにとどまる。
【0034】
この場合、複数の噴射過程におけるこの圧力降下の検出及び評価は、通常はいずれにせよ既存の構成要素、例えば圧力センサ190や対応する入力回路も含めたエンジン制御装置180によって行われる。それ故、付加的な構成要素は不要である。この評価は、燃焼室105毎に個別に行われる。
【0035】
燃料噴射器を通る静的流量率Q
statは、既に上述したように、噴射された燃料量又は時間当たりのその体積流量によって特徴付けられる。システム圧力まで増圧される高圧蓄積器内又はレール内では、噴射される体積流量は、レール内の圧力降下に比例する。この場合、関連する持続時間は、燃料噴射器の開放持続時間に対応し、これは例えば冒頭に述べたようないわゆる制御されたバルブ操作(独国特許出願公開第102009002593号明細書(DE102009002593A1)参照)を用いて電子機械技術的に特定可能である。
【0036】
圧力降下又は圧力差Δpと、開放持続時間又は噴射持続時間Δtとの間の商形成によって、静的流量率Q
statについての代替値又は代表値としての圧力率R
stat=Δp/Δtが得られ、即ち、測定過程に対して以下の式、
【数1】
が成り立つ。この場合、高圧ポンプによる追加吐出は、関連する時間窓内に入れるべきではない。そのため、追加吐出は、場合によっては抑制されなければならない。
【0037】
図4の線図には、例えば
図1に示した燃料噴射器のために、上述した方法に従って求めることができるような3つの代表値R
stat,1、R
stat,2及びR
stat,3が例示的に示されている。
【0038】
さらに比較値
【数2】
が示されており、これは、例えば2つの代表値R
stat,1及びR
stat,3から、例えば算術的平均値として得られる。それにより、この比較値は、検査された燃料噴射器を除く残余のすべての燃料噴射器から求められる。しかしながら、3つのすべての(又は既存のすべての)燃料噴射器からの閾値を、即ち、検査された燃料噴射器も含めた閾値を、求めることも考えられる。そのような場合には、それらの閾値は、場合によっては異なって定義されるべきであろう。しかしながら、図示の変形例では、偏差の識別は、通常はより簡単である。
【0039】
さらに第1の閾値ΔR
1及び第2の閾値ΔR
2が示されている。
図4から見て取れるように、代表値R
stat,2は、比較値
【数3】
から第1の閾値ΔR
1を超えて偏差しているが、しかしながら、第2の閾値ΔR
2よりも少ない。その限りにおいては、関係する燃料噴射器の欠陥がこのケースでは推定することができ、この欠陥に関する情報は、例えばエラーメモリに格納される。この噴射器は、次の機会に交換すべきである。
【0040】
例えば、代表値R
stat,2が後の検査において、比較値
【数4】
から第2の閾値ΔR
2を超えて偏差しているならば、例えば、運転者への警告メッセージを発生させることができる。この噴射器は、欠陥若しくは機能障害の程度が信頼性の高い動作モード又は有害物質排出量の少ない動作モードにとっては大き過ぎているため、速やかに交換すべきである。
【0041】
図5には、さらに好ましい実施形態での、本発明に係る方法における静的流量率についての代表値の経過が時間軸tに亘って示されている。ここに示されている代表値は、例えば、
図3に示されている代表値R
stat,2であり得る。この代表値は、上述したように各時点t
1乃至t
5で求めることができる。これらの時点t
1乃至t
5は、特に、異なる走行周期から生じる。
【0042】
さらに比較値
【数5】
が示されているが、この比較値も上述したように求めることができる。この比較値は、ここで示されているように、時間軸に亘って必ずしも一定に維持される必要はないが、それが複数の代表値の平均値として形成される場合には変化し得ることも理解されたい。
【0043】
代表値の経過からは、比較値からの偏差が連続的に大きくなっていることが見て取れる。特に、ここでは、例えば、それぞれの偏差の検出後に、即ち、時点t
1乃至t
4の各々において、追加調整、即ち、静的流量率の調整を行うことが可能である。
【0044】
しかしながら、ここで、図示のように、例えば時点t
5において、比較値
【数6】
から第1の閾値ΔR
1を超える偏差が確認された場合には、追加調整が行われたにもかかわらず、偏差が増加していることに基づいて、燃料噴射器のカーボン付着を仮定することができる。ここでは、エラー除去手段として、燃料噴射器を、燃焼条件の変更によって浄化することを試行することができる。代替的に、又は、これが成功しなかった場合には、カーボン付着に関する情報をエラーメモリに格納することができる。従って、この噴射器は、次の機会に交換すべきである。
【0045】
図6には、さらに好ましい実施形態での、本発明に係る方法における静的流量率についての代表値の経過が時間軸tに亘って示されている。ここに示されている代表値は、例えば、
図3に示されている代表値R
stat,2であり得る。この代表値は、上述したように各時点t
6乃至t
8で求めることができる。
【0046】
さらに比較値
【数7】
が示されており、この比較値は、ここでは例えば、時点t
7における代表値、又は、時点t
6及びt
7における代表値からの平均値に対応し得る。
【0047】
ここでは、時点t
8において、比較値
【数8】
から第1の閾値ΔR
1を超える偏差が確認される。比較値は、内燃機関における時点t
8と同一の位置での燃料噴射器の代表値であるため、ここでは、他の燃料噴射器が存在していることを仮定することができる。このようにして、燃料噴射器の交換を求めることができる。