(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6652642
(24)【登録日】2020年1月27日
(45)【発行日】2020年2月26日
(54)【発明の名称】高性能遮音塗料
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20200217BHJP
C09D 133/06 20060101ALI20200217BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20200217BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20200217BHJP
C09D 7/20 20180101ALI20200217BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D133/06
C09D5/02
C09D7/61
C09D7/20
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2018-526846(P2018-526846)
(86)(22)【出願日】2018年3月8日
(65)【公表番号】特表2019-516808(P2019-516808A)
(43)【公表日】2019年6月20日
(86)【国際出願番号】KR2018002764
(87)【国際公開番号】WO2018186596
(87)【国際公開日】20181011
【審査請求日】2018年5月21日
(31)【優先権主張番号】10-2017-0043823
(32)【優先日】2017年4月4日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】511028146
【氏名又は名称】株式会社WAKO
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ソン テマン
【審査官】
松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−169252(JP,A)
【文献】
特表2006−526689(JP,A)
【文献】
特開平11−323197(JP,A)
【文献】
特開2017−186452(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
密度が0.12〜0.50の範囲である中空球状粒子構造のソーダ石灰ホウケイ酸ガラス15〜25重量%と、バインダー36〜46重量%と、二酸化チタン7〜15重量%と、片状構造のアルミニウムケイ酸カリウム8〜15重量%と、水20〜30重量%と、テキサノール2〜5重量%とを含む遮音塗料である遮音塗料。
【請求項2】
請求項1に記載の遮音塗料において、バインダーは、アニオン分散型の水溶性スチレン変性アクリレートコポリマーである遮音塗料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高性能遮音塗料(以下、「遮音塗料」とする)に関するものであり、より詳しくは、球状粒子構造のソーダ石灰ホウケイ酸ガラス(Soda−Lime Borosilicate Glass;以下、「SLBG」とする)と、バインダーと、二酸化チタンと、特殊な片状構造のアルミニウムケイ酸カリウム(Aluminum Potassium Silicate;以下、「APS」とする)と、テキサノールとを含む水性の遮音塗料に関し、建物の内外壁、天井、屋根などの建築物、並びに船舶、とりわけ潜水艇に塗布することにより、騒音及び振動が効率良く遮断され、軍事目的としても使用することができる。また、水性塗料であることから、塗布する際に臭いがせず、人体に対して無害であり環境に優しい塗料である。
【背景技術】
【0002】
周辺の生活環境は、各種の騒音にさらされており、マンションのような密接した空間の構造物で体感する騒音をどこまで低減することができるのかは不明である。近隣騒音の紛争基準となるdB(デシベル)の基準値を実際に測定してみると、本人が感じる体感騒音よりもはるかに低いからである。つまり、近隣騒音は、もはや建築上の問題から、ライススタイル、ストレスの増加、精神病の発症をはじめ、隣人との関係ないしコミュニケーションの問題へと、より一層複雑かつ深刻化している。
【0003】
産業の発展が加速するにつれ、生活騒音の発生源が多様化しつつある。特に、交通騒音は、大都市騒音の主な原因となっており、空港または高速道路に隣接している住宅及び事務所などでの騒音は、深刻な社会問題として次第に顕在化している。従って、それに対する対策が早急に求められているのが現状である。本発明では、上述した生活騒音の遮断のみならず、遮音技術の導入が強く求められている船舶や、軍艦、潜水艇などにおける課題も解決しようとする。
【0004】
騒音の大きさは、音波のdB(デシベル)で表すことができるが、戦闘機の離着陸時は120dB、7m離れた自動車のクラクション音は110dB、鉄道沿線における電車通過時は100dB、工場騒音は90dB、交通騒音は80〜70dB、騒がしい事務所は60dB、静かな会話時は40dB、時計の針音は20dB程度である。つまり、約70dB以上の騒音は、生活に支障をきたし得るうるさい騒音といえる。
【0005】
したがって、このような騒音の問題を根本的に軽減するためには、発生する騒音の伝達を最初から遮断することで解決することができる。通常使用される防音板、吸音板、または遮断壁を設置することは、スペースの確保とともに莫大なコストを伴うので、容易且つ経済的な方法とはいえない。そこで、建物の内外壁に、金属粒子または顔料などを含む塗装材料を適用して簡単に騒音を防止しようとした従来の試みもあるが、抗菌性の効果以外にも、防音効果が十分得られない問題がある。そのため、金属粒子または特定の充填剤を添加することよりも、遮音効果を画期的に向上させた塗装材料の開発が早急の課題となっている。
【0006】
【表1】
【0007】
(音の大きさ)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述した課題を根本的に解決するために、SLBGと、バインダーと、二酸化チタンと、APSと、テキサノールとを含む遮音塗料を、建物の内外部や船舶潜水艇などに塗布方式で塗装して騒音を遮断し、塗装時の臭いを防ぎ、人体に無害であり、経済的かつ効率の良い遮音塗料を提供するものである。
【0009】
より詳しくは、本発明は、吸音効果をともに備えた高性能遮音塗料を提供するものであって、SLBG15〜25重量%と、バインダー36〜46重量%と、二酸化チタン8〜15重量%と、APS8〜15重量%と、水20〜30重量%と、テキサノール2〜5重量%とを含む塗布用の遮音塗料を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記本発明の目的は、本発明の遮音塗料によって達成できる。本発明の遮音塗料は、詳しくは、SLBG15〜25重量%と、バインダー36〜46重量%と、二酸化チタン8〜15重量%と、APS8〜15重量%と、水20〜30重量%と、テキサノール2〜5重量%とを含む。
【0011】
前記SLBGは、大きさが100ミクロン以下の球状粒子の形状であり、密度が0.12〜0.50の範囲と超軽量であるため、塗料内で沈殿せず、塗布時に上層に浮遊して硬質の塗膜を形成することで、塗膜の耐久性が向上され、長期間にわたって基材を保護する。また、ASPは片状構造を有するので、塗膜中に緻密に微細複層構造が複数形成され音波の伝達を遮断させる効果を奏する。
【0012】
前記遮音塗料の組成物において、バインダーは、アニオン分散型の水溶性スチレン変性アクリレートコポリマーからなる。
【0013】
前記遮音塗料の組成物の他の形態においては、前記組成物は、0.2〜0.4重量%の界面活性剤を含むことができ、前記界面活性剤は、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルからなる群から選択される一種以上であってよい。
【0014】
前記遮音塗料の組成物の他の形態においては、0.2〜0.5重量%の防腐剤を含むことができる。
【0015】
前記遮音塗料の組成物の他の形態においては、0.3〜0.6重量%の分散剤を含むことができる。
【0016】
市販のオロタン731を使用することができる。
【0017】
前記遮音塗料の組成物の他の形態においては、0.3〜0.6重量%の消泡剤を含むことができる。
【0018】
前記遮音塗料の組成物の他の形態においては、0.1〜0.4重量%の中和剤を含むことができる。
【0019】
前記遮音塗料の組成物の他の形態においては、0.5〜0.8重量%の冷凍安定剤を含むことができる。
【0020】
前記遮音塗料の組成物の他の形態においては、0.2〜0.5重量%の増粘剤を含むことができる。
【0021】
前記各種の形態に係る遮音塗料は、建築物や船舶などの様々な分野に適用することができる。
【0022】
例えば、マンションまたは住宅などの壁面や床仕上げ材に、前記遮音塗料を適用する場合、近隣騒音のみならず、外部からの騒音も遮断される。特に、船舶潜水艇に適用した場合、水中騒音の遮断効果により所望の目的に応じた効果が十分得られる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の遮音塗料は、表2の騒音測定値(dB)および表3の音響減衰係数測定値(音響透過損失)から分かるように、遮音建具、遮音石膏ボードの遮音性能と比較して、騒音を画期的に遮断することができる。また、高コストの防音壁または遮断壁を設置するよりも、簡便かつ経済的に利用することができるとともに、本発明の主たる目的の一つである遮音技術の導入が強く求められている船舶や軍艦潜水艇などへの利用価値が高いとみられる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、音の反射・透過・吸収の関係を示すグラフである。
【
図2】
図2は、通常の遮音材の単一壁及び二重壁の透過損失に対する周波数別の音響透過損失を示すグラフである。
【
図3】
図3は、通常の遮音材の単一壁及び二重壁の透過損失に対する周波数別の音響透過損失を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明に係る組成物は、各々の機能を有しているが、特にアクリルバインダーは、基板との接着剤としての機能を有しており、分散剤は、アクリルバインダー及び水との相溶性を有して作業性を高めるとともに、中和剤は、組成物のpHを調整することで組成物の貯蔵安定性を向上させる。SLBGは、超微粒の中空構造を有する超軽量の充填剤で塗膜する際、上部層へ移動して伝達される音波を塗膜上部のボイド層で騒音を遮断したり、大幅に低減させたりする。
【0026】
また、複合的に、APSは緻密に形成された微細な片状複層構造であるため、SLBG層を通過して入射した音波が複層に到達する過程において、音圧に起因する空気の振動による摩擦により、音のエネルギーが熱エネルギーに変わり、吸音・消滅される。
【0027】
より詳しくは、本発明に係る塗膜は、本発明の物質の内部に存在するボイド層及び複層の両方において、音を大量に反射・吸収をすることを繰り返し、その結果、遮音の効果を最大にすることができる。
【0028】
言い換えれば、物質の内部に流入した騒音の振動を抑える効果及び原理としても説明することができる。本発明の遮音塗料は、アクリルバインダーと、SLBGと、二酸化チタンと、APSとを混合して高密度に構成したものであり、吸音・騒音のフィルタリングの遮音効果が、薄膜であっても、従来の防音材料(塗料を含む)とは厚さ及び性能の面から差異が認められるとともに、通常の防音材の1/10以下の重さ及び吸音材の1/20以下の厚さとして、超軽量且つ超薄膜の特徴を備えた環境に優しい水溶性の遮音塗料である。
【0029】
前記発明の原理に基づく機能について、下記のように詳述する。
【0030】
本発明の遮音塗料を、騒音を遮蔽する目的で、遮音対策が必要な基材に塗布してなる塗膜フィルム(以下、「遮音材」とする)に音が流入した場合における音の反射・透過・吸収の関係を
図1に示す。
【0031】
例えば、遮音材の透過損失TLを40dBとした場合、TL=10log
10(l/τ)の数式から、入射音の大きさpiと透過音の大きさptとの比で示される透過率は、τ=(10
(−TL/10)/10)=0.0001となり、入射音の大きさの1/10,000が透過することを意味する。
【0032】
図1に示したように、入射音の大きさは、pi=pr+pt+paの式(1)で示すことができる。
【0033】
ここで、Pi:入射音の大きさ、Pr:反射音の大きさ、pt:透過音の大きさ、pa:吸収の大きさ、τ:透過率(pt/pi)である。
【0034】
前記式(1)から分かるように、その数式に基づいて、遮音材の音響透過損失(音響減衰係数)を高めるために、本発明の遮音塗料は、複合的に遮音及び吸音の層を実現することができるように積層構造となっている。
【0035】
より詳しくは、質量の点からの透過損失の減少には限界があるので、密度が異なる媒質の多層または中空層の隔離(Isolation)により遮音材としての機能性を与える。
【0036】
本発明の構成原理のうち一つは、遮音材に入射した音は、遮音材の上部層に分布した超軽量の微粒化構造中の連続する多くのボイド層を通過する過程において、反射・吸収が繰り返されることにより、透過音の大きさptが減少し、ボイド層を通過した音のエネルギーは、非連続的な片状(Flaky Shape)のASPの複層構造を有する異なる材料とのつなぎ目で、他の波動に変わり、エネルギーを失う(空気振動の摩擦により、音の運動エネルギーが熱エネルギーに変わり消失される)ことになり、吸音効果を高める。
【0037】
遮音は、音波を反射するメカニズムである一方で、吸音は、音波を吸収するメカニズムである。音波の吸収とは、音波の波動エネルギーを減衰させることであり、媒質粒子の運動エネルギーが、材料に振動などを引き起こして熱エネルギーに変わることをいう。
【0038】
その結果、上述した超軽量のボイド層の容積を最大にし(分子間の距離が遠いほど、音のエネルギーの消失量が増加する)、構造の隔離(Constrution Isolation)の原理を利用して、本発明の遮音塗料は、遮音および吸音効果を超薄膜で実現可能となった。
【0039】
前記本発明の構成原理について、下記のようにさらに説明する。
【0040】
質量の点からの遮音性能は、その質量に大きく依存することが分かる。騒音防止の対策を検討する際、遮音構造において十分な質量を確保することが重要な課題となるが、質量の増加のみでは効果的な対策とはいえない。したがって、複層を独立的に構築することができれば、その透過損失が各層の透過損失と併せて優れた遮音性能が得られる。
【0041】
その実施例として、通常の遮音材の単一壁及び二重壁の透過損失に対する周波数別の音響透過損失を、
図2及び
図3を参考にして下記のように例として引用する。
【0042】
本発明の遮音塗料は、複層構造の組み合わせ、またはボイド層の音響の組み合わせにより、超軽量の薄膜による優れた遮音性能および効果を実現することができる。
【0043】
以下、実施例を用いて、本発明をより具体的に説明する。
【0044】
(実施例1)
水240gと、増粘剤3gと、分散剤3gと、中和剤2gと、防腐剤2gと、界面活性剤3gと、冷凍安定剤6gとの混合物を攪拌しながら消泡剤4g及びテキサノール22gを添加し、均質にして二酸化チタン100g及びAPS90gを添加した後、約30分間高速攪拌した。混合物の分散度が5以上であることを確認してから混合物にアクリルバインダー400gを攪拌しながら添加した後、SLBG200gを徐々に投入して、約20分間低速攪拌した。
【0045】
(比較例1)
水240gと、増粘剤3gと、分散剤3gと、中和剤2gと、防腐剤2gと、界面活性剤3gと、冷凍安定剤6gとの混合物を攪拌しながら消泡剤4g及びテキサノール22gを添加し、均質にして二酸化チタン100g及びAPS90gを添加した後、約30分間高速攪拌した。混合物の分散度が5以上であることを確認してから混合物にアクリルバインダー400gを攪拌しながら添加した後、SLBG100g及びケイ酸マグネシウム100gを徐々に投入して、約20分間低速攪拌した。
【0046】
(比較例2)
水240gと、増粘剤3gと、分散剤3gと、中和剤2gと、防腐剤2gと、界面活性剤3gと、冷凍安定剤6gとの混合物を攪拌しながら消泡剤4g及びテキサノール22gを添加し、均質にして二酸化チタン100g及びAPS90gを添加した後、約30分間高速攪拌した。混合物の分散度が5以上であることを確認してから混合物にアクリルバインダー400gを攪拌しながら添加した後、ケイ酸マグネシウム200gを徐々に投入して、約20分間低速攪拌した。
【0047】
遮音性能試験
試験例1−PVC試験板の作製による試験
前記実施例1、比較例1、及び比較例2で得られた遮音塗料を用いて、PVC基板(15mm)上に遮音塗料を3回(20℃、8時間以上の再塗装までの時間を維持する)スプレー塗布して乾燥させた後、二つに隔てられた箱(W×L×H、各1m)を作製して設置し、隙間はシーリング材で仕上げた後、一方のスペース(ホワイトノイズの音源)から他方のスペースへの伝達騒音を(騒音測定器で)測定する方法により評価した。
【0049】
(騒音測定結果値(dB))
前記表2の結果から明らかなように、本発明の実施例1を塗布した場合、発生騒音と比較して伝達騒音が大きく減少したが、比較例2では僅かな程度に留まった。通常の建具の場合における平均遮音値の約15dB程度と、遮音建具の平均遮音値の約40dB程度と比較して、本発明の実施例1は遮音効果が大きいことがわかる。
【0050】
試験例2−周波数別の音響減衰係数測定による試験
前記実施例1で得られた遮音塗料を用いて、ガラスクロス(25mm)上に遮音塗料を3回(20℃、8時間以上の再塗装までの時間を維持する)スプレー塗布して乾燥させた後、KSF2808/2011(建物部材の空気伝達音の遮断性能測定法)に基づき、周波数別の音響係数を測定した。音響透過損失は、本実施例1の塗膜に入射した音のエネルギーと、反対側へ透過して去っていく音のエネルギーとの比の逆数の常用対数を10倍した値であり、音響減衰係数(dB)として表す。
【0052】
(音響減衰係数測定値(音響透過損失))
前記表3の結果から明らかなように、本発明の実施例1を塗布した場合、周波数125Hzでの音響減衰係数は18.6dBになっており、該壁体の遮音構造の認定および管理基準(韓国建設交通省告示第1999−393号)の認証条件である30以上に対して62%、また、周波数2000Hzでの音響減衰係数は54.0dBになっており、壁体の遮音構造の認定および管理基準の認証条件である55以上に対して98%に近い数値になっている。表3の結果値から、低周波数から高周波数の範囲まで音響遮断の効果が優れていることが分かる。
【0054】
(壁体の遮音構造の認定および管理基準(韓国建設交通省告示第1999−393号)の認証条件)
例)遮音石膏ボード(品名:dBcheck)のテスト結果表
下記表5遮音石膏ボードのdBcheckを用いたシステムを、韓国建設技術研究院(KICT)でのテスト結果値を例として引用したものである。
【0056】
前記構造物の総厚さは、80mm(スタッドは除く)であり、KCC遮音石膏ボードは、二重壁の構造で、総厚さ50mm(スタッドは除く)で施工されていることが知られている。