(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6652656
(24)【登録日】2020年1月27日
(45)【発行日】2020年2月26日
(54)【発明の名称】熱電対構造及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
G01K 1/08 20060101AFI20200217BHJP
G01K 7/02 20060101ALI20200217BHJP
【FI】
G01K1/08 P
G01K7/02 C
G01K7/02 E
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-546908(P2018-546908)
(86)(22)【出願日】2018年8月21日
(86)【国際出願番号】JP2018030815
(87)【国際公開番号】WO2019150622
(87)【国際公開日】20190808
【審査請求日】2019年2月12日
(31)【優先権主張番号】特願2018-14170(P2018-14170)
(32)【優先日】2018年1月30日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000136561
【氏名又は名称】株式会社フルヤ金属
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(72)【発明者】
【氏名】古屋 堯民
(72)【発明者】
【氏名】田中 扶
(72)【発明者】
【氏名】篠田 謙次
(72)【発明者】
【氏名】岩佐 泰史
(72)【発明者】
【氏名】大塚 剛久
(72)【発明者】
【氏名】森田 健介
(72)【発明者】
【氏名】渡部 恵一
【審査官】
吉田 久
(56)【参考文献】
【文献】
特開平4−95832(JP,A)
【文献】
特開平8−59261(JP,A)
【文献】
特公昭48−35033(JP,B1)
【文献】
実開昭61−24629(JP,U)
【文献】
特開2013−195123(JP,A)
【文献】
特開昭56−27624(JP,A)
【文献】
特開平1−250730(JP,A)
【文献】
特開平1−272932(JP,A)
【文献】
特開2002−357483(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2017/0256697(US,A1)
【文献】
登録実用新案第3014093(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 1/00−19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極素線の一端と負極素線の一端とが接合された熱電対と、1本の柱状ガラス体(但し、柱状ガラス体の表面が被測定物と接合している形態を除く。)と、を有し、
前記熱電対の接点を含む前記正極素線と前記負極素線とが、前記接点以外は互いに接触することなく並列に前記柱状ガラス体の長さ方向に沿って該柱状ガラス体内に埋め込まれた状態となっており、かつ、前記正極素線の他端側と前記負極素線の他端側とが前記柱状ガラス体の外側に引き出されていることを特徴とする熱電対構造。
【請求項2】
前記正極素線の他端側と前記負極素線の他端側とが前記柱状ガラス体の一方の端面から両方とも引き出されていることを特徴とする請求項1に記載の熱電対構造。
【請求項3】
前記柱状ガラス体が非晶質石英ガラスからなることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱電対構造。
【請求項4】
前記熱電対が白金又は白金合金からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の熱電対構造。
【請求項5】
前記正極素線の側面と前記柱状ガラス体のガラスとは隙間なく接触し合っており、かつ、前記負極素線の側面と前記柱状ガラス体のガラスとは隙間なく接触し合っていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の熱電対構造。
【請求項6】
前記柱状ガラス体の長さは、前記熱電対の被加熱領域よりも長いことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の熱電対構造。
【請求項7】
前記熱電対が複数の熱電対であり、
前記柱状ガラス体の中に複数の熱電対が互いに接触することなく並列に前記柱状ガラス体の長さ方向に沿って埋め込まれた状態となっており、かつ、熱電対の接点が前記柱状ガラス体の長さ方向に沿って互いにずれた状態で配置されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一つに記載の熱電対構造。
【請求項8】
正極素線の一端と負極素線の一端とが接合している熱電対の前記正極素線及び前記負極素線をガラス部材で前記正極素線と前記負極素線を非接触にする第1工程と、
第1工程で作製した熱電対を、中空ガラス管に差し込んだ状態とする第2工程と、
前記中空ガラス管の端のうち、前記熱電対の接点に近い端を加熱して軟化させつつ前記中空ガラス管の内部空間を縮小させかつ該中空ガラス管の外径を縮小させ、次いで、前記中空ガラス管の長さ方向に沿って、前記中空ガラス管を加熱して軟化させつつ前記中空ガラス管の内部空間を縮小させかつ該中空ガラス管の外径を縮小させ、次いで冷却を進めて、柱状ガラス体を形成する第3工程と、を有することを特徴とする熱電対構造の製造方法。
【請求項9】
前記中空ガラス管は、一端が解放されており、他端が閉じられており、
第3工程において、前記中空ガラス管の内部を減圧状態としながら、軟化し次いで冷却を行うことを特徴とする請求項8に記載の熱電対構造の製造方法。
【請求項10】
第1工程で正極素線と負極素線を非接触にした熱電対を複数作製し、第2工程において、第1工程で作製した複数の熱電対をそれぞれ他の熱電対の正極素線及び負極素線と非接触の状態で前記中空ガラス管に差し込み、かつ、熱電対の接点を互いにずらした状態とし、その後第3工程で柱状ガラス体を形成することを特徴とする請求項8又は9に記載の熱電対構造の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、例えば半導体製造装置の熱処理成膜装置に用いられる熱電対構造及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱電対は、測定雰囲気に直接露呈される構造を採用するものが多い。熱電対が裸のまま測定雰囲気に晒されると、熱電対の酸化や腐食により測定精度の低下や断線等が発生し、使用寿命が短くなる。また、半導体製造工程等の製造雰囲気が極めて清浄であることが要求される環境では熱電対からの構成金属の揮発による汚染や保護管に含有される金属不純物の揮発による汚染が問題となる。
【0003】
そこで熱電対の保護または測定環境の汚染の抑制をするために、熱電対を清浄な保護管に入れる形態(例えば特許文献1〜3を参照。)、熱電対を、接点を中心に正極素線と負極素線とを一直線状に伸ばしたのち石英ガラス管に入れて、接点のところで石英ガラス管を折り曲げて、石英ガラス管を折り返し構造とする形態(例えば特許文献4を参照。)、熱電対の素線を所定の熱膨張係数を有するガラスで被覆する形態(例えば特許文献5を参照。)の開示がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9‐113372号公報
【特許文献2】特開2015-215220号公報
【特許文献3】実用新案登録3014093号公報
【特許文献4】特開2009‐749978号公報
【特許文献5】特開昭59−58882号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】浜田 登喜夫、工業加熱 Vol.44, No.5, 36-42(2007)、"白金系熱電対の校正とドリフト・不均質"
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1〜3に開示された発明、すなわち熱電対を高温で長期間使用した場合、熱電対の素線成分の揮発が生じ、正極素線の構成元素が負極素線の表面に付着し、あるいは、負極素線の構成元素が正極素線の表面に付着して、ドリフト現象による測定温度のズレ(起電力のズレ)が生じるおそれがある。例えば、Pt−Pt−Rh熱電対では、Rhの揮発と純Pt線への付着がドリフト現象の主要因であると報告されている(例えば、非特許文献1を参照。)。
【0007】
特許文献4に開示された発明、すなわち一直線状に伸ばした熱電対を入れた石英ガラス管を折り返し構造とする形態では、熱電対の接点以外の部分において、素線と石英ガラス管との間に空間があるため、石英ガラス管が割れやすく、素線の汚染が生じやすい。また、石英ガラス管が折り返し構造を有しているため、折り返しにより近接した石英ガラス管の端部同士が近づき、または遠ざかることによって、折り返し部において応力が集中しやすく、破損しやすい。さらに構造上熱電対の接点は折り返し部の一点に限定され、複数点の測定に対応できない。
【0008】
特許文献5に開示された発明、すなわち、熱電対の素線を所定の熱膨張係数を有するガラスで被覆する形態では、熱電対の接点はガラスに密に接していて、熱電対の素線成分の揮発が生じにくいため、ドリフト現象による測定温度のズレも生じにくい。しかし、特許文献5の発明では、結晶化ガラスで熱電対を一本ずつ被覆し、プラス線とマイナス線が一体化していないため、熱電対の接点において応力が集中しやすく、外力によりガラス被膜が破損しやすい。また、ガラス被膜が薄いと、ガラス被膜の表面に付着した堆積物によって、膜応力起因の保護膜の割れ破壊が生じるおそれがある。
【0009】
さらに、特許文献1、2及び4には、多点測温素子を開示する。しかし、振動等による測温接点の移動を完全に防止することが好まれる。
【0010】
そこで、本開示は、ドリフト現象による測定温度のズレが生じにくく、保護管又は保護膜の表面への付着堆積物による保護管又は保護膜の割れ破壊が生じにくく、さらに、熱電対の振動等による測温接点の移動を防止する構造を有した熱電対構造及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討したところ、熱電対の接点を含む正極素線と負極素線とが、接点以外は互いに接触することなく並列に柱状ガラス体の長さ方向に沿って埋め込まれた構造とすることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明に係る熱電対構造は、正極素線の一端と負極素線の一端とが接合された熱電対と、1本の柱状ガラス体
(但し、柱状ガラス体の表面が被測定物と接合している形態を除く。)と、を有し、前記熱電対の接点を含む前記正極素線と前記負極素線とが、前記接点以外は互いに接触することなく並列に前記柱状ガラス体の長さ方向に沿って
該柱状ガラス体内に埋め込まれた状態となっており、かつ、前記正極素線の他端側と前記負極素線の他端側とが前記柱状ガラス体の外側に引き出されていることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る熱電対構造では、前記正極素線の他端側と前記負極素線の他端側とが前記柱状ガラス体の一方の端面から両方とも引き出されていることが好ましい。柱状ガラス体によって保護される熱電対の長さを最大とすることができる。また、取り扱いが容易となる。
【0013】
本発明に係る熱電対構造では、前記柱状ガラス体が非晶質石英ガラスからなることが好ましい。熱電対を外部環境から保護する能力が高く、電気的絶縁機能が高い。また、室温及び高温での機械的信頼性が高い。
【0014】
本発明に係る熱電対構造では、前記熱電対が白金又は白金合金からなることが好ましい。白金又は白金合金熱電対とすることで、1100℃までの高温領域で使用することができる。
【0015】
本発明に係る熱電対構造では、前記正極素線の側面と前記柱状ガラス体のガラスとは隙間なく接触し合っており、かつ、前記負極素線の側面と前記柱状ガラス体のガラスとは隙間なく接触し合っていることが好ましい。正極素線と負極素線との接触が完全に防止されるとともに、機械的強度に優れる。
【0016】
本発明に係る熱電対構造では、前記柱状ガラス体の長さは、前記熱電対の被加熱領域よりも長いことが好ましい。熱電対の素線の加熱による揮発が防止され、熱電対の耐久性が向上する。
【0017】
本発明に係る熱電対構造では、前記熱電対が複数の熱電対であり、前記柱状ガラス体の中に複数の熱電対が互いに接触することなく並列に前記柱状ガラス体の長さ方向に沿って埋め込まれた状態となっており、かつ、熱電対の接点が前記柱状ガラス体の長さ方向に沿って互いにずれた状態で配置されていることが好ましい。測定点のズレがない多点測温素子を提供できる。
【0018】
本発明に係る熱電対構造の製造方法は、正極素線の一端と負極素線の一端とが接合している熱電対の前記正極素線及び前記負極素線をガラス部材で前記正極素線と前記負極素線を非接触にする第1工程と、第1工程で作製した熱電対を、中空ガラス管に差し込んだ状態とする第2工程と、前記中空ガラス管の端のうち、前記熱電対の接点に近い端を加熱して軟化させつつ前記中空ガラス管の内部空間を縮小させ
かつ該中空ガラス管の外径を縮小させ、次いで、前記中空ガラス管の長さ方向に沿って、前記中空ガラス管を加熱して軟化させつつ前記中空ガラス管の内部空間を縮小させ
かつ該中空ガラス管の外径を縮小させ、次いで冷却を進めて、柱状ガラス体を形成する第3工程と、を有することを特徴とする。
【0019】
本発明に係る熱電対構造の製造方法では、前記中空ガラス管は、一端が解放されており、他端が閉じられており、第3工程において、前記中空ガラス管の内部を減圧状態としながら、軟化し次いで冷却を行うことが好ましい。柱状ガラス体の内部から空気層を除くことができる。
【0020】
本発明に係る熱電対構造の製造方法では、第1工程で正極素線と負極素線を非接触にした熱電対を複数作製し、第2工程において、第1工程で作製した複数の熱電対をそれぞれ他の熱電対の正極素線及び負極素線と非接触の状態で前記中空ガラス管に差し込み、かつ、熱電対の接点を互いにずらした状態とし、その後第3工程で柱状ガラス体を形成することが好ましい。測定点のズレがない多点測温素子を提供できる。
【発明の効果】
【0021】
本開示によれば、ドリフト現象による測定温度のズレが生じにくく、保護管又は保護膜の表面への付着堆積物による保護管又は保護膜の割れ破壊が生じにくく、さらに、熱電対の振動等による測定点のズレがない熱電対構造及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本実施形態に係る熱電対構造の概略図である。
【
図3】本実施形態に係る熱電対構造を加熱炉にて使用したときの概略図である。
【
図4】本実施形態に係る多点測温式の熱電対構造の概略図である。
【
図6】本実施形態に係る熱電対構造の製造方法の説明図である。
【
図7】本実施形態に係る多点測温式の熱電対構造の製造方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以降、本発明について実施形態を示して詳細に説明するが本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。本発明の効果を奏する限り、実施形態は種々の変形をしてもよい。
【0024】
図1及び
図2を参照して、本実施形態に係る熱電対構造について説明する。本実施形態に係る熱電対構造100は、正極素線1aの一端と負極素線1bの一端とが接合された熱電対1と、1本の柱状ガラス体2と、を有し、熱電対の接点1cを含む正極素線1aと負極素線1bとが、熱電対の接点1c以外は互いに接触することなく並列に柱状ガラス体2の長さ方向に沿って埋め込まれた状態となっており、かつ、正極素線1aの他端側と負極素線1bの他端側とが柱状ガラス体2の外側に引き出されている。
【0025】
熱電対1は、白金又は白金合金からなることが好ましい。例えば、(正極素線1a,
負極素線1b)の組み合わせが、(PtRh13%,Pt)、(PtRh10%、Pt)、(PtRh30%、PtRh6%)である。
【0026】
柱状ガラス体2を構成するガラスは、外気環境から熱電対を十分に保護することができる保護機能および熱電対の起電力の安定のために電気的絶縁機能が高いことが望まれる。具体的には、柱状ガラス体2を構成するガラスは、300℃〜1100℃で軟化しない電気絶縁性を有するガラスであることが好ましい。軟化点は300℃以上、好ましくは500℃以上、より好ましくは700℃以上であり、軟化点の上限は特に制限がないが、例えば1100℃である。また、電気抵抗度は、1×10
10〜7.5×10
17(Ω・m)であることが好ましい。このような特性を満たすガラスは限定されており、例えば、非晶質石英ガラスが用いられている。非晶質石英ガラスは、熱電対を外部環境から保護する能力が高く、電気的絶縁機能が高い。また、室温及び高温での機械的信頼性が高い。非晶質石英ガラスの熱膨張係数は、約4.5×10
−7/℃〜約6.0×10
−7/℃である。この範囲の熱膨張係数は、特許文献5に記載の発明の被覆用ガラスの熱膨張係数(約5.0×10
−6/℃〜約40×10
−6/℃)よりも一桁程度小さい。
【0027】
柱状ガラス体2は、中空ガラス管のように中空状のガラス体ではなく、
図2に示すように、長さ方向に沿った中空部を内部に有さない構造を有する。なお、製造時に残存した空気泡を有する場合がある。柱状ガラス体2は棒状の形状を有し、その断面は、円形、角形、楕円形であることが好ましい。また、柱状ガラス体2が棒状であるとき、直線状であることが好ましいが、必要に応じて、弓状に湾曲していてもよく、また、L型のように角度を持って曲げられていてもよい。素材がガラスであることから、適宜、変形させることができる。柱状ガラス体2は、熱電対の接点1cから棒の長さ方向に沿って、同一の直径又は同一の断面積を有することが好ましい。柱状ガラス体2は、熱電対の接点1cから棒の長さ方向に沿って、徐々に太くなる形態又は徐々に細くなる形態としてもよい。柱状ガラス体2の長さは、
図3に示すように、熱電対1の被加熱領域3よりも長いことが好ましい。熱電対の素線の加熱による揮発が防止され、熱電対の耐久性が向上する。
図3では、電気炉等の加熱炉5の内部空間5aの中に、熱電対構造100の一部が配置されている。柱状ガラス体2は被加熱領域3と非加熱領域4とを有する。被加熱領域3は、加熱炉5によって昇温されうる領域であり、非加熱領域4は、加熱炉5によって昇温されない領域である。被加熱領域3は、従来の熱電対構造において、保護管に相当する領域ともいうことができる。柱状ガラス体2の外側に引き出されている正極素線1aの他端側は、起電力測定器6の端子と接続され、負極素線1bの他端側も起電力測定器6の端子と接続される。
【0028】
図1に示すように、柱状ガラス体2には熱電対1が埋め込まれている。すなわち、1本の柱状ガラス体2に、熱電対の接点1cを含む正極素線1aと負極素線1bとが、熱電対の接点1c以外は互いに接触することなく並列に柱状ガラス体2の長さ方向に沿って埋め込まれている。柱状ガラス体2に埋め込まれている熱電対1は可動域がない。本実施形態には、正極素線と負極素線とが一直線状に伸ばされた状態で柱状ガラス体に埋め込まれて、さらにその柱状ガラス体が接点付近で折り曲げられて正極素線と負極素線とを並列にした形態(以降、折り曲げられた形態Aという。)は含まれない。折り曲げられた形態Aでは、柱状ガラス体の折り曲げ部分が応力集中によって折れるおそれがある。これに対して、本実施形態に係る熱電対構造のように埋め込まれていれば、柱状ガラス体2のうち熱電対の接点1cの付近の箇所において、応力が集中するということはなく、折り曲げられた形態Aと比較して柱状ガラス体を相対的に太くすることも可能であり、強度確保の面においてさらに有利となる。「並列」とは、正極素線1aと負極素線1bとが平行であることまでは要さず、熱電対の接点1c以外は相互に接触することがなく、幅をあけて並んでいることを意味する。
【0029】
本実施形態に係る熱電対構造100では、
図2に示すように、正極素線1aの側面と柱状ガラス体2のガラスとは隙間なく接触し合っており、かつ、負極素線1bの側面と柱状ガラス体2のガラスとは隙間なく接触し合っていることが好ましい。正極素線と負極素線との接触が完全に防止されるとともに、機械的強度に優れる。正極素線1aの側面と柱状ガラス体2のガラスとの接触は、全面接触が好ましいが、本実施形態では製造誤差に起因する非接触箇所を有する形態を包含し、例えば、正極素線1aの長さ方向に対して95%以上接触している形態を包含する。負極素線1bの側面と柱状ガラス体2のガラスとの接触についても全面接触が好ましいが、本実施形態では製造誤差に起因する非接触箇所を有する形態を包含し、例えば、負極素線1bの長さ方向に対して95%以上接触している形態を包含する。
【0030】
さらに熱電対1では正極素線1aの他端側と負極素線1bの他端側とが柱状ガラス体2の外側に引き出されている。ここで熱電対1では、正極素線1aの他端側と負極素線1bの他端側とが柱状ガラス体の一方の端面2aから両方とも引き出されていることが好ましい。柱状ガラス体2によって保護される熱電対1の長さを最大とすることができる。また、取り扱いが容易となる。本実施形態では、変形例として、正極素線1aの他端側と負極素線1bの他端側を両方とも柱状ガラス体2の側面から引き出してもよく、あるいは、いずれか一方を柱状ガラス体の一方の端面2aから引き出し、他方を柱状ガラス体2の側面から引き出してもよい。
【0031】
次に
図4及び
図5を参照して、多点測温式の熱電対構造について説明する。本実施形態に係る熱電対構造200では、熱電対11,12が複数の熱電対であり、柱状ガラス体13の中に複数の熱電対11,12が互いに接触することなく並列に柱状ガラス体13の長さ方向に沿って埋め込まれた状態となっており、かつ、熱電対11,12の接点11c,12cが柱状ガラス体13の長さ方向に沿って互いにずれた状態で配置されていることが好ましい。耐久性が良好で、測定点のズレがない多点測温素子を提供できる。
図5に示すように、熱電対の素線11a,11b,12a,12bは相互に接触することなく、柱状ガラス体13に埋め込まれている。本形態においても、熱電対の素線11a,11b,12a,12bの側面と柱状ガラス体13のガラスとの接触はそれぞれ全面接触が好ましいが、本実施形態では製造誤差に起因する非接触箇所を有する形態を包含し、例えば、各素線の長さ方向に対して95%以上接触している形態を包含する。
【0032】
図4では、熱電対が2つの形態を示したが、3つ以上としてもよい。熱電対を3つ以上とした場合、熱電対の接点の間隔は等間隔としてもよく、また、適宜、間隔を異なるものとしてもよい。
【0033】
(熱電対構造の製造方法)
次に本実施形態に係る熱電対構造の製造方法について説明する。
図6は、
図1に示した熱電対構造の製造方法を説明する図である。本実施形態に係る熱電対構造の製造方法は、(1)正極素線1aの一端と負極素線1bの一端とが接合している熱電対1の正極素線1a及び負極素線1bをガラス部材30で正極素線1aと負極素線1bを非接触にする第1工程と、(2)第1工程で作製した熱電対を、中空ガラス管31に差し込んだ状態とする第2工程と、(3)中空ガラス管31の端のうち、熱電対の接点1cに近い端を加熱して軟化させ、次いで、中空ガラス管31の長さ方向に沿って、中空ガラス管31の中空を無くしながら軟化し次いで冷却を進めて、柱状ガラス体(
図1の符号2)を形成する第3工程と、を有する。
【0034】
(第1工程)
ガラス部材30は、正極素線1aと負極素線1bを非接触にする限り、形状については特に制限はなく、棒状のガラス片、ガラスウールなどが例示でき、確実に非接触にするという点で
図6に示すように中空ガラス管が好ましい。ガラス部材30のガラス組成は、中空ガラス管31と異なる組成でもよいが、同組成であることが好ましい。中空ガラス管31は非晶質石英ガラスで形成されていることがより好ましい。なお、第1工程において、「正極素線と負極素線を非接触にする」とは、正極素線と負極素線の接点以外を非接触にすることを意味する。
【0035】
(第2工程)
第1工程で作製した熱電対とは、
図6では中空ガラス管であるガラス部材30を負極素線1bに通して正極素線1aとの接触が防止されている熱電対1であるが、正極素線1aに通して負極素線1bとの接触を防止してもよい(不図示)。この熱電対1を中空ガラス管31に差し込んだ状態とする。
【0036】
(第3工程)
中空ガラス管31の端のうち、熱電対の接点1cに近い端を火炎バーナーなどの加熱器32で加熱する。加熱によって中空ガラス管31及び中空ガラス管であるガラス部材30が軟化し、融着し合って一体化する。そして、中空ガラス管31の長さ方向に沿って、中空ガラス管31の中空(内部空間31a)を無くしながら軟化し次いで冷却を進めて、柱状ガラス体(
図1の符号2)を形成する。柱状ガラス体2は、中空ガラス管31及び中空ガラス管であるガラス部材30が、融着して一体化されることによって形成される。
【0037】
中空ガラス管31は、一端が解放されており、他端が閉じられている、有底タイプの中空管が好ましい。本実施形態では、第3工程において中空ガラス管31の内部を排気ポンプなどの排気手段40によって減圧状態としながら、軟化し次いで冷却を行うことが好ましい。
図1に示した柱状ガラス体2の内部から空気層を除くことができる。また、ガラス細工により、中空ガラス管31の内部空間31aを縮小させてもよい。また、軟化したガラスの表面張力により内部空間31aを縮小させてもよい。
【0038】
(多点測温式の熱電対構造の製造方法)
次に本実施形態に係る多点測温式の熱電対構造の製造方法について説明する。
図7は、
図4に示した多点測温式の熱電対構造の製造方法を説明する図である。本実施形態に係る熱電対構造の製造方法は、(1)第1工程で正極素線と負極素線を非接触にした熱電対を複数作製し、(2)第2工程において、第1工程で作製した複数の熱電対をそれぞれ他の熱電対の正極素線及び負極素線と非接触の状態で前記中空ガラス管に差し込み、かつ、熱電対の接点を互いにずらした状態とし、(3)その後第3工程で柱状ガラス体を形成することが好ましい。耐久性が良好で、測定点のズレがない多点測温素子を提供できる。
【0039】
(第1工程)
第1工程で正極素線と負極素線を非接触にした熱電対を複数作製する。
図7では、熱電対12について一方の素線を中空ガラス管であるガラス部材34に挿入して、熱電対11について正極素線11aと負極素線11bの両方を中空ガラス管であるガラス部材33,35に挿入している。このようにすることで、正極素線11a、負極素線11b、正極素線12a及び負極素線12bが相互に接触することが防止される。熱電対12において他方の素線である正極素線12aを中空ガラス管であるガラス部材に挿入してもよい。
【0040】
(第2工程)
図7に示すように、第1工程で作製した複数の熱電対11,12をそれぞれ他の熱電対の正極素線及び負極素線と非接触の状態で中空ガラス管36に差し込み、かつ、熱電対の接点11c,12cを互いにずらした状態とする。中空ガラス管36の内部空間36aに複数の熱電対11,12が挿入されたとき、ガラス部材33,34,35によって、素線同士が相互に接触することが防止される。
【0041】
(第3工程)
その後、第3工程で柱状ガラス体を形成することが好ましい。耐久性が良好で、測定点のズレがない多点測温素子を提供できる。中空ガラス管36の端のうち、熱電対11の接点11cに近い端を火炎バーナーなどの加熱器32で加熱する。加熱によって中空ガラス管36及び中空ガラス管であるガラス部材33,34,35が軟化し、融着し合って一体化する。そして、中空ガラス管36の長さ方向に沿って、中空ガラス管36の中空(内部空間36a)を無くしながら軟化し次いで冷却を進めて、柱状ガラス体(
図4の符号13)を形成する。柱状ガラス体13は、中空ガラス管36及び中空ガラス管であるガラス部材33,34,35が、融着して一体化されることによって形成される。
【0042】
中空ガラス管36は、一端が解放されており、他端が閉じられている、有底タイプの中空管が好ましい。本実施形態においても、第3工程において中空ガラス管36の内部を排気手段40によって減圧状態としながら、軟化し次いで冷却を行うことが好ましい。また、ガラス細工により、中空ガラス管36の内部空間36aを縮小させてもよい。また、軟化したガラスの表面張力により内部空間36aを縮小させてもよい。
【0043】
図1及び
図4に示した熱電対構造において、柱状ガラス体を得た後、火炎バーナーなどの加熱によって、柱状ガラス体を軟化させ、L型などに形状を変形させることもできる。
【符号の説明】
【0044】
100,200 熱電対構造
1,11,12 熱電対
1a,11a,12a 正極素線
1b,11b,12b 負極素線
1c,11c、12c 熱電対の接点
2,13 柱状ガラス体
2a,13a 柱状ガラス体の一方の端面
2b,13b 柱状ガラス体の先端
3 熱電対の被加熱領域
4 熱電対の非加熱領域
5 加熱炉
5a 加熱炉の内部空間
6 起電力測定器
30,33,34,35 ガラス部材
31,36 中空ガラス管
31a,36a 中空ガラス管の内部空間
32 加熱器
40 排気手段