特許第6652671号(P6652671)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6652671
(24)【登録日】2020年1月27日
(45)【発行日】2020年2月26日
(54)【発明の名称】スイッチ装置
(51)【国際特許分類】
   H01P 1/12 20060101AFI20200217BHJP
   H01P 3/12 20060101ALI20200217BHJP
   H01P 1/208 20060101ALI20200217BHJP
   H01P 7/06 20060101ALI20200217BHJP
【FI】
   H01P1/12
   H01P3/12 100
   H01P1/208 Z
   H01P7/06
【請求項の数】11
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2019-47557(P2019-47557)
(22)【出願日】2019年3月14日
【審査請求日】2019年10月15日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】上道 雄介
【審査官】 赤穂 美香
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−229430(JP,A)
【文献】 特表2016−515336(JP,A)
【文献】 特開2018−125717(JP,A)
【文献】 特開平10−093311(JP,A)
【文献】 特開2018−191267(JP,A)
【文献】 特開2018−191266(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 1/12
H01P 1/208
H01P 3/12
H01P 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体基板と、上記誘電体基板の第1主面及び第2主面にそれぞれ形成された一対の広壁である第1導体層及び第2導体層と、上記誘電体基板を貫通し且つ上記第1導体層と上記第2導体層とを導通させる複数の導体ポストが柵状に配置された導体ポスト群からなるポスト壁と、を備えており、導波領域は、上記第1導体層、上記第2導体層、及び上記ポスト壁により囲まれた上記誘電体基板により構成されているポスト壁導波路と、
上記広壁に少なくとも1つ形成された開口と、
上記開口を塞ぐ部分が導電性を有する材料により構成されたカバーと、
上記開口の全てが上記カバーにより塞がれている第1状態と、上記開口の全てが開放されている第2状態とを切り替えるように、上記カバーの位置を制御するカバー制御機構と、を備えている、
ことを特徴とするスイッチ装置。
【請求項2】
上記ポスト壁導波路は、結合窓を介して電磁気的に結合された複数の共振器を少なくとも一部区間に含み、
上記開口は、それぞれ、上記複数の共振器のうち少なくとも1つの共振器の上記広壁に形成されている、
ことを特徴とする請求項1に記載のスイッチ装置。
【請求項3】
上記開口は、それぞれ、上記複数の共振器の全ての共振器の上記広壁に形成されている、
ことを特徴とする請求項2に記載のスイッチ装置。
【請求項4】
上記一対の広壁のうち、一方の広壁にのみ上記開口が形成されている、
ことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のスイッチ装置。
【請求項5】
上記カバーは、上記開口を塞ぐ上記部分が導体製の板状部材又はブロック状部材である、
ことを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載のスイッチ装置。
【請求項6】
上記カバー制御機構は、上記カバーを一軸方向に沿って移動させるアクチュエーターである、
ことを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載のスイッチ装置。
【請求項7】
上記一軸方向は上記開口に対して垂直な方向である、
ことを特徴とする請求項6に記載のスイッチ装置。
【請求項8】
上記一軸方向は上記開口に対して水平な方向である、
ことを特徴とする請求項6に記載のスイッチ装置。
【請求項9】
上記カバーの一端部は、ヒンジを介して該スイッチ装置の一部に直接又は間接に固定されており、
上記カバー制御機構は、上記部分と、上記開口とのなす角を変化させるアクチュエーターである、
ことを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載のスイッチ装置。
【請求項10】
上記一方の広壁の上に形成された枠体であって、上記開口の全てを一括して又は分割して取り囲む枠体を更に備え、
上記カバーは、導電性に加えて流動性を有する材料により構成されており、且つ、上記第1状態においては上記枠体内に配置され、
上記カバー制御機構は、上記カバーを移動させることによって上記第1状態と上記第2状態とを切り替える流体ポンプである、
ことを特徴とする請求項4に記載のスイッチ装置。
【請求項11】
上記開口及び上記カバーを含む空間を覆う導体製のシールドを更に備えている、
ことを特徴とする請求項1〜10の何れか1項に記載のスイッチ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波を導波するポスト壁導波路を含み、且つ、該電磁波を導波する第1状態と該電磁波を導波しない第2状態とを切り替えるスイッチ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1〜3には、ミリメートル波の帯域(以下においてミリ波帯)において利用可能なスイッチ装置が記載されている。
【0003】
非特許文献1は、MMIC(Monolithic Microwave Integrated Circuit)の一部に含まれるスイッチ装置に言及している。非特許文献1に記載の「SP4T」という品名のスイッチ装置は、59.2GHz以上60.1GHz以下の帯域において、損失及びアイソレーションの各々が、それぞれ、2.8dB及び16.7dBである。この2.8dBという損失は、比較的大きい損失であり、抑制する余地がある。
【0004】
非特許文献2には、PINダイオードを用いて構成したスイッチ装置であって、ミリ波帯域において利用可能なスイッチ装置が記載されている。PINダイオードを用いて構成したスイッチ装置は、ミリ波帯におけるアイソレーション特性を高めることが難しい。PINダイオードを用いて構成した典型的なスイッチ装置では、50GHz帯においてアイソレーションは、10dB未満である。
【0005】
また、上述したスイッチ装置を構成するために利用可能なPINダイオードとしては、非特許文献3に記載されたPINダイオードが挙げられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】”国内初、ミリ波通信システムの実現に向け、必要な半導体回路をすべてMMIC化 ミリ波送受信モジュール用GaAs MMIC チップセットを開発”、[online]、2009年2月25日、[2018年12月5日検索]、インターネット<URL:http://mitsubishielectric.co.jp/news-data/2009/pdf/0225.pdf>
【非特許文献2】”THE PIN DIODE CIRCUIT DESIGNERS’HANDBOOK”、[online]、1998、[2018年12月5日検索]、インターネット<URL:https://www.ieee.li/pdf/essay/pin_diode_handbook.pdf#search=%27THE+PIN+DIODE+CIRCUIT+DESIGNERS%E2%80%99%27>
【非特許文献3】”MA4AGP907 MA4AGFCP910 AlGaAs Flip Chip PIN Diodes”、[2018年12月5日検索]、インターネット<URL:https://cdn.macom.com/datasheets/MA4AGP907_FCP910.pdf#search=%27MA4AGFCP910%27>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述したように、非特許文献1に記載のMMICの一部に含まれるスイッチ装置は、損失が大きい(2.8dB)という課題を有し、非特許文献2に記載のPINダイオードを用いて構成したスイッチ装置は、ミリ波帯におけるアイソレーションが低い(10dB未満)という課題を有する。
【0008】
本発明は、上述した課題に鑑みなされたものであり、その目的は、ミリ波帯において利用可能なスイッチ装置であって、低い損失と高いアイソレーション特性とを両立可能なスイッチ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るスイッチ装置は、誘電体基板と、上記誘電体基板の第1主面及び第2主面にそれぞれ形成された一対の広壁である第1導体層及び第2導体層と、上記誘電体基板を貫通し且つ上記第1導体層と上記第2導体層とを導通させる複数の導体ポストが柵状に配置された導体ポスト群からなるポスト壁と、を備えており、導波領域は、上記第1導体層、上記第2導体層、及び上記ポスト壁により囲まれた上記誘電体基板により構成されているポスト壁導波路と、上記広壁に少なくとも1つ形成された開口と、上記開口を塞ぐ部分が導電性を有する材料により構成されたカバーと、上記開口の全てが上記カバーにより塞がれている第1状態と、上記開口の全てが開放されている第2状態とを切り替えるように、上記カバーの位置を制御するカバー制御機構と、を備えている。
【0010】
本スイッチ装置の第1状態においては、ポスト壁導波路の広壁に形成された少なくとも1つの開口の全てがカバーにより塞がれている。したがって、ポスト壁導波路内を伝搬する電磁波に対して、ポスト壁導波路は、あたかも広壁に開口が形成されていないかのように振る舞う。すなわち、本スイッチ装置は、第1状態において、一方のポートに結合された電磁波を他方のポートへ通過させる。
【0011】
一方、本スイッチ装置の第2状態においては、少なくとも1つの開口の全てが開放されるため、ポスト壁導波路のインピーダンス整合状態が崩れる。したがって、ポスト壁導波路の一方のポートから開口まで伝搬してきた電磁波は、上述したインピーダンスの不整合に起因して反射されるか、開口からポスト壁導波路の外部へ漏れ出す。したがって、本スイッチ装置は、第2状態において、一方のポートに結合された電磁波を他方のポートへ通過させることなく遮断する。
【0012】
また、本スイッチ装置は、非特許文献1に記載のMMICの一部に含まれるスイッチ装置と比較して損失が少なく、且つ、非特許文献2に記載のPINダイオードを用いて構成したスイッチ装置と比較してアイソレーションが高い。したがって、本スイッチ装置は、ミリ波帯において利用可能なスイッチ装置であって、低い損失と高いアイソレーションとを両立することができる。
【0013】
本発明の一態様に係るスイッチ装置において、上記ポスト壁導波路は、結合窓を介して電磁気的に結合された複数の共振器を少なくとも一部区間に含み、上記開口は、それぞれ、上記複数の共振器のうち少なくとも1つの共振器の上記広壁に形成されている、ことが好ましい。
【0014】
上記の構成によれば、本スイッチ装置は、第1状態と第2状態とを切り替える機能に加えて、第1状態において一部の帯域を通過帯域とするバンドパスフィルタとして機能する。
【0015】
本発明の一態様に係るスイッチ装置において、上記開口は、それぞれ、上記複数の共振器の全ての共振器の上記広壁に形成されていてもよい。
【0016】
本発明の一態様に係るスイッチ装置において、上記一対の広壁のうち、一方の広壁にのみ上記開口が形成されている、ことが好ましい。
【0017】
上記の構成によれば、本スイッチ装置は、構成が簡単である。
【0018】
本発明の一態様に係るスイッチ装置において、上記カバーは、上記開口を塞ぐ上記部分が導体製の板状部材又はブロック状部材であってもよい。
【0019】
本発明の一態様に係るスイッチ装置において、上記カバー制御機構は、上記カバーを一軸方向に沿って移動させるアクチュエーターであってもよい。
【0020】
本発明の一態様に係るスイッチ装置において、上記一軸方向は上記開口に対して垂直な方向であってもよい。
【0021】
本発明の一態様に係るスイッチ装置において、上記一軸方向は上記開口に対して水平な方向であってもよい。
【0022】
本発明の一態様に係るスイッチ装置において、上記カバーの一端部は、ヒンジを介して該スイッチ装置の一部に直接又は間接に固定されており、上記カバー制御機構は、上記部分と、上記開口とのなす角を変化させるアクチュエーターであってもよい。
【0023】
カバーとして開口を塞ぐ部分が導体製の板状部材又はブロック状部材を採用する場合、本スイッチ装置が備えているカバー制御機構は、カバーを一軸方向に沿って移動させるアクチュエーター、又は、カバーの上記部分と開口とのなす角を変化させるアクチュエーターにより実現することができる。
【0024】
本発明の一態様に係るスイッチ装置は、上記一方の広壁の上に形成された枠体であって、上記開口の全てを一括して又は分割して取り囲む枠体を更に備え、上記カバーは、導電性に加えて流動性を有する材料により構成されており、且つ、上記第1状態においては上記枠体内に配置され、上記カバー制御機構は、上記カバーを移動させることによって上記第1状態と上記第2状態とを切り替える流体ポンプであってもよい。
【0025】
上記の構成によれば、カバーが導電性に加えて流動性を有する材料により構成されている場合であっても、開口をカバーで塞いだり開放したりすることができる。
【0026】
本発明の一態様に係るスイッチ装置は、上記開口及び上記カバーを含む空間を覆う導体製のシールドを更に備えている、ことが好ましい。
【0027】
本スイッチ装置の第2状態においては、開口は、開放されている。したがって、一方のポートから開口まで伝搬してきた電磁波は、開口において反射されるか、1又は複数の開口から導波路の外部へ漏れ出す。上記の構成によれば、導体製のシールドが開口及びカバーを含む空間を覆っているため、開口から導波路の外部へ電磁波が漏れ出す可能性がある場合にも、本スイッチ装置の外部へ漏れ出す電磁波を抑制することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の一態様に係るスイッチ装置は、ミリ波帯において利用可能なスイッチ装置であって、低い損失と高いアイソレーション特性とを両立可能なスイッチ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の一実施形態に係るスイッチ装置であって、第2状態であるスイッチ装置の斜視図である。
図2】本発明の一実施形態に係るスイッチ装置の分解斜視図である。
図3図1に示したスイッチ装置が含むフィルタを構成する5つの共振器の輪郭を模式的に示す平面図である。
図4】本発明の第1の変形例であるスイッチ装置の斜視図である。
図5】本発明の第2の変形例であるスイッチ装置の斜視図である。
図6】本発明の第3の変形例であるスイッチ装置の斜視図である。
図7】(a)は、図1に示したスイッチ装置の実施例の透過特性であって、第1状態及び第2状態における透過特性を示すグラフである。(b)は、(a)に示したグラフを拡大したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の一実施形態に係るスイッチ装置1について、図1図3を参照して説明する。図1は、第2状態であるスイッチ装置1の斜視図である。図2は、スイッチ装置1の分解斜視図である。図3は、スイッチ装置1が備えているフィルタ本体1Mを構成する5つの共振器10,20,30,40,50の輪郭を模式的に示す平面図である。なお、図3においては、導体ポスト群からなるポスト壁13,23,33,43,53,63,64,73,74を、仮想的な連続した導体壁として図示している。
【0031】
図1及び図2に示すように、スイッチ装置1は、フィルタ本体1Mと、カバー5と、アクチュエーター6とを備えている。フィルタ本体1Mは、導体層2と、誘電体基板3と、導体層4と、ポスト壁13,23,33,43,53,63,64,73,74とを備えている。
【0032】
誘電体基板3は、本実施形態においては、石英ガラス製である。
【0033】
導体層2は、本実施形態においては、誘電体基板3のz軸正方向側の主面である第1主面3aに形成された、銅製の導体層である。導体層4は、本実施形態においては、誘電体基板3のz軸負方向側の主面である第2主面3bに形成された、銅製の導体層である。
【0034】
ポスト壁13,23,33,43,53,63,64,73,74の各々は、誘電体基板3を貫通し、且つ、導体層2と導体層4とを導通させる複数の導体ポストにより構成された導体ポスト群からなる。図1及び図2に示すように、ポスト壁13は、複数の導体ポスト13i(iは、正の整数)により構成されている。
【0035】
導体ポスト13iは、誘電体基板3の第1主面3aから第2主面3bまで貫通する貫通孔を形成したうえで、その貫通孔の内壁に導体層を形成することによって形成されている。なお、導体ポスト13iは、上記貫通孔に導体を充填することによって形成されていてもよい。
【0036】
ポスト壁13と同様に、ポスト壁23,33,43,53,63,64,73,74の各々は、それぞれ、柵状に配置された複数の導体ポスト23i,33i,43i,53i,63i,64i,73i,74iにより構成されている。
【0037】
複数の導体ポストを所定の間隔で柵状に配列することによって得られるポスト壁13,23,33,43,53,63,64,73,74の各々は、上記所定の間隔に応じた帯域の電磁波を反射する、一種の導体壁として機能する。
【0038】
〔フィルタ本体1M〕
図1図3に示すように、フィルタ本体1Mは、共振器10,20,30,40,50と、導波路60,70とを含んでいる。共振器10,20,30,40,50及び導波路60,70は、導体層2,4を一対の広壁とし、ポスト壁13,23,33,43,53,63,64,73,74を狭壁として、該一対の広壁と該狭壁とにより囲まれた領域が導波領域として機能するポスト壁導波路である。
【0039】
例えば、共振器10のポスト壁13は、複数の導体ポスト13iを柵状に、且つ、円形状に配列することにより構成されている。同様に、共振器20,30,40,50のポスト壁23、33,43,53の各々は、それぞれ、複数の導体ポスト23i,33i,43i,53iを柵状に、且つ、円形状に配列することにより構成されており、導波路60,70のポスト壁63,64,73,74の各々は、それぞれ複数の導体ポスト63i,64i,73i,74iを柵状に、且つ、直線状に配列することにより構成されている。
【0040】
その結果、例えば、共振器30の主たる共振領域は、導体層2の一部、導体層4の一部、及びポスト壁33により囲まれた誘電体基板3の一部により構成されている。同様に、共振器10,20,40,50の各々の主たる共振領域は、それぞれ、導体層2の一部、導体層4の一部、及びポスト壁13,23,43,53により囲まれた誘電体基板3の一部により構成されている。
【0041】
なお、導体層2のうち、共振器10の広壁として機能する領域の中心Cを含む領域には、円形の開口AP1が形成されている(図3参照)。同様に、導体層2のうち、共振器20の広壁として機能する領域の中心Cを含む領域には、円形の開口AP2が形成されており、共振器30の広壁として機能する領域の中心Cを含む領域には、円形の開口AP3が形成されており、共振器40の広壁として機能する領域の中心Cを含む領域には、円形の開口AP4が形成されており、共振器50の広壁として機能する領域の中心Cを含む領域には、円形の開口AP5が形成されている。したがって、導体層2は、特許請求の範囲に記載の一方の広壁の一例であり、第1導体層の一例でもある。
【0042】
導波路60と共振器10とは、結合窓APを介して電磁気的に結合されている。共振器10と共振器20とは、結合窓AP12を介して電磁気的に結合されている。共振器20と共振器30とは、結合窓AP23を介して電磁気的に結合されている。共振器30と共振器40とは、結合窓AP34を介して電磁気的に結合されている。共振器40と共振器50とは、結合窓AP45を介して電磁気的に結合されている。共振器50と導波路70とは、結合窓APを介して電磁気的に結合されている。
【0043】
結合窓AP12は、導体ポスト13iの一部及び導体ポスト23iの一部を省略することによって得られる。結合窓AP23,AP34,AP45,AP,APについても同様である。
【0044】
フィルタ本体1Mにおいて、結合窓AP,APは、何れも入出力ポートとして機能する。結合窓APを入力ポートとすれば、結合窓APが出力ポートとなり、結合窓APを入力ポートとすれば、結合窓APが出力ポートとなる。いずれの入出力ポートを入力ポートにするかは任意である。
【0045】
以上のように、フィルタ本体1Mは、ポスト壁導波路を利用したフィルタである。また、フィルタ本体1Mは、5個の共振器10,20,30,40,50が電磁気的に結合された、5段の共振器結合型のフィルタである。このように構成されたフィルタ本体1Mを含むスイッチ装置1は、バンドパスフィルタとして機能する。
【0046】
なお、本実施形態では、フィルタ本体1Mとして5段の共振器結合型のフィルタを採用しているが、フィルタ本体1Mの段数は5段に限定されるものではなく、所望のフィルタ特性に応じて適宜選択することができる。
【0047】
(各共振器の中心間距離)
図3に示すように、共振器10を構成する広壁の半径をR、共振器20を構成する広壁の半径をR、共振器30を構成する広壁の半径をR、共振器40を構成する広壁の半径をR、共振器50を構成する広壁の半径をRとする。また、中心Cと中心Cとの距離をD12とし、中心Cと中心Cとの距離をD23とし、中心Cと中心Cとの距離をD34とし、中心Cと中心Cとの距離をD45とする。
【0048】
このとき、R,RとD12とは、D12<R+Rの条件を満たし、R,RとD23とは、D23<R+Rの条件を満たし、R,RとD34とは、D34<R+Rの条件を満たし、R,RとD45とは、D45<R+Rの条件を満たす。これらの条件を満たすことによって、隣接する2つの共振器(例えば共振器10と共振器20と)を、各共振器の狭壁に設けた結合窓(例えば結合窓AP12)を介して電磁気的に結合させることができる。
【0049】
(隣接する2つの共振器の対称性)
フィルタ本体1Mにおいて、複数の共振器10,20,30,40,50のうち互いに結合されている2つの共振器に着目する。ここでは、共振器20と共振器30とを用いて説明する。2つの共振器20,30の各々の広壁の形状は、中心C,C同士をつなぐ直線BB’を対称軸として線対称である(図3参照)。したがって、フィルタ本体1Mは、互いに結合されている2つの共振器における対称性が高いため、設計パラメータの数を少なくすることができる。したがって、フィルタ本体1Mは、所望の特性を有するフィルタを容易に設計することができる。
【0050】
なお、フィルタ本体1Mにおいては、互いに結合されている2つの共振器が線対称となるように構成されていることに加えて、スイッチ装置1全体も線対称となるように構成されている。具体的には、共振器10〜50は、x軸に沿い且つ共振器30の広壁として機能する領域の中心Cを通る直線を対称軸として線対称となるように配置されており、且つ、導波路60と導波路70とは、上記直線を対称軸として線対称となるように配置されている。したがって、フィルタ本体1Mは、全体の形状に関する対称性も高いため、設計パラメータの数を更に少なくすることができる。したがって、フィルタ本体1Mは、所望の特性を有するバンドパスフィルタを更に容易に設計することができる。
【0051】
(共振器10,50の配置)
フィルタ本体1Mにおいて、共振器10と共振器50とは、互いに隣接するように配置されている(図3参照)。したがって、複数の共振器が直線状に配置されている場合と比較して、フィルタ本体の全長を短くすることができる。フィルタ本体の全長を短くすることによって、フィルタ本体1Mを取り巻く環境温度が変化した場合に生じる熱膨張又は熱収縮の絶対値を抑制することができる。したがって、全長が従来のフィルタ本体より短いフィルタ本体1Mは、環境温度の変化に起因する、通過帯域の中心周波数や帯域幅などの変化を抑制することができる。言い換えれば、フィルタ本体1Mは、環境温度に対する特性の安定性が高い。
【0052】
(共振器の形状)
図1図3に示すように、フィルタ本体1Mを構成する共振器10,20,30,40,50の各々において、狭壁として機能するポスト壁13,23,33,43,53の導体ポスト13i,23i,33i,43i,53iの各々は、第1主面3aを平面視した場合に、円形状に沿うように柵状に配置されている。しかし、導体ポスト13i,23i,33i,43i,53iの各々は、円形状ではなく6角形以上の正多角形状に沿うように柵状に配置されていてもよい。
【0053】
〔カバー5及びアクチュエーター6〕
カバー5は、その表面の一部が導体層2の表面2aに接する場合に、開口AP1〜AP5を塞ぐように構成されており、且つ、少なくとも開口AP1〜AP5を塞ぐ部分が導電性を有する材料により構成されている。カバー5の表面のうち、フィルタ本体1Mと反対側の表面5bには、後述するアクチュエーター6の一方の端部が接合されている。
【0054】
アクチュエーター6は、開口AP1〜AP5がカバー5により塞がれている第1状態と、開口AP1〜AP5が開放されている第2状態とを切り替えるように、カバー5の位置を制御する特許請求の範囲に記載のカバー制御機構の一例である。
【0055】
以下において、カバー5の表面を構成する平面のうち、第1状態において導体層2と接することによって開口AP1〜AP5を塞ぐ平面を特定平面5aと呼ぶ。特定平面5aは、特許請求の範囲に記載の開口を塞ぐ部分の一例である。図1に二点鎖線で示した領域R1は、導体層2の表面2aのうち、第1状態において特定平面5aが接する領域である。
【0056】
本実施形態において、カバー5は、特定平面5aを含む少なくとも一部が導体製のブロック状部材である。カバー5は、全体が導体製のブロック状部材により構成されていてもよい。
【0057】
ただし、カバー5は、本実施形態に限定されるものではない。例えば、カバー5は、導電性を有さない樹脂製又はセラミックス製のブロック状部材であって、特定平面5aとなる部分に導電性を有する板状部材又は層状部材が接合されたものであってもよい。
【0058】
なお、本実施形態においては、カバー5を構成する導体製ブロック状部材の導電性を有する材料としては、アルミニウム合金や銅などの金属が挙げられる。
【0059】
本実施形態において、カバー5は、特定平面5aを含む少なくとも一部が導体製のブロック状部材であるが、本発明の一態様において、カバー5は、特定平面5aを含む少なくとも一部が導体製の板状部材であってもよい。
【0060】
また、本実施形態において、アクチュエーター6は、図1に示したz軸方向に沿って測った場合の全長を一軸方向(本実施形態ではz軸方向)に沿って伸縮させることができるように構成されている。
【0061】
図1に示すように、アクチュエーター6は、その全長を縮めることによって特定平面5aと表面2aとを離間させる。この場合、スイッチ装置1は、開口AP1〜開口AP5が開放されている第2状態となる。第2状態における特定平面5aと表面2aとの間隔は、特に限定されるものではなく、入力ポートと出力ポートとの間におけるアイソレーション特性が所望のアイソレーション特性を満たす範囲内において適宜設定することができる。例えば、図7に示すように、実施例のスイッチ装置1においては、特定平面5aと表面2aとの間隔を1mmとすることによって、入力ポートと出力ポートとの間におけるSパラメータS(2,1)は、動作帯域において−35dBを下回る。したがって、実施例のスイッチ装置1においては、第2状態における特定平面5aと表面2aとの間隔を1mmとすることによって、良好なアイソレーション特性を得ることができる。
【0062】
一方、図示は省略するが、アクチュエーター6は、その全長を延ばすことによって特定平面5aと表面2aとを接触させる。この場合、スイッチ装置1は、開口AP1〜開口AP5が特定平面5aにより塞がれている第1状態となる。
【0063】
なお、本実施形態において、アクチュエーター6は、その全長をz軸方向に沿って伸縮させることによって、カバー5の位置をz軸方向に沿って移動させるように構成されている。しかし、アクチュエーター6がその全長を伸縮させる方向は、z軸方向に沿った方向に限定されるものではなく、x軸方向に沿った方向であってもよいし、y軸方向に沿った方向であってもよいし、xy平面内における任意の一軸に沿った方向であってもよい。これらの場合、アクチュエーター6は、(1)第1状態において、特定平面5aが開口AP1〜AP5の全てを塞ぐ位置にカバー5を移動させ、(2)第2状態において、特定平面5aが開口AP1〜AP5の何れとも重ならない位置にカバー5を移動させる(退避させる)ように、構成されていればよい。
【0064】
(開口が形成されている共振器の数)
本実施形態においては、フィルタ本体1Mを構成する共振器10,20,30,40,50の各々の導体層2に、それぞれ、開口AP1,AP2,AP3,AP4,AP5が形成されているものとして説明した。しかし、本発明の一態様において、フィルタ本体1Mを構成する共振器10,20,30,40,50のうち何れの共振器の導体層2に開口を形成するかは、適宜設計することができる。本発明の一態様において、開口を有する共振器の数は、1つであってもよいし、複数であってもよい。
【0065】
例えば、フィルタ本体1Mを構成する共振器10,20,30,40,50のうち共振器20,30,40を開口を有する共振器とする場合、導体層2には開口AP2,AP3,AP4が形成されていればよく、且つ、カバー5は、導体層2を平面視した場合に、特定平面5aが少なくとも開口AP2,AP3,AP4を包含するように構成されていればよい。
【0066】
(開口を形成する導体層)
本実施形態においては、各共振器10,20,30,40,50の一方の広壁を構成する導体層2(第1導体層)に、それぞれ、開口AP1,AP2,AP3,AP4,AP5が形成されているものとしてフィルタ本体1Mを説明した。
【0067】
しかし、本発明の一態様において、開口AP1,AP2,AP3,AP4,AP5は、それぞれ、各共振器10,20,30,40,50の一対の広壁を構成する導体層2(第1導体層)又は導体層4(第2導体層)の何れかに形成されていればよい。例えば、開口AP1,AP2,AP3,AP4,AP5全てが導体層4(第2導体層)に形成されていてもよいし、開口の一部(例えば、開口AP1,AP2,AP3)が導体層2に形成され、残りの開口(例えば、AP4,AP5)が導体層4に形成されていてもよい。開口AP1,AP2,AP3,AP4,AP5の何れかを導体層4に形成する場合、その導体層4に形成した開口に対応して、図1及び図2に示したカバー5及びアクチュエーター6と同じ構成を、誘電体基板3の導体層4の側(z軸負方向側)に設ければよい。
【0068】
本実施形態において、開口AP1,AP2,AP3,AP4,AP5は、それぞれ、各共振器10,20,30,40,50の広壁を構成する導体層にそれぞれ開口AP1,AP2,AP3,AP4,AP5を形成したが、各共振器の広壁を構成する導体層に形成される開口は1つとは限らず複数であってもよい。また各共振器の広壁を構成する導体層に形成される開口の数は異なっていてもよい。
【0069】
〔第1の変形例〕
本発明の第1の変形例であるスイッチ装置1Aであって、図1図3に示したスイッチ装置1の変形例であるスイッチ装置1Aについて、図4を参照して説明する。図4は、スイッチ装置1Aの斜視図である。
【0070】
図4に示すように、スイッチ装置1Aは、スイッチ装置1に対してシールド7Aを追加することによって得られる。そこで、スイッチ装置1Aを構成する部材のうちスイッチ装置1と同じ部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。すなわち、本変形例では、フィルタ本体1M、カバー5、及びアクチュエーター6については、その説明を繰り返さず、シールド7Aについてのみ説明する。
【0071】
シールド7Aは、開口AP1〜AP5及びカバー5を含む空間を覆う導体製の筐体である。本実施形態において、シールド7Aは、直方体の外形を有し、図4に示したz軸負方向側の端面が開放された筐体である。
【0072】
図4に示すように、シールド7Aは、開放された端面が導体層2の表面2aに接するように配置されることによって、開口AP1〜AP5及びカバー5を含む空間を覆っている。
【0073】
また、シールド7Aは、少なくとも開口AP1〜AP5及びカバー5を含む空間を覆っていればよいが、図4に示すように開口AP1〜AP5及びカバー5と共にアクチュエーター6を含む空間を覆っていてもよい。
【0074】
また、開口AP1〜AP5及びカバー5を含む空間は、シールド7Aにより密閉されていることが好ましい。しかし、例えば、シールド7Aに形成された隙間や、シールド7Aと表面2aとの間に形成された隙間などにより、開口AP1〜AP5及びカバー5を含む空間と、シールド7Aの外部とは、繋がっていてもよい。
【0075】
〔第2の変形例〕
本発明の第2の変形例であるスイッチ装置1Bであって、図1図3に示したスイッチ装置1の変形例であるスイッチ装置1Bについて、図5を参照して説明する。図5は、スイッチ装置1Bの斜視図である。図5においては、スイッチ装置1Bが第1状態になる位置に配置されたカバー5Bを実線で示し、スイッチ装置1Bが第2状態になる位置に配置されたカバー5Bを二点鎖線で示している。
【0076】
図5に示すように、スイッチ装置1Bは、フィルタ本体1Mと、カバー5Bと、ヒンジ8Bと、図5に図示しないアクチュエーターとを備えている。スイッチ装置1Bが備えているフィルタ本体1Mは、スイッチ装置1が備えているフィルタ本体1Mと同一である。そこで、スイッチ装置1Aを構成する部材のうちフィルタ本体1Mについては、同じ符号を付し、その説明を繰り返さない。すなわち、本変形例では、カバー5B、ヒンジ8B、及びアクチュエーターについてのみ説明する。
【0077】
本変形例において、カバー5Bは、その表面の一部が導体層2の表面2aに接する場合に、開口AP1〜AP5を塞ぐように構成されており、且つ、少なくとも開口AP1〜AP5を塞ぐ部分が導電性を有する材料により構成されている。第1状態におけるカバー5Bの一端部(本変形例においては図4に示すx軸正方向側の一端辺)は、ヒンジ8Bを介してスイッチ装置1Bの一部である導体層2の表面2aに直接固定されている。
【0078】
以下において、カバー5Bの上記表面を構成する平面のうち、第1状態において導体層2と接することによって開口AP1〜AP5を塞ぐ平面を特定平面5Baと呼ぶ。
【0079】
ヒンジ8Bは、図4に示したy軸方向に沿った軸を回転軸として、特定平面5Baと、第1導体層(導体層2)の表面2aとのなす角を変化させることができるように構成されている。
【0080】
アクチュエーターは、開口AP1〜AP5がカバー5Bにより塞がれている第1状態と、開口AP1〜AP5が開放されている第2状態とを切り替えるように、カバー5Bの位置を制御する特許請求の範囲に記載のカバー制御機構の一例である。該アクチュエーターは、カバー5Bの位置(傾きを含む)を制御することによって、特定平面5Baと、導体層2の表面2aとのなす角を変化させる。アクチュエーターは、特定平面5Baと、導体層2の表面2aとのなす角が0°となるようにカバー5Bを移動させることによって、スイッチ装置1Bを第1状態にし、特定平面5Baと、導体層2の表面2aとのなす角が所定の角度以上になるようにカバー5Bを移動させることによって、スイッチ装置1Bを第2状態にする。図5に示した第2状態のスイッチ装置1Bにおいて、特定平面5Baと、導体層2の表面2aとのなす角は、90°である。
【0081】
本変形例において、カバー5Bは、特定平面5Baを含む少なくとも一部が導体製の板状部材である。カバー5Bは、全体が導体製の板状部材により構成されていてもよい。
【0082】
ただし、カバー5Bは、本変形例に限定されるものではなく、図1に示したカバー5のようにブロック状部材であってもよい。また、カバー5Bは、少なくとも特定平面5aとなる部分が導電性を有する材料製であればよく、それ以外の部分は、導電性を有さない樹脂製又はセラミックス製であってもよい。
【0083】
なお、本変形例において、カバー5Bを構成する導体製ブロック状部材の導電性を有する材料としては、アルミニウム合金や銅などの金属が挙げられる。
【0084】
なお、本変形例において、カバー5Bの一端部は、ヒンジ8Bを介して、スイッチ装置1Bの一部である表面2aに直接固定されている。しかし、カバー5Bの一端部は、ヒンジ8B及び他の部材を介して、スイッチ装置1Bの一部に間接に固定されていてもよい。
【0085】
〔第3の変形例〕
本発明の第3の変形例であるスイッチ装置1Cであって、図1図3に示したスイッチ装置1の変形例であるスイッチ装置1Cについて、図6を参照して説明する。図6は、第2状態であるスイッチ装置1Cの斜視図である。
【0086】
図6に示すように、スイッチ装置1Cは、フィルタ本体1Mと、液体金属5Cと、スポイト6Cと、枠体9Cとを備えている。スイッチ装置1Cが備えているフィルタ本体1Mは、スイッチ装置1が備えているフィルタ本体1Mと同一である。そこで、スイッチ装置1Cを構成する部材のうちフィルタ本体1Mについては、同じ符号を付し、その説明を繰り返さない。すなわち、本変形例では、液体金属5C、スポイト6C、及び枠体9Cについてのみ説明する。
【0087】
液体金属5Cは、特許請求の範囲に記載のカバーの一例であり、導電性に加えて流動性を有する材料により構成されている。本変形例において、液体金属5Cは、水銀製である。また、液体金属5Cを構成する材料としては、水銀に代えてGalinstan(登録商標)、ガリウム、フランシウム、及びMetalliumのうち何れかを採用してもよい。Galinstan(登録商標)は、ガリウム、インジウム、及びスズの共晶合金である。また、導電性に加えて流動性を有する材料の別の例としては、導電性フィラーを分散させた溶媒が挙げられる。
【0088】
枠体9Cは、導体層2の表面2aの上に形成された閉じた環状の枠体であって、開口AP1〜AP5の全てを取り囲む枠体である。枠体9Cを構成する材料は、限定されるものではない。枠体9Cは、後述するように、その内部にスポイト6Cから液体金属5Cが吐出された場合に、液体金属5Cがスイッチ装置1Cの外部へ流出しないように液体金属5Cをせき止める。本変形例では開口AP1〜AP5の全てを一括して取り囲む枠体9Cを用いて説明したが、枠体の態様は、それに限らない。例えば、枠体の一態様は、開口AP1〜AP5を個別に分割して取り囲む5つの枠体の集合により構成されていてもよいし、開口の一部(例えば、AP1〜AP3)を取り囲む枠体と、残りの開口(例えばAP4〜AP5)とを分割して取り囲む2つの枠体の集合により構成されていてもよい。
【0089】
スポイト6Cは、特許請求の範囲に記載の流体ポンプの一例であり、特許請求の範囲に記載のカバー制御機構の一例でもある。スポイト6Cは、液体金属5Cを吐出したり吸引したりする。
【0090】
例えば、図6に示したスイッチ装置1Cは、開口AP1〜AP5が開放された第2状態である。この第2状態において、スポイト6Cが所定の量の液体金属5Cを枠体9C内に吐出し、開口AP1〜AP5が液体金属5Cで塞がれることによって、スイッチ装置1Cは、第1状態に遷移する。
【0091】
また、第1状態にあるスイッチ装置1Cにおいて、開口AP1〜AP5が露出するように、スポイト6Cが枠体9C内から液体金属5Cを吸引し、開口AP1〜AP5が開放されることによって、スイッチ装置1Cは、第2状態に遷移する。スポイト6Cが枠体9C内から液体金属5Cを吸引する場合、枠体9C内に吸引されずに取り残される液体金属5Cをできるだけ減らすために、スポイト6Cは、枠体9C内を任意に移動可能なように構成されていることが好ましい。
【0092】
以上のように、スポイト6Cは、液体金属5Cを移動させることによって、スイッチ装置1Cを、第1状態から第2状態へ、又は、第2状態から第1状態へ遷移させる。
【0093】
なお、第2状態から第1状態へスイッチ装置1Cを遷移させるためにスポイト6Cが吐出する液体金属5Cの量は、限定されるものではなく、少なくとも開口AP1〜AP5の全てが塞がれる量であればよい。
【0094】
〔実施例〕
図1図3に示すように構成されたスイッチ装置1の実施例として、各共振器10,20,30,40,50に対応する各開口の直径(例えば共振器30の場合であれば、開口AP3の直径)として1000μmを採用した。
【0095】
そのうえで、第1状態であるスイッチ装置1の実施例のSパラメータS(2,1)の周波数依存性、及び、第2状態であるスイッチ装置1の実施例のSパラメータS(2,1)の周波数依存性をシミュレーションした。以下において、SパラメータS(2,1)の周波数依存性のことを透過特性とも呼ぶ。なお、本実施例において、第1状態におけるカバー5の特定平面5aと導体層2の表面2aとの間隔を0mmとし、第2状態における特定平面5aと表面2aとの間隔を1mmとした。
【0096】
図7の(a)は、第1状態及び第2状態におけるスイッチ装置1の実施例の透過特性を示すグラフである。図7の(b)は、図7の(a)に示したグラフを拡大したグラフである。
【0097】
図7の(b)を参照すれば、第1状態におけるスイッチ装置1の実施例のSパラメータS(2,1)は、73.4GHz以上76.5GHz以下の帯域で−1dB以上となることが分かった。換言すれば、第1状態におけるスイッチ装置1の実施例は、ミリ波帯の一部である73.4GHz以上76.5GHz以下の帯域を動作帯域とした場合に、1dB以下の低い損失を実現できることが分かった。
【0098】
また、図7の(a)を参照すれば、第2状態におけるスイッチ装置1の実施例のSパラメータS(2,1)は、79.3GHz以下の帯域において−32.5dBを下回ることが分かった。換言すれば、第2状態におけるスイッチ装置1の実施例は、ミリ波帯の一部である上記動作帯域において、高いアイソレーション特性を実現できることが分かった。
【0099】
以上のように、スイッチ装置1の実施例は、ミリ波帯において利用可能なスイッチ装置であって、低い損失と高いアイソレーション特性とを両立可能なスイッチ装置であることが分かった。
【0100】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0101】
1,1A,1B,1C スイッチ装置
1M フィルタ本体(ポスト壁導波路)
2 導体層(第1導体層、一方の広壁)
AP1〜AP5 開口
3 誘電体基板
3a,3b 第1主面,第2主面
4 導体層(第2導体層)
5,5B カバー
5a,5Ba 特定平面
5C 液体金属(カバー)
6 アクチュエーター(カバー制御機構)
6C スポイト(流体ポンプ、カバー制御機構)
7A シールド
8B ヒンジ
9C 枠体
10、20,30,40,50 共振器
13,23,33,43,53 ポスト壁
AP12,AP23,AP34,AP45 結合窓
【要約】
【課題】ミリ波帯において利用可能なスイッチ装置であって、低い損失と高いアイソレーション特性とを両立可能なスイッチ装置を提供すること。
【解決手段】スイッチ装置(1)は、広壁(導体層2)に開口(AP1〜AP5)が形成されたポスト壁導波路(フィルタ本体1M)と、開口(AP1〜AP5)を塞ぐ部分が導電性を有する材料により構成されたカバー(5)と、カバー(5)により開口(AP1〜AP5)が塞がれている第1状態と、開口(AP1〜AP5)が開放されている第2状態とを切り替えるカバー制御機構(アクチュエーター6)と、を備えている。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7