特許第6652754号(P6652754)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社高速道路総合技術研究所の特許一覧 ▶ 東日本高速道路株式会社の特許一覧 ▶ 中日本高速道路株式会社の特許一覧 ▶ 西日本高速道路株式会社の特許一覧 ▶ 株式会社デイ・シイの特許一覧

特許6652754急速施工用プレキャストコンクリート床版の接合構造およびその施工方法
<>
  • 特許6652754-急速施工用プレキャストコンクリート床版の接合構造およびその施工方法 図000002
  • 特許6652754-急速施工用プレキャストコンクリート床版の接合構造およびその施工方法 図000003
  • 特許6652754-急速施工用プレキャストコンクリート床版の接合構造およびその施工方法 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6652754
(24)【登録日】2020年1月28日
(45)【発行日】2020年2月26日
(54)【発明の名称】急速施工用プレキャストコンクリート床版の接合構造およびその施工方法
(51)【国際特許分類】
   E01D 1/00 20060101AFI20200217BHJP
   E01D 19/12 20060101ALI20200217BHJP
【FI】
   E01D1/00 D
   E01D19/12
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-57017(P2016-57017)
(22)【出願日】2016年3月22日
(65)【公開番号】特開2017-172143(P2017-172143A)
(43)【公開日】2017年9月28日
【審査請求日】2018年10月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】507194017
【氏名又は名称】株式会社高速道路総合技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】505398941
【氏名又は名称】東日本高速道路株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】505398952
【氏名又は名称】中日本高速道路株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】505398963
【氏名又は名称】西日本高速道路株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592037907
【氏名又は名称】株式会社デイ・シイ
(74)【代理人】
【識別番号】100087491
【弁理士】
【氏名又は名称】久門 享
(74)【代理人】
【識別番号】100104271
【弁理士】
【氏名又は名称】久門 保子
(72)【発明者】
【氏名】広瀬 剛
(72)【発明者】
【氏名】上平 謙二
【審査官】 荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−209600(JP,A)
【文献】 特開2009−264040(JP,A)
【文献】 特開2005−226246(JP,A)
【文献】 特開2004−308121(JP,A)
【文献】 特開2000−303606(JP,A)
【文献】 特開2012−117328(JP,A)
【文献】 特開2003−213623(JP,A)
【文献】 特開2011−196098(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0139719(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 1/00−24/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
床版の取り替えを目的として短期間で供用される急速施工用プレキャストコンクリート床版の接合構造であって、前記プレキャストコンクリート床版どうしが目地部で所定間隔をおいて架設されており、前記プレキャストコンクリート床版どうしの目地部に面する端面には、それぞれ目地長手方向に所定間隔をおいて複数の孔明き鋼板が突出し、かつ対向するプレキャストコンクリート床版の孔明き鋼板どうしが互いに平行で近接するように重ね合わせられた状態で、該目地部に高強度鋼繊維補強モルタルが充填され接合されており、前記目地部の間隔Cが130〜150mm、目地部を挟む一方のプレキャストコンクリート床版の目地部に面する端面から突出する孔明き鋼板どうしの板厚中心間の目地長手方向の間隔aが100〜300mm、対向するプレキャストコンクリート床版の孔明き鋼板どうしの板厚中心間の間隔bが孔明き鋼板の板厚tより大きくかつ10〜65mmであり、目地部における孔明き鋼板の上下の被り厚rが30〜70mm、孔径dが30〜40mmであることを特徴とする急速施工用プレキャストコンクリート床版の接合構造。
【請求項2】
請求項1記載の急速施工用プレキャストコンクリート床版の接合構造において、前記高強度鋼繊維補強モルタルは設計基準強度が100N/mm2以上の高強度鋼繊維補強モルタルであることを特徴とする急速施工用プレキャストコンクリート床版の接合構造。
【請求項3】
請求項1または2記載の急速施工用プレキャストコンクリート床版の接合構造において、前記プレキャストコンクリート床版は道路橋用のプレキャストコンクリート床版またはプレキャストプレストレストコンクリート床版であることを特徴とする急速施工用プレキャストコンクリート床版の接合構造。
【請求項4】
請求項記載の急速施工用プレキャストコンクリート床版の接合構造の施工方法であって、既存のコンクリート床版を撤去する工程と、前記既存のコンクリート床版を撤去した位置に、前記プレキャストコンクリート床版を、橋軸方向に隣接するプレキャスト床版との間に目地幅に応じた所定間隔をおいて、かつ隣接して対向するプレキャストコンクリート床版の孔明き鋼板どうしが互いに平行に近接するように架設する工程と、前記目地部に高強度鋼繊維補強モルタルを充填する工程と、該高強度鋼繊維補強モルタルの養生および硬化により、隣接するプレキャストコンクリート床版どうしを一体化する工程とを有することを特徴とする急速施工用プレキャストコンクリート床版の接合構造の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路橋などにおける床版の取り替えを目的として短期間で供用される急速施工用プレキャストコンクリート床版(PCa床版)の接合構造およびその施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
道路橋などにおける既存の床版は、施工後、輪荷重疲労等により経年劣化したRC床版が多い。劣化したRC床版の取り替えには、急速施工の観点や耐久性向上の観点から、プレキャストコンクリート床版、特にプレキャストプレストレストコンクリート床版が採用される場合が多い。しかしながら、一般的に、工場で製作されるプレキャストコンクリート床版は、架設後、床版どうしを接合する必要がある。
【0003】
従来、プレキャストコンクリート床版の急速施工に伴う床版どうしの接合構造として、場所打ち目地の施工を簡略化するため、図3に示すようなループ鉄筋31を用いた方法が用いられるのが一般的である。このようなループ鉄筋31を用いた工法としては、例えば特許文献1記載の発明がある。
【0004】
この他、特許文献2にはプレキャストコンクリート床版等に繊維補強セメント系混合材料からなるコンクリート部材を用い、コンクリート部材どうしの目地部には目地長手方向に所定間隔をおいて、上下方向には交互に千鳥配置となるように孔明き鋼板を突設させ、その孔明き鋼板の孔に目地長手方向に伸びる鋼棒を貫通させ、目地部にコンクリート部材と同じ繊維補強セメント系混合材料からなるコンクリートあるいは同程度の充填材を充填して接合することが記載されている。
【0005】
また、特許文献3にも目地部を挟んで配置されるプレキャスト部材どうしの接合側端部から孔明き鋼板を突設させ、目地部において双方のプレキャスト部材から突出された孔明き鋼板の孔が面直角方向で見て略一致するようにし、目地部に充填材を充填するとともにそれらの孔に挿通させたPC鋼材によって充填材の充填部にプレストレスを導入すること、さらに目地部の充填材として繊維補強セメント系混合材料あるいは無収縮モルタルを用いることができる旨の記載がある。
【0006】
非特許文献1には、ジベルとしての孔明き鋼板(PBL)の荷重伝達メカニズムを実験的に検証したことが記載されており、その中で、コンクリート中に埋設した孔明き鋼板の押し抜きせん断試験において、最終的に2面せん断破壊の形態となることが示されている。
【0007】
非特許文献2は、設計基準強度が120N/mm2以上の高強度鋼繊維補強モルタルのPC構造物への適用に関する記載があり、高強度鋼繊維補強モルタルの具体的な配合例や高強度鋼繊維補強モルタルを用いたPCはりのせん断力に対する特性等が述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−303538号公報
【特許文献2】特開2005−226246号公報
【特許文献3】特開2009−209600号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】道菅裕一,藤井堅,民家洋輔,藤井大成、孔あき鋼板ジベルの荷重伝達メカニズムに関する一考察、土木学会、構造工学論文集Vol.60A、2014年3月
【非特許文献2】桜田道博,森拓也,大山博明,関博、高強度繊維補強モルタルのPC構造物への適用に関する実験的研究、土木学会論文集E2(材料・コンクリート構造)Vol.67(2011)No.3、P411-429
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述した図3に示すループ鉄筋継手には、以下の課題がある。
【0011】
(1) 耐荷性に関する規定などにより、ループ鉄筋31の重ね長wの制限があるため、打継幅を小さくできない。そのため、直接輪荷重を受ける範囲が広くなり、疲労耐久性の観点で有利とは言えない。
【0012】
(2) ループ鉄筋31の曲げ半径の規定があるため、鉄筋径によって床版厚を小さくできない。
【0013】
(3) プレキャストコンクリート床版の施工は、先行する床版を施工後、次の床版を設置した後、ループ鉄筋31を交差させる位置まで水平移動する必要があるため、施工手間が生じる。
【0014】
(4) プレキャストコンクリート床版を架設した後、ループ鉄筋31の内側に拘束鉄筋32を挿入する必要があるため、施工手間が生じる。
【0015】
(5) 後打ち部は、収縮を制限したコンクリート33を打設するが、収縮に伴う界面の口開きに懸念が残る。
【0016】
(6) 後埋め部には、早強コンクリートが施工されるが、舗装を施工するまでの養生時間が必要である。
【0017】
また、特許文献2記載の発明の場合、床版等に繊維補強セメント系混合材料からなるコンクリート部材を用いることで、断面の縮小化、部材の軽量化を図り、目地部に孔明き鋼板とその孔を貫通する鋼棒を用いることで、目地幅の縮小を図っており、孔明き鋼板の孔を貫通硬化したコンクリートのせん断抵抗および孔における支圧抵抗によって引張外力に抗させ、鋼棒で有孔プレートどうしを連結して構成することにより、コンクリート部材からの引張力を鋼棒に作用するせん断力を介して他方のコンクリート部材へ伝達するとしている。
【0018】
しかしながら、上述した非特許文献1にもあるように、孔明き鋼板の荷重伝達メカニズムにおいては、孔明き鋼板に大きな押し抜きせん断力が作用した場合、2面せん断破壊の形態での破壊が生じる恐れがある。また、孔明き鋼板が上下方向に千鳥配置となるため、床版の設置作業が困難であり、孔明き鋼板の孔に通す鋼棒についても施工性やコストの問題がある。
【0019】
特許文献3記載の発明も同様であり、また現場で孔明き鋼板の孔に通したPC鋼材にプレストレスを導入する作業には手間がかかる他、プレストレスを導入するためにはそれなりの目地幅を確保しなければならないという問題もある。
【0020】
本発明は、上述のような従来技術の課題の解決を図ったものであり、劣化したRC床版の取り替え工事などにおいて急速施工が可能で、かつ目地幅を縮小させつつ耐久性にも優れたプレキャストコンクリート床版の接合構造およびその施工方法を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、床版の取り替えを目的として短期間で供用される急速施工用プレキャストコンクリート床版の接合構造であって、前記プレキャストコンクリート床版どうしを目地部で所定間隔をおいて架設し、前記プレキャストコンクリート床版どうしの目地部に面する端面には、それぞれ目地長手方向に所定間隔をおいて複数の孔明き鋼板が突出し、かつ対向するプレキャストコンクリート床版の孔明き鋼板どうしが互いに平行で近接するように重ね合わせた状態で、該目地部に高強度鋼繊維補強モルタルを充填して接合していることを特徴とするものである。
【0022】
なお、本発明で言うプレキャストコンクリート床版には、プレストレスを導入したプレキャストプレストレストコンクリート床版(プレキャストPC床版)が含まれる。
【0023】
目地部においては、充填された高強度鋼繊維補強モルタル内に、双方のプレキャストコンクリート床版の端面から突出した縦向きの板状の孔明き鋼板が単に埋設された状態であり、従来のループ鉄筋を用いた接合部に比べ、施工が大幅に簡略化されるとともに、目地幅も大幅に縮小させることができる。
【0024】
また、上述した特許文献2、特許文献3記載の発明と比べても鋼棒あるいはプレストレス導入のためのPC鋼材を必要としないので、現場施工における目地部の作業が大幅に削減され、施工も容易であるため目地幅をさらに縮小させることができる。
【0025】
一方、耐久性についても、対向するプレキャストコンクリート床版の孔明き鋼板どうしが互いに平行で近接するように重ね合わせるため、支圧力との関係で2面せん断破壊の形態とはならず、鋼棒やプレストレスの導入がなくても目地部の強度的安定性を確保することができる。また、目地幅を縮小させることができるため、目地部における輪荷重の影響も小さくなる。
【0026】
本発明を道路橋に適用する場合において、目地部幅、すなわち目地部の間隔は、上述の理由からできるだけ小さくすることが好ましいが、本発明によれば、従来は300mmくらい必要とされていた目地幅Cを100〜160mm程度とすることが可能であり、間詰め部の施工量が少ない、急速施工が可能、現場施工範囲を極力少なくすることができる、高耐久なプレキャスト部分が広くなるといった利点がある。
【0027】
孔明き鋼板の形状や配置に関しては、目地部を挟む一方のプレキャストコンクリート床版の目地部に面する端面から突出する孔明き鋼板どうしの板厚中心間の間隔が目地長手方向の間隔aが100〜300mm、より好ましくは150〜250mm程度、対向するプレキャストコンクリート床版の孔明き鋼板どうしの板厚中心間の間隔bが孔明き鋼板の板厚t(通常、8〜15mm程度)より大きくかつ10〜65mm程度とし、目地部における孔明き鋼板の上下の被り厚rが30mm〜70mm程度、孔径dは孔内に入り込む高強度鋼繊維補強モルタルや支圧抵抗との関係で30〜40mm程度が好ましい。
【0028】
高強度鋼繊維補強モルタルは、非特許文献2にも記載されているように、粗骨材を使用しないため、骨材をそれほど厳選することなく、優れた流動性、自己充填性および高い設計基準強度が得られ、また鋼繊維を混入していることから自己収縮等によるひび割れを防止することや高強度コンクリート特有の脆性的な破壊を抑制することが可能であるとされている。
【0029】
本発明においては設計基準強度が100N/mm2以上、1日の発現強度が30N/mm2以上の高強度鋼繊維補強モルタルを用いることが望ましい。配合に関しては、非特許文献2に記載されているものや、その他従来知られているものを基準として設計することができる。
【0030】
本発明の急速施工用プレキャストコンクリート床版の接合構造の施工方法は、上述の急速施工用プレキャストコンクリート床版の接合構造を道路橋における床版の取り替え工事に適用するものであり、既存のコンクリート床版を撤去する工程と、前記既存のコンクリート床版を撤去した位置に、プレキャストコンクリート床版を、橋軸方向に隣接するプレキャスト床版との間に目地幅に応じた所定間隔をおいて、かつ隣接して対向するプレキャストコンクリート床版の孔明き鋼板どうしが互いに平行に近接するように架設する工程と、前記目地部に高強度鋼繊維補強モルタルを充填する工程と、該高強度鋼繊維補強モルタルの養生および硬化により、隣接するプレキャストコンクリート床版どうしを一体化する工程とを有することを特徴とする。
【0031】
本発明においては、既存のコンクリート床版を撤去した後の、主要な現場作業はプレキャストコンクリート床版の架設と目地部への高強度鋼繊維補強モルタルの充填および養生のみであるため、背景技術の項で述べたいずれの従来技術と比較しても大幅な施工性の向上が図れ、交通を遮断する時間を大幅に短縮することができる。
【発明の効果】
【0032】
(1) 孔明き鋼板の孔に充填される高強度鋼繊維補強モルタルの水平せん断力が版の曲げに抵抗するため、場所打ち部の幅を極力小さくできる。また、高強度鋼繊維補強モルタルを打設するため、その鋼繊維によって孔のモルタルの拘束効果が期待でき、孔の中に鉄筋を通す必要がない。そのため、施工の効率化が図れる。
【0033】
(2) 目地幅が小さくなる分、高耐久なプレキャストコンクリート床版を大きくでき、更に場所打ち部を極力小さくできるため、輪荷重による疲労耐久性が向上する。
【0034】
(3) 対向するプレキャストコンクリート床版の孔明き鋼板どうしが互いに平行で近接するように重ね合わせるため、孔明き鋼板で問題となる2面せん断破壊の形態とはならず、床版の曲げ抵抗を、孔明き鋼板の孔で受けるので、床版厚を低減することができる。
【0035】
(4) ループ鉄筋に比べ、先行する床版を施工後、次の床版を直接落とし込め、また鋼棒やプレストレスの導入がなくても目地部の強度的安定性を確保することができ、目地幅を縮小させ施工手間が生じない。
【0036】
(5) ループ鉄筋を配置しないため、鉄筋の曲げ加工に伴う曲げ半径の制約がなく、床版厚を従来より小さくでき、軽量化が可能となる。
【0037】
(6) 後打ち部には、収縮性能の極めて小さい高強度鋼繊維補強モルタルを施工するため、収縮に伴う界面の口開きが無く、耐久性の向上に繋がる。
【0038】
(7) 後打ち部の間詰めモルタルには、高強度鋼繊維補強モルタルを施工するため、1日の発現強度30N/mm2以上が期待でき、翌日舗装の施工が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】本発明の急速施工用プレキャストコンクリート床版の接合構造の一実施形態を示したもので、(a)は接合部の縦断面図、(b)は水平断面図である。
図2】プレキャストコンクリート床版の架設状態を概略的に示した斜視図である。
図3】従来のループ鉄筋を用いた接合部を示したもので、(a)は接合部の縦断面図、(b)は水平断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
図1は、本発明の急速施工用プレキャストコンクリート床版の接合構造を道路橋の床版取り替え工事に利用する場合の一実施形態を示したもので、既存の床版を撤去した桁上にプレキャストコンクリート床版1どうしを目地部Sで所定間隔をおいて架設し、目地部Sに高強度鋼繊維補強モルタル9を充填して接合している。
【0041】
プレキャストコンクリート床版1の目地部Sに面する端面には、目地長手方向に所定間隔aをおいて複数の孔明き鋼板2を突出させてあり、高強度鋼繊維補強モルタル9を充填して接合した状態では、対向するプレキャストコンクリート床版1の孔明き鋼板2どうしが互いに平行に間隔bで近接するようにする。
【0042】
このように本発明では対向するプレキャストコンクリート床版1の孔明き鋼板2どうしを近接させて重ね合わせた状態とし、2面せん断破壊を回避しつつ、プレキャストコンクリート床版1の曲げを高強度鋼繊維補強モルタル9を充填した孔明き鋼板2の孔3と板面による支圧で受ける構造としている。
【0043】
この例では、孔明き鋼板2を延長した延長部分をプレキャストコンクリート床版1に埋め込み、この延長部分に形成した貫通孔4に鉄筋5を通して定着させているが、孔明き鋼板2の定着方法は特に限定されない。
なお、孔明き鋼板2の定着は、プレキャストコンクリート床版1の製作時に行われるため、現場施工を煩雑にすることはない。
【0044】
本実施例における寸法に関しては、プレキャストコンクリート床版1の厚さT=220mm、目地部Sの下端の目地幅C1=130mm、上端の目地幅C2=160mm、孔明き鋼板2の板厚t=12mm、高さh=140mm、孔径d=35mm、被り厚r=40mm、目地部Sを挟むそれぞれのプレキャストコンクリート床版1における孔明き鋼板2どうしの板厚中心間の間隔a=180mm、対向するプレキャストコンクリート床版1の孔明き鋼板2どうしの板厚中心間の間隔b=45mmを想定している。
【0045】
劣化したRC床版を取り替える場合、新たな床版として、一般的に、床板の耐久性、急速施工を考慮して、図2に示すように、橋軸直角方向には、交通荷重P等による床版の曲げ変形に抵抗するため、プレテンションあるいはポストテンション工法により、横締めPC鋼材7によるプレストレスが導入されたプレキャストPC床版が用いられ、図2の横目地S1には、通常、コンクリートが施工され一体化される。
【0046】
また、床板の部分取り換えの場合には、図2に示すような縦目地S2ができる場合もある。
本発明は、この目地部の構造に特徴があり、従来の目地構造を、構造面、施工面で優位にすることができる。
【0047】
例えば、図2の主桁21中央付近の横目地S1上に交通荷重Pが載荷された場合には、床板は2方向性曲げ挙動を受ける。つまり、橋軸直角方法曲げ(横方向曲げ)と橋軸方向曲げ(縦方向曲げ)が生じる。
【0048】
ここで、横方向曲げに対する接合目地の挙動を考える。
図2に示すように、プレキャストPC床版1については、導入されたプレストレスが横方向曲げに抵抗するが、接合目地部S1については、現場施工であるため、交通荷重の曲げ挙動を直接受ける。しかしながら、曲げ挙動に対する床版の設計は、単位幅当たりの鉄筋量で曲げ抵抗を計算する。
【0049】
本発明の場合、接合目地幅が100〜160mm程度になるため、プレキャストPC床版に配置される横方向曲げ鉄筋量で充分抵抗できるとともに、目地部Sに施工する高強度鋼繊維補強モルタル9の圧縮強度が100N/mm2以上であるため、想定されるひび割れ発生限界応力度の10N/mm2以上(100N/mm2の約1/10)を期待でき、従来の接合構造(図3参照)のようなループ鉄筋内の鉄筋の配置が必要ない。
【0050】
次に、橋軸方向曲げに対する接合目地の挙動を考える。
橋軸方向曲げについては、基本的にRC構造として設計するが、接合目地前後のプレキャスト床版1端面に交互に配置された孔明き鋼板2の孔3(図1参照)に充填される高強度鋼繊維補強モルタル9の拘束効果によって、十分な曲げ抵抗を期待できる。
【0051】
従って、従来のループ鉄筋のように、鉄筋の曲げ半径に依存されることなく、床板厚、接合幅を小さくでき、施工期間の短縮等、施工の優位性につながる。
接合目地に施工される材料は、高強度鋼繊維補強モルタルを使用する。これによって、前述した構造特性を満足できる。
【0052】
本材料は、1日発現強度を30N/mm2以上期待でき、4週強度は100N/mm2以上であり、早期に機械設備を床版に載荷可能である。また、収縮も91日材令で200μ以下に抑えることができるため、界面剥離やひび割れも発生しないので、床板表面の防水効果も期待できる。
【0053】
本材料の内、モルタル構成材料は、早強セメント、高炉スラグ、膨張材、高性能減水剤、消泡剤、収縮低減剤及び珪砂とすることができる。
【0054】
一方、鋼繊維は、高強度極細鋼繊維で、引張強度は2000N/mm2以上、外径0.2mm、長さ15mmで、表面にブラスめっき処理したものなどを用いることができる。鋼繊維の混入量は、概ね2.25vol%である。なお、高強度鋼繊維補強モルタルの鋼繊維は現場投入とする。
【符号の説明】
【0055】
1…プレキャストコンクリート床版(プレキャストPC床版)、2…孔明き鋼板、3…孔、4…貫通孔、5…鉄筋、6…床版の横方向曲げ鉄筋、7…PC鋼材、9…高強度鋼繊維補強モルタル、
21…主桁、
S…目地部、S1…横目地(橋軸直角方向の目地部)、S2…縦目地(橋軸方向の目地部)
図1
図2
図3