特許第6652761号(P6652761)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6652761
(24)【登録日】2020年1月28日
(45)【発行日】2020年2月26日
(54)【発明の名称】特発性心筋症モデルマウス及びその利用
(51)【国際特許分類】
   A01K 67/027 20060101AFI20200217BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20200217BHJP
【FI】
   A01K67/027
   G01N33/48 N
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-225986(P2015-225986)
(22)【出願日】2015年11月18日
(65)【公開番号】特開2017-93311(P2017-93311A)
(43)【公開日】2017年6月1日
【審査請求日】2018年11月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】598041566
【氏名又は名称】学校法人北里研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(72)【発明者】
【氏名】今井 浩孝
(72)【発明者】
【氏名】幸村 知子
【審査官】 小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−093858(JP,A)
【文献】 特表2007−505628(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/147901(WO,A1)
【文献】 J. Biol. Chem., 2009, Vol.284, No.47, p.32522-32532
【文献】 Biochem. Biophys. Res. Commun., 2003, Vol.305, p.278-286
【文献】 三島海雲記念財団研究報告書, 2012, Vol.49, p.104-109
【文献】 脂質生化学研究, 2011, Vol.53, p.159-162
【文献】 公益財団法人 飯島藤十郎記念食品科学振興財団 平成24年度年報, 2013, Vol.28, p.124-131
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 67/02−67/027;67/033
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生存可能な最低量のビタミンEを与えた心臓特異的PHGPx(リン脂質−ヒドロペルオキシドグルタチオンペルオキシダーゼ)欠損マウスであり、10週齢の時点で1日2回の限界走行による運動負荷を与えると特発性心筋症による突然死を起こす、特発性心筋症モデルマウス
【請求項2】
生存可能な最低量のビタミンEが、飼料100g中9〜12mgである、請求項1に記載の特発性心筋症モデルマウス
【請求項3】
被検試料の投与下又は非投与下で、請求項1又は2に記載の特発性心筋症モデルマウスに運動負荷を与え、死亡率又は運動能力を測定する工程と、
前記被検試料の投与下の前記特発性心筋症モデルマウスの死亡率が、前記被検試料の非投与下の前記特発性心筋症モデルマウスの死亡率よりも低下していた場合、又は前記被検試料の投与下の前記特発性心筋症モデルマウスの運動能力が、前記被検試料の非投与下の前記特発性心筋症モデルマウスの運動能力よりも向上していた場合に、前記被検試料は特発性心筋症の治療又は予防剤であると判断する工程と、
を備える、特発性心筋症の治療又は予防剤のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特発性心筋症モデル非ヒト動物及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
突然死は発症から24時間以内に起きる死として定義される。突然死の多くは心臓突然死である。心臓突然死の多くは動脈硬化による心筋梗塞であるが、中には血管系の異常によらない心臓突然死(特発性心筋症による突然死)も存在する。特発性心筋症による突然死の発生機序は未解明であり、予防法や治療法が存在しないのが現状である。
【0003】
ところで、発明者らは、以前に、抗酸化酵素であるPHGPx(リン脂質ヒドロペルオキシドグルタチオンペルオキシダーゼ)を心臓特異的に欠損させたマウスが胎生致死であること、しかしながら、母親マウスにビタミンE高添加飼料を与えると生存できること、また、離乳後もビタミンE高添加飼料を与えると生存できること、更に、ビタミンE高添加飼料を通常飼料に切り替えると突然死を起こすことを明らかにした(例えば、非特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Imai H, et al., Early embryonic lethality caused by targeted disruption of the mouse PHGPx gene, Biochem Biophys Res Commun., 305, 278-86, 2003.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特発性心筋症による突然死の発生機序を解明し、予防法や治療法の開発を行うためには、特発性心筋症による突然死を起こすモデル非ヒト動物が有用である。そこで、本発明は、特発性心筋症による突然死を起こすモデル非ヒト動物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下の通りである。
(1)生存可能な最低量のビタミンEを与えた心臓特異的PHGPx(リン脂質ヒドロペルオキシドグルタチオンペルオキシダーゼ)欠損非ヒト動物であり、運動負荷を与えると特発性心筋症による突然死を起こす、特発性心筋症モデル非ヒト動物。
(2)生存可能な最低量のビタミンEが、飼料100g中9〜12mgである、(1)に記載の特発性心筋症モデル非ヒト動物。
(3)被検試料の投与下又は非投与下で、(1)又は(2)に記載の特発性心筋症モデル非ヒト動物に運動負荷を与え、死亡率又は運動能力を測定する工程と、前記被検試料の投与下の前記特発性心筋症モデル非ヒト動物の死亡率が、前記被検試料の非投与下の前記特発性心筋症モデル非ヒト動物の死亡率よりも低下していた場合、又は前記被検試料の投与下の前記特発性心筋症モデル非ヒト動物の運動能力が、前記被検試料の非投与下の前記特発性心筋症モデル非ヒト動物の運動能力よりも向上していた場合に、前記被検試料は特発性心筋症の治療又は予防剤であると判断する工程と、を備える、特発性心筋症の治療又は予防剤のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、特発性心筋症による突然死を起こすモデル非ヒト動物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実験例2の結果を示すグラフである。
図2】(a)及び(b)は、実験例3の生存率の結果を示すグラフである。
図3】(a)及び(b)は、実験例3の走行時間の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[特発性心筋症モデル非ヒト動物]
1実施形態において、本発明は、生存可能な最低量のビタミンEを与えた心臓特異的PHGPx欠損非ヒト動物であり、運動負荷を与えると特発性心筋症による突然死を起こす、特発性心筋症モデル非ヒト動物を提供する。
【0010】
上述したように、PHGPxを心臓特異的に欠損させたマウスが胎生致死である。しかしながら、母親マウスにビタミンE高添加飼料を与えると生存することができる。また、PHGPxを心臓特異的に欠損させたマウスは、離乳後もビタミンE高添加飼料を与えると生存することができる。
【0011】
実施例において後述するように、発明者らは、まず、心臓特異的PHGPx欠損マウスの飼料に添加することにより、生存を維持することができる最低量のビタミンE量を検討した。その結果、心臓特異的PHGPx欠損マウスの生存を維持することができる最低量のビタミンE量は、飼料100g中9〜12mgであることが明らかとなった。
【0012】
更に、実施例において後述するように、発明者らは、最低量のビタミンEを含む飼料を与えることにより生存を維持している心臓特異的PHGPx欠損マウスに、運動負荷を与えると、特発性心筋症による突然死を起こすことを明らかにした。
【0013】
したがって、本実施形態の非ヒト動物は、特発性心筋症による突然死を起こすモデル非ヒト動物として利用することができる。本モデル非ヒト動物は、特発性心筋症による突然死の発生機序を解明し、予防法や治療法の開発を行う研究材料として有用である。
【0014】
(非ヒト動物)
非ヒト動物としては、特に制限されず、例えば、マウス、ラット、ウサギ、ブタ、ウシ、サル等が挙げられる。本実施形態のモデル非ヒト動物は、心臓特異的にPHGPxを欠損している。例えば、マウスPHGPx遺伝子のGenbankアクセッション番号はAB030643である。非ヒト動物がマウス以外の動物である場合には、各動物種におけるPHGPxが欠損していればよい。心臓特異的PHGPx欠損非ヒト動物の具体的な作製方法については後述する。
【0015】
続いて、非ヒト動物がマウスである場合を例に、特発性心筋症モデル非ヒト動物の作製方法について説明する。まず、心臓特異的PHGPx欠損マウスを3週齢程度まで成長させる。この間は離乳前であるため、母親マウスにビタミンE高添加飼料を与えることにより、心臓特異的PHGPx欠損マウスの生存を維持するとよい。ビタミンE高添加飼料としては、例えば、通常食であるCE−2(日本クレア社製)100gに対して100mgのビタミンEを添加したもの等を用いることができる。
【0016】
続いて、心臓特異的PHGPx欠損マウスが離乳したら、生存を維持することができる最低量のビタミンE含む飼料を与えて飼育する。ビタミンEの量は、飼料100g中9〜12mgであればよい。
【0017】
(運動負荷)
運動負荷は例えばトレッドミル(ベルト式強制走行装置)等を用いて与えるとよい。例えば、室町機械社製、型式「MK−680」等の装置を利用することができる。運動負荷は、例えば10週齢程度で与えるとよい。この場合、運動負荷を効果的に与えるために、8週齢及び9週齢時において、週2回ずつ練習走行させることが好ましい。練習走行の条件としては、例えば、傾斜なし、速度9m/分、加速4分当たり+3m/分、20分間等が挙げられる。
【0018】
運動負荷は、本実施形態の効果が得られる限り特に限定されず、例えば連続3日間のプログラムで与えるとよい。例えば、次のような運動負荷プログラムを例示することができる。まず、1日目に1回目の限界走行を行わせ、2時間休憩させ、更に2回目の限界走行を行わせる。限界走行とは、走るのを止めたときに電気刺激を与えることにより強制的に走らせ、マウスが走れなくなるまで走行させることを意味する。走行条件としては、例えば、傾斜10度、速度9m/分、加速4分当たり+3m/分等が挙げられる。給餌条件としては、例えば、1回目の限界走行の約3時間前から絶食させ、2回目の限界走行後から再給餌するとよい。2日目及び3日目も1日目と同様の運動負荷を与えるとよい。
【0019】
実施例において後述するように、発明者らは、本実施形態の特発性心筋症モデル非ヒト動物に上記のような運動負荷を与えた場合に、運動負荷3日目に走行時間の顕著な短縮が観察され、更に特発性心筋症による突然死を起こすことを明らかにした。
【0020】
[特発性心筋症の治療又は予防剤のスクリーニング方法]
1実施形態において、本発明は、被検試料の投与下又は非投与下で、上記の特発性心筋症モデル非ヒト動物に運動負荷を与え、死亡率又は運動能力を測定する工程と、前記被検試料の投与下の前記特発性心筋症モデル非ヒト動物の死亡率が、前記被検試料の非投与下の前記特発性心筋症モデル非ヒト動物の死亡率よりも低下していた場合、又は前記被検試料の投与下の前記特発性心筋症モデル非ヒト動物の運動能力が、前記被検試料の非投与下の前記特発性心筋症モデル非ヒト動物の運動能力よりも向上していた場合に、前記被検試料は特発性心筋症の治療又は予防剤であると判断する工程と、を備える、特発性心筋症の治療又は予防剤のスクリーニング方法を提供する。
【0021】
本実施形態の方法により、特発性心筋症の治療又は予防剤をスクリーニングすることができる。被検試料としては、例えば化合物ライブラリー等を使用することができる。被検試料の投与方法としては、例えば、飼料に添加する方法、飲水に添加する方法、静脈注射等により投与する方法等が挙げられる。
【0022】
運動負荷としては、例えば上述したものと同様のものが挙げられる。運動負荷を与えた場合において、被検試料の投与下の特発性心筋症モデル非ヒト動物の死亡率が、被検試料の非投与下の特発性心筋症モデル非ヒト動物の死亡率よりも低下していた場合には、被検試料は特発性心筋症の治療又は予防剤であると考えられる。
【0023】
あるいは、運動負荷を与えた場合において、被検試料の投与下の特発性心筋症モデル非ヒト動物の運動能力が、被検試料の非投与下の特発性心筋症モデル非ヒト動物の運動能力よりも向上していた場合には、被検試料は特発性心筋症の治療又は予防剤であると考えられる。
【0024】
ここで、運動能力を測定するとは、例えば限界走行させた場合の走行時間の長さを測定すること等が挙げられる。また、運動能力が向上するとは、例えば、限界走行させた場合の走行時間の長さがより長くなることを意味する。
【0025】
例えば、限界走行させる運動負荷を与えた場合において、被検試料の投与下の特発性心筋症モデル非ヒト動物の走行時間が、被検試料の非投与下の特発性心筋症モデル非ヒト動物の走行時間よりも長かった場合には、被検試料は特発性心筋症の治療又は予防剤であると考えられる。
【実施例】
【0026】
次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0027】
[実験例1]
(心臓特異的PHGPx欠損マウスの作製)
まず、ES細胞を用いたホモロガスリコンビネーションによる定法により、PHGPx遺伝子ノックアウトマウス(PHGPx−/−)を作製した(非特許文献1を参照。)。PHGPx−/−マウスは、発生過程の7.5日で胚致死となった(非特許文献1を参照)。
【0028】
そこで、loxP配列に挟まれたマウスPHGPxゲノム遺伝子(loxP−PHGPx)を遺伝子導入(Tg)し、Tg(loxP−PHGPx)+/−:PHGPx+/+マウスを作製した。
【0029】
続いて、Tg(loxP−PHGPx)+/−:PHGPx+/+マウスとPHGPx+/−マウスとを交配して、Tg(loxP−PHGPx)+/−:PHGPx+/−マウスを作製し、このマウス同士を交配することにより、内在性のPHGPxゲノム遺伝子がノックアウト(KO)され、導入したloxP−PHGPxTg遺伝子により胚致死をレスキューしたTg(loxP−PHGPx)+/+:PHGPx−/−マウスを作製した(Imai H, et al., Deletion of selenoprotein GPx4 in spermatogenesis causes male infertility in mice, J. Biol. Chem., 284, 32522-32, 2009.を参照。)。
【0030】
また、PHGPx+/−マウスと、心臓特異的プロモーターである筋肉クレアチンキナーゼプロモーター(Muscle creatine kinase)の下流にCre遺伝子を有するマウス(Cre+/+)との交配を繰り返し、Cre+/+PHGPx+/−マウスを得た。
【0031】
続いて、Cre+/+PHGPx+/−マウスと、上述したTg(loxP−PHGPx)+/+:PHGPx−/−マウスとを交配することにより、Cre+/−:Tg(loxP−PHGPx)+/−:PHGPx−/−マウスを得た。このマウスは、心臓特異的にPHGPxを欠損する。
【0032】
このようにして得られた心臓特異的PHGPx欠損マウスを観察したところ、発生過程の16.5日までは正常に生育したが、17.5日に心筋細胞が突然死を起こし、18.5日には浮腫を引き起こして致死となった。
【0033】
しかしながら、母親マウスにビタミンE高添加飼料を毎日与えた場合、発生過程17.5日目の心臓特異的PHGPx欠損マウスの心臓組織の細胞死は完全に抑制され、心臟特異的PHGPx欠損マウスが正常に産まれた。ビタミンE高添加飼料としては、通常食であるCE−2(日本クレア社製)100gに対して100mgのビタミンEを添加したものを用いた。
【0034】
発明者らは、更に、心臓特異的PHGPx欠損マウスのビタミンE高添加飼料を通常飼料に切り替えると、約10日で心不全による突然死を起こすことを以前に明らかにした。
【0035】
[実験例2]
(心臓特異的PHGPx欠損マウスが生存可能な最低量のビタミンE量の検討)
心臓特異的PHGPx欠損マウスに与えるビタミンE高添加飼料中のビタミンEの量を減らし、心臓特異的PHGPx欠損マウスが生存可能な最低量のビタミンE量を検討した。
【0036】
より具体的には、ビタミンE高添加飼料を与えていた心臓特異的PHGPx欠損マウスの飼料を、通常食であるCE−2(日本クレア社製)100gに対して、0、1、2、5及び10mgのビタミンEを添加した飼料に変更し、飼料を変更してからの生存日数を検討した。対照として、CE−2(日本クレア社製)100gに対して100mgのビタミンEを添加した飼料(ビタミンE高添加飼料)を与えた心臓特異的PHGPx欠損マウスを用いた。なお、CE−2(日本クレア社製)100g中に含まれるビタミンE量には、ロットにより約4〜7mgの間でばらつきが存在していた。
【0037】
図1は、各飼料に変更してからの生存日数を示すグラフである。その結果、CE−2(日本クレア社製)100gに対して5mgのビタミンEを添加した飼料を与えた心臓特異的PHGPx欠損マウスは、対照マウスと同様に生存可能であることが明らかとなった。
【0038】
上記の結果から、CE−2(日本クレア社製)にもともと含まれているビタミンEの量を考慮して、心臓特異的PHGPx欠損マウスが生存可能な最低量のビタミンE量は、飼料100g中9〜12mgであることが明らかとなった。
【0039】
[実験例3]
(特発性心筋症モデルマウスへの運動負荷の検討)
母親マウスにビタミンE高添加飼料を与えることにより、心臓特異的PHGPx欠損マウスを3週齢まで成長させた。ビタミンE高添加飼料としては、通常食であるCE−2(日本クレア社製)100gに対して100mgのビタミンEを添加したものを用いた。
【0040】
心臓特異的PHGPx欠損マウスが離乳する3週齢以降は、通常食であるCE−2(日本クレア社製)100gに対して5mgのビタミンEを添加した飼料(ビタミンEの量は、飼料100g中9〜12mg)を与えて飼育した。
【0041】
対照として、表現型が正常であるPHGPxヘテロマウス(Cre+/−:Tg(loxP−PHGPx)+/−:PHGPx+/−マウス)及びビタミンE高添加飼料を与えたマウスに同様の操作を行なった。
【0042】
マウスが8週齢及び9週齢の時点で、トレッドミル(型式「MK−680」、室町機械社製)を用いて週2回走行練習を行った。走行条件は、傾斜なし、速度9m/分、加速4分当たり+3m/分、20分間とした。
【0043】
続いて、マウスが10週齢の時点で連続3日間の運動負荷を与えた。走行条件は、傾斜10度、速度9m/分、加速4分当たり+3m/分とした。1日目に1回目の限界走行を行わせ、2時間休憩させ、更に2回目の限界走行を行わせた。飼料は、1回目の限界走行の約3時間前から絶食させ、2回目の限界走行後から再給餌した。2日目及び3日目も1日目と同様の運動負荷を与えた。
【0044】
図2(a)及び(b)は、運動負荷後の各マウスの生存率を示すグラフである。図2(a)は、最低量のビタミンEを与えた、心臓特異的PHGPx欠損マウス(図中、「KO」と示す。)及びヘテロマウス(図中、「ヘテロ」と示す。)の生存率を示すグラフである。図2(b)は、ビタミンE高添加飼料を与えた、心臓特異的PHGPx欠損マウス(KO)及びヘテロマウスの生存率を示すグラフである。
【0045】
図2(a)に示すように、最低量のビタミンEを与えた心臓特異的PHGPx欠損マウス(KO)には、限界走行後に突然死を起こすものが現れた。解剖した結果、死因は特発性心筋症による突然死であることが確認された。また、図2(a)及び(b)に示すように、ヘテロマウス及びビタミンE高添加飼料を与えたマウスは突然死を起こさなかった。
【0046】
また、図3(a)及び(b)は、各マウスの運動負荷時の走行時間を示すグラフである。図3(a)は、最低量のビタミンEを与えた、心臓特異的PHGPx欠損マウス(KO)及びヘテロマウスの走行時間を示すグラフである。図3(b)は、ビタミンE高添加飼料を与えた、心臓特異的PHGPx欠損マウス(KO)及びヘテロマウスの走行時間を示すグラフである。
【0047】
その結果、ヘテロマウス及びビタミンE高添加飼料を与えたマウスでは、運動負荷を繰り返しても走行時間の短縮は認められなかった。一方、最低量のビタミンEを与えた、心臓特異的PHGPx欠損マウスでは、運動負荷を繰り返すと走行時間の短縮が認められた。特に、運動負荷3日目に走行時間の顕著な短縮が観察された。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明により、特発性心筋症による突然死を起こすモデル非ヒト動物を提供することができる。本モデル非ヒト動物は、特発性心筋症による突然死の発生機序を解明し、予防法や治療法の開発を行う研究材料として有用である。
図1
図2
図3