【実施例】
【0026】
次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0027】
[実験例1]
(心臓特異的PHGPx欠損マウスの作製)
まず、ES細胞を用いたホモロガスリコンビネーションによる定法により、PHGPx遺伝子ノックアウトマウス(PHGPx
−/−)を作製した(非特許文献1を参照。)。PHGPx
−/−マウスは、発生過程の7.5日で胚致死となった(非特許文献1を参照)。
【0028】
そこで、loxP配列に挟まれたマウスPHGPxゲノム遺伝子(loxP−PHGPx)を遺伝子導入(Tg)し、Tg(loxP−PHGPx)
+/−:PHGPx
+/+マウスを作製した。
【0029】
続いて、Tg(loxP−PHGPx)
+/−:PHGPx
+/+マウスとPHGPx
+/−マウスとを交配して、Tg(loxP−PHGPx)
+/−:PHGPx
+/−マウスを作製し、このマウス同士を交配することにより、内在性のPHGPxゲノム遺伝子がノックアウト(KO)され、導入したloxP−PHGPxTg遺伝子により胚致死をレスキューしたTg(loxP−PHGPx)
+/+:PHGPx
−/−マウスを作製した(Imai H, et al., Deletion of selenoprotein GPx4 in spermatogenesis causes male infertility in mice, J. Biol. Chem., 284, 32522-32, 2009.を参照。)。
【0030】
また、PHGPx
+/−マウスと、心臓特異的プロモーターである筋肉クレアチンキナーゼプロモーター(Muscle creatine kinase)の下流にCre遺伝子を有するマウス(Cre
+/+)との交配を繰り返し、Cre
+/+PHGPx
+/−マウスを得た。
【0031】
続いて、Cre
+/+PHGPx
+/−マウスと、上述したTg(loxP−PHGPx)
+/+:PHGPx
−/−マウスとを交配することにより、Cre
+/−:Tg(loxP−PHGPx)
+/−:PHGPx
−/−マウスを得た。このマウスは、心臓特異的にPHGPxを欠損する。
【0032】
このようにして得られた心臓特異的PHGPx欠損マウスを観察したところ、発生過程の16.5日までは正常に生育したが、17.5日に心筋細胞が突然死を起こし、18.5日には浮腫を引き起こして致死となった。
【0033】
しかしながら、母親マウスにビタミンE高添加飼料を毎日与えた場合、発生過程17.5日目の心臓特異的PHGPx欠損マウスの心臓組織の細胞死は完全に抑制され、心臟特異的PHGPx欠損マウスが正常に産まれた。ビタミンE高添加飼料としては、通常食であるCE−2(日本クレア社製)100gに対して100mgのビタミンEを添加したものを用いた。
【0034】
発明者らは、更に、心臓特異的PHGPx欠損マウスのビタミンE高添加飼料を通常飼料に切り替えると、約10日で心不全による突然死を起こすことを以前に明らかにした。
【0035】
[実験例2]
(心臓特異的PHGPx欠損マウスが生存可能な最低量のビタミンE量の検討)
心臓特異的PHGPx欠損マウスに与えるビタミンE高添加飼料中のビタミンEの量を減らし、心臓特異的PHGPx欠損マウスが生存可能な最低量のビタミンE量を検討した。
【0036】
より具体的には、ビタミンE高添加飼料を与えていた心臓特異的PHGPx欠損マウスの飼料を、通常食であるCE−2(日本クレア社製)100gに対して、0、1、2、5及び10mgのビタミンEを添加した飼料に変更し、飼料を変更してからの生存日数を検討した。対照として、CE−2(日本クレア社製)100gに対して100mgのビタミンEを添加した飼料(ビタミンE高添加飼料)を与えた心臓特異的PHGPx欠損マウスを用いた。なお、CE−2(日本クレア社製)100g中に含まれるビタミンE量には、ロットにより約4〜7mgの間でばらつきが存在していた。
【0037】
図1は、各飼料に変更してからの生存日数を示すグラフである。その結果、CE−2(日本クレア社製)100gに対して5mgのビタミンEを添加した飼料を与えた心臓特異的PHGPx欠損マウスは、対照マウスと同様に生存可能であることが明らかとなった。
【0038】
上記の結果から、CE−2(日本クレア社製)にもともと含まれているビタミンEの量を考慮して、心臓特異的PHGPx欠損マウスが生存可能な最低量のビタミンE量は、飼料100g中9〜12mgであることが明らかとなった。
【0039】
[実験例3]
(特発性心筋症モデルマウスへの運動負荷の検討)
母親マウスにビタミンE高添加飼料を与えることにより、心臓特異的PHGPx欠損マウスを3週齢まで成長させた。ビタミンE高添加飼料としては、通常食であるCE−2(日本クレア社製)100gに対して100mgのビタミンEを添加したものを用いた。
【0040】
心臓特異的PHGPx欠損マウスが離乳する3週齢以降は、通常食であるCE−2(日本クレア社製)100gに対して5mgのビタミンEを添加した飼料(ビタミンEの量は、飼料100g中9〜12mg)を与えて飼育した。
【0041】
対照として、表現型が正常であるPHGPxヘテロマウス(Cre
+/−:Tg(loxP−PHGPx)
+/−:PHGPx
+/−マウス)及びビタミンE高添加飼料を与えたマウスに同様の操作を行なった。
【0042】
マウスが8週齢及び9週齢の時点で、トレッドミル(型式「MK−680」、室町機械社製)を用いて週2回走行練習を行った。走行条件は、傾斜なし、速度9m/分、加速4分当たり+3m/分、20分間とした。
【0043】
続いて、マウスが10週齢の時点で連続3日間の運動負荷を与えた。走行条件は、傾斜10度、速度9m/分、加速4分当たり+3m/分とした。1日目に1回目の限界走行を行わせ、2時間休憩させ、更に2回目の限界走行を行わせた。飼料は、1回目の限界走行の約3時間前から絶食させ、2回目の限界走行後から再給餌した。2日目及び3日目も1日目と同様の運動負荷を与えた。
【0044】
図2(a)及び(b)は、運動負荷後の各マウスの生存率を示すグラフである。
図2(a)は、最低量のビタミンEを与えた、心臓特異的PHGPx欠損マウス(図中、「KO」と示す。)及びヘテロマウス(図中、「ヘテロ」と示す。)の生存率を示すグラフである。
図2(b)は、ビタミンE高添加飼料を与えた、心臓特異的PHGPx欠損マウス(KO)及びヘテロマウスの生存率を示すグラフである。
【0045】
図2(a)に示すように、最低量のビタミンEを与えた心臓特異的PHGPx欠損マウス(KO)には、限界走行後に突然死を起こすものが現れた。解剖した結果、死因は特発性心筋症による突然死であることが確認された。また、
図2(a)及び(b)に示すように、ヘテロマウス及びビタミンE高添加飼料を与えたマウスは突然死を起こさなかった。
【0046】
また、
図3(a)及び(b)は、各マウスの運動負荷時の走行時間を示すグラフである。
図3(a)は、最低量のビタミンEを与えた、心臓特異的PHGPx欠損マウス(KO)及びヘテロマウスの走行時間を示すグラフである。
図3(b)は、ビタミンE高添加飼料を与えた、心臓特異的PHGPx欠損マウス(KO)及びヘテロマウスの走行時間を示すグラフである。
【0047】
その結果、ヘテロマウス及びビタミンE高添加飼料を与えたマウスでは、運動負荷を繰り返しても走行時間の短縮は認められなかった。一方、最低量のビタミンEを与えた、心臓特異的PHGPx欠損マウスでは、運動負荷を繰り返すと走行時間の短縮が認められた。特に、運動負荷3日目に走行時間の顕著な短縮が観察された。