【実施例1】
【0013】
以下に、本発明に係る鋼製スリットダム1を図示した実施例に基づいて説明する。
本発明に係る鋼製スリットダム1は、
図1に示したとおり、山間地の河川に構築したコンクリート堰堤9、9間の底部に打設したコンクリート基礎90上に、スリット構造体2を河川の河幅方向に沿って複数体(図示例の場合は4体)設置して構成される。
図1に示した鋼製スリットダム1を構成する4体のスリット構造体2…のうち、中間に位置するスリット構造体20、20(上流側と下流側に支柱を3本ずつ設けた構成)と、両端に位置するスリット構造体21、21(上流側と下流側に支柱を2本ずつ設けた構成)とは、単に支柱3、4の本数が異なるだけであり、構造的には差異がない。因みに、隣接するスリット構造体2、2同士は、接合されていない。
なお、前記コンクリート堰堤9、9間に設置するスリット構造体2…は、河幅方向へ上流側支柱3及び下流側支柱4を必要本数並べ、必要に応じて複数のスリット構造体2…となるように分割して設置するものである。
また、図示例の場合、前記コンクリート基礎90の上面は、一例として河川の河床勾配αに沿った傾斜勾配で形成しているが(詳しくは
図3を参照)、水平面とした構成でもよい。
【0014】
図2及び
図3は、前記コンクリート堰堤9、9間に設置した4体のスリット構造体2…のうち、中間に設置したスリット構造体20の構成を示している。
図2及び
図3に示したスリット構造体2は、河川の流れ方向における上流側位置Aと下流側位置Bとに間隔を開けて立てた支柱3、4と、隣接する上流側支柱3、3同士を連結した横繋ぎ材5…と、前後する上流側支柱3及び下流側支柱4の上端近傍を連結した天端繋ぎ材6とを備えている。隣接する前記下流側支柱4、4同士は連結されていない。
前記天端繋ぎ材6の下方位置には、前後する前記上流側支柱3及び下流側支柱4を連結する繋ぎ材として水平材70と斜材71が設けられている。
また、前記上流側支柱3、3には、隣接するスリット構造体2、2相互間の間隔をあけた部位に、同間隔部分を遮る張出部51が設けられている。
前記支柱(3、4)、繋ぎ材(5、6、70、71)、及び張出部51は、主に鋼管で製作され、共に外径が400〜600mm程度、肉厚9〜22mm程度である。
図2に示すスリット構造体2の全体の大きさは、一例として高さが10m〜12m程度、横幅が3m〜4m程度である。
【0015】
前記支柱3、4は、上流側Aと下流側Bにおいて、それぞれ河幅方向に0.5〜2.0m程度の間隔をあけて3本ずつ列状配置で設置されている。
前記各支柱3、4は、補強リブを有するベースプレート30、40を取り付けた下端部を、コンクリート基礎90に均一に埋め込んで強固に固定されている。なお、詳細に図示することは省略したが、前記支柱2、3の下端部をコンクリート基礎90に固定させる手段として、上記の方法の他、例えばコンクリート基礎90内に予め埋め込んだ鞘管に嵌め込むことによって行うこともできる。
【0016】
前後する前記上流側支柱3と下流側支柱4とは、
図3に示す側面方向から見ると、上端部間Sを1.5m〜2.0m程度あけたハの字状に傾斜させて設置されている。前記上流側支柱3及び下流側支柱4の傾斜角度γは、一例として水平方向の長さを0.2とし、鉛直方向の高さを1とする傾斜勾配である。但し、前記上流側支柱3と下流側支柱4とを異なる勾配に傾斜させた構成で実施してもよい。
前記上流側支柱3の上端部と下流側支柱4の上端部とに、適度な間隔Sを設ける理由は、上端部同士を直接接続した構成(例えば上記特許文献2に開示)と比較して、構造体としての安全度を高めることができるからである。また、
図6に示すように、土石流が上流側支柱3を越流した際には、水や小礫を上流側支柱3と下流側支柱4との間から逃すことできるので、土砂と水を効果的に分離することができ、土石流を減勢できるからである。
【0017】
前記下流側支柱4は、
図3を見ると明らかなように、その上端位置が前記上流側支柱3の上端位置よりも低い位置とされている。前記上流側支柱3と下流側支柱4の高低差は、当該上流側支柱3の上端近傍と下流側支柱4の上端近傍とを連結する天端繋ぎ材6の傾斜勾配θに応じて決定される。
【0018】
前記上流側支柱3及び下流側支柱4は、それぞれ中間位置で分割され、分割端面に設けた一対のフランジ3a、4aをボルト接合している。つまり、前記支柱3、4は、設置現場へ分割して運搬することができるし、土石或いは流木等の衝突で一部が破損した場合には、当該破損箇所のみを新しい鋼管と取り替えることができる。但し、前記支柱3、4は、中間位置で分割することなく一本の鋼管とした構成で実施してもよい。
なお、前記支柱3、4は、図示したように1箇所の位置で分割した構成に限らず、2箇所以上の位置で分割した構成で実施することもできる。また、前記分割する位置は、中央位置でも片側にずれた位置でも良く、適宜設計変更して実施するものとする。
以下、後述する各繋ぎ材(5、6、70、71)、及び補強材8の中間位置に設けたフランジも同様の目的及び構成である。
【0019】
前記天端繋ぎ材6は、上流側Aから下流側Bへ下る勾配θに傾斜させ、その両端部が各支柱3、4に溶接されている。前記天端繋ぎ材6を傾斜させて設けることで、スリット構造体全体の剛性を高めている。なお、前記天端繋ぎ材6は、中間位置で分割され、分割端面に設けた一対のフランジ6aをボルト接合している。
前記天端繋ぎ材6の傾斜角度θは、鋼製スリットダム1を設置した地点における河床勾配αの1/2以上で、水平方向の長さを0.2とし、鉛直方向の高さを1とする勾配角度γよりも小さい範囲とする。
前記範囲とした理由は、巨礫等が下流側支柱4の上端部に衝突することなく、土石流を下流側Bへ向かってスムーズに流すことができ、且つスリット構造体2の剛性を高めることができる範囲だからである。
具体的には、巨礫が下流側支柱4の上端部に衝突することなく、土石流を下流側Bへ向かってスムーズに流すためには、天端繋ぎ材6の傾斜角度θを堆砂勾配β以上にする必要がある。前記堆砂勾配βは、一般的に計画堆砂勾配と呼ばれ、鋼製スリットダム1を設置した地点における河床勾配αの1/2〜1/3程度とされる。そこで、前記天端繋ぎ材6の傾斜角度θの最小値を、鋼製スリットダム1を設置した地点における河床勾配βの1/2とした。
また、スリット構造体2の剛性を高めるためには、上流側支柱3と下流側支柱4の傾斜角度を上記角度γとすることが望ましい。上流側支柱3と下流側支柱4の傾斜角度をγに設定した場合に、前後する上流側支柱3と下流側支柱4の上端部近傍を連結できる最大角度として、天端繋ぎ材6の傾斜角度θを、水平方向の長さを0.2とし、鉛直方向の高さを1とする勾配角度以下とする必要がある。
なお、天端繋ぎ材6の傾斜勾配θは、前記範囲内において、スリット構造体2の安全性を検討して決定するものとする。
【0020】
前記天端繋ぎ材6の下方位置に設けられた繋ぎ材としての水平材70は、前記支柱3、4の中間位置に設けられ、その両端部が前後の位置する上流側支柱3と下流側支柱4にそれぞれ溶接されている。前記水平材70は、2箇所の位置で分割され、分割端面に設けた一対のフランジ70aをボルト接合している。
また、繋ぎ材としての斜材71は、前記水平材70の下方位置に設けられており、上流側Aから下流側Bへ下る勾配に傾斜している。前記斜材71は、その両端部が前後に位置する上流側支柱3と下流側支柱4に溶接されており、2箇所の位置で分割され、分割端面に設けた一対のフランジ71aをボルト接合している。前記斜材71を設けることにより、スリット構造体2の剛性を高めることができる。
なお、前記水平材70及び斜材71は、前記2箇所の位置で分割した構成に限らず、上記天端繋ぎ材6のように1箇所の位置で分割した構成、或いは3箇所の位置で分割した構成等で実施することもできる。また、前記分割する位置は、中央位置でも片側にずれた位置でも良く、適宜設計変更して実施するものとする。
【0021】
なお、前記上流側支柱3と下流側支柱4とを連結する繋ぎ材は、
図4(A)に示すように、支柱3、4の上下方向に水平材70を1本だけ設けた構成、或いは
図4(B)に示すように上下方向に水平材70を1本、斜材71、72を2本設けた構成で実施することもできる。また、
図4(C)に示すように、支柱3、4の高さが
図1〜3に示す実施例と比較して低い場合には、繋ぎ材を設けることなく実施することもできる。
要するに、
図4(A)〜(C)に示すように前記水平材70や斜材71は、支柱3、4の高さに応じて、或いは巨礫などの衝突荷重に応じて、必要とする本数を設ければよい。
因みに、
図4(B)に示すスリット構造体は、万一、巨礫等により下流側支柱4の上部が破損した場合でも、上側の斜材72によって上流側支柱3を保持できるので、構造全体が倒壊し難い構造である。しかし、通常は、
図3に示したスリット構造体2のように、下側の斜材71のみ設ければ足り、上側の斜材72を省略した構成で実施されることが多い。
【0022】
また、
図5に示すように、上記繋ぎ材としての斜材71に代えて、前記上流側支柱3の下部を、同上流側支柱3と下流側支柱4との間から傾斜させて立ち上がる補強材8で補強した構成で実施することもできる。前記補強材8は、主に鋼管で製作され、一例として外径が400〜600mm程度、肉厚9〜22mm程度である。
前記補強材8は、補強リブを有するベースプレート80を取り付けた下端部がコンクリート基礎90の内部に埋め込まれて固定されており、上端部が上流側支柱3に溶接されている。前記補強材8の下端部をコンクリート基礎90に固定させる手段としては、例えばコンクリート基礎90内に予め埋め込んだ鞘管に嵌め込むことによって行うこともできる。
前記補強材8は、中間位置で分割され、分割端面に設けた一対のフランジ8aをボルト接合されている。
なお、前記補強材8の傾斜角度は、一例として水平となす角度が45度程度が好ましいが、河川の設置状況に応じて、適宜変更するもとする。
【0023】
前記横繋ぎ材5は、図示例の場合、上流側支柱3の上下方向に所定の間隔をあけて水平向きに3本設けられている。前記横繋ぎ材5は、その両端が左右の上流側支柱3に溶接されており、中間位置で分割され、分割端面に設けた一対のフランジ5aをボルト接合している。
【0024】
隣接するスリット構造体2、2相互間に設けられた張出部51は、その一端が上流側支柱3に溶接されており、前記横繋ぎ材5の延長方向へ、同横繋ぎ材5が張り出すように設けられている。つまり、前記スリット構造体2の間隔をあけた部位も、実質的に土石流に含まれる礫や流木等を捕捉する格子状の遮蔽効果が得られる。なお、前記張出部51は、図示した実施形態に限定されず、設ける位置、形態は任意の設置事項である。
【0025】
前記上下方向において隣接する横繋ぎ材5、5間、及び張出部51、51間には、巨礫と共に中小規模の土石や流木等を効果的に捕捉する分枝鋼管50…が、前記支柱3、4の上下方向に複数本設けられている。前記分枝鋼管50は、前記横繋ぎ鋼管5よりも小径であり、河幅方向に向かって左右に前記上流側支柱3から張り出している。隣接する分枝鋼管50、50同士は連結されておらず、向かい合う前記分枝鋼管50の端部間には所定のスペースが設けられている。
前記分枝鋼管50は、
図2に示す実施例の場合、上位の横繋ぎ材5a(5)と中位の横繋ぎ材5b(5)との間に4本設けられ、中位の横繋ぎ材5b(5)と下位の横繋ぎ材5c(5)との間に2本設けているが、河川の設置状況に応じて適宜必要な本数設けるものとする。
なお、過度に中小規模の土石や流木等を捕捉する必要がない場合には、前記分枝鋼管50を設けることなく、或いは部分的に設けた構成で実施することもできる。
【0026】
次に、本発明に係る鋼製スリットダムが奏する作用効果を、
図6に基づいて説明する。
先ず、土石流が発生すると、鋼製スリットダム1によって土石や流木等が堰き止められ、該堰き止められた土石や流木等が傾斜度に倣って順次にうず高く堆積してゆき、最終的に鋼製スリットダム1(スリット構造体2)の頂部相当まで堆積する。前記スリット構造体2の頂部相当まで堰き止められた土石や流木等の堆積状態91に沿ってその上面を流れ下ってきた土石や流木等Gがスリット構造体2の頂部を越流する。
このとき、前記スリット構造体2は、下流側支柱4の上端位置を、上流側支柱3の上端位置付近から勢いよく越流した土石流中の巨礫や流木等Gが衝突しない程度の低い位置まで下げているので、前記巨礫や流木等Gを下流側支柱4の上端を飛び越えて直接下流側Bの河床に向かって落下させることができる。また、隣接する下流側支柱4、4同士は連結されていないので、減勢した土石や流木等Gが落下途中で横繋ぎ材に衝突する懸念もなく、効果的に河床に向かって落下させることができる。
よって、下流側支柱4の上端部分付近の構造が、巨礫や流木等Gの激しい衝突によって変形、破損される懸念はほとんどなく、巨礫や流木等Gが激しく衝突する懸念を物理的に回避できる。