特許第6652799号(P6652799)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6652799
(24)【登録日】2020年1月28日
(45)【発行日】2020年2月26日
(54)【発明の名称】鋼製スリットダム
(51)【国際特許分類】
   E02B 7/02 20060101AFI20200217BHJP
【FI】
   E02B7/02 B
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-161920(P2015-161920)
(22)【出願日】2015年8月19日
(65)【公開番号】特開2017-40081(P2017-40081A)
(43)【公開日】2017年2月23日
【審査請求日】2018年7月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006839
【氏名又は名称】日鉄建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090114
【弁理士】
【氏名又は名称】山名 正彦
(74)【代理人】
【識別番号】100174207
【弁理士】
【氏名又は名称】筬島 孝夫
(72)【発明者】
【氏名】國領 ひろし
【審査官】 石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−121727(JP,A)
【文献】 特開2012−207373(JP,A)
【文献】 特開2009−127280(JP,A)
【文献】 特開2009−024364(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
河川の河幅方向にスリット構造体を設置して成る鋼製スリットダムであって、
前記スリット構造体は、河川の流れ方向における上流側位置と下流側位置とに間隔を開けて立てた支柱と、隣接する上流側支柱同士を連結した横繋ぎ材と、前後する上流側支柱及び下流側支柱の上端近傍を連結した天端繋ぎ材とから成り、隣接する下流側支柱同士は連結されていないこと、
前記下流側支柱の上端位置は、前記上流側支柱の上端位置よりも低い位置とされ、前記天端繋ぎ材は、上流側から下流側へ下る勾配に前記下流側支柱と異なる角度で傾斜させて設けられていることを特徴とする、鋼製スリットダム。
【請求項2】
前記上流側支柱と前記下流側支柱とは、間隔を開けてハの字状に傾斜させて設置されていることを特徴とする、請求項1に記載した鋼製スリットダム。
【請求項3】
前記天端繋ぎ材の傾斜角度は、鋼製スリットダムを設置した地点における河床勾配の1/2以上で、水平方向の長さを0.2とし、鉛直方向の高さを1とする勾配角度以下の範囲であることを特徴とする、請求項1又は2に記載した鋼製スリットダム。
【請求項4】
前記上流側支柱は、当該上流側支柱と下流側支柱との間から傾斜させて立ち上がる補強材で補強されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載した鋼製スリットダム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、山間地の渓谷や河川等に構築され、土石流時、大洪水時に発生する巨礫や流木などを捕捉し、或いは土石流を減衰(減勢)させて災害を未然に防止する鋼製スリットダムの技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
鋼製スリットダムに関しては、下記に特許文献1、2を代表的に例示したとおり、既に多種多様に提案がなされ、実施例も多く存在する。
従前の鋼製スリットダムは、図9に例示したように、山間部の渓谷や河川等の砂防堰堤建設位置にコンクリート堰堤が構築され、該コンクリート堰堤に形成したコンクリート基礎90に、スリット構造体aが設けられている。
前記スリット構造体aは、河川の流れ方向(矢印Fを参照)における上流側位置Aと下流側位置Bとに間隔を開けて立てた同一高さの支柱b、cと、前記上流側支柱b、b同士、及び下流側支柱c、c同士を連結した繋ぎ材(水平材)d、eと、前記上流側支柱bと下流側支柱cとを連結した繋ぎ材(水平材f及び斜材g)とで構成されている。
この鋼製スリットダムは、上流側支柱bと繋ぎ材dの間隔を調整することにより、常時において比較的粒径の細かい土砂や砂礫は下流側Bに流し土砂調整機能を保持しながら、土石流発生時には土石流に含まれる巨礫、流木や多量の土砂を捕捉して河川下流への流出を防止するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−316261号
【特許文献2】特開2009−24364号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に示した鋼製スリットダムは、土石流の流れ方向の上流側と下流側とに間隔を開けて立てた上流側支柱と下流側支柱を、各々の繋ぎ材(水平材)のフランジ同士をボルト接合して、現場での組み立て施工を容易に行える構成としたものである。
しかし、このような鋼製スリットダムは、図9に例示したように、渓谷の傾斜度に倣って土石や流木が順次にうず高く堆積してゆき、遂にはスリット構造体aの頂部相当まで堰き止められた堆積状態91に沿って、その上面を流れ下ってきた土石や流木等Gがスリット構造体aの頂部を越流する状態となるに至る。
その越流の際に、巨礫や流木等Gが、下流側支柱cの上端部付近へ激しく衝突して流下することになる。その結果、下流側支柱cの上端部付近は、急速に変形、破損が進み、支柱c及びbの形態が崩れ、最終的にスリット構造体全体の形態が崩れて支持力を喪失するところとなる。
【0005】
一方、上記特許文献2に示した鋼製スリットダムは、上記した下流側支柱の損傷を防止する手段として、上流側支柱の頂部から下流方向に向かって延びる庇を設けて、同上流側支柱を乗り越えて落下する土石等による下流側支柱の損傷を可及的に防ぐ構成としたものである。前記庇は、下流側方向へ下る傾斜を備えた構成とされている。
しかし、上記庇は上流側支柱の上端近傍の位置へ片持ち状態に設置されているから、仮に同庇の上に大きな土石が衝撃的に落下すると、その落下衝撃によって庇に大きな曲げモーメントが衝撃的に作用するところとなる。そのため同庇のみならず上流側支柱の頂部までも曲げられて、過大な曲げによって破損が拡大する懸念がある。
もっとも、同公報には上記庇と上流側支柱の頂部との間に頬杖を設置する構成も開示されている。しかし、そのような構成にすると、構造が複雑化し、鋼材の加工及び現場での設置作業の工数が増える欠点を否めない。
【0006】
本発明の目的は、鋼製スリットダムの頂部相当位置まで堰き止められた土石や流木等の堆積状態が発生することを前提に、その堆積上面部を流れ下る巨礫や流木等が、上流側支柱の上端から越流し、下流側支柱の上端部付近へ激しく衝突する現象を回避させて、下流側支柱の破損を防止することができる鋼製スリットダムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するための手段として、請求項1に記載した発明に係る鋼製スリットダムは、
河川の河幅方向にスリット構造体2を設置して成る鋼製スリットダム1であって、
前記スリット構造体2は、河川の流れ方向における上流側位置Aと下流側位置Bとに間隔を開けて立てた支柱3、4と、隣接する上流側支柱3、3同士を連結した横繋ぎ材5と、前後する上流側支柱3及び下流側支柱4の上端近傍を連結した天端繋ぎ材6とから成り、隣接する下流側支柱4、4同士は連結されていないこと、
前記下流側支柱4の上端位置は、前記上流側支柱3の上端位置よりも低い位置とされ、前記天端繋ぎ材6は、上流側Aから下流側Bへ下る勾配θに前記下流側支柱4と異なる角度で傾斜させて設けられていることを特徴とする。
請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した鋼製スリットダムにおいて、前記上流側支柱と前記下流側支柱とは、間隔を開けてハの字状に傾斜させて設置されていることを特徴とする。
【0008】
請求項に記載した発明は、請求項1又は2に記載した発明に係る鋼製スリットダムにおいて、
前記天端繋ぎ材6の傾斜角度θは、鋼製スリットダム1を設置した地点における河床勾配αの1/2以上で、水平方向の長さを0.2とし、鉛直方向の高さを1とする勾配角度γ以下の範囲であることを特徴とする。
【0009】
請求項に記載した発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載した発明に係る鋼製スリットダムにおいて、
前記上流側支柱3は、当該上流側支柱3と下流側支柱4との間から傾斜させて立ち上がる補強材8で補強されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る鋼製スリットダム1は、下流側支柱4の上端位置を、上流側支柱3の上端位置付近から勢いよく越流した土石流中の巨礫や流木等Gが衝突しない程度の低い位置まで下げているので、巨礫や流木等Gを下流側支柱4の上端を飛び越えて直接下流側の河床に向かって落下させることができる。また、隣接する下流側支柱4、4同士は連結されていないので、勢いのない巨礫や流木等Gが落下途中で横繋ぎ材に接触する懸念もなく、効果的に河床に向かって落下させることができる。
よって、下流側支柱4の上端部分付近の構造が、土石や流木等の激しい衝突によって変形、破損される懸念はほとんどなく、土石や流木等Gが激しく衝突する懸念を物理的に回避できる。
その結果、本発明の構成スリットダムは、耐用寿命が充分に長く保たれて、渓谷、河床の保護に寄与し、或いは下流側地域の土石流の氾濫による住民等の被害を防ぐことに効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係る鋼製スリットダムを下流側から見た斜視図である。
図2】鋼製スリットダムを構成するスリット構造体を示した斜視図である。
図3図2に示すスリット構造体の側面図である。
図4】(A)〜(C)は、スリット構造体の異なる実施形態を示した側面図である。
図5】上流側支柱を補強材で補強した実施例を示したスリット構造体の側面図である。
図6】本発明に係る鋼製スリットダムが奏する作用効果を例示した側面図である。
図7】実施例2の鋼製スリットダムを構成するスリット構造体を示した斜視図である。
図8】実施例3の鋼製スリットダムを構成するスリット構造体を示した斜視図である。
図9】従来の鋼製スリットダムの不具合を側面方向から示した概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る鋼製スリットダム1は、河川の河幅方向にスリット構造体2を設置して成る。スリット構造体2は、河川の流れ方向における上流側位置Aと下流側位置Bとに間隔を開けて立てた支柱3、4と、隣接する上流側支柱3、3同士を連結した横繋ぎ材5と、前後する上流側支柱3及び下流側支柱4の上端近傍を連結した天端繋ぎ材6とから成り、隣接する下流側支柱4、4同士は連結されていない。下流側支柱4の上端位置は、上流側支柱3の上端位置よりも低い位置とされ、天端繋ぎ材6は、上流側Aから下流側Bへ下る勾配θに前記下流側支柱4と異なる角度で傾斜させて設けられている。
【実施例1】
【0013】
以下に、本発明に係る鋼製スリットダム1を図示した実施例に基づいて説明する。
本発明に係る鋼製スリットダム1は、図1に示したとおり、山間地の河川に構築したコンクリート堰堤9、9間の底部に打設したコンクリート基礎90上に、スリット構造体2を河川の河幅方向に沿って複数体(図示例の場合は4体)設置して構成される。
図1に示した鋼製スリットダム1を構成する4体のスリット構造体2…のうち、中間に位置するスリット構造体20、20(上流側と下流側に支柱を3本ずつ設けた構成)と、両端に位置するスリット構造体21、21(上流側と下流側に支柱を2本ずつ設けた構成)とは、単に支柱3、4の本数が異なるだけであり、構造的には差異がない。因みに、隣接するスリット構造体2、2同士は、接合されていない。
なお、前記コンクリート堰堤9、9間に設置するスリット構造体2…は、河幅方向へ上流側支柱3及び下流側支柱4を必要本数並べ、必要に応じて複数のスリット構造体2…となるように分割して設置するものである。
また、図示例の場合、前記コンクリート基礎90の上面は、一例として河川の河床勾配αに沿った傾斜勾配で形成しているが(詳しくは図3を参照)、水平面とした構成でもよい。
【0014】
図2及び図3は、前記コンクリート堰堤9、9間に設置した4体のスリット構造体2…のうち、中間に設置したスリット構造体20の構成を示している。
図2及び図3に示したスリット構造体2は、河川の流れ方向における上流側位置Aと下流側位置Bとに間隔を開けて立てた支柱3、4と、隣接する上流側支柱3、3同士を連結した横繋ぎ材5…と、前後する上流側支柱3及び下流側支柱4の上端近傍を連結した天端繋ぎ材6とを備えている。隣接する前記下流側支柱4、4同士は連結されていない。
前記天端繋ぎ材6の下方位置には、前後する前記上流側支柱3及び下流側支柱4を連結する繋ぎ材として水平材70と斜材71が設けられている。
また、前記上流側支柱3、3には、隣接するスリット構造体2、2相互間の間隔をあけた部位に、同間隔部分を遮る張出部51が設けられている。
前記支柱(3、4)、繋ぎ材(5、6、70、71)、及び張出部51は、主に鋼管で製作され、共に外径が400〜600mm程度、肉厚9〜22mm程度である。図2に示すスリット構造体2の全体の大きさは、一例として高さが10m〜12m程度、横幅が3m〜4m程度である。
【0015】
前記支柱3、4は、上流側Aと下流側Bにおいて、それぞれ河幅方向に0.5〜2.0m程度の間隔をあけて3本ずつ列状配置で設置されている。
前記各支柱3、4は、補強リブを有するベースプレート30、40を取り付けた下端部を、コンクリート基礎90に均一に埋め込んで強固に固定されている。なお、詳細に図示することは省略したが、前記支柱2、3の下端部をコンクリート基礎90に固定させる手段として、上記の方法の他、例えばコンクリート基礎90内に予め埋め込んだ鞘管に嵌め込むことによって行うこともできる。
【0016】
前後する前記上流側支柱3と下流側支柱4とは、図3に示す側面方向から見ると、上端部間Sを1.5m〜2.0m程度あけたハの字状に傾斜させて設置されている。前記上流側支柱3及び下流側支柱4の傾斜角度γは、一例として水平方向の長さを0.2とし、鉛直方向の高さを1とする傾斜勾配である。但し、前記上流側支柱3と下流側支柱4とを異なる勾配に傾斜させた構成で実施してもよい。
前記上流側支柱3の上端部と下流側支柱4の上端部とに、適度な間隔Sを設ける理由は、上端部同士を直接接続した構成(例えば上記特許文献2に開示)と比較して、構造体としての安全度を高めることができるからである。また、図6に示すように、土石流が上流側支柱3を越流した際には、水や小礫を上流側支柱3と下流側支柱4との間から逃すことできるので、土砂と水を効果的に分離することができ、土石流を減勢できるからである。
【0017】
前記下流側支柱4は、図3を見ると明らかなように、その上端位置が前記上流側支柱3の上端位置よりも低い位置とされている。前記上流側支柱3と下流側支柱4の高低差は、当該上流側支柱3の上端近傍と下流側支柱4の上端近傍とを連結する天端繋ぎ材6の傾斜勾配θに応じて決定される。
【0018】
前記上流側支柱3及び下流側支柱4は、それぞれ中間位置で分割され、分割端面に設けた一対のフランジ3a、4aをボルト接合している。つまり、前記支柱3、4は、設置現場へ分割して運搬することができるし、土石或いは流木等の衝突で一部が破損した場合には、当該破損箇所のみを新しい鋼管と取り替えることができる。但し、前記支柱3、4は、中間位置で分割することなく一本の鋼管とした構成で実施してもよい。
なお、前記支柱3、4は、図示したように1箇所の位置で分割した構成に限らず、2箇所以上の位置で分割した構成で実施することもできる。また、前記分割する位置は、中央位置でも片側にずれた位置でも良く、適宜設計変更して実施するものとする。
以下、後述する各繋ぎ材(5、6、70、71)、及び補強材8の中間位置に設けたフランジも同様の目的及び構成である。
【0019】
前記天端繋ぎ材6は、上流側Aから下流側Bへ下る勾配θに傾斜させ、その両端部が各支柱3、4に溶接されている。前記天端繋ぎ材6を傾斜させて設けることで、スリット構造体全体の剛性を高めている。なお、前記天端繋ぎ材6は、中間位置で分割され、分割端面に設けた一対のフランジ6aをボルト接合している。
前記天端繋ぎ材6の傾斜角度θは、鋼製スリットダム1を設置した地点における河床勾配αの1/2以上で、水平方向の長さを0.2とし、鉛直方向の高さを1とする勾配角度γよりも小さい範囲とする。
前記範囲とした理由は、巨礫等が下流側支柱4の上端部に衝突することなく、土石流を下流側Bへ向かってスムーズに流すことができ、且つスリット構造体2の剛性を高めることができる範囲だからである。
具体的には、巨礫が下流側支柱4の上端部に衝突することなく、土石流を下流側Bへ向かってスムーズに流すためには、天端繋ぎ材6の傾斜角度θを堆砂勾配β以上にする必要がある。前記堆砂勾配βは、一般的に計画堆砂勾配と呼ばれ、鋼製スリットダム1を設置した地点における河床勾配αの1/2〜1/3程度とされる。そこで、前記天端繋ぎ材6の傾斜角度θの最小値を、鋼製スリットダム1を設置した地点における河床勾配βの1/2とした。
また、スリット構造体2の剛性を高めるためには、上流側支柱3と下流側支柱4の傾斜角度を上記角度γとすることが望ましい。上流側支柱3と下流側支柱4の傾斜角度をγに設定した場合に、前後する上流側支柱3と下流側支柱4の上端部近傍を連結できる最大角度として、天端繋ぎ材6の傾斜角度θを、水平方向の長さを0.2とし、鉛直方向の高さを1とする勾配角度以下とする必要がある。
なお、天端繋ぎ材6の傾斜勾配θは、前記範囲内において、スリット構造体2の安全性を検討して決定するものとする。
【0020】
前記天端繋ぎ材6の下方位置に設けられた繋ぎ材としての水平材70は、前記支柱3、4の中間位置に設けられ、その両端部が前後の位置する上流側支柱3と下流側支柱4にそれぞれ溶接されている。前記水平材70は、2箇所の位置で分割され、分割端面に設けた一対のフランジ70aをボルト接合している。
また、繋ぎ材としての斜材71は、前記水平材70の下方位置に設けられており、上流側Aから下流側Bへ下る勾配に傾斜している。前記斜材71は、その両端部が前後に位置する上流側支柱3と下流側支柱4に溶接されており、2箇所の位置で分割され、分割端面に設けた一対のフランジ71aをボルト接合している。前記斜材71を設けることにより、スリット構造体2の剛性を高めることができる。
なお、前記水平材70及び斜材71は、前記2箇所の位置で分割した構成に限らず、上記天端繋ぎ材6のように1箇所の位置で分割した構成、或いは3箇所の位置で分割した構成等で実施することもできる。また、前記分割する位置は、中央位置でも片側にずれた位置でも良く、適宜設計変更して実施するものとする。
【0021】
なお、前記上流側支柱3と下流側支柱4とを連結する繋ぎ材は、図4(A)に示すように、支柱3、4の上下方向に水平材70を1本だけ設けた構成、或いは図4(B)に示すように上下方向に水平材70を1本、斜材71、72を2本設けた構成で実施することもできる。また、図4(C)に示すように、支柱3、4の高さが図1〜3に示す実施例と比較して低い場合には、繋ぎ材を設けることなく実施することもできる。
要するに、図4(A)〜(C)に示すように前記水平材70や斜材71は、支柱3、4の高さに応じて、或いは巨礫などの衝突荷重に応じて、必要とする本数を設ければよい。
因みに、図4(B)に示すスリット構造体は、万一、巨礫等により下流側支柱4の上部が破損した場合でも、上側の斜材72によって上流側支柱3を保持できるので、構造全体が倒壊し難い構造である。しかし、通常は、図3に示したスリット構造体2のように、下側の斜材71のみ設ければ足り、上側の斜材72を省略した構成で実施されることが多い。
【0022】
また、図5に示すように、上記繋ぎ材としての斜材71に代えて、前記上流側支柱3の下部を、同上流側支柱3と下流側支柱4との間から傾斜させて立ち上がる補強材8で補強した構成で実施することもできる。前記補強材8は、主に鋼管で製作され、一例として外径が400〜600mm程度、肉厚9〜22mm程度である。
前記補強材8は、補強リブを有するベースプレート80を取り付けた下端部がコンクリート基礎90の内部に埋め込まれて固定されており、上端部が上流側支柱3に溶接されている。前記補強材8の下端部をコンクリート基礎90に固定させる手段としては、例えばコンクリート基礎90内に予め埋め込んだ鞘管に嵌め込むことによって行うこともできる。
前記補強材8は、中間位置で分割され、分割端面に設けた一対のフランジ8aをボルト接合されている。
なお、前記補強材8の傾斜角度は、一例として水平となす角度が45度程度が好ましいが、河川の設置状況に応じて、適宜変更するもとする。
【0023】
前記横繋ぎ材5は、図示例の場合、上流側支柱3の上下方向に所定の間隔をあけて水平向きに3本設けられている。前記横繋ぎ材5は、その両端が左右の上流側支柱3に溶接されており、中間位置で分割され、分割端面に設けた一対のフランジ5aをボルト接合している。
【0024】
隣接するスリット構造体2、2相互間に設けられた張出部51は、その一端が上流側支柱3に溶接されており、前記横繋ぎ材5の延長方向へ、同横繋ぎ材5が張り出すように設けられている。つまり、前記スリット構造体2の間隔をあけた部位も、実質的に土石流に含まれる礫や流木等を捕捉する格子状の遮蔽効果が得られる。なお、前記張出部51は、図示した実施形態に限定されず、設ける位置、形態は任意の設置事項である。
【0025】
前記上下方向において隣接する横繋ぎ材5、5間、及び張出部51、51間には、巨礫と共に中小規模の土石や流木等を効果的に捕捉する分枝鋼管50…が、前記支柱3、4の上下方向に複数本設けられている。前記分枝鋼管50は、前記横繋ぎ鋼管5よりも小径であり、河幅方向に向かって左右に前記上流側支柱3から張り出している。隣接する分枝鋼管50、50同士は連結されておらず、向かい合う前記分枝鋼管50の端部間には所定のスペースが設けられている。
前記分枝鋼管50は、図2に示す実施例の場合、上位の横繋ぎ材5a(5)と中位の横繋ぎ材5b(5)との間に4本設けられ、中位の横繋ぎ材5b(5)と下位の横繋ぎ材5c(5)との間に2本設けているが、河川の設置状況に応じて適宜必要な本数設けるものとする。
なお、過度に中小規模の土石や流木等を捕捉する必要がない場合には、前記分枝鋼管50を設けることなく、或いは部分的に設けた構成で実施することもできる。
【0026】
次に、本発明に係る鋼製スリットダムが奏する作用効果を、図6に基づいて説明する。
先ず、土石流が発生すると、鋼製スリットダム1によって土石や流木等が堰き止められ、該堰き止められた土石や流木等が傾斜度に倣って順次にうず高く堆積してゆき、最終的に鋼製スリットダム1(スリット構造体2)の頂部相当まで堆積する。前記スリット構造体2の頂部相当まで堰き止められた土石や流木等の堆積状態91に沿ってその上面を流れ下ってきた土石や流木等Gがスリット構造体2の頂部を越流する。
このとき、前記スリット構造体2は、下流側支柱4の上端位置を、上流側支柱3の上端位置付近から勢いよく越流した土石流中の巨礫や流木等Gが衝突しない程度の低い位置まで下げているので、前記巨礫や流木等Gを下流側支柱4の上端を飛び越えて直接下流側Bの河床に向かって落下させることができる。また、隣接する下流側支柱4、4同士は連結されていないので、減勢した土石や流木等Gが落下途中で横繋ぎ材に衝突する懸念もなく、効果的に河床に向かって落下させることができる。
よって、下流側支柱4の上端部分付近の構造が、巨礫や流木等Gの激しい衝突によって変形、破損される懸念はほとんどなく、巨礫や流木等Gが激しく衝突する懸念を物理的に回避できる。
【実施例2】
【0027】
次に、実施例2に係る鋼製スリットダム1を図7に基づいて説明する。なお、上記実施例1と同一の部材は同一の符号を付してその説明を省略する。
図7は、実施例2の鋼製スリットダムを構成するスリット構造体2Aを示している。
前記スリット構造体2Aは、上記実施例1で説明したスリット構造体2と比して、下流側支柱4の本数が少ないことを特徴としている。
具体的には、前記スリット構造体2Aは、上流側支柱3を河幅方向に0.5〜2.0m程度の間隔をあけて3本設置し、前記上流側支柱3のうち両端に位置する前記上流側支柱3、3と同じ列に下流側支柱4、4を設置した構成である。
実施例2の鋼製スリットダムは、土石流が越流する懸念が比較的少ない山間部に設置すること考慮した構成であり、下流側支柱4の本数が少ない分、上記実施例1の鋼製スリットダム1と比べて経済的である。
なお、詳細に図示することは省略したが、前記スリット構造体2Aは、山間地の河川等に構築したコンクリート堰堤9、9間の底部に打設したコンクリート基礎90上に複数体設置するものであり、上記実施例1で説明したスリット構造体2と組み合わせて鋼製スリットダム1を構築する構成で実施することもできる。
【実施例3】
【0028】
次に、実施例3に係る鋼製スリットダムを図8に基づいて説明する。なお、上記実施例1と同一の部材は同一の符号を付してその説明を省略する。
図8は、実施例3の鋼製スリットダムを構成するスリット構造体2Bを示している。
前記スリット構造体2Bは、上記実施例1のスリット構造体2と比して、分枝鋼管50、及び張出部51を省略した構成を特徴としている。
実施例3の鋼製スリットダムは、中小規模の礫を必要以上に捕捉する必要がなく、比較的径の大きい巨礫を十分に捕捉する場合を考慮した構成である。実施例3のスリット構造体2Bは、分枝鋼管50及び張出部51を設けない分、上記実施例1又は2のスリット構造体2、2Aと比べて経済的である。
なお、詳細に図示することは省略したが、前記スリット構造体2Bは、山間地の河川等に構築したコンクリート堰堤9、9間の底部に打設したコンクリート基礎90上に複数体設置するものであり、上記実施例1で説明したスリット構造体2、或いは上記実施例2で説明したスリット構造体2Aと組み合わせて鋼製スリットダム1を構築する構成で実施することもできる。
【0029】
以上に図面に示した実施形態に基づいて本発明を説明したが、本発明は、図示例の実施形態の限りではない。例えば、前記上流側支柱3及び下流側支柱4の本数は、図1に示す本数に限定されず、河川の設置状況に応じて、適宜本数を変更して構築するものである。
要するに、その技術的思想を逸脱しない範囲において、当業者が通常に行う設計変更、応用のバリエーションの範囲を含むことを念のために言及する。
【符号の説明】
【0030】
1 鋼製スリットダム
2 スリット構造体
3 上流側支柱
4 下流側支柱
5 横繋ぎ材
50 分枝鋼管
6 天端繋ぎ材
8 補強材
θ 天端繋ぎ材の傾斜角度
A 上流側位置
B 下流側位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9