特許第6652824号(P6652824)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日東精工株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6652824-自動ねじ締め装置 図000002
  • 特許6652824-自動ねじ締め装置 図000003
  • 特許6652824-自動ねじ締め装置 図000004
  • 特許6652824-自動ねじ締め装置 図000005
  • 特許6652824-自動ねじ締め装置 図000006
  • 特許6652824-自動ねじ締め装置 図000007
  • 特許6652824-自動ねじ締め装置 図000008
  • 特許6652824-自動ねじ締め装置 図000009
  • 特許6652824-自動ねじ締め装置 図000010
  • 特許6652824-自動ねじ締め装置 図000011
  • 特許6652824-自動ねじ締め装置 図000012
  • 特許6652824-自動ねじ締め装置 図000013
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6652824
(24)【登録日】2020年1月28日
(45)【発行日】2020年2月26日
(54)【発明の名称】自動ねじ締め装置
(51)【国際特許分類】
   B23P 19/06 20060101AFI20200217BHJP
【FI】
   B23P19/06 J
   B23P19/06 P
【請求項の数】5
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-243962(P2015-243962)
(22)【出願日】2015年12月15日
(65)【公開番号】特開2017-109259(P2017-109259A)
(43)【公開日】2017年6月22日
【審査請求日】2018年11月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000227467
【氏名又は名称】日東精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137486
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 雅直
(72)【発明者】
【氏名】坂本 大和
(72)【発明者】
【氏名】西田 倫典
【審査官】 三宅 達
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−145058(JP,A)
【文献】 特開2010−264514(JP,A)
【文献】 特開2013−132693(JP,A)
【文献】 特開2007−313614(JP,A)
【文献】 特開2012−157905(JP,A)
【文献】 特開平04−093183(JP,A)
【文献】 特開2007−038384(JP,A)
【文献】 特開2008−006561(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23P 19/00−21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ねじ部品に係合可能な駆動ビットを締付用モータにより回転駆動するよう構成されるドライバツールと、このドライバツールと一体に移動する移動部を有する移動位置制御機構と、前記ドライバツールと移動部との移動に制動を加える制動力発生部とを備える自動ねじ締め装置であって、前記移動位置制御機構は移動用ACサーボモータおよび当該ACサーボモータを駆動する移動用モータ駆動部を有し、当該移動用サーボモータ駆動部は移動用ACサーボモータの回転速度とトルクとを制御して移動用ACサーボモータにより発生する推力を制御してねじ部品が相手部材に当接する直前に、移動部にあらかじめ測定されたカムアウト力から、ねじ部品が相手部材に当接する時にカムアウトを防止する適正な推力を発生させるとともに、移動部の移動速度をほぼゼロまたはゼロ後ほぼゼロに保持する構成をなし、前記制動力発生部はドライバツールと移動部との自重よりも大きく、かつ移動部の推力よりも小さい範囲の任意の制動力を持つ構成であることを特徴とする自動ねじ締め装置。
【請求項2】
前記移動位置制御機構は、移動部に発生する推力と制動力発生部の制動力との差分をドライバツールに加える適正推力として設定する制御部を有することを特徴とする請求項1に記載の自動ねじ締め装置。
【請求項3】
前記制動力発生部は、常時突出するピストンロッドを有する低摩擦シリンダでなり、この低摩擦シリンダをドライバツールと一体に移動する構成とすることを特徴とする請求項1または2に記載の自動ねじ締め装置。
【請求項4】
ねじ部品に係合可能な駆動ビットを締付用モータにより回転駆動するよう構成されるドライバツールと、このドライバツールと一体に移動する移動部を有する移動位置制御機構と、前記ドライバツールと移動部との移動に制動を加える制動力発生部とを備える自動ねじ締め装置であって、前記移動位置制御機構はねじ部品が相手部材に当接する直前に、移動部にあらかじめ測定されたカムアウト力から、ねじ部品が相手部材に当接する時にカムアウトを防止する適正な推力を発生させるとともに、移動部の移動速度をほぼゼロまたはゼロ後ほぼゼロに保持する制御部を有し、前記制動力発生部は常時突出するピストンロッドを有する低摩擦シリンダでなり、この低摩擦シリンダをドライバツールと一体に移動する構成であって、ドライバツールと移動部との自重よりも大きく、かつ移動部の推力よりも小さい範囲の任意の制動力を持つ構成であることを特徴とする自動ねじ締め装置。
【請求項5】
ねじ部品に係合可能な駆動ビットを締付用モータにより回転駆動するよう構成されるドライバツールと、このドライバツールと一体に移動する移動部を有する移動位置制御機構と、前記ドライバツールと移動部との移動に制動を加える制動力発生部とを備える自動ねじ締め装置であって、前記移動位置制御機構はねじ部品が相手部材に当接する時にドライバツールとともに移動する移動部の移動速度をほぼゼロまたはゼロ後ほぼゼロに保持する制御部を有し、前記制動力発生部はドライバツールと移動部との自重よりも大きく、かつ移動部の推力よりも小さい範囲の任意の制動力を持つ構成であって、常時突出するピストンロッドを有する低摩擦シリンダでなり、この低摩擦シリンダをドライバツールと一体に移動する構成とすることを特徴とする自動ねじ締め装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ねじ、ボルト等のねじ部品を相手部材に締付ける際に、ねじ部品が相手部材に当接する時の衝撃を軽減して締付けを行うことができる自動ねじ締め装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ねじ部品の締付けに際しては、締付用モータの回転を受けて回転するドライバツールが多用されている。この種のドライバツールは、各種の移動手段により相手部材に向かって移動するように配置されており、その移動路に供給されるねじ部品を相手部材に当接させた後、これを相手部材に成形されためねじ部に締付けるように構成されている。また、前記移動手段としては、締付工程においてドライバツールの移動速度や移動時にドライバツールに加わる推力を任意に調整できることから、ACサーボモータの回転を受けて回転するボールねじおよび軸受ナット部を備えた移動位置制御機構がしばしば利用されている。図11に示すように、この種のドライバツール54による締付途中にあっては、締付開始(図11(a)参照)からねじ部品の一例のねじ52が相手部材53に着座する直前(図11(c)参照)までは低推力が、また着座直前には高推力(ともに、図11中実太線参照)がドライバツール54に付与されている。この状態下で、ねじ52が相手部材53に当接する直前(図11(b)参照)に達すると、ドライバツール54の移動速度、すなわちねじ52の移動速度を高速から低速に切り替えるような制御が行われている。これにより、ねじ52の当接により相手部材53が受ける力、すなわち衝撃力は軽減されるが、特にドライバツール54が上下方向に移動するように配置される場合には、ドライバツール54およびこのドライバツール54を移動させる軸受ナット部を含む移動部(いずれも、図示せず)の自重がねじ52に加わることとなる。そのため、ねじ52が相手部材53に当接する時の衝撃力は、この自重による影響が大きく、速度面の軽減があっても、依然としてかなり大きなものとなっている(図11(b)中、実細線参照)。
【0003】
近年、各種製品の超小型化、軽量化が進み、相手部材として比較的やわらかいアルミダイカストの使用が進み、このアルミダイカストにあらかじめめねじ部を成形しておき、このめねじ部にねじ部品をねじ込む締付工程が増加している。このような締付けにあっては、前述の衝撃力がアルミダイカストに成形されるめねじ部に加わるが、めねじ部は十分な剛性を有しないことから、その一部が破壊される。そのため、ねじ部品がねじ込まれる際には、ねじ部品の斜め締付けを招いたり、ねじ部品のねじ山が半ピッチずれてめねじ部に締付けられたりして、正常にねじの締付けを行うことができないという問題が生じている。
【0004】
また、前述の締付けにあっては、ドライバツール54に設けたトルクセンサ(図示せず)を用いた締付トルク制御が一般的に行われているが、その際に前述の衝撃力をトルクセンサが検出してしまい、特に低トルク域での締付制御を行うことができないという問題が発生している。
【0005】
さらに、前述の製品の超小型化、軽量化にともなって、特に精密機器類にあっては電装部品を装着する実装基板の薄板化が進んでいる。このような実装基板に電装部品をねじにより取付ける際には、ねじが実装基板に当接する時にねじの持つ衝撃力が大きいと、実装基板が反り返ってその破損を招いたり、実装基板に取付けられた電装部品の故障を招いたりするというような問題の発生の恐れが生じている。
【0006】
これら問題を解消するために、ドライバツールおよびこのドライバツールとともに移動する移動部の自重を相殺してねじに加わる衝撃力を軽減してねじの締付けを行うことができる、特許文献1に記載の自動ねじ締め装置が創案されている。この自動ねじ締め装置51は、図12に示すように、ねじ(図示せず)の頭部に係合可能なドライバビット56を締付用ACサーボモータM1により回転駆動するように構成されたドライバツール54と、このドライバツール54と一体に移動するドライバ台55fを持つ移動部55gを有する移動位置制御機構55とを備えている。前記移動位置制御機構55は、移動用ACサーボモータM2の回転を受けて回転するボールねじ55dと軸受ナット部55eとを備えており、ボールねじ55dの回転にともなって軸受ナット部55eがドライバ台55fとともにリニアレール55hに沿って移動するように構成されている。また、この自動ねじ締め装置51は前記移動部55gの移動路に位置して支持力発生部67を備えており、この支持力発生部67に供給されるエアの圧力をエアレギュレータ73およびエアサージタンク72aにより調整、保持してドライバツール54と移動部55gとの自重を支える自重支持力を発生させるように構成されている。この装置によれば、支持力発生部67で発生する自重支持力によりドライバツール54とその移動部55gとの自重を相殺でき、これらの自重がドライバビット56およびその先端のねじに加わることがなく、移動部55gが持つ推力のみでねじを相手部材(図示せず)に締付けることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−313614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述の自動ねじ締め装置51では、ねじが相手部材に当接する際にドライバツール54および移動位置制御機構55の移動部55gの移動速度を低速に切り替えることにより、ねじの持つ衝撃力は破壊力とならない程度までに軽減され、前述の問題を解消することができる。しかしながら、この自動ねじ締め装置51では、ねじが相手部材にねじ込まれる時には、ねじが相手部材にねじ込まれる速度よりわずかに早い速度でドライバビット56を移動させ、ドライバビット56にわずかな推力を加える締付が行われている。そのため、ねじが相手部材に着座する時にドライバビット56にカムアウト力が発生することから、このカムアウト力に打ち勝つように移動用ACサーボモータM2が最大トルクを出力して、ドライバビット56に最大推力が加えられている。この推力は、カムアウト防止には有効であるが、トルクセンサ(図示せず)を備えて締付制御を行うようなドライバツール54にあっては、トルクセンサはこの推力による抵抗力を含めた値として締付トルク値を検出することになる。そのため、正確な締付トルク制御を行うことができないという問題が発生している。
【0009】
また、この時、設定締付トルク値が低い領域にある時には、前述の推力が大きくなると、この推力による抵抗力が設定締付トルク値を超えてしまうことから、ドライバビット56に付与する推力を前述のカムアウトを防止できる範囲で小さくしておかねばならない。
【0010】
前記推力を小さくするためには、移動用ACサーボモータM2に流れる電流値を制限して、移動部55gの推力に係る移動用ACサーボモータM2の出力トルクを小さくする必要がある。しかしながら、移動位置制御機構55に使用される移動用ACサーボモータM2は図10に示す出力トルク―回転速度特性、言い換えれば移動部55gの推力―移動速度特性を有していることから、推力、すなわち出力トルクが小さいと移動用モータM2の回転速度、すなわち移動部55gの移動速度が制限されてしまう(図中、△・×印参照)。そのため、移動用ACサーボモータM2の出力トルクを小さくすると、ドライバツール54および移動部55gの移動速度の選択幅が制限される。これにより、ねじ当接時の速度を低速に保持しながら、ねじが相手部材に当接するまでの移動速度を高速に設定するようなことができず、締付開始から締付完了までの締付けに要する時間を短縮することができないという問題が生じている。
【0011】
本発明の目的は、上記問題を同時に解消することであり、ねじ部品が相手部材に当接する時に相手部材がねじ部品から受ける衝撃を軽減するとともに、ドライバツールに加わる推力の影響を排除した締付けを行うことができる自動ねじ締め装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の自動ねじ締め装置は、上記目的を達成するために、ねじ部品に係合可能な駆動ビットを締付用モータにより回転駆動するよう構成されるドライバツールと、このドライバツールと一体に移動する移動部を有する移動位置制御機構と、前記ドライバツールと移動部との移動に制動を加える制動力発生部とを備える自動ねじ締め装置であって、前記移動位置制御機構は移動用ACサーボモータおよび当該ACサーボモータを駆動する移動用モータ駆動部を有し、当該移動用サーボモータ駆動部は移動用ACサーボモータの回転速度とトルクとを制御して移動用ACサーボモータにより発生する推力を制御してねじ部品が相手部材に当接する直前に、移動部にあらかじめ測定されたカムアウト力から、ねじ部品が相手部材に当接する時にカムアウトを防止する適正な推力を発生させるとともに、移動部の移動速度をほぼゼロまたはゼロ後ほぼゼロに保持する構成をなし、前記制動力発生部はドライバツールと移動部との自重よりも大きく、かつ移動部の推力よりも小さい範囲の任意の制動力を持つ構成となっている。
この構成により、駆動ビットおよびねじ部品に加わる力は、移動部により発生する推力のみで、当該推力がカムアウトを防止する適正な推力となっている。しかも、駆動ビットおよびねじ部品はほぼゼロの移動速度で移動するので、駆動ビットおよびねじ部品が持つ運動エネルギは従来と比べ格段に小さくなり、ねじ部品が相手部材のめねじ部に当接する時に相手部材がねじ部品から受ける衝撃力は破壊力を持たない程度まで軽減され、相手部材が剛性の低いアルミダイカストであっても、これに成形されためねじ部が破壊されることがない。これにより、ねじ部品の斜め締付けを招いたり、ねじ部品のねじ山が半ピッチずれてめねじ部に締付けられたりするようなことがなく、正常にねじ部品の締付けを行うことができる。
また、前述の締付けにあっては、トルクセンサを用いて締付トルク制御が行われることがあるが、その際に前述の衝撃力がトルクセンサにより締付トルクとして検出される。この時には、前述したように衝撃力は軽減されているため、その締付制御に影響を与えることがなく、正確な締付制御を行うことができる。
さらに、前述の衝撃力は軽減されていることから、相手部材が薄板化された実装基板であっても、ねじ部品が当接する時に実装基板が反り返ってその破損を招いたり、実装基板に取付けられた電装部品の故障を招いたりするというようなことは発生しない。
その上、当該構成により、ねじ部品が相手部材に当接する直前位置に達する時のみならず、ねじ部品が相手部材に着座する直前位置に達する時およびねじ部品が相手部材に着座して締付完了直前位置に達する時に、各締付時での移動用ACサーボモータの回転速度を保ちながらトルクを制御してねじ部品が持つ衝撃力を軽減することができる最適な推力であって、あらかじめ測定されたカムアウト力から、各締付時でカムアウトを防止する推力を設定できる。
【0013】
本発明の移動位置制御機構は、移動部に発生する推力と制動力発生部の制動力との差分をドライバツールに加える適正推力として設定する制御部を有する構成となっている。
この構成により、ねじ部品が相手部材に着座する時にドライバツールの駆動ビットがカムアウトするのを適正な推力で防止することができるばかりか、トルクセンサを使用して締付トルク制御が行われるような場合に、ドライバツールの推力の影響を受けずに正確な締付トルク制御を行うことができる。
また、制動力発生部の制動力がドライバツールと移動部との自重よりも大きく、かつ移動部の推力よりも小さい範囲で設定可能で、かつ所定の差分を保持しながらこの制動力を大きくすることができ、移動部の推力を任意に大きく設定することができる。この推力が大きくなると、移動位置制御機構に使用される移動用モータの特性からして、移動用モータの移動速度の選択幅が広くなる。これにより、制動力発生部の制動力の大きさに応じて移動部の移動速度を大きく設定することができ、締付開始から駆動ビットの先端のねじ部品が相手部材に当接する直前までの移動部の速度をより高速に設定することができる。
【0014】
また、本発明の制動力発生部は、制動力発生部の作動時に制動力発生部に生じる抵抗力を小さくしてこの抵抗力から生じる推力を小さくして低トルク域での締付トルク制御を行えるようにするため、常時突出するピストンロッドを有する低摩擦シリンダでなり、この低摩擦シリンダをドライバツールと一体に移動する構成とすることが望ましい。
【0015】
本発明のもう一つは、ねじ部品に係合可能な駆動ビットを締付用モータにより回転駆動するよう構成されるドライバツールと、このドライバツールと一体に移動する移動部を有する移動位置制御機構と、前記ドライバツールと移動部との移動に制動を加える制動力発生部とを備える自動ねじ締め装置であって、前記移動位置制御機構はねじ部品が相手部材に当接する直前に、移動部にあらかじめ測定されたカムアウト力から、ねじ部品が相手部材に当接する時にカムアウトを防止する適正な推力を発生させるとともに、移動部の移動速度をほぼゼロまたはゼロ後ほぼゼロに保持する制御部を有し、前記制動力発生部は常時突出するピストンロッドを有する低摩擦シリンダでなり、この低摩擦シリンダをドライバツールと一体に移動する構成であって、ドライバツールと移動部との自重よりも大きく、かつ移動部の推力よりも小さい範囲の任意の制動力を持つ構成となっている。
当該構成により、駆動ビットおよびねじ部品に加わる力は、移動部により発生する推力のみで、当該推力がカムアウトを防止する適正な推力となっている。しかも、駆動ビットおよびねじ部品はほぼゼロの移動速度で移動するので、駆動ビットおよびねじ部品が持つ運動エネルギは従来と比べ格段に小さくなり、ねじ部品が相手部材のめねじ部に当接する時に相手部材がねじ部品から受ける衝撃力は破壊力を持たない程度まで軽減され、相手部材が剛性の低いアルミダイカストであっても、これに成形されためねじ部が破壊されることがない。
また、制動力発生部の作動時に制動力発生部に生じる抵抗力が小さく、この抵抗力から生じる推力が小さくなり、低トルク域での締付トルク制御を行うことができる
【0016】
本発明のさらにもう一つは、ねじ部品に係合可能な駆動ビットを締付用モータにより回転駆動するよう構成されるドライバツールと、このドライバツールと一体に移動する移動部を有する移動位置制御機構と、前記ドライバツールと移動部との移動に制動を加える制動力発生部とを備える自動ねじ締め装置であって、前記移動位置制御機構はねじ部品が相手部材に当接する時にドライバツールとともに移動する移動部の移動速度をほぼゼロまたはゼロ後ほぼゼロに保持する制御部を有し、前記制動力発生部はドライバツールと移動部との自重よりも大きく、かつ移動部の推力よりも小さい範囲の任意の制動力を持つ構成であって、常時突出するピストンロッドを有する低摩擦シリンダでなり、この低摩擦シリンダをドライバツールと一体に移動する構成となっている。
当該構成により、制動力発生部の作動時に制動力発生部に生じる抵抗力を小さくしてこの抵抗力から生じる推力を小さくして低トルク域での締付トルク制御を行えるようにすることができる。
【発明の効果】
【0017】
以上説明した本発明によれば、ねじ部品が相手部材に当接する時に相手部材がねじ部品から受ける衝撃を軽減するとともに、ドライバツールに加わる推力の影響を排除した締付けを行うことができる自動ねじ締め装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態に係るねじ締め装置の締付工程におけるドライバビットの推力および移動速度の制御状態を説明する説明図。
図2】本発明の実施形態に係るねじ締め装置の正面図。
図3図2のA−A線断面図。
図4】本発明の実施形態に係るねじ締め装置の制御装置を説明するブロック図。
図5】本発明の実施形態に係るねじ締め装置の締付け開始時を説明する動作図。
図6】本発明の実施形態に係るねじ締め装置の吸引スリーブ下死点時を説明する動作図。
図7】本発明の実施形態に係るねじ締め装置のねじ部品当接直前時を説明する動作図。
図8】本発明の実施形態に係るねじ締め装置のねじ部品着座直前時を説明する動作図。
図9】本発明の実施形態に係るねじ締め装置の締付完了時を説明する動作図。
図10】本発明の実施形態に係るねじ締め装置に使用される締付用ACサーボモータの出力トルク―回転速度(推力―移動速度)特性表。
図11】従来の一般的なドライバツールの締付工程におけるドライバビットに加わる推力および移動速度の制御状態を説明する説明図。
図12】従来の自動ねじ締め装置の概略構成を説明する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態に係る自動ねじ締め装置を図面に基づき説明する。図2および図3に示すように、1は自動ねじ締め装置であり、支柱(図示せず)に取付けられる定置式であっても、ロボット(図示せず)の先端に取付けられる先端ツールのいずれであってもよい。この自動ねじ締め装置1は、ねじ部品の一例のねじ2を相手部材3に締付けるドライバツール4と、これを所定位置まで移動させる移動位置制御機構5とを有している。前記ドライバツール4は、ねじ2に係合可能な駆動ビットの一例のドライバビット6と、このドライバビット6を回転駆動する締付用ACサーボモータ(以下、締付用モータという)M1とを有している。前記駆動ビットは、前記ドライバビット6に限定されるものではなく、ねじ部品に応じて、例えばねじ部品がボルト(図示せず)、またはナット(図示せず)である時にはボックスビット(図示せず)に取り換えられる。
【0020】
前記移動位置制御機構5は、直立する基板5aの上、下部にそれぞれ固定される上ブラケット5b、下ブラケット5c、これら上、下ブラケット5b、5c間に回転可能に保持されるボールねじ5dおよび軸受ナット部5eを有している。前記軸受ナット部5eは、ボールねじ5dに螺合しており、ボールねじ5dの回転にともなってボールねじ5dに沿って移動するように構成されている。また、前記移動位置制御機構5は、前記上ブラケット5bに駆動軸(図示せず)を上方にしてかつボールねじ5dと並列に取付けられる移動用ACサーボモータ(以下、移動用モータという)M2(図4参照)を有している。この移動用モータM2の駆動軸は、前記上ブラケット5bを貫通し、駆動用プーリ(図示せず)、被動用プーリ7bおよびこれらを巻回する伝達ベルト(図示せず)でなるプーリ機構7および被動プーリ7bと一体に回転する軸継手8を介してボールねじ5dに接続されている。前記プーリ機構7は、駆動用プーリまたは被動用プーリ7bのいずれかを交換して、その伝達比率を変え、移動用モータM2の回転をボールねじ5dに伝達するように構成されている。これにより、ボールねじ5dの最大速度を移動用モータM2よりも遅くして、出力トルクを大きくでき、小さいパワーの移動用モータ(図示せず)の代用が可能となる。また、移動用モータを小さいパワーのものに代えなければ、推力設定範囲の拡大が可能となる。
【0021】
前記移動位置制御機構5は前記軸受ナット部5eと一体に移動するドライバ台5fを有し、この軸受ナット部5eとドライバ台5fとにより移動位置制御機構5の移動部5gが構成されている。このドライバ台5fは、前記上、下ブラケット5b,5cに並列に固定される2本のガイドシャフト(図中1本のみ記載)9に摺動可能に案内されており、移動用モータM2の正転または逆転により軸受ナット部5eがボールねじ5dに沿って移動するにともなって昇降するように構成されている。前記ドライバ台5fは、図示はしないが、移動部5gを前記基板5aに取付けられるリニアレール(図示せず)に沿って移動する構成であってもよい。
【0022】
前記ドライバ台5fには、前記締付用モータM1がその駆動軸M1aを下方にして、かつドライバ台5fを貫通するように取付けられている。この締付用モータM1の駆動軸M1aにはドライバビット6を一端に持つ連接軸10が連結具11を介して後退可能に連結されており、ドライバビット6が相手部材3に当接しても後退できるように構成されている。なお、前記連結具11は前記連接軸10を後退できないような直結する構成であってもよい。
【0023】
また、前記ドライバ台5fには、その下面側に位置して前記連結具11および連接軸10を内方に位置させる保持スリーブ12が取付けられており、この保持スリーブ12には同心上に位置するスリーブ取付具13が回転しないように、かつ後退可能に弾力付勢されて取付けられている。前記スリーブ取付具13には、吸引スリーブ14が前記連接軸10およびドライバビット6の周囲を隙間を持って覆うように取付けられており、その下端はドライバビット6の先端よりも下方に位置している。また、前記スリーブ取付具13にはホース継手13aが吸引スリーブ14の内部に連通するように取付けられており、このホース継手13aを介してエア吸引機構(図示せず)が接続されている。このエア吸引機構は、吸引スリーブ14内のエアを吸引して、後記チャック爪16cに保持されるねじ2をドライバビット6の先端に吸着するように構成されている。
【0024】
前記吸引スリーブ14の先端は、前記下ブラケット5cにチャック台15を介して取付けられるチャックユニット16内を挿通可能に配置されており、前記ドライバ台5fの下降にともなってドライバビット6とともにチャックユニット16から突出する構成となっている。また、この吸引スリーブ14にはストッパリング14aが固定されており、このストッパリング14aがチャックユニット16の上端に当接することにより吸引スリーブ14はその位置を下死点としで停止するように構成されている。このストッパリング14aの取付け位置は、吸引スリーブ14が相手部材3に当接する直前の位置で停止できる位置に設定されている。
【0025】
前記チャックユニット16は、前記吸引スリーブ14が通過する貫通穴16aを有するチャック本体16bと、貫通穴16aを常時閉止するように弾力付勢される一対のチャック爪16c、16c(以下、チャック爪16cという)と、このチャック爪16cの開放を抑えるチャック爪抑え16dとを有している。前記チャック本体16bの貫通穴16a内には、吸引スリーブ14の先端が後記連接パイプ16eの先端上方に位置するように配置されおり、吸引スリーブ14の下降時にはその移動路から連接パイプ16eを押し出し、後記ねじ保持穴16fに供給されるねじ2を吸引するように構成されている。前記チャック爪16cは、吸引スリーブ14の移動路上にねじ保持穴16fを有しており、このねじ保持穴16fにエア給送されるねじ2を保持するように構成されている。前記チャック爪抑え16dは、チャック爪16cに嵌合可能な嵌合凹部16d1を有し、連接パイプ16eの上側に面して回転自在に配置されている。また、このチャック爪抑え16dは後記ねじりコイルばね16jにより弾力付勢されて、その一部は連接パイプ16eに当接するとともに、嵌合凹部16d1はチャック爪16cに嵌合している。これにより、チャック爪16cがエア給送されるねじ2の衝突により開放されることがなく、また連接パイプ16eの回転によりチャック爪抑え16dが一体に回転してその嵌合凹部16d1がチャック爪16cから離れ、チャック爪16cとの係合が解かれる構成が得られる。
【0026】
前記チャック本体16bには、前記貫通穴16aに斜めに連接する連接パイプ16eがその先端を常時ねじ保持穴16fの上方に位置するようにねじりコイルばね16jにより弾力付勢されて配置されている。この連接パイプ16eは、吸引スリーブ14の通過時に吸引スリーブ14により押し出されるように回転してその先端をチャック爪16c外に位置させるとともに、前記チャック爪抑え16dをチャック爪16cが開放可能な位置まで回転させる構成となっている。また、前記チャック本体16bには前記連接パイプ16eに連通するねじ案内穴16gが設けられており、このねじ案内穴16gに連通するようにねじ2をエア給送するねじ供給ホース16hが取付けられている。
【0027】
前記ドライバ台5fには、図2に示すように制動力発生部を構成する低摩擦シリンダ17が取付けられており、そのピストンロッド17aの先端はドライバ台5fよりも下方に位置するように構成されている。前記低摩擦シリンダ17は、その作動時に生じる抵抗力が小さいため、この抵抗力から生じる推力も小さく、低トルク域での締付トルク精度に影響を与えない。また、前記ピストンロッド17aの移動路上にはストッパボルト17bが取付けられており、吸引スリーブ14の先端がその下死点に達する前に、ピストンロッド17aがストッパボルト17bに当接して所定の制動力でドライバ台5fの移動に制動を加えるように構成されている。
【0028】
前記自動ねじ締め装置1の制御装置18は、図4に示すように各種駆動信号を出力する制御部19と、移動用モータM2を駆動する移動用モータ駆動部20と、締付用モータM1を駆動する締付用モータ駆動部21と、低摩擦シリンダ17に所定の制動力を出力させるシリンダ駆動部22とを備えている。前記移動用モータ駆動部20は、パルスエンコーダEにより検出される移動用モータM2の回転量から移動用モータM2の回転速度を検出してこの回転速度が各目標速度指令値に対応する速度に保持されるように移動用モータM2にパワーを供給するように構成されている。また、この移動用モータ駆動部20は、前述のパワー供給と同時に、移動用モータM2の出力トルクに係る電流値を検出して、これを各目標トルク指令値に保持するように構成されている。この移動用モータM2の電流値、すなわち出力トルクの制御により、ボールねじ5dの回転にともなって移動する軸受ナット部5eおよびドライバ台5fでなる移動部5gに加わる推力が制御される。
【0029】
前記締付用モータ駆動部21は、目標締付速度指令値に応じた速度で締付用モータM1を回転させ、その回転を受けて回転するドライバビット6に生じる締付トルクをトルクセンサ(図示せず)により検出して、これが目標締付トルクとなるように締付制御を行うように構成されている。
【0030】
前記シリンダ駆動部22は、電空変換部23aに入力される後記制動力発生指令値に応じてエアの圧力を調整する電空レギュレータ23を有し、エア源からのエアがエアサージタンク22aを介して所定圧力に調整、保持されて低摩擦シリンダ17に供給されるように構成されている。前記電空レギュレータ23は、エアの圧力を調整することにより低摩擦シリンダ17のピストンロッド17aにドライバツール4と移動部5gとの自重よりも大きく、かつ前記移動用モータM2の回転により移動部5gに生じる推力よりも小さい範囲の任意の制動力を持たせる構成となっている。この構成により、ドライバツール4および移動部5gの自重を移動用モータM2の駆動にともなって発生する推力の一部により相殺して、ドライバツール4およびその先端のねじ2が持つ衝撃力を軽減することができる。また、前述の構成により、移動用モータM2の回転にともなって移動部5gに発生する推力とドライバツール4および移動部5gの自重との差分をドライバビット6およびねじ2に加える適正推力として移動用モータM2の各目標トルクを設定することができる。
【0031】
また、前記制動力は前述の範囲で設定可能であることから、前記差分を保持しながら制動力を大きくすることができるので、移動用モータM2により発生する移動部5gの推力を任意に大きく設定することができる。この推力が大きくなると、移動位置制御機構5に使用される移動用モータM2の特性(図10参照)からして、移動用モータM2の移動速度の選択幅が広くなる。
【0032】
前記制御部19は、図1および図4に示すようにスタートスイッチ(図示せず)から締付スタート信号を受けると、移動用モータ駆動部20から送られる移動用モータM2の回転量を基に移動位置制御機構5の移動部5g、すなわちドライバツール4の一部をなすドライバビット6の先端位置を検出して、このドライバビット6の先端位置に応じて移動用モータ駆動部20、締付用モータ駆動部21、シリンダ駆動部22、ねじ供給部(図示せず)、エア吸引機構(図示せず)それぞれに目標速度指令値(第1、第2、第3の3種類)、目標トルク指令値(第1、第2、第3の3種類)、目標締付速度指令値(第1、第2、第3の3種類)、制動力発生指令値、ねじ供給指令信号その他の駆動信号を出力するように構成されている。
【0033】
前記第1目標速度指令値、第2目標速度指令値、第3目標速度指令値は、それぞれ締付開始時、ねじ当接直前時、ねじ込み開始時のドライバビット6の移動速度を設定するもので、移動用モータM2の最大速度が得られる値、前記最大速度の2%程度の速度が得られる値、前記最大速度の5%程度の速度が得られる値が選択されている。
【0034】
前記第1目標トルク指令値、第2目標トルク指令値、第3トルク指令値は、それぞれねじ込み時、ねじ着座時、締付完了時にドライバビット6がカムアウトするのを防止できる推力が得られる値となっている。前記カムアウト時のカムアウト力は、締付作業開始前にドライバビット6をねじ込み時、ねじ着座時、締付完了時それぞれの移動速度で移動させた状態で、前記ねじ2に対応するテストピースを備える荷重検出治具(図示せず)によって検出される。
【0035】
前記第1目標締付速度指令値、第2目標締付速度指令値、第3目標締付速度指令値は、締付段階に応じたドライバビット6の回転速度を設定している。すなわち、前記第1目標締付速度指令値はねじ2が相手部材3のめねじ部3aに当接する時にドライバビット6をわずかに回転する程度の速度で逆転させ、前記第2目標締付速度指令値はドライバビット6を高速(締付用モータ21の締付速度とねじ2のピッチにより決まる仮締め速度)で回転させる値となっている。さらに、前記第3目標締付速度指令値は着座直後にドライバビット6を高速から低速(急激に上昇する締付トルクの検出ができる本締め速度)に切り替えて回転させる値となっている。
【0036】
前記制御部19は、具体的には締付開始時には、制動力発生指令値、ねじ供給指令信号およびエア吸引指令信号を送った後に、図1(a)および図1(b)に示すように移動用モータ駆動部20に高速度が得られる第1目標速度指令値と、ねじ2が相手部材3のめねじ部3aにねじ込まれる際にドライバビット6がカムアウトしない程度の推力が得られる第1目標トルク指令値とを送るように構成されている。前記制御部19は、図1(c)に示すように前記ドライバビット6の先端に保持されるねじ2が相手部材3のめねじ部3aに当接する直前位置に達すると、前述の第1目標トルク指令値を維持しながら、移動用モータ駆動部20にねじ込み速度よりも遅い速度(本実施形態では、ほぼゼロであるが、ゼロとしてその後にほぼゼロであってもよい)が得られる第2目標速度指令値を送り、前記ねじ2が相手部材3のめねじ部3aに当接するまでの時間経過後にねじ込み速度よりもわずかに早い速度が得られる第3目標速度指令値を送るように構成されている。これにより、ねじ2が相手部材3に当接する時のドライバツール4の移動速度をほぼゼロにする構成およびねじ2が相手部材3のめねじ部3aに当接してから着座するまでの間の推力の増加を招かず、低トルク域での締付トルク制御に影響を与えない構成が得られる。
【0037】
前記制御部19は、前記ねじ2が相手部材3のめねじ部3aに当接する位置に達すると、締付用モータ駆動部21にわずかに回転する程度の速度が得られる第1目標締付速度指令値とともに逆転駆動指令信号を送るように構成されている。また、この制御部19は逆転駆動指令信号を送って後ねじ込み速度、すなわち仮締め速度を得る第2目標締付速度指令値とともに正転駆動指令信号を送るように構成されている。さらに、前記制御部19は図1(d)に示すように前記ねじ2が相手部材3に着座する直前位置、図1(e)に示す締付完了位置に達すると、前述の第3目標速度指令値を保持しながら、それぞれ第2目標トルク指令値、第3目標トルク指令値を移動用モータ駆動部20に送るように構成されている。
【0038】
上記ねじ締め装置1において、スタートスイッチ(図示せず)から締付スタート信号が出力されると、ねじ供給指令信号がねじ供給部に、エア吸引指令信号がエア吸引機構に送られる。これにより、図5に示すようにねじ2がチャックユニット16のチャック爪16c内にエア給送されるとともに、吸引スリーブ14に連接されるエア吸引機構が作動する。これとともに、制動力発生指令値がシリンダ駆動部22内の電空レギュレータ23の電空変換部23aに送られ(図4参照)、低摩擦シリンダ17には制動力発生指令値に応じた圧力のエアが供給され、そのシリンダロッド17aは所定の制動力を保持する状態となる。
【0039】
前記締付スタート信号が出力されると同時に、図1(a)および図5に示すように第1目標速度指令値および第1目標トルク指令値が移動用モータ駆動部20に送られ(図4参照)、移動用モータM2が高速で回転し、軸受けナット部5eが高速で、かつ第1目標トルク指令値に応じた推力を保持して移動する。前記移動用モータM2の回転にともなって、その回転量がパルスエンコーダEにより検出され、軸受ナット部5eおよびドライバ台5fでなる移動位置制御機構5の移動部5gの位置、すなわちドライバツール4の一部をなすドライバビット6および吸引スリーブ14の位置が検出される。このドライバビット6および吸引スリーブ14がチャック爪16cを押し開いて通過する際には、チャック爪16cに保持されるねじ2は吸引スリーブ14内に吸引され、ドライバビット6の先端に保持される。この時、前記第1目標トルク指令値は、移動用モータM2の回転により生じる推力とドライバツール4および位置移動制御機構5の移動部5gの自重との差分がねじ着座直前までの間ドライバビット6およびねじ2に加える適正推力となるように設定されている。また、前記低摩擦シリンダ17の制動力は前記差分を保持しながら、前述の範囲で大きくなるように設定されている。そのため、ドライバツール4および移動部5gの自重を移動用モータM2により発生する推力の一部により相殺して、ドライバツール4およびその先端のねじ2が持つ衝撃力を軽減すると同時に、移動用モータM2の回転により生じる推力を前記差分が保持される範囲で任意に大きくすることができる。これにより、位置移動制御機構5に使用される移動用モータM2の特性に基づき、移動用モータM2の速度を幅広く選択できる(図10参照)。そのため、ねじ2が相手部材3に当接する際の速度をほぼゼロに保持しながら、締付開始からドライバビット6の先端のねじ2が相手部材3のめねじ部3aに当接する直前までの移動部5gの速度をより高速に設定することができる。
【0040】
前記移動用モータM2が駆動されて、ドライバビット6および吸引スリーブ14が移動し、図1(b)に示すように吸引スリーブ14の先端が相手部材3に取付けられる被締結部材24に近くなると、低摩擦シリンダ17のピストンロッド17aがストッパボルト17bに当接する。これにより、移動用モータM2により発生する推力と低摩擦シリンダ17の制動力との差分がドライバビット6とねじ2に加える適正推力として保持されながら、ドライバビット6およびねじ2は吸引スリーブ14とともに移動する。
【0041】
前記ドライバビット6および吸引スリーブ14がさらに移動し、図6に示すように吸引スリーブ14の先端が被締結部材24に近くなる。この時、吸引スリーブ14に取付けられたストッパリング14aがチャックユニット16の上端に当接し、この位置が吸引スリーブ14の下死点となって吸引スリーブ14が停止する。その後は、ドライバビット6およびねじ2が吸引スリーブ14に対して移動することとなり、ねじ2が吸引スリーブ14から突き出ることができる。
【0042】
この状態で、ドライバビット6およびねじ2がさらに移動して、図1(c)および図7に示すようにねじ2が相手部材3のめねじ部3aに当接する直前位置に達すると、ドライバビット6とねじ2に前述の差分の力が加わった状態を保持しながら、第2目標速度指令値が移動用モータ駆動部20に送られる(図4参照)。そのため、移動用モータM2がほぼゼロとなる速度で回転し、軸受けナット部5eがほぼゼロとなる速度で移動する。この時、ドライバツール4および移動部5gの自重は低摩擦シリンダ17の制動力の一部により相殺されているので、ドライバビット6およびねじ2に加わる力は、移動用モータM2により発生する推力のみとなる。そのため、ドライバビット6およびねじ2が持つ運動エネルギーは従来と比べ格段に小さくなり、ねじ2が相手部材3のめねじ部3aに当接する時に相手部材3がねじ2から受ける衝撃力は破壊力を持たない程度まで軽減される。これにより、相手部材3が剛性の低いアルミダイカストであっても、これに成形されためねじ部3aを破壊することがないばかりか、その後の締付工程においてねじ2の斜め締付けを招いたり、ねじ2のねじ山が半ピッチずれてめねじ部3aに締付けられたりするようなことがなく、正常にねじ2の締付けを行うことができる。
【0043】
また、前記締付用モータM1にトルクセンサが配置されて、締付トルク制御が行われるような場合には、前述の衝撃力がこのトルクセンサにより検出されるが、この時には前述したように衝撃力は軽減されている。そのため、ねじ2が相手部材3に当接する際の抵抗力は小さく、低トルク域での締付制御であっても、その締付精度に影響を与えることがない。
【0044】
前記ドライバビット6およびねじ2がさらに移動して、ねじ2が相手部材3のめねじ部3aに当接する位置に達すると、ドライバビット6とねじ2に前述の差分の力が加わった状態を保持しながら、第3目標速度指令値が移動用モータ駆動部20に送られる(図1(c)参照)。そのため、移動用モータM2が軸受けナット部5eをねじ込み速度よりわずかに早い速度で移動させるように回転し、軸受けナット部5eとともにドライバツール4が移動する。この時、逆転駆動指令信号が第1目標締付速度指令値とともに締付用モータ駆動部21に送られ(図4参照)、締付用モータM1は一旦逆転する。その後、正転駆動指令信号がねじ込み速度、すなわち仮締め速度を得る第2目標締付速度指令値とともに締付用モータ駆動部21に送られ、締付用モータM1は正転する。これにより、相手部材3のめねじ部3aに損傷があってもねじ2が斜め食付きを起こすようなことはない。また、ドライバビット6は前述のねじ込み速度、すなわち仮締め速度を保ちながら移動するので、ねじ2が相手部材3に当接してから着座するまでの間にドライバビット6およびねじ2に加わる推力が増加することがなく、低トルク域での締付トルク精度に影響を与えるようなことがない。その上、前述したようにねじ当接時にねじ2の持つ衝撃力は軽減されているので、相手部材3が薄板化された実装基板であっても実装基板が反り返ってその破損を招いたり、実装基板に取付けられた電装部品の故障を招いたりするというようなことは発生しない。
【0045】
前記ドライバビット6およびねじ2がさらに移動して、図1(d)および図8に示すようにねじ2が相手部材3に着座する直前位置に達すると、前述のドライバビット6の速度が保持された状態で、第2トルク指令値が移動用モータ駆動部20に送られる(図4参照)。そのため、移動用モータM2はねじ着座時にカムアウトが発生しない十分な出力トルクを保持して回転し、軸受けナット部5eおよびドライバ台5fでなる移動部5gが前述の出力トルクによって発生する推力を持って移動する。これにより、ドライバビット6およびねじ2はねじ着座時にカムアウトが発生しない十分な推力を持つことができる。
【0046】
前記ドライバビット6およびねじ2がさらに移動して、図1(e)および図9に示すように前記ねじ2が相手部材3に着座して締付完了直前位置に達すると、前述のドライバツール4の移動速度が保持された状態で、第3目標トルク指令値が移動用モータ駆動部20に送られる(図4参照)。そのため、締付完了までカムアウトが発生しない十分な出力トルクを保持して移動用モータM2が回転し、軸受けナット部5eおよびドライバ台5fでなる移動部5gが前述の出力トルクにより発生する推力を持って移動する。同時に、本締め速度を得る第3目標締付速度指令値が締付用モータ駆動部21に送られ、ねじ2の締付けが本締め速度で継続されるので、締付トルクが増加して目標締付トルクに達すると、締付用モータM1および移動用モータM2が停止して所定の締付けを完了することができる。この時、この締付トルクの増加にともなって、ドライバビット6に大きなカムアウト力が発生するが、前記移動部5g、すなわちドライバビット6に加わる推力により、カムアウトが発生することはない。
【0047】
以上説明したように、本発明はねじ2に係合可能なドライバビット6を締付用モータM1により回転駆動するよう構成されるドライバツール4と、このドライバツール4と一体に移動する移動部5gを有する移動位置制御機構5と、前記ドライバツール4と移動部5gとの移動に制動を加える低摩擦シリンダ17とを備える自動ねじ締め装置であって、前記移動位置制御機構5は移動用モータM2および当該移動用モータM2を駆動する移動用モータ駆動部20を有し、当該移動用モータ駆動部20は移動用モータM2の回転速度とトルクとを制御して移動用モータM2により発生する推力を制御してねじ2が相手部材3に当接する直前に、移動部5gにあらかじめ測定されたカムアウト力から、ねじ2が相手部材3に当接する時にカムアウトを防止する適正な推力を発生させるとともに、移動部5gの移動速度をほぼゼロまたはゼロ後ほぼゼロに保持する構成をなし、前記低摩擦シリンダ17はドライバツール4と移動部5gとの自重よりも大きく、かつ移動部5gの推力よりも小さい範囲の任意の制動力を持つ構成となっている。
この構成により、ドライバビット6およびねじ2に加わる力は、移動部5gにより発生する推力のみで、当該推力がカムアウトを防止する適正な推力となっている。しかも、ドライバビット6およびねじ2はほぼゼロの移動速度で移動するので、ドライバビット6およびねじ2が持つ運動エネルギは従来と比べ格段に小さくなる。そのため、ねじ2が相手部材3のめねじ部3aに当接する時に相手部材3がねじ2から受ける衝撃力は破壊力を持たない程度まで軽減され、相手部材3が剛性の低いアルミダイカストであっても、これに成形されためねじ部3aが破壊されることがない。これにより、ねじ2の斜め締付けを招いたり、ねじ2のねじ山が半ピッチずれてめねじ部3aに締付けられたりするようなことがなく、正常にねじ2の締付けを行うことができる。
また、前述の締付けにあっては、トルクセンサを用いて締付トルク制御が行われることがあるが、その際に前述の衝撃力がトルクセンサにより検出される。この時には、前述したように衝撃力は軽減されており、またドライバツール4 に加えられる推力も設定どおりの適正な推力に保持されるため、低トルク域での締付制御であっても、その制御に影響を与えることがない。
さらに、相手部材3が薄板化された実装基板であっても、ねじ当接時にねじ2 の持つ衝撃力は軽減されているので、実装基板が反り返ってその破損を招いたり、実装基板に取付けられた電装部品の故障を招いたりするようなことは発生しない。
その上、前述の構成により、ねじ2が相手部材3に当接する直前位置に達する時のみならず、ねじ2が相手部材3に着座する直前位置に達する時およびねじ2が相手部材3に着座して締付完了直前位置に達する時に、各締付時での移動用モータM2の回転速度を保ちながらトルクを制御してねじ2が持つ衝撃力を軽減することができる最適な推力であって、あらかじめ測定されたカムアウト力から、各締付時でカムアウトを防止する推力を設定できる。
【0048】
本発明の移動位置制御機構5は、移動部5gに発生する推力と低摩擦シリンダ17の制動力との差分をドライバツール4に加える適正推力として設定する制御部19を有する構成となっている。
この構成により、ねじ2が相手部材3に着座する時にドライバツール4のドライバビット6がカムアウトするのを適正な推力で防止することができる。
また、トルクセンサを使用して締付トルク制御が行われるような場合に、ドライバツール4の推力の影響を受けずに正確な締付トルク制御を行うことができる。
さらに、低摩擦シリンダ17の制動力はドライバツール4と移動部5gとの自重よりも大きく、かつ移動部5gの推力よりも小さい範囲で設定可能で、かつ所定の差分を保持しながら制動力を大きくすることができ、移動部5gの推力を任意に大きく設定することができる。この推力が大きくなると、移動位置制御機構5に使用される移動用モータM2の特性からして、移動用モータM2の移動速度の選択幅が広くなる。これにより、低摩擦シリンダ17の制動力の大きさに応じて移動部5gの移動速度を大きく設定することができ、締付開始からドライバビット6の先端のねじ2が相手部材3に当接する直前までの移動部5gの速度をより高速に設定することができる。
【0049】
また、本発明の低摩擦シリンダ17は、常時突出するピストンロッド17aを有し、ドライバツール4と一体に移動する構成であってもよい。これにより、低摩擦シリンダ17の作動時に低摩擦シリンダ17に生じる抵抗力が小さく、この抵抗力から生じる推力も小さくなって低トルク域での締付トルク制御を行うことができる
【0050】
本発明のもう一つは、ねじ2に係合可能なドライバビット6を締付用モータM1により回転駆動するよう構成されるドライバツール4と、このドライバツール4と一体に移動する移動部5gを有する移動位置制御機構5と、前記ドライバツール4と移動部5gとの移動に制動を加える低摩擦シリンダ17とを備える自動ねじ締め装置であって、前記移動位置制御機構5はねじ2が相手部材3に当接する直前に、移動部5gにあらかじめ測定されたカムアウト力から、ねじ2が相手部材3に当接する時にカムアウトを防止する適正な推力を発生させるとともに、移動部5gの移動速度をほぼゼロまたはゼロ後ほぼゼロに保持する制御部19を有し、前記低摩擦シリンダ17は常時突出するピストンロッドを有し、ドライバツール4と一体に移動する構成であって、ドライバツール4と移動部5gとの自重よりも大きく、かつ移動部5gの推力よりも小さい範囲の任意の制動力を持つ構成となっている。
当該構成により、ドライバビット6およびねじ2に加わる力は、移動部5gにより発生する推力のみで、当該推力がカムアウトを防止する適正な推力となっている。しかも、ドライバビット6およびねじ2はほぼゼロの移動速度で移動するので、ドライバビット6およびねじ2が持つ運動エネルギは従来と比べ格段に小さくなり、ねじ2が相手部材3のめねじ部3aに当接する時に相手部材3がねじ2から受ける衝撃力は破壊力を持たない程度まで軽減され、相手部材3が剛性の低いアルミダイカストであっても、これに成形されためねじ部3aが破壊されることがない。
また、低摩擦シリンダ17の作動時に低摩擦シリンダ17に生じる抵抗力が小さくなり、この抵抗力から生じる推力も小さくなって低トルク域での締付トルク制御を行うことができる。
【0051】
発明のさらにもう一つは、ねじ2に係合可能なドライバビット6を締付用モータM1により回転駆動するよう構成されるドライバツール4と、このドライバツール4と一体に移動する移動部5gを有する移動位置制御機構5と、前記ドライバツール4と移動部5gとの移動に制動を加える低摩擦シリンダ17とを備える自動ねじ締め装置であって、前記移動位置制御機構5はねじ2が相手部材3に当接する時にドライバツール4とともに移動する移動部5gの移動速度をほぼゼロまたはゼロ後ほぼゼロに保持する制御部19を有し、前記低摩擦シリンダ17はドライバツール4と移動部5gとの自重よりも大きく、かつ移動部5gの推力よりも小さい範囲の任意の制動力を持つ構成であって、常時突出するピストンロッド17aを有し、ドライバツール4と一体に移動する構成となっている。
当該構成により、低摩擦シリンダ17の作動時に低摩擦シリンダ17に生じる抵抗力が小さくなり、この抵抗力から生じる推力も小さくなって低トルク域での締付トルク制御を正確に行うことができる。
【0052】
なお、本発明の各部の具体的な構成は上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0053】
1…自動ねじ締め装置、
2…ねじ、
3…相手部材、
4…ドライバツール、
5…移動位置制御機構、
5g…移動部、
6…ドライバビット、
14…吸引スリーブ、
16c…チャック爪、
17…低摩擦シリンダ、
17a…ピストンロッド、
17b…ストッパボルト、
19…制御部、
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12