(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6652835
(24)【登録日】2020年1月28日
(45)【発行日】2020年2月26日
(54)【発明の名称】固体電解コンデンサおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 9/00 20060101AFI20200217BHJP
H01G 9/028 20060101ALI20200217BHJP
【FI】
H01G9/00 290H
H01G9/028 G
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-255918(P2015-255918)
(22)【出願日】2015年12月28日
(65)【公開番号】特開2017-120806(P2017-120806A)
(43)【公開日】2017年7月6日
【審査請求日】2018年6月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004606
【氏名又は名称】ニチコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】特許業務法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】峯村 英利
(72)【発明者】
【氏名】梅原 孝洋
(72)【発明者】
【氏名】上田 晃
(72)【発明者】
【氏名】大月 輝喜
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 宗且
【審査官】
多田 幸司
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2015/013443(WO,A1)
【文献】
特表2016−530711(JP,A)
【文献】
国際公開第2015/129515(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/00
H01G 9/028
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体酸化皮膜が形成された陽極電極箔と、陰極電極箔とを、セパレータを介して巻回してなるコンデンサ素子を、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)/ポリスチレンスルホン酸(PSS)を含むポリマー分散液に含浸および乾燥させる工程を有する固体電解コンデンサの製造方法であって、
前記工程によって、前記誘電体酸化皮膜と接触する導電性高分子層が形成されること、及び、前記分散液が、グリシジル基を有するシランカップリング剤と、ジグリシジル化合物とを含有していること
を特徴とする、固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項2】
前記ジグリシジル化合物が、グリシジル基以外に、少なくとも一つの水酸基および/またはエーテル結合を分子内に有することを特徴とする、請求項1に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項3】
前記シランカップリング剤が、式(I)で示される構造を有し、前記ジグリシジル化合物が、式(II)で示される構造を有する、請求項1または2に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【化1】
【請求項4】
前記分散液が、前記シランカップリング剤を0.5〜5重量%の量で、前記ジグリシジル化合物を0.5〜5重量%の量で各々含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項5】
誘電体酸化皮膜が形成された陽極電極箔と、陰極電極箔とを、セパレータを介して巻回したコンデンサ素子を有する固体電解コンデンサであって、前記誘電体酸化皮膜上に導電性高分子層を有し、前記誘電体酸化皮膜と接触している導電性高分子層が、少なくとも、グリシジル基を有するシランカップリング剤、ジグリシジル化合物、およびポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)/ポリスチレンスルホン酸(PSS)を含有することを特徴とする、固体電解コンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解コンデンサおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体電解コンデンサとして、表面に誘電体酸化皮膜が形成された陽極電極箔と、陰極電極箔とをセパレータを介して巻回したコンデンサ素子の陽極電極箔上に、導電性高分子層を形成したものが知られている。
【0003】
固体電解コンデンサは一般的に、エッチングで表面積を増大させたアルミニウム、タンタル、ニオブ等の弁作用を有する金属箔上に誘電体酸化皮膜を形成し、この誘電体酸化皮膜上に導電性高分子層を形成させて、電極を引き出して構成される。この導電性高分子層は、電解コンデンサにおける真の陰極としての役割を担っており、電解コンデンサの電気特性に大きな影響を及ぼす。
【0004】
導電性高分子層とは、電子導電性である固体の電解質を含む層であって、ポリチオフェンの誘導体であるポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロールなどの導電性高分子を固体電解質として用いることが知られている(特許文献1)。
【0005】
このような導電性高分子層を形成する方法として、予め酸化剤とモノマーとの混合液を調製し、この混合液にコンデンサ素子を浸漬して含浸する方法や、酸化剤とモノマーとを別々に順次コンデンサ素子に含浸する方法がある。例えば、特許文献2記載の固体電解コンデンサは、重合性モノマーと酸化剤とを混合した混合液にコンデンサ素子を浸漬し、コンデンサ素子内で導電性ポリマーの重合反応を発生させている。そして、固体電解質層を形成した後に、このコンデンサ素子を所定のイオン伝導性物質に浸漬して、コンデンサ素子内の空隙部にイオン伝導性物質を充填することによって、高温リフロー下における耐電圧特性の劣化を防止している。
上記の方法は、コンデンサ素子上で重合反応を進行させながら導電性高分子層を形成するものであるが、これらの方法には、重合の進行に伴う溶液粘度の変化や、酸化剤とモノマーとの混合が不十分になることなど、工程管理上の困難があることも知られていた。
【0006】
一方、予め重合反応させた導電性高分子を含む分散液を、コンデンサ素子に含浸および乾燥することにより、導電性高分子層を形成する方法も知られている。この方法は、誘電体酸化皮膜上で重合反応を行う必要がないため、工程の制御が比較的容易であり量産性の面で有利であるという特徴がある(特許文献3)。
【0007】
特許文献3の発明は、ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS)の分散液中に結着剤を溶解させた分散液を、コンデンサ素子に含浸および乾燥させて、導電性高分子層を形成させることを特徴とし、これにより高温・高湿下(85℃−85%R.H.)でも特性変化が少なく耐湿性の高い固体電解コンデンサを得ることができる。
【0008】
しかしながら、固体電解コンデンサの特性に対する要望は年々高まっており、より高温度(例えば、130〜150℃)下でも特性変化の少ない固体電解コンデンサの開発が望まれている。
特に、PEDOT/PSS分散液を使用して巻回型コンデンサ素子内に形成された導電性高分子層は、フィルム状態であるため、何ら添加物を添加しない場合には、ストレス(高熱によるストレス等の物理的ストレス)下では、誘電体酸化皮膜と導電性高分子層の剥離が生じやすく、特性が変化しやすい(特に高温度雰囲気下での特性変化が大きい)という問題がある。
【0009】
誘電体層と導電性高分子層の密着性に関して、特許文献4には、ニオブからなる誘電体層と、導電性高分子層との間に、シランカップリング剤の反応で得られる中間層とポリスチレンスルホン酸層を形成することにより、誘電体層と導電性高分子層の密着性を向上させる技術が開示されている。
しかしながら、たとえ特許文献4に開示されたシランカップリング剤をPEDOT/PSS分散液に添加して導電性高分子層を形成したとしても、誘電体酸化皮膜と導電性高分子層の密着性が改善されるのみで、高温度な条件では、導電性高分子の劣化が生じ、やはり特性悪化が大きくなるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平2−15611号
【特許文献2】特許第4779277号
【特許文献3】特開2015−118978号
【特許文献4】特開2005−322664号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、このような従来技術における問題点を解決し、高ストレス下でも、特性が悪化しにくい固体電解コンデンサを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、前記課題を解決するために検討を繰り返した結果、巻回型コンデンサ素子を、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)/ポリスチレンスルホン酸(PSS)を含むポリマー分散液に含浸および乾燥させて導電性高分子層を形成する際に、2種類の化合物を当該分散液に添加することにより、PSS同士の結着性、および誘電体酸化皮膜とPEDOT/PSS層の結着性を改善することに成功し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち本発明は、誘電体酸化皮膜が形成された陽極電極箔と、陰極電極箔とを、セパレータを介して巻回してなるコンデンサ素子を、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)/ポリスチレンスルホン酸(PSS)を含むポリマー分散液に含浸および乾燥させる工程を有する、固体電解コンデンサの製造方法であって、
前記工程によって、前記誘電体酸化皮膜と接触する導電性高分子層が形成されること、及び、前記分散液が、グリシジル基を有するシランカップリング剤と、ジグリシジル化合物とを含有していることを特徴とする。
【0014】
本発明では、予め重合反応させた導電性高分子を含む分散液を、コンデンサ素子に含浸し、乾燥させることによって、導電性高分子層(PEDOT/PSS層)を形成するため、工程の管理が行いやすい。また、分散液中に含まれるグリシジル基を有するシランカップリング剤が、誘電体酸化皮膜とPEDOT/PSS層の結着性を改善し、ジグリシジル化合物がPSS同士の結着性を改善するため、誘電体酸化皮膜と導電性高分子層の剥離が生じにくいだけでなく、導電性高分子の劣化も生じにくくなり、高温ストレス下でも特性が低下しにくい固体電解コンデンサを製造することができる。
【0015】
前記ジグリシジル化合物は、グリシジル基以外に、少なくとも一つの水酸基および/またはエーテル結合を分子内に有することが好ましい。
【0016】
前記シランカップリング剤の好ましい例として、式(I)で示される構造を有する化合物が挙げられ、前記ジグリシジル化合物の好ましい例として、式(II)で示される構造を有する化合物が挙げられる。
【化1】
【0017】
また、前記分散液は、前記シランカップリング剤を0.5〜5重量%の量で、前記ジグリシジル化合物を0.5〜5重量%の量で各々含むことが好ましい。
【0018】
また本発明は、誘電体酸化皮膜が形成された陽極電極箔と、陰極電極箔とを、セパレータを介して巻回したコンデンサ素子を有する固体電解コンデンサであって、前記誘電体酸化皮膜上に導電性高分子層を有し、
前記誘電体酸化皮膜と接触している導電性高分子層が、少なくとも、グリシジル基を有するシランカップリング剤、ジグリシジル化合物、およびポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)/ポリスチレンスルホン酸(PSS)を含有することを特徴とする。
【0019】
本発明に係る固体電解コンデンサは、本発明に係る製造方法で製造することができ、上述した優れた特性を有する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、高ストレス下でも、特性が悪化しにくい固体電解コンデンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】コンデンサ素子の概要を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に係る電解コンデンサは、
図1に示すように、陽極電極箔1と陰極電極箔3がセパレータ2を介して巻回されたコンデンサ素子4を有し、該コンデンサ素子4が有底円筒形状の外装ケース(図示せず)に収納された構造を有することが好ましい。陽極電極箔1としては、所定の幅の箔状の弁作用金属の表面をエッチング処理で粗面化した後に陽極酸化処理を行って、表面上に誘電体酸化皮膜が形成されたものを用いる。この弁金属作用としては、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタンから選択される少なくとも一つを含む金属が好ましく、中でもアルミニウムが好ましい。
また、陰極電極箔3も陽極電極箔1と同様にアルミニウム等の弁作用金属で形成されており、エッチング処理により表面が粗面化されたもの(粗面化箔)が使用される。この陰極電極箔3としては、他にエッチング処理を施さないプレーン箔も使用でき、また、前記粗面化箔もしくはプレーン箔の表面に、チタンやニッケルやその炭化物、窒化物、炭窒化物またはこれらの混合物からなる金属薄膜や、カーボン薄膜を形成したコーティング箔も使用することができる。
【0023】
エッチング処理および陽極酸化処理は公知の方法で行うことが可能であり、購入品を用いることもできる。例えば、陽極酸化処理に用いる化成液は、カルボン酸基を有する有機酸塩類、リン酸等の無機酸塩類から選択される溶質を有機溶媒または無機溶媒に溶解した化成液が使用できる。
【0024】
本発明の電解コンデンサにおけるセパレータ2としては、加水分解性を有さないセパレータ、例えば、ポリアクリロニトリル、アラミド、ポリエチレンテレフタレートを主体とするセパレータが好ましく、このようなセパレータを用いることで、特に高温領域において、より耐久性に優れた電解コンデンサを得ることができる。
なお、
図1に示されるように、陽極電極箔1および陰極電極箔3からは、それぞれ陽極リード線5および陰極リード線6が引き出されている。
【0025】
本発明の電解コンデンサは、電解質として導電性高分子を有し、当該導電性高分子層は、前記誘電体酸化皮膜と接触している。導電性高分子層は1層でも複数でもよいが、少なくとも
前記誘電体酸化皮膜と接触している層は、PEDOT/PSSと、グリシジル基を有するシランカップリング剤と、ジグリシジル化合物とを含むポリマー分散液(PEDOT/PSS分散液)に、コンデンサ素子を浸漬・含浸させた後、乾燥させることによって形成される。
【0026】
PEDOT/PSS分散液としては、溶媒として水を使用したものが好ましく、分散液中のPEDOT/PSSの濃度は1.0〜5.0重量%が適切であり、2.0〜4.0重量%がより好ましい。
【0027】
本発明では、PEDOT/PSSに加えて、グリシジル基を有するシランカップリング剤と、ジグリシジル化合物とを含む分散液を使用することを特徴とする。
シランカップリング剤は、加水分解されてシラノール基(Si−OH)を生じるアルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基など)と、有機官能基を併せ持つ有機ケイ素化合物であり、本発明では前記有機官能基として、グリシジル基を有するシランカップリング剤を使用する。
PEDOT/PSS分散液におけるシランカップリング剤の濃度は、0.5〜5.0重量%が好ましく、1.0〜3.0重量%がESR変化を抑制できるのでより好ましい。
【0028】
本発明で使用できる好ましいシランカップリング剤として、下記式(I)で示される化合物が挙げられる。式(I)中、nは0〜2の整数であり、特に0または1であることが好ましい。Rは−CH
3、−C
2H
5または−OCOCH
3を示す。
【化2】
特に好ましいシランカップリング剤として、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0029】
前記分散液に含まれるもう一つの化合物である、ジグリシジル化合物は、分子中に二つのグリシジル基を有する。
PEDOT/PSS分散液中におけるジグリシジル化合物の濃度は、0.5〜5.0重量%が好ましく、1.0〜3.0重量%がESR変化を抑制できるのでより好ましい。
【0030】
本発明で使用できる好ましいジグリシジル化合物として、グリシジル基以外に、少なくとも一つの水酸基および/またはエーテル結合を分子内に有する化合物が挙げられ、特に好ましいジグリシジル化合物として、下記式(II)に示される化合物が挙げられる。式(II)中のnは、1〜20が好ましく、特に2〜10が好ましい。
【化3】
上記式(II)に該当する好ましいジグリシジル化合物として、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、n=約4〜9のポリエチレングリコールジグリシジルエーテルが挙げられる。
【0031】
次に、上記の固体電解コンデンサを製造するための本発明の好ましい一例について説明する。
まず、所定の幅に切断された陽極電極箔および陰極電極箔に外部引き出し電極用のタブ端子を接続し、セパレータを介して巻回してコンデンサ素子を作製する。陽極電極箔としては、表面に誘電体酸化皮膜が形成された弁金属箔(アルミニウム、タンタル等)を用いる。
次に、このコンデンサ素子に化成液中で電圧を印加して切り口化成(素子化成)を行い、誘電体酸化皮膜の修復を行う。この際、使用される化成液としては、アジピン酸および/またはアジピン酸塩(例えば0.5〜3重量%のアジピン酸アンモニウム)を含む水溶液が挙げられる。
【0032】
その後、上記工程で得られたコンデンサ素子を、PEDOT/PSSを分散状態で含み、さらに、グリシジル基を有するシランカップリング剤と、ジグリシジル化合物とを含むポリマー分散液に少なくとも1回含浸させ、乾燥を行って溶媒を除去し、導電性高分子層(PEDOT/PSS層)を形成する。このようにPEDOT/PSSの分散液を使用した場合には、誘電体酸化皮膜上で重合反応を行う場合よりも均一に導電性高分子層を形成することが可能であり、また、コンデンサ素子内に未反応モノマーや酸化剤等の不要物質が残存することがないため、特に高温度下における誘電体酸化皮膜の劣化が抑えられる。
なお、PEDOT/PSS分散液から形成された導電性高分子層は、誘電体酸化皮膜と十分に密着していない場合があるが、本発明では、グリシジル基を有するシランカップリング剤の添加により、誘電体酸化皮膜とPEDOT/PSSの結着性を大幅に改善することができ、さらに、ジグリシジル化合物の添加により、PSS同士の結着性を向上させることができるため、高温等のストレス下でも良好な特性を発揮できる導電性高分子層を得ることができる。
【0033】
導電性高分子層を形成する工程において、ポリマー分散液への含浸は常圧で行ってもよいが、減圧下(例えば、5〜100kPa)で行うことがより好ましい。含浸時間は、一般に10〜30分程度が適切である。また、含浸および乾燥は、2回以上繰り返して行うことができる。乾燥条件は、溶媒である水を除去可能かつコンデンサ素子に悪影響を及ぼさない限り制限されないが、例えば室温で20〜40時間静置することによって、あるいは85〜200℃で30〜120分間静置することによって、乾燥させることができる。
【0034】
その後、このコンデンサ素子を金属ケースに収納し、金属ケースの開口部をカーリングし、150℃程度の温度条件にてコンデンサに定格電圧を印加してエージング処理を施すことにより、本発明の固体電解コンデンサが得られる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されない。
【0036】
[実施例1]
所定の幅に切断された陽極電極箔および陰極電極箔に外部引き出し電極用のタブ端子を接続した。陽極電極箔としては、表面にエッチング処理および陽極酸化処理を施すことによって、誘電体酸化皮膜が形成されたアルミニウム箔を用いた。
前記の陽極電極箔およびアルミニウムからなる陰極電極箔を、ポリエチレンテレフタレート(PET)を主体としたセパレータを介して巻回し、巻回素子を完成した。
【0037】
続いて、陽極電極箔の切り口や外部引き出し電極取り付け時に欠損した誘電体酸化皮膜の修復、いわゆる素子化成を行った。アジピン酸アンモニウムを水溶媒に溶解させた2.0wt%の化成液を用いて、誘電体酸化皮膜の化成電圧値に近似した電圧を印加し、素子化成を行った。
【0038】
次に、固体電解コンデンサの陰極層である導電性高分子層の形成を行った。
まず、2.3wt%のPEDOT/PSSを含むポリマー分散液(溶媒:水)に、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランを2.0wt%、および、ジエチレングリコールジグリシジルエーテルを2.0wt%となるように添加した。この分散液に、コンデンサ素子を10kPaの減圧下で15分間浸漬・含浸させ、150℃・60分間加熱することにより水分を除去した。
上記PEDOT/PSS含浸・乾燥工程を3回繰り返す事により、コンデンサ素子内に導電性高分子層を形成した。
【0039】
上記方法で導電性高分子層が形成されたコンデンサ素子を金属ケース内に収納し、金属ケースの開口部をカーリングした。
続いて、150℃程度の温度条件にてコンデンサに定格電圧を印加しエージング処理を施し、実施例1の固体電解コンデンサ(16V−270μF、φ8×9mmL)を完成した。
【0040】
[実施例2]
上記ポリマー分散液中に添加するシランカップリング剤を、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランに変更し、ジグリシジル化合物を、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(n=約9)に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2の固体電解コンデンサを製造した。
【0041】
[従来例]
上記ポリマー分散液中にシランカップリング剤およびジグリシジル化合物を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、従来例の固体電解コンデンサを製造した。
[比較例1]
上記ポリマー分散液中にシランカップリング剤を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1の固体電解コンデンサを製造した。
【0042】
[比較例2]
上記ポリマー分散液中にジグリシジル化合物を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、比較例2の固体電解コンデンサを製造した。
【0043】
実施例、従来例、比較例で使用したPEDOT/PSS分散液に含まれる物質を以下にまとめる。
従来例:添加無し
実施例1:シランカップリング剤(2.0wt%)、ジグリシジル化合物(2.0wt%)
実施例2:シランカップリング剤(2.0wt%)、ジグリシジル化合物(2.0wt%)
比較例1:ジグリシジル化合物(2.0wt%)
比較例2:シランカップリング剤(2.0wt%)
【0044】
[電解コンデンサの特性評価]
実施例1〜2、従来例および比較例1〜2の固体電解コンデンサについてそれぞれ、下記の試験にて特性を評価した。
<高温度信頼性試験>
試験条件:145℃−500時間、無負荷放置(電圧印加無し)
試験前後の、静電容量(Cap)、tanδ(損失角の正接)、等価直列抵抗(ESR)および漏れ電流(LC)を測定し、試験前後の変化率をそれぞれ計算した。
【0045】
結果を表1に示す。
【表1】
【0046】
表1の実験結果に示される通り、シランカップリング剤とジグリシジル化合物を含むPEDOT/PSS分散液から形成された導電性高分子層を有する実施例1および実施例2の固体電解コンデンサは、シランカップリング剤とジグリシジル化合物を添加せずに導電性高分子層を形成した従来例の固体電解コンデンサと比べて、電気特性の変化率が著しく改善されていた。また、実施例1および実施例2の固体電解コンデンサは、シランカップリング剤とジグリシジル化合物のどちらか一方のみを含むPEDOT/PSS分散液を使用して製造された比較例1および比較例2の固体電解コンデンサと比べても、電気特性の変化率が顕著に低く、高温度環境下でも、電気特性が悪化しにくいことが実証された。
【0047】
従来例に示される通り、PEDOT/PSS分散液から形成された導電性高分子層はフィルム状態であり、耐高温ストレス性に課題があるが、本発明では、グリシジル基を有するシランカップリング剤の添加により、誘電体酸化皮膜と導電性高分子層の結着性が大幅に改善し、且つジグリシジル化合物の添加により、PSS同士の結着性が向上するため、ストレス下においても固体電解コンデンサの電気特性の悪化が著しく抑制されると考えられる。
【0048】
なお、上記実施例では、ジグリシジル化合物として、ジエチレングリコールジグリシジルエーテルおよびポリエチレングリコールジグリシジルエーテルを用いたが、他に、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテルを用いても同様の効果が得られる。
【0049】
また、上記実施例では、グリシジル基を有するシランカップリング剤として、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランおよび3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランを用いたが、他に、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランを用いても同様の効果が得られる。
【0050】
さらに、上記実施例では、本発明のPEDOT/PSS分散液(シランカップリング剤とジグリシジル化合物を含む)をコンデンサ素子に含浸・乾燥させる工程を3回繰り返したが、少なくとも1回含浸させればよく、また、本発明のPEDOT/PSS分散液を含浸・乾燥させる工程に加えて、シランカップリング剤とグリシジル化合物を含まないPEDOT/PSS分散液、公知の添加剤を含むPEDOT/PSS分散液や他の導電性高分子を含む分散液を含浸させることもできる。
【符号の説明】
【0051】
1 陽極電極箔
2 セパレータ
3 陰極電極箔
4 コンデンサ素子
5 陽極リード線
6 陰極リード線