(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6652871
(24)【登録日】2020年1月28日
(45)【発行日】2020年2月26日
(54)【発明の名称】錫の回収方法
(51)【国際特許分類】
C22B 25/00 20060101AFI20200217BHJP
C22B 3/12 20060101ALI20200217BHJP
C22B 3/46 20060101ALI20200217BHJP
C25C 1/14 20060101ALI20200217BHJP
【FI】
C22B25/00 101
C22B3/12
C22B3/46
C25C1/14
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2016-65541(P2016-65541)
(22)【出願日】2016年3月29日
(65)【公開番号】特開2017-179420(P2017-179420A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2019年1月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】306039131
【氏名又は名称】DOWAメタルマイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(72)【発明者】
【氏名】金澤 隆敦
【審査官】
祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−074129(JP,A)
【文献】
特開2009−074128(JP,A)
【文献】
国際公開第2015/056159(WO,A1)
【文献】
特開2014−025121(JP,A)
【文献】
特開2009−035778(JP,A)
【文献】
特開2014−065941(JP,A)
【文献】
特開平04−191340(JP,A)
【文献】
特開平11−335899(JP,A)
【文献】
特開2012−251238(JP,A)
【文献】
特開2005−200736(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
錫含有金属を苛性ソーダ水溶液と混合し、金属錫を投入して、液中の不純物元素を置換析出して浸出液を得る工程、
得られた浸出液に酸素を気泡径50μm以下で吹込み、Sn(II)のイオン濃度が100mg/L以下となるまで酸化して電解液とする工程、
電解液を電解採取し電着錫を回収する工程、
を行うことを特徴とする錫の回収方法。
【請求項2】
前記電解液を電解採取し電着錫を回収する工程において、前記電解液の温度を、50〜100℃とすることを特徴とする請求項1に記載の錫の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、錫の電解採取において、電流効率を向上しうる錫の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、錫含有物から錫を回収する方法として、苛性ソーダ中で酸化しながら錫を含む浸出液を得て、この浸出液を電解液として電解採取することが知られている(例えば特許文献1参照)。
また、錫含有廃棄物をアルカリで浸出溶解した液において、錫の一部が2価の錫イオンとなり電着状態が悪化するのを防ぐため、エアレーションを行い電解採取の際の電位を調整することが提案されている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−74128号公報
【特許文献2】特開2014−25121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の方法では、錫は電解採取できるものの2価のSnイオンすなわちSn(II)の影響による電着状態の悪化により電流効率の低下のおそれがあった。電着状態が悪化すると電着錫を鋳造し製品化する場合に酸化錫となってしまい、結局、錫メタルの回収率が落ちてしまうことも問題であった。また、特許文献2の方法では、電位調整をエアレーションで行うため電位調整に多くの時間が掛かってしまうことや、空気中の二酸化炭素によって電解液の遊離苛性ソーダが中和され、薬剤コストが高くなってしまうという問題があった。
【0005】
そこで本発明は、電流効率をより向上させることで錫の回収率向上を達成する錫の回収方法を提供することを、主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、浸出液に対して空気(エアー)ではなく酸素を吹き込み、Sn(II)を速やかにSn(IV)へ酸化させることで、電解採取に用いる電解液中のSn(II)の含有量を低減させ、さらには電解液の遊離苛性ソーダの消費量を抑制し、電流効率をより向上させて錫を回収できることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明による錫の回収方法は、
錫含有金属を苛性ソーダ水溶液と混合し、金属錫を投入して、液中の不純物元素を置換析出して浸出液を得る工程、
得られた浸出液に酸素を吹込み、Sn(II)のイオン濃度が100mg/L以下となるまで酸化して電解液とする工程、
電解液を電解採取し電着錫を回収する工程、
を行うことを特徴とする。
また、好ましくは、前記浸出液への酸素が気泡径50μm以下で吹込まれることを特徴とする。
更に、好ましくは、前記電解液の温度を、50〜100℃とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電流効率をより向上させることで錫の回収率向上を達成する錫の回収方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1で得られた電着錫を示す写真である。
【
図2】比較例1で得られた電着錫を示す写真である。
【
図3】実施例1〜2、比較例2〜3での反応時間と電位を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の錫の回収方法の実施の形態について、一例にて説明する。ただ、以下に挙げる例はあくまで一例であり、本発明は以下の内容に限定されるものではない。
本明細書においては、浸出の際に投入する錫を金属錫と称し、電解採取において得られる錫を電着錫と称する。
【0011】
まず、錫が金属形態(錫、他元素との金属間化合物)で含まれる粉末を苛性ソーダ浴中に溶解し、酸素ガスや空気などを吹き込みながら錫を選択的に浸出させる。
得られた錫を含む浸出液に、更に金属錫(粉末、ショット、板など)を投入して、セメンテーションにより浸出液中の不純物元素を置換析出させて除去する。
【0012】
次に、得られた浸出液を電解液として用い、電解採取により電着錫を錫メタルとして回収する。このときSn(II)の濃度が高いと錫の電着が悪くなるため、本発明では、浸出液に酸素を吹込み、Sn(II)をSn(IV)へ酸化させる。このときの酸素吹込みは、非空気であるところの酸素ガスを使用する。なお、酸素ガスに別のガスを混合しても構わないが、酸化の効率を鑑みると酸素ガスのみを使用するのが好ましい。この酸素吹込みは、Sn(II)のイオン濃度が100mg/L以下となるまで行うのがよい。
【0013】
なお、特許文献1においても浸出に際する吹き込みを行っているが、この吹き込みは、後述の錫メタルの電解採取の前に別途行われる酸素の吹き込みとは全く異なる。つまり、本例においては、浸出に際する吹き込みに加え、電解採取の前に、酸素の吹き込みを行う。
【0014】
電解採取においては、電解液の温度を50〜100℃とするのが好ましく、70〜90℃とするのがさらに好ましい。50℃より高ければ効果的に錫を電着させることができ、また、70℃より高ければ電流効率を良好なものとすることができる。
【0015】
電解採取を行うときの酸化還元電位は、Ag/AgCl参照電極で−500mVとなるまで調整することが好ましい。これより高ければSn(II)を起因とする異常電着は生じにくくなるため好ましい。
【0016】
また、酸素吹込みを行う際は、接触頻度と酸化効率を高める観点から酸素の気泡径を小さくするのがよく、50μm以下とすることが良い。酸化に要する時間を大幅に短縮できるためである。より好ましくは30μm以下、更に好ましくは20μm以下とすることが良い。
酸素吹込みのための具体的な装置構成としては特に限定は無いが、酸素吹込みをセラミックス製、ガラス製、樹脂製などの散気管を用いることで微細な気泡径を形成できるため好ましい。酸素吹込みの際に散気管などの装置を用いることによって、酸素の気泡と電解液との接触効率を高めることができる。
【0017】
なお、電着錫を電解採取した後の電解後液は、以下の反応によって苛性ソーダ水溶液を再生するため、錫の浸出に繰り返し使用することができる。
Na
2[Sn(OH)
4]→Sn+2NaOH+H
2O+0.5O
2
本発明に係る手法ならば、Sn(II)を酸化させる際に大気(エアー)を使用する場合に比べ、大気中の二酸化炭素に起因する電解液の遊離苛性ソーダの消費量を抑制することが可能となる。そうなると、苛性ソーダ水溶液を再生する際にも苛性ソーダを新たに追加する量や追加に伴う作業量を低減させることができ、経済的に非常に有利となる。このことを鑑みると、上記の錫の選択的な浸出の際に、別サイクルにて電着錫を電解採取した後の電解後液を使用するのが好ましい。
【実施例】
【0018】
以下、本発明による錫の回収方法の実施例について詳細に説明する。
【0019】
[実施例1]
まず、鉛製錬工程で発生したドロスからPbを分離した原料に適量の溶剤(FeO、SiO
2、CaO)を混合し、原料の10%程度のコークスを加えて、1200℃で溶融還元した。なお、溶剤を添加するのは、酸化錫の活量を下げて錫の回収率を高くするためのスラグを作るためである。
【0020】
得られた還元メタルは溶融後、圧縮エアーを用いて300μm以下まで粉砕した。還元メタル粉末に、苛性ソーダ(NaOH)を50g/Lの水溶液中で酸素とともに酸化浸出を行い、浸出後液を得た。得られた浸出後液へ金属錫を5g/L添加して不純物を置換除去し、錫電解元液を得た。
【0021】
この錫電解元液中には錫が98g/L含まれていた。このうちSn(II)は4.6g/L含まれていた。酸化還元電位(参照電極Ag/AgCl)は−1010mVであった。錫電解元液を65℃に加熱し、酸素を放出可能な多孔を有する球を管の先端に配置した散気管(木下式ガラスボール)を、多孔球が下方側になるように錫電解元液中に配置し、この散気管により気泡径20〜30μmの酸素を流量0.1L/minにて錫電解元液に吹き込み、酸化還元電位が−500mVになるように調整した。このときSn(II)のイオン濃度が100mg/Lとなるまで酸素吹込みを行い電解液を得た。
酸素吹込みに要した時間を測定し、酸素吹込み前後での中和滴定により消費苛性ソーダ量を求め、後に電解採取を行い電流効率を算出した。電解採取はアノードおよびカソードとしてステンレス板を用い、液温65℃、電流密度100A/m
2、51時間通電を行った。この結果を表1に示す。電流効率を算出する際の理論電着量はスズ(II)、スズ(IV)の濃度別に求めた。
【0022】
その後、電解液にアノードおよびカソードとしてステンレス板を入れ、液温65℃、電流密度100A/m
2、51時間かけて電解採取により錫を回収した。
図1に得られた電着錫を示す写真を示す。
【0023】
<実施例2>
散気管の代わりに、円筒管の先端を曲げたものを容器の底に平行に配置し、この円筒管を用いて気泡径5mmの酸素を錫電解元液に吹き込んだこと以外は、実施例1と同様の操作を繰り返して錫の回収を行った。
【0024】
<比較例1>
酸素又は大気(エアー)の吹込みを行わなかったこと以外は、実施例1と同様の操作を繰り返して錫の回収を行った。
図2に得られた電着錫を示す写真を示す。本例においてはそもそも酸化を行っておらず、錫電解元液にSn(II)が多量に存在している。これに起因して樹枝状電着が生成してしまい、
図1と比べてみると、
図2においては板状に電着せず電着したはずの錫メタルが剥がれ落ちてしまったものも観察された。
【0025】
<比較例2>
気泡径20〜30μmの酸素を吹き込む代わりに、上記の円筒管を用いて気泡径5mmの大気(エアー)を苛性ソーダ溶液内に吹き込んだこと以外は、実施例1と同様の操作を繰り返して錫の回収を行った。
【0026】
<比較例3>
吹き込む気体を酸素から大気(エアー)に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を繰り返して錫の回収を行った。
【0027】
【表1】
【0028】
表1より、酸素酸化を行った実施例1及び2では、大気(エアー)吹込みをした比較例2及び3より、酸化時間、苛性ソーダ消費率が少なく、電流効率が高くなっていた。即ち、比較例の大気吹込みでは、遊離苛性ソーダ濃度が消費されてしまっており電解後液を繰り返し使用した際に、新たに苛性ソーダを添加しればならないためコスト高となってしまう。その一方、本実施例の酸素吹込みでは上記の問題点を解決することができる。
また、実施例1と実施例2を比べてみると、実施例1の場合すなわち散気管で所定の気泡径を吹き込んだ場合は、酸化時間の大幅な短縮が達成できた。