特許第6652906号(P6652906)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6652906
(24)【登録日】2020年1月28日
(45)【発行日】2020年2月26日
(54)【発明の名称】パルス電源装置およびパルス発生方法
(51)【国際特許分類】
   H02M 9/04 20060101AFI20200217BHJP
【FI】
   H02M9/04 A
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-207804(P2016-207804)
(22)【出願日】2016年10月24日
(65)【公開番号】特開2018-74622(P2018-74622A)
(43)【公開日】2018年5月10日
【審査請求日】2019年4月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004606
【氏名又は名称】ニチコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】特許業務法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 均
(72)【発明者】
【氏名】土田 浩二
【審査官】 柳下 勝幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−237147(JP,A)
【文献】 特開2003−009548(JP,A)
【文献】 Hiren Canacsinh (他3名),Voltage droop compensation based on resonant circuit for generalized high voltage solid-state Marx modulator,2016 IEEE Applied Power Electronics Conference and Exposition (APEC),米国,IEEE,2016年 3月20日,pages 3637-3640
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 9/04
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの半導体マルクス回路を備え、前記半導体マルクス回路の主スイッチがオン状態のときに、前記主スイッチに直列接続された前記半導体マルクス回路の主コンデンサを放電させてパルス出力を行うパルス電源装置であって、
前記半導体マルクス回路に直列接続された少なくとも1つの充放電スイッチ付バウンサ回路を備え、
前記充放電スイッチ付バウンサ回路は、
前記主スイッチおよび前記主コンデンサに直列接続された出力スイッチと、
前記出力スイッチに直列接続されたバウンサ回路と、を備え、
前記バウンサ回路は、
前記出力スイッチに直列接続されたバウンサコンデンサと、
前記バウンサコンデンサに並列接続された、バウンサリアクトルおよびバウンサスイッチからなる第1直列回路と、を備える
ことを特徴とするパルス電源装置。
【請求項2】
前記バウンサスイッチは、サイリスタと、前記サイリスタに逆並列接続されたダイオードと、を備える
ことを特徴とする請求項1に記載のパルス電源装置。
【請求項3】
前記充放電スイッチ付バウンサ回路は、
高電位側の第1入力端子および第1出力端子と、
低電位側の第2入力端子および第2出力端子と、
前記第1入力端子−前記第1出力端子間に介装された第1充電スイッチと、
前記第2入力端子−前記第2出力端子間に介装された前記出力スイッチおよび前記バウンサ回路からなる第2直列回路と、
一端が前記第1充電スイッチと前記第1出力端子との接続点に接続され、他端が前記出力スイッチと前記バウンサ回路との接続点に接続された整流器と、
前記第2直列回路に並列接続された第2充電スイッチと、を備える
ことを特徴とする請求項1または2に記載のパルス電源装置。
【請求項4】
前記充放電スイッチ付バウンサ回路は、
前記第1入力端子−前記第2入力端子間に接続された電源回路を備え、
前記電源回路は、前記出力スイッチ、前記バウンサスイッチ、前記第1充電スイッチおよび前記2充電スイッチの各駆動回路に電源電圧を供給する
ことを特徴とする請求項3に記載のパルス電源装置。
【請求項5】
直列接続された半導体マルクス回路および充放電スイッチ付バウンサ回路を備えるパルス電源装置において、前記半導体マルクス回路の主コンデンサを放電させてパルス出力を行わせるパルス発生方法であって、
前記充放電スイッチ付バウンサ回路のバウンサコンデンサおよび前記半導体マルクス回路の前記主コンデンサを第1の電圧で充電し、前記バウンサコンデンサの電圧を第1極性にするとともに前記主コンデンサの電圧を第2極性にする充電ステップと、
前記充電ステップ後、前記バウンサコンデンサを放電させ、前記バウンサコンデンサの共振による電圧振動を開始させるバウンサ動作開始ステップと、
前記バウンサ動作開始ステップ後、前記バウンサコンデンサの電圧が前記第1極性から前記第2極性に反転する前後の期間に、前記主コンデンサを放電させて前記パルス出力を行わせるパルス出力ステップと、
前記パルス出力ステップ後、前記バウンサコンデンサを回生充電して前記バウンサコンデンサの電圧を前記第2極性から前記第1極性に戻す回生充電ステップと、を含む
ことを特徴とするパルス発生方法。
【請求項6】
前記充電ステップの前に、
前記充放電スイッチ付バウンサ回路の入力端子間に接続され、前記充放電スイッチ付バウンサ回路の各スイッチの各駆動回路に電源電圧を供給する第1電源回路と、前記半導体マルクス回路の入力端子間に接続され、前記半導体マルクス回路の各スイッチの各駆動回路に電源電圧を供給する第2電源回路とを、前記第1の電圧よりも小さい第2の電圧で充電する予備充電ステップを含む
ことを特徴とする請求項5に記載のパルス発生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルス電源装置およびパルス発生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パルス電源装置としては、例えば、特許文献1に記載のものが知られている。特許文献1に記載のパルス電源装置は、複数の半導体マルクス回路と、複数の半導体マルクス回路の各スイッチを同時にオン/オフさせる制御回路とを備える。このパルス電源装置では、制御回路が半導体マルクス回路の各スイッチを同時にオンさせることで、半導体マルクス回路の各コンデンサを直列接続した状態にして放電させることができ、各コンデンサの放電電圧の和に相当する出力パルスを発生させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−237147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のパルス電源装置では、各コンデンサの放電が進むにつれて各コンデンサの両端電圧が低下し、放電波形(出力パルス波形)にサグが発生して、平坦度の高い出力パルスを得ることができないという問題がある。
【0005】
放電波形のサグを補償して平坦度の高い出力パルスを得るためには、PWMスイッチング等を用いる方法があるが、その方法では、スイッチング素子の数が多くなるので、動作が複雑になり信頼性が低下する。また、別の方法として、直列に挿入するコンデンサユニットの数を途中から増やす方法もあるが、この方法では、スイッチングの際にノイズが増大し、出力パルスの電圧変動が大きくなる。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、その課題とするところは、放電波形のサグを補償して平坦度の高い出力パルスを得ることができ、しかも、高信頼性・低ノイズ化を実現することが可能なパルス電源装置およびパルス発生方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係るパルス電源装置は、
少なくとも1つの半導体マルクス回路を備え、前記半導体マルクス回路の主スイッチがオン状態のときに、前記主スイッチに直列接続された前記半導体マルクス回路の主コンデンサを放電させてパルス出力を行うパルス電源装置であって、
前記半導体マルクス回路に直列接続された少なくとも1つの充放電スイッチ付バウンサ回路を備え、
前記充放電スイッチ付バウンサ回路は、
前記主スイッチおよび前記主コンデンサに直列接続された出力スイッチと、
前記出力スイッチに直列接続されたバウンサ回路と、を備え、
前記バウンサ回路は、
前記出力スイッチに直列接続されたバウンサコンデンサと、
前記バウンサコンデンサに並列接続された、バウンサリアクトルおよびバウンサスイッチからなる第1直列回路と、を備える
ことを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、バウンサ回路を備える充放電スイッチ付バウンサ回路により、放電波形のサグを補償して平坦度の高い出力パルスを得ることができる。また、この構成では、半導体マルクス回路にスイッチを追加する必要がなく、充放電スイッチ付バウンサ回路においてはバウンサコンデンサの電圧振動の周期(バウンサコンデンサの放電周期)当たり1回のスイッチングで済むので、高信頼性・低ノイズ化を実現することができる。
【0009】
上記パルス電源装置では、
前記バウンサスイッチは、サイリスタと、前記サイリスタに逆並列接続されたダイオードと、を備える
ように構成することができる。
【0010】
上記パルス電源装置では、
前記充放電スイッチ付バウンサ回路は、
高電位側の第1入力端子および第1出力端子と、
低電位側の第2入力端子および第2出力端子と、
前記第1入力端子−前記第1出力端子間に介装された第1充電スイッチと、
前記第2入力端子−前記第2出力端子間に介装された前記出力スイッチおよび前記バウンサ回路からなる第2直列回路と、
一端が前記第1充電スイッチと前記第1出力端子との接続点に接続され、他端が前記出力スイッチと前記バウンサ回路との接続点に接続された整流器と、
前記第2直列回路に並列接続された第2充電スイッチと、を備える
ように構成することができる。
【0011】
上記パルス電源装置では、
前記充放電スイッチ付バウンサ回路は、
前記第1入力端子−前記第2入力端子間に接続された電源回路を備え、
前記電源回路は、前記出力スイッチ、前記バウンサスイッチ、前記第1充電スイッチおよび前記2充電スイッチの各駆動回路に電源電圧を供給する
ことが好ましい。
【0012】
また、上記課題を解決するために、本発明に係るパルス発生方法は、
直列接続された半導体マルクス回路および充放電スイッチ付バウンサ回路を備えるパルス電源装置において、前記半導体マルクス回路の主コンデンサを放電させてパルス出力を行わせるパルス発生方法であって、
前記充放電スイッチ付バウンサ回路のバウンサコンデンサおよび前記半導体マルクス回路の前記主コンデンサを第1の電圧で充電し、前記バウンサコンデンサの電圧を第1極性にするとともに前記主コンデンサの電圧を第2極性にする充電ステップと、
前記充電ステップ後、前記バウンサコンデンサを放電させ、前記バウンサコンデンサの共振による電圧振動を開始させるバウンサ動作開始ステップと、
前記バウンサ動作開始ステップ後、前記バウンサコンデンサの電圧が前記第1極性から前記第2極性に反転する前後の期間に、前記主コンデンサを放電させて前記パルス出力を行わせるパルス出力ステップと、
前記パルス出力ステップ後、前記バウンサコンデンサを回生充電して前記バウンサコンデンサの電圧を前記第2極性から前記第1極性に戻す回生充電ステップと、を含む
ことを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、バウンサ動作開始ステップから回生充電ステップにかけてバウンサコンデンサの共振による電圧振動を行わせるので、パルス出力ステップ時に放電波形のサグを補償して平坦度の高い出力パルスを得ることができる。また、この構成では、半導体マルクス回路にスイッチを追加する必要がなく、充放電スイッチ付バウンサ回路においてはバウンサコンデンサの電圧振動の周期(バウンサコンデンサの放電周期)当たり1回のスイッチングで済むので、高信頼性・低ノイズ化を実現することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、放電波形のサグを補償して平坦度の高い出力パルスを得ることができ、しかも、高信頼性・低ノイズ化を実現することが可能なパルス電源装置およびパルス発生方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係るパルス電源装置の回路図である。
図2】(A)は、本発明の予備充電ステップを説明するための図である。(B)は、本発明の充電ステップを説明するための図である。
図3】(A)は、本発明のバウンサ動作開始ステップを説明するための図である。(B)は、本発明のパルス出力ステップを説明するための図である。
図4】本発明の回生充電ステップを説明するための図である。
図5】(A)は、本発明に係るパルス電源装置の各部の電圧波形を示す図である。(B)は、本発明に係るパルス電源装置の各部の電流波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明に係るパルス電源装置およびパルス発生方法の実施形態について説明する。
【0017】
[パルス電源装置]
図1に、本発明の一実施形態に係るパルス電源装置100を示す。パルス電源装置100は、直列接続された1つの充放電スイッチ付バウンサ回路1および2つの半導体マルクス回路2(2−1、2−2)と、制御回路3とで構成されている。半導体マルクス回路2−1の構成と半導体マルクス回路2−2の構成は共通している。
【0018】
充放電スイッチ付バウンサ回路1は、高電位側入力端子T1、低電位側入力端子T2、高電位側出力端子T1’および低電位側出力端子T2’を備えた4端子回路であり、出力スイッチQと、出力スイッチQに直列接続されたバウンサ回路と、第1充電スイッチQcpと、第2充電スイッチQcnと、整流器Dbと、整流器Dcnと、電源回路10(本発明の「第1電源回路」に相当)と、駆動回路11〜14とを備える。
【0019】
出力スイッチQおよびバウンサ回路は、低電位側入力端子T2−低電位側出力端子T2’間に介装されている。出力スイッチQは、例えば絶縁ゲートバイポーラトランジスタからなり、電流路の一端がバウンサ回路を介して低電位側入力端子T2に接続され、電流路の他端が低電位側出力端子T2’に接続されている。出力スイッチQの制御端子(例えば、絶縁ゲートバイポーラトランジスタのゲート)には、出力スイッチQのオン/オフ動作を制御するための駆動回路11が接続されている。
【0020】
バウンサ回路は、出力スイッチQに直列接続されたバウンサコンデンサCbと、バウンサコンデンサCbに並列接続された、バウンサリアクトルLbおよびバウンサスイッチQbからなる直列回路(本発明の「第1直列回路」に相当)とを備える。
【0021】
バウンサスイッチQbは、サイリスタThyと、サイリスタThyに逆並列接続されたダイオードDとを備える。サイリスタThyのカソードおよびダイオードDのアノードは、バウンサリアクトルLbを介してバウンサコンデンサCbの一端に接続され、サイリスタThyのアノードおよびダイオードDのカソードは、バウンサコンデンサCbの他端側に接続されている。サイリスタThyのゲートには、サイリスタThyのオン動作を制御するための駆動回路12が接続されている。
【0022】
第1充電スイッチQcpは、例えばFETからなり、高電位側入力端子T1−高電位側出力端子T1’間に介装されている。第1充電スイッチQcpの電流路の一端は、高電位側入力端子T1に接続されている。第1充電スイッチQcpの電流路の他端は、高電位側出力端子T1’に接続されるとともに、整流器Dbおよび出力スイッチQを介して低電位側出力端子T2’に接続されている。第1充電スイッチQcpの制御端子(例えば、FETのゲート)には、第1充電スイッチQcpのオン/オフ動作を制御するための駆動回路13が接続されている。
【0023】
第2充電スイッチQcnは、例えばFETからなり、整流器Dcnとともに低電位側入力端子T2−低電位側出力端子T2’間に介装され、バウンサ回路および出力スイッチQからなる直列回路(本発明の「第2直列回路」に相当)に並列接続されている。整流器Dcnは、例えばダイオードからなり、アノードが第2充電スイッチQcnの電流路の一端に接続され、カソードが低電位側入力端子T2に接続されている。第2充電スイッチQcnの電流路の他端は、低電位側出力端子T2’に接続されている。第2充電スイッチQcnの制御端子(例えば、FETのゲート)には、第2充電スイッチQcnのオン/オフ動作を制御するための駆動回路14が接続されている。
【0024】
電源回路10は、高電位側入力端子T1−低電位側入力端子T2間に接続されている。電源回路10は、例えばDC/DCコンバータからなり、高電位側入力端子T1−低電位側入力端子T2間に印加された可変直流電源Eの直流電圧を電力供給源として、駆動回路11〜14の電源電圧を生成する。
【0025】
半導体マルクス回路2は、高電位側入力端子T3、低電位側入力端子T4、高電位側出力端子T3’および低電位側出力端子T4’を備えた4端子回路であり、主スイッチQmと、主コンデンサCmと、整流器Dcと、充電スイッチQcと、電源回路20(本発明の「第2電源回路」に相当)と、駆動回路21、22とを備える。
【0026】
充電スイッチQcは、例えばFETからなり、高電位側入力端子T3−高電位側出力端子T3’間に介装されている。充電スイッチQcの電流路の一端は、高電位側入力端子T3に接続されている。充電スイッチQcの電流路の他端は、高電位側出力端子T3’に接続されるとともに、主コンデンサCmを介して低電位側出力端子T4’にも接続されている。充電スイッチQcの制御端子(例えば、FETのゲート)には、充電スイッチQcのオン/オフ動作を制御するための駆動回路22が接続されている。
【0027】
主スイッチQmおよび主コンデンサCmは、互いに直列接続され、低電位側入力端子T4−低電位側出力端子T4’間に介装されている。主スイッチQmは、例えば絶縁ゲートバイポーラトランジスタからなり、電流路の一端が低電位側入力端子T4に接続され、電流路の他端が高電位側出力端子T3’に接続されるとともに、主コンデンサCmを介して低電位側出力端子T4’にも接続されている。主スイッチQmの制御端子(例えば、絶縁ゲートバイポーラトランジスタのゲート)には、主スイッチQmのオン/オフ動作を制御するための駆動回路21が接続されている。
【0028】
整流器Dcは、主スイッチQmおよび主コンデンサCmからなる直列回路に並列接続されている。整流器Dcは、例えばダイオードからなり、アノードが低電位側出力端子T4’に接続され、カソードが低電位側入力端子T4に接続されている。整流器Dcは、充電スイッチQcおよび主コンデンサCmに直列接続され、主コンデンサCmの充電経路を形成する。
【0029】
電源回路20は、高電位側入力端子T3−低電位側入力端子T4間に接続されている。電源回路20は、例えばDC/DCコンバータからなり、高電位側入力端子T3−低電位側入力端子T4間に印加された直流電圧を電力供給源として、駆動回路21、22の電源電圧を生成する。
【0030】
制御回路3は、充放電スイッチ付バウンサ回路1および半導体マルクス回路2−1、2−2の各駆動回路11〜14、21、22に、制御信号(電流信号または電圧信号)を出力する。駆動回路11、13、14、21、22は、例えば、制御信号が入力されている間は制御対象のスイッチをオン状態にする。また、駆動回路12は、制御信号が入力されるとサイリスタThyをオン状態にする。なお、本実施形態では、制御回路3をパルス電源装置100の構成に含めているが、制御回路3をパルス電源装置100の構成に含めなくてもよい。
【0031】
[パルス発生方法]
次に、パルス電源装置100の動作、すなわち本実施形態に係るパルス発生方法について説明する。
【0032】
本実施形態に係るパルス発生方法は、パルス電源装置100で出力パルスを発生させる方法であり、予備充電ステップ、充電ステップ、バウンサ動作開始ステップ、パルス出力ステップおよび回生充電ステップを含む。
【0033】
図2図4に、各ステップにおけるパルス電源装置100内の充電経路または放電経路を示す。図5(A)に、バウンサコンデンサCbの電圧Vcbと、主コンデンサCmの電圧Vcmと、出力電圧Voutの波形を示す。また、図5(B)に、バウンサスイッチQbに流れる電流Icbと、出力電流(主コンデンサCmの放電電流)Icmの波形を示す。なお、図5(A)の電圧Vcmおよび出力電圧Voutの各波形は、半導体マルクス回路2−1、2−2の合成波形である。
【0034】
予備充電ステップは、充放電スイッチ付バウンサ回路1の電源回路10、半導体マルクス回路2−1の電源回路20、半導体マルクス回路2−2の電源回路20を順次充電し、電源回路10、20に電源電圧を出力させるステップである。
【0035】
予備充電ステップでは、まず、可変直流電源Eの直流電圧を比較的低い第2の電圧(例えば、数百〜千[V]の直流電圧)に設定して、当該第2の電圧で電源回路10を充電する。充電された電源回路10は、直流の電源電圧を生成し、当該電源電圧を駆動回路11〜14に出力して駆動回路11〜14を制御可能な状態にする。次いで、制御回路3が、駆動回路13、14を制御して、第1充電スイッチQcpと第2充電スイッチQcnとをオン状態にする。このとき、出力スイッチQとバウンサスイッチQbのサイリスタThyとはオフ状態になっている。
【0036】
第1充電スイッチQcpと第2充電スイッチQcnとがオン状態になると、半導体マルクス回路2−1の電源回路20に第2の電圧が供給され、電源回路20が充電される。充電された電源回路20は、電源電圧を生成して半導体マルクス回路2−1の駆動回路21、22に出力し、駆動回路21、22を制御可能な状態にする。次いで、制御回路3が、半導体マルクス回路2−1の駆動回路22を制御して、充電スイッチQcをオン状態にする。このとき、主スイッチQmはオフ状態になっている。
【0037】
半導体マルクス回路2−1の充電スイッチQcがオン状態になると、半導体マルクス回路2−2の電源回路20に第2の電圧が供給され、電源回路20が充電される(図2(A)参照)。半導体マルクス回路2−2では、充電された電源回路20が電源電圧を生成して駆動回路21、22に出力し、次いで、制御回路3が駆動回路22を制御して充電スイッチQcをオン状態にする。半導体マルクス回路2−2の充電スイッチQcがオン状態になった時点で、予備充電ステップから充電ステップに移行する。
【0038】
なお、図2(A)では省略しているが、予備充電ステップにおいて、充放電スイッチ付バウンサ回路1のバウンサコンデンサCbおよび半導体マルクス回路2−1の主コンデンサCmは、第2の電圧で充電される。その結果、バウンサコンデンサCbの電圧Vcbは正極性(第1極性)になる一方、主コンデンサCmの電圧Vcmは負極性(第2極性)になる。
【0039】
充電ステップは、充放電スイッチ付バウンサ回路1のバウンサコンデンサCbおよび半導体マルクス回路2−1、2−2の主コンデンサCmを充電するステップである。充電ステップでは、可変直流電源Eの直流電圧を第2の電圧よりも大きい第1の電圧(例えば、数[kV]の直流電圧)に設定して、第1の電圧でバウンサコンデンサCbおよび主コンデンサCmを出力パルスVoutに必要な充電電圧まで充電する。充電ステップでは、各スイッチは、予備充電ステップと同じ状態に保たれている。
【0040】
図2(B)に示すように、充電ステップでは、バウンサコンデンサCbは第1充電スイッチQcpおよび整流器Dbを介して充電され、主コンデンサCmは充電スイッチQcおよび整流器Dcを介して充電される。その結果、バウンサコンデンサCbの電圧Vcbは正極性になる一方、主コンデンサCmの電圧Vcmは負極性になる。本実施形態では、上記のとおり、抵抗器を介することなくバウンサコンデンサCbおよび主コンデンサCmを充電することができるので、エネルギー損失が小さくなる。バウンサコンデンサCbおよび主コンデンサCmが出力パルスVoutに必要な充電電圧まで充電されると、バウンサ動作開始ステップに移行する。
【0041】
バウンサ動作開始ステップは、バウンサ回路によるバウンサ動作すなわちバウンサコンデンサCbの共振による電圧振動を開始させるステップである。バウンサ動作開始ステップでは、制御回路3が、駆動回路13、14、22を制御して第1充電スイッチQcp、第2充電スイッチQcnおよび充電スイッチQcをオフ状態にするとともに、駆動回路12を制御してサイリスタThyをオン状態にする。その結果、図3(A)に示すように、バウンサコンデンサCbがサイリスタThyおよびバウンサリアクトルLbを介して放電する。これにより、バウンサコンデンサCbの電圧振動が開始し、バウンサコンデンサCbの電圧Vcbが減少し始める。
【0042】
図5(A)に示すように、時間tにおいてバウンサ動作開始ステップが開始されると、バウンサコンデンサCbの電圧Vcbは、バウンサ動作開始ステップおよびこれ以降のステップにわたって、バウンサリアクトルLbとの積で決まる周期の余弦波形で振動する。本実施形態では、この周期が出力パルスVoutのパルス幅の3〜6倍になる。また、図5(B)に示すように、時間tにおいてバウンサ動作開始ステップが開始されると、バウンサスイッチQbのサイリスタThyに正弦波電流Icbが流れ始める。
【0043】
パルス出力ステップは、半導体マルクス回路2−1、2−2の主コンデンサCmを放電させることにより、低電位側出力端子T4’に接続された負荷Rに対して、負極性のパルス出力を行わせるステップである。パルス出力ステップでは、制御回路3が、駆動回路11、21を制御して出力スイッチQおよび主スイッチQmをオン状態にすることで、主コンデンサCmを放電させる。図3(B)に示すように、主コンデンサCmの放電電流Icmは、主スイッチQm、出力スイッチQおよびバウンサコンデンサCbを介してGNDに流れるとともに、バウンサコンデンサCbからサイリスタThyに流れる正弦波電流Icbにほぼ全部が重畳する。
【0044】
パルス出力ステップは、バウンサコンデンサCbの電圧Vcbが正極性(第1極性)から負極性(第2極性)に反転する前後の直線的に変化する期間、例えば図5(A)に示す時間t〜tに行われる。図5(B)に示すように、時間tにおいてパルス出力ステップが開始されると、上記のとおり主コンデンサCmの放電電流Icmのほぼ全部が正弦波電流Icbに重畳するので、その分、正弦波電流Icbが減少する。また、パルス出力ステップでは、主コンデンサCmの電圧低下(サグ)がバウンサコンデンサCbの電圧振動により打ち消されるので、図5(A)に示すように平坦度の高い出力パルスVoutを得ることができる。本実施形態では、出力パルスVoutの平坦度を±1%〜±0.1%の範囲内に収めることができる。
【0045】
回生充電ステップは、バウンサコンデンサCbの回生充電を行うステップである。回生充電ステップでは、制御回路3が、駆動回路11、21を制御して出力スイッチQおよび主スイッチQmをオフ状態にすることで、バウンサスイッチQbのダイオードDをオン状態にして、バウンサコンデンサCbの回生充電を行う。図4に示すようにダイオードDがオン状態になると、バウンサコンデンサCbは、バウンサリアクトルLbとの共振動作により、バウンサリアクトルLbおよびダイオードDを介して回生充電される。
【0046】
図5(B)に示すように、時間tにおいて回生充電ステップが開始されると、バウンサリアクトルLbに流れる正弦波電流Icbに重畳していた放電電流Icmがゼロになるので、その分、正弦波電流Icbが増加する。その後、正弦波電流Icbが減少し、正弦波電流Icbがゼロになるタイミング(図5の時間t’)で、サイリスタThyがオフ状態になり、ダイオードDがオン状態になる。ダイオードDがオン状態になると、バウンサコンデンサCbは回生充電され、図5(A)に示すように、バウンサコンデンサCbの極性が負極性から正極性に戻る。回生充電ステップは、ダイオードDを流れる正弦波電流Icbがゼロになるタイミング(図5の時間t)で終了する。
【0047】
結局、本実施形態に係るパルス電源装置100およびパルス発生方法によれば、バウンサ回路(バウンサコンデンサCb、バウンサリアクトルLbおよびバウンサスイッチQb)により、主コンデンサCmの放電波形のサグを補償して平坦度の高い出力パルスVoutを得ることができる。また、本実施形態に係るパルス電源装置100およびパルス発生方法では、半導体マルクス回路2にスイッチを追加する必要がなく、充放電スイッチ付バウンサ回路1においてはバウンサコンデンサCbの電圧振動の周期(バウンサコンデンサCbの放電周期)当たり1回のスイッチングで済むので、高信頼性・低ノイズ化を実現することができる。
【0048】
また、本実施形態に係るパルス電源装置100は、μsオーダーの短パルスクライストロン電源や方形波パルス電磁石電源、レーダー用電源等に使用することができる。
【0049】
以上、本発明に係るパルス電源装置およびパルス発生方法の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0050】
上記実施形態では充放電スイッチ付バウンサ回路1を1段とし、半導体マルクス回路2を2段としたが、本発明のパルス電源装置を構成する充放電スイッチ付バウンサ回路1および半導体マルクス回路2の数は、適宜変更することができる。
【0051】
本発明の構成は、数十[kV]以上の高電圧パルスを発生させるパルス電源装置およびパルス発生方法への適用に適しているので、例えば、1段当たりの出力パルスの電圧を数[kV]として、半導体マルクス回路2の段数を十段程度から数十段、充放電スイッチ付バウンサ回路1の段数を半導体マルクス回路2の段数の数分の一から十分の一程度とするのが好適である。
【0052】
本発明の充放電スイッチ付バウンサ回路は、少なくとも、出力スイッチと、出力スイッチに直列接続されたバウンサ回路とを備え、バウンサ回路が、出力スイッチに直列接続されたバウンサコンデンサと、バウンサコンデンサに並列接続されたバウンサリアクトルおよびバウンサスイッチからなる直列回路(本発明の「第1直列回路」に相当)を備えるのであれば、適宜構成を変更することができる。
【0053】
本発明のバウンサスイッチは、バウンサコンデンサに共振による電圧振動を生じさせることができるのであれば、適宜構成を変更することができる。
【0054】
本発明のパルス発生方法では、予備充電ステップを省略することができる。なお、予備充電ステップを省略する場合、例えば、電源回路10、20に別の方法で充電するか、電源回路10、20とは別の電源を用意する必要がある。
【符号の説明】
【0055】
1 充放電スイッチ付バウンサ回路
2、2−1、2−2 半導体マルクス回路
3 制御回路
100 パルス電源装置
図1
図2
図3
図4
図5