特許第6652918号(P6652918)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6652918
(24)【登録日】2020年1月28日
(45)【発行日】2020年2月26日
(54)【発明の名称】モータ駆動制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 27/08 20060101AFI20200217BHJP
   H02P 6/08 20160101ALI20200217BHJP
【FI】
   H02P27/08
   H02P6/08
【請求項の数】7
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2016-531375(P2016-531375)
(86)(22)【出願日】2015年6月30日
(86)【国際出願番号】JP2015068762
(87)【国際公開番号】WO2016002745
(87)【国際公開日】20160107
【審査請求日】2018年6月15日
(31)【優先権主張番号】特願2014-135463(P2014-135463)
(32)【優先日】2014年6月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】399091511
【氏名又は名称】マイクロスペース株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103528
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 一男
(72)【発明者】
【氏名】田中 正人
(72)【発明者】
【氏名】萩原 弘三
(72)【発明者】
【氏名】浅沼 和夫
(72)【発明者】
【氏名】白川 弘和
【審査官】 佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−111469(JP,A)
【文献】 特開2004−282954(JP,A)
【文献】 特開平11−069861(JP,A)
【文献】 特開2011−176912(JP,A)
【文献】 特開2005−160183(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/08
H02P 6/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブラシレスモータを駆動するモータ駆動制御装置であって、
前記ブラシレスモータへの通電を制御するための拡張通電角制御信号を生成する通電制御部と、
前記ブラシレスモータを正弦波連続通電駆動するためのPWM信号を生成するPWM信号生成部と、
前記拡張通電角制御信号で規定される通電区間において前記PWM信号基づき生成される駆動電圧を、前記ブラシレスモータに供給するインバータ回路と、
を有し、
前記通電制御部は、
前記拡張通電角制御信号により表される通電区間が、180°未満である基準通電角から、前記ブラシレスモータの回転速度の増加に応じて連続的に増加し、前記回転速度が所定の速度以上では連続通電に対応する角度で維持されるように、前記拡張通電角制御信号を生成し、
前記PWM信号生成部は、
前記通電区間が前記基準通電角から増加し始める回転速度以上の領域を少なくとも含む回転速度領域において、前記PWM信号を出力する
モータ駆動制御装置。
【請求項2】
前記通電制御部は、
モノマルチにより、前記基準通電角から一定時間延長することで、前記拡張通電角制御信号を生成する
請求項1記載のモータ駆動制御装置。
【請求項3】
前記ブラシレスモータのロータの回転位相を表す位相出力を生成する位相検出部
をさらに有し、
前記通電制御部は、
前記位相出力と前記回転速度とに基づく通電開始位相及び通電終了位相で前記通電区間が特定される前記拡張通電角制御信号を生成する
請求項1記載のモータ駆動制御装置。
【請求項4】
前記位相検出部が、
前記ブラシレスモータの駆動相の切り替わりを表すホール出力信号を出力するセンサからの前記ホール出力信号における前記駆動相の切り替わりを検出し、当該駆動相の切り替わりの間を内挿することで、前記位相出力を生成する
請求項3記載のモータ駆動制御装置。
【請求項5】
前記通電制御部は、
前記回転速度が増加すると、前記通電区間を、前後両方向に拡張する
請求項3又は4記載のモータ駆動制御装置。
【請求項6】
前記基準通電角から増加し始める回転速度未満において、前記通電区間が前記基準通電角で維持される
請求項1乃至5のいずれか1つ記載のモータ駆動制御装置。
【請求項7】
ブラシレスモータを駆動するモータ駆動制御装置であって、
前記ブラシレスモータへの通電を制御するための拡張通電角制御信号を生成する通電制御部と、
前記ブラシレスモータを駆動するためのPWM信号を生成するPWM信号生成部と、
前記拡張通電角制御信号で規定される通電区間において前記PWM信号基づき生成される駆動電圧を、前記ブラシレスモータに供給するインバータ回路と、
を有し、
前記通電制御部は、
前記拡張通電角制御信号により表される通電区間が、180°未満である基準通電角から、前記ブラシレスモータの回転速度の増加に応じて連続的に増加し、前記回転速度が所定の速度以上では連続通電に対応する角度で維持されるように、前記拡張通電角制御信号を生成し、
前記PWM信号生成部は、
前記ブラシレスモータを正弦波連続通電駆動するための波形を生成する連続通電駆動波形生成部と、
矩形波間欠通電駆動のための一定レベルの形と前記正弦波連続通電駆動するための波形とを、前記回転速度に応じた率で重みづけ加算して駆動波形を生成する駆動波形生成部と、
前記駆動波形に基づき前記PWM信号を生成するPWM変調部と、
を有し、
前記駆動波形生成部は、
前記回転速度が増加すると前記正弦波連続通電駆動するための波形の率を増加させ、
前記回転速度が前記所定の速度以上では、前記正弦波連続通電駆動するための波形の率を100%とする
モータ駆動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの駆動を制御するモータ駆動制御装置に関し、特に三相ブラシレスモータの駆動を制御するモータ駆動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ブラシレスモータを駆動するための駆動方式として、間欠通電駆動方式と連続通電駆動方式とが知られている。
【0003】
間欠通電駆動方式においては、各相への通電が停止される通電停止区間が設けられており、この通電停止区間において相電流が切り替えられるため、厳密な進角制御を行わなくとも効率が劣化しないという利点がある。また、モータに印加される駆動電圧波形として矩形波が用いられることが多く、駆動信号を生成するための回路を比較的簡素なものとすることができる。このような利点があるため、商用の三相ブラシレスモータについては、間欠通電駆動方式が広く用いられており、中でも通電角を120°とした120°通電駆動方式がよく用いられている。
【0004】
一方、連続通電駆動方式においては、正弦波などの連続的な波形の駆動信号により駆動制御が行われるため、間欠通電駆動方式に比べてトルク変動が少なく、その結果、振動や騒音の発生を抑制できるという利点がある。また、正弦波形状の駆動電圧を用いる場合には、適切な進角制御を行って誘起電圧の位相と相電流の位相を合わせることにより、誘起電圧と相電流の波形が相似形となるため高効率が得られる。
【0005】
しかしながら、連続通電駆動方式における進角制御は、通常、センサ(典型的にはホールセンサ)の出力信号から、あるいはモータ各相のコイル端子の電圧波形および電流波形を測定する電圧電流検出部を備え、電圧波形および電流波形から予測される磁極の位置に基づいて行われる。どちらの場合も、モータの始動直後の低速回転時には磁極位置の予測が不可能又は著しく困難となり、適切な進角制御が実現できなくなる。連続通電駆動において適切な進角制御が行われないと、誘起電圧の位相と相電流の位相がずれてしまう。この場合、連続通電駆動方式においては通電休止期間が無いことから、誘起電圧の位相と相電流の位相とが逆極性となって急激に効率が劣化してしまう。
【0006】
このように、モータの回転速度やトルクの変化が大きく磁極位置の予測が困難な過渡的状態においては、連続通電駆動方式の利点である高効率は実現されず、むしろ間欠通電駆動方式よりも効率が劣化することになる。このような問題に対処するために、モータの低速回転時等の過渡的状態においては間欠通電駆動方式で駆動を行い、モータの回転速度が所定速度を超えて回転が定常状態となった場合に連続通電駆動方式に移行する技術が提案されている。例えば、特開2001−245487号公報(特許文献1)においては、回転速度の急激な変化などの外乱の有無に応じて間欠通電駆動信号と連続通電駆動信号とを切り替えることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−245487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の間欠通電駆動方式から連続通電駆動方式へ移行する切替制御においては、間欠通電駆動方式から連続通電駆動方式への切換え時にモータのトルクが急激に変化するため、振動や騒音が発生しやすいという問題がある。
【0009】
そこで、本発明は、間欠通電駆動方式と連続通電駆動方式とを切り替える際の振動や騒音の発生を抑制できるモータ駆動制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様に係るモータ駆動制御装置は、ブラシレスモータを駆動するモータ駆動制御装置であって、ブラシレスモータへの通電を制御するための第1の信号を生成する通電制御部と、ブラシレスモータを正弦波連続通電駆動するためのPWM信号を生成するPWM信号生成部と、第1の信号とPWM信号とに基づき生成される駆動電圧を、ブラシレスモータに供給するインバータ回路とを有する。通電制御部は、第1の信号により表される通電区間が、180°未満である基準通電角から、ブラシレスモータの回転速度の増加に応じて連続的に増加し、回転速度が所定の速度以上では連続通電に対応する角度で維持されるように、第1の信号を生成する。PWM信号生成部は、通電区間が基準通電角から増加し始める回転速度以上の領域を少なくとも含む回転速度領域において、PWM信号を出力する。
【0011】
本発明の他の態様に係るモータ駆動制御装置は、ブラシレスモータを駆動するモータ駆動制御装置であって、ブラシレスモータへの通電を制御するための第1の信号を生成する通電制御部と、ブラシレスモータを駆動するためのPWM信号を生成するPWM信号生成部と、第1の信号とPWM信号とに基づき生成される駆動電圧を、ブラシレスモータに供給するインバータ回路とを有する。通電制御部は、第1の信号により表される通電区間が、180°未満である基準通電角から、ブラシレスモータの回転速度の増加に応じて連続的に増加し、回転速度が所定の速度以上では連続通電に対応する角度で維持されるように、第1の信号を生成する。PWM信号生成部は、ブラシレスモータを正弦波連続通電駆動するための波形を生成する第1の生成部と、矩形波間欠通電駆動のための一定レベルの直流波形と前記波形とを、回転速度に応じた混合比率で混合して駆動波形を生成する波形混合部と、駆動波形に基づきPWM信号を生成する第2の生成部とを有する。波形混合部は、回転速度が増加すると波形の混合比率を増加させ、回転速度が所定の速度以上では、波形の混合比率を100%とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、間欠通電駆動方式と連続通電駆動方式とを切り替える際の振動や騒音の発生を抑制できるモータ駆動制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係る電動アシスト自転車を概略的に示す図
図2】本発明の一実施形態に係るモータ駆動制御装置の機能ブロック図
図3】本発明の一実施形態における、ホール出力信号、通電角制御信号、モノマルチ出力信号、及びV相の拡張通電角制御信号(V_On信号)のタイミングチャート
図4】本発明の一実施形態におけるPWM信号および電圧波形を示す図
図5】本発明の一実施形態におけるV相用のPWM信号を示す図
図6】本発明の一実施形態における通電角拡張幅決定部の機能ブロック図
図7】本発明の一実施形態における通電角拡張関数の例を示す図
図8】本発明の一実施形態における、ホール出力信号、下位位相内挿信号、三角波、及び比較器出力信号のタイミングチャート
図9】本発明の一実施形態における、ホール出力信号、通電角制御信号、比較器出力信号、及びV相の拡張通電角制御信号(V_On信号)のタイミングチャート
図10】本発明の一実施形態における比較器出力信号及び各相の電圧波形のタイミングチャート
図11】本発明の一実施形態における駆動波形生成部の機能ブロック図
図12】本発明の一実施形態における波形移行関数の例を示す図
図13】モータコイルのスター結線の例
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、適宜図面を参照し、本発明の様々な実施形態を説明する。なお、図面において共通する構成要素には同一の参照符号が付されている。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態に係るモータ駆動制御装置を適用可能な電動アシスト自転車を概略的に示す。電動アシスト自転車は、停車時又は低速走行時に、大きなトルクでのアシストを必要とするので、停車時又は低速走行時は間欠通電駆動方式でモータを駆動することが望ましい。一方、一定速度に達した後は高効率での駆動が求められるので、間欠通電駆動方式から連続通電駆動方式で駆動されることが望ましい。本実施形態のモータ駆動制御装置は、間欠通電駆動方式から連続通電駆動方式へのスムーズな移行を可能とする。これにより、従来の方式において間欠通電駆動方式から連続通電駆動方式への切り替え時に発生していた振動や騒音抑制することができる。このように、本実施形態に係るモータ駆動制御装置は、電動アシスト自転車での利用に適したものである。しかしながら、電動アシスト自転車は本実施形態に係るモータ駆動制御装置を適用可能な応用例の一例に過ぎず、本実施形態に係るモータ駆動制御装置は様々な用途におけるブラシレスモータの駆動制御に用いられ得る。
【0016】
図1に示すとおり、電動アシスト自転車1はクランク軸と後輪がチェーンを介して連結されている一般的な後輪駆動型のものであり、この電動アシスト自転車1は、例えば、二次電池101と、モータ駆動制御装置102と、トルクセンサ103と、ブレーキセンサ104と、モータ105と、操作パネル106とを備える。
【0017】
二次電池101としては、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンポリマー二次電池、ニッケル水素蓄電池などの様々な二次電池を用いることができる。本発明の一実施形態において、二次電池101は、供給最大電圧(満充電時の電圧)が24Vのリチウムイオン二次電池である。
【0018】
トルクセンサ103は、クランク軸に取付けられたホイールに設けられる。トルクセンサ103は、ペダルの踏力を検出し、この検出結果をモータ駆動制御装置102に出力することができる。
【0019】
ブレーキセンサ104は、磁石(不図示)と周知のリードスイッチ(不図示)とから構成されている。磁石は、ブレーキレバーを固定するとともにブレーキワイヤー(不図示)が送通される筐体内において、ブレーキレバーに連結されたブレーキワイヤーに固定されている。ブレーキレバーは手で握られたときにリードスイッチをオン状態にするように構成されている。また、リードスイッチは筐体内に固定されている。このリードスイッチの導通信号はモータ駆動制御装置102に送られる。
【0020】
モータ105は、例えば周知の三相直流ブラシレスモータである。モータ105は、例えば電動アシスト自転車1の前輪に装着される。モータ105は、前輪を回転させるとともに、前輪の回転に応じて内蔵のローターが回転するように前輪に連結されている。また、モータ105は、内蔵のロータに備えられた磁極の位置(すなわちロータの位相)を検出するために、複数個(典型的には3個)のホール素子(不図示)を備えている。ホール素子によって検出されたロータの位相を示す信号(すなわちホール出力信号)はモータ駆動制御装置102に出力される。ホール素子が3つの場合には、この3つのホール素子は、モータ105に周方向に沿って例えば電気角120°間隔で等間隔に配置される。ホール素子は、モータ105のロータが回転すると、ロータの永久磁石が作り出す磁界を検出し、検出した磁界強度に応じたホール出力信号Hu、Hv、Hw(図3(a)参照)を出力する。本発明の一実施形態において、電動アシスト自転車1は、正弦波駆動方式の位相検出方法によってはモータ105の各相のコイル端子の電圧波形および電流波形を測定する電流電圧波形検出部107を備えてもよい。電流電圧波形検出部107は、電圧波形および電流波形(又はその一方)を位相検出部118に供給することができる。
【0021】
モータ105の駆動を制御するモータ駆動制御装置102を図2に概略的に示す。本発明の一実施形態に係るモータ駆動制御装置102は、自転車1の静止時及び低速時には間欠通電駆動方式でモータ105を駆動し、自転車1の車速が大きくなるにつれて通電角を徐々に大きくし(逆に言えば、自転車1の車速が大きくなるにつれて各相の通電OFF区間を徐々に狭め)、自転車1の車速が所定の速度Vt(以下「連続通電移行速度Vt」ということがある。)よりも大きくなったときには180°の通電角でモータ105を駆動する(つまり、通電OFF区間がなくなり、連続通電駆動方式でモータ105を駆動する)ように構成される。この速度Vtは、連続通電駆動方式のために十分な精度で磁極位置の推定を可能とするホール出力信号が得られる自転車1の速度であり、例えば、0.2km/hないし数km/h程度であり、好ましくは0.5km/h程度である。また、自転車1の速度が連続通電移行速度Vtとなるときのモータ105の駆動電圧の周波数(以下、本明細書において「連続通電移行周波数ft」ということがある。)は、連続通電移行速度Vtとモータ105の減速比とに基づいて定めることができる。
【0022】
図2に示すように、モータ駆動制御装置102は、駆動制御部110と、FET(Field Effect Transistor)ブリッジから成るインバータ回路170とを有する。インバータ回路170は、3相ブラシレスモータ105のU相についてのスイッチングを行うハイサイドFET(Suh)及びローサイドFET(Sul)と、モータ105のV相についてのスイッチングを行うハイサイドFET(Svh)及びローサイドFET(Svl)と、モータ105のW相についてのスイッチングを行うハイサイドFET(Swh)及びローサイドFET(Swl)とを含み、これらの各FETを3相ブリッジ接続して構成される。インバータ回路170に備えられた各FETは、制御部110の駆動信号出力部115(後述)から出力される駆動信号によって駆動される。この駆動信号は、例えば、PWM変換により生成されたPWM駆動信号である。このように、インバータ回路170は、制御部110から出力されるPWM駆動信号に基づいてスイッチング素子(各FET)をオンオフ制御し、このスイッチング素子のオンオフ制御によって、二次電池101から供給される電圧を変換して各相の駆動電圧を生成する。生成された各相の駆動電圧は、モータ105の各相に供給される。
【0023】
本発明の一実施形態に係る駆動制御部110は、間欠駆動用通電角制御信号生成部111(単に通電角制御信号生成部111ということがある。)と、通電角拡張幅決定部112と、通電角拡張部113と、駆動波形生成部114と、駆動信号出力部115と、駆動電圧生成部117と、位相検出部118と、実効駆動電圧乗算部150と、PWM変調部160と、を備える。なお、実効駆動電圧乗算部150は、各相(U相、V相、W相)用の実効駆動電圧乗算部150u、実効駆動電圧乗算部150v、及び実効駆動電圧乗算部150wを総称したものであり、PWM変調部160は、各相(U相、V相、W相)用のPWM変調部160u、PWM変調部160v、及びPWM変調部160wを総称したものである。駆動制御部110には、演算に用いる各種データ及び処理途中のデータ等を格納する不図示のメモリが備えられてもよい。このメモリは、制御部110とは別に設けられてもよい。
【0024】
通電角制御信号生成部111は、モータ105からの各相のホール出力に基づいて、モータ105の各相の通電タイミングを示す通電角制御信号を生成する。図3(b)は、図3(a)のホール出力信号に基づいて生成される各相の通電角制御信号の例を示し、U120、V120、及びW120はそれぞれ、U相、V相、及びW相の通電角制御信号を示す。なお、ホール出力信号1周期を電気角360度とする。この1周期は、図示のように、フェーズ1ないしフェーズ6の6つのフェーズに分けられる。U相の通電角制御信号U120は、U相のホール出力の各エッジから120°の電気角に相当する区間(フェーズ1及びフェーズ2並びにフェーズ4及びフェーズ5)でハイレベルとなり、その後の60°の電気角に相当する区間(フェーズ3及びフェーズ6)においてローレベルとなる。したがって、通電角制御信号U120は、120°の電気角に相当するハイレベル区間と60°の電気角に相当するローレベル区間とが交互に現れるように生成される。V相及びW相の通電角制御信号も同様に、それぞれV相及びW相のホール出力に基づいて、120°の電気角に相当するハイレベル区間と60°の電気角に相当するローレベル区間とが交互に現れるように生成される。各相の通電角制御信号におけるハイレベル区間は、120°通電駆動を行う場合における通電角(各相における巻線が導通する区間)に相当する。本明細書においては、より一般に、通電角制御信号において、各相のホール出力の各エッジでトリガされる180°未満の電気角を有するハイレベル区間を基準通電角と称することがある。
【0025】
本発明の一実施形態に係る通電角拡張幅決定部112は、通電角制御信号生成部111において生成される通電角制御信号の基準通電角を拡張するための通電角拡張幅を決定し、当該通電角拡張幅を示す拡張幅信号を通電角拡張部113に出力する。例えば、通電角拡張幅決定部112は、各相のホール出力のそれぞれの立上がりエッジ及び立下がりエッジを検出し、この検出時点から一定時間(Ex_MM)にわたって、ハイレベル信号(モノマルチ出力信号)を出力するモノマルチ回路から成る。この場合、モノマルチ回路から出力されるモノマルチ出力信号が拡張幅信号となる。図3の例では、各相のホール出力信号は180°ごとにオンオフが切り替わるが、通電角拡張幅決定部112をリトリガラブル・モノマルチバイブレータとすることにより、60°ずつずれて現れる各相のホール出力信号に基づいて、(180°ごとではなく)60°ごとにワンショットのモノマルチ出力信号を出力できる。つまり、リトリガラブル・モノマルチバイブレータを用いることにより、図3(c)に示すように、電気角60°ごとに現れるU相、V相、及びW相のホール出力信号のエッジの各々に基づいてモノマルチ出力信号を出力することができる。
【0026】
モノマルチ回路がワンショットのハイレベル信号を出力する時間Ex_MMは、連続通電移行速度Vtに対応する連続通電移行周波数ftにおいて、電気角60°に相当する時間だけハイレベル信号が継続するように、以下の式で定められる。
Ex_MM=(1/ft)×(60°/360°)=1/6ft
【0027】
このように時間Ex_MMを定めることにより、モノマルチ回路は、自転車1の車速が速度V(ただし、VはVt以下)のとき、(V/Vt)×60°に相当する電気角だけモノマルチ出力信号(拡張幅信号)を出力することができる。したがって、自転車1の車速Vがゼロ近辺の場合、気角ほぼ0°の延長にしかならず、この車速が増加するにつれてモノマルチ出力信号(ハイレベル信号)が出力される区間が電気角0°まで拡大し、連続通電移行速度Vtにおいては電気角60°に亘ってモノマルチ出力信号が出力される。このように、自転車1の速度VがゼロからVtまで変化する間には、図3(c)に示すように、通電角拡張幅決定部112から出力されるハイレベル信号の信号幅(電気角相当)は、自転車の速度Vに比例して0°から60°まで増加する。つまり、自転車1の速度Vが高速になるにつれて通電角拡張幅決定部112からハイレベル信号が出力される電気角が大きくなり、V≧Vtになると、60°の区間全てにおいてモノマルチ出力信号が出力される。本実施形態においては、モータ駆動制御装置102が自転車に搭載される場合を例に説明しているため、通電角の延長幅の説明を自転車の車速V及び連続通電移行速度Vtとの関係で行っているが、自転車の車速Vとモータ105の駆動電圧の周波数は比例するので、上記の通電角の拡張幅に関する説明は、モータ105の駆動電圧の周波数と連続通電移行周波数ftとの間にも等価に成り立つ。例えば、モノマルチ回路は、モータ105の駆動電圧の周波数がf(ただし、fはft以下)のとき、(f/ft)×60°に相当する電気角だけモノマルチ出力信号(拡張幅信号)を出力することができる。上述したように、本実施形態のモータ駆動制御装置は電動アシスト自転車のアシスト用モータ以外のブラシレスモータの駆動に用いることもできる。本実施形態のモータ駆動制御装置を電動アシスト自転車以外の駆動のために用いられるブラシレスモータの制御に応用する場合には、当該ブラシレスモータの駆動電圧の周波数と当該用途に適した連続通電移行周波数とに基づいて基準通電角の拡張幅を定めることができる。
【0028】
通電角拡張部113は、通電角拡張幅決定部112から受け取ったモノマルチ出力信号(拡張幅信号)に基づいて、通電角制御信号生成部111から受け取った各相の通電角制御信号における基準通電角を拡張する。具体的には、通電角拡張部113は、各相の通電角制御信号とモノマルチ出力信号とをOR合成することにより、各相の通電角制御信号における基準通電角を拡張することができる。本明細書においては、このようにして基準通電角が拡張された通電角制御信号を「拡張通電角制御信号」と称し、拡張通電角制御信号における拡張された後の通電角(拡張通電角制御信号のON区間を電気角で表したもの)を「拡張通電角」と称することがある。
【0029】
図3(c)は、通電角拡張幅決定部112(モノマルチ回路)の出力パターンの例を示し、図3(d)は、V相の通電角制御信号V120とモノマルチ回路の出力パターンとをOR合成して得られたV相の拡張通電角制御信号の例を示す。図3(c)及び図3(d)にはそれぞれ、自転車の速度Vがほぼゼロ(停車時や発車直後)の場合、速度Vが低速の場合、速度Vが比較的高速(ただし、連続通電移行速度Vt未満)の場合、速度Vが連続通電移行速度Vt以上の場合におけるモノマルチ回路の出力パターン及びV相の拡張通電角制御信号をそれぞれ示している。自転車1の速度Vがほぼゼロの場合には、図3(c)に示すとおり、モノマルチ出力信号(モノマルチ回路の出力パターンのハイレベル区間)が電気角換算ではほとんど存在しないので、通電角制御信号V120とモノマルチ回路の出力パターンとをOR合成したV相の拡張通電角制御信号(V_On信号)は、通電角制御信号V120とほぼ同一のオンオフパターンを有している。Vが低速の場合及びVが高速(ただし、Vは連続通電移行速度Vt未満)の場合には、図3(d)に示すとおり、V相の拡張通電角制御信号(V_On信号)は、モノマルチ出力信号の電気角の分だけ、通電角制御信号V120の基準通電角が後方に延長されたオンオフパターンを有している。そして、V≧Vtとなった場合には、図3(c)に示すとおりモノマルチ回路の出力パターンが常にハイレベルとなるので、V相の拡張通電角制御信号(V_On信号)も常にハイレベルとなり通電休止区間が存在しない連続通電状態となる。
【0030】
このように、通電角拡張部113は、自転車1の車速(またはモータ105の駆動電圧の周波数)に応じて、当初の通電角制御信号の基準通電角を後方に延長することができる(逆に言えば、当初の通電角制御信号における通電休止区間を前方に向かって短縮することができる)。なお、図3(d)においては、V相の通電角制御信号を例に説明したが、他相(U相及びW相)の通電角制御信号についても同様に、通電角制御信号生成部111からの通電角制御信号とモノマルチ回路からの出力パターンとをOR合成することにより、当初の通電角制御信号における基準通電角を、自転車1の車速(またはモータ105の駆動電圧の周波数)に応じてモノマルチ出力信号の電気角に相当する幅だけ後方に延長することができる。本実施形態におけるモノマルチ回路は、各相のホール出力信号の各エッジからモノマルチ出力信号を生成しているので、このモノマルチ回路の出力パターンは、U相、V相、W相の各々の拡張通電角制御信号を生成するために用いることができる。
【0031】
以上のようにして生成された各相の拡張通電角制御信号は、駆動信号出力部115に出力される。駆動信号出力部115については後述する。
【0032】
本発明の一実施形態に係る位相検出部118は、ホール出力信号及び電流電圧波形検出部107からの出力信号(電圧波形、電流波形、又はその一方)に基づいて、正弦波駆動用の高分解能の位相出力を得る。本発明の一実施形態に係る駆動波形生成部114は、実効駆動電圧乗算部150およびPWM変調部160および駆動信号出力部115経由でインバータ回路170の各FETを駆動してモータ105を連続通電駆動するための波形信号を生成する。駆動波形生成部114は、例えば、モータ105からのホール出力信号に基づいて当該モータ105のロータに備えられた磁極位置を予測し、予測した磁極位置に基づいて、またホール出力信号から算出された自転車1の車速を示す入力、トルクセンサ103で検出された踏力を示す入力、ブレーキセンサ104で検出されたブレーキ力を示す入力、及びこれら以外の様々な信号に基づいて算出した進角値に基づいて通電波形を生成する。駆動電圧生成部117は、操作パネル106からの入力(例えばアシスト比)、ホール出力信号から算出された自転車1の車速を示す入力、トルクセンサ103で検出された踏力を示す入力、ブレーキセンサ104で検出されたブレーキ力を示す入力、二次電池101からの出力電圧をディジタル化して駆動電圧コードを生成する。実効駆動電圧乗算部150は、この駆動電圧コードに基づいて駆動波形生成部114の出力のレベルを制御する。PWM変調部160は、実効駆動電圧乗算部150出力波形を駆動信号出力部115経由でインバータを駆動するための2値PWM信号に変換する。なお、デューティ比や進角値の具体的な演算方法については、本出願人らが出願した特願2012−549736に詳述されている。
【0033】
このようにして生成された各相の連続駆動用PWM信号の例を図4に示す。図4において、U相用PWM信号は、U相についてのスイッチングを行うハイサイドFET(Suh)用のPWM信号の例であり、V相用PWM信号は、V相についてのスイッチングを行うハイサイドFET(Svh)用のPWM信号の例であり、W相用PWM信号は、W相についてのスイッチングを行うハイサイドFET(Swh)用のPWM信号の例である。図4において「On(PWM)」と表された区間では、上述したようにして設定されたデューティ比でPWM変調された駆動電圧信号が生成され、「On(Gnd)」区間では、デューティ比ゼロでPWM変調された駆動電圧信号が生成される。各相のローサイドFET用のPWM信号については図示していないが、各相のPWM信号がオンであればオフとなりPWMがオフであればオンとなる。このような各相のPWM信号がインバータ回路170の対応する相のFETの制御端子に出力される場合には、モータ105の各相には、各相のコイルに発生する瞬時誘導起電力と相似の連続駆動用の波形(通常は正弦波)の駆動電圧が各相のコイルに印加される。ただし、後述するように、インバータ回路170のFETへの駆動信号の出力は、実際にはPWM変調部160からではなく駆動信号出力部115からなされる点に留意されたい。その時PWM信号により駆動された各相コイル端子の実質的波形つまり各相のPWMデューティが表す電圧波形が対Gnd駆動電圧波形である。これは一見正弦波でないように見えるが、インバータ出力端子が対Gnd基準の電圧波形となっているためそのように見える。これを図13のU、V、W各コイル中心の接続中点Tnの電位としてU、V、W各相の出力の中点電位つまり各コイルの対Gnd電圧の平均電圧を基準にして、各相の対Gnd駆動電圧波形を見ると、中点に対して各相コイルにかかっている電圧は上の逆起電力波形と同じとなる。この時、その中点基準の駆動電圧が逆起電力より大きい場合が力行状態つまり加速方向、中点基準の駆動電圧が逆起電力より小さい場合が回生制動状態つまり減速方向となる。
【0034】
本発明の一実施形態に係る駆動信号出力部115は、駆動波形生成部114から実効駆動電圧乗算部150およびPWM変調部160経由で受け取った各相のPWM信号を、通電角拡張部113からの対応する各相用の拡張通電角制御信号でオンオフ制御してPWM駆動信号を生成し、生成したPWM駆動信号をインバータ回路170の各相のFETに出力する。具体的には、本発明の一実施形態に係る駆動信号出力部115は、通電角拡張部113からの各相の拡張通電角制御信号における拡張通電角において、駆動波形生成部114から実効駆動電圧乗算部150およびPWM変調部160経由で受け取った各相のPWM信号をPWM駆動信号としてインバータ回路170の対応するFETに出力する。一方、拡張通電角制御信号のローレベル区間においては、インバータ回路170の対応するFETがハイインピーダンス状態に制御される。
【0035】
図5は、駆動信号出力部115からインバータ回路170に出力されるV相のPWM駆動信号の例を示す。図5には、図3(c)や図3(d)と同様に、自転車の速度Vがほぼゼロ(停車時や発車直後)の場合、速度Vが低速の場合、速度Vが比較的高速(ただし、連続通電移行速度Vt未満)の場合、速度Vが連続通電移行速度Vt以上の場合のそれぞれについて、V相のPWM駆動信号の例が示されている。図5(a)は、図4に示したV相用のPWM信号(駆動信号波形生成部114から駆動信号出力部115に入力される信号)を再掲したものであり、図5(b)ないし図5(e)はれぞれ、自転車の速度Vがほぼゼロの場合、速度Vが低速の場合、速度Vが比較的高速(ただし、連続通電移行速度Vt未満)の場合、速度Vが連続通電移行速度Vt以上の場合における拡張通電角制御信号(V_On信号)及びV相用のPWM駆動信号(駆動信号出力部115からインバータ回路170へ出力される信号)を示している。
【0036】
図5(b)に示されているように、自転車の速度Vがほぼゼロの場合には、V相用の拡張通電角制御信号における拡張通電角(フェーズ1、フェーズ3、フェーズ4、及びフェーズ6の全体)において、V相用のPWM信号がインバータ回路170のV相スイッチング用のハイサイドFET(Svh)及びローサイドFET(Svl)に出力される(上述のとおり、ローサイドFET(Svl)への出力電圧波形は、ハイサイドFET(Svh)への出力電圧波形と逆極性となる)。一方、V相用の拡張通電角制御信号がローレベルの60°の区間(フェーズ2及びフェーズ5)は通電休止区間に相当するので、ハイサイドFET(Svh)及びローサイドFET(Svl)ともにハイインピーダンス状態に制御される。
【0037】
これと同様に、図5(c)及び図5(d)にそれぞれ示されている自転車の速度Vが低速の場合及び高速の場合も、V相用の拡張通電角制御信号における拡張通電角(ハイレベル区間)においてV相用のPWM信号がインバータ回路170のV相スイッチング用のハイサイドFET(Svh)及びローサイドFET(Svl)に出力され、V相用の拡張通電角制御信号がローレベルの区間においては、ハイサイドFET(Svh)及びローサイドFET(Svl)ともにハイインピーダンス状態に制御される。
【0038】
図5(b)から図5(d)を比較すれば明らかなように、自転車の速度Vが速くなるほど(つまり、モータ105の駆動電圧の周波数が大きくなるほど)、拡張通電角制御信号における拡張通電角が大きくなる。そして、図5(e)に示すように、速度Vが連続通電移行速度Vtに達すると(モータ105の駆動電圧の周波数が連続通電移行周波数ftに達すると)、拡張通電角が180°に達し、拡張通電角制御信号はホール出力信号1周期にわたってハイレベルとなるため、ホール出力信号1周期全体においてV相用のPWM信号がインバータ回路170のV相スイッチング用のハイサイドFET(Svh)及びローサイドFET(Svl)に出力されるようになる。このとき、モータ105の駆動は連続通電駆動方式による駆動制御と同じになる。なお、V相以外についても、V相について説明した上記の制御と同様の制御が行われる。
【0039】
以上のように、本発明の一実施形態においては、各相の拡張通電角制御信号における拡張通電角においては、駆動波形生成部114からの各相用の連続通電駆動波形信号が実効駆動電圧乗算部150およびPWM変調部160経由でインバータ回路170の対応するFETに出力され、一方、拡張通電角制御信号がローレベルの区間においてはインバータ回路170の対応するFETがハイインピーダンス状態に制御される。このとき、各相の拡張通電角制御信号の拡張通電角は、自転車の速度Vに応じて(モータ105の駆動電圧の周波数fに応じて)連続的に拡張され、自転車の速度Vが所定の連続通電移行速度Vt以上(モータ105の駆動電圧の周波数fが所定の連続通電移行周波数ft以上)では、ホール出力信号1周期にわたって通電角となる。そして、このような通電角の拡張に伴って、連続通電駆動波形信号が出力される区間が長くなり、連続通電移行速度Vt以上ではホール出力信号1周期にわたって連続通電駆動波形のPWM信号によりモータ105が駆動されるようになる。
【0040】
したがって、自転車の発車直後においては間欠通電駆動方式と同様の駆動形式でモータの駆動制御が行われ、自転車が加速するにつれて通電角が自転車の速度に比例して連続的に拡張され、所定の連続通電移行速度Vtにおいて全区間が通電区間となって連続通電駆動方式と同様の駆動電圧でモータ105の駆動制御が行われるようになる。このように、本実施形態によれば、低速では間欠通電駆動方式による駆動制御が行われ、所定速度以上では連続通電駆動方式による駆動制御が行われるので、効率よくモータ105を駆動することができる。
【0041】
また、図5(d)と図5(e)のV相用PWM駆動信号同士を比較すれば明らかなように、連続通電駆動方式に移行する直前の通電休止期間が連続的に短くなって消えて行くため、間欠通電駆動用の駆動信号と連続通電駆動用の駆動信号とを単純に切り替える従来の切替方法と比較して、間欠通電駆動方式から連続通電駆動方式へ移行する際の振動や騒音の発生を抑制できる。このような間欠通電駆動方式から連続通電駆動方式への滑らかな移行を実現するために、駆動方式切替え前後で、モータ105の出力トルクを一致させるため、切替前後の実効駆動電圧の差を完璧に調整する必要が無い点は注目すべきである。つまり、本実施形態においては、モータ105の出力トルクの調整を行わなくとも、ホール出力信号から一定時間幅通電区間を延長するだけのモノマルチ回路を設けるという簡素な構成によって間欠通電駆動方式から連続通電駆動方式への滑らかな移行を実現しているのである。さらに、本発明の一実施形態における通電角拡張処理は、通電角拡張幅決定部112内で1つのモノマルチをホール出力の各エッジでトリガして拡張幅信号を生成し、通電角制御信号生成部111からの各相通電制御信号とを通電角拡張部113で合成して通電角を拡張するという方法だけでなく、通電角拡張部113内に、通電角制御信号生成部111のUVWの各相用の出力に対して直接ノマルチを個別に設けることもできる。当該実施形態によっても各相の基準通電角を直接後方に拡張することができる。
【0042】
次に、図6ないし図10を参照して、本発明の他の実施形態に係るモータ駆動制御装置について説明する。図6は、本発明の他の実施形態に係るモータ駆動制御装置に備えられる通電角拡張幅決定部112’の機能を示すブロック図である。本実施形態に係るモータ駆動制御装置は、図2に示したモータ駆動制御装置102において、駆動制御部110に代えて駆動制御部210を備えたものである。この駆動制御部210は、通電角拡張幅決定部112に代えて通電角拡張幅決定部112’を備える点以外は、駆動制御部110と同様の構成を有するので、通電角拡張幅決定部112’以外については詳細な説明を省略する。
【0043】
本発明の一実施形態に係る駆動制御部210は、通電角制御信号生成部111から受け取った各相の通電角制御信号の通電区間の延長を通電角拡張関数とホール出力信号のエッジ間に位相内挿して、もしくはモータ105からの各相コイルの電圧波形、電流波形から演算により求められた正弦波駆動用の高分解能の位相情報から得られる三角波とを比較した比較結果に基づいて行う点で、駆動制御部110と異なっている。
【0044】
具体的には、本発明の一実施形態に係る駆動制御部210は、通電角制御信号生成部111、通電角拡張幅決定部112’、通電角拡張部113、駆動波形生成部114、及び駆動信号出力部115を備える。この通電角拡張幅決定部112’は、図6に示すように、車速算出部211と、拡張係数生成部212と、三角波生成部214と、比較器215と、を備える。
【0045】
本発明の一実施形態に係る車速算出部211は、モータ105からのホール出力信号に基づいて、単位時間におけるロータの回転数を算出し、当該ロータの回転数とモータ105の減速比とに基づいて、自転車1の車速Vを算出する。算出された自転車1の車速Vは、拡張係数生成部212に出力される。
【0046】
本発明の一実施形態に係る拡張係数生成部212は、所定の通電角拡張関数を用いて、車速算出部211から受け取った車速Vに対応する関数値を算出する。図7に、通電角拡張関数の例を示す。図7に示すように、通電角拡張関数は、自転車の車速(または、モータ105の駆動電圧の駆動周波数)の逆数を、通電角の拡張幅に関連する通電角拡張係数と対応付ける関数である。図7における通電角拡張関数は、自転車1の車速Vが連続通電移行速度Vtの場合(モータ105の駆動電圧の周波数が連続通電移行周波数ftの場合)の通電角拡張係数が0.5(後述する三角波信号の振幅と等しい値)となり、車速Vが(モータ105の駆動電圧の周波数が)大きくなるほど通電角拡張係数が大きくなるように、自転車の車速(または、モータ105の駆動電圧の駆動周波数)の逆数を通電角の拡張幅に関連する通電角拡張係数と対応付けている。また、図7の通電角拡張関数においては、自転車1の車速Vが連続通電移行速度Vtよりも小さいVt’において(連続通電移行周波数ftよりも小さい閾値周波数ft’において)通電角拡張係数が負となる。速度Vt’は、ホール出力信号に基づいて、後述する位相内挿が精度良く行える自転車1の車速の下限であり、例えば0.2km/h〜1.0km/の間の値を取ることができる。
【0047】
本発明の一実施形態に係る入力の1つ位相信号は、モータ105からの各相のホール出力信号のエッジ間に下位位相を内挿して生成、もしくはモータ105からの各相コイルの電圧波形、電流波形から演算により求められた正弦波駆動用の高分解能の位相情報である。この例では図8にホール出力信号から内挿された下位位相内挿信号の例を示すが、他の信号から得られた位相信号の場合も同様の波形となる。例えば、位相検出部18は、図8(a)に示す各相のホール出力信号の各エッジを検出し、図8(b)に示すように、検出したエッジ間を一次関数によって内挿することにより、のこぎり刃状の下位位相内挿信号を生成する。
【0048】
本発明の一実施形態に係る三角波生成部214は、位相検出部18で生成された下位位相内挿信号の絶対値をとって三角波を生成し、生成した三角波を電気角で30°進めて(又は遅らせて)比較器215に出力する。このようにして比較器215に出力された三角波の例が図8(c)に示されている。
【0049】
本発明の一実施形態に係る比較器215は、拡張係数生成部212からの通電角拡張係数を基準信号とし、当該基準信号と三角波生成部214からの三角波との比較結果に基づいて出力信号(以下、本明細書において「比較器出力信号」ということがある。)を生成する。具体的には、比較器215は、三角波生成部214からの三角波が前記基準信号(拡張係数生成部212からの通電角拡張係数)よりも小さいときにハイレベル信号(On信号)を出力し、三角波生成部214からの三角波が前記基準信号よりも大きいときにローレベル信号(Off信号)を出力する。生成された出力信号は、通電角拡張部113に出力される。
【0050】
比較器215の出力信号の例を図8(d)に示す。自転車の車速VがVt’未満の場合(モータ105の駆動電圧の周波数fがft’未満の場合)には、拡張係数生成部212からの通電角拡張係数が常に負の値となるため、三角波生成部214からの三角波が全区間において当該拡張係数よりも大きくなり、その結果、比較器215の出力信号は全区間でローレベルとなる。次に、Vt’≦V<Vtの場合(ft’≦f<ftの場合)には、当該Vが大きくなるにつれて、拡張係数生成部212からの通電角拡張係数が三角波生成部214からの三角波よりも大きくなる区間が拡大するので、これに応じて比較器215の出力信号におけるハイレベルの区間も拡大する。そして、V≧Vt(f≧ft)においては、拡張係数生成部212からの通電角拡張係数が0.5以上の値となるので、この拡張係数は、三角波生成部214からの三角波よりも常に大きくなり、比較器215の出力信号は全区間でハイレベルとなる。
【0051】
比較器215からの出力信号は、拡張幅信号として通電角拡張部113へ出力される。通電角拡張部113は、通電角拡張幅決定部112から受け取った拡張幅信号に基づいて、通電角制御信号生成部111から受け取った各相の通電角制御信号の基準通電角を拡張する。具体的には、通電角拡張部113は、各相の通電角制御信号と比較器215の出力信号とをOR合成することにより、拡張通電角制御信号を生成する。
【0052】
図9は、図6の実施形態において生成されるV相の拡張通電角制御信号(V_On信号)の例を示すタイミングチャートであり、図9(a)は図3(a)と同様にモータ105からの各相のホール出力信号を示し、図9(b)は図3(b)と同様に通電角制御信号生成部111において生成される各相の通電角制御信号を示し、図9(c)は図8(d)と同様に比較器215からの出力信号を示し、図9(d)はV相の拡張通電角制御信号(V_On信号)を示す。図9(d)に示されているV相の拡張通電角制御信号(V_On信号)は、V相の通電角制御信号V120と図9(c)に示されている比較器215からの出力信号とを通電角拡張部113においてOR合成して得られる。
【0053】
図9(d)に示すように、V<Vt’の場合(f<ft’の場合)には、図9(c)に示すとおり、比較器出力信号は全区間においてローレベルなので、通電角制御信号V120と比較器出力信号とをOR合成したV相の拡張通電角制御信号(V_On信号)は、通電角制御信号V120と同一のオンオフパターンを有している。Vt’≦V<Vtの場合(ft’≦f<ftの場合)には、図9(d)に示すとおり、V相の拡張通電角制御信号(V_On信号)は、図9(c)に示す比較器出力信号のハイレベル区間に相当する電気角の分だけ、通電角制御信号V120の基準通電角(ハイレベル区間)が前方及び後方に拡張されたオンオフパターンを有している。そして、V≧Vt(f≧ft)となった場合には、図9(c)に示すとおり比較器出力信号が常にハイレベルとなるので、V相の拡張通電角制御信号(V_On信号)も常にハイレベルとなり、通電休止区間が存在しなくなる。図9においては、V相の拡張通電角制御信号についてのみ図示したが、他相(U相及びW相)の拡張通電角制御信号もこれと同様にして生成される。生成された各相の拡張通電角制御信号は、駆動信号出力部115に出力される。
【0054】
駆動信号出力部115は、上述したように、駆動波形生成部114から実効駆動電圧乗算部150、PWM変調部160経由で受け取った各相のPWM信号を、通電角拡張部113からの対応する各相用の拡張通電角制御信号でオンオフ制御してPWM駆動信号を生成し、生成したPWM駆動信号をインバータ回路170の各FETに出力する。
【0055】
このように、本実施形態においては、通電角拡張関数の関数値すなわち通電角拡張係数を基準値とし、この基準値と、位相検出部118によりホール出力信号のエッジ間に位相内挿を行って生成、もしくは各相コイルの瞬時電圧や瞬時電流から演算で求められた、位相信号に基づき生成した三角波との比較結果に基づいて通電角制御信号の拡張幅を画する拡張幅信号(比較器215の出力信号)が生成される。このようにして生成された拡張幅信号は、通電角制御信号の基準通電角の前後に位置しているので、通電角制御信号は前後両方向に拡張されることになる。ここで、図10に本発明の一実施形態における比較器出力信号及び各相の誘導起電力およびインバータ回路170出力による各相コイルの最終駆動電圧波形のタイミングチャートを示す。一般に、間欠通電駆動方式においては、各相のコイル巻線に生じる誘導起電力のゼロクロスポイントの前後に通電停止区間を設けることにより、転流制御時にコイル巻線に駆動電圧と逆極性の相電流が流れることを防止している。図10に示されているように、本発明の一実施形態においては、車速VがVtに近づくにつれて比較器出力信号のON信号が各相の誘導起電力のゼロクロスポイントに向かって前後両方から延長されるように比較器215からの比較器出力信号の出力タイミングが制御されている。これにより、車速VがVtになるまで比較器出力信号のOFF区間が各相の誘導起電力のゼロクロスポイント付近に存在し、そして、各相のコイルの最終駆動電圧波形のように各相の駆動ゼロクロスポイント付近がハイインピーダンス(Hi−Z)状態となるように制御されているため、大きな逆極性の相電流の流れるおそれが無く、より滑らかに連続通電制御へ移行することができる。また、連続通電制御への移行が滑らかであるため、図2に示した実施形態と比較して、連続通電移行速度Vtをより小さな値に設定しても、異音や振動が搭乗者に感知されにくい。
【0056】
上記実施形態において、三角波の前後対称性など波形を変更したり、三角波の位相を進めたり遅らせたりすることにより、通電角制御信号の基準通電角を前方にのみ又は後方にのみ拡張することも可能である。なお、上記実施形態では通電角制御信号生成部111と通電角拡張幅決定部112による信号を通電角拡張部113でOR合成する方法としたが、通電角制御信号生成部111において最初から速度と位相信号による可変幅の通電角制御信号生成を行なっても良い。
【0057】
また、上記実施形態によれば、本実施形態における通電角拡張関数は、位相検出つまり高分解能の位相信号生成の精度が精度良く行える程度に自転車1の車速Vが速くなってから(モータ105の駆動電圧の周波数が大きくなってから)、位相検出により得られた位相信号による三角波を用いた比較がなされるように、V<Vt’の範囲では三角波の下限よりも小さい値を取るように定められているので、位相検出の精度が悪い速度範囲(V<Vt’)においては、位相検出により得られた位相信号による三角波を用いた基準通電角の拡張は行われない。そして、ある程度位相検出の精度が得られる速度範囲(V≧Vt’)となってから当該三角波に基づく基準通電角の拡張が行われている。これにより、精度の悪い位相信号を用いて通電角を拡張することによる効率の悪化を防止している。
【0058】
次に、図11を参照して、本発明のさらに他の実施形態について説明する。図11は、本発明の他の実施形態に係る駆動波形生成部114’の機能を示すブロック図である。本実施形態に係るモータ駆動制御装置は、駆動制御部110に代えて駆動制御部310を備える。この駆動制御部310は、駆動波形生成部114に代えて駆動波形生成部114’を備える点以外は、駆動制御部110と同様の構成を有するので、駆動波形生成部114’以外については詳細な説明を省略する。
【0059】
本発明の一実施形態に係る駆動制御部310は、実効駆動電圧乗算部150へ入力される駆動信号として、連続通電駆動用の駆動信号だけでなく、間欠通電駆動用の駆動信号も生成し、この両者を利用する点で、図2の駆動制御部110と異なっている。
【0060】
具体的には、本発明の一実施形態に係る駆動制御部310は、間欠駆動用通電角制御信号生成部111、通電角拡張幅決定部112、通電角拡張部113、駆動波形生成部114’、駆動電圧生成部117、位相検出部118、実効駆動電圧乗算部150、PWM変調部160、及び駆動信号出力部115を備える。この駆動波形生成部114’は、図11に示すように、波形移行係数生成部311と、連続通電駆動波形生成部312と、第1算部313と、間欠通電駆動波形用一定レベル生成部314と、第2算部315と、信号加算部316と、を備える。
【0061】
本発明の一実施形態に係る波形移行係数生成部311は、所定の波形移行関数を用いて、自転車1の車速Vに対応する関数値である波形移行係数を算出する。図12に、波形移行関数の例を示す。図12に示すように、波形移行関数は、自転車の車速V(または、モータ105の駆動電圧の周波数f)の逆数を波形移行係数と対応付ける関数である。波形移行係数は、0以上1以下の任意の値を取り得る。波形移行係数生成部311は、例えば図12に示す波形移行関数を用いて、ホール出力信号から算出された自転車1の車速V(または周波数f)の逆数に対応する波形移行係数を決定する。波形移行関数により定められる波形移行係数の内第1係数は、自転車の車速VがVt’のとき(周波数fがft’のとき)に0となり、自転車の車速VがVtのとき(周波数fがftのとき)に1となる。速度Vt(周波数ft)及び速度Vt’(周波数ft’)の意義及び範囲については、上述のとおりである。上記のようにして算出された波形移行係数第1係数は、第1係数が第1乗算部313に、第2係数が第2乗算部315に出力される。
【0062】
本発明の一実施形態に係る連続通電駆動波形生成部312は、インバータ回路170の各FETをスイッチングしてモータ105を正弦波駆動電圧による連続通電駆動するための波形信号を生成する。連続通電駆動波形生成部312は、位相検出部118でモータ105からのホール出力もしくは電流電圧波形検出部107からの各相コイルの瞬時電圧波形、電流波形、およびこれら以外の様々な入力信号に基づいて進角値など算出し、算出した進角値に基づく高分解能の位相出力信号に基づいて当該モータ105に与えるべき、各相の連続駆動用波形信号を生成する。連続通電駆動波形生成部312における波形信号の生成方法は、駆動波形生成部114における波形信号の生成方法と同様であるため、詳細な説明は省略する。生成された各相の連続通電駆動波形信号は、第1乗算部313に出力される。
【0063】
本発明の一実施形態に係る間欠通電駆動波形用一定レベル生成部314は、実効駆動電圧乗算部150及びPWM変調部160を経由した後、インバータ回路170の各FETをスイッチングしてモータ105を矩形波駆動電圧による間欠通電駆動するための波形信号として一定レベルの間欠駆動用波形信号を生成する。この間欠駆動用波形信号は、第2乗算部315に出力される。
【0064】
本発明の一実施形態に係る第1乗算部313は、波形移行係数生成部311からの波形移行係数である第1係数と連続通電駆動波形生成部312からの各相の連続通電駆動用波形信号とを乗算する。第1係数は、図12に示すとおり、自転車の車速VがVt’よりも小さい場合(周波数fがft’よりも小さい場合)には常にゼロとなるため、V<Vt’の範囲(f<ft’の範囲)においては、第1乗算部313からの出力レベルは常にゼロとなる。一方、Vt’≦V<Vtの範囲(ft’≦f<ftの範囲)においては、波形移行係数生成部311から自転車1の車速V(モータ105の駆動電圧の周波数f)に応じた0から1の間の第1係数が出力されているので、連続通電駆動信号波形部312からの連続通電駆動用PWM信号に当該第1係数を乗じて得られる電圧信号が信号加算部316に出力される。V≧Vt(f≧ft)においては、第1係数は常に1であるため、第1乗算部313は、連続通電駆動波形生成部312からの連続通電駆動用PWM信号をそのまま信号加算部316に出力する。
【0065】
本発明の一実施形態に係る第2乗算部315は、波形移行係数生成部311からの波形移行係数である第1係数を1から減じた値(例えば、波形移行係数が0.3であれば、1−0.3=0.7)である第2係数と間欠通電駆動波形用一定レベル生成部314からの各相の間欠通電駆動用波形信号とを乗算する。V<Vt’(f<ft’の範囲)の範囲においては、第1乗算部313からの出力レベルは常にゼロとなり、第2乗算部315は、間欠通電駆動波形用一定レベル生成部314からの間欠通電駆動用波形信号をそのまま信号加算部316に出力する。一方、Vt’≦V<Vtの範囲(ft’≦f<ftの範囲)においては、波形移行係数生成部311から、自転車1の車速V(周波数f)に応じた0から1の間の波形移行係数が出力されているので、第2係数に間欠通電駆動波形用一定レベル生成部314からの間欠通電駆動波形信号を乗じて得られた信号レベルが信号加算部316に出力される。V≧Vt(f≧ft)においては、第2係数は常に0となる。したがって、第2乗算部315から信号加算部316に出力される信号レベルは、V≧Vt(f≧ft)においては常に0となる。
【0066】
本発明の一実施形態に係る信号加算部316は、第1乗算部313からの各相の出力波形と第2乗算部315からの対応する各相の出力波形とを加算して各相の駆動波形信号を生成し、生成した駆動波形信号を実効駆動電圧乗算部150へ出力する。実効駆動電圧乗算部150の出力はPWM変調部160により2値のPWM信号に変換される。駆動信号出力部115では、PWM変調部160からの各相の駆動波形信号を、通電角拡張部113からの対応する各相用の拡張通電角制御信号でオンオフ制御してPWM駆動信号を生成し、生成したPWM駆動信号をインバータ回路170の各相のFETに出力する。
【0067】
このように、本実施形態によれば、駆動波形生成部114’において、連続通電駆動用波形信号だけでなく、間欠通電駆動用の一定レベル波形信号も利用して、実効駆動電圧乗算部150へ入力する駆動波形を生成する。特に、自転車1の車速が低速のときには、矩形波駆動電圧による間欠通電駆動用の波形信号によってモータ105が駆動されるので、正弦波駆動用の位相検出精度が落ちていても、モータ105のトルクを最大限に引き出すことができる。また、自転車1の車速が高速になるにつれて、駆動信号における連続駆動用波形信号の重みが大きくなり、連続通電駆動への切替時(車速VがVtのとき)には、連続通電駆動用波形信号によりモータ105が駆動されるので、間欠通電駆動から連続通電駆動への切替えを滑らかに行うこともできる。
【0068】
以上本発明の実施の形態を説明したが、本発明はこれに限定されない。上で述べた機能を実現する具体的な演算手法は複数存在しており、いずれを採用しても良い。また、駆動制御部110、210、310で実行される機能の少なくとも一部は専用の回路で実現されてもよく、コンピュータプロセッサによってプログラムを実行することにより上述した各機能を実現してもよい。
【0069】
本明細書中で説明される処理及び手順が単一の装置やソフトウェアによって実行される旨が説明されたとしても、そのような処理または手順は複数の装置、複数のソフトウェアによって実行され得る。本明細書において説明された機能ブロックは、それらをより少ない機能ブロックに統合して、またはより多くの機能ブロックに分解することによって説明することも可能である。例えば、図2に示した実施形態においては、電角制御信号生成部111によって生成される通電角制御信号における基準通電角を、モノマルチ回路(通電角拡張幅決定部112)によって生成されるモノマルチ出力信号で決定される拡張幅だけ拡張することにより拡張通電角を決定しているが、このような拡張通電角の算出方法はあくまで一例に過ぎず、これ以外の様々な方法により拡張通電角を決定することができる。例えば、ホール出力信号やそれ以外の入力信号に基づいて拡張通電角を演算により求めることができるソフトウェアプログラムをコンピュータプログラムによって実行することにより、拡張通電角又は拡張通電角制御信号を求めることも可能である。
【0070】
本発明の一実施形態に係るモータ駆動制御装置は、ブラシレスモータを駆動するモータ駆動制御装置に関する。本発明の一実施形態に係るモータ駆動制御装置は、スイッチング素子のオンオフ制御により駆動電圧を前記ブラシレスモータに供給するインバータ回路と、前記駆動電圧の周波数に応じて大きくなるように通電角を定める通電角制御部と、前記通電角制御部において定められた通電角の駆動信号を前記インバータ回路に出力して前記ブラシレスモータを駆動する駆動制御部と、を備える。
【0071】
当該実施形態におけるモータ駆動制御装置によれば、ブラシレスモータに供給される駆動電圧の周波数に応じて通電角が180°に達するまで大きくなるので、当該ブラシレスモータの低速回転時には通電角が小さい間欠駆動方式で駆動制御を行い、当該ブラシレスモータの回転速度が上がるにつれて、通電角が180°つまり連続駆動方式まで連続的に移行することができる。したがって、当該モータ駆動制御装置は、ブラシレスモータの回転速度に応じて間欠駆動方式と連続通電方式とを切り替えて当該モータを駆動制御できるとともに、切替え前後における駆動電圧波形の突然の段差が生じないので、切替え時における振動や騒音の発生を抑制することができる。また、低速から高速それぞれの運転条件において、最良の駆動効率を維持することができる。
【0072】
本発明の一実施形態において、前記通電角は、前記駆動電圧の周波数が連続通電移行周波数ftのときに180°つまり連続通電となる。当該実施形態によれば、駆動されるブラシレスモータの特性に応じて連続通電移行周波数ftを適切に定めておくことにより、回転速度の不足による効率の劣化を防止することができる。
【0073】
本発明の一実施形態に係るモータ駆動制御装置は、前記ブラシレスモータを連続通電駆動するための連続通電駆動波形信号を生成する連続通電駆動波形生成部をさらに備える。この連続通電駆動波形信号は、前記インバータ回路からの駆動電圧が正弦波波形となるPWM信号に変換されてもよい。本発明の一実施形態に係る駆動制御部は、前記通電角制御部において定められた前記通電角で、前記連続通電駆動用PWM信号を前記駆動信号として出力する。
【0074】
当該実施形態によれば、通電角が180°未満で間欠通電駆動が行われている場合であっても、連続通電駆動波形信号のPWM信号が駆動信号としてインバータ回路に出力される。このように、インバータ回路の駆動信号を常時連続通電駆動用PWM信号とすることにより、間欠通電駆動方式から連続通電駆動方式への切替えの前後で駆動電圧波形が大きく変化しないため、間欠通電駆動方式から連続通電駆動方式への切替え時にモータの出力トルクの変動を小さくし、振動や騒音の発生を抑制できる。
【0075】
本発明の一実施形態に係る通電角制御部は、前記ブラシレスモータからのホール出力信号の各エッジによってトリガされる180°未満の基準通電角を所定の時間だけ延長することにより、前記通電角を定める通電角拡張部を備える。本発明の一実施形態に係る通電角制御部は、前記ブラシレスモータからのホール出力信号の各エッジから所定の出力時間だけモノマルチ出力信号を出力するモノマルチ処理部を備える。本発明の一実施形態に係る通電角延長部は、前記基準通電角を前記モノマルチ出力信号の前記出力時間に相当する電気角だけ延長することにより前記通電角を定める。当該実施形態によれば、ホール出力信号のエッジから所定のパルス幅のモノマルチ出力信号を生成するだけで、基準通電角の延長幅を定めることができる。
【0076】
本発明の一実施形態に係るモノマルチ処理部は、リトリガラブル・モノマルチ処理により前記モノマルチ出力信号を生成することができる。これらのモノマルチは連続駆動に移行した速度よりさらに高速になって、モノマルチ出力が継続している間に次の相のトリガが来ても見逃さずに、再度その時点から延長されるようにリトリガラブル・モノマルチ処理とする。また、前記ブラシレスモータが複数のホール出力信号を備えている場合、各ホール出力信号を受け取る都度、それぞれ個別にモノマルチ出力信号を生成して基準通電角を延長することもできる。
【0077】
本発明の一実施形態において、前記モノマルチ出力信号の出力時間は以下の式で表すことができる。
モノマルチ出力時間=(1/ft)x(180−前記基準通電角)/360
前記モノマルチ出力信号の出力時間を上記式のように設定することにより、駆動電圧の周波数がfの場合の前記基準通電角は、(f/ft)x(180−前記基準通電角)°の電気角だけ延長されることになる。例えば、基準通電角が120°の場合には、基準通電角の延長電気角は(f/ft)x60°となる。よって、基準通電角は、当該周波数fに比例した電気角だけ延長されることになる。延長幅(電気角換算)は、駆動電圧の周波数がft未満の場合には60°未満であり、駆動電圧の周波数がftの場合に60°となる。延長幅(電気角換算)が60°となると、延長後の通電角が180°となって連続通電駆動に移行することになる。
【0078】
本発明の一実施形態に係る通電角制御部は、前記ブラシレスモータからのホール出力信号のエッジを検出し、当該エッジ間に位相内挿を行ってのこぎり刃状の下位位相内挿信号を生成する位相検出部と、前記下位位相内挿信号の絶対値をとって所定の振幅を有する三角波信号を生成する三角波生成部と、通電角拡張関数に基づいて、前記ホール出力信号により定められる前記駆動電圧の周波数に対応する通電角拡張係数を算出する通電角拡張係数算出部と、を備える。この通電角拡張関数は、前記駆動電圧の周波数の逆数と通電角拡張係数との関係を定める関数であり、前記駆動電圧の周波数が前記連続通電移行周波数ftの場合の通電角拡張係数が前記三角波信号の振幅と等しくなり、前記駆動電圧の周波数がft未満の場合には当該周波数が大きくなるほど通電角拡張係数が小さくなるように、前記駆動電圧の周波数の逆数と通電角拡張係数との関係を定める。また、本発明の一実施形態に係る通電角拡張部は、前記通電角拡張係数算出部により算出された通電角拡張係数が前記三角波信号の振幅よりも大きい電気角領域で前記基準通電角を拡張する。
【0079】
当該実施形態によれば、ホール出力信号のエッジ間を位相内挿することにより得られた三角波を利用して、基準通電角を拡張することができる。このとき、前記基準通電角の位相と前記三角波の位相や三角波の前後対称性を調整することにより、通電角を基準通電角の前方、後方、前方及び後方の両方のいずれかに拡張することができる。
【0080】
本発明の一実施形態において、通電角拡張関数は、前記連続通電移行周波数ftよりも小さい閾値周波数ft’において通電角拡張係数がゼロとなるように、前記駆動電圧の周波数の逆数と通電角拡張係数との関係を定める。ブラシレスモータの低速回転時には、ホール周期間に相対的な周期ムラが大きくなり、位相内挿の精度が悪く、電圧波形や電流波形を使用する方式で位相検出する場合も電圧レベルが低くなるのでやはり検出精度が落ちるため、このような精度の悪い位相信号に基づいて基準通電角を拡張すると、逆に効率が劣化するおそれがある。当該実施形態によれば、駆動電圧の周波数が当該閾値周波数ft’よりも小さい低速回転時には、基準通電角を拡張する制御が行われないので、低精度の位相検出処理に起因する効率の劣化を防止することができる。
【符号の説明】
【0081】
102 モータ駆動制御装置
105 モータ
110、210、310 駆動制御部
111 通電角制御信号生成部
112、112’ 通電角拡張幅決定部
113 通電角拡張部
114、114’ 駆動波形生成部
115 駆動信号出力部
170 インバータ回路
211 車速算出部
212 拡張係数生成
214 三角波生成部
215 比較器
118 位相検出部
311 波形移行係数生成部
312 連続通電駆動波形生成部
313 第1乗算部
314 間欠通電駆動波形用一定レベル生成部
315 第2乗算部
316 信号加算部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13