(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
a)結晶性ガラスを、約1℃/分から約10℃/分の範囲の速度で約700℃から810℃の範囲の核形成温度まで加熱する工程であって、前記結晶性ガラスが、モル%で、
i)約60から約75の範囲のSiO2、
ii)約10から約18の範囲のAl2O3、
iii)約5から約14の範囲のLi2O、及び
iv)5.8から7.6の範囲のB2O3
を含む、工程;
b)前記結晶性ガラスを前記核形成温度に維持して、核形成した結晶性ガラスを生成する工程;
c)前記核形成した結晶性ガラスを、約1℃/分から約10℃/分の範囲の速度で約850℃から1200℃の範囲の結晶化温度まで加熱する工程;
d)前記核形成した結晶性ガラスを前記結晶化温度に維持して、主結晶相としてβ−スポジュメンを有するガラスセラミックを生成する工程、および
e)前記ガラスセラミックをイオン交換処理に供する工程、
を有してなり、前記イオン交換したガラスセラミックが少なくとも約245N(約25kgf)のビッカース亀裂開始閾値を有する、
イオン交換したガラスセラミックを製造する方法。
工程d)の後、前記ガラスセラミックが約800℃から約1100℃の範囲の温度になった時点で、前記ガラスセラミックをクエンチして冷却する工程をさらに含む、請求項6〜8のいずれか一項に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本開示の例示的な態様及び/又は実施形態の以下の説明では、その一部を形成し、例証として、本開示が実施されうる特定の態様及び/又は実施形態が示される添付の図面について述べる。これらの態様及び/又は実施形態は、当業者が本開示を実施可能にするのに十分詳細に説明されるが、本開示の範囲が限定されることは意図されていないことが理解されよう。本開示を入手する関連技術の当業者によって想起されるであろう本明細書に説明される特徴の改変及びさらなる修正、及び本明細書に説明される原理の追加的な応用は、本開示の範囲内にあると見なされるべきである。具体的には、他の態様及び/又は実施形態が用いられてもよく、本開示の精神又は範囲から逸脱することなく、論理変更(例えば、制限されることなく、化学的、組成的{例えば、制限されることなく、化学薬品、材料などのうち1つ以上}、電気的、電気化学的、電気機械的、電気光学的、機械的、光学的、物理的、生理化学的などのうち1つ以上)及び他の変更がなされうる。したがって、以下の説明は限定的な意味に解釈されるべきではなく、本開示の態様及び/又は実施形態の範囲は添付の特許請求の範囲によって定義される。「上部」、「底部」、「外部」、「内部」などの用語は利便上の言葉であって、限定する用語と解釈されるべきではないこともまた理解される。また、本明細書において他に別記されない限り、値の範囲は、その範囲の上限と下限の両方を含む。例えば、約1〜10モル%の範囲は、1モル%及び10モル%の値を含む。加えて、本明細書で用いられる場合、数を修飾する用語「約」は、報告される数値の10%以内を意味する。
【0017】
前述の通り、本開示のさまざまな態様及び/又は実施形態は、本開示の白色不透明のβ−スポジュメンガラスセラミック;イオン交換可能な白色不透明のβ−スポジュメンガラスセラミック;及び/又はイオン交換した白色不透明のβ−スポジュメンガラスセラミックのうちの1つ以上から形成される及び/又はこれらの1つ以上を含む、物品及び/又は機器又は設備に関する。一例として、白色不透明のβ−スポジュメンガラスセラミック;イオン交換可能な白色不透明のβ−スポジュメンガラスセラミック;及び/又はイオン交換した白色不透明のβ−スポジュメンガラスセラミックは、以下に用いることができる:無線通信用に構成されうるさまざまな電子装置又は携帯用コンピュータ装置、例えば、コンピュータ及びコンピュータ付属品、例えば、「マウス」、キーボード、モニター(例えば、冷陰極蛍光灯(CCFL−バックライトLCD)、発光ダイオード(LED−バックライトLCD)等であってよい、液晶ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイパネル(PDP)など)、ゲームコントローラー、タブレット、サムドライブ、外付けドライブ、ホワイトボード等;携帯情報端末(PDA);携帯用ナビゲーション装置(PND);携帯用棚卸装置(PID);娯楽機器及び/又は娯楽施設、機器及び/又は娯楽関連の付属品、例えば、チューナー、メディアプレーヤー(例えば、レコード、カセット、ディスク、ソリッドステート等)、ケーブル及び/又は衛星放送受信機、キーボード、モニター(例えば、冷陰極蛍光灯(CCFL−バックライトLCD)、発光ダイオード(LED−バックライトLCD)等であってよい、液晶ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイパネル(PDP)など)、ゲームコントローラー等;電子読取装置又はeリーダー;携帯電話又はスマートフォン等。代替的な例として、白色不透明のβ−スポジュメンガラスセラミック;イオン交換可能な白色不透明のβ−スポジュメンガラスセラミック;及び/又はイオン交換した白色不透明のβ−スポジュメンガラスセラミックは、自動車、電気機器、及び建築用途にも使用されうる。そのような目的のためには、結晶性ガラスは、複雑な形状にするための操作と適合するように、十分に低い軟化点及び/又は十分に低い熱膨張係数を有するように配合されることが望ましい。
【0018】
主結晶相としてβ−スポジュメンを有する白色不透明のβ−スポジュメンガラスセラミック及び本開示の態様及び/又は実施形態に従った、主結晶相としてβ−スポジュメンを有する白色不透明のβ−スポジュメンガラスセラミックへと結晶化可能なように配合された結晶性ガラスは、モル%で、約60から約75の範囲のSiO
2;約10から約18の範囲のAl
2O
3;約5から約14の範囲のLi
2O;約4.5から約20の範囲のB
2O
3を含み;また代替的な態様では、モル%で、約60から約75の範囲のSiO
2;約10から約18の範囲のAl
2O
3;約5から約14の範囲のLi
2O;約4.5から約20の範囲のB
2O
3;0から約8の範囲のMgO;0から約4の範囲のZnO;約2から約5の範囲のTiO
2;0から約5の範囲のNa
2O;0から約4の範囲のK
2O;及び約0.05から約0.5の範囲のSnO
2を含む。代替的な態様では、B
2O
3は、モル%で、約4から約20、約4から約18、約4から約16、約4から約14、約4から約12、約4から約10、約4から約8、約4.1から約20、約4.1から約18、約4.1から約16、約4.1から約14、約4.1から約12、約4.1から約10、約4.1から約8、約4.2から約20、約4.2から約18、約4.2から約16、約4.2から約14、約4.2から約12、約4.2から約10、約4.2から約8、約4.3から約20、約4.3から約18、約4.3から約16、約4.3から約14、約4.3から約12、約4.3から約10、約4.3から約8、約4.4から約20、約4.4から約18、約4.4から約16、約4.4から約14、約4.4から約12、約4.4から約10、約4.4から約8、約4.5から約20、約4.3から約18、約4.5から約16、約4.5から約14、約4.5から約12、約4.5から約10、約4.5から約8、約4.6から約20、約4.6から約18、約4.6から約16、約4.6から約14、約4.6から約12、約4.6から約10、約4.6から約8、約4.7から約20、約4.7から約18、約4.7から約16、約4.7から約14、約4.7から約12、約4.7から約10、約4.7から約8、約4.8から約20、約4.8から約18、約4.8から約16、約4.8から約14、約4.8から約12、約4.8から約10、約4.8から約8、約4.9から約20、約4.9から約18、約4.9から約16、約4.9から約14、約4.9から約12、約4.9から約10、約4.9から約8、約5から約20、約5から約18、約5から約16、約5から約14、約5から約12、約5から約10、約5から約8、約5.1から約20、約5.1から約18、約5.1から約16、約5.1から約14、約5.1から約12、約5.1から約10、約5.1から約8、約5.2から約20、約5.2から約18、約5.2から約16、約5.2から約14、約5.2から約12、約5.2から約10、約5.2から約8、約5.3から約20、約5.3から約18、約5.3から約16、約5.3から約14、約5.3から約12、約5.3から約10、約5.3から約8、約5.4から約20、約5.4から約18、約5.4から約16、約5.4から約14、約5.4から約12、約5.4から約10、約5.4から約8、約5.5から約20、約5.5から約18、約5.5から約16、約5.5から約14、約5.5から約12、約5.5から約10、約5.5から約8、約5.6から約20、約5.6から約18、約5.6から約16、約5.6から約14、約5.6から約12、約5.6から約10、約5.6から約8、約5.7から約20、約5.7から約18、約5.7から約16、約5.7から約14、約5.7から約12、約5.7から約10、約5.7から約8、約5.8から約20、約5.8から約18、約5.8から約16、約5.8から約14、約5.8から約12、約5.8から約10、約5.8から約8、約5.9から約20、約5.9から約18、約5.9から約16、約5.9から約14、約5.9から約12、約5.9から約10、約5.9から約8、約6から約18、約6から約16、約6から約14、約6から約12、約6から約10、約6から約8、約6.5から約20、約6.5から約18、約6.5から約16、約6.5から約14、約6.5から約12、約6.5から約10、約6.5から約8、約7から約20、約7から約18、約7から約16、約7から約14、約7から約12、約7から約10、約8から約20、約8から約18、約8から約16、約8から約14、約8から約12、約8から約10、約10から約20、又は約10から約15の範囲内にある。
【0019】
代替的な態様では、主結晶相としてβ−スポジュメンを有する白色不透明のβ−スポジュメンガラスセラミック及び本開示の態様及び/又は実施形態に従った、主結晶相としてβ−スポジュメンを有する白色不透明のβ−スポジュメンガラスセラミックへと結晶化可能なように配合された結晶性ガラスは、モル%で、約60から約70の範囲のSiO
2;約10から約16の範囲のAl
2O
3;約7から約10の範囲のLi
2O;約6から約8の範囲のB
2O
3;約2から約5の範囲のMgO;約1から約2の範囲のZnO;約3から約4の範囲のTiO
2;約0.4から約0.6の範囲のNa
2O;及び約0.2から約0.5の範囲のSnO
2を含む。さらなる代替的な態様では、Li
2Oは約9モル%から約11モル%の範囲内にある。他のさらなる代替的な態様では、主結晶相としてβ−スポジュメンを有する白色不透明のβ−スポジュメンガラスセラミック及び主結晶相としてβ−スポジュメンを有する白色不透明のβ−スポジュメンガラスセラミックへと結晶化可能なように配合された結晶性ガラスはまた、0から約3モル%の範囲のZrO
2を含みうる。
【0020】
一部の態様では、上記組成を有するガラスセラミックは、少なくとも約245N(約25重量キログラム(kgf))、少なくとも約294N(約30kgf)、少なくとも約343N(約35kgf)、少なくとも約392N(約40kgf)、少なくとも約441N(約45kgf)、又は少なくとも約490N(約50kgf)のビッカース亀裂開始閾値を有する固有の耐損傷性を有する。ビッカース亀裂開始閾値及びビッカース圧入破壊閾値という用語は、ここでは同じ意味で用いられる。残留ガラス中のホウ素はアルカリ酸化物又は2価カチオン酸化物によっては電荷平衡化されないことから、高い含有量の(例えば、6モル%超の)B
2O
3は、耐損傷性を向上させると考えられる。結果的に、ホウ素は、主に、4配位状態(ホウ素カチオンが4つのアニオンに取り囲まれる)よりは3配位状態(ホウ素カチオンが3つのアニオンに取り囲まれる)にあるであろう。3配位したホウ素の結合性は4配位状態のホウ素の結合性よりも低く、それによって3配位したホウ素は圧縮されたときにより容易に変形可能になり、したがって、より大きい内在的な又は天然の耐損傷性をもたらす。よって、一部の態様では、B
2O
3は3配位したホウ素カチオンを含む。一部の態様では、残留ガラス中に存在するB
2O
3の少なくとも50%、残留ガラス中に存在するB
2O
3の少なくとも65%、又は残留ガラス中に存在するB
2O
3の少なくとも70%は、3配位のホウ素カチオンでありうる。
【0021】
一部の態様では、このようなガラスセラミック及び結晶性ガラスは以下の組成基準を示す:
[Al
2O
3]のモルに対する[Li
2O+Na
2O+K
2O+MgO+ZnO]のモル合計の比は、約0.8から約1.5の範囲内でありうる。
【0022】
この比の予め設定された値を有するように結晶性ガラスを配合することにより、このような結晶性ガラスを使用して作製されたガラスセラミック中のβ−スポジュメンを最大限にすることが可能になる。
【0023】
一部の追加の態様では、このようなガラスセラミックは以下の結晶相集合を示す:
(1)1:1:4.5〜1:1:8又は、代替的に1:1:4.5〜1:1:7の範囲のLi
2O:Al
2O
3:SiO
2比を示し、結晶相の少なくとも70質量%を構成する、β−スポジュメン固溶体;
(2)少なくとも1つのTi含有結晶相であって、
a.ガラスセラミックの結晶相の約2.5〜8質量%、
b.≧約50nmの長さを示す針状の形態、及び
c.ルチル
を含む、Ti含有結晶相;及び、必要に応じて、
(3)スピネル構造を示し、結晶相の1〜10質量%を構成する、1つ以上の結晶相。
【0024】
さらなる態様では、このようなガラスセラミックは、400nm〜700nmの波長範囲にわたり、0.8mmの厚さについて≧85%の不透明さ及び/又は不透明性を示す。
【0025】
さらなる態様では、約350nm〜800nmで得られた測定結果がCIE発光F02についてのCIELAB色空間座標内に示される場合、このようなガラスセラミックは、約80から約98まで又は約91から約94までの範囲の明度レベル(L
*)を示す。追加の態様において、CIE発光F02についてのCIELAB色空間座標内に結果が示され、このようなガラスセラミック物品は、約−2から約1まで又は約−0.5から約−0.2までの範囲のa
*値、及び約−5から約−2まで又は約−2.5から約−1までの範囲のb
*値を示す。
【0026】
前述の通り、「主結晶相としてのβ−スポジュメン固溶体」(あるいは「主結晶相としてのβ−スポジュメンss」又は「主結晶相としてのβ−スポジュメン」ともいう)を示す又は有する本開示の態様及び/又は実施形態に従ったガラスセラミックは、β−スポジュメン固溶体(あるいは「β−スポジュメンss」又は「β−スポジュメン」ともいう)が、本開示の態様及び/又は実施形態に従ったガラスセラミックのすべての結晶相の約70質量パーセント(質量%)超を占めることを意味する。本開示の態様及び/又は実施形態に従ったガラスセラミックの他の可能性のある結晶相の非限定的な例としては以下のものが挙げられる:β−石英固溶体(「β−石英ss」又は「β−石英」);β−ユークリプタイト固溶体(「β−ユークリプタイトss」又は「β−ユークリプタイト」);スピネル固溶体(「スピネルss」又は「スピネル」{例えば、ガーナイト等});Ti含有結晶相(例えば、ルチル、アナターゼ、二チタン酸マグネシウム{例えば、カルーアイト(karrooite)(MgTi
2O
5)等}、チタン酸アルミニウム{例えば、タイライト(tielite)(Al
2TiO
5)等}、等);コージエライト(例えば、{Mg,Fe}
2Al
3{Si
5AlO
18}から{Fe,Mg}
2Al
3{Si
5AlO
18})など。
【0027】
本開示の態様及び/又は実施形態に従ったβ−スポジュメンガラスセラミックにおけるβ−スポジュメン固溶体の優位性は、このようなガラスセラミックを1つ以上のイオン交換処理に供してイオン交換ガラスセラミックを生成する場合に有益でありうる。例えば、β−スポジュメンの構造は、Liイオンがさまざまなカチオン(例えば、Na、K、Rb等のイオン)と交換されるときに骨格の分解なしに可撓性を示すことができる。
【0028】
本開示の一部の態様及び/又は実施形態によれば、β−スポジュメンガラスセラミックは、不透明である及び/又は白色であるとして特徴付けることができる。このような事例では、本出願人は、所望の不透明性及び/又は所望の白色度を達成するためには、このようなβ−スポジュメンガラスセラミックに、微量の結晶相としてルチルを含む1つ以上のTi含有結晶相を含めることを見出した。このような1つ以上のTi含有結晶相の例としては任意のルチル(TiO
2)が挙げられ、必要に応じて、アナターゼ(TiO
2)、カルーアイト(karrooite)(MgTi
2O
5)、タイライト(tielite)(Al
2TiO
5)等、及びそれらの混合物の1つ以上を含めてもよい。所望の不透明性及び所望の白色度を達成することが望ましい場合には、本出願人は、所望の程度の不透明性及び白色度を達成するために、このようなβ−スポジュメンガラスセラミックに1つ以上のTi含有結晶相を含めることを見出したが、このTi含有結晶相はルチルを含み、一部の態様では≧50nmの長さ、他の態様では≧110nmの長さ、及びさらに他の態様では≧1μmの長さを示し、場合によっては最長2μmを示す針状結晶でありうる。
【0029】
スピネルは、一般式AB
2O
4及び立方体である基本的なスピネル構造を有する結晶性酸化物である。スピネル構造の原型は、アルミン酸マグネシウム(MgAl
2O
4)のものである。基本的なスピネル構造では、O原子は面心立方(FCC)の配列の位置を満たし;A原子はFCC構造内の四面体位置(A位置)の一部を占め;B原子はFCC構造内の八面体位置(B位置)を占める。通常のスピネルでは、A原子とB原子は異なっており、Aは+2イオンであり、Bは+3イオンである。不規則なスピネルでは、+2イオン及び+3イオンはA位置及びB位置にランダムに分布される。逆スピネルでは、A位置は+3イオンによって占められ、結果としてB位置は+2イオンと+3イオンの等量混合を有し、A原子とB原子は同一であってもよい。場合によっては、一部のA位置は+2イオン、+3イオン、及び/又は+4イオンで占めることができ、一方、同一又は他の場合では、B位置は+2イオン、+3イオン、及び/又は+4イオンで占めることができる。A原子の一部の例としては、亜鉛、ニッケル、マンガン、マグネシウム、鉄、銅、コバルト等が挙げられる。またB原子の一部の例としては、アルミニウム、アンチモン、クロム、鉄、マンガン、チタン、バナジウム等が挙げられる。幅広い範囲の固溶体はスピネルにおいてよく見られ、一般式
【0031】
によって表すことができる。例えば、完全な固溶体はZnAl
2O
4とMgAl
2O
4との間で得られ、これは式
【0033】
で表すことができる。本開示の一部の態様及び/又は実施形態によれば、β−スポジュメンガラスセラミックは、スピネル構造を示す1つ以上の結晶相を含み、これはある態様ではガーナイト、ZnAl
2O
4の組成に近い組成を有する。ZnO又はZnO及びAl
2O
3の量が増加すると、このようなβ−スポジュメンガラスセラミックはガーナイトの量が増加しうることもまた見出された。ガーナイトの屈折率(n)は1.79〜1.82の範囲でありうるが、これはβ−スポジュメンの屈折率(n=1.53〜1.57)よりも高くなりうるものの、ルチルの屈折率(n=2.61〜2.89)よりも顕著に低い。また、正方晶のβ−スポジュメン及びルチルとは対照的に、立方晶であるスピネルは複屈折を示さない。したがって、本出願人は、一般にはスピネル、具体的にはZn含有スピネルは、ルチルよりも、β−スポジュメンガラスセラミックの色における影響が少ないであろうと考えている。
【0034】
β−スポジュメンガラスセラミックがルチルを含むTi含有結晶相を含む場合の本開示の実施形態の態様では、ルチルは結晶相の2.5質量%から6質量%の範囲でありうる。本出願人は、ルチルを結晶相の少なくとも2.5質量%に維持することにより、最低限の所望の不透明性のレベルを確保できるとともに、ルチルを結晶相の6質量%以下に維持することにより、所望の不透明性レベルを維持できると同時に所望の白色度レベルを確保できることを見出した。言い換えれば、β−スポジュメンガラスセラミックのTiO
2含量は2〜5モル%の範囲とすることができ、少なくとも2モル%を維持することにより最低限の所望の不透明性のレベルを確保できるとともに、5モル%以下に維持することによって所望の不透明性のレベルを維持できると同時に所望の白色度レベルを確保できる。
【0035】
比較のため、幾つかの材料についての降順の屈折率(n)は次の通りである:ルチル(n=2.61〜2.89);アナターゼ(n=2.48〜2.56);ダイヤモンド(n=2.41〜2.43);ガーナイト(n=1.79〜1.82);サファイア(n=1.75〜1.78);コージエライト(n=1.52〜1.58);β−スポジュメン(n=1.53〜1.57);及び残留ガラス(n=1.45〜1.49)。また比較のため、同一の材料の一部についての降順の複屈折(Δn)は次の通りである:ルチル(Δn=0.25〜0.29);アナターゼ(Δn=0.073);サファイア(Δn=0.008);コージエライト(Δn=0.005〜0.017);ダイヤモンド(Δn=0);及びガーナイト(Δn=0)。上記データに基づいて、Ti含有結晶相の一部、特にルチルは、材料の中でもとりわけ、最も高い屈折率の幾つかを示すことが分かる。加えて、Ti含有結晶相の一部、特にルチルは、それらの正方晶の結晶構造の異方性の性質の結果、比較的高い複屈折(Δn)を示すことも分かる。屈折率又は複屈折のいずれかにおける差異が、ガラスセラミックの主結晶相(例えば、β−スポジュメン{n=1.53〜1.57})及び/又は任意の残留ガラス(n=1.45〜1.49)及び任意の微量の結晶相の間で大きくなるにつれて、可視波長の散乱が増大し、よって不透明性も増大しうる。各特性単独での差異も有益でありうるが、両方における差異はより一層有益でありうる。Ti含有結晶相の一部、特にルチルと基相(β−スポジュメン及び任意の残留ガラス)との間の両方における差異を所与として、本開示のβ−スポジュメンガラスセラミックは、比較的高度でありうる望ましいレベルの散乱を示し、よって、同様に高度でありうる必要かつ所望の不透明性を示す。
【0036】
Al
2O
3は、主結晶相としてβ−スポジュメンを示す本開示のβ−スポジュメンガラスセラミックに寄与する。そのようなものとして、最低限で約10モル%のAl
2O
3が望ましい。約18モル%を超えるAl
2O
3は、結果として得られるムライト液相線が結晶性ガラスの溶融及び形成を困難にすることから、望ましくない。
【0037】
Na
2O及びK
2Oを含有することにより、結晶性ガラスの溶融温度を低下させることができ、及び/又は結晶化サイクルをより短くすることができる。
【0038】
本開示の結晶性ガラス及び/又はβ−スポジュメンガラスセラミックは、6〜20モル%のB
2O
3を含む。本開示の結晶性ガラスは、典型的には1600℃未満の温度で溶融させることができ、ある特定の態様及び/又は実施形態では約1580℃未満であり、またある特定の他の態様及び/又は実施形態では約1550℃未満であり、比較的小さい市販のガラス槽内での溶融を可能にする。B
2O
3を含むことにより低い溶融温度につながる。さらには、B
2O
3の添加によりガラスセラミックの耐損傷性が向上しうる。先に論じたように、残留ガラス中のホウ素はアルカリ酸化物又は2価カチオン酸化物によっては電荷平衡化されないことから、B
2O
3を添加することにより、耐損傷性が向上すると考えられる。結果として、ホウ素は、主に、4配位状態(ホウ素カチオンが4つのアニオンで取り囲まれる)よりは3配位状態(ホウ素カチオンが3つのアニオンで取り囲まれる)にあるであろう。3配位したホウ素の結合性は4配位状態のホウ素の結合性よりも低く、それによって3配位したホウ素は圧縮されたときにより容易に変形可能になり、したがって、ビッカース亀裂開始閾値によって測定して、より大きい内在的な又は天然の耐損傷性をもたらす。
【0039】
MgO及びZnOは結晶性ガラスの融剤として作用しうる。そのようなものとして、2モル%の[MgO+ZnO]最小合計モル%が、1600℃未満のガラス溶融温度を得るためには望ましい。Mgイオン及び、それより少ない程度のZnイオンは、β−スポジュメンガラスセラミックのβ−スポジュメンに関与することができ又はAl
2O
3と反応してスピネル結晶相を形成することができる。
【0040】
結晶性ガラス中に5〜14モル%のLi
2Oを維持することにより、β−スポジュメン固溶体結晶相の形成が促進される。また、Li
2Oは融剤として作用して結晶性ガラスの融点を低下させる。そのようなものとして、最低限で5モル%のLi
2Oが、所望のβ−スポジュメン相を得るためには望ましい。14モル%を超えるLi
2Oは、例えばケイ酸リチウム等の望ましくない相がガラスセラミックの形成中に生じうることから、望ましくない場合がある。
【0041】
適切な種類及び量の1種以上の核生成剤が結晶性ガラス中に含まれ、核生成及び/又は結晶化の熱処理の間に、少なくとも主結晶相としてのβ−スポジュメン及び任意の所望の1つ以上の微量の結晶相の核生成及び/又は成長を促進する。中でも適切な1種以上の核生成剤としてTiO
2、ZrO
2等が挙げられ、一方、中でも適切な量はTiO
2:最大6モル%;及び/又はZrO
2:最大2モル%等である。少量のSnO
2は固溶体中のルチル相に入るように見え、そのようにして核生成に寄与しうる。ある態様及び/又は実施形態では、本出願人は、1つ以上のTi含有相の形成が所定の程度の不透明性及び白色度を達成するために望ましい場合には、核生成剤としてTiO
2を含むことが望ましいことを見出した。他の態様及び/又は実施形態では、核生成剤としてZrO
2を含むことにより、核生成の効率を増加することができる。よって、1つ以上の核生成剤の種類及び量は慎重に定められる。β−スポジュメンガラスセラミック(必要に応じてβ−石英固溶体を示す)に関するある特定の態様及び/又は実施形態では、2.5モル%を超える[TiO
2+SnO
2]の最小合計モル%が、結晶性ガラスの成分として望ましいことに留意されたい。言い換えれば、有効量のこの[TiO
2+SnO
2]の合計モル%は、有効な方法での核生成が生じ、成長が事前に選択した適切な結晶相集合に達するように、結晶性ガラスの成分として配合される。6モル%を超えるTiO
2は、結果として得られる高いルチル液相線が結晶性ガラスの成形中の困難性を増大させる可能性があることから、望ましくないことに留意されたい。また、SnO
2を含むことにより、核生成へのわずかな寄与の可能性に加えて、結晶性ガラスの製造中に清澄剤として部分的に機能して、それらの品質及び完全性に寄与できることに留意されたい。
【0042】
[TiO
2+SnO
2]/[SiO
2+B
2O
3]の比を、一部の態様では0.04を超え、一部の代替的な態様では0.05を超えて維持することにより、事前に選択した適切な結晶相集合の達成に寄与でき、したがって、所定の程度の不透明性及び/又は白色度の達成に寄与する。
【0043】
また、ある態様及び/又は実施形態に従ったβ−スポジュメンガラスセラミック及び/又はそれらの結晶性ガラスにおいて、本出願人は、1:1:4.5〜1:1:8の間のLi
2O:Al
2O
3:SiO
2を示すβ−スポジュメン結晶相が望ましいことを見出した。そのようなものとして、1:1:4.5の最小比は、結果として得られるβ−スポジュメンガラスセラミックにおける過剰レベルの不安定な残留ガラスの形成を防ぐために望ましい。1:1:8を超える比は、結晶性ガラスの溶融性に伴う問題が生じることから望ましくない。一部の実施形態では、MgOは、[MgO+Li
2O]のモルの合計で割ったMgOのモルが最大で約30%になりうるように、Li
2Oで置き換えることができる。
【0044】
本開示の態様及び/又は実施形態に従ったβ−スポジュメンガラスセラミックによって示されうる他の特性は、次のうちの1つ以上を含む:
(1)15MHzから3.0GHzの周波数範囲で0.03未満の誘電正接によって定められる、無線及びマイクロ波周波数透過性;
(2)0.8MPa・m
1/2超の破壊靭性;
(3)約138MPa(20,000psi)超の破壊係数(MOR);
(4)少なくとも400kg/mm
2のヌープ硬さ;
(5)4W/m℃未満の熱伝導率;及び
(6)0.1体積%未満の細孔率。
【0045】
一般的には物品、具体的には電子装置のハウジング又は筐体(各々部分的に又は完全にβ−スポジュメンガラスセラミックで構成される)に関する態様及び/又は実施形態では、このような物品及び/又はβ−スポジュメンガラスセラミックは、一部の態様では0.02未満;代替的な態様では0.01未満;及びさらなる態様では0.005未満の誘電正接によって定められる無線及びマイクロ波周波数透過性を示し、誘電正接は、15MHzから3.0GHzの範囲の周波数にわたり約25℃で決定した。この無線及びマイクロ波周波数透過性の特徴は、筐体の内部にアンテナを備えた無線手持ち式機器にとって特に有用でありうる。この無線及びマイクロ波透過性は、無線信号がハウジング又は筐体を通過することを可能にし、一部の事例では、これらの伝達を促進することができる。さらなる利益は、このような物品及び/又はβ−スポジュメンガラスセラミックが、上記誘電正接の値と組み合わせて、15MHzから3.0GHzの範囲の周波数にわたり、約25℃で決定して、約10未満;あるいは、約8未満;又は約7未満の誘電率を示す場合に、実現できる。
【0046】
化学的に強化されたβ−スポジュメンガラスセラミックに関する本開示のさらなる態様及び/又は実施形態では、このようなイオン交換したβ−スポジュメンガラスセラミックは、0.8MPa・m
1/2を超える;あるいは、0.85MPa・m
1/2を超える;又は、1MPa・m
1/2を超える破壊靭性を示す。上述の破壊靭性とは無関係に、または組み合わせて、このようなイオン交換したβ−スポジュメンガラスセラミックは、約276MPa(40,000psi)を超える、又は、代替的に、約345MPa(50,000psi)を超えるMORを示す。
【0047】
本開示の他の態様及び/又は実施形態は、ガラスセラミックへと結晶化可能なように配合された結晶性ガラスを形成する方法、及び主結晶相としてβ−スポジュメンを有するガラスセラミックを形成する方法に関する。ある態様では、一部の方法は、以下を含む結晶性ガラスを溶融して生成するように配合された原材料の混合物を溶融する工程を含む:モル%で、約60から約75の範囲のSiO
2;約10から約18の範囲のAl
2O
3;約5から約14の範囲のLi
2O;約6から約20の範囲のB
2O
3、また代替的な態様では、モル%で、約60から約75の範囲のSiO
2;約10から約18の範囲のAl
2O
3;約5から約14の範囲のLi
2O;約6から約20の範囲のB
2O
3;0から約8の範囲のMgO;0から約4の範囲のZnO;約2から約5の範囲のTiO
2;0から約5の範囲のNa
2O;0から約4の範囲のK
2O;及び約0.05から約0.5の範囲のSnO
2。
【0048】
追加の態様では、このような原材料の混合物は、溶融する際に、以下の組成基準を示す結晶性ガラスを生成するように配合される:
[Al
2O
3]のモルに対する[Li
2O+Na
2O+K
2O+MgO+ZnO]のモル合計の比は、約0.8から約1.5の範囲内でありうる。
【0049】
さらに他の態様では、原材料のこのような混合物は、溶融ガラス組成物を約1600℃未満の温度で清澄及び均質化する際に上述の結晶性ガラスを生成するように配合される。さらに別の態様は、溶融結晶性ガラスをガラス物品へと形成する工程を含んでいた。
【0050】
さらなる態様では、一部の他の方法は、結晶性ガラスを変換することによって、主結晶相としてβ−スポジュメンを有するガラスセラミックを形成する方法を含む。このような他の方法は、以下を含む:(i)主結晶相としてβ−スポジュメンを有するガラスセラミックへと結晶化可能なように配合された結晶性ガラス及び/又はそれを含むガラス物品を、約1℃/分から約10℃/分の範囲の速度で約700℃から約810℃の範囲の核形成温度(Tn)まで加熱する工程;(ii)結晶性ガラス及び/又はそれを含むガラス物品を核形成温度で、ある期間、例えば0.25時間から2時間の範囲で維持して、核形成した結晶性ガラス及び/又はそれを含むガラス物品を生産する工程;(iii)核形成した結晶性ガラス及び/又はそれを含むガラス物品を、約1℃/分から約10℃/分の範囲の速度で約850℃から約1200℃の範囲の結晶化温度(Tc)まで加熱する工程;(iv)核形成した結晶性ガラス及び/又はそれを含むガラス物品を結晶化温度で、ある期間、例えば1/4時間から4時間の範囲で維持して、主結晶相としてβ−スポジュメンを有するガラスセラミック及び/又はそれを含む物品を生産する工程;及び(v)主結晶相としてβ−スポジュメンを有するガラスセラミック及び/又はそれを含む物品を室温まで冷却する工程。一部の実施形態では、冷却する工程は、主結晶相としてβ−スポジュメンを有するガラスセラミック及び/又はそれを含む物品を、それが約800℃から約1100℃の範囲の温度になった時点でクエンチする工程を含みうる。一部の実施形態では、クエンチする工程は、約300から約500℃/分の速度で冷却することができる。クエンチする工程は、主結晶相としてβ−スポジュメンを有するガラスセラミック及び/又はそれを含む物品が室温に達するまで継続することができる。
【0051】
原材料選びに関しては、鉄含量が低い砂をSiO
2供給源として使用することが推奨される。砂及び他のバッチ材料の鉄のレベルを低下させるために、事前の酸処理が必要な場合がある。バッチ材料自体の処理が鉄酸化物を取り込まないことを確実にすることが重要である。無水ホウ酸をB
2O
3源として使用してもよい。スポジュメン、微粒アルミナ、及びAl−メタリン酸を出発物質として使用してもよい。当業者は、ガラスセラミックの計画された最終組成物に従って用いられるバッチ材料の量を計算することができる。上述の通り、有益であることが見出された清澄剤は、約0.05〜0.15モル%の量のSnO
2である。
【0052】
混合バッチ材料は、次にガラス槽に入れられ、通常のガラス溶融プロセスに従って溶融される。ガラス溶融の当業者は、ガラス溶融槽の作動容量及び温度を適応させるために、バッチの組成を上記組成範囲内に調整してガラスの溶融容易性を微調整することができる。溶融ガラスは、通常の方法を使用して均質化及び微細化することができる。1600℃を超える溶融温度を有する一部のガラスは、β−石英及び/又はβ−スポジュメン固溶体ガラスセラミックを形成するために結晶化することができるが、このような高温溶融は、通常、特殊な設計を伴った高価な溶融槽内で行われなくてはならない。加えて、このような高い溶融温度のガラスの液相線挙動は、通常、より高温でのプレス及び成形を必要とする。
【0053】
均質化され、微細化された、熱的に一様な溶融ガラスは、次に、所望の形状へと形成される。キャスティング、モールデング、加圧成形、ローリング成形、フローティングなど、さまざまな成形法が用いられうる。一般に、ガラスは、液相粘度よりも低い粘度(したがって液相温度よりも高い温度)で供給されるべきである。例えば加圧成形を挙げる。ガラスは、最初に高温金型へと供給され、プランジャを使用することによって所望の形状、表面テクスチャ及び表面粗さを有するガラス物品へと成形される。低い表面粗さ及び正確な表面輪郭をもたらすために、精密なプランジャが金型内に充填されたガラス塊をプレスすることを必要とする。高いIR透過性が必要とされる場合には、プランジャによってIR吸収酸化物又は他の欠陥がガラス物品の表面に取り込まれないこともまた必要とされる。次に、成形物は金型から取り出され、ガラスアニール装置へと移されて、必要かつ望ましい場合にはさらなる処理のために成形物から応力が十分に取り除かれる。その後、冷却されたガラス成形物は、検査され、品質管理の目的で化学的及び物理的特性について分析される。表面粗さ及び輪郭を、製品規格の遵守について試験してもよい。
【0054】
本開示のガラスセラミック物品を生成するために、次に、調製されたガラス物品は結晶化用の窯の中に置かれ、結晶化プロセスに供される。窯の温度の経時的プロファイルは、望ましくは、プログラム制御され、かつ最適化され、ガラス成形物及びガラス板等の他のガラス物品が主結晶相としてβ−スポジュメンを有するガラスセラミック物品へと形成されることを確実にする。上述のように、ガラス組成及び結晶化プロセスの間の熱履歴は、最終的な製品における最終的な結晶相、それらの集合及び結晶子径を決定する。一般に、ガラス物品は、最初に、結晶核が形成し始める核形成温度(Tn)範囲まで加熱される。その後、それらは、β−スポジュメン結晶化をもたらすために、さらに高い最高結晶化温度Tcへと加熱される。結晶化が所望の程度に達するように、所定の時間、物品をTcで保持することがしばしば望ましい。本開示のガラスセラミック物品を得るためには、核形成温度Tnは700〜810℃であり、最大結晶化温度Tcは850℃〜1200℃である。結晶化後、物品は結晶化用の窯から出され、室温へと冷却される。当業者は、Tn、Tc及び結晶化サイクルの温度の経時的プロファイルを調整して、さまざまなガラス組成を上述の範囲内に適応させることができる。本開示のガラスセラミック物品は、有利に不透明な白色を示しうる。
【0055】
本開示のガラスセラミック物品は、その最終的に意図される使用の前にさらに加工されてもよい。このような後処理の1つは、少なくとも1つの表面の少なくとも一部分がイオン交換プロセスに供されたイオン交換ガラスセラミック物品を形成するための、ガラスセラミックのイオン交換プロセスを含み、少なくとも1つの表面のイオン交換部分は、少なくとも80MPa又は少なくとも300MPaの表面における圧縮応力(σ
s)を示しつつ、物品の全体的な厚さの2%以上の層深さ(DOL)を有する圧縮層を示す。当該技術分野で知られているあらゆるイオン交換プロセスが、上記DOL及び圧縮応力(σ
s)が達成可能な限り適しているであろう。
【0056】
より具体的な実施形態では、ハウジング又は筐体は、2mmの全体厚さ、及び、40μmのDOLを示し少なくとも150MPaの圧縮応力(σ
s)を示す圧縮層を示す。この場合も、これらの特徴を達成するあらゆるイオン交換プロセスが適している。
【0057】
単一工程のイオン交換プロセスに加えて、性能を向上させるために設計されたイオン交換プロファイルを作出するために、複数のイオン交換手順が使用されうることに留意されたい。すなわち、さまざまなイオン濃度を用いて配合されたイオン交換浴を使用することによって、又はさまざまなイオン半径を有するさまざまなイオン種を用いて配合された複数のイオン交換浴を使用することによって、応力プロファイルを選択された深さに作出した。
【0058】
本明細書で用いられる場合、用語「イオン交換」は、ガラスセラミック表面、結晶性ガラス、及び/又はバルク中に存在するイオンとは異なるイオン半径を有するイオンを含む加熱溶液で、加熱したβ−スポジュメンガラスセラミック又は結晶性ガラス組成物を処理し、それによって、イオン交換(「IX」)温度条件に応じて、より小さなイオンを有するそれらのイオンをより大きなイオンで置換する、又はその逆を行うことを意味すると解される。例えば、カリウム(K)イオンは、この場合もイオン交換温度条件に応じて、ガラスセラミック中のナトリウム(Na)イオンと置換すること、または置換されることができる。あるいは、ルビジウム(Rb)またはセシウム(Cs)などのより大きい原子半径を有する他のアルカリ金属イオンは、ガラスセラミック又は結晶性ガラス中のより小さなアルカリ金属イオンと置換することができる。同様に、限定はしないが、硫酸塩、ハロゲン化物などの他のアルカリ金属塩をイオン交換(「IX」)プロセスに使用することができる。
【0059】
本発明の方法において、両方の種類のイオン交換が起こりうることが企図されている;すなわち、より大きなイオンがより小さなイオンで置換される、及び/又はより小さなイオンがより大きなイオンで置換される。一部の態様及び/又は実施形態では、本方法は、310〜490℃の温度で最長20時間の間、NaNO
3浴中に置くことによるβ−スポジュメンガラスセラミック又は結晶性ガラスのイオン交換(特にリチウムからナトリウムへのイオン交換)を包含する。一部の実施形態では、上記条件下でのイオン交換は、少なくとも80μmのDOLを達成することができる。他の態様及び/又は実施形態では、イオン交換は、同様の温度及び時間での混合カリウム/ナトリウム浴を利用して行うことができる;例えば、同等の温度での80/20のKNO
3/NaNO
3浴又は代替的に60/40のKNO
3/NaNO
3浴など。さらなる他の態様及び/又は実施形態では、2段階のイオン交換プロセスが企図されており、その第1の段階はLi含有塩浴中で行われ;例えば溶融塩浴は、主成分としてLi
2SO
4で構成されるが、溶融浴を形成するのに十分な濃度のNa
2SO
4、K
2SO
4又はCs
2SO
4で希釈された、高温硫酸塩浴でありうる。このイオン交換段階は、β−スポジュメンガラスセラミック中のより大きいナトリウムイオンを、Li含有塩浴中に見られるより小さいリチウムイオンで置換する機能を果たす。第2のイオン交換段階は、Naをβ−スポジュメンガラスセラミック中へと交換する機能を果たし、310℃から490℃の温度でのNaNO
3浴によって上述のように行うことができる。
【0060】
結晶性ガラス、ガラスセラミック、イオン交換可能なガラスセラミック、及び/又はイオン交換ガラスセラミックの特徴付け
本開示の態様及び/又は実施形態に従ったβ−スポジュメンガラスセラミック;イオン交換可能なβ−スポジュメンガラスセラミック;及び/又はイオン交換したβ−スポジュメンガラスセラミックの色を説明するためのCIELAB色空間座標(例えば、CIE L
*;CIE a
*;及びCIE b
*;又はCIE L
*、a
*、及びb
*;又はL
*、a
*、及びb
*)は、ここに参照することによってその記載が取り込まれる、F. W. Billmeyer, Jr., “Current American Practice in Color Measurement,” Applied Optics, Vol. 8, No. 4, pp. 737-750 (April 1969)に記載されるものなど、全反射(正反射を含む)測定から当該技術分野で知られた方法によって決定された。すなわち、全反射(正反射を含む)測定は、約33mmΦ×0.8mmの厚さを測定する、試料ディスクを使用する光学研磨用に調製された表面で行われた。このような全反射(正反射を含む)測定を行うための器材、及びL
*;a
*;及びb
*の色空間座標を得るための変換結果は、以下を含んでいた:
波長範囲250〜3300nm(例えば、紫外線(UV:300〜400nm)、可視(Vis:400〜700nm)、及び赤外線(IR:700〜2500nm)において全反射(正反射を含む)に対して効力があるように適切に設けられ、かつ構成された、市販のVarian Cary 5G又はPerkinElmer Lambda 950 UV−VIS−NIR分光光度計などの積分球を備えた紫外可視近赤外(UV−VIS−NIR)分光光度計;及び
測定結果をF02光源及び10度の標準観測者に基づいてCIELAB色空間座標(L
*;a
*;及びb
*)に変換するUV−VIS−NIR分光光度計に結合された色測定のための解析ソフトウェア(米国フロリダ州ウエストパームビーチ所在のThermo Scientific社から市販されるGRAMS分光ソフトウェアスイートのUV/VIS/NIRアプリケーションパック)。
【0061】
本開示の態様及び/又は実施形態に従った結晶性ガラス、ガラスセラミック、イオン交換可能なガラスセラミック、及び/又はイオン交換ガラスセラミックについての結晶相集合の結晶相及び/又は結晶相の結晶径の同定を、オランダ国所在のPhilips社製造のPW1830(CuKα線)回折計モデルなどの市販の装置を使用して、当技術分野で知られたX線回折(XRD)分析法によって行った。スペクトルは、典型的には5から80度の2θについて取得した。
【0062】
本開示の態様及び/又は実施形態に従った結晶性ガラス、ガラスセラミック、イオン交換可能なガラスセラミック、及び/又はイオン交換ガラスセラミックの表面を特徴付けるために測定された元素プロファイルは、電子マイクロプローブ(EMP);X線光電子分光法(XPS);二次イオン質量分光法(SIMS)等の当技術分野で知られた分析方法によって決定された。
【0063】
表面層における圧縮応力(σ
s)は、Sglavo, V.M. et al., “Procedure for residual stress profile determination by curvature measurements,” Mechanics of Materials 37:887-898 (2005)に記載される方法によって決定することができ、その全体がここに参照することにより本明細書に組み込まれる。
【0064】
本開示の態様及び/又は実施形態に従った結晶性ガラス、ガラスセラミック、イオン交換可能なガラスセラミック、及び/又はイオン交換ガラスセラミックの曲げ強度は、ASTM C1499(及びその後継、すべてがここに参照することにより本明細書に組み込まれる)“Determination of Monotonic Equibiaxial Flexural Strength Advanced Ceramics,” ASTM International, Conshohocken, PA, USに記載されるものなど、当技術分野で知られた方法によって特徴付けることができる。
【0065】
本開示の態様及び/又は実施形態に従った結晶性ガラス、ガラスセラミック、イオン交換可能なガラスセラミック、及び/又はイオン交換ガラスセラミックのヤング率、ずり弾性率、及びポアソン比は、ASTM C1259(及びその後継、すべてがここに参照することにより本明細書に組み込まれる)“Standard Test Method for Dynamic Young’s Modulus, Shear Modulus, and Poisson’s Ratio for Advanced Ceramics by Impulse Excitation of Vibration,” ASTM International, Conshohocken, PA, USに記載されるものなど、当技術分野で知られた方法によって特徴付けることができる。
【0066】
本開示の態様及び/又は実施形態に従った結晶性ガラス、ガラスセラミック、イオン交換可能なガラスセラミック、及び/又はイオン交換ガラスセラミックのヌープ硬さは、ASTM C1326(及びその後継、すべてがここに参照することにより本明細書に組み込まれる)“Standard Test Methods for Vickers Indentation Hardness of Advanced Ceramics,” ASTM International, Conshohocken, PA, USに記載されるものなど、当技術分野で知られた方法によって特徴付けることができる。
【0067】
本開示の態様及び/又は実施形態に従った結晶性ガラス、ガラスセラミック、イオン交換可能なガラスセラミック、及び/又はイオン交換ガラスセラミックのビッカース硬さは、ASTM C1327(及びその後継、すべてがここに参照することにより本明細書に組み込まれる)“Standard Test Methods for Vickers Indentation Hardness of Advanced Ceramics,” ASTM International, Conshohocken, PA, USに記載されるものなど、当技術分野で知られた方法によって特徴付けることができる。
【0068】
本開示の態様及び/又は実施形態に従った結晶性ガラス、ガラスセラミック、イオン交換可能なガラスセラミック及び/又はイオン交換ガラスセラミックのビッカース圧入亀裂閾値測定は、例えばASTM C1327に記載されるようにビッカース圧子への圧入荷重を0.2mm/分の速度で試験される材料表面に印加し、その後取り除くことによる、当技術分野で知られた方法によって特徴付けることができる。最大圧入荷重は10秒間、保持される。圧入亀裂閾値は、10回の圧入の50%が、圧痕の角から発生する任意の数の半径方向/中央の亀裂を示す圧入荷重で定められる。最大荷重は、閾値が所与のガラス又はガラスセラミック組成物に適合するまで増加させる。すべての圧入測定は、室温で50%の相対湿度において行われる。
【0069】
本開示の態様及び/又は実施形態に従った結晶性ガラス、ガラスセラミック、イオン交換可能なガラスセラミック、及び/又はイオン交換ガラスセラミックの熱膨張係数(CTE)は、ASTM E228(及びその後継、すべてがここに参照することにより本明細書に組み込まれる)“Standard Test Method for Linear Thermal Expansion of Solid Materials with a Push-Rod Dilatometer,” ASTM International, Conshohocken, PA, USに記載されるものなど、当技術分野で知られた方法によって特徴付けることができる。
【0070】
本開示の態様及び/又は実施形態に従った結晶性ガラス、ガラスセラミック、イオン交換可能なガラスセラミック、及び/又はイオン交換ガラスセラミックの破壊靭性(K
1C)は、ASTM C1421(及びその後継、すべてがここに参照することにより本明細書に組み込まれる)“Standard Test Methods for Determination of Fracture Toughness of Advanced Ceramics at Ambient Temperature,” ASTM International, Conshohocken, PA, USに記載されるもの及び/又はシェブロンノッチ付きショートバー(chevron notched short bar)(CNSB)試験片を使用するものなど、当技術分野で知られた及び/又はASTM E1304 C1421(及びその後継、すべてがここに参照することにより本明細書に組み込まれる)“Standard Test Method for Plane-Strain (Chevron-Notch) Fracture Toughness of Metallic Materials,” ASTM International, Conshohocken, PA, USに実質的に従った方法によって特徴付けることができる。
【実施例】
【0071】
以下の実施例は、本開示の利点及び特徴を例証するものであって、本開示をそれらに限定することを意図するものでは決してない。
【0072】
個別の構成成分の合計は100となる、又は100に極めて近づくため、すべての実際的な目的で、報告される値はモル%を表すと考えられうる。実際の結晶性ガラスのバッチ成分は、酸化物、又は他のバッチ成分と一緒に溶融すると適切な割合で所望の酸化物に変換される他の化合物のいずれかである、任意の材料を含みうる。
【0073】
【表1-1】
【0074】
【表1-2】
【0075】
【表1-3】
【0076】
*0.06%のFe
2O
3も含む。
【0077】
表Iに列挙される結晶性ガラスを以下の実施例に使用した。B
2O
3の量は、ビッカース亀裂開始閾値を含めたさまざまな特性におけるB
2O
3の影響を例証するために組成1〜10によって変化させている。
【0078】
実施例1:組成物を780℃の核形成温度まで加熱し、組成物を核形成温度で2時間維持することによって、結晶性ガラス組成物2〜7を形成した。その後、組成物2〜7の各々を5℃/分の速度で900℃から1000℃の結晶化温度まで加熱し、結晶化温度で4時間保持し、冷却した。各ガラスセラミックの歪み温度をビーム曲げ粘度計(BBV)によって決定した。歪み点(η=10
13.5Pa・s(10
14.5ポアズ))とは応力が数時間以内に緩和する温度のことを指す。
図1は、歪み温度(℃)に対する質量%でのホウ素酸化物濃度のプロットを示す。プロットは、歪み温度が、以下の関係に従って、ホウ素酸化物濃度によって変化することを示している:歪み温度=−6.4557×(B
2O
3質量%)+611.49。この関係は、0.9661のR
2フィット値を有する。各々のアニール温度をビーム曲げ粘度計(BBV)によって決定した。アニール点(η=10
12.5Pa・s(10
13ポアズ))とは、応力が数分以内に緩和する温度のことを指す。
図2は、アニール温度(℃)に対する質量%でのホウ素酸化物濃度のプロットを示す。プロットは、アニール温度が、以下の関係に従って、ホウ素酸化物濃度によって変化することを示している:アニール温度=−6.4414×(B
2O
3質量%)+657.07。この関係は、0.9693のR
2フィット値を有する。
図1及び2のプロットは、ホウ素酸化物濃度が増加するにつれて、歪み温度及びアニール温度が低下することを示唆している。ホウ素酸化物を添加することによってガラスが軟化し、3次元の形状へと形成しやすくなる。
【0079】
実施例2:組成物2〜7を780℃の核形成温度まで加熱し、核形成温度で2時間維持した。次に、組成物2〜7の各々を5℃/分の速度で900℃の結晶化温度まで加熱し、結晶化温度で4時間保持し、冷却した。次いで、ガラスセラミックをX線回折分光法に供し、ガラスセラミック中に存在する結晶子相を決定した。
図3は、強度に対する散乱角のプロットを示す。
【0080】
実施例3:組成物2〜7を780℃の核形成温度まで加熱し、核形成温度で2時間維持した。次に、組成物2〜7の各々を5℃/分の速度で900℃の結晶化温度まで加熱し、結晶化温度で4時間保持し、冷却した。ガラスセラミックを核磁気共鳴(NMR)分光法に供した。
図4は、
11BのNMRスペクトルを示しており、残留ガラス中のホウ素が、主に、BO
4(4配位状態のホウ素)よりはBO
3(3配位状態のホウ素)として存在していることを示唆している。
図5は、(1)残留ガラス中にBO
3として存在するホウ素のパーセント及び(2)残留ガラス中のBO
3のモルに対する、ホウ素酸化物のバッチ化されたモル百分率を示している。
図5に見られるように、残留ガラス中のBO
3のモルは、バッチ化されたB
2O
3のモル%が増加するにつれて増加する。先に論じたように、BO
3(3配位状態のホウ素)の増加はビッカース亀裂開始閾値を増加させることが分かった。
【0081】
実施例4:組成物1〜7を780℃の核形成温度まで加熱し、核形成温度で2時間維持した。次に、組成物1〜7の各々を5℃/分の速度で900℃の結晶化温度まで加熱し、結晶化温度で4時間保持し、冷却した。次いで、ガラスセラミックを、NaNO
3を含む溶融塩浴中、390℃で3.5時間、イオン交換し、圧縮応力層を形成した。
図6は、Na
2Oの質量%に対するμmでの圧縮応力層の深さのプロットを示す。
【0082】
実施例5:組成物2〜7を780℃の核形成温度まで加熱し、核形成温度で2時間維持した。次に、組成物2〜7の各々を5℃/分の速度で900℃の結晶化温度まで加熱し、結晶化温度で4時間保持し、冷却した。組成物1を780℃の核形成温度まで加熱し、核形成温度で2時間維持した。次に、組成物1を5℃/分の速度で975℃の結晶化温度まで加熱し、結晶化温度で4時間保持し、冷却した。次いで、ガラスセラミックを、NaNO
3を含む溶融塩浴中、390℃で3.5時間イオン交換し、圧縮応力層を形成した。
図7は、組成物1〜7の各々についてのkgfでのビッカース圧入破壊閾値を示す。示されるように、約245から約294N(25から30kgf)という高い閾値が、6から8モル%のB
2O
3を含有するガラスセラミック物品について、観察された。より良好な耐亀裂性は、
図4及び5に示すように3配位状態の多数のホウ素の存在に起因する緻密化機構に帰因しうる。10モル%を超えるB
2O
3を含むガラスセラミックの閾値の低下は、おそらくは、表面におけるそれらの低いNa濃度(
図6参照)、粗い粒子の形成、イオン交換後の表面近くの亀裂の存在、及び複屈折(
図8参照)で測定して低い表面圧縮応力に帰因しうる。
図8は、ガラスセラミックの表面複屈折(×10
4)に対する重量%でのB
2O
3のプロットを示している。図に見られるように、複屈折とB
2O
3濃度は以下の相関を有している:複屈折(×10
4)=17.723−1.0669×(B
2O
3濃度)。相関は0.96のR
2フィット値を有している。複屈折値の低下は、ホウ素酸化物濃度の関数としての表面圧縮応力の低下を示す。
【0083】
実施例6:組成物4を780℃の核形成温度まで加熱し、核形成温度で2時間維持した。次いで、組成物4を5℃/分の速度で900℃、950℃、及び1,000℃の結晶化温度まで加熱し、900℃の結晶化温度で4時間、並びに950℃及び1,000℃の結晶化温度で2時間保持した。次にガラスセラミックを、NaNO
3を含む溶融塩浴中、390℃で3.5時間イオン交換し、圧縮応力層を形成した。
図9は、各ガラスセラミックについてのkgfでのビッカース圧入破壊閾値を示している。図に見られるように、最大で約392N(約40kgf)のビッカース圧入破壊閾値に達した。
【0084】
実施例7:組成物8及び9を780℃の核形成温度まで加熱し、核形成温度で2時間維持した。次いで、組成物8及び9の各々を5℃/分の速度で975℃の結晶化温度まで加熱し、結晶化温度で4時間保持した。次に、ガラスセラミックを、NaNO
3を含む溶融塩浴中、390℃で3.5時間イオン交換し、圧縮応力層を形成した。
図10は、各ガラスセラミックにおけるkgfでのビッカース圧入破壊閾値を示している。図に見られるように、最大で約490N(約50kgf)のビッカース圧入破壊閾値に達した。
【0085】
実施例8:組成物1及び10の各々の3つの試料を780℃の核形成温度まで加熱し、核形成温度で2時間維持した。次いで、組成物を、5℃/分の速度で975℃の結晶化温度まで加熱し、結晶化温度で4時間保持した。組成物1及び10の各々のガラスセラミック試料の1つを加熱炉内において制御速度で冷却し、組成物1及び10の各々のガラスセラミック試料の1つをクエンチによって800℃から室温まで冷却し、組成物1及び10の各々のガラスセラミック試料の1つをクエンチによって850℃から室温まで冷却した。電動ファンを、300から500℃/分の平均冷却速度でクエンチ処理に使用した。次に、すべてのガラスセラミックを、NaNO
3を含む溶融塩浴中、390℃で3.5時間、イオン交換して、圧縮応力層を形成した。
図11は、各ガラスセラミックにおけるkgfでのビッカース圧入破壊閾値を示している。図に見られるように、冷却によるクエンチは、より高いビッカース圧入破壊閾値を生じる(最大約343N(約35kgf))。早い冷却温度は残留ガラスにおける、より高い仮想温度につながり、従ってより高いビッカース圧入破壊閾値につながると考えられる。
【0086】
さまざまな修正及び変更が、本明細書に記載される材料、方法、及びを物品になされうる。本明細書に記載される材料、方法、及び物品の他の態様は、本明細書の検討及び本明細書に開示される材料、方法、及び物品の実施から明らかになるであろう。明細書及び実施例は典型例と見なされることが意図されている。
【0087】
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
【0088】
実施形態1
a)モル%で、
i)約60から約75の範囲のSiO
2、
ii)約10から約18の範囲のAl
2O
3、
iii)約5から約14の範囲のLi
2O、及び
iv)約4.5から約20の範囲のB
2O
3
を含む組成物、及び
b)少なくとも約245N(約25kgf)のビッカース亀裂開始閾値
を含み、
β−スポジュメンが主結晶相である、ガラスセラミック物品。
【0089】
実施形態2
ビッカース亀裂開始閾値が少なくとも約294N(約30kgf)である、実施形態1に記載のガラスセラミック物品。
【0090】
実施形態3
ビッカース亀裂開始閾値が少なくとも約343N(約35kgf)である、実施形態1に記載のガラスセラミック物品。
【0091】
実施形態4
ビッカース亀裂開始閾値が少なくとも約392N(約40kgf)である、実施形態1に記載のガラスセラミック物品。
【0092】
実施形態5
ビッカース亀裂開始閾値が少なくとも約441N(約45kgf)である、実施形態1に記載のガラスセラミック物品。
【0093】
実施形態6
残留ガラス中に存在するB
2O
3の少なくとも約50%が3配位のホウ素カチオンを含む、実施形態1に記載のガラスセラミック物品。
【0094】
実施形態7
[Li
2O+Na
2O+K
2O+MgO+ZnO]の合計モル/[Al
2O
3]のモルの比が約0.8から約1.5の範囲にある、実施形態1に記載のガラスセラミック物品。
【0095】
実施形態8
前記組成物が、
v)0から約8の範囲のMgO、
vi)0から約4の範囲のZnO、
vii)約2から約5の範囲のTiO
2、
viii)0から約5の範囲のNa
2O、
ix)0から約4の範囲のK
2O、及び
x)約0.05から約0.5の範囲のSnO
2
をさらに含む、実施形態1に記載のガラスセラミック物品。
【0096】
実施形態9
前記組成物が、モル%で、
i)約60から約70の範囲のSiO
2、
ii)約10から約16の範囲のAl
2O
3、
iii)約7から約10の範囲のLi
2O、
iv)約6から約8の範囲のB
2O
3、
v)約2から約5の範囲のMgO、
vi)約1から約2の範囲のZnO、
vii)約3から約4の範囲のTiO
2、
viii)約0.4から約0.6の範囲のNa
2O、及び
ix)約0.2から約0.5の範囲のSnO
2
を含む、実施形態1に記載のガラスセラミック物品。
【0097】
実施形態10
前記組成物が約6から約10モル%の範囲のB
2O
3を含む、実施形態1に記載のガラスセラミック物品。
【0098】
実施形態11
前記組成物が約6から約8モル%の範囲のB
2O
3を含む、実施形態1に記載のガラスセラミック物品。
【0099】
実施形態12
前記組成物が0から約3モル%の範囲のZrO
2を含む、実施形態1に記載のガラスセラミック物品。
【0100】
実施形態13
前記ガラスセラミック物品が、10°の観測者角度及びCIE発光F02で、分光光度計を用いた正反射を含めた反射スペクトル測定から決定して、
a)約−2から約1の範囲のCIE a
*;
b)約−5から約−2の範囲のCIE b
*;及び
c)約80から約98の範囲のCIE L
*
を含むCIELAB色空間座標に存在する色を含む、実施形態1に記載のガラスセラミック物品。
【0101】
実施形態14
イオン交換によって形成された圧縮応力層をさらに備える、実施形態1に記載のガラスセラミック物品。
【0102】
実施形態15
前記圧縮応力層が、少なくとも80MPaの圧縮応力及び物品の全厚の少なくとも約2%の層深さ(DOL)を有する、実施形態14に記載のガラスセラミック物品。
【0103】
実施形態16
a)結晶性ガラスを、約1℃/分から約10℃/分の範囲の速度で約700℃から810℃の範囲の核形成温度まで加熱する工程であって、前記結晶性ガラスが、モル%で、
i)約60から約75の範囲のSiO
2、
ii)約10から約18の範囲のAl
2O
3、
iii)約5から約14の範囲のLi
2O、及び
iv)約4.5から約20の範囲のB
2O
3
を含む、工程;
b)前記結晶性ガラスを前記核形成温度に維持して、核形成した結晶性ガラスを生成する工程;
c)前記核形成した結晶性ガラスを、約1℃/分から約10℃/分の範囲の速度で約850℃から1200℃の範囲の結晶化温度まで加熱する工程;及び
d)前記核形成した結晶性ガラスを前記結晶化温度に維持して、主結晶相としてβ−スポジュメンを有するガラスセラミックを生成する工程であって、前記ガラスセラミックが少なくとも約245N(約25kgf)のビッカース亀裂開始閾値を含む、工程
を含む、ガラスセラミックを製造する方法。
【0104】
実施形態17
前記ガラスセラミックをイオン交換して圧縮応力層を形成する工程をさらに含む、実施形態16に記載の方法。
【0105】
実施形態18
前記圧縮応力層が、少なくとも80MPaの圧縮応力及びガラスセラミックの全厚の少なくとも約2%の層深さ(DOL)を有する、実施形態17に記載の方法。
【0106】
実施形態19
残留ガラス中に存在するB
2O
3の少なくとも約50%が3配位のホウ素カチオンを含む、実施形態16に記載の方法。
【0107】
実施形態20
前記ビッカース亀裂開始閾値が少なくとも約294N(約30kgf)である、実施形態16に記載の方法。
【0108】
実施形態21
前記ビッカース亀裂開始閾値が少なくとも約343N(約35kgf)である、実施形態16に記載の方法。
【0109】
実施形態22
前記ビッカース亀裂開始閾値が少なくとも約392N(約40kgf)である、実施形態16に記載の方法。
【0110】
実施形態23
前記ビッカース亀裂開始閾値が少なくとも約441N(約45kgf)である、実施形態16に記載の方法。
【0111】
実施形態24
結晶性ガラス中の[Li
2O+Na
2O+K
2O+MgO+ZnO]の合計モル/[Al
2O
3]のモルの比が約0.8から約1.5の範囲にある、実施形態16に記載の方法。
【0112】
実施形態25
工程d)の後に、前記ガラスセラミックをクエンチして冷却する工程をさらに含む、実施形態16に記載の方法。
【0113】
実施形態26
前記ガラスセラミックが約800℃から約1100℃の範囲の温度になった時点でクエンチする工程を含む、実施形態25に記載の方法。
【0114】
実施形態27
前記結晶性ガラスが、
v)0から約8の範囲のMgO、
vi)0から約4の範囲のZnO、
vii)約2から約5の範囲のTiO
2、
viii)0から約5の範囲のNa
2O、
ix)0から約4の範囲のK
2O、及び
x)約0.05から約0.5の範囲のSnO
2
をさらに含む、実施形態16に記載の方法。