(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、輸出用食肉を取り扱う施設は、厚生労働省の認定を得るために、輸出相手国毎に決められた要件を満たすことが要請されている。特に、米国、香港、EUへの輸出用食肉を取り扱うと畜場においては、スタニング処理を行って失神させた畜牛の後肢にチェーンを取り付け、所定の高さまでチェーンを上昇させて畜牛を吊り上げ、略鉛直方向に沿って畜牛を延在させた状態で放血処理を行う方法が採用されている。
【0005】
しかし、畜牛を略鉛直方向に沿って延在させた状態で吊り上げると、筋肉中の毛細血管の破裂等に起因してと畜処理後の食肉の品質が低下する(例えば血斑の発生率が高くなる)という問題があった。
【0006】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、と畜処理後の食肉の品質の低下を抑制することができると畜処理システム及びと畜処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明に係ると畜処理システムは、畜牛の前肢の少なくとも何れか一方を吊り上げるための前吊上装置と、畜牛の後肢の少なくとも何れか一方を吊り上げるための後吊上装置と、吊り上げられる畜牛の姿勢が略水平になるように前吊上装置によって吊り上げられる前肢の高さと後吊上装置によって吊り上げられる後肢の高さとを調整する吊上高調整装置と、を備えるものである。
【0008】
また、本発明に係ると畜処理方法は、畜牛の前肢の少なくとも何れか一方を吊り上げる前吊上工程と、畜牛の後肢の少なくとも何れか一方を吊り上げる後吊上工程と、吊り上げられる畜牛の姿勢が略水平になるように前吊上工程で吊り上げられる前肢の高さと後吊上工程で吊り上げられる後肢の高さとを調整する吊上高調整工程と、を含むものである。
【0009】
かかる構成及び方法を採用すると、畜牛の姿勢を略水平にした状態で吊り上げて放血処理を実施することができるので、畜牛の汚染防止を図ることができる。また、畜牛を略鉛直方向に延在させた状態で吊り上げると、筋肉中の毛細血管の破裂等に起因してと畜処理後の食肉の品質が低下する(例えば血斑の発生率が高くなる)可能性があるが、畜牛の姿勢を略水平にした状態で吊り上げることにより、このような食肉の品質の低下を抑制することができる。さらに、畜牛を鉛直方向に高く吊り上げる必要がないため、作業時間を短縮することができる。さらにまた、畜牛の前肢及び後肢の双方が拘束されるため、作業の安全性が向上するという利点もある。
【0010】
本発明に係ると畜処理システムにおいて、右側の前肢のみを吊り上げる前吊上装置と、左側の後肢のみを吊り上げる後吊上装置と、をセットにして採用したり、左側の前肢のみを吊り上げる前吊上装置と、右側の後肢のみを吊り上げる後吊上装置と、をセットにして採用したりすることができる。また、本発明に係ると畜処理方法において、前吊上工程で右側の前肢のみを吊り上げる一方、後吊上工程で左側の後肢のみを吊り上げたり、前吊上工程で左側の前肢のみを吊り上げる一方、後吊上工程で右側の後肢のみを吊り上げたりすることができる。
【0011】
本発明に係ると畜処理システムにおいて、右側の前肢のみを吊り上げる前吊上装置と、右側の後肢のみを吊り上げる後吊上装置と、をセットにして採用したり、左側の前肢のみを吊り上げる前吊上装置と、左側の後肢のみを吊り上げる後吊上装置と、をセットにして採用したりすることができる。また、本発明に係ると畜処理方法において、前吊上工程で右側の前肢のみを吊り上げる一方、後吊上工程で右側の後肢のみを吊り上げたり、前吊上工程で左側の前肢のみを吊り上げる一方、後吊上工程で左側の後肢のみを吊り上げたりすることができる。
【0012】
本発明に係ると畜処理システムにおいて、双方の前肢を吊り上げる前吊上装置と、何れか一方の後肢を吊り上げる後吊上装置と、をセットにして採用することができる。また、本発明に係ると畜処理方法において、前吊上工程で双方の前肢を吊り上げる一方、後吊上工程で何れか一方の後肢を吊り上げることができる。
【0013】
かかる構成及び方法を採用すると、畜牛の双方の前肢を吊り上げた状態で畜牛の姿勢を略水平にすることができるので、畜牛の水平姿勢を安定させることができ、放血処理がし易くなるという利点がある。
【0014】
本発明に係ると畜処理システムにおいて、放血処理前の畜牛を載置する載置台と、載置台に載置された畜牛が吊り上げられた後に、吊り上げられた畜牛の放血区域から離れた特定位置へと載置台を移動させる台移動装置と、を備えることができる。また、本発明に係ると畜処理方法において、載置台に載置された畜牛が吊り上げられた後に、吊り上げられた畜牛の放血区域から離れた特定位置へと載置台を移動させる台移動工程を含むことができる。
【0015】
かかる構成及び方法を採用すると、載置台に載置された畜牛が吊り上げられた後に、吊り上げられた畜牛の放血区域から離れた特定位置(例えば畜牛の後方位置)へと載置台を移動させることができる。すなわち、載置台から離れた放血区域まで畜牛を移動させる代わりに、特定位置へと載置台を移動させることができるため、載置台の初期位置(移動前の位置)の上方でいち早く放血処理を開始することができる。よって、畜牛の移動に要する時間を省くことができ、吊り上げてから放血処理までに要する時間を短縮することができるため、と畜処理後の食肉の品質の低下を一層抑制することができる。
【0016】
本発明に係ると畜処理システムにおいて、特定位置へと移動させた載置台を自動で洗浄・消毒する洗浄消毒装置を備えることができる。また、本発明に係ると畜処理方法において、特定位置へと移動させた載置台を自動で洗浄・消毒する洗浄消毒工程を含むことができる。
【0017】
かかる構成及び方法を採用すると、畜牛の放血処理と並行して、特定位置へと移動させた載置台を自動で洗浄・消毒することができる。従って、後続の畜牛のと畜処理を迅速に開始することができるため作業効率が向上し、複数頭のと畜処理を行う場合に要する処理時間を大幅に短縮することができる。
【0018】
本発明に係ると畜処理システムにおいて、放血処理中又は放血処理後に畜牛にパルス電流を流す通電装置を備えることができる。また、本発明に係ると畜処理方法において、放血処理中又は放血処理後に畜牛にパルス電流を流す通電工程を含むことができる。
【0019】
かかる構成及び方法を採用すると、放血処理中又は放血処理後に畜牛にパルス電流を流すことができる。従って、畜牛の放血処理を促進することができ、と畜処理後の食肉の品質の低下を一層抑制することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、と畜処理後の食肉の品質の低下を抑制することができると畜処理システム及びと畜処理方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の各実施形態について説明する。なお、以下の各実施形態はあくまでも好適な適用例であって、本発明の適用範囲がこれらに限定されるものではない。
【0023】
<第一実施形態>
まず、
図1等を用いて、本発明の第一実施形態に係ると畜処理システム1の構成について説明する。本実施形態に係ると畜処理システム1は、所定の広さを有すると畜場内に設けられており、
図1に示すように、載置台10、前吊上装置20、後吊上装置30、吊上高調整装置40、台移動装置50、洗浄消毒装置60、通電装置70等を備えている。
【0024】
載置台10は、図示されていないスタニング装置によって失神状態を維持した放血処理前の畜牛Cを横倒した状態で載置するための台である。載置台10は、畜牛Cを載置することができるような形状及び面積を有している。例えば、長辺が2.5m、短辺が2.2m以上の平面視長方形状を呈する載置台10を採用することができる。載置台10は、後述する台移動装置50によって、吊り上げられた畜牛Cの放血区域から離れた特定位置Pへと移動することができるようになっている。
【0025】
前吊上装置20は、畜牛Cの前肢Fの少なくとも何れか一方を吊り上げるため装置であり、後吊上装置30は、畜牛Cの後肢Rの少なくとも何れか一方を吊り上げるための装置である。本実施形態においては、前吊上装置20及び後吊上装置30として、電動ホイストを採用している。前吊上装置20として機能する電動ホイストは、と畜場内の上方に設けられたレール21に取り付けられる巻上部22と、巻上部22から吊り下げられて畜牛Cの前肢Fに取り付けられるチェーン23と、を有している。後吊上装置30として機能する電動ホイストは、と畜場内の天井付近に設けられた吊上移動装置31に取り付けられる巻上部32と、巻上部32から吊り下げられて畜牛Cの後肢Rに取り付けられるチェーン33と、を有している。
【0026】
吊上高調整装置40は、吊り上げられる畜牛Cの姿勢が略水平になるように、前吊上装置20によって吊り上げる前肢Fの高さと、後吊上装置30によって吊り上げる後肢Rの高さと、を調整する装置である。本実施形態においては、吊上高調整装置40は、前吊上装置20(電動ホイスト)の巻上部22を作動させるための前昇降スイッチ41、前昇降スイッチ41と前吊上装置20とを電気的に接続する配線42、後吊上装置30(電動ホイスト)の巻上部32を作動させるための後昇降スイッチ43、後昇降スイッチ43と後吊上装置30とを電気的に接続する配線44、等から構成されている。なお、吊上高調整装置40は、このような手動式の構成に限られるものではなく、畜牛Cの前肢Fの高さと後肢Rの高さとを(例えば画像処理によって)自動的に検出してその高さを自動的に調整する装置を採用することもできる。
【0027】
台移動装置50は、載置台10に載置された畜牛Cが吊り上げられた後に、吊り上げられた畜牛Cの放血区域から離れた特定位置Pへと載置台10を移動させる装置である。本実施形態においては、載置台10の移動先となる特定位置Pとして、畜牛Cの放血区域から離れた畜牛Cの後方位置(
図4)を採用している。本実施形態における台移動装置50は、載置台10を前後スライド移動可能に支持する支持レール51(
図4)と、所定の指令信号を受けた場合に載置台10を支持レール51上で移動させる図示されていない移動機構と、を有している。
【0028】
洗浄消毒装置60は、特定位置Pへと移動させた載置台10を自動で洗浄・消毒する装置である。本実施形態における洗浄消毒装置60は、
図1及び
図4に示すように、特定位置Pに移動した載置台10の少なくとも上面を覆う筐体部61と、載置台10に温湯を噴射する液体噴射部を有している。液体噴射部は、所定の指令信号を受けた場合に作動するように構成されている(なお、液体噴射部は筐体部61の内部に設けられているため図示されていない)。また、洗浄消毒装置60の筐体部61の載置台出入口付近には、図示されていないエア噴射部が設けられており、エア噴射部から噴射するエアにより載置台10の水切りを行うことができるようになっている。
【0029】
通電装置70は、放血処理中又は放血処理後に畜牛Cにパルス電流を流すことにより畜牛Cからの放血を促進する装置である。本実施形態における通電装置70は、
図1に示すように、吊り上げられた畜牛Cを左右から挟むように配置された一対の電極71と、これら電極71にパルス電流を印加する図示されていない電源と、を有しており、所定の指令信号を受けた場合に作動して畜牛Cにパルス電流を流すことができるようになっている。パルス電流の大きさは、畜牛Cの種類や大きさ等に応じて適宜設定することができ、例えば3〜4A(出力電圧150〜600W、パルス幅100〜200μs、通電時間10〜20s)程度のパルス電流を採用することができる。
【0030】
次に、
図2〜
図4を用いて、本発明の第一実施形態に係ると畜処理方法について説明する。本実施形態においては、二人の作業者A、Bと、図示されていないスタニング担当者と、によりと畜処理を行う方法について説明することとする。なお、
図2〜
図4においては、吊上高調整装置40及び通電装置70の図示を省略している。
【0031】
まず、作業者A及び作業者Bは、
図2に示すように、ノッキングペン2に導入され図示されていないスタニング装置によって失神状態とされた放血処理前の畜牛Cを、載置台10上に横倒した状態で載置する(畜牛載置工程:S1)。次いで、
図2に示すように、作業者Aは、畜牛Cの一方の前肢Fに前吊上装置20のチェーン23を取り付ける一方、作業者Bは、畜牛Cの一方の後肢Rに後吊上装置30のチェーン33を取り付ける(吊上装置取付工程:S2)。本実施形態における吊上装置取付工程S2においては、対角線状にチェーン23・33を取り付けるようにする。例えば
図1に示すように、左前肢Fと右後肢Rに各々チェーン23・33を取り付ける。或いは、右前肢Fと左後肢Rに各々チェーン23・33を取り付けてもよい。
【0032】
続いて、作業者Aは前昇降スイッチ41を、スタニング担当者は後昇降スイッチ43を、各々操作することにより、畜牛Cの前肢F及び後肢Rを吊り上げる(吊上工程:S3)。この際、作業者A及びスタニング担当者は、
図3に示すように、吊り上げられる畜牛Cの姿勢が略水平になるように前肢Fの高さと後肢Rの高さとを調整する(吊上高調整工程:S4)。
【0033】
次いで、作業者A(又は作業者B)は、図示されていない移動スイッチを操作することにより、台移動装置50に所定の指令信号を送出して移動機構を作動させ、
図4に示すように載置台10を特定位置Pへと移動させる(台移動工程:S5)。その後、作業者A(又は作業者B)は、図示されていない洗浄スイッチを操作することにより、洗浄消毒装置60に所定の指令信号を送出して液体噴射部を作動させ、載置台10を自動で洗浄・消毒する(洗浄消毒工程:S6)。
【0034】
また、作業者Aは、台移動工程S5及び洗浄消毒工程S6と並行して、畜牛Cの頭部側から頸部を約35cm切開して畜牛Cの腕頭動脈を切断することにより、放血処理を行う(放血工程:S7)。作業者Bは、放血工程S7の切開時において、チェーン23に取り付けられている前肢(例えば左前肢)Fに軽く手を添えて畜牛Cを保定するとともに、放血が始まったら後昇降スイッチ43を操作して後肢(例えば左前肢Fの対角線状にある右後肢)Rを若干上昇させ放血を促すようにする。さらに、作業者A(又は作業者B)は、放血工程S7と並行して(又は放血工程S7の終了後に)図示されていない通電スイッチを操作することにより、通電装置70に所定の指令信号を送出して畜牛Cにパルス電流を流す(通電工程:S8)。
【0035】
放血工程S7の終了後(すなわち血液の流出が止まったことを確認した後)に、作業者Aは、放血絶命した畜牛Cの面皮を剥ぎ、作業者Bは、後昇降スイッチ43を操作して後肢Rを上昇させる。そして、作業者Aは、畜牛Cが略鉛直方向に延在した状態となったところで畜牛Cの前肢Fからチェーン23を取り外す(巻上工程:S9)。巻上工程S9により、畜牛Cは、吊上移動装置31の下方にチェーン33で略鉛直方向に延在した状態で吊り下げられることとなる。その後、作業者A(又は作業者B)は、吊上移動装置31を作動させて、畜牛Cを図示されていない食道結索区域へと移動させ、その後の処理を行う。
【0036】
以上説明した実施形態に係ると畜処理システム1においては、畜牛Cの姿勢を略水平にした状態で吊り上げて放血処理を実施することができるので、畜牛Cの汚染防止を図ることができる。また、畜牛Cを略鉛直方向に延在させた状態で吊り上げると、筋肉中の毛細血管の破裂等に起因してと畜処理後の食肉の品質が低下する(例えば血斑の発生率が高くなる)可能性があるが、畜牛Cの姿勢を略水平にした状態で吊り上げることにより、このような食肉の品質の低下を抑制することができる。さらに、畜牛Cを鉛直方向に高く吊り上げる必要がないため、作業時間を短縮することができる。さらにまた、畜牛Cの前肢F及び後肢Rの双方が拘束されるため、作業の安全性が向上するという利点もある。
【0037】
また、以上説明した実施形態に係ると畜処理システム1においては、載置台10に載置された畜牛Cが吊り上げられた後に、吊り上げられた畜牛Cの放血区域から離れた特定位置(畜牛Cの後方位置)Pへと載置台10を移動させることができる。すなわち、載置台10から離れた放血区域まで畜牛Cを移動させる代わりに、特定位置Pへと載置台10を移動させることができるため、載置台10の初期位置(移動前の位置)の上方でいち早く放血処理を開始することができる。よって、畜牛Cの移動に要する時間を省くことができ、吊り上げてから放血処理までに要する時間を短縮することができるため、と畜処理後の食肉の品質の低下を一層抑制することができる。
【0038】
また、以上説明した実施形態に係ると畜処理システム1においては、畜牛Cの放血処理と並行して、特定位置Pへと移動させた載置台10を自動で洗浄・消毒することができる。従って、後続の畜牛のと畜処理を迅速に開始することができるため作業効率が向上し、複数頭のと畜処理を行う場合に要する処理時間を大幅に短縮することができる。
【0039】
また、以上説明した実施形態に係ると畜処理システム1においては、放血処理中又は放血処理後に畜牛Cにパルス電流を流すことができる。従って、畜牛Cの放血処理を促進することができ、と畜処理後の食肉の品質の低下を一層抑制することができる。
【0040】
<第二実施形態>
次に、
図5〜
図7を用いて、本発明の第二実施形態に係ると畜処理方法について説明する。なお、本実施形態に係ると畜処理システムは、第一実施形態におけると畜処理システム1と実質的に同一であるため、詳細な説明を省略し、第一実施形態と同様の符号を付すこととする。
【0041】
本実施形態に係ると畜処理方法は、第一実施形態と同様に、二人の作業者A、Bと、図示されていないスタニング担当者と、によりと畜処理を行う方法である。まず、作業者A及び作業者Bは、
図5に示すように、ノッキングペン2に導入され図示されていないスタニング装置によって失神状態とされた放血処理前の畜牛Cを、載置台10上に横倒した状態で載置する(畜牛載置工程:S11)。次いで、
図5に示すように、作業者Aは、畜牛Cの左側の前肢F
Lに前吊上装置20のチェーン23を取り付ける一方、作業者Bは、畜牛Cの左側の後肢R
Lに後吊上装置30のチェーン33を取り付ける(吊上装置取付工程:S12)。すなわち、本実施形態における吊上装置取付工程S12においては、対角線状にチェーン23・33を取り付けるのではなく、畜牛Cの「左側」の前肢F
L及び後肢R
Lにチェーン23・33を取り付けることとする。
【0042】
続いて、作業者Aは前昇降スイッチ41を、スタニング担当者は後昇降スイッチ43を、各々操作することにより、畜牛Cの左側の前肢F
L及び左側の後肢R
Lを吊り上げる(吊上工程:S13)。この際、作業者A及びスタニング担当者は、
図6に示すように、吊り上げられる畜牛Cの姿勢が略水平になるように左側の前肢F
Lの高さと左側の後肢R
Lの高さとを調整する(吊上高調整工程:S14)。
【0043】
次いで、作業者A(又は作業者B)は、図示されていない移動スイッチを操作することにより、台移動装置50に所定の指令信号を送出して移動機構を作動させ、
図7に示すように載置台10を特定位置Pへと移動させる(台移動工程:S15)。その後、作業者A(又は作業者B)は、図示されていない洗浄スイッチを操作することにより、洗浄消毒装置60に所定の指令信号を送出して液体噴射部を作動させ、載置台10を自動で洗浄・消毒する(洗浄消毒工程:S16)。
【0044】
また、作業者Aは、台移動工程S15及び洗浄消毒工程S16と並行して、畜牛Cの頭部側から頸部を約35cm切開して畜牛Cの腕頭動脈を切断することにより、放血処理を行う(放血工程:S17)。作業者Bは、放血工程S17の切開時において、チェーン23に取り付けられている左側の前肢F
Lに軽く手を添えて畜牛Cを保定するとともに、放血が始まったら後昇降スイッチ43を操作して左側の後肢R
Lを若干上昇させ放血を促すようにする。さらに、作業者A(又は作業者B)は、放血工程S17と並行して(又は放血工程S17の終了後に)図示されていない通電スイッチを操作することにより、通電装置70に所定の指令信号を送出して畜牛Cにパルス電流を流す(通電工程:S18)。
【0045】
放血工程S17の終了後(すなわち血液の流出が止まったことを確認した後)に、作業者Aは、放血絶命した畜牛Cの面皮を剥ぎ、作業者Bは、後昇降スイッチ43を操作して左側の後肢R
Lを上昇させる。そして、作業者Aは、畜牛Cが略鉛直方向に延在した状態となったところで畜牛Cの左側の前肢F
Lからチェーン23を取り外す(巻上工程:S19)。巻上工程S19により、畜牛Cは、吊上移動装置31の下方にチェーン33で略鉛直方向に延在した状態で吊り下げられることとなる。その後、作業者A(又は作業者B)は、吊上移動装置31を作動させて、畜牛Cを図示されていない食道結索区域へと移動させ、その後の処理を行う。
【0046】
以上説明した実施形態に係ると畜処理システムにおいても、第一実施形態と同様の作用効果を奏することができる。なお、第二実施形態の吊上装置取付工程S12においては、
図5に示すように、畜牛Cの「左側」の前肢F
L及び後肢R
Lにチェーン23・33を各々取り付けた例を示したが、
図8に示すように、畜牛Cの「右側」の前肢F
R及び後肢R
Rにチェーン23・33を各々取り付け、これら「右側」の前肢F
R及び後肢R
Rを吊り上げ、畜牛Cの姿勢が略水平になるようにこれら「右側」の前肢F
Rと後肢R
Rの高さを調整することもできる。
【0047】
<第三実施形態>
続いて、
図9〜
図12を用いて、本発明の第三実施形態に係ると畜処理システム1Aの構成について説明する。本実施形態に係ると畜処理システム1Aは、第一実施形態に係ると畜処理システム1の前吊上装置20及び吊上高調整装置40の構成を変更したものであり、その他の構成については第一実施形態における構成と実質的に同一である。このため、異なる構成を中心に説明し、共通する構成については詳細な説明を省略することとする。
【0048】
本実施形態に係ると畜処理システム1Aは、前吊上装置20A、後吊上装置30、吊上高調整装置40A、台移動装置50、洗浄消毒装置60、通電装置70等を備えている。載置台10、後吊上装置30、台移動装置50、洗浄消毒装置60及び通電装置70については、第一実施形態と同様であるので、詳細な説明を省略する。
【0049】
本実施形態における前吊上装置20Aは、畜牛Cの双方の前肢F
L、F
Rを吊り上げるため装置である。本実施形態においては、前吊上装置20Aとして、
図9に示すように2つの電動ホイストを採用している。一方の電動ホイストは、と畜場内の上方に設けられた一方のレール21Lに取り付けられる巻上部22Lと、巻上部22Lから吊り下げられて畜牛Cの一方の前肢(左前肢F
L)に取り付けられるチェーン23Lと、を有している。他方の電動ホイストは、と畜場内の上方に設けられた他方のレール21Rに取り付けられる巻上部22Rと、巻上部22Rから吊り下げられて畜牛Cの他方の前肢(右前肢F
R)に取り付けられるチェーン23Rと、を有している。
【0050】
本実施形態における吊上高調整装置40Aは、吊り上げられる畜牛Cの姿勢が略水平になるように、前吊上装置20Aによって吊り上げる前肢F
L、F
Rの高さと、後吊上装置30によって吊り上げる後肢Rの高さと、を調整する装置である。本実施形態における吊上高調整装置40Aは、前吊上装置20A(電動ホイスト)の巻上部22L、22Rを作動させるための前昇降スイッチ41L、41R、前昇降スイッチ41L、41Rと前吊上装置20Aの巻上部22L、22Rとを電気的に接続する配線42L、42R、後吊上装置30(電動ホイスト)の巻上部32を作動させるための後昇降スイッチ43、後昇降スイッチ43と後吊上装置30とを電気的に接続する配線44、等から構成されている。なお、吊上高調整装置40Aは、このような手動式の構成に限られるものではなく、畜牛Cの前肢F
L、F
Rの高さと後肢Rの高さとを(例えば画像処理によって)自動的に検出してその高さを自動的に調整する装置を採用することもできる。
【0051】
次に、
図10〜
図12を用いて、本発明の第三実施形態に係ると畜処理方法について説明する。本実施形態においては、二人の作業者A、Bと、図示されていないスタニング担当者と、によりと畜処理を行う方法について説明することとする。なお、
図10〜
図12においては、吊上高調整装置40A及び通電装置70の図示を省略している。
【0052】
まず、作業者A及び作業者Bは、
図10に示すように、ノッキングペン2に導入され図示されていないスタニング装置によって失神状態とされた放血処理前の畜牛Cを、載置台10上に横倒した状態で載置する(畜牛載置工程:S21)。次いで、
図10に示すように、作業者Aは、畜牛Cの左前肢F
L及び右前肢F
Rに前吊上装置20Aのチェーン23L、23Rを各々取り付ける一方、作業者Bは、畜牛Cの一方の後肢(右後肢又は左後肢)Rに後吊上装置30のチェーン33を取り付ける(吊上装置取付工程:S22)。
【0053】
続いて、作業者Aは前昇降スイッチ41L、41Rを、スタニング担当者は後昇降スイッチ43を、各々操作することにより、畜牛Cの前肢F
L、F
R及び後肢Rを吊り上げる(吊上工程:S23)。この際、作業者A及びスタニング担当者は、
図11に示すように、吊り上げられる畜牛Cの姿勢が略水平になるように前肢F
L、F
Rの高さと後肢Rの高さとを調整する(吊上高調整工程:S24)。
【0054】
次いで、作業者A(又は作業者B)は、図示されていない移動スイッチを操作することにより、台移動装置50に所定の指令信号を送出して移動機構を作動させ、
図12に示すように載置台10を特定位置Pへと移動させる(台移動工程:S25)。その後、作業者A(又は作業者B)は、図示されていない洗浄スイッチを操作することにより、洗浄消毒装置60に所定の指令信号を送出して液体噴射部を作動させ、載置台10を自動で洗浄・消毒する(洗浄消毒工程:S26)。
【0055】
また、作業者Aは、台移動工程S25及び洗浄消毒工程S26と並行して、畜牛Cの頭部側から頸部を約35cm切開して畜牛Cの腕頭動脈を切断することにより、放血処理を行う(放血工程:S27)。作業者Bは、放血工程S27の切開時において、チェーン23に取り付けられている前肢(左前肢F
L又は右前肢F
R)に軽く手を添えて畜牛Cを保定するとともに、放血が始まったら後昇降スイッチ43を操作して後肢Rを若干上昇させ放血を促すようにする。さらに、作業者A(又は作業者B)は、放血工程S27と並行して(又は放血工程S27の終了後に)図示されていない通電スイッチを操作することにより、通電装置70に所定の指令信号を送出して畜牛Cにパルス電流を流す(通電工程:S28)。
【0056】
放血工程S27の終了後(すなわち血液の流出が止まったことを確認した後)に、作業者Aは、放血絶命した畜牛Cの面皮を剥ぎ、作業者Bは、後昇降スイッチ43を操作して後肢Rを上昇させる。そして、作業者Aは、畜牛Cが略鉛直方向に延在した状態となったところで畜牛Cの前肢F
L、F
Rからチェーン23L、23Rを取り外す(巻上工程:S29)。巻上工程S29により、畜牛Cは、吊上移動装置31の下方にチェーン33で略鉛直方向に延在した状態で吊り下げられることとなる。その後、作業者A(又は作業者B)は、吊上移動装置31を作動させて、畜牛Cを図示されていない食道結索区域へと移動させ、その後の処理を行う。
【0057】
以上説明した実施形態に係ると畜処理システム1Aにおいても、第一実施形態と同様の作用効果を奏することができる。特に本実施形態においては、畜牛Cの双方の前肢F
L、F
Rを吊り上げた状態で畜牛Cの姿勢を略水平にすることができるので、畜牛Cの水平姿勢を安定させることができ、放血処理がし易くなるという利点がある。
【0058】
本発明は、以上の各実施形態に限定されるものではなく、これら実施形態に当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。すなわち、前記各実施形態が備える各要素及びその配置、材料、条件、形状、サイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、前記各実施形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【0059】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0060】
<実施例>
畜牛848頭(去勢牛561頭、雌牛287頭)について、本発明に係ると畜処理方法(以下、「水平懸垂方法」と称する)を採用してと畜処理を行った場合の血斑発生率を調査した。すなわち、まず、二人の作業者が、ノッキングペンに導入されスタニング装置によって失神状態とされた放血処理前の畜牛を、所定の載置台上に横倒した状態で載置し、一方の作業者が畜牛の左側の前肢に前吊上装置のチェーンを取り付ける一方、他方の作業者が畜牛の右側の後肢に後吊上装置のチェーンを取り付け、一方の作業者が前昇降スイッチを、スタニング担当者が後昇降スイッチを、各々操作することにより、畜牛の前肢及び後肢を吊り上げ、畜牛の姿勢が略水平になるように前肢の高さと後肢の高さとを調整した。次いで、一方の作業者が、畜牛の頭部側から頸部を切開して畜牛の腕頭動脈を切断することにより放血処理を行い、血液の流出が止まったことを確認した後、他方の作業者が後昇降スイッチを操作して後肢を上昇させ、畜牛が略鉛直方向に延在した状態となったところで一方の作業者が畜牛の前肢からチェーンを取り外した。その後、作業者は、畜牛を食道結索区域へと移動させて所定の処理を行った後、3点以上の血斑が発生しているか否かを目視で確認した。対象となる848頭の畜牛についてこれらの調査を行った結果、46頭の畜牛に血斑が発生し、血斑発生率は5.4%であった。
【0061】
また、本実施例の対象となる848頭の畜牛について、細菌汚染状況を調査した。すなわち、水平懸垂方法を採用してと畜処理を行った848頭のうち、無作為抽出による25頭の畜牛の放血切開部位100cm
2を拭き取り、細菌検査(検査項目:病原性大腸菌O157及びサルモネラ属菌)を実施した。かかる細菌検査の結果、病原性の細菌は検出されなかった。
【0062】
<比較例>
畜牛344頭(去勢牛266頭、雌牛78頭)について、通常のと畜処理方法(以下、「垂直懸垂方法」と称する)を採用してと畜処理を行った場合の血斑発生率を算出した。すなわち、まず、作業者が、ノッキングペンに導入されスタニング装置によって失神状態とされた放血処理前の畜牛を、所定の載置台上に横倒した状態で載置し、畜牛の右側の後肢に吊上装置のチェーンを取り付け、スタニング担当者が昇降スイッチを操作することにより畜牛の後肢を吊り上げ、畜牛の姿勢が略鉛直方向に沿って延在するようにした。次いで、作業者が、畜牛の頭部側から頸部を切開して畜牛の腕頭動脈を切断することにより放血処理を行い、血液の流出が止まったことを確認した後、畜牛を食道結索区域へと移動させて所定の処理を行った後、3点以上の血斑が発生しているか否かを目視で確認した。対象となる344頭の畜牛についてこれらの調査を行った結果、52頭の畜牛に血斑が発生し、血斑発生率は15.1%であった。
【0063】
また、本比較例の対象となる344頭の畜牛について、細菌汚染状況を調査した。すなわち、垂直懸垂方法を採用してと畜処理を行った344頭のうち、無作為抽出による25頭の畜牛の放血切開部位100cm
2を拭き取り、細菌検査(検査項目:病原性大腸菌O157及びサルモネラ属菌)を実施した。かかる細菌検査の結果、病原性の細菌は検出されなかった。
【0064】
<考察>
以上の実施例から明らかなように、本発明に係る水平懸垂方法を採用すると、従来の垂直懸垂方法を採用した場合と比較して、血斑発生率が約1/3に減少した。また、目視確認した結果、水平懸垂方法を採用した場合の血斑は、垂直懸垂方法と採用した場合の血斑と比較すると色が薄いものが多く、商品価値も上昇している。さらに、垂直懸垂方法を採用した場合における交雑種の血斑発生率は33.3%と非常に高く、和牛の3倍程度であったのに対し、水平懸垂方法を採用した場合における交雑種の血斑発生率は、垂直懸垂方法を採用した場合と比較して1/5以下に減少し、水平懸垂方法を採用した場合における和牛の血斑発生率も、垂直懸垂方法を採用した場合と比較して1/2以下に減少した。すなわち、水平懸垂方法を採用した結果、交雑種と和牛の血斑発生率の差が減少した。なお、水平懸垂方法及び垂直懸垂方法の何れを採用しても病原性の細菌は検出されず、食肉としての安全性は確保されていることが明らかとなった。
【解決手段】と畜処理システム1は、畜牛の前肢Fの少なくとも何れか一方を吊り上げるための前吊上装置20と、畜牛の後肢Rの少なくとも何れか一方を吊り上げるための後吊上装置30と、吊り上げられる畜牛の姿勢が略水平になるように前吊上装置20によって吊り上げられる前肢Fの高さと後吊上装置30によって吊り上げられる後肢Rの高さとを調整する吊上高調整装置40と、を備える。