(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6653066
(24)【登録日】2020年1月29日
(45)【発行日】2020年2月26日
(54)【発明の名称】プラズマ源
(51)【国際特許分類】
H05H 1/14 20060101AFI20200217BHJP
H01J 27/18 20060101ALI20200217BHJP
H01J 37/08 20060101ALI20200217BHJP
【FI】
H05H1/14
H01J27/18
H01J37/08
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-101371(P2017-101371)
(22)【出願日】2017年5月23日
(65)【公開番号】特開2018-198114(P2018-198114A)
(43)【公開日】2018年12月13日
【審査請求日】2018年6月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】302054866
【氏名又は名称】日新イオン機器株式会社
(72)【発明者】
【氏名】糸井 駿
(72)【発明者】
【氏名】藤田 秀樹
【審査官】
藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−103929(JP,A)
【文献】
特開2000−173486(JP,A)
【文献】
特開昭64−043960(JP,A)
【文献】
特開2014−082150(JP,A)
【文献】
特開2002−216653(JP,A)
【文献】
特開2000−331794(JP,A)
【文献】
特開2001−216908(JP,A)
【文献】
特開昭60−037700(JP,A)
【文献】
特開2005−146416(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0140641(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 1/00−1/54
H01J 37/08
H01J 27/00−27/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部でプラズマが生成されるチャンバと、
前記チャンバの周囲に配列された一対のミラー磁石と、
前記一対のミラー磁石の間に配置されたカスプ磁石とを備え、
前記カスプ磁石が、前記一対のミラー磁石の配列方向に垂直な面内で、前記チャンバの周囲に隙間を空けて配置され、前記チャンバ側の極性が隣に配置されたものと交互に異なる複数の永久磁石で構成されており、
個々のミラー磁石が、前記チャンバ側の極性が同極性となるように、前記チャンバの周囲に隙間を空けて配置された複数の永久磁石で構成されているとともに、個々のミラー磁石を構成する永久磁石の前記チャンバ側の極性が個々のミラー磁石で異なっており、
前記カスプ磁石と前記ミラー磁石を構成する複数の永久磁石間の隙間に冷媒流路が設けられているプラズマ源。
【請求項2】
前記カスプ磁石と前記ミラー磁石を構成する複数の永久磁石間の隙間が、前記一対のミラー磁石の配列方向に並んでいる請求項1のプラズマ源。
【請求項3】
前記隙間は複数あり、
前記冷媒流路の冷媒流入路と冷媒流出路は、異なる隙間に設けられている請求項1または2記載のプラズマ源。
【請求項4】
前記チャンバの第一の面には、内部で生成されたプラズマからイオンや電子を放出するための開口が形成されており、
前記一対のミラー磁石の配列方向で、前記第一の面と反対側にある前記チャンバの第二の面から冷媒の流入出が行われる請求項1乃至3のいずれか一項に記載のプラズマ源。
【請求項5】
前記チャンバの第一の面は、前記隙間に設けられた冷媒流路の端部が接続される環状の冷媒流路を有している請求項4記載のプラズマ源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チャンバ周囲に配置されたミラー磁石とカスプ磁石を用いて、チャンバ内部で生成されたプラズマの閉じ込めを行うプラズマ源に関する。
【背景技術】
【0002】
チャンバ周囲に配置されたミラー磁石とカスプ磁石を用いて、チャンバ内部で生成されたプラズマの閉じ込めを行うプラズマ源の応用例として、特許文献1に記載のマイクロ波イオン源が知られている。
【0003】
このイオン源は、プラズマチャンバで生成されたプラズマからアノード電極と引出電極を用いてイオンビームを引き出すイオン源である。
【0004】
円柱状のチャンバ周囲には、チャンバの軸方向(イオンビームの引出し方向)に配置された一対のミラー磁石とミラー磁石間に配置されたカスプ磁石が設けられている。
【0005】
イオンビームを引き出すための電極を除くプラズマ源のサイズを小型にするには、各磁石は電磁石ではなく永久磁石で構成されていることが望まれる。イオン源の運転中には、プラズマチャンバは高温になる。チャンバ周囲に設けられた永久磁石は、高温になれば減磁されるため、永久磁石の特性を保つには磁石の温度上昇を抑えるための冷却手段が必要となる。
【0006】
特許文献1には、ミラー磁石とカスプ磁石に永久磁石を使用することが開示されているものの、プラズマ源の小型化と永久磁石の昇温抑制を両立するための永久磁石配置については、何ら述べられていない。
【0007】
例えば、永久磁石の昇温抑制だけを考えれば、永久磁石の外周部に冷媒流路を設けることが考えられる。しかしながら、この場合には、チャンバ周りの外周寸法が大きくなることから、プラズマ源のサイズは大型になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−173486
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明では、プラズマ源の小型化と永久磁石の昇温抑制の両方が実現可能な永久磁石配置を有するプラズマ源を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
プラズマ源は、
内部でプラズマが生成されるチャンバと、
前記チャンバの周囲に第一の方向に沿って配置された一対のミラー磁石と、
前記一対のミラー磁石の間に配置されたカスプ磁石とを備え、
前記カスプ磁石が、前記第一の方向に垂直な面内で、前記チャンバの周囲に隙間を空けて配置され、前記チャンバ側の極性が隣に配置されたものと交互に異なる複数の永久磁石で構成されており、
個々のミラー磁石が、前記第一の方向に垂直な面内で、前記チャンバ側の極性が同極性となるように前記チャンバの周囲に隙間を空けて配置された複数の永久磁石で構成されており、
個々のミラー磁石の前記チャンバ側の極性が異なっている。
【0011】
上記構成のプラズマ源であれば、各磁石を構成する永久磁石間に隙間が設けられているので、この部分に冷媒流路を設けることが可能となり、プラズマ源の小型化と永久磁石の昇温抑制の両方が実現できる。
【0012】
具体的には、前記カスプ磁石と前記ミラー磁石を構成する複数の永久磁石間の隙間に冷媒流路が設けられている。
【0013】
冷媒流路の構成を簡単なものにするには、
前記カスプ磁石と前記ミラー磁石を構成する複数の永久磁石間の隙間が、前記第一の方向に並んでいることが望ましい。
【0014】
冷媒流路の構成をさらに簡素なものとするには、
前記隙間は複数あり、
前記冷媒流路の冷媒流入路と冷媒流出路は、異なる隙間に設けられていることが望ましい。
【0015】
装置構成を簡素にするには、
前記チャンバの第一の面には、内部で生成されたプラズマからイオンや電子を放出するための開口が形成されており、
前記第一の方向で、前記第一の面と反対側にある前記チャンバの第二の面から冷媒の流入出が行われることが望ましい。
【0016】
第一の面での冷媒流路の構成を簡素にするには、
前記チャンバの第一の面は、前記隙間に設けられた冷媒流路の端部が接続される環状の冷媒流路を有していることが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
各磁石を構成する永久磁石間に隙間が設けられているので、この部分に冷媒流路を設けることが可能となり、プラズマ源の小型化と永久磁石の昇温抑制の両方が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】ミラー磁石とカスプ磁石の断面図。(A)は第一のミラー磁石の断面図。(B)はカスプ磁石の断面図。(C)は第二のミラー磁石の断面図。
【
図3】各磁石を構成する永久磁石配置の変形例に係る断面図。
【
図4】冷媒流路の説明図。(A)はチャンバ全体に設けられた冷媒流路の模式図。(B)はチャンバの第一の面に形成された冷媒流路の説明図。(C)はチャンバの第二の面に形成された冷媒流路の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、プラズマ源1の全体を示す模式図である。
このプラズマ源1は、導波管4で図示されない誘電体窓を通して内部にマイクロ波が導入される円柱状のチャンバ2を備えている。
この例では、マイクロ波の導入は、チャンバ2の第二の面P2から行われる。
【0020】
特許文献1と同様に、チャンバ2の周囲には、Z方向に沿って一対のミラー磁石m1、m2が設けられている。
また、一対のミラー磁石m1、m2の間には、カスプ磁石cが設けられていて、各磁石がチャンバ2の内部に作り出す磁場により、チャンバ2の内部に生成されたプラズマの閉じ込めが行われる。
【0021】
チャンバ2の第一の面P1には、図示されない電極を用いて、チャンバ内部のプラズマからイオンや電子をビームとして引き出すための開口3が形成されている。
【0022】
Z方向に垂直な平面であるXY平面で、各磁石を切断したときの断面図が
図2に描かれている。
【0023】
図2(A)、(C)からわかるように、個々のミラー磁石m1、m2は、チャンバ側の極性が同極性となるように、チャンバ2の周囲に隙間Sを空けて配置された複数の永久磁石Pで構成されている。なお、個々のミラー磁石m1、m2で、チャンバ側の極性は異なっている。
【0024】
また、
図2(B)からわかるように、カスプ磁石cも、チャンバ2の周囲に隙間Sを空けて配置された複数の永久磁石Pで構成されている。各永久磁石Pのチャンバ側の極性は、チャンバ2の周囲で交互に異なっている。
なお、上述したミラー磁石m1、m2、カスプ磁石cを構成する複数の永久磁石Pは、図示されないヨークによって支持されている。
【0025】
上記した隙間Sがあれば、この場所に冷媒流路Lを配置することが可能となる。プラズマ源1の外形寸法は、チャンバ周囲に配置された永久磁石Pの外周部で規定されている。よって、上述した永久磁石間の隙間Sに冷媒流路Lを配置した場合、プラズマ源1の外形寸法に対する影響が小さく、プラズマ源の小型化が可能となる。
【0026】
図2(A)〜(C)に描かれる黒丸の冷媒流路Lは、チャンバ2の第二の面P2から第一の面P1側へ冷媒が流れる流路である。白丸の冷媒流路Lは、チャンバ2の第一の面P1から第二の面P2側へ冷媒が流れる流路である。冷媒としては、例えば純水が使用されているが、これ以外のものを用いてもよい。
【0027】
図2に描かれているように、各磁石m1、m2、cを構成している永久磁石間の隙間Sが、Z方向に並んでいれば、各磁石m1、m2、cの隙間Sを通過する冷媒流路Lを直線状にできるので、冷媒流路Lの構成が簡素となる。
ただし、永久磁石間の隙間Sを通過する冷媒流路Lは必ずしも直線状である必要はなく、部分的に屈折する等して多少まがっていてもよい。
【0028】
例えば、
図3に示すように、ミラー磁石m1、m2とカスプ磁石cの断面図で、ミラー磁石m1、m2を構成する永久磁石間の隙間Sの位置とカスプ磁石cを構成する永久磁石間の隙間Sの位置が、XY平面で異なっていて、Z方向に並んでいないものであってもよい。
図示される永久磁石配置であっても、永久磁石間の隙間Sに冷媒流路が設けられていることから、
図2の構成と同じく、プラズマ源の小型化と永久磁石の昇温抑制の両方を実現することができる。
【0029】
冷媒流路Lの具体的な構成としては、
図4に記載の構成が考えられる。
図4(A)は、チャンバ周りに設けられた冷媒流路の全体を示す模式図である。
図4(B)は、
図4(A)に記載のチャンバ2の第一の面P1に形成された冷媒流路である。
図4(C)は、
図4(A)に記載のチャンバ2の第二の面P2に形成された冷媒流路である。
【0030】
チャンバ2の第二の面P2に図示されるINから冷媒が供給される。チャンバ2に供給された冷媒は、実線で図示される3つの冷媒流路に分かれて各磁石に形成された隙間Sを通過し、チャンバ2の第一の面P1に輸送される。
【0031】
チャンバ2の第一の面P1には、環状の冷媒流路LC(太線)が形成されている。この冷媒流路LCに、上述した実線の冷媒流路が接続されている。
また、環状の冷媒流路LCには、チャンバ2の第一の面P1から第二の面P2に冷媒を輸送する冷媒流路(破線)が接続されている。
破線で描かれる冷媒流路を通して、第二の面P2に輸送された冷媒は、図示されるOUTからチャンバ2の外部に排出される。
【0032】
プラズマ源1の第一の面P1で、実線の冷媒流路と破線の冷媒流路とを個々に接続する構成を採用してもいいが、チャンバを削り出すことで流路を形成する場合には、上述した環状の冷媒流路を形成する方が流路の製作は簡単でよい。
なお、ここで言う環状とは、必ずしも円を示すものではなく、四角等の別の形状も含まれており、広くは閉じた輪のことを意味している。
【0033】
冷媒流路への冷媒の供給、冷媒流路からの冷媒の排出については、プラズマ源1の第二の面P2から行うことが望ましい。プラズマ源1の第一の面P1には、開口3が形成されており、ここを通じてイオン等のビームの引出しが行われ、イオンや電子がチャンバ外部に放出される。この場所の近傍から冷媒流路への冷媒の供給や冷媒流路からの冷媒の排出を行った場合、イオンや電子の放出やイオン等のビームの引出しを妨げることが懸念される。
【0034】
また、仮にイオンや電子の放出やイオン等のビームの引出しを妨げることなく、冷媒の供給、排出が行えたとしても、冷媒の供給、排出を行える場所が、開口近傍に配置される電極配置等の他の要因により大きく制約されることを考えれば、第二の面P2から冷媒の供給、排出を行う方が装置構成は簡素なものとなる。
【0035】
上記実施形態では、チャンバ2が円柱である旨を説明したが、チャンバ2の形状は直方体や立方体、角柱であってもよい。
また、上記実施形態では、チャンバ2の長さ方向をZ方向としていたが、チャンバ2はY方向の方がZ方向よりも長い形状をしていてもよい。
【0036】
また、上記実施形態では、導波管を用いてチャンバ2にマイクロ波を導入するものであったが、マイクロ波以外の高周波を導入する構成であってもよい。さらに、導波管以外に、チャンバ内にアンテナを挿入し、同アンテナを通じて高周波をチャンバ内に導入するようにしてもよい。
【0037】
上記実施形態では、各隙間Sに1つの冷媒流路Lが設けられる構成であったが、各隙間Sに2つ以上の冷媒流路Lを配置するようにしてもよい。
ただし、複数本の冷媒流路Lを1つの隙間Sに配置する場合、トータルの冷媒流路長が長くなることや1つの隙間Sに配置される冷媒流路Lの径が小さくなることで冷却能力が低下することから、上記実施形態のように1つの隙間Sに1つの冷媒流路Lが設けられる構成の方が好ましい。
【0038】
上記実施形態では、各磁石m1、m2、cを構成する永久磁石Pの個数は同数(6つ)であったが、必ずしも同数にしておく必要はない。
【0039】
また、上記実施形態では、チャンバ2の第一の面P1側のミラー磁石m2のチャンバ側の極性がN、チャンバ2の第二の面P2側のミラー磁石m1のチャンバ側の極性がSであったが、両者の極性は逆であってもよい。
【0040】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0041】
1 プラズマ源
2 チャンバ
3 開口
4 導波管
m1 第一のミラー磁石
m2 第二のミラー磁石
c カスプ磁石
P1 第一の面
P2 第二の面
S 隙間
L 冷媒流路
P 永久磁石