【実施例】
【0014】
図1に示すように、即湯循環システム1は、給湯装置2と、給湯装置2に湯水を供給する入水通路3と、給湯装置2で加熱された湯水が出湯される出湯通路4と、出湯通路4を流れる湯水を入水通路3を経由して給湯装置2に送る循環ポンプ5とを備え、給湯装置2から出湯された湯水が給湯装置2に再入水可能な循環通路6が形成されている。
【0015】
入水通路3には、入水通路3を介して上水を給湯装置2に供給する給水通路7と、循環する湯水の熱膨張を吸収する膨張タンク8が接続され、循環する湯水に混ざったエアを分離するエアセパレータ9と逆流を防ぐ逆止弁10が備えられている。給水通路7には、入水通路3を流れる湯水が給水通路7に逆流することを防ぐ逆止弁11が設けられている。出湯通路4には、給湯栓Fが設けられている。給湯栓Fは1つでもよく複数設けられていてもよい。
【0016】
給湯装置2は、加熱通路12と、バーナ13と、熱交換器14と、ガス比例弁15と、出湯流量調整弁16と、制御ユニット17(制御手段に相当する)とを含む。
【0017】
加熱通路12は、上流端が入水通路3に接続され、下流端が出湯通路4に接続され、入水通路3から供給されて熱交換器14において加熱された湯水を出湯通路4に出湯する。出湯流量調整弁16は、制御ユニット17により開度を調整することによって、出湯流量を制御することができる。
【0018】
バーナ13は、図示しないガス配管から供給された燃料ガスと、図示しない燃焼ファンから供給された空気との混合気を燃焼部で燃焼させることによって、高温の燃焼ガスを発生させる。バーナ13に供給される燃料ガス供給量は、制御ユニット17によるガス比例弁15の開度の調節により制御される。燃焼ファンから供給される空気の量は、バーナ13での燃焼における空燃比が一定となるように制御される。
【0019】
熱交換器14は、バーナ13での燃焼により発生した高温の燃焼ガスと加熱通路12を流れる湯水との間で熱交換させて湯水を加熱する。
【0020】
加熱通路12には、流量センサ18(流量検知手段に相当する)と、入水温度センサ19(入水温度検知手段に相当する)と、出湯温度センサ20(出湯温度検知手段に相当する)が設けられている。流量センサ18によって、加熱通路12の流量Qが検知される。入水温度センサ19は、熱交換器14の上流側に設けられて、入水温度Tcを検知する。出湯温度センサ20は、熱交換器14の下流側に設けられて、出湯温度Thを検知する。検知された流量Q、入水温度Tcおよび出湯温度Thは、制御ユニット17に送信される。
【0021】
制御ユニット17は、操作リモコン21の操作等により設定した設定温度Trに従って出湯温度Thを制御するための湯温制御を実行する。詳しくは、制御ユニット17は、湯温制御のためにバーナ13で発生させる必要発生熱量を算出すると共に、この必要発生熱量に従ってガス比例弁15の開度を調節する。ガス比例弁15の開度の調節によりバーナ13での発生熱量が変化すると、熱交換器14を介して水温上昇に寄与する熱量が変化するので、出湯温度Thが変化する。
【0022】
図2に示すように、制御ユニット17は、演算係数Rを学習する学習手段22と、フィードフォワード制御手段23(FF制御手段23)と、フィードバック制御手段24(FB制御手段24)と、加算手段25とを有し、各手段の演算により必要発生熱量Utlを設定する。一般的に給湯装置では、必要発生熱量Utlは号数を単位として演算される。号数1は、Q=1(L/min)の流量下で湯温を25℃上昇させるのに必要な熱量に相当する。従って、以下必要発生熱量を入力号数と呼ぶこともある。
【0023】
制御ユニット17は、設定温度Trに従って出湯温度Thを制御するように、入力号数Utlを設定する。設定された入力号数Utlに従って、給湯装置2のバーナ13への燃料ガスの供給量が制御され、バーナ13で発生する熱量が制御される。
【0024】
学習手段22は、流量センサ18によって検知された流量Qと、入水温度センサ19によって検知された入水温度Tcと、出湯温度センサ20によって検知された出湯温度Thと、入力号数Utlとに基づいて、演算係数Rを学習する。
【0025】
演算係数Rは、必要発生熱量Utlに対する、加熱された湯水の上昇温度(Th−Tc)と流量Qの積で表される出力熱量の比(出力熱量実績比)Krに相当する。Krは、下記(1)式によって定義される。
【0026】
【数1】
【0027】
この出力熱量実績比Krは上述した号数の定義から理想的には25である。しかし、ガス比例弁15における調節のずれや入水温度の状態等に応じて、出力熱量実績比Krは25から変動する。例えば、入水温度が高温の場合には、熱交換器14における熱交換効率が所期の熱交換効率より低下するため、出力熱量実績比Krは25より小さくなる。
【0028】
学習手段22は、一定の制御周期Δt毎、例えば100ms毎に下記(2)式に従って演算係数Rを学習する。(2)式において、R(n)は、第n番目の制御周期での学習結果に基づいて算出された学習値であり、R(n−1)は、1周期前の第(n−1)番目の制御周期で算出された学習値である。パラメータLは、1周期前の演算係数R(n−1)と今回検知された流量Q(n)等から算出される現在の出力熱量実績比Krとに重み付けするパラメータである。
【0029】
【数2】
【0030】
図3に示すように、パラメータLは、小流量時には大きい値に設定され、流量Qが大きくなるにつれて小さい値になるように設定される。流量Qが大きい場合には出力熱量の挙動が安定するので、1周期前の演算係数R(n−1)よりも現在の出力熱量実績比が演算係数R(n)に反映されるように、パラメータLにより重み付けされる。流量Qが小さい場合には出力熱量が変動し易いため、現在の出力熱量実績比よりも1周期前の演算係数R(n−1)が演算係数R(n)に反映されるようにパラメータLにより重み付けされる。パラメータLは、実機実験やシミュレーションによって、
図3の特性を予め設定することができる。
図3の特性に従って、流量QからパラメータLを求める関数式やテーブルを予め作成してもよい。
【0031】
FF制御手段23は、設定温度Tr(n)と入水温度Tc(n)の差温と、流量Q(n)と、学習手段22により算出された学習値R(n)とに基づいて、FF制御による入力号数Uff(n)(第1の必要発生熱量に相当する)を算出する。FF制御による入力号数Uff(n)は、給湯装置2の入水量(流量Q(n))を、入水温度Tc(n)から設定湯温Tr(n)まで変化させるために必要な号数を表す。
【0032】
【数3】
【0033】
FB制御手段24は、下記(4)式に従って、設定温度Tr(n)と出湯温度Th(n)の差温と、流量Q(n)と、学習手段22により算出された学習値R(n)とに基づいて、FB制御による入力号数Ufb(n)(第2の必要発生熱量に相当する)を算出する。FB制御による入力号数Ufb(n)は、給湯装置2の入水量(流量Q(n))を、差温(Tr(n)−Th(n))だけ変化させるために必要な号数を表す。尚、Kpは給湯装置毎に設定される比例ゲインである。
【0034】
【数4】
【0035】
加算手段25は、下記(5)式に従って、FF制御手段23により算出されたFF制御による入力号数Uff(n)と、FB制御手段24により算出されたFB制御による入力号数Ufb(n)を加算することによって、給湯装置2の入力号数Utl(n)を設定する。
Utl(n)=Uff(n)+Ufb(n) ・・・(5)
【0036】
制御ユニット17による湯温制御において、入力号数Utlの設定は所定の制御周期Δt毎、例えばΔt=100ms毎に行われる。
図4に示すように、第n番目の制御周期における処理では、入力号数Utl(n)の設定が行われる。尚、Sm(m=1,2・・・)は各ステップを表す。
【0037】
まず、S1において、流量センサ18、入水温度センサ19、出湯温度センサ20により検知された今回(第n番目)の制御周期における流量Q(n)、入水温度Tc(n)、出湯温度Th(n)、設定湯温Tr(n)等の必要なデータを取得する。
【0038】
次に、S2において、入水温度Tc(n)の変化率が所定の範囲内であるか否か判定する。例えば、今回の入水温度Tc(n)と前回の入水温度Tc(n−1)の差温が所定の範囲内か否か判定する。制御周期が予め定まっているので、ここでは差温を変化率とみなすことができる。判定がYesの場合にはS3に進み、判定がNoの場合にはS4に進む。所定の範囲内とは、例えば、下記(6)式で表される範囲である。尚、(6)式で表される範囲は制御周期Δtや給湯装置2の仕様等に応じて適宜設定される。
−10℃≦(Tc(n)−Tc(n−1))≦10℃ ・・・(6)
【0039】
次に、S3において、上記(2)式に従って、学習手段22により現在の演算係数R(n)を算出し、S5に進む。尚、演算係数R(n)の初期値は、号数の定義に沿ってR(0)=25とすることができる。
【0040】
一方、S2の判定がNoの場合にはS4において、演算係数R(n)を初期値25に設定し、S5に進む。
【0041】
次に、S5において、上記(3)式に従って、S3またはS4で設定された演算係数R(n)を反映したFF制御を実行し、FF制御による入力号数Uff(n)を算出してS6に進む。
【0042】
次に、S6において、上記(4)式に従って、S3またはS4で設定された演算係数R(n)を反映したFB制御を実行し、FB制御による入力号数Ufb(n)を算出してS7に進む。
【0043】
次に、S7において、上記(5)式に従って、今回(第n番目)の制御周期における給湯装置2の入力号数Utl(n)を設定する。
【0044】
次に、本発明の給湯装置2の作用および効果について説明する。
図5に示すように、設定温度Tr=75℃の湯水を給湯可能なように循環流量Q=8L/minで即湯運転を実行している即湯循環システム1において、例えば経過時間t=110sでは、入水温度Tc=72℃程度、出湯温度Th=83℃程度で安定し、演算係数R(n)=20程度である。尚、実線は本発明の給湯装置2による値を表し、破線および1点鎖線は特許文献1に記載の従来の給湯装置による値を表す。従来の給湯装置は、上述の湯温制御以外は本発明の給湯装置と同等の構成を有する。
【0045】
経過時間t=127s付近で給湯栓F等から給湯されて約15℃の上水が給湯装置2に入水すると、入水温度Tcが低下する。この入水温度Tcの変化率が所定範囲外の場合、例えば−10℃/100msより急激に入水温度Tcが低下した場合には、演算係数R(n)を初期値に戻す。ここでは入水温度Tcの変化率は−11℃/100ms程度で所定範囲外なので、演算係数R(n)を25に設定する。
【0046】
入力号数Utl(n)は上記(2)〜(5)式に基づいて設定されるので、演算係数R(n)を初期値に戻したことにより所期の熱交換効率が反映された入力号数Utl(n)が設定される。従って、入水温度が急激に低下した場合でも、湯温制御による入力号数Utl(n)が必要以上に大きくなることがないので、経過時間t=127s以降において出湯温度Thが高くなって安全動作によりバーナ13を停止させることがなく、出湯温度Thの過度の降温が発生することがない。即ち、本発明の給湯装置2によれば、安定した温度で出湯が可能である。
【0047】
一方、従来の給湯装置では入水温度Tcの急激な低下が演算係数R(n)にすぐに反映されず、経過時間t=140s付近まで急激に上昇している。この演算係数R(n)には低下した熱交換効率が反映されているので、演算係数R(n)に基づいて低温の湯水を加熱するための入力号数Utl(n)が設定されると入力号数Utl(n)が必要以上に大きくなる。そのため、経過時間t=140s付近で出湯温度Thが過度に上昇して安全動作によりバーナ13の燃焼が停止し、経過時間t=145s以降で燃焼停止による出湯温度Thの過度の低下が発生している。
【0048】
次に、給湯システム1の循環通路6が低温の湯水で満たされた状態で即湯運転を開始した場合について説明する。
【0049】
図6に示すように、即湯運転が開始され、S11において、初期燃焼期間か否か判定される。詳しくは、特許文献1に記載されているので省略するが、設定温度Trと出湯温度Thの差温が所定温度α℃(例えばα=3)以下か否か判定される。判定がYesの場合はS13に進んで、速やかな昇温を行うために流量Qに基づく初期昇温制御が実行され、判定がNoの場合はS12に進んで、上述の湯温制御を行う。
【0050】
即湯運転開始後すぐに、出湯温度Thが設定温度Trに近づき、上記S11において初期燃焼期間でない(No)と判定された場合、加熱された湯水が循環通路6を通って再び給湯装置2に入水されるまでは低温の湯水が入水する。このとき、学習により演算係数R(n)は25より大きくなる場合がある。
【0051】
加熱された湯水が再び給湯装置2に入水すると入水温度Tcの上昇が検知される。この入水温度の変化率が所定範囲外の場合、例えば入水温度が10℃/100msより急激に上昇した場合には、演算係数R(n)を初期値に戻す。
【0052】
入力号数Uff(n)は上記(2)〜(5)式に従って演算係数R(n)の初期値を反映して算出されるので、入水温度Tcが急激に上昇した場合でも、湯温制御による入力号数Utl(n)は必要以上に小さくなることがない。従って、給湯装置2からの出湯温度Thが過度に低下することがない。即ち、本発明の給湯装置2によれば、温度が安定した出湯が可能である。
【0053】
以上説明したように、本発明の給湯装置2は、湯温制御において、入水温度の変化率が所定の範囲外であれば演算係数R(n)を初期値に設定し、この初期値がFF制御およびFB制御の両方に反映されている。従って、入水温度の急激な変化に対応して演算係数R(n)の学習による更新を止めて初期値に戻すので、演算係数R(n)の更新の遅れが生じず、入水温度Tcの急激な変化に対応したFF制御およびFB制御を行って給湯装置2の湯温制御の精度を向上することが可能である。
【0054】
また、入水温度の変化率が所定の範囲内であれば演算係数R(n)を学習し、この学習値がFF制御およびFB制御の両方に反映されている。実際の演算係数R(n)を学習してFF制御およびFB制御に反映するため、給湯装置2の湯温制御の精度の向上が可能である。
【0055】
本実施例の給湯装置2では、燃料ガスを燃焼させるバーナ13により湯水を加熱するための熱量を発生させる例を示したが、制御ユニット17によって設定される必要発生熱量に応じて発生熱量を制御可能に構成されるものであれば、石油を燃焼する石油バーナ等、任意の熱源装置を採用することができる。
【0056】
その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱することなく、前記実施例に種々の変更を付加した形態で実施可能であり、本発明はそのような変更形態を包含するものである。