特許第6653086号(P6653086)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6653086
(24)【登録日】2020年1月29日
(45)【発行日】2020年2月26日
(54)【発明の名称】強化ガラス及びガラス管
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/083 20060101AFI20200217BHJP
   C03C 3/085 20060101ALI20200217BHJP
   C03C 3/087 20060101ALI20200217BHJP
   C03C 3/091 20060101ALI20200217BHJP
   C03B 17/06 20060101ALI20200217BHJP
   C03C 21/00 20060101ALI20200217BHJP
【FI】
   C03C3/083
   C03C3/085
   C03C3/087
   C03C3/091
   C03B17/06
   C03C21/00 101
【請求項の数】7
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2018-114150(P2018-114150)
(22)【出願日】2018年6月15日
(62)【分割の表示】特願2013-259850(P2013-259850)の分割
【原出願日】2013年12月17日
(65)【公開番号】特開2018-145093(P2018-145093A)
(43)【公開日】2018年9月20日
【審査請求日】2018年6月15日
(31)【優先権主張番号】特願2012-279292(P2012-279292)
(32)【優先日】2012年12月21日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2013-172830(P2013-172830)
(32)【優先日】2013年8月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】川本 浩佑
(72)【発明者】
【氏名】長壽 研
【審査官】 山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2013/0101766(US,A1)
【文献】 特開2013−099594(JP,A)
【文献】 特表2011−522685(JP,A)
【文献】 特表2015−502899(JP,A)
【文献】 特開2011−213576(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/063002(WO,A1)
【文献】 WISSMAN,F.G., HAHNERT,M.,PROPERTIES OF CHEMICALLY STRENGTHENED GLASSES,THE SOVIET JOURNAL OF GLASS PHYSICS AND CHEMISTRY,米国,PLENUM PUBLISING CORPORATION,1981年 6月22日,Vol.6, No.4,Page.285 - 291,ISSN:0360-5043
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 3/083
C03B 17/06
C03C 3/085
C03C 3/087
C03C 3/091
C03C 21/00
LiqCryst
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に圧縮応力層を有する強化ガラスであって、ガラス組成として、モル%で、SiO 67.1〜80%、Al 5〜30%、LiO 0〜2%、NaO 5〜25%、KO 0〜0.05%、MgO+CaO+SrO+BaO 0.01〜9.9%、CaO 0〜3%、SnO 0.01〜3%を含有し、実質的にAs、Sb、PbO及びFを含有せず、容器であることを特徴とする強化ガラス。
【請求項2】
80℃、10質量%の塩酸水溶液に24時間浸漬させた際の質量減少が40mg/cm以下であることを特徴とする請求項1に記載の強化ガラス。
【請求項3】
圧縮応力層の圧縮応力値が300MPa以上、且つ圧縮応力層の厚みが10μm以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の強化ガラス。
【請求項4】
104.0dPa・sにおける温度が1300℃以下であることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の強化ガラス。
【請求項5】
医薬品容器に用いることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の強化ガラス。
【請求項6】
ガラス組成として、モル%で、SiO 67.1〜80%、Al 5〜30%、LiO 0〜2%、NaO 5〜25%、KO 0〜0.05%、MgO+CaO+SrO+BaO 0.01〜9.9%、CaO 0〜3%、SnO 0.01〜3%を含有し、実質的にAs、Sb、PbO及びFを含有しないことを特徴とするガラス管。
【請求項7】
医薬品容器に用いることを特徴とする請求項6に記載のガラス管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化ガラス、強化ガラス板及び強化用ガラスに関し、特に、携帯電話、デジタルカメラ、PDA(携帯端末)、太陽電池のカバーガラス、或いはディスプレイ、特にタッチパネルディスプレイのガラス基板に好適な強化ガラス、強化ガラス板及び強化用ガラスに関する。また、本発明は、強化ガラス容器に関し、特に医薬品容器に好適な強化ガラス容器に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、デジタルカメラ、PDA、タッチパネルディスプレイ、大型テレビ、非接触給電等のデバイスは、益々普及する傾向にある。
【0003】
これらの用途には、イオン交換処理等で強化処理した強化ガラスが用いられている(特許文献1、非特許文献1参照)。
【0004】
また、近年では、デジタルサイネージ、マウス、スマートフォン等の外装部品に強化ガラスを使用することが増えてきた。
【0005】
従来のデバイスは、ディスプレイモジュールとタッチパネルセンサーと強化ガラス(保護部材)とで構成されていたが、近年では軽量化、薄型化のため、強化ガラス上にタッチパネルセンサーを形成するという方法が採用されるようになってきた。その結果、これらの保護部材には、(1)高い機械的強度を有すること、(2)耐傷性が高いこと、(3)低コストであること、(4)低密度であること、(5)タッチパネルセンサー形成時の酸処理で表面が変質しないために、十分高い耐酸性を有すること、(6)環境負荷が大きい物質を含まないことが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−83045号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】泉谷徹郎等、「新しいガラスとその物性」、初版、株式会社経営システム研究所、1984年8月20日、p.451−498
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、ガラス組成中のLiOの含有量を増加させると、イオン交換性能を高めつつ、高温粘度を低下させることが可能になる。しかし、LiOの含有量を増加させると、硝酸カリウム溶融塩(KNO溶融塩)を用いて、イオン交換処理する場合、KNO溶融塩中にLiイオンが混入し易くなる。Liイオンが混入したKNO溶融塩は、強化用ガラスの強化特性を高めることが困難である。結果として、KNO溶融塩を頻繁に交換しなければならず、強化ガラスの生産性が低下し易くなる。更に、LiOの含有量を増加させると、液相粘度が低下し易くなる。なお、Naイオンも、KNO溶融塩を劣化させる性質を有するが、その程度はLiイオンよりも小さい。
【0009】
また、従来、強化用ガラスとして、ガラス組成中にNaOとKOを多く含むガラスが提案されている。しかし、NaOとKOは、密度を上げる成分である。一方、密度を低下させるために、NaOとKOの含有量を低減すると、高温粘度が上昇して、ガラスの生産性が低下し易くなる。よって、密度と高温粘度を共に低下させることは困難であった。
【0010】
更に、LiO、NaO、KOの含有量が多い程、強化用ガラスの熱膨張係数が高くなり易い。そして、イオン交換処理は、通常、高温(例えば300〜500℃)のKNO溶融塩に強化用ガラスを浸漬することにより行われる。よって、LiO、NaO、KOを多く含むガラスをイオン交換処理すると、強化用ガラスをKNO溶融塩に浸漬する際、或いは強化ガラスを取り出す際に、熱衝撃により強化ガラスが破損し易くなる。
【0011】
この問題を解決するために、KNO溶融塩に浸漬する前に強化用ガラスを予熱する、或いは強化ガラスをイオン交換槽から取り出した後に徐冷するという方法が想定されるが、これらの方法は、長時間を要するため、強化ガラスの製造コストが高騰する虞がある。
【0012】
そこで、本発明は、上記事情に鑑み成されたものであり、その技術的課題は、密度と高温粘度を低下させると共に、イオン交換溶液、特にKNO溶融塩を劣化させ難く、しかも耐熱衝撃性に優れる強化ガラス及び強化用ガラスを創案することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、種々の検討を行った結果、ガラス組成中のAl、NaOの含有量を増加させつつ、LiO、KOの含有量を低減し、必要に応じて、Bを導入し、MgOの含有量を低減すれば、イオン交換性能が低下することなく、密度、高温粘度が低下し、イオン交換溶液を劣化させる特性、耐熱衝撃性が向上することを見出し、本発明として、提案するものである。すなわち、本発明の強化ガラスは、表面に圧縮応力層を有する強化ガラスであって、ガラス組成として、モル%で、SiO 50〜80%、Al 5〜30%、LiO 0〜2%、NaO 5〜25%、KO 0〜5%を含有し、実質的にAs、Sb、PbO及びFを含有しないことを特徴とする。ここで、「実質的にAsを含有しない」とは、ガラス成分として積極的にAsを添加しないものの、不純物レベルで混入する場合を許容する趣旨であり、具体的には、Asの含有量が0.1モル%未満であることを指す。「実質的にSbを含有しない」とは、ガラス成分として積極的にSbを添加しないものの、不純物レベルで混入する場合を許容する趣旨であり、具体的には、Sbの含有量が0.1モル%未満であることを指す。「実質的にPbOを含有しない」とは、ガラス成分として積極的にPbOを添加しないものの、不純物レベルで混入する場合を許容する趣旨であり、具体的には、PbOの含有量が0.1モル%未満であることを指す。「実質的にFを含有しない」とは、ガラス成分として積極的にFを添加しないものの、不純物レベルで混入する場合を許容する趣旨であり、具体的には、Fの含有量が0.1モル%未満であることを指す。なお、As、Sb、PbO及びFの実質的な添加を排除すれば、近縁の環境的要請を満たすことができる。
【0014】
本発明の強化ガラスは、ガラス組成として、モル%で、SiO 50〜80%、Al 6.5〜12.4%、LiO 0〜1%、NaO 9〜15.5%、KO 0〜3.5%、MgO 0.1〜2.5%、MgO+CaO+SrO+BaO 0〜2.5%を含有し、実質的にAs、Sb、PbO及びFを含有しないことが好ましい。ここで、「MgO+CaO+SrO+BaO」は、MgO、CaO、SrO及びBaOの合量である。
【0015】
本発明の強化ガラスは、ガラス組成として、モル%で、SiO 50〜80%、Al 6.5〜12.4%、B 0.01〜15%、LiO 0〜1%、NaO 9〜15.5%、KO 0〜3.5%、LiO+NaO+KO 9〜16.5%、MgO 0.1〜2.5%、MgO+CaO+SrO+BaO 0.1〜2.5%を含有し、実質的にAs、Sb、PbO及びFを含有しないことが好ましい。ここで、「LiO+NaO+KO」は、LiO、NaO及びKOの合量である。
【0016】
本発明の強化ガラスは、ガラス組成として、モル%で、SiO 50〜77%、Al 6.5〜12.4%、B 1〜15%、LiO 0〜1%、NaO 9〜15.5%、KO 0〜3.5%、LiO+NaO+KO 9〜16.5%、MgO 0.1〜2.5%、MgO+CaO+SrO+BaO 0.1〜2.5%、LiO+NaO+KO+MgO+CaO+SrO+BaO 13〜18.5%を含有し、実質的にAs、Sb、PbO及びFを含有しないことが好ましい。ここで、「LiO+NaO+KO+MgO+CaO+SrO+BaO」は、LiO、NaO、KO、MgO、CaO、SrO及びBaOの合量である。
【0017】
本発明の強化ガラスは、ガラス組成として、モル%で、SiO 50〜77%、Al 6.5〜12.4%、B 1〜10%、LiO 0〜1%、NaO 9〜15.5%、KO 0〜3.5%、LiO+NaO+KO 9〜16.5%、MgO 0.1〜2.5%、MgO+CaO+SrO+BaO 0.1〜2.5%、LiO+NaO+KO+MgO+CaO+SrO+BaO 13〜18.5%を含有し、モル比MgO/(LiO+NaO+KO+MgO+CaO+SrO+BaO)が0.01〜0.2であり、実質的にAs、Sb、PbO及びFを含有しないことが好ましい。
【0018】
本発明の強化ガラスは、ガラス組成として、モル%で、SiO 50〜77%、Al 6.5〜12.4%、B 1〜10%、LiO 0〜1%、NaO 9〜15.5%、KO 0〜3.5%、LiO+NaO+KO 9〜16.5%、MgO 0.1〜2.5%、MgO+CaO+SrO+BaO 0.1〜2.5%、LiO+NaO+KO+MgO+CaO+SrO+BaO 13〜18.5%を含有し、モル比MgO/(LiO+NaO+KO+MgO+CaO+SrO+BaO)が0.01〜0.2、モル比(Al+B)/SiOが0.15〜0.30であり、実質的にAs、Sb、PbO及びFを含有しないことが好ましい。ここで、「Al+B」は、AlとBの合量を指す。
【0019】
本発明の強化ガラスは、密度が2.45g/cm以下であることが好ましい。ここで、「密度」は、例えば、周知のアルキメデス法で測定可能である。
【0020】
本発明の強化ガラスは、80℃、10質量%の塩酸水溶液に24時間浸漬させた際の質量減少が40mg/cm以下であることが好ましい。ここで、「質量減少」は、塩酸水溶液に24時間浸漬させた後の質量減少であり、まず塩酸水溶液中に浸漬させる前の評価試料の質量と表面積を測定し、次に塩酸水溶液に浸漬させた後の評価試料の質量を測定し、最後に(浸漬前の質量−浸漬後の質量)/(浸漬前の表面積)の式に当て嵌めることにより算出可能である。
【0021】
本発明の強化ガラスは、圧縮応力層の圧縮応力値が300MPa以上、且つ圧縮応力層の厚みが10μm以上であることが好ましい。ここで、「圧縮応力層の圧縮応力値」と「圧縮応力層の厚み」は、表面応力計(例えば、株式会社東芝製FSM−6000)を用いて、試料を観察した際に、観察される干渉縞の本数とその間隔から算出される値を指す。
【0022】
本発明の強化ガラスは、液相温度が1200℃以下であることが好ましい。ここで、「液相温度」とは、標準篩30メッシュ(篩目開き500μm)を通過し、50メッシュ(篩目開き300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れて、温度勾配炉中に24時間保持した後、結晶が析出する温度を指す。
【0023】
本発明の強化ガラスは、液相粘度が104.0dPa・s以上であることが好ましい。ここで、「液相粘度」とは、液相温度における粘度を白金球引き上げ法で測定した値を指す。
【0024】
本発明の強化ガラスは、104.0dPa・sにおける温度が1300℃以下であることが好ましい。ここで、「104.0dPa・sにおける温度」は、白金球引き上げ法で測定した値を指す。
【0025】
本発明の強化ガラスは、30〜380℃の温度範囲における熱膨張係数が90×10−7/℃以下であることが好ましい。ここで、「30〜380℃の温度範囲における熱膨張係数」は、ディラトメーターを用いて、平均熱膨張係数を測定した値を指す。
【0026】
本発明の強化ガラス板は、上記何れかの強化ガラスからなることが好ましい。
【0027】
本発明の強化ガラス板は、長さ寸法が500mm以上、幅寸法が300mm以上、厚みが0.1〜2.0mmであることが好ましい。
【0028】
本発明の強化ガラス板は、オーバーフローダウンドロー法で成形されてなることが好ましい。ここで、「オーバーフローダウンドロー法」は、耐熱性の樋状成形体の両側から溶融ガラスを溢れさせて、溢れた溶融ガラスを成形体の下端で合流させながら、下方に延伸成形してガラス板を製造する方法である。オーバーフローダウンドロー法では、ガラス板の表面となるべき面は成形体の表面に接触せず、自由表面の状態で成形される。このため、未研磨で表面品位が良好なガラス板を安価に製造することができる。
【0029】
本発明の強化ガラス板は、タッチパネルディスプレイに用いることが好ましい。
【0030】
本発明の強化ガラス板は、携帯電話のカバーガラスに用いることが好ましい。
【0031】
本発明の強化ガラス板は、太陽電池のカバーガラスに用いることが好ましい。
【0032】
本発明の強化ガラス板は、長さ寸法500mm以上、幅寸法300mm以上、厚み0.1〜2.0mmの強化ガラス板であって、ガラス組成として、モル%で、SiO 50〜77%、Al 6.5〜12.4%、B 1〜10%、LiO 0〜1%、NaO 9〜15.5%、KO 0〜3.5%、LiO+NaO+KO 9〜16.5%、MgO 0.1〜2.5%、MgO+CaO+SrO+BaO 0.1〜2.5%、LiO+NaO+KO+MgO+CaO+SrO+BaO 13〜18.5%を含有し、モル比MgO/(LiO+NaO+KO+MgO+CaO+SrO+BaO)が0.01〜0.2、モル比(Al+B)/SiOが0.15〜0.30であり、実質的にAs、Sb、PbO及びFを含有せず、密度が2.45g/cm以下、圧縮応力層の圧縮応力値が300MPa以上、圧縮応力層の厚みが10μm以上、液相温度が1200℃以下、30〜380℃の温度範囲における熱膨張係数が90×10−7以下であることを特徴とする。
【0033】
本発明の強化ガラス容器は、上記の強化ガラスからなることを特徴とする。また、本発明の強化ガラス容器は、医薬品容器に用いることが好ましい。
【0034】
医薬品を保管するための充填容器として、アンプル、バイアル、プレフィルドシリンジ、カードリッジ等の形態のガラス容器が用いられている。近年、薬学、医学の進歩に伴い、このガラス容器に高価な薬剤が充填されるケースが増加している。しかし、ガラス容器は、製薬会社の製造工程や医療現場で破損する虞がある。高価な薬剤が充填されたガラス容器が破損すると、薬剤そのものの損失のみならず、製造ラインの中断に伴う生産ロスが生じ、結果として、トータルの費用ロスが非常に大きくなる。更に、ガラス容器が破損すると、安全面でのリスクも生じる。
【0035】
ガラス容器に存在する傷は、ガラス容器の破損原因になっている。この傷は、容器加工、検査、輸送、薬剤充填等の各種工程で発生する。このため、医薬品に用いるガラス容器には、耐傷性が要求されており、更に用途の性質上、耐酸性、環境負荷物質を含まないことも要求されている。よって、本発明の強化ガラス(強化ガラス容器)は、耐傷性、耐酸性に優れると共に、実質的にAs、Sb、PbO及びFを含有しないため、本用途に好適である。
【0036】
本発明の強化用ガラスは、ガラス組成として、モル%で、SiO 50〜80%、Al 5〜30%、LiO 0〜2%、NaO 5〜25%、KO 0〜5%を含有し、実質的にAs、Sb、PbO及びFを含有しないことが好ましい。
【0037】
本発明の強化用ガラスは、80℃、10質量%の塩酸水溶液に24時間浸漬させた際の質量減少が40mg/cm以下であることが好ましい。
【0038】
本発明の強化用ガラスは、使用履歴がない硝酸カリウム溶融塩でイオン交換処理した際の圧縮応力層の圧縮応力値CSと、Naイオンを20000ppm(質量)含む硝酸カリウム溶融塩でイオン交換処理した際の圧縮応力層の圧縮応力値CSとの比CS/CSが0.7以上であることが好ましい。なお、CS/CSの算出に際し、イオン交換温度は430℃、イオン交換時間は4時間とする。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明の強化ガラスは、その表面に圧縮応力層を有する。表面に圧縮応力層を形成する方法として、物理強化法と化学強化法がある。本発明の強化ガラスは、化学強化法で作製されてなることが好ましい。
【0040】
化学強化法は、ガラスの歪点以下の温度でイオン交換処理によりガラスの表面にイオン半径が大きいアルカリイオンを導入する方法である。化学強化法で圧縮応力層を形成すれば、ガラスの厚みが小さい場合でも、圧縮応力層を適正に形成し得ると共に、圧縮応力層を形成した後に、強化ガラスを切断しても、風冷強化法等の物理強化法のように、強化ガラスが容易に破壊しない。
【0041】
本発明の強化ガラスにおいて、上記のように各成分の含有範囲を限定した理由を下記に示す。なお、各成分の含有範囲の説明において、%表示は、特に断りがない限り、モル%を指す。
【0042】
SiOは、ガラスのネットワークを形成する成分である。SiOの含有量は50〜80%であり、好ましくは55〜77%、57〜75%、58〜74%、60〜73%、特に62〜72%である。SiOの含有量が少な過ぎると、ガラス化し難くなり、また耐酸性が低下し、更には熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下し易くなる。一方、SiOの含有量が多過ぎると、溶融性や成形性が低下し易くなり、また熱膨張係数が低くなり過ぎて、周辺材料の熱膨張係数に整合させ難くなる。なお、SiOの含有量を低減し、Bの含有量を増加させると、密度と高温粘度を共に低下させ易くなるが、その一方で、耐酸性が低下して、タッチパネルセンサー形成時の酸処理工程に適用し難くなる。
【0043】
Alは、イオン交換性能を高める成分であり、また歪点やヤング率を高める成分である。Alの含有量は5〜30%である。Alの含有量が少な過ぎると、イオン交換性能を十分に発揮できない虞が生じる。よって、Alの好適な下限範囲は5.5%以上、6%以上、6.5%以上、7%以上、8%以上、特に9%以上である。一方、Alの含有量が多過ぎると、密度が上昇し易くなると共に、ガラスに失透結晶が析出し易くなって、オーバーフローダウンドロー法等でガラス板を成形し難くなる。また熱膨張係数が低くなり過ぎて、周辺材料の熱膨張係数に整合させ難くなる。また耐酸性も低下し、タッチパネルセンサー形成時の酸処理工程に適用し難くなる。更には高温粘性が高くなり、溶融性が低下し易くなる。よって、Alの好適な上限範囲は25%以下、20%以下、18%以下、16%以下、15%以下、14%以下、13.5%以下、13.4%以下、13%以下、12.5%以下、特に12.4%以下である。
【0044】
LiOは、イオン交換成分であり、また高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分であると共に、ヤング率を高める成分であるが、イオン交換溶液を劣化させる成分である。更に、LiOは、アルカリ金属酸化物の中では圧縮応力値を高める効果が大きいが、NaOを7%以上含むガラス系において、LiOの含有量が極端に多くなると、かえって圧縮応力値が低下する傾向がある。また、LiOの含有量が多過ぎると、液相粘度が低下して、ガラスが失透し易くなることに加えて、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料の熱膨張係数に整合させ難くなる。更に、低温粘性が低下し過ぎて、応力緩和が起こり易くなり、かえって圧縮応力値が低下する場合がある。よって、LiOの含有量は2%以下であり、好ましくは1.7%以下、1.5%以下、1%以下、1%未満、0.5%以下、0.3%以下、0.2%以下、特に0.1%以下である。
【0045】
NaOは、イオン交換成分であり、また高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分である。また、NaOは、耐失透性を改善する成分でもある。NaOの含有量が少な過ぎると、溶融性が低下したり、熱膨張係数が不当に低下したり、イオン交換性能が低下し易くなる。よって、NaOの含有量は5%以上であり、好適な下限範囲は7%以上、7.0%超、8%以上、特に9%以上である。一方、NaOの含有量が多過ぎると、密度が高くなったり、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料の熱膨張係数に整合させ難くなったり、密度が高くなる傾向がある。また歪点が低下し過ぎたり、ガラス組成の成分バランスを欠き、かえって耐失透性が低下する場合がある。更にイオン交換溶液を劣化させ易くなる。よって、NaOの含有量は25%以下であり、好適な上限範囲は23%以下、21%以下、19%以下、18.5%以下、17%以下、16%以下、15.5%以下、14%以下、13.5%以下、特に13%以下である。
【0046】
Oは、イオン交換を促進する成分であり、アルカリ金属酸化物の中では圧縮応力層の厚みを大きくし易い成分である。また高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分である。更には、耐失透性を改善する成分でもある。しかし、KOの含有量が多過ぎると、密度が高くなったり、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料の熱膨張係数に整合させ難くなる。また歪点が低下し過ぎたり、ガラス組成の成分バランスを欠き、かえって耐失透性が低下する傾向がある。よって、KOの好適な上限範囲は5%以下、4%以下、3.5%以下、特に3%以下である。なお、KOを添加する場合、好適な添加量は0.1%以上、0.5%以上、特に1%以上である。また、KOの添加を可及的に避ける場合、好適な添加量は1.9%以下、1.35%以下、1%以下、1%未満、特に0.05%以下が好ましい。
【0047】
LiO+NaO+KOの含有量が少な過ぎると、イオン交換性能や溶融性が低下し易くなる。よって、LiO+NaO+KOの好適な下限範囲は5%以上、9%以上、10%以上、11%以上、12%以上、13%以上、特に14%以上である。一方、LiO+NaO+KOの含有量が多過ぎると、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料の熱膨張係数に整合させ難くなったり、密度が高くなる傾
向がある。また歪点が低下し過ぎたり、ガラス組成の成分バランスを欠き、かえって耐失
透性が低下する傾向がある。よって、LiO+NaO+KOの好適な上限範囲は30%以下、19%以下、18.5%以下、18%以下、17.5%以下、17%以下、特に16.5%以下である。
【0048】
上記成分以外にも、例えば以下の成分を添加してもよい。
【0049】
の含有量は0〜15%が好ましい。Bは、高温粘度や密度を低下させると共に、ガラスを安定化させて、結晶を析出させ難くし、液相温度を低下させる成分である。また、クラックレジスタンスを高めて、耐傷性を高める成分である。よって、Bの好適な下限範囲は0.01%以上、0.1%以上、0.5%以上、1以上、2%以上、3%以上、4%以上、5%以上、5.5%以上、特に6%以上である。しかし、Bの含有量が多過ぎると、耐酸性が低下したり、イオン交換処理によって、ヤケと呼ばれるガラス表面の着色が発生したり、耐水性が低下したり、圧縮応力層の厚みが小さくなり易い。よって、Bの好適な上限範囲は14%以下、13%以下、12%以下、11%以下、10.5%未満、10%以下、9%以下、特に8%以下である。
【0050】
MgOは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める成分であり、アルカリ土類金属酸化物の中では、イオン交換性能を高める効果が大きい成分である。よって、MgOの好適な下限範囲は0.01%以上、0.05%以上、0.1%以上、特に0.5%以上が好ましい。しかし、MgOの含有量が多過ぎると、密度や熱膨張係数が高くなり易く、またガラスが失透し易くなる傾向がある。よって、MgOの好適な上限範囲は3%以下、2.7%以下、2.5%以下、2.2%以下、2%以下、1.5%以下、特に1%以下である。
【0051】
CaOは、他の成分と比較して、耐失透性の低下を伴うことなく、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める効果が大きい。しかし、CaOの含有量が多過ぎると、密度や熱膨張係数が高くなり、またガラス組成の成分バランスを欠いて、かえってガラスが失透し易くなったり、イオン交換性能が低下したり、イオン交換溶液を劣化させ易くなる。よって、CaOの含有量は、好ましくは0〜6%、0〜5%、0〜4%、0〜3.5%、0〜3%、0〜2%、特に0〜1%である。
【0052】
SrOは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める成分であるが、その含有量が多過ぎると、イオン交換反応が阻害され易くなることに加えて、密度や熱膨張係数が高くなったり、ガラスが失透し易くなる。よって、SrOの含有量は、好ましくは0〜1.5%、0〜1%、0〜0.5%、0〜0.1%、特に0〜0.1%未満である。
【0053】
BaOは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める成分である。しかし、BaOの含有量が多過ぎると、イオン交換反応が阻害され易くなることに加えて、密度や熱膨張係数が高くなったり、ガラスが失透し易くなる。よって、BaOの含有量は、好ましくは0〜6%、0〜3%、0〜1.5%、0〜1%、0〜0.5%、0〜0.1%、特に0〜0.1%未満である。
【0054】
MgO+CaO+SrO+BaOの含有量が多過ぎると、密度や熱膨張係数が高くなったり、ガラスが失透したり、イオン交換性能が低下する傾向がある。よって、MgO+CaO+SrO+BaOの好適な上限範囲は9.9%以下、6.5%以下、5%以下、3%以下、2.8%以下、2.7%以下、2.5%以下、2.2%以下、2%以下、1.5%以下、特に1%以下である。一方で、MgO+CaO+SrO+BaOの含有量が少な過ぎると、溶融性や成形性が低下したり、歪点やヤング率が低下し易くなる。よって、MgO+CaO+SrO+BaOの好適な下限範囲は0.01%以上、0.05%以上、0.1%以上、特に0.5%以上である。
【0055】
LiO+NaO+KO+MgO+CaO+SrO+BaOの含有量が少な過ぎると、溶融性が低下し易くなる。よって、LiO+NaO+KO+MgO+CaO+SrO+BaOの好適な下限範囲は10%以上、12%以上、13%以上、特に14%以上である。一方、LiO+NaO+KO+MgO+CaO+SrO+BaOの含有量が多過ぎると、密度や熱膨張係数が高くなったり、イオン交換性能が低下する傾向がある。よって、LiO+NaO+KO+MgO+CaO+SrO+BaOの好適な上限範囲は30%以下、25%以下、23%以下、21%以下、20%以下、19%以下、18.5%以下、特に18%以下である。
【0056】
モル比MgO/(LiO+NaO+KO+MgO+CaO+SrO+BaO)が小さくなると、イオン交換性能が低下する傾向があり、また熱膨張係数が上昇し易くなる。よって、モル比MgO/(LiO+NaO+KO+MgO+CaO+SrO+BaO)の好適な下限範囲は0.001以上、0.005以上、0.01以上、0.02以上、0.03以上、0.04以上、特に0.05以上である。一方、モル比MgO/(LiO+NaO+KO+MgO+CaO+SrO+BaO)が大きくなると、耐失透性が低下したり、ガラスが分相し易くなる。よって、モル比MgO/(LiO+NaO+KO+MgO+CaO+SrO+BaO)の好適な上限範囲は0.5以下、0.3以下、0.25以下、0.2以下、0.15以下、0.1以下、0.09以下、0.08以下、特に0.07以下である。
【0057】
モル比(Al+B)/SiOが小さくなると、クラックレジスタンスが低下したり、溶融性や成形性が低下し易くなる。よって、モル比(Al+B)/SiOの好適な下限範囲は0.1以上、0.15以上、0.16以上、0.17以上、0.18以上、0.19以上、特に0.2以上である。一方、モル比(Al+B)/SiOが大きくなると、耐失透性が低下したり、ガラスが分相したり、耐酸性が低下し易くなる。よって、モル比(Al+B)/SiOの好適な上限範囲は0.5以下、0.4以下、0.35以下、0.32以下、0.31以下、0.30以下、0.29以下、0.28以下、0.27以下、特に0.26以下である。
【0058】
モル比B/Alは0〜1、0.1〜0.6、0.12〜0.5、0.142〜0.37、0.15〜0.35、0.18〜0.32、特に0.2〜0.3が好ましい。このようにすれば、高温粘性を適正化しつつ、耐失透性とイオン交換性能を高いレベルで両立させることが可能になる。
【0059】
モル比B/(NaO+Al)は0〜1、0.01〜0.5、0.02〜0.4、0.03〜0.3、0.03〜0.2、0.04〜0.18、0.05〜0.17、0.06〜0.16、特に0.07〜0.15が好ましい。このようにすれば、高温粘性を適正化しつつ、耐失透性とイオン交換性能を高いレベルで両立させることが可能になる。
【0060】
TiOは、イオン交換性能を高める成分であり、また高温粘度を低下させる成分であるが、その含有量が多過ぎると、ガラスが着色したり、失透し易くなる。よって、TiOの含有量は0〜4.5%、0〜1%、0〜0.5%、0〜0.3%、0〜0.1%、0〜0.05%、特に0〜0.01%が好ましい。
【0061】
ZrOは、イオン交換性能を高める成分であると共に、液相粘度付近の粘性や歪点を高める成分である。よって、ZrOの好適な下限範囲は0.001%以上、0.005%以上、0.01%以上、特に0.05%以上である。しかし、ZrOの含有量が多過ぎると、耐失透性が著しく低下すると共に、クラックレジスタンスが低下する虞があり、また密度が高くなり過ぎる虞もある。よって、ZrOの好適な上限範囲は5%以下、4%以下、3%以下、2%以下、1%以下、0.5%以下、0.3%以下、特に0.1%以下である。
【0062】
ZnOは、イオン交換性能を高める成分であり、特に圧縮応力値を高める効果が大きい成分である。また低温粘性を低下させずに、高温粘性を低下させる成分である。しかし、ZnOの含有量が多過ぎると、ガラスが分相したり、耐失透性が低下したり、密度が高くなったり、圧縮応力層の厚みが小さくなる傾向がある。よって、ZnOの含有量は0〜6%、0〜5%、0〜3%、特に0〜1%が好ましい。
【0063】
は、イオン交換性能を高める成分であり、特に圧縮応力層の厚みを大きくする成分である。しかし、Pの含有量が多過ぎると、ガラスが分相したり、耐水性が低下し易くなる。よって、Pの含有量は0〜10%、0〜3%、0〜1%、0〜0.5%、特に0〜0.1%が好ましい。
【0064】
SnOは、イオン交換性能を高める効果を有する。よって、SnOの含有量は0〜3%、0.01〜3%、0.05〜3%、特に0.1〜3%、特に0.2〜3%が好ましい。
【0065】
清澄剤として、Cl、SO、CeOの群(好ましくはCl、SOの群)から選択された一種又は二種以上を0〜3%添加してもよい。
【0066】
清澄性とイオン交換性能を高める効果を同時に享受する観点から、SnO+SO+Clの含有量は0.01〜3%、0.05〜3%、0.1〜3%、特に0.2〜3%が好ましい。なお、「SnO+SO+Cl」は、SnO、Cl及びSOの合量である。
【0067】
Feの含有量は1000ppm未満(0.1%未満)、800ppm未満、600ppm未満、400ppm未満、特に300ppm未満が好ましい。更に、Feの含有量を上記範囲
に規制した上で、モル比Fe/(Fe+SnO)を0.8以上、0.9以上、特に0.95以上に規制することが好ましい。このようにすれば、板厚1mmにおける透過率(400〜770nm)が向上し易くなる(例えば90%以上)。
【0068】
Nb、La等の希土類酸化物は、ヤング率を高める成分である。しかし、原料自体のコストが高く、また多量に添加すると、耐失透性が低下し易くなる。よって、希土類酸化物の含有量は3%以下、2%以下、1%以下、0.5%以下、特に0.1%以下が好ましい。
【0069】
本発明の強化ガラスは、環境的配慮から、ガラス組成として、実質的にAs、Sb、PbO及びFを含有しない。また、環境的配慮から、実質的にBiを含有しないことも好ましい。「実質的にBiを含有しない」とは、ガラス成分として積極的にBiを添加しないものの、不純物として混入する場合を許容する趣旨であり、具体的には、Biの含有量が0.05%未満であることを指す。
【0070】
本発明の強化ガラスにおいて、各成分の好適な含有範囲を適宜選択し、好適なガラス組成範囲とすることができる。その中でも、特に好適なガラス組成範囲は以下の通りである。
(1)モル%で、SiO 50〜80%、Al 5〜30%、LiO 0〜2%、NaO 5〜25%、KO 0〜5%を含有し、実質的にAs、Sb、PbO及びFを含有しない。
(2)モル%で、SiO 50〜80%、Al 6.5〜12.4%、LiO 0〜1.7%、NaO 7.0超〜15.5%、KO 0〜3.5%、MgO 0〜2.5%を含有し、実質的にAs、Sb、PbO及びFを含有しない。
(3)モル%で、SiO 50〜80%、Al 6.5〜12.4%、LiO 0〜1%、NaO 9〜15.5%、KO 0〜3.5%、MgO 0.1〜2.5%、MgO+CaO+SrO+BaO 0〜2.5%を含有し、実質的にAs、Sb、PbO及びFを含有しない。
(4)モル%で、SiO 50〜80%、Al 6.5〜12.4%、B 0.01〜15%、LiO 0〜1%、NaO 9〜15.5%、KO 0〜3.5%、LiO+NaO+KO 9〜16.5%、MgO 0.1〜2.5%、MgO+CaO+SrO+BaO 0.1〜2.5%を含有し、実質的にAs、Sb、PbO及びFを含有しない。
(5)モル%で、SiO 50〜77%、Al 6.5〜12.4%、B 1〜15%、LiO 0〜1%、NaO 9〜15.5%、KO 0〜3.5%、LiO+NaO+KO 9〜16.5%、MgO 0.1〜2.5%、MgO+CaO+SrO+BaO 0.1〜2.5%、LiO+NaO+KO+MgO+CaO+SrO+BaO 13〜18.5%を含有し、実質的にAs、Sb、PbO及びFを含有しない。
(6)モル%で、SiO 50〜77%、Al 6.5〜12.4%、B 1〜10%、LiO 0〜1%、NaO 9〜15.5%、KO 0〜3.5%、LiO+NaO+KO 9〜16.5%、MgO 0.1〜2.5%、MgO+CaO+SrO+BaO 0.1〜2.5%、LiO+NaO+KO+MgO+CaO+SrO+BaO 13〜18.5%を含有し、モル比MgO/(LiO+NaO+KO+MgO+CaO+SrO+BaO)が0.01〜0.2であり、実質的にAs、Sb、PbO及びFを含有しない。
(7)モル%で、SiO 50〜77%、Al 6.5〜12.4%、B 1〜10%、LiO 0〜1%、NaO 9〜15.5%、KO 0〜3.5%、LiO+NaO+KO 9〜16.5%、MgO 0.1〜2.5%、MgO+CaO+SrO+BaO 0.1〜2.5%、LiO+NaO+KO+MgO+CaO+SrO+BaO 13〜18.5%を含有し、モル比MgO/(LiO+NaO+KO+MgO+CaO+SrO+BaO)が0.01〜0.2であり、モル比(Al+B)/SiOが0.15〜0.30であり、実質的にAs、Sb、PbO及びFを含有しない。
【0071】
本発明の強化ガラスは、例えば、下記の特性を有することが好ましい。
【0072】
本発明の強化ガラスは、表面に圧縮応力層を有している。圧縮応力層の圧縮応力値は、好ましくは300MPa以上、400MPa以上、500MPa〜1500MPa、特に500〜900MPa未満である。圧縮応力値が大きい程、強化ガラスの機械的強度が高くなる。なお、ガラス組成中のAl、MgO、ZnO、TiO、ZrOの含有量を増加させたり、SrO、BaOの含有量を低減すれば、圧縮応力値が大きくなる傾向がある。また、イオン交換時間を短くしたり、イオン交換溶液の温度を下げれば、圧縮応力値が大きくなる傾向がある。なお、圧縮応力層の圧縮応力値が大き過ぎると、内部の引っ張り応力が過大になり、強化ガラスが自己破壊し易くなる。
【0073】
圧縮応力層の厚みは、好ましくは10μm以上、15μm以上、15μm以上80μm未満、特に15μm以上60μm以下である。圧縮応力層の厚みが大きい程、強化ガラスに深い傷が付いても、強化ガラスが割れ難くなると共に、機械的強度のばらつきが小さくなる。なお、ガラス組成中のKO、Pの含有量を増加させたり、SrO、BaOの含有量を低減すれば、圧縮応力層の厚みが大きくなる傾向がある。また、イオン交換時間を長くしたり、イオン交換溶液の温度を上げれば、圧縮応力層の厚みが大きくなる傾向がある。なお、圧縮応力層の厚みが大き過ぎると、内部の引っ張り応力が過大になり、強化ガラスが自己破壊し易くなる。
【0074】
本発明の強化ガラスにおいて、密度は2.6g/cm以下、2.55g/cm以下、2.50g/cm以下、2.48g/cm以下、2.45g/cm以下、2.43g/cm以下、2.42g/cm以下、2.41g/cm以下、特に2.40g/cm以下が好ましい。密度が小さい程、強化ガラスを軽量化することができる。なお、ガラス組成中のSiO、B、Pの含有量を増加させたり、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、ZnO、ZrO、TiOの含有量を低減すれば、密度が低下し易くなる。
【0075】
本発明の強化ガラスにおいて、30〜380℃の温度範囲における熱膨張係数は100×10−7/℃以下、95×10−7/℃以下、93×10−7/℃以下、90×10−7/℃以下、88×10−7/℃以下、85×10−7/℃以下、83×10−7/℃以下、82×10−7/℃以下、80×10−7/℃以下、79×10−7/℃以下、78×10−7/℃以下、特に50×10−7〜77×10−7/℃が好ましい。熱膨張係数を上記範囲に規制すれば、耐熱衝撃性が向上するため、強化処理前の予熱や強化処理後の徐冷に要する時間を短縮することができる。結果として、強化ガラスの生産性を高めることができる。また、金属、有機系接着剤等の部材の熱膨張係数に整合し易くなり、金属、有機系接着剤等の部材の剥離を防止し易くなる。特に、熱膨張係数を上記範囲に規制すれば、強化ガラス容器に用いる場合に、ガラス管の製造工程、加工工程、滅菌工程等の熱処理工程で、サーマルショックによる破損を防止し易くなる。なお、ガラス組成中のアルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物の含有量を増加すれば、熱膨張係数が高くなり易く、逆にアルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物の含有量を低減すれば、熱膨張係数が低下し易くなる。
【0076】
本発明の強化ガラスにおいて、104.0dPa・sにおける温度は1300℃以下、1280℃以下、1250℃以下、1220℃以下、特に1200℃以下が好ましい。104.0dPa・sにおける温度が低い程、成形設備への負担が軽減されて、成形設備が長寿命化し、結果として、強化ガラスの製造コストを低廉化し易くなる。なお、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、ZnO、B、TiOの含有量を増加させたり、SiO、Alの含有量を低減すれば、104.0dPa・sにおける温度が低下し易くなる。
【0077】
本発明の強化ガラスにおいて、102.5dPa・sにおける温度は1650℃以下、1600℃以下、1580℃以下、特に1550℃以下が好ましい。102.5dPa・sにおける温度が低い程、低温溶融が可能になり、溶融窯等のガラス製造設備への負担が軽減されると共に、泡品位を高め易くなる。すなわち、102.5dPa・sにおける温度が低い程、強化ガラスの製造コストを低廉化し易くなる。ここで、「102.5dPa・sにおける温度」は、例えば、白金球引き上げ法で測定可能である。なお、102.5dPa・sにおける温度は、溶融温度に相当する。また、ガラス組成中のアルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、B、ZnO、TiOの含有量を増加させたり、SiO、Alの含有量を低減すれば、102.5dPa・sにおける温度が低下し易くなる。
【0078】
本発明の強化ガラスにおいて、液相温度は1200℃以下、1150℃以下、1100℃以下、1080℃以下、1050℃以下、1020℃以下、特に1000℃以下が好ましい。なお、液相温度が低い程、耐失透性や成形性が向上する。なお、ガラス組成中のNaO、KO、Bの含有量を増加させたり、Al、LiO、MgO、ZnO、TiO、ZrOの含有量を低減すれば、液相温度が低下し易くなる。
【0079】
本発明の強化ガラスにおいて、液相粘度は104.0dPa・s以上、104.4dPa・s以上、104.8dPa・s以上、105.0dPa・s以上、105.3dPa・s以上、105.5dPa・s以上、105.7dPa・s以上、105.8dPa・s以上、特に106.0dPa・s以上が好ましい。なお、液相粘度が高い程、耐失透性や成形性が向上する。また、ガラス組成中のNaO、KOの含有量を増加させたり、Al、LiO、MgO、ZnO、TiO、ZrOの含有量を低減すれば、液相粘度が高くなり易い。
【0080】
本発明の強化ガラスにおいて、強化処理前のクラックレジスタンスは、100gf以上、200gf以上、300gf以上、400gf以上、500gf以上、600gf以上、700gf以上、800gf以上、900gf以上、特に1000gf以上が好ましい。クラックレジスタンスが高い程、強化ガラスに表面傷が付き難くなるため、強化ガラスの機械的強度が低下し難くなり、また機械的強度がばらつき難くなる。また、クラックレジスタンスが高いと、強化後切断、例えばスクライブ切断時にラテラルクラックが発生し難くなり、強化後スクライブ切断を適正に行い易くなる。結果として、デバイスの製造コストを低廉化し易くなる。
【0081】
ここで、「クラックレジスタンス」とは、クラック発生率が50%となる荷重のことを指す。また、「クラック発生率」は、次のようにして測定した値を指す。まず湿度30%、温度25℃に保持された恒温恒湿槽内において、所定荷重に設定したビッカース圧子をガラス表面(光学研磨面)に15秒間打ち込み、その15秒後に圧痕の4隅から発生するクラックの数をカウント(1つの圧痕につき最大4とする)する。このようにして圧子を20回打ち込み、総クラック発生数を求めた後、総クラック発生数/80×100の式により求める。
【0082】
本発明の強化ガラスにおいて、80℃、10質量%の塩酸水溶液に24時間浸漬させた際の質量減少は、好ましくは150mg/cm以下、100mg/cm以下、50mg/cm以下、45mg/cm以下、40mg/cm以下、30mg/cm以下、20mg/cm以下、10mg/cm以下、5mg/cm以下、3mg/cm以下、1mg/cm以下、0.8mg/cm以下、0.7mg/cm以下、0.6mg/cm以下、0.5mg/cm以下、0.4mg/cm以下、0.3mg/cm以下、0.2mg/cm以下、特に0.1mg/cm以下、である。この質量減少が少ない程、強化ガラスが薬品に侵食され難くなり、フォトレジスト工程等で強化ガラスを適正に処理することができる。
【0083】
本発明の強化ガラス板は、上記の強化ガラスからなることを特徴とする。よって、本発明の強化ガラス板の技術的特徴(好適な特性、好適な成分範囲等)は、原則として、本発明の強化ガラスの技術的特徴と同様になる。ここでは、本発明の強化ガラス板の技術的特徴について、詳細な記載を省略する。
【0084】
本発明の強化ガラス板において、表面の平均表面粗さ(Ra)は、好ましくは10Å以下、8Å以下、6Å以下、4Å以下、3Å以下、特に2Å以下である。平均表面粗さ(Ra)が大きい程、強化ガラス板の機械的強度が低下する傾向がある。ここで、「平均表面粗さ(Ra)」は、SEMI D7−97「FPDガラス基板の表面粗さの測定方法」に準拠した方法により測定した値を指す。
【0085】
本発明の強化ガラス板において、長さ寸法は500mm以上、700mm以上、特に1000mm以上、幅寸法は500mm以上、700mm以上、特に1000mm以上が好ましい。強化ガラス板を大型化すれば、大型TV等のディスプレイの表示部のカバーガラスとして好適に使用可能になる。
【0086】
本発明の強化ガラス板において、板厚は2.0mm以下、1.5mm以下、1.3mm以下、1.1mm以下、1.0mm以下、0.8mm以下、特に0.7mm以下が好ましい。一方、板厚が薄過ぎると、所望の機械的強度を得難くなる。よって、板厚は0.1mm以上が好ましい。
【0087】
本発明の強化ガラス板において、強化ガラス板の少なくとも一方の表面に保護樹脂フィルムを貼着することが好ましく、また強化ガラス板の両表面に保護樹脂フィルムを貼着することが好ましい。保護樹脂フィルムは、強化ガラス板の表面から着脱可能な材質であることが好ましい。このようにすれば、強化ガラス板を搬送、出荷する際に、強化ガラス板の表面に傷が付き、強化ガラス板の機械的強度が低下する事態を防止し易くなる。更に、強化ガラス板の表面に透明導電膜等の機能膜を成膜する場合等に、強化ガラス板の表面から保護樹脂フィルムを容易に剥がすことができる。保護樹脂フィルムのサイズ(縦寸法×横寸法)は、貼着効率の観点から、強化ガラス板のサイズより小さいことが好ましい。また強化ガラス板の表面傷を防止する観点から、保護樹脂フィルムの縦寸法と横寸法の何れかを強化ガラス板のそれより大きくすることが好ましく、必要に応じて、強化ガラス板の表面を保護樹脂フィルムで完全に覆ってもよい。なお、保護樹脂フィルムの厚みは、梱包率等の観点から、強化ガラス板の板厚より小さいことが好ましい。
【0088】
本発明の強化ガラス容器は、上記の強化ガラスからなることを特徴とする。よって、本発明の強化ガラス容器の技術的特徴(好適な特性、好適な成分範囲等)は、原則として、本発明の強化ガラスの技術的特徴と同様になる。ここでは、本発明の強化ガラス容器の技術的特徴について、詳細な記載を省略する。
【0089】
本発明の強化ガラス容器は、ガラス管をガラス容器に加工した後に強化処理されることが好ましく、ガラス管の外径寸法は、好ましくは5〜50mm、5〜40mm、特に5〜30mmであり、厚み寸法は、好ましくは0.3〜2mm、0.3〜1.5mm、特に0.4〜1.5mmである。
【0090】
本発明の強化用ガラスは、強化処理に供されるガラスであって、ガラス組成として、ガラス組成として、モル%で、SiO 50〜80%、Al 5〜30%、LiO 0〜2%、NaO 5〜25%、KO 0〜5%を含有し、実質的にAs、Sb、PbO及びFを含有しないことを特徴とする。よって、本発明の強化用ガラスの技術的特徴(好適な特性、好適な成分範囲等)は、原則として、本発明の強化ガラスや本発明の強化ガラス板の技術的特徴と同様になる。ここでは、本発明の強化用ガラスの技術的特徴について、詳細な記載を省略する。
【0091】
本発明の強化用ガラスにおいて、クラックレジスタンスは100gf以上、200gf以上、300gf以上、400gf以上、500gf以上、600gf以上、700gf以上、800gf以上、900gf以上、特に1000gf以上が好ましい。クラックレジスタンスが高い程、得られる強化ガラスに表面傷が付き難くなるため、強化ガラスの機械的強度が低下し難くなり、また機械的強度がばらつき難くなる。また、クラックレジスタンスが高いと、強化後切断、例えばスクライブ切断時にラテラルクラックが発生し難くなり、強化後スクライブ切断を適正に行い易くなる。結果として、デバイスの製造コストを低廉化し易くなる。
【0092】
本発明の強化用ガラス板において、強化用ガラス板の少なくとも一方の表面に保護樹脂フィルムを貼着することが好ましく、また強化用ガラス板の両表面に保護樹脂フィルムを貼着することが好ましい。保護樹脂フィルムは、強化用ガラス板の表面から着脱可能な材質であることが好ましい。このようにすれば、強化用ガラス板を搬送、出荷する際に、強化用ガラス板の表面に傷が付き、強化ガラス板の機械的強度が低下する事態を防止し易くなる。更に、強化用ガラス板をイオン交換処理する場合等に、強化用ガラス板の表面から保護樹脂フィルムを容易に剥がすことができる。保護樹脂フィルムのサイズ(縦寸法×横寸法)は、貼着効率の観点から、強化用ガラス板のサイズより小さいことが好ましい。また強化用ガラス板の表面傷を防止する観点から、保護樹脂フィルムの縦寸法と横寸法の何れかを強化用ガラス板のそれより大きくすることが好ましく、必要に応じて、強化用ガラス板の表面を保護樹脂フィルムで完全に覆ってもよい。なお、保護樹脂フィルムの厚みは、梱包率等の観点から、強化用ガラス板の板厚より小さいことが好ましい。
【0093】
本発明の強化用ガラスは、430℃のKNO溶融塩(使用履歴がない)中でイオン交換処理する場合、表面の圧縮応力層の圧縮応力値が300MPa以上、且つ圧縮応力層の厚みが10μm以上になることが好ましく、表面の圧縮応力が400MPa以上、且つ圧縮応力層の厚みが15μm以上になることが更に好ましく、表面の圧縮応力が500MPa以上、且つ圧縮応力層の厚みが15μm以上になることが特に好ましい。
【0094】
本発明の強化用ガラスにおいて、使用履歴がない硝酸カリウム溶融塩でイオン交換処理した際の圧縮応力層の圧縮応力値CSと、Naイオンを20000ppm(質量)含む硝酸カリウム溶融塩でイオン交換処理した際の圧縮応力層の圧縮応力値CSとの比CS/CSは0.7以上、0.71以上、0.72以上、特に0.73以上が好ましい。このようにすれば、劣化したイオン交換溶液を用いても、イオン交換性能を維持し易くなり、結果として、イオン交換溶液の交換期間を長期化することができる。
【0095】
イオン交換処理の際、KNO溶融塩の温度は400〜550℃が好ましく、イオン交換時間は0.5〜10時間、特に0.5〜4時間が好ましい。このようにすれば、圧縮応力層を適正に形成し易くなる。なお、本発明の強化用ガラスは、上記のガラス組成を有するため、KNO溶融塩とNaNO溶融塩の混合物等を使用しなくても、圧縮応力層の圧縮応力値や厚みを大きくすることができる。
【0096】
以下のようにして、本発明の強化用ガラス、強化ガラス、強化ガラス容器及び強化ガラス板を作製することができる。
【0097】
まず上記のガラス組成になるように調合したガラス原料を連続溶融炉に投入して、1500〜1650℃で加熱溶融し、清澄した後、成形装置に供給した上で板状又は管状等に成形し、徐冷することにより、ガラス板又はガラス管等を作製することができる。
【0098】
ガラス板を成形する方法として、オーバーフローダウンドロー法を採用することが好ましい。オーバーフローダウンドロー法は、大量に高品位なガラス板を作製できると共に、大型のガラス板も容易に作製できる方法であり、またガラス板の表面の傷を可及的に低減することができる。
【0099】
オーバーフローダウンドロー法以外にも、種々の成形方法を採用することができる。例えば、フロート法、ダウンドロー法(スロットダウン法、リドロー法等)、ロールアウト法、プレス法等の成形方法を採用することができる。
【0100】
また、ガラス管を成形する方法として、ダウンドロー法、アップドロー法、ベロー法、ダンナー法を採用することが好ましく、特に生産効率の観点から、ダンナー法を採用することが好ましい。ここで、ダンナー法は、回転する円筒状の耐火物表面に、溶融ガラスを巻き付けて耐火物先端へと流下させ、ブローエアを吹き込みながら、耐火物先端から管状に引き出す方法である。その後、ガスバーナーを用いて、ガラス管を局所加熱すれば、ガラス容器に加工することができる。なお、加工時に発生した残留歪みは、徐冷炉に投入することにより取り除くことができる。
【0101】
次に、得られた強化用ガラスを強化処理することにより、強化ガラスを作製することができる。強化ガラスを所定寸法に切断する時期は、強化処理の前でもよいが、デバイスの製造効率の観点から、強化処理の後に行うことが好ましい。
【0102】
強化処理として、イオン交換処理が好ましい。イオン交換処理の条件は、特に限定されず、ガラスの粘度特性、用途、厚み、内部の引っ張り応力、寸法変化等を考慮して最適な条件を選択すればよい。例えば、イオン交換処理は、400〜550℃のKNO溶融塩中に、強化用ガラスを0.5〜10時間浸漬することで行うことができる。特に、KNO溶融塩中のKイオンをガラス中のNa成分とイオン交換すると、ガラスの表面に圧縮応力層を効率良く形成することができる。
【0103】
強化用ガラス板の端面をエッチング処理した後、この強化用ガラス板をイオン交換処理して、強化ガラス板を得ることが好ましい。このようにすれば、端面が平滑な状態になり、更にその端面に圧縮応力層が形成されるため、強化ガラス板の機械的強度、特に3点曲げ強度を大幅に高めることができる。エッチング処理の際に、エッチング液として、Fを含む溶液を用いることが好ましく、特にHFを含む水溶液を用いることが好ましい。このようにすれば、端面を平滑な状態にエッチングし易くなる。
【0104】
強化用ガラス板の端面をファイアポリッシュした後、この強化用ガラス板をイオン交換処理して、強化ガラス板を得ることも好ましい。このようにすれば、端面が平滑な状態になり、更にその端面に圧縮応力層が形成されるため、強化ガラス板の機械的強度、特に3点曲げ強度を大幅に高めることができる。
【0105】
強化用ガラス板の端面を研磨加工、特に面取り加工した後、この強化用ガラス板をイオン交換処理して、強化ガラス板を得ることも好ましい。このようにすれば、端面が平滑な状態になり、更にその端面に圧縮応力層が形成されるため、強化ガラス板の機械的強度、特に3点曲げ強度を大幅に高めることができる。
【0106】
強化ガラス板を切断する場合、レーザー切断、スクライブ切断を採択することが好ましい。レーザー切断には、COレーザー、短パルスレーザーを用いることが好ましい。このようにすれば、切断時に意図しないクラックが進展し難くなる。
【0107】
強化ガラス板をスクライブ切断する場合、初期傷(スクライブ傷)の深さが圧縮応力層の厚みより大きく、且つ内部の引っ張り応力が100MPa以下、80MPa以下、70MPa以下、60PMa以下、40MPa以下、30MPa以下、25MPa以下、23MPa以下、または20MPa以下であることが好ましい。また、強化ガラス板の端からスクライブを開始したり、また端から5mm以上離れた領域から、スクライブを開始することが好ましく、強化ガラス板の端から5mm以上離れた領域で、スクライブを終了することが好ましい。更に、スクライブ後に折割工程を設けることが好ましい。このようにすれば、スクライブ時に意図しない割れが発生し難くなり、強化後スクライブ切断を適正に行い易くなる。なお、内部の引っ張り応力は下記の数式1で計算可能である。スクライブ傷の形成には、例えば、外円周上に突起を有するホイールカッターを用いることが好ましい。
【0108】
強化用ガラス板をイオン交換処理して、強化ガラス板を得た後、強化ガラス板の端面をエッチング処理することが好ましく、強化用ガラス板をイオン交換処理して、強化ガラス板を得た後、強化ガラス板の端面を研磨加工、特に面取り加工し、その端面をエッチング処理することが更に好ましい。このようにすれば、端面が平滑な状態になるため、その端面に圧縮応力層が形成されていなくても、強化ガラス板の機械的強度、特に3点曲げ強度を高めることができる。エッチング処理の際に、エッチング液として、Fを含む溶液を用いることが好ましく、特にHFを含む水溶液を用いることが好ましい。このようにすれば、端面を平滑な状態にエッチングし易くなる。
【0109】
【数1】
【実施例】
【0110】
以下、実施例に基づいて、本発明を説明する。なお、以下の実施例は、単なる例示である。本発明は、以下の実施例に何ら限定されない。
【0111】
表1〜8は、本発明の実施例(試料No.1〜45)を示している。
【0112】
【表1】
【0113】
【表2】
【0114】
【表3】
【0115】
【表4】
【0116】
【表5】
【0117】
【表6】
【0118】
【表7】
【0119】
【表8】
【0120】
次のようにして、表中の各試料を作製した。まず表中のガラス組成になるように、ガラス原料を調合し、白金ポットを用いて1600℃で溶融した。溶融時間は21時間とした。その後、得られた溶融ガラスをカーボン板の上に流し出して、板状に成形した。得られたガラス板について、種々の特性を評価した。
【0121】
密度は、周知のアルキメデス法によって測定した値である。
【0122】
熱膨張係数αは、ディラトメーターを用いて、30〜380℃の温度範囲における平均熱膨張係数を測定した値である。
【0123】
歪点Ps、徐冷点Taは、ASTM C336の方法に基づいて測定した値である。
【0124】
軟化点Tsは、ASTM C338の方法に基づいて測定した値である。
【0125】
高温粘度104.0dPa・s、103.0dPa・s、102.5dPa・sにおける温度は、白金球引き上げ法で測定した値である。
【0126】
液相温度TLは、標準篩30メッシュ(篩目開き500μm)を通過し、50メッシュ(篩目開き300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れた後、温度勾配炉中に24時間保持して、結晶の析出する温度を測定した値である。
【0127】
液相粘度logηTLは、液相温度におけるガラスの粘度を白金球引き上げ法で測定した値である。
耐薬品性は、80℃、10質量%の塩酸水溶液に24時間浸漬させた後の質量減少である。次のようにして、各試料の質量減少を測定した。まず塩酸水溶液に浸漬させる前の各試料の質量と表面積を測定した。次に、各試料を塩酸水溶液に浸漬させた後、各試料の質量を測定した。最後に、(浸漬前の質量−浸漬後の質量)/(浸漬前の表面積)の式により、質量減少を算出した。
【0128】
表1〜8から明らかなように、各試料は、密度が2.44g/cm以下、熱膨張係数が88×10−7/℃以下であった。また液相粘度が104.0dPa・s以上であるため、オーバーフローダウンドロー法で板状に成形可能であり、しかも102.5dPa・sにおける温度が1695℃以下であるため、生産性が高く、大量のガラス板を安価に作製し得るものと考えられる。
【0129】
次に、両表面に光学研磨を施した各試料について、430℃のKNO溶融塩(使用履歴がない)中に4時間浸漬することにより、イオン交換処理を行った。イオン交換処理後に各試料の表面を洗浄した。続いて、表面応力計(株式会社東芝製FSM−6000)を用いて観察される干渉縞の本数とその間隔から表面の圧縮応力層の圧縮応力値(CS)と厚み(DOL)を算出した。算出に当たり、屈折率を1.50、光学弾性定数を31[(nm/cm)/MPa]とした。なお、強化処理前後で、ガラスの表層におけるガラス組成が微視的に異なるものの、ガラス全体として見た場合は、ガラス組成が実質的に相違しない。
【0130】
また、両表面に光学研磨を施した各試料について、430℃のKNO溶融塩(Naイオンを20000ppm(質量)含む)中に4時間浸漬することにより、イオン交換処理を行った。イオン交換処理後に各試料の表面を洗浄した。続いて、表面応力計(株式会社東芝製FSM−6000)を用いて観察される干渉縞の本数とその間隔から表面の圧縮応力層の圧縮応力値(CS)と厚み(DOL)を算出した。算出に当たり、屈折率を1.50、光学弾性定数を31[(nm/cm)/MPa]とした。
【0131】
表1〜8から明らかなように、各試料について、使用履歴がないKNO溶融塩でイオン交換処理を行ったところ、圧縮応力層の圧縮応力値は812〜909MPa、厚みは27〜40μmであった。また、Naイオンを20000ppm(質量)含むKNO溶融塩でイオン交換処理を行ったところ、圧縮応力層の圧縮応力値は598〜695MPa、厚みは25〜38μmであった。更に、CS/CSは0.71〜0.80であり、劣化したKNO溶融塩を用いても、イオン交換性能があまり変化しないと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0132】
本発明の強化ガラス及び強化ガラス板は、携帯電話、デジタルカメラ、PDA等のカバーガラス、或いはタッチパネルディスプレイ等のガラス基板として好適である。また、本発明の強化ガラス容器は、医薬品容器として好適である。更に、本発明の強化ガラス及び強化ガラス板は、これらの用途以外にも、高い機械的強度が要求される用途、例えば窓ガラス、磁気ディスク用基板、フラットパネルディスプレイ用基板、太陽電池用カバーガラス、固体撮像素子用カバーガラス、食器への応用が期待できる。