特許第6653224号(P6653224)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6653224模様付き焼き海苔製造方法と模様付き焼き海苔
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6653224
(24)【登録日】2020年1月29日
(45)【発行日】2020年2月26日
(54)【発明の名称】模様付き焼き海苔製造方法と模様付き焼き海苔
(51)【国際特許分類】
   A23L 17/60 20160101AFI20200217BHJP
   G01N 27/62 20060101ALI20200217BHJP
【FI】
   A23L17/60 103A
   G01N27/62 V
   G01N27/62 C
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-120929(P2016-120929)
(22)【出願日】2016年6月17日
(62)【分割の表示】特願2016-1666(P2016-1666)の分割
【原出願日】2016年1月7日
(65)【公開番号】特開2017-121229(P2017-121229A)
(43)【公開日】2017年7月13日
【審査請求日】2018年12月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】512033914
【氏名又は名称】株式会社小善本店
(74)【代理人】
【識別番号】100076369
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 正治
(74)【代理人】
【識別番号】100144749
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 正英
(72)【発明者】
【氏名】小林 智則
(72)【発明者】
【氏名】越智 博紀
【審査官】 濱田 光浩
(56)【参考文献】
【文献】 登録実用新案第3165670(JP,U)
【文献】 特開2009−142179(JP,A)
【文献】 特開2008−245630(JP,A)
【文献】 特許第5260775(JP,B1)
【文献】 海苔を火であぶる,Yahoo知恵袋,URL,http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1111109521
【文献】 Na Shu and Hong Shen,Identification of odour-active compounds in dried and roasted nori (Porphyra yezoensis) using a simp,Flavour and Fragrance Journal,2012年,Volume 27, Issue 2,p. 157-164
【文献】 柘植圭介、外3名,食品素材の高品質乾燥技術に関する研究 −ノリ焙焼時における成分変化の調査−,平成20年度 佐賀県工業技術センター 研究報告書,pp.35−39
【文献】 伊藤汎、外1名,加熱液糖の香り成分,日本食品工業学会誌、1978年10月、第25巻、第10号、pp.549−555
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 17/60
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS(STN)
FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
様付き焼き海苔製造方法において、
乾海苔にレーザビームを照射して模様付き乾海苔にする模様形成工程と、
前記模様形成工程での模様形成後に、前記模様付き乾海苔を当該模様を含んで焼くことによって、前記レーザビームの照射によって生ずるにおい成分を低減又は消失させて模様付き焼き海苔にする焼き工程を備えた、
ことを特徴とする模様付き焼き海苔製造方法。
【請求項2】
レーザビームの照射によって形成された模様を備えた模様付き焼き海苔において、
ガスクロマトグラフ質量分析装置での測定によって、ピリジン、ピルビン酸メチル、アセチルフラン、メチルフルフラール及びフランカルボン酸メチルの一又は二以上が検出されない、
ことを特徴とする模様付き焼き海苔。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海苔の一部が切り抜かれて貫通した抜き模様、貫通させずに表面を焦がした焦げ模様、焦げ模様と抜き模様を組み合わせた混合模様のいずれかが形成された模様付き焼き海苔の製造方法と、前記各種模様が形成された模様付き焼き海苔に関する。
【背景技術】
【0002】
焼き海苔は、所望サイズに切断された生海苔を簀の上に載せた定形の枠に流し込んで成型海苔とし、その成型海苔を乾燥させて乾海苔とし、その乾海苔を焼き機で所定時間焼くことによって製造される。製造された焼き海苔は、全形と呼ばれるサイズ(縦21cm×横19cm)のものを、全形のまま或いは八ツ切や四ツ切に切断した形で販売されている。
【0003】
本件出願人は、本件出願に先立ち、炭酸ガスレーザビームの照射によって板海苔の表面に模様を形成する模様付き焼き海苔の製造方法(本願において「従来製法」という)を開発した(特許文献1)。従来製法は、図5に示すように、成型して乾燥させた乾海苔を焼いて焼き海苔とし、その焼き海苔の表面に炭酸ガスレーザビームを照射して、当該焼き海苔に模様を形成することによって模様付き焼き海苔を製造する方法である。従来製法では、焦げ模様のほか、抜き模様や混合模様を形成した模様付き焼き海苔を製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5260775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記従来製法は、焼き海苔の表面をメッシュ状に焦がすことによってにおいの少ない模様付き焼き海苔を得ることができるが、一部の消費者から依然としてにおいが気になるとの指摘があった。
【0006】
本発明は、従来製法で製造された模様付き焼き海苔よりもにおいが少ない模様付き焼き海苔製造方法及び模様付き焼き海苔を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[模様付き焼き海苔製造方法]
本発明の模様付き焼き海苔製造方法は、模様付き焼き海苔の製造方法において、乾海苔にレーザビームを照射するして模様付き乾海苔にする模様形成工程と、当該模様形成工程での模様形成後に、当該模様付き乾海苔を当該模様を含んで焼くことによって、前記レーザビームの照射によって生ずるにおい成分を低減又は消失させて模様付き焼き海苔にする焼き工程を備えた模様付き焼き海苔を製造する方法である。
【0008】
[模様付き焼き海苔]
本発明の模様付き焼き海苔は、レーザビームの照射によって形成された模様を備えた模様付き焼き海苔において、ガスクロマトグラフ質量分析装置での測定によって、ピリジン、ピルビン酸メチル、アセチルフラン、メチルフルフラール及びフランカルボン酸メチルの一又は二以上が検出されないものである。
【0009】
前記模様付き焼き海苔は、炭酸ガスレーザビームによる模様を備えた模様付き焼き海苔において、フルフラールの値が、焼き海苔に炭酸ガスレーザビームを照射して模様を形成した従来の模様付き焼き海苔のフルフラールの値の1/10以下のものであってもよい。フルフラールの値が、従来の模様付き焼き海苔の1/10以下であるか否かも、前記ガスクロマトグラフ質量分析装置による当該模様付き焼き海苔の計測によって行うことができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の模様付き焼き海苔製造方法によれば、従来の模様付き焼き海苔で感じられたにおいを感じない模様付き焼き海苔を製造することができる。これは、レーザビーム照射による模様形成後に海苔を焼くことで、レーザビーム照射によって産生されたにおいの原因物質が消失(滅失)若しくは低減されるためであると推測される。
【0011】
本発明の模様付き焼き海苔は、においの原因物質であるピリジン、ピルビン酸メチル、アセチルフラン、メチルフルフラール及びフランカルボン酸メチルが検出されない、又は、においの原因物質であるフルフラールが従来製法で製造された模様付き焼き海苔よりも少ないものであるため、従来製法で製造された模様付き焼き海苔のようなにおいを感じることがない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の模様付き焼き海苔製造方法の一例を示すフローチャート。
図2】炭酸ガスレーザビームによる模様を備えた模様付き焼き海苔の切り口の説明写真。
図3】金型プレスによる模様を備えた模様付き焼き海苔の切り口の説明写真。
図4】炭酸ガスレーザビームによる模様の一例を示す説明図。
図5】従来の模様付き焼き海苔製造方法の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(模様付き焼き海苔製造方法の実施形態)
本発明の模様付き焼き海苔製造方法の一例を、図面を参照して説明する。一例として図1に示す模様付き焼き海苔製造方法は、生海苔を枠に流し込んで所定形状に成型して成型海苔を得る成型工程と、当該成型海苔を乾燥させて乾海苔を得る乾燥工程と、当該乾海苔に炭酸レーザビームを照射して当該乾海苔に模様を形成する模様形成工程と、当該模様を形成した乾海苔(本願において「模様付き乾海苔」という)を焼いて模様付き焼き海苔を得る焼き工程を備えた方法である。ここで言う模様には、抜き模様、焦げ模様及び混合模様が含まれる。
【0014】
[成型工程]
前記成型工程は、生海苔を所定形状に成形して成型海苔を得る工程である。海苔の成型は従来の方法で行うことができる。具体的には、所望サイズに切断された生海苔を簀の上に載せた定形の枠(四角い枠)に流し込むことによって成型することができる。成型海苔は他の方法で得ることもできる。
【0015】
[乾燥工程]
前記乾燥工程は、前記成型工程で得られた成型海苔を乾燥させて乾海苔を得る工程である。この工程で、海苔に含まれる水分量が6〜10%程度になるまで成型海苔を乾燥させる。乾燥方法は自然乾燥でも強制乾燥でもよい。
【0016】
[模様形成工程]
前記模様形成工程は、乾海苔に模様を形成して模様付き乾海苔を得る工程である。模様形成工程での模様形成には、例えば、乾海苔に形成する模様を読み込んで、乾海苔に炭酸ガスレーザビームを照射する炭酸ガスレーザ照射器(CO2レーザ照射器)と、形成する模様の読み込みや変換等のデータ処理を行うコンピュータを用いることができる。炭酸ガスレーザ照射器として、ヘッドとコントローラを備えたものを用いる場合、当該コントローラをコンピュータと接続する。炭酸ガスレーザ照射器には、例えば、株式会社キーエンス製のレーザマーカ(例えば、ML-Z9510/9520/9550/9510W/9520W/9550W)や、株式会社堀内電機製作所製のLSS-S050VAHやLSS-S070VAHなどを、コンピュータには、既存のパソコン(PC)等を用いることができる。
【0017】
前記模様形成工程では、形成する模様のデータ(模様データ)をコンピュータで生成し、当該模様データを炭酸ガスレーザ照射器へ送信し、その模様データに従ってレーザ照射を行い、乾海苔に模様を形成する。具体的には、乾海苔に形成する模様(画像)の原図をコンピュータに読み込み、読み込んだ画像をコンピュータ上で白黒(モノクロ)に変換し、画像データを模様の形成位置や大きさ等に合わせたサイズに変換し、画像データからノイズを除去することによって生成し、当該生成された模様データをコンピュータから炭酸ガスレーザ照射器のコントローラへ送信し、当該模様データに従ってレーザビームを照射して乾海苔に模様データに従った模様を形成する。模様データは、これ以外の方法で炭酸ガスレーザ照射器へ入力するようにしてもよい。
【0018】
[焼き工程]
前記焼き工程は、模様付き乾海苔を焼いて模様付きの焼き海苔(本願において「模様付き焼き海苔」という)を得る工程である。焼き工程では、前記模様形成工程で得られた模様付き乾海苔を、焼き機で焼く。焼き温度や焼時間は適宜設定することができるが、例えば、200〜300℃程度で5〜10秒程度が適する。焼き機には、例えば、出願人が使用しているミニ焼き機など、既存の焼き機を用いることができる。
【0019】
従来の模様付き焼き海苔と同様、前記焼き工程を経て製造された模様付き焼き海苔は、全形のまま或いは八ツ切や四ツ切に切断した形で販売することができる。また、味付けをして、味付き海苔として販売することもできる。販売に際しては、一枚又は二枚以上を容器に入れて販売することができる。
【0020】
(模様付き焼き海苔の実施形態)
本発明の模様付き焼き海苔の一例について説明する。本発明の模様付き焼き海苔は、炭酸ガスレーザビームによる模様を備えた海苔であって、ガスクロマトグラフ質量分析装置での測定により、ピリジン、ピルビン酸メチル、アセチルフラン、メチルフルフラール及びフランカルボン酸メチルの一又は二以上が検出されないもの、換言すれば、これら成分を含有しないものである。これらすべての成分が検出されないことが最も好ましいが、少なくとも、これら成分のうち、一又は二以上が検出されなければよい。
【0021】
本発明の模様付き焼き海苔は、ガスクロマトグラフ質量分析装置での測定により検出されるフルフラールの値が、焼き海苔に炭酸ガスレーザビームを照射して模様を形成した従来の模様付き焼き海苔、より具体的には、従来製法で製造された模様付き焼き海苔のフルフラールの値が低いものである。より詳しくは、フルフラールの値が、従来製法で製造された模様付き焼き海苔のフルフラールの値の1/10以下のものである。
【0022】
本発明の模様付き焼き海苔は、前述の模様付き焼き海苔製造方法によって製造することができる。炭酸ガスレーザの照射によって形成される模様は、抜き模様、焦げ模様、混合模様のいずれであってもよい。この模様付き焼き海苔も、全形のまま或いは八ツ切や四ツ切に切断した形で、味付けをした味付き海苔として販売することができる。販売に際しては、一枚又は二枚以上を容器に入れて販売することができる。
【0023】
なお、抜き模様は金型プレスによって形成することもできるが、炭酸ガスレーザビームにより形成された模様であるか、金型プレスによって形成された模様であるかは、外観上明確に区別することができる。図2に炭酸ガスレーザビームによる模様を備えた模様付き焼き海苔を、図3に金型プレスによる模様を備えた模様付き焼き海苔を示す。両図から明らかなとおり、炭酸ガスレーザビームによ形成された模様の切り口は、金型プレスにより形成された模様の切り口に比して精細である。炭酸ガスレーザビームで形成される模様は精細であるため、金型プレスでは形成することのできない繊細な模様(例えば、図4に示すような細かいデザインの模様)を形成することもできる。
【0024】
本件出願人は、本発明の模様付き焼き海苔製造方法の効果を実証するため、分析機関に、本発明の模様付き焼き海苔製造方法で製造した模様付き焼き海苔(以下「本件製品」という)と、従来製法で製造した模様付き焼き海苔(以下「従来製品」という)について、以下の分析を依頼した。なお、物件提出書によって提出する「試験・分析・調査報告書」では、試験品として「のりあーと改善前(焼いてからレーザー加工)」と「のりあーと改善後(レーザー加工してから焼く)」の二種類が記載されているが、前者が前記「従来製品」であり、後者が前記「本件製品」である。
【0025】
[試験概要]
前記従来製品と本件製品のそれぞれのにおい成分を、ガスクロマトグラフ質量分析装置(GC−MS)で測定した。
【0026】
[試験結果]
本件製品では、従来製品で検出されたピリジン、ピルビン酸メチル、アセチルフラン、メチルフルフラール、フランカルボン酸メチルが検出されなかった。また、本件製品は、従来製品に比べて、エトキシエタノールとフルフラールが1/10以下となった。
【0027】
試験結果を表1及び2に示す。表1は、従来製品と本件製品の成分の対比表であり、本件製品欄の数値は、従来製品を「1」とした場合の相対強度である。表2は、従来製品と本件製品のTIC(トータルイオンクロマトグラム)である。
【表1】
【0028】
【表2】
【0029】
[考察]
本件製品で検出されなかった複数成分のうち、ピリジン、ピルビン酸メチル、アセチルフラン、メチルフルフラール、フランカルボン酸メチル及び本件製品で明らかに減少したフルフラールは、いずれも有機物の加熱や燃焼で産生する成分であり、試験機関での官能評価でも、本件製品では、従来製品で感じられた焼き魚や燃やした髪の毛を連想させる異質なにおいは感じられないとの評価を得られた。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の模様付き焼き海苔製造方法は、煎餅や和菓子など焼き工程を含む各種食品の製造方法として応用することもできる。また、本発明の模様付き焼き海苔は、家庭での料理やお弁当に使用するほか、料理を提供する各種飲食店において、装飾的効果を持った料理を提供する場合などに利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5