(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した従来の実情に鑑みてなされたものであり、マット上面へのモルタル成分の浸み出しを少なくした布製型枠、法面保護構造体および法面保護工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を続けた結果、上層布と下層布とで通気性を異なるものとすることにより、上記課題を解決できることに想到し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]
上層布と下層布との二層織物からなる袋部を有する布製型枠であって、
前記袋部は、前記上層布のフラジール通気性が30cm
3/cm
2・秒以下であり、
前記下層布のフラジール通気性が前記上層布のフラジール通気性よりも大きく、かつ、前記上層布と前記下層布とのフラジール通気性の差が10cm
3/cm
2・秒以上であることを特徴とする、布製型枠。
[2]
前記上層布のカバーファクターが750以上である、[1]に記載の布製型枠。
[3]
前記上層布が平織である、[1]または[2]に記載の布製型枠。
[4]
前記下層布が、斜子織または斜子織と平織との混合織である、[1]〜[3]のいずれかに記載の布製型枠。
[5]
前記袋部の内部に所定の間隔で島状に形成された、一層織物からなる複数のフィルター部を有する、[1]〜[4]のいずれかに記載の布製型枠。
[6]
[1]〜[5]のいずれかに記載の布製型枠が用いられ、該布製型枠は、前記上層布側を上側として配されている法面保護構造体。
[7]
以下の工程:
(1)[1]〜[5]のいずれかに記載の布製型枠を、前記上層布側を上側として法面に敷設する工程、
(2)前記布製型枠の前記袋部の内側にモルタルまたはコンクリートを打設する工程、および
(3)前記モルタルまたはコンクリートに含まれる余剰水を、前記布製型枠の布目を通じて脱水する工程、および
(4)前記モルタルまたはコンクリートに含まれる余剰水を脱水した後、前記布製型枠の表面を水洗いする工程、
を有する法面保護工法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、マット上面へのモルタル成分の浸み出しを少なくした布製型枠、法面保護構造体および法面保護工法を提供することができる。これにより洗浄作業の負担を低減することができ、ひいては施工時間やコストを低減することができる。またマットの厚みを均一とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の布製型枠の一構成例を示す平面図であり、
図2は、モルタル10を打設した後の、布製型枠の断面図である。また、
図3は、本発明の布製型枠を用いた法面保護構造体を模式的に示す断面図である。
【0011】
なお、以下の説明では、袋部2の内側にモルタル10を充填、固化させる場合を例に挙げて説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えばコンクリートを充填してもよい。
本実施形態の布製型枠1は、上層布3と下層布4との二層織物5からなる袋部2を有する。そして、布製型枠1は、袋部2において、上層布3のフラジール通気性が30cm
3/cm
2・秒以下であり、下層布4のフラジール通気性が上層布3のフラジール通気性よりも大きく、かつ、上層布3と下層布4とのフラジール通気性の差が10cm
3/cm
2・秒以上であることを特徴とする。
本実施形態では、袋部2を構成する上層布3と下層布4とでフラジール通気性を異なるものとする。具体的には、下層布4のフラジール通気性を上層布3のフラジール通気性よりも大きくすることで、下層布4からの透水性を上層布3からの透水性よりも大きくしている。言い換えれば、上層布3の透水性を小さくすることで、上層布3に滲み出るモルタル成分(ノロ)の量を少なくし、モルタル充填後の洗浄作業の手間および時間を大きく削減することができる。
【0012】
この布製型枠1において、袋部2は、二層織物5からなる。該二層織物5は上層布3と下層布4で構成され、通常は袋織りで製織して得られる。該二層織物5の空隙にはモルタル10等が打設される。布製型枠1は、上層布3側を上側(表側)として、例えば法面20上に敷設される(
図3参照)。
袋部2には注入口(図示せず)が設けられており、ここからモルタル10等が、袋部2の上層布3と下層布4で形成される空隙に打設される。
【0013】
本実施形態の布製型枠1では、上層布3のフラジール通気性が30cm
3/cm
2・秒以下である。上層布3のフラジール通気性が30cm
3/cm
2・秒よりも大きいと、上層布3の透水性が大きくなってしまい、上層布3からの脱水量が十分に少なくならない。
上層布3のフラジール通気性が30cm
3/cm
2・秒以下とすることで、上層布3からの脱水量を十分に少なくすることができる。ただし、フラジール通気性が低すぎると、透水性も小さくなり水抜けが悪くなるので、フラジール通気性は1cm
3/cm
2・秒以上であることが好ましい。
フラジール通気性はJIS L1096A法(フラジール法)に準拠した方法により測定される。
【0014】
また、下層布4のフラジール通気性が上層布3のフラジール通気性よりも大きく、かつ、上層布3と下層布4とのフラジール通気性の差が10cm
3/cm
2・秒以上である。
上層布3と下層布4とのフラジール通気性の差が10cm
3/cm
2・秒未満であると、上層布3と下層布4との透水性に差を設け、上層布3からの脱水量を少なくするという本発明の作用効果が十分に得られない。上層布3と下層布4とのフラジール通気性の差が10cm
3/cm
2・秒以上とすることで、本発明の作用効果を十分に得ることができる。
【0015】
上層布3のカバーファクター(布充填度)が750以上であることが好ましい。カバーファクターを750以上とすることで、上層布3のフラジール通気性ひいては透水性を小さくすることができる。ただし、カバーファクターが大きすぎると、通気性ひいては透水性も小さくなり水抜けが悪くなるので、カバーファクターは1000以下であることが好ましい。
カバーファクターは、使用原糸の番手と織物密度とから、計算により求めることができる。具体的には、経方向カバーファクターは、(√経糸総繊度(dtex)×経織密度(本/2.54cm))、緯方向カバーファクターは、(√緯糸総繊度(dtex)×緯織密度(本/2.54cm))で算出される。また経糸及び緯糸織物密度は、デンシメーターで1インチ(2.54cm)あたりの本数が計測される。
【0016】
上層布3は平織であることが好ましい。上層布3を平織とすることにより、織密度を高くしてカバーファクターを大きくすることができる。下層布4は、斜子織または斜子織と平織との混合織であることが好ましい。
上層布3と下層布4とで織仕様を変更することにより、上層布3と下層布4とのフラジール通気性ひいては透水性を異なるものとすることができる。
【0017】
図1に示すように、布製型枠1は、袋部2の内部に所定の間隔で島状に形成された、一層織物7からなる複数のフィルター部6を有していてもよい。フィルター部6を有することで、水はけが良好となり、作業性が向上する。また、施工後のハツリ作業の必要性を低減することができ、作業の手間ひいては人件費を低減することができる。また施工後の保護構造体においても、法面からの雨水等を逃がす効果が十分に得られる。
【0018】
下層布4、上層布3は、
図2に示すように、所定の間隔をもって島状に互いに接続されている。すなわち、下層布4、上層布3をそれぞれ構成する経糸および緯糸が部分的に一層織物7として製織されフィルター部6を成している。
図1に示すように、フィルター部6は二層織物5に島状に設けられ、特定の間隔で配されている。フィルター部6の大きさ、数および配置には特に制限はなく、施工現場等に応じて適宜選定されるが、その間隔が狭い方がより平面的な打設面が得られる。例えば
図1ではフィルター部6を縦横並列に配置しているが、これに限定されず、例えば千鳥状であってもよい。
【0019】
このように本発明の布製型枠1では、上層布3からの脱水量を減らすことで、保護構造体(マット)上面へのモルタル成分の浸み出し(ノロ)を少なくすることができる。これにより施工後の洗浄作業の負担を低減することができ、ひいては施工時間やコストを低減することができる。またマットの厚みを均一とすることができる。
【0020】
このような布製型枠1は、例えばつぎのようにして製造される。
布製型枠1をなす袋部2は、経糸および緯糸で製織された上層布3と下層布4からなる二層織物5を製織することにより得られる。
このとき、上層布3と下層布4とで織仕様を変更することにより、上層布3と下層布4とのフラジール通気性ひいては透水性を異なるものとすることができる。
上層布3は平織であることが好ましい。上層布3を平織とすることにより、織密度を高くしてカバーファクターを大きくし、通気性を小さくすることができる。下層布4は、斜子織または斜子織と平織との混合織であることが好ましい。
【0021】
袋部2に用いられる糸素材には特に制限はなく、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ポリアミド、ポリエステル、ビニロン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニリデン等が用いられる。また糸の太さおよび糸密度は、打設時の袋部2の強度および打設後のスラリーの余剰水を絞出できる範囲内で選定され、例えば、糸の太さは400〜3300デシテックス(dtex)の範囲、糸密度は経糸および緯糸ともに40〜7本/インチ(16〜27本/cm)の範囲内で選定される。
経糸と緯糸は、同じ素材、色であってもよいし、異なる素材、色であってもよい。なお、糸の強伸度は、経糸、緯糸ともにほぼ同じ特性を示す糸を使うのが好ましい。これは打設時に袋部2の伸び変形を略同一とするためである。一般には袋部2の織物強度は150kg/3cm巾を下限として織物設計、生産管理をすることにより打設施工現場での織物強度が得られる。
また、上層布3と下層布4からなる二層織物5を製織する際に、複数の一層織物7を所定の間隔で島状に形成することにより、複数のフィルター部6を形成してもよい。
【0022】
上層布3、下層布4およびフィルター部6は、電子ジャカード装置を内蔵したレピア織機、その他公知の織機、例えばドビー、タペット、機械的ジャカード、ジェット織機等により製織することができる。
なお、布製型枠1の内側にモルタル10を注入すると布製型枠1が幾分縮むので、この縮み分を考慮して布製型枠1(袋部2)の大きさを設計する。
【0023】
つぎに、このような本発明の布製型枠1を用いた、法面保護工法について説明する。
本発明の法面保護工法は、上述した布製型枠1を用いた法面保護工法であって、以下の工程:
(1)布製型枠1を、上層布3側を上側として法面20に敷設する工程、
(2)布製型枠1の袋部2の内側にモルタル(またはコンクリート)10を打設する工程、
(3)モルタル(またはコンクリート)10に含まれる余剰水量を、布製型枠1の布目を通じて脱水する工程、および
(4)モルタル(またはコンクリート)10に含まれる余剰水量を脱水した後、布製型枠1の表面を水洗いする工程、を有する。
以下、詳細に説明する。
【0024】
(1)布製型枠1を、上層布3側を上側として法面20に敷設する。
まず、法面20に、布製型枠1を、上層布3側を上側(表側)として敷設する(
図3参照)。
布製型枠1を法面20に敷設する前に、施工場所の法面20の成形を行うことが好ましい。法面成形は、主に、例えば土手の場合には、計画断面図に基づいて切土や盛土を行い、地盤の凹凸をなくし、木、草、根などを除去する。
また、保護すべき法面20がある程度以上大きい場合に、所定の大きさの布製型枠1のユニットを複数準備して施工場所へ運搬し、現地にて施工場所の形状等を確認しながら、布製型枠1のユニットを適宜組み合わせて、施工場所の法面20の大きさや形状に合わせて布製型枠1を形成してもよい。
位置合わせをしながら、例えば法面天端に懸垂支持用の単管パイプを打設し、この単管パイプに布製型枠1を通して懸垂させる等、所定の方法により法面上に布製型枠1を敷設し、固定する。
【0025】
(2)布製型枠1の袋部2の内側にモルタル(またはコンクリート)10を打設する。
敷設工程の後、上層布3と下層布4との間に、流動性のある(未固化状態の)モルタル10を注入する。その後、布製型枠1に注入したモルタル10が固化するまで現場を保全し、固化に必要な温度の管理や防水の管理などを行うことにより、該モルタル10を固化させる。
【0026】
(3)モルタル(またはコンクリート)10に含まれる余剰水量を、布製型枠1の布目を通じて脱水する。
モルタル10に含まれる余剰水は、固化の過程において布製型枠1の布目を通じて排出される。
このとき、本実施形態の布製型枠1では、上層布3と下層布4とで通気性ひいては透水性に差を設けることにより、上層布3からの脱水量が減少する。これにより上層布3からのモルタル成分の浸み出し(ノロ)の量が少なくなる。
【0027】
(4)モルタル(またはコンクリート)10に含まれる余剰水量を脱水した後、布製型枠1の表面を水洗いする。
モルタル10の水分が十分に抜けた後、保護構造体(マット)全体を水洗いする。上層布3からのモルタル成分の浸み出し(ノロ)の量が少なくなされているので、洗浄の手間を削減することができる。これにより施工時間やコストを低減することができる。またマットの厚みを均一とすることができる。
【0028】
さらに、布製型枠1がフィルター部6を有していると、水はけが良好となり、作業性が向上する。また、施工後のハツリ作業の必要性を低減することができ、作業の手間ひいては人件費を低減することができる。また施工後の保護構造体においても、法面からの雨水等を逃がす効果が十分に得られる。
このようにして
図3に示すような法面保護構造体が施工される。
【0029】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明はこれに限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【実施例】
【0030】
以下に示す実施例では、本発明の効果を確認するために、作製し、その透水性について評価した。
なお、以下の実施例において、通気度は、JIS L1096A(フラジール法)で、布製型枠の地部面を測定した(補強部除く)。
経糸/緯糸織物密度:デンシメーターで計測した(1インチあたりの本数)。
経方向カバーファクターは、(√経糸総繊度(dtex)×経糸織密度(本/2.54cm)緯方向カバーファクターは、(√緯糸総繊度(dtex)×緯織密度(本/2.54cm))で算出した。
【0031】
(実施例1)
織糸としては、糸繊度が1100dtex/192fの、ポリエステル製糸を用いた。
上層布を平織、下層布を斜子織とした袋織により、
図1に示すような、幅1m×長さ4mで、二重織部と一重織部を有する布製型枠を作製した。織密度(地糸のみ)は経糸26.6本/インチ、緯糸23.0本/インチとした。
【0032】
得られた布製型枠のカバーファクターは経糸で881、緯糸で763であった。またフラジール通気度は、上層布が6.6cm
3/cm
2・秒、下層布が37.9cm
3/cm
2・秒であり、その差は31.3cm
3/cm
2・秒であった。
【0033】
(実施例2)
織糸としては、糸繊度が1100dtex/192fの、ポリエステル製糸を用いた。
上層布を平織、下層布を平織と斜子織との混合織とした袋織により、幅1m×長さ4mで、二重織部と一重織部を有する布製型枠を作製した。織密度(地糸のみ)は経糸26.6本/インチ、緯糸23.0本/インチとした。
【0034】
得られた布製型枠のカバーファクターは経糸で881、緯糸で763であった。またフラジール通気度は、上層布が6.8cm
3/cm
2・秒、下層布が20.7cm
3/cm
2・秒であり、その差は13.9cm
3/cm
2・秒であった。
【0035】
(比較例1)
織糸としては、糸繊度が1100dtex/192fの、ポリエステル製糸を用いた。
上層布を平織、下層布を平織とした袋織により、幅1m×長さ4mで、二重織部と一重織部を有する布製型枠を作製した。織密度(地糸のみ)は経糸21.9本/インチ、緯糸20.6本/インチとした。
【0036】
得られた布製型枠のカバーファクターは経糸で726、緯糸で683であった。またフラジール通気度は、上層布が35.2cm
3/cm
2・秒、下層布が40.0cm
3/cm
2・秒であり、その差は4.8cm
3/cm
2・秒であった。
【0037】
以上のようにして作製された布製型枠を、上層布側を上側として、1割勾配の法面に設置した。
このとき、上層布および下層布からの脱水を集めるために、布製型枠の上層布および下層布のそれぞれにブルーシートを取り付けた。
図4に示すように、下面(裏)からの脱水を集めるために、集水溜め21を掘り込むとともに、法面20と布製型枠1(下層布4)との間にブルーシート22を敷いた。また、
図5に示すように、上面(表)からの脱水を集めるために、布製型枠1の上層布3の左右両辺および下辺の三方に、コの字型にブルーシート23をそれぞれ縫い付けた。
【0038】
1:2処方のモルタル(セメント600kg、砂1200kg、水360kg)を調製した。このモルタルの0.5m
3を、ポンプで布製型枠のモルタル注入口から注入して、保護構造体(マット)の上面(表)と側面および下面(裏)より排出されるモルタル余剰水量を測定した。
マットの下面(裏)から排出された余剰水量は、ブルーシート22を伝って集水溜め21に集められる。マットの上面(表)から排出された余剰水量は、ブルーシート23上に溜まる。これらの水を集めてその量を測定した。
【0039】
10分間放置し、マットからのモルタル余剰水の脱水が終了した後、マット表面に水をかけ流すことにより洗浄した。このとき、内径15mm程度の家庭用散水ホース ホース散水流量 推定13L/分(ネット記事ホース散水量200L/15分から算出)で洗浄し、マットの表面(上層布表面)に付着したノロが目視できれいに流し落とされるまでの時間を測定した。
下層布からの脱水量、上層布からの脱水量、および表布の状況と水洗い手間を比較した。その結果を表1にまとめて示す。
【0040】
【表1】
【0041】
実施例1では、上層布からの脱水量が非常に少なく、析出モルタルによる汚れ(ノロ汚れ)も少なかった。特に注入口直下の汚れが少なく水洗いも楽であり、マット洗いが2分間で終了した。実施例2も同様に、上層布からの脱水量が非常に少なく、ノロ汚れも少なかった。特に注入口直下の汚れが少なく実施例および比較例の中で最もきれいであった。水洗いも楽であり、マット洗いが2分間で終了した。
これに対し、上層布と下層布の通気度差が小さい比較例1では、モルタルこぼれがあり、マット洗いに30〜40分も要した。また、注入口直下のノロ汚れも顕著であった。
【0042】
脱水量計測から、実施例では、下層布からの脱水量が増えたのではなく、上層布の織密度を上げて通気性を低下させたことが、上層布(表)からの脱水量の低下およびノロ汚れの防止に寄与したものと考えられる。