(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照して本発明の一実施例について説明する。
図1は、実施例に係るインクジェット印刷システムの全体を示す概略構成図であり、
図2は、連続紙と各印刷ヘッドとの平面視における位置関係を示す模式図である。
【0032】
本実施例に係るインクジェット印刷システムは、給紙部1と、インクジェット印刷装置3と、排紙部5とを備えている。
【0033】
給紙部1は、ロール状の連続紙WPを水平軸周りに回転可能に保持し、インクジェット印刷装置3に対して連続紙WPを巻き出して供給する。排紙部5は、インクジェット印刷装置3で印刷された連続紙WPを水平軸周りに巻き取る。連続紙WPの供給側を上流とし、連続紙WPの排紙側を下流とすると、給紙部1はインクジェット印刷装置3の上流側に配置されており、排紙部5はインクジェット印刷装置の下流側に配置されている。
【0034】
インクジェット印刷装置3は、給紙部1からの連続紙WPを取り込むための駆動ローラ7を上流側に備えている。駆動ローラ7によって給紙部1から巻き出された連続紙WPは、複数個の搬送ローラ9に沿って下流の排紙部5に向かって搬送される。最下流の搬送ローラ9と排紙部5との間には、駆動ローラ11が配置されている。この駆動ローラ11は、搬送ローラ9上を搬送されている連続紙WPを排紙部5に向かって送り出す。
【0035】
なお、上述したインクジェット印刷装置3が本発明における「印刷装置」に相当し、連続紙WPが本発明における「印刷媒体」に相当する。
【0036】
インクジェット印刷装置3は、駆動ローラ7と駆動ローラ11との間に、印刷ユニット13と、乾燥部15と、検査部17とを上流側からその順に備えている。乾燥部15は、印刷ユニット13によって印刷された部分の乾燥を行う。検査部17は、連続紙WPの印刷された部分に汚れや抜け等がないかを検査したり、後述する検査用チャートを走査して検査用画像データを取得したりする。
【0037】
なお、上述した検査部17が本発明における「走査手段」に相当する。
【0038】
印刷ユニット13は、インク滴を吐出する複数個の印刷ヘッド19を備えている。本実施例では、印刷ヘッド19を4個備えている構成を例にとって説明する。ここでは、各印刷ヘッド19を、上流側から順に、印刷ヘッド19aと、印刷ヘッド19bと、印刷ヘッド19cと、印刷ヘッド19dとする。本明細書では、各印刷ヘッド19を区別する必要がある場合は、符号19に続いて符号(aなど)を付加するが、区別する必要がない場合には、符号19のみとする。各印刷ヘッド19は、それぞれインク滴を吐出する複数個のインクジェットノズル21を備えている。複数個のインクジェットノズル21は、連続紙WPの搬送方向と直交する方向に列をなして形成されている。これらの印刷ヘッド19a〜19dは、少なくとも2色のインク滴を吐出し、連続紙WPに多色印刷が可能に構成されている。ここでは、例えば、印刷ヘッド19aがブラック(K)インクを吐出し、印刷ヘッド19bがシアン(C)インクを吐出し、印刷ヘッド19cがマゼンタ(M)インクを吐出し、印刷ヘッド19dがイエロー(Y)インクを吐出する。各印刷ヘッド19a〜19dは、搬送方向に所定距離だけ互いに離間して配置されている。
【0039】
インクジェット印刷装置3は、図示しないCPUやメモリを備え、印刷制御部25と、検査用チャート記憶部27と、大ズレ量特定部28と、ズレ方向検出部29と、ズレ量検出用チャート特定部31と、総ズレ量算出部33と、補正部35とを構成している。
【0040】
印刷制御部25は、画像や文字などを含む印刷のための印刷データを図示しないホストコンピュータなどから受け取り、上述した駆動ローラ7などの各部を操作して連続紙WPに対して印刷データに基づく印刷を行う。また、印刷制御部25は、検査用チャート記憶部27に予め格納されている検査用チャート(詳細後述)を読み出し、上述した駆動ローラ7などの各部を操作して連続紙WPに対して検査用チャートを印刷したり、後述するズレ補正データによる補正を行いつつ印刷を行ったりする。
【0041】
なお、上述した印刷制御部25が本発明における「印刷制御手段」に相当する。
【0042】
検査用チャート37は、例えば、
図2に示すようなものである。この検査用チャート37は、最上流に配置されている印刷ヘッド19aを基準として、例えば、印刷ヘッド19dの見当ズレを補正するためのズレ量を検査するためのものである。具体的には、第1の検出用チャート39と、第2の検出用チャート41と、第3の検出用チャート43とを含む。なお、印刷ヘッド19b、19cとの見当ズレを補正するには、以下の検査用チャート37を印刷ヘッド19b,19cによって印刷させればよい。
【0043】
なお、上述した印刷ヘッド19aが本発明における「基準印刷ヘッド」に相当する。
【0044】
ここで
図3及び
図4を参照して、第1の検出用チャート39について説明する。なお、
図3は、第1の検出用チャートの例を示す模式図であり、
図4は、第1の検出用チャートがずれた状態を示す模式図である。
【0045】
第1の検出用チャート39は、上方向検出用チャート39aと下方向検出用チャート39bとを備えている。上方向検出用チャート39aは、印刷ヘッド19aによって印刷された搬送方向に直交する基準線分39Rと、印刷ヘッド19dによって印刷された移動線分39Mとから構成されている。ここでは、例えば、基準線分39Rと移動線分39Mとがそれぞれ三本印刷されているが、二本以上あれば適宜の本数でよい。基準線分39Rは、搬送方向に直交する方向に所定の長さを有し、搬送方向に所定の幅を有する。移動線分39Mは、基準線分39Rより搬送方向における幅が狭く、基準線分39Rの幅内で、かつ、上方向(上流側)に寄せて基準線分39Rに重ねて印刷されている。
【0046】
下方向検出用チャート39bは、上方向検出用チャート39aと同様に、印刷ヘッド19aによって印刷された搬送方向に直交する基準線分39Rと、印刷ヘッド19dによって印刷された移動線分39Mとから構成されている。但し、上方向検出用チャート39bとは、移動線分39Mが基準線分39Rの幅内で、かつ、下方向(下流側)に寄せて基準線分39Mに重ねて印刷されている点において相違する。
【0047】
例えば、基準である印刷ヘッド19aに対して、印刷ヘッド19dが早いタイミングで印刷を行ってしまった場合には、第1の検出用チャート39が
図4に示すようにずれて印刷されることになる。つまり、上方向検出用チャート39aは、その移動線分39Mが基準線分39Rの幅を超えて印刷される。一方、下方向検出用チャート39bは、その移動線分39Mが基準線分39Rの幅内での移動にとどまる。その結果、上方向検出用チャート39aが下方向検出用チャート39bよりも濃度が高くなるので、第1の検出用チャート39の濃度に基づいてズレ方向が上方向であると判断することができる。
【0048】
後述する第2の検出用チャート41は、ズレ量と濃度変化の周期性に起因してズレ量の方向が判断できない場合があるが、この第1の検出用チャート39によってズレの方向を的確に判断できる。
【0049】
次に、
図5及び
図6を参照して、第2の検出用チャート41について説明する。なお、
図5は、第2の検出用チャートを構成する一つのズレ量検出用チャートの例を示す模式図であり、
図6は、一つのズレ量検出用チャートの構成を示す模式図である。
【0050】
第2の検出用チャート41は、
図5に示すズレ量検出用チャート45を複数個印刷されてなる。ズレ量検出用チャート45は、例えば、
図6に示すように、基準である印刷ヘッド19aにより、搬送方向に直交する方向に一定間隔で離間して印刷された、例えば、19本のベースライン47と、印刷ヘッド19dにより、19本のベースライン47同士の中心に印刷された、例えば、30本のズレライン49とを備えている。また、30本のズレライン49は、中央のベースライン47から、搬送方向に印刷された両端部のベースライン47に向かうにつれて、中央のベースライン47側に隣接したベースライン47からの偏差を大きくしつつ印刷されている。したがって、ズレ量が0である場合には、
図5に示すように、第2の検出用チャート41の中央であるステージ0における連続紙WPの下地の露出が最も少ないので、第2の検出用チャート41のステージ0が濃度の最大値(最も濃度が高く、暗い)となる。そして、ズレ量が大きくなるにつれて、ズレライン49がベースライン47に対してずれてゆくので、予め設定されている偏差に応じて最も濃度が高い(暗い)ピーク位置が端部に向かって移動していくことになる。なお、ズレライン49は、上下のそれぞれに6本ずつベースライン47からはみ出しているが、逆にズレライン49からベースライン47を上下にはみ出させるようにしてもよい。このように一方のラインを他方のラインからはみ出させることにより、見当ズレが大きい場合に濃度が検出できなくなる不都合を回避できる。
【0051】
図5に示すように、第2の検出用チャート41のズレ量検出用チャート45は、例えば、二本のズレライン49が一組となり、一つのステージを構成する。つまり、二本のズレライン49ごとに上記の偏差を変えて印刷されている。第2の検出用チャート41の各ステージは、中央のステージ0を0μmとして、ステージ0からxμm(例えば、21μm)ごとのズレ量を表す。つまり、ステージ+1がxμm(例えば、21μm)のズレ量を表し、ステージ+2が2xμm(例えば、42μm)のズレ量を表し、ステージ+3が3xμm(例えば、63μm)のズレを表し、ステージ+4が4xμm(例えば、84μm)のズレ量を表す。同様に、ステージ−1が−xμm(例えば、−21μm)のズレ量を表し、ステージ−2が−2xμm(例えば、−42μm)のズレ量を表し、ステージ−3が−3xμm(例えば、−63μm)のズレを表し、ステージ−4が−4xμm(例えば、−84μm)のズレ量を表す。なお、各ステージが表すズレ量は、例えば、19本のベースライン47の搬送方向における幅及びベースライン47同士の間隔と、18本のズレライン49の搬送方向における幅及び偏差とに基づいて決定される。これらのズレ量と各ステージとの対応関係は検査用チャート記憶部27に予め記憶されており、必要に応じてズレ量検出用チャート特定部31や総ズレ量算出部33から参照される。
【0052】
ここで、
図7を参照する。なお、
図7は、第1〜第3の検出用チャートを含む検査用チャートの模式図である。
【0053】
上述したように第2の検出用チャート41が形成されているが、ズレ量がズレ量検出用チャート45により検出可能な最大ズレ量(4xμm)を越えた場合、ピーク位置がステージ+4に固定されてしまうので、一つのズレ量検出用チャート45では最大ズレ量を越えるズレ量を得ることができない。そこで、ズレ量の検出可能範囲を大きくするために、例えば、上述したズレ量検出用チャート45の他に4つのズレ量検出用チャート45を印刷して第2の検出用チャート41を構成する。ここでは、上記のズレ量検出用チャート45を符号45aで表し、他の4つをそれぞれ符号45b〜45eで表すことにする。
【0054】
ズレ量検出用チャート45b〜45eは、ズレ量検出用チャート45aにおけるズレライン49を搬送方向の一方側にそれぞれのシフト量でシフトしたものである。例えば、シフト量は、ズレ量検出用チャート45aで検出可能な最大ズレ量(4xμm)の整数倍である。具体的には、ズレ量検出用チャート45bが1×4xμm(例えば、84μm)であり、ズレ量検出用チャート45cが2×4xμm(例えば、168μm)であり、ズレ量検出用チャート45dが3×4xμm(例えば、252μm)であり、ズレ量検出用チャート45eが4×4xμm(例えば、336μm)である。これらのシフト量だけズレライン49をシフトさせて構成された5つのズレ量検出用チャート45a〜45eからなる第2の検出用チャート41は、それらの中でピーク位置が中央に最も近いズレ量検出用チャート45を特定し、次いでそのズレ量検出用チャート45におけるステージ対応するズレ量を特定することで、ズレ量を得ることができる。なお、これらの各ズレ量検出用チャート45a〜45eと各シフト量との対応関係は検査用チャート記憶部27に予め記憶されており、必要に応じてズレ量検出用チャート特定部31や総ズレ量算出部33から参照される。
【0055】
第3の検出用チャート43は、
図7に示すように、第2の検出用チャート45(45a)を搬送方向に拡大して印刷されている。但し、搬送方向に直交する方向おける印刷幅を少なくするため、ベースライン47とズレライン49の搬送方向に対して直交する長さは第2の検出用チャート41の長さよりも短く設定されている。なお、上記の拡大率は、例えば、16倍である。これにより、最大で、第2の検出用チャート45で検出可能な最大ズレ量(4xμm)の16倍(16×4xμm、例えば1344μm)のズレ量を得ることができる。なお、第3の検出用チャート43の各ステージと大ズレ量との対応関係は検査用チャート記憶部27に予め記憶されている。
【0056】
上記のように構成されている第3の検出用チャート43は、搬送方向に拡大されている関係上、濃度差が判別し難い。そこで、第3の検出用チャート43を二値化し、ベースライン47とズレライン49との間隔とその数を測定して、間隔の数が最も多く、その中でも最も均等に間隔が生じている箇所に基づいて第3の検出用チャート43におけるステージを特定するのが好ましい。間隔の数が最も多く、且つ最も間隔が均等であることは、連続紙WPの下地が見えている面積が最も少ないことを意味するので、濃度が高いピーク位置であると判断できるからである。
【0057】
ここで、
図8及び
図9を参照する。なお、
図8は、見当ズレがない状態を示し、(a)がズレ量検出用チャート、(b)が検出用画像データ、(c)が検出用画像データの階調値に関する分布を示す模式図であり、
図9は、見当ズレがある状態を示し、(a)がズレ量検出用チャート、(b)が検出用画像データ、(c)が検出用画像データの階調値に関する分布を示す模式図である。
【0058】
見当ズレが生じていない場合には、ズレライン49がベースライン47同士の中央に位置しているので、ズレ量検出用チャート45(
図8(a))を走査して得られた検出用画像データ(
図8(b))の階調値の分布(
図8(c))は、中央が階調値のピーク値となる。
【0059】
すなわち、ズレ量がゼロであるので、ズレライン49は、ズレ量検出用チャート45の中央部でベースライン47同士の間に収まる。したがって、連続紙WPの下地(ここでは白色とする)の露出が最も少なくなるので、下地部の露出が最も少なくなり、ズレ量検出用チャート45の中央部で濃度(階調値)がピークを示す。中央部から端部に向かってズレライン49がベースライン47と重なる面積が増えるので、下地部の露出がそれに応じて多くなり、階調値が端部に向かって低くなっていく。
【0060】
その一方、見当ズレが生じている場合には、見当ズレのズレ量に応じてズレライン49がベースライン47に対して移動し、収まる場所も搬送方向に移動する。したがって、ズレ量検出用チャート45(
図9(a))を走査して得られた検出用画像データ(
図9(b))の階調値の分布(
図9(c))における階調値のピーク値の位置がズレ量に応じて移動する。これらによりピーク値の位置を読み取ることにより、中央部からのズレ量を算出できることがわかる。
【0062】
大ズレ量特定部28は、検査部17で走査されて得られた検査用チャート37の検査用画像データを受け取る。そして、大ズレ量特定部28は、検査用画像データのうちの第3の検出用チャート43の部分に基づいて、大ズレ量を特定する。
【0063】
ズレ方向検出部29は、検査用画像データのうちの第1の検査用チャート39の部分に基づいて、記録位置のズレ方向を検出する。
【0064】
ズレ量検出用チャート特定部31は、検査用画像データのうち第2の検査用チャート41の部分に基づいて、まずピーク位置が5個のズレ量検出用チャート45a〜45eの中から中央に近いものを特定する。次いで、特定したズレ量検出用チャート45に対応するシフト量と、特定したズレ量検出用チャート45のピーク位置に対応するステージのズレ量とを特定する。
【0065】
総ズレ量算出部33は、大ズレ量特定部28が特定した大ズレ量と、ズレ量検出用チャート特定部31が特定したシフト量とズレ量とを加算して、総ズレ量を算出する。また、総ズレ量算出部33は、総ズレ量の正負に対応するズレ方向をズレ方向検出部29から得る。
【0066】
補正部35は、総ズレ量算出部33が算出した総ズレ量に基づいて、見当ズレを補正するためのズレ補正データを作成する。このズレ補正データは、印刷制御部25に与えられ、印刷データに基づく印刷の差異にズレ補正データを考慮した操作(例えば、各印刷ヘッド19a〜10dの印刷タイミングを調整)を行って見当ズレを抑制した印刷に利用される。
【0067】
なお、上述した大ズレ量特定部28が本発明における「大ズレ量特定手段」に相当し、ズレ方向検出部29が本発明における「ズレ方向検出手段」に相当し、ズレ量検出用チャート特定部31が本発明における「ズレ量検出用チャート特定手段」に相当し、総ズレ量算出部33が本発明における「総ズレ量算出手段」に相当する。また、補正部35と印刷制御部25とが本発明における「補正手段」に相当する。
【0068】
次に、
図10を参照する。なお、
図10は、ズレ量算出処理を示すフローチャートである。なお、このフローチャートは、総ズレ量を求めるまでの処理を示すものであり、補正については示していない。
【0069】
ステップS1(検査用チャート形成過程)
印刷制御部25は、検査用チャート記憶部27から検査用チャート37のデータを読み出して、各印刷ヘッド19a〜19d及び駆動ローラ7,11などを操作して連続紙WPに対して検査用チャート37を印刷させる。
【0070】
ステップS2(走査過程)
連続紙WPのうち、検査用チャート37が形成された領域が検査部17に移動した際に検査部17によって走査を行い、検査用チャート37から検査用画像データを取得する。
【0071】
ステップS3
大ズレ量特定部28は、検査用画像データのうちの第3の検出用チャート43に基づいて、大ズレ量を特定する。
【0072】
ステップS4(ズレ方向検出過程)
ズレ方向検出部29は、検査用画像データのうちの第2の検出用チャート41に基づいて、見当ズレが生じている方向を検出する。
【0073】
ステップS5(ズレ量検出用チャート特定過程)
ズレ量検出用チャート特定部31は、第2の検出用チャート41のうちの5個のズレ量検出用チャート45a〜45eに基づいて、シフト量とズレ量とを特定する。
【0074】
ステップS6(総ズレ量算出過程)
総ズレ量算出部33は、大ズレ量特定部28からの大ズレ量と、ズレ方向検出部29からのズレ方向と、ズレ量検出用チャート特定部31からのシフト量及びズレ量とに基づいて記録位置のズレ量を総ズレ量として算出する。例えば、第1の検出用チャート39によりズレ方向が上であり、第3の検出用チャート43によりステージ+1にピーク位置があると判断され、第2の検出用チャート41によりズレ量検出用チャート45dにおけるピーク位置が最も中央に近く、そのピーク位置がステージ+1であった場合には、総ズレ量は、例えば、336μm+252μm+21μm=609μmとなり、方向を加えて+609μmを得ることができる。
【0075】
本実施例によれば、印刷制御部25で印刷された検査用チャート37を検査部17で走査して検査用画像データを取得する。総ズレ量算出部33は、大ズレ量特定部28によって特定された大ズレ量と、ズレ方向検出部29によって検出されたズレ方向と、ズレ量検出用チャート特定部31で特定されたズレ量検出用チャート45に対応するシフト量と、ズレ量検出用チャート特定部31で特定されたズレ量検出用チャート45のピーク位置とに基づいて、見当ズレの方向を含む記録位置のズレ量を総ズレ量として算出する。したがって、検査用チャート37を連続紙WPに形成させるだけで、見当ズレの総ズレ量を算出できるので、搬送方向における見当ズレのズレ量を容易に短時間で得ることができる。
【0076】
また、検査用チャートの37のうち第2の検出用チャート41の5個のズレ量検出用チャート45a〜45eは、ズレ量検出用チャート45a〜45eの周期性に起因して、反対方向への見当ズレであってもズレ量検出用チャート45a〜45eのシフト量及びピーク位置が同じようになる場合があるが、第1の検出用チャート39でズレ方向を検出するので、反対方向への誤判断を防止できる。また、一つのズレ量検出用チャート45だけでは、検出可能なズレ量が小さいが、シフト量だけずらしたズレ量検出用チャート45a〜45eを第2の検出用チャート41が含むので、より大きなズレ量を算出できる。
【0077】
また、第3の検出用チャート43は、ズレ量検出用チャート45を搬送方向に拡大したものであるので、これのピーク位置が示す、ズレ量を搬送方向へ拡大した大ズレ量も合わせて総ズレ量算出部33が総ズレ量を算出する。したがって、第2の検出用チャート41だけでは検出できない大きなズレ量をも得ることができる。
【0078】
本発明は、上記実施形態に限られることはなく、下記のように変形実施することができる。
【0079】
(1)上述した実施例では、第2の検出用チャート41における一つのステージが二本のズレライン49で構成されているが、濃度の差異が検出できればよいので、本数は二本に限定されず、三本以上であってもよい。
【0080】
(2)上述した実施例では、第2の検出用チャート41の5つのズレ量検出用チャート45が搬送方向に沿って形成されているが、搬送方向に直交する方向に形成するようにしてもよい。
【0081】
(3)上述した実施例では、第3の検出用チャート43により大ズレ量を特定しているが、本発明はこの第3の検出用チャート43は必須ではない。つまり、見当ズレが比較的小さい場合には、第1の検出用チャート39と第2の検出用チャート41だけで検査用チャート37を構成するようにしてもよい。
【0082】
(4)上述した実施例では、第2の検出用チャート41を5個のズレ量検出用チャート45a〜45eで構成したが、本発明はこれに限定されない。例えば、見当ズレが比較的小さい場合には、第2の検出用チャート41を2個のズレ量検出用チャート45a、45bで構成するようにしてもよい。
【0083】
(5)上述した実施例では、印刷媒体として連続紙WPを例示したが、本発明はフィルムなどの他の印刷媒体であっても適用できる。
【0084】
(6)上述した実施例では、印刷装置としてインクジェット式を例示したが、本発明は他の方式の印刷装置であっても適用できる。
【0085】
(7)上述した実施例では、ズレ量検出用チャート45を
図5に示すように、ズレライン49をベースライン47同士の中心に印刷したが、本発明はこの形態に限定されない。例えば、
図11に示すように、ズレライン49をベースライン47の中心に印刷し、端部に向かうにしたがって、中央のベースライン47側に隣接したベースライン47からの偏差を大きくしつつ印刷するようにしてもよい。この場合には、ステージ0が濃度の最小値(最も濃度が低く、明るい)なる。そして、ズレ量が大きくなるにつれて、最も濃度が低い(明るい)ピーク位置が端部に向かって移動していくことになる。
【0086】
(8)上述した実施例では、印刷ヘッド19aを基準印刷ヘッドとし、その他の印刷ヘッド19b〜19dとの見当ズレを補正する例を挙げたが、本発明は印刷ヘッド19aが基準印刷ヘッドに限定されるものではない。例えば、印刷ヘッド19a以外を基準印刷ヘッドとしてもよい。
【0087】
(9)上述した実施例では、4個の印刷ヘッド19a〜19dにおける見当ズレを例にとって説明した。しかしながら、例えば、一つの印刷ヘッド19が複数個の印刷ヘッドで構成され、それらが搬送方向にて交互にずらされて配置された千鳥配置のような構成である場合には、一つの印刷ヘッド19内におけるいずれかの印刷ヘッド(以下、内部印刷ヘッドと称する)を基準印刷ヘッドとし、その他の内部印刷ヘッドとの見当ズレを補正するために検査用チャート37を形成させる場合であっても本発明を適用できる。
【0088】
(10)上述した実施例では、ズレ方向を検出するための第1の検出用チャート39と大ズレ量を検出するための第3の検出用チャート43とを個別に印刷しているが、これらを兼用するようにしてもよい。ここで、
図12を参照する。なお、
図12は、第1の検出用チャートと第3の検出用チャートとを合成して構成した兼用チャートの一例を示し、(a)が見当ズレのない状態及び階調値の分布を示し、(b)が見当ズレのある状態及び階調値の分布を示した模式図である。
【0089】
第1の検出用チャート39と第3の検出用チャート43とを合成して構成された兼用チャート61は、
図12(a)に示すように、第3の検出用チャート43における中央部のベースライン47同士の間の下地部をほぼ完全に埋めるように、隣接するベースライン47の中心にズレライン49を配置し、ベースライン47の両端部に向かうにつれて、ベースライン47同士の中心から兼用チャート61の中心側に偏差を増やしたものである。このように構成した兼用チャート61は、
図12(b)に示すように、ズレ量に応じてピーク位置がズレ方向に応じて移動するので、この兼用チャート61により第1の検出用チャート39と第3の検出用チャート43を兼ねることができ、連続紙WPの印刷領域を有効に活用できる。
【0090】
(11)上述した実施例では、ズレ量検出用チャート特定部31は、第2の検出用チャート41の走査画像データにおける階調値に基づいてステージを特定し、そのステージに対応するズレ量を求めた。また、大ズレ量特定部28は、第3の検出用チャート43の走査画像データにおける階調値に基づいてステージを特定し、そのステージに対応するズレ量を大ズレ量として求めた。しかしながら、本発明は、以下に示すようにして上記のズレ量を求めることが好ましい。以下、
図13及び
図14を参照して説明する。なお、
図13(a)は、ズレ量検出用チャートの走査画像データの模式図であり、
図13(b)は、走査画像データから求められた分散値の一例を示す模式図である。また、
図14は、二次関数の頂点を求めて、離散値の間の値を求めることの説明に供する図である。
【0091】
ここでは、第2の検査用チャート41のズレ量検出用チャート45を例にとって説明するが、第3の検出用チャート43でも同様である。例えば、第2の検査用チャート41のズレ量検出用チャート45から
図13(a)に示すような走査画像データが得られたとする。そして、走査画像データに対応する各ステージについて、ステージ内における階調値の分散値を算出する。このように、走査画像データのステージ内の階調値(濃度)またはステージ内における階調値の平均値ではなく、ステージ内における階調値の分散値を求めることにより、二乗で値に効いてくるので、ステージ間における値の差異を生じさせやすい。そのため、ズレ量検出用チャート45内におけるピーク位置が存在するステージを特定しやすく、かつ、以下のようにしてステージ間にピーク位置が存在する場合であっても、その位置を精度よく算出しやすくできる。
【0092】
ここでは、ズレ量検出用チャート45から算出された各ステージの分散値が例えば
図13(b)のようになったとする。上述した実施例における特定方法の場合には、ピーク位置に相当する分散値が最も小さいステージ0が特定されることになるが、実際には、ステージ0とステージ+1または、ステージ0とステージ−1との間に最小の分散値がある可能性がある。しかしながら、検査部17における解像度の関係で、ステージ間にピーク位置が存在したとしても、上述した実施例における特定の仕方ではステージ間のピーク位置を求められない。つまり、上述した実施例では、検査部17の解像度より高い解像度でズレ量を求めることはできない。換言すると、上述した実施例では、求められるズレ量の精度が検査部17の解像度に依存することになる。
【0093】
そこで、各分散値を、例えば、最小二乗法で二次式に近似して、ステージ間に存在する分散値の最小値であるピーク位置を2次関数の近似曲線から求める。なお、2次関数でなく4次関数などの偶関数であっても同様にピーク位置を求めることができるが、演算時の負荷等を考慮すると、2次関数が好ましい。
図14に示すように、2次の近似曲線では、yを分散値とし、xをステージ方向とすると、分散値yは、y=ax
2+bx+cで表されるので、ステージ方向におけるピーク位置は、x=−b/2aで求めることができる。
【0094】
図13(b)のステージ0〜ステージ±2の各分散値から、2次の近似曲線がy=160.77x
2+94.665x+200.35となったとすると、ピーク位置x=−94.665/2×160.77=−0.2944となる。したがって、一つのステージが84μmのズレ量に対応する場合には、ズレ量=−0.2944×84=−24.7μmとなり、約25μmのズレ量が求められる。上述した実施例では、ステージ0に対応するズレ量0μmとなるが、本手法によると約25μmと求められ、より細かくズレ量を求めることができる。