(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6653359
(24)【登録日】2020年1月29日
(45)【発行日】2020年2月26日
(54)【発明の名称】一方向クラッチユニット、及び、一方向クラッチをユニット化する方法
(51)【国際特許分類】
A01K 89/01 20060101AFI20200217BHJP
【FI】
A01K89/01 F
A01K89/01 A
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-141980(P2018-141980)
(22)【出願日】2018年7月30日
(62)【分割の表示】特願2014-239934(P2014-239934)の分割
【原出願日】2014年11月27日
(65)【公開番号】特開2018-186827(P2018-186827A)
(43)【公開日】2018年11月29日
【審査請求日】2018年7月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002495
【氏名又は名称】グローブライド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097559
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 浩司
(74)【代理人】
【識別番号】100123674
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 亮
(72)【発明者】
【氏名】東本 隆
【審査官】
竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】
特開2016−082918(JP,A)
【文献】
特開2012−019752(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 89/00 − 89/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動軸の逆回転を防止する一方向クラッチユニットであって、
円周壁と前記駆動軸を挿通させる開口を有する底壁とが一体化され、凹所を形成する枠体と、
前記円周壁の内面に固定される外輪と、
前記駆動軸と一体回転可能に配設される内輪と前記外輪との間に配設される複数の転がり部材と、
前記複数の転がり部材を保持する保持部材と、
前記枠体に取着され、前記凹所の開口側を閉塞すると共に、中心領域に円形の開口が形成されたカバー部材と、
前記カバー部材の円形の開口と同軸上に設けられ、リング状の磁石を保持したリング状の保持板と、
を有し、
前記リング状の保持板は、前記リング状の磁石を保持した状態で、固定ビスによって前記カバー部材に固定されていることを特徴とする一方向クラッチユニット。
【請求項2】
駆動軸の逆回転を防止する一方向クラッチユニットであって、
円周壁と前記駆動軸を挿通させる開口を有する底壁とが一体化され、凹所を形成する枠体と、
前記円周壁の内面に固定される外輪と、
前記駆動軸と一体回転可能に配設される内輪と前記外輪との間に配設される複数の転がり部材と、
前記複数の転がり部材を保持する保持部材と、
前記枠体に取着され、前記凹所の開口側を閉塞すると共に、中心領域に円形の開口が形成されたカバー部材と、
前記カバー部材の円形の開口と同軸上に設けられ、リング状の磁石を保持したリング状の保持板と、
を有し、
前記カバー部材と外輪との間にシール部材が介在されていることを特徴とする一方向クラッチユニット。
【請求項3】
駆動軸の逆回転を防止する一方向クラッチユニットであって、
円周壁と前記駆動軸を挿通させる開口を有する底壁とが一体化され、凹所を形成する枠体と、
前記円周壁の内面に固定される外輪と、
前記駆動軸と一体回転可能に配設される内輪と前記外輪との間に配設される複数の転がり部材と、
前記複数の転がり部材を保持する保持部材と、
前記枠体に取着され、前記凹所の開口側を閉塞すると共に、中心領域に円形の開口が形成されたカバー部材と、
前記カバー部材の円形の開口と同軸上に設けられ、リング状の磁石を保持したリング状の保持板と、
を有し、
前記保持板には、保持されるリング状の磁石よりも径方向外方に突出する突出部が形成されており、
前記突出部に固定ビスを取り付けることで、前記保持板をカバー部材に固定したことを特徴とする一方向クラッチユニット。
【請求項4】
駆動軸の逆回転を防止する一方向クラッチユニットであって、
円周壁と前記駆動軸を挿通させる開口を有する底壁とが一体化され、凹所を形成する枠体と、
前記円周壁の内面に固定される外輪と、
前記駆動軸と一体回転可能に配設される内輪と前記外輪との間に配設される複数の転がり部材と、
前記複数の転がり部材を保持する保持部材と、
前記枠体に取着され、前記凹所の開口側を閉塞すると共に、中心領域に円形の開口が形成されたカバー部材と、
前記カバー部材の円形の開口と同軸上に設けられ、リング状の磁石を保持したリング状の保持板と、
を有し、
前記カバー部材には、前記円形の開口の周辺領域に円形の凹所が形成されており、
前記円形の凹所に、前記リング状の磁石を保持した前記リング状の保持板が位置決め、固定されており、
前記カバー部材と外輪との間にシール部材が介在されていることを特徴とする一方向クラッチユニット。
【請求項5】
円周壁と、駆動軸を挿通させる開口を有する底壁とが一体化され、凹所を形成する枠体と、
前記円周壁の内面に固定される外輪と、
前記駆動軸と一体回転可能に配設される内輪と前記外輪との間に配設される複数の転がり部材と、
前記複数の転がり部材を保持する保持部材と、
を有する一方向クラッチであって、
前記枠体の凹所に、前記一方向クラッチを軸方向から挿入し、その後、リング状の磁石を挟持するように保持した磁性材で形成される内側保持板及び外側保持部材が配設されたカバー部材を前記凹所の開口を閉塞するように被着して磁気シール機構を有する一方向クラッチをユニット化する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は
、魚釣用リールに組み込み可能であり、回転駆動される駆動軸の逆回転を防止する逆転防止機構をシールするシール機構を備えた
一方向クラッチユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
通常、魚釣用リールは、ハンドルを回転操作することで、動力伝達機構を介して釣糸をスプールに巻回するよう構成されている。動力伝達機構には、ハンドルの回転操作に伴って回転駆動される駆動軸が設けられており、一般的に駆動軸は、リール本体に設けたボールベアリング(軸受)を介して回転自在に支持されている。このような駆動軸は、魚釣用リール内において、複数個所に配設されており、それら駆動軸の中には、その駆動軸の正回転(釣糸巻き取り方向の回転)を許容し、逆回転を防止する逆転防止機構が設けられるものがある。このような逆転防止機構は、例えば、特許文献1に開示されているように、リール本体の前部に凹部を形成し、その内部にローラ式の一方向クラッチを収容したものが知られている。
【0003】
ところで、魚釣用リールを実際の釣場で使用する際には、リール本体に海水、砂、異物等が付着し易いという特有の問題があり、これらは、リール本体外部の隙間を介して内部に侵入し、一方向クラッチ内にも侵入してしまう。そこで、前記特許文献1には、凹部の内面に、外周に合成樹脂弾性体製のシール部(弾性シール)を備えたカバー部材を圧入し、カバー部材を抜け止めしてガタ規制と防水を図る構成が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、一方向クラッチをケースに収容するとともにケース開口にカバー部材を圧入してユニット化し、このようなユニット化した一方向クラッチをリール本体の前部にネジで固定した構成が開示されている。さらに、特許文献3には、一方向クラッチをリール本体の前部に形成された凹部に収容し、凹部の開口部とピニオンとの間に磁気回路を形成して磁性流体を保持した磁気シール機構で一方向クラッチをシールする構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3981219号
【特許文献2】特許第3339532号
【特許文献3】特許第5249076号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記した特許文献1に開示されている構成では、部品寸法のバラツキの影響により、カバー部材に設けられた弾性シールのリップ部と駆動軸(ピニオン)との間の同芯度を高精度に得られないので、ピニオンに対する摩擦接触圧が一定にならず、防水性能が安定しないとともに、リップ部の摩耗により防水性能が低下する。また、本体の前部に形成された筒部内に摩擦接触するカバー部材で一方向クラッチの前方へのガタつきの規制も行う構成のため、更に防水性能が低下する。
【0007】
上記した特許文献2に開示されている構成では、ケースとカバー部材との間に収容される一方向クラッチを構成する部材を軸方向から組み付けるようにしているため、組み立ての容易性が図れるとともに、ユニット化することによって組み立て時の取り扱いも便利になるが、リールとして重要な機能を果たす一方向クラッチをシールして逆転防止機能の安定化を図ることはできない。
【0008】
上記した特許文献3に開示されている構成では、磁気シール機構によってシール機能が安定し、かつ、駆動軸の回転も滑らかになるが、一方向クラッチを収容するリール本体の前部の開口部に磁石を保持する保持板を取着、又は、開口部に固定したカバー部材に磁石(保持板)を支持する構成のため、一方向クラッチと磁気シール機構の組み込みが別工程で部品の取り扱いも面倒となり、組み込み作業が複雑化する。また、一方向クラッチと磁気シール機構は、組み込みが別の構成であるため、動力伝達機構内部のメンテナンス性も劣ってしまう。
【0009】
本発明は、上記した問題に着目してなされたものであり、駆動軸の逆回転を防止する一方向クラッチに対するシール効果を確実に維持し、組み込み性及びメンテナンス性が容易な磁気シール機構を備えた
一方向クラッチユニット、一方向クラッチをユニット化する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した目的を達成するために、本発明
は、駆動軸の逆回転を防止する一方向クラッチユニットであって、円周壁と前記駆動軸を挿通させる開口を有する底壁とが一体化され、凹所を形成する枠体と、前記円周壁の内面に固定される外輪と、前記駆動軸と一体回転可能に配設される内輪と前記外輪との間に配設される複数の転がり部材と、前記複数の転がり部材を保持する保持部材と、前記枠体に取着され、前記凹所の開口側を閉塞すると共に、中心領域に円形の開口が形成されたカバー部材と、前記カバー部材の円形の開口と同軸上に設けられ、リング状の磁石を保持したリング状の保持板と、を有することを特徴とする。
【0011】
上記した構成によれば、駆動軸に配設される一方向クラッチは、外輪、及び、複数の転がり部材を保持した保持部材を枠体内に収容し、枠体の凹所の開口側を閉塞するカバー部材に磁気シール機構を設けてユニット化しているため、部品としての取り扱い性が向上し、魚釣用リールへの組み込みが容易に行える。すなわち、一方向クラッチをリール本体に組み込む際、磁気シール機構が一体化されているため、取り扱い性の向上が図れるとともに、メンテナンス性も向上する。また、カバー部材には、内輪との間に隙間を生じさせて内輪との間で磁性流体によるシール膜を形成する磁気シール機構が設けられているため、ゴム等のシール部材とは異なって摩耗等することはなく、一方向クラッチの内部に対するシール性能が長期に亘って維持される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、駆動軸の逆回転を防止する一方向クラッチに対するシール効果を確実に維持し、組み込み性及びメンテナンス性が容易な磁気シール機構を備えた
一方向クラッチユニットが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る
一方向クラッチユニットが組み込まれる魚釣用リールの一実施形態(スピニングリール)を示す図。
【
図2】
図1に示すスピニングリールのロータとスプールを取り外した状態を示す分解斜視図。
【
図3】
図1に示すスピニングリールに組み込まれる一方向クラッチ部分を示す断面図。
【
図5】ユニット化される一方向クラッチをシールする磁気シール機構の第1の変形例を示す図。
【
図6】ユニット化される一方向クラッチをシールする磁気シール機構の第2の変形例を示す図。
【
図7】ユニット化される一方向クラッチをシールする磁気シール機構の第3の変形例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら本発明に係る
一方向クラッチユニット及びそのような一方向クラッチユニットが組み込まれる魚釣用リールの実施形態について説明する。
図1から
図3は、本発明に係る
一方向クラッチユニットが組み込まれる魚釣用リールの一実施形態(スピニングリール)を示す図であり、
図1は、全体構成を示す図、
図2は、
図1に示すスピニングリールのロータとスプールを取り外した状態を示す分解斜視図、そして、
図3は、
図1に示すスピニングリールに組み込まれる一方向クラッチ部分を示す断面図である。
【0015】
スピニングリール1のリール本体2には、巻き取り操作されるハンドル3が装着されており、ハンドル3を回転操作することで、リール本体内に配設された動力伝達機構を介してスプール10に釣糸が巻回されるようになっている。
【0016】
前記動力伝達機構は、公知のように、前記ハンドル3を装着しリール本体との間で軸受を介して回転可能に支持されたハンドル軸と、ハンドル軸に取り付けられた駆動歯車(ドライブギヤ)と、前記ハンドル軸に対して直交する方向に延出し、軸受4を介して回転可能に支持されて前記駆動歯車と噛合する歯部を備えたピニオン(駆動軸)5とを備えている。
【0017】
前記ピニオン5の先端部には、雄螺子部5aにロータナット7を螺合することで、ベール9aおよび釣糸案内装置9bを備えたロータ9が一体回転するように取り付けられている。また、前記ピニオン5は、軸方向に沿って貫通しており、その内部には、先端に釣糸が巻回されるスプール10を保持したスプール軸11が挿通されている。このスプール軸11の基端側には、公知のオシレーティング機構が連結されており、前記ハンドル軸がハンドル3の回転操作によって回転されると、上記した動力伝達機構を介してスプール軸11は軸方向に沿って往復駆動されるとともに、ロータ9は回転駆動され、これにより、釣糸は前記釣糸案内装置9bを介して前後動するスプール10に均等に巻回される。
【0018】
また、前記ピニオン5には、逆転防止機構を構成する一方向クラッチ20が配設されている。この一方向クラッチ20は、ハンドル3の釣糸巻き取り方向の回転(ピニオン5の正回転)を許容し、かつ、釣糸繰り出し方向の回転(ピニオン5の逆回転)を防止する機能を備えており、リール本体2に対する組み付けが容易となるように、ユニット化された構成となっている。すなわち、
図2に示すように、リール本体2からスプール軸11を挿通したピニオン5が突出した状態で、容易に組み込み作業ができるように、後述する磁気シール機構50と共に主要な構成要素がユニット化されている。
【0019】
本実施形態の一方向クラッチ20は、断面円形の凹所21aが形成された枠体21と、前記凹所21aを形成する円周壁21bの内面に固定される外輪23と、ピニオン5と一体回転可能に配設される内輪25と、内輪25と外輪23との間に配設され、公知のように、内輪25と外輪23との間のフリー回転領域と楔領域とで切り換えられる複数の転がり部材27と、複数の転がり部材27を保持する保持部材29と、を有している。
【0020】
前記枠体21は、円周壁21bと一体化された底壁21cを備えており、底壁21cの中央部分には、前記ピニオン5を挿通させる孔(開口)21dが形成されている。この底壁21cは、リール本体2の前端面との間で、例えば凹凸係合して位置決めされるようになっており、固定ビス70によって、枠体21は、リール本体2の前端面に固定される。なお、固定ビス70の個数、配設位置は限定されることはないが、本実施形態では、後述するように、180°間隔で2か所設けられている。また、枠体21をリール本体2に固定すると、前記底壁21cは、軸受4の外輪に当て付いて軸受4を抜け止めする機能を有している。
【0021】
前記円周壁21bの内面には、所定間隔をおいて凹部21b´が形成されており、この凹部21b´に、外輪23に径方向に突出するように所定間隔おいて形成された突起23aが嵌合することで、外輪23は、円周壁21bの内面に回り止め固定される。この外輪23の内周面側には、公知のように、周方向に沿って、転がり部材27がフリーに回転できるフリー回転領域と、転がり部材の回転を阻止する楔領域が周方向に沿って連続的に形成されている。そして、前記複数の転がり部材27は、保持部材29によって、内外輪の間で保持された状態となっており、保持部材29と各転がり部材27との間には、付勢バネ29aが配設されて、転がり部材27を常時、楔領域に付勢している。
【0022】
前記内輪25は、ピニオン5に対して一体回転可能に配設されている。すなわち、ピニオン5は、
図2に示すように、外周面が断面非円形状に形成されており、この部分に内輪25が嵌合することで、内輪25はピニオン5と共に一体回転可能となっている。なお、内輪25については、一方向クラッチ20を構成する構成要素となるが、枠体21と共にユニット化されていなくても良い。すなわち、ピニオン5に対して内輪25を嵌合させた後、ユニット化されている枠体21をリール本体2に固定するか、又は、ユニット化されている枠体21をリール本体2に固定した後、ピニオン5に対して内輪25を嵌合させることで、一方向クラッチ20は駆動軸であるピニオン5に配設された状態となる。
【0023】
前記内輪25は、枠体21の軸方向の長さよりも長く形成されており、
図3に示すように、内輪25をピニオン5に嵌合すると、その後端部が前記軸受4の内輪に当て付いて位置決めされ、この状態で前端側が転がり部材27からスプール側に突出する(この突出部分には、後述するように磁気シール機構50が配設される)。また、内輪25の前端側には、凹所25aが形成されており、ここにロータ9の軸部突起9dが嵌合して、ロータ9と内輪25は一体化され、前記ロータナット7を螺合することで、ロータ9はピニオン5に回り止め固定される。なお、内輪25と嵌合されるロータ9の軸部突起9dとの間には、シール部材30が配設される。
【0024】
前記保持部材29と枠体21の底壁21cとの間には、保持部材29と一体化される切換板31が介在される。すなわち、保持部材29は、枠体21内で、切換板31と共に周方向に所定角度回動可能となっており、切換板31には、底壁21cに形成された開口21fを介して操作部材35の操作片35aが係合している。前記操作部材35は、
図1に示すように、リール本体2から外部に露出しており、この部分を回動操作することにより、操作片35aが切換板31を回動させ、これに伴い保持部材29は回動される。
【0025】
前記操作部材35は、転がり部材27が、フリー回転領域に保持される位置と、楔領域に保持される位置となるように保持部材29を回動させる。すなわち、転がり部材27がフリー回転領域に保持されると、ピニオン5は正回転/逆回転が可能な状態となり、転がり部材27が楔領域に保持されると、正回転のみが許容され逆回転ができない状態となる。なお、一方向クラッチについては、上記したような切換操作をすることなく、常時、ピニオン(駆動軸)5が正回転のみできるように構成されたものであっても良い。
【0026】
前記枠体21には、凹所21aの開口側を閉塞すると共に、前記内輪25との間に隙間を生じさせて内輪との間で磁性流体によるシール膜を形成する磁気シール機構50が設けられたカバー部材40が取着される。このカバー部材40は、枠体21に対して、接着、螺合結合、ビス等によって固定することが可能である。なお、カバー部材40と前記外輪23との間にシール部材41を介在しておいても良く、これにより、カバー部材と枠体との間の隙間から内部へ水分や異物等が侵入することを阻止できるとともに、軸方向のガタつきを吸収することが可能となる。
【0027】
前記カバー部材40には、その中心領域に円形の開口40aが形成されており、この開口40aの部分に前記内輪25の前端側が位置するようになっている。すなわち、この開口部分に磁気シール機構50によるシール膜を形成することで、外部から内輪25の表面に沿って水分や異物等が侵入することを阻止し、一方向クラッチ内を確実にシールするようにしている。
【0028】
前記カバー部材40に設けられる磁気シール機構50は、内輪25の外周表面との間で隙間を設けて磁気回路を形成し、この隙間部分に磁性流体を保持する機能を有する。このため、内輪25は磁性材で構成されるか、或いは、非磁性材で構成して表面に磁性カラーを被着して構成される。また、内輪25を外嵌させるピニオン5については、磁性材で構成しても良いが、銅合金、アルミ合金等の非磁性材で構成することが可能である。
【0029】
本実施形態の磁気シール機構50は、内輪25に対して所定間隔をおいて配置される磁石51と、磁石51を挟持して保持する一対の磁性材で形成される保持板(極板)52,53と、を備えており、磁石51、保持板(内側保持板52,外側保持板53)、及び内輪25によって形成される磁気回路に磁性流体Sを保持して、一方向クラッチの内部をシールしている。この場合、磁石51、及び保持板52,53は、内輪25の外周面から所定の隙間を有するようにリング状に形成されており、各保持板52,53と内輪25との間の隙間(
図2の円形開口50aに挿通される内輪25の円周表面との間の隙間)に磁性流体を全周に亘って保持することを可能としている。
【0030】
すなわち、前記磁性流体Sは、例えばFe
3O
4のような磁性微粒子を、界面活性剤でベースオイルに分散させて構成されたものであり、粘性があって磁石を近づけると反応する特性を備えている。このため、磁性流体は、リング状の磁石51、これを挟持保持する保持板52,53、および、磁性材料で構成される内輪25によって形成される磁気回路によって、各保持板52,53と内輪25との間の隙間に、全周に亘って安定して保持され、一方向クラッチ20をシールする。なお、保持板52,53と磁石51との間に隙間が生じる場合、その隙間にスペーサ55を介在しておいても良い。
【0031】
また、本実施形態の磁気シール機構は、カバー部材40の開口40aの周辺領域に、円形の凹所を形成しておき、その凹所内にリング状の磁石51を保持した内側保持板52を圧入することで、リング状の磁石51及び内側保持板52を位置決め、固定するようにしている。この場合、外側保持板53は、リング状の磁石51に対応してリング状に形成されているが、本実施形態の外側保持板53は、保持されるリング状の磁石51よりも径方向外方に突出する突出部53aが形成されている。前記突出部53aは、180°間隔で一対形成されており、カバー部材40の上面に形成した突出部53aと同形の凹部40aに回り止め嵌合され、この突出部53aに固定ビス70を取り付けることで、リング状の磁石51に干渉することなく、外側保持板53をカバー部材40に対して容易に固定できるようにしている。
【0032】
したがって、枠体21の凹所21a内に、前記切換板31と共に転がり部材27を保持した保持部材29及び外輪23を軸方向から挿入し、さらに、シール部材41を介在して、内側保持板52と磁石51を配設したカバー部材40を凹所21aの開口を閉塞するように被着し、その上から外側保持板53を配設して固定ビス70を螺合することで、磁気シール機構50を有する一方向クラッチ20をユニット化することができる。
【0033】
すなわち、ユニット化された一方向クラッチ20は、
図2に示すように、スプール側から、スプール軸11が突出しているピニオン5を挿通させてリール本体2に取り付けられ、ユニット化された一方向クラッチ20の円形開口50aの部分に内輪25を嵌合し、内輪25の外周に生じている隙間に磁性流体を充填することで、容易に組み付けることができ、更には、磁気シール機構50と一体的に一方向クラッチを取り外すことができることから、部品としての取り扱い性が向上する(組み込み性、メンテナンス性が向上する)。また、ユニットを構成する枠体21は、カバー部材40によって凹所21aの開口側が閉塞された状態にあり、そのカバー部材40には、内輪25との間に隙間を生じさせて内輪表面との間で、磁性流体によるシール膜を形成する磁気シール機構50が設けられているため、一方向クラッチの内部に対するシール性能が長期に亘って安定する。
【0034】
上記した構成では、外側保持板の突出部53aに螺合される固定ビス70によって、更に、枠体21をリール本体2に固定するようにしても良い。このような構成によれば、固定ビス70を螺合するだけで、磁気シール機構を有する一方向クラッチ(ユニット化された一方向クラッチ)をリール本体2に組み付けることができるとともに、固定ビス70を取り外すことで、磁気シール機構50、及び、一方向クラッチ20をそれぞれ取り外すことができ、組み込み性及びメンテナンス性の向上が図れるようになる。
【0035】
なお、固定ビス70については、
図5に示すように、単に外側保持板53をカバー部材40に固定するだけであっても良い。すなわち、カバー部材40は、固定ビス70とは別の固定ビス70aによってリール本体2に固定するようにしても良い。このような構成によれば、枠体21及びカバー部材40をリール本体2に固定したままの状態でカバー部材40から磁気シール機構50のみを取り外すことができるため、磁気シール機構のメンテナンス性の向上が図れるようになる。
【0036】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上述した実施形態に限定されることはなく、種々変形して実施することが可能である。
【0037】
例えば、上述した構成の磁気シール機構50は、磁石51を一対の保持板52,53で挟持し、外側保持板53に突出部53aを形成して、突出部53aに固定ビス70を螺合するようにしたが、
図6に示すように、突出部を形成することなく、保持板52,53を同様な形状で構成しても良い。この場合、カバー部材40は、固定ビス70aによって枠体21に取着され、更には、固定ビス70aを利用して枠体21をリール本体2に固定しても良い。また、磁気シール機構50の構成については、適宜変形することができ、上記したように、内輪25との間で磁性流体Sが保持できれば、例えば、
図7に示すように、保持板は外側のみに配設しても良い。さらに、リング状の磁石51を保持する保持板の形状や、カバー部材40に対する設置態様等については適宜変形することが可能である。
【0038】
また、上記したユニット化された一方向クラッチについては、スピニングリールに限らず、両軸受け型リールのハンドル軸部分に配設する等、各種の魚釣用リールに適用することが可能である。
【符号の説明】
【0039】
1 スピニングリール(魚釣用リール)
2 リール本体
3 ハンドル
5 ピニオン(駆動軸)
10 スプール
20 一方向クラッチ
21 枠体
40 カバー部材
50 磁気シール機構
51 磁石