(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6653412
(24)【登録日】2020年1月30日
(45)【発行日】2020年2月26日
(54)【発明の名称】播種機の粉粒体繰出装置
(51)【国際特許分類】
A01C 7/12 20060101AFI20200217BHJP
【FI】
A01C7/12 B
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-69805(P2016-69805)
(22)【出願日】2016年3月30日
(65)【公開番号】特開2017-176064(P2017-176064A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2019年2月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】597041747
【氏名又は名称】アグリテクノ矢崎株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】特許業務法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】有吉 映明
(72)【発明者】
【氏名】島本 講平
【審査官】
田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】
特開平02−211804(JP,A)
【文献】
特開2013−128471(JP,A)
【文献】
実開昭56−175012(JP,U)
【文献】
特開2015−128386(JP,A)
【文献】
特開2006−025692(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2015/0134210(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01C 7/00− 7/20
A01C 15/00−23/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホッパー内の粉粒体を繰出部から一定量ずつ繰り出して落下させる播種機の粉粒体繰出装置において、
前記繰出部を進行方向に対して、同一直線上に、前後に配置し、
前後の繰出部から同一の粉粒体を、同一の条の上に、交互に繰り出すように構成し、
前記前後に配置した繰出部は、同一の動力取出輪の回転力が中途で分岐されて駆動するように構成され、
前記動力取出輪からの動力は、前記動力取出輪の駆動軸と減速軸との間に巻回される減速チェーン、および前記減速チェーンから分岐軸の間に巻回される駆動チェーンを介して、前記前後に配置した繰出部に分岐して伝達される
ことを特徴とする播種機の粉粒体繰出装置。
【請求項2】
請求項1記載の播種機の粉粒体繰出装置において、前記前後に配置した繰出部の繰出ロールの粉粒体嵌入溝の位置が相互にずらせた位置である
ことを特徴とする播種機の粉粒体繰出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種子や肥料等の粉粒体を圃場に落下させて播種や施肥の作業を行う場合に、粉粒体を一定量ずつ繰り出す播種機の粉粒体繰出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、種子や肥料等の粉粒体を一定量ずつ繰り出して落下させる播種機の粉粒体繰出装置は、例えば、特許文献1のように公知とされているのである。特許文献1においては、種子用の繰出装置と、肥料用の繰出装置とを前後に配置して、種子と肥料とがそれぞれ繰り出され、播種作業と施肥作業を行う技術が開示されている。
【0003】
種子や肥料等の粉粒体を圃場面に播種、施肥する場合、大きく分けると、散播、条播、点播の三つのパターンに分類される。最近では、種子や肥料の価格高騰、栽培メリット等の点から、点播が求められることが多くなっている。この点播作業を精度良く行う場合には、目皿式の繰出装置が使用されることが多く、これは、ロール式の繰出装置ではその形状から精度良く点播作業を行うことが難しいからである。
【0004】
また、近年、播種作業、施肥作業の高速化が求められるようになり、ロール式の繰出装置での点播作業は更に難しくなってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−11746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ロール式の繰出装置で高速の点播作業を行うには、ロールの回転数が問題となるのである。例えば、種子を高速で点播する場合、ロール式の繰出装置では、ロールの円周上に設けられた溝に種子を充填することから、ロールの回転数が速くなると、十分にロールの溝に種子が入らないまま、ロールが回転して繰り出し作業が行われ、播種精度のバラつきが発生することとなるのである。
【0007】
また、ロールが180°回転して下方へ至ったときにも、ロールの溝の種子が繰り出される際に、ロールの回転速度が速くなると、種子の落下に少しでもバラつきが発生した場合、圃場面に落下したときに、大きなバラつきが発生する等の影響を与えるのである。
【0008】
このような不具合を解消するために、本発明は、種子や肥料等の粉粒体を一定量ずつ繰り出して落下させる粉粒体繰出装置において、一つのロールの回転速度を速くするのではなくて、前後にふたつロールを配置して、高速作業が行えるようにしようとするものである。すなわち、本発明は、繰出部の回転速度を速くしなくても高速作業を行うことができる播種機の粉粒体繰出装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0010】
請求項1においては、ホッパー内の粉粒体を繰出部から一定量ずつ繰り出して落下させる播種機の粉粒体繰出装置において、前記繰出部を進行方向に対して、同一直線上に、前後に配置し、前後の繰出部から同一の粉粒体を、同一の条の上に、交互に繰り出すように構成し
、前記前後に配置した繰出部は、同一の動力取出輪の回転力が中途で分岐されて駆動するように構成され、前記動力取出輪からの動力は、前記動力取出輪の駆動軸と減速軸との間に巻回される減速チェーン、および前記減速チェーンから分岐軸の間に巻回される駆動チェーンを介して、前記前後に配置した繰出部に分岐して伝達されるものである。
【0011】
請求項2においては
、前記前後に配置した繰出部の繰出ロールの粉粒体嵌入溝の位置が相互にずらせた位置であるものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、前後の繰出部から粉粒体を繰り出すことが可能となり、各々の繰出間隔即ち回転数が繰出部がひとつの場合に比べて、半分の繰り出しで十分となるのである。
【0013】
これにより、例えば、種子の播種作業を高速で行う必要がある場合に、低速時の回転数で、同じ精度で、高速作業を達成することが可能となったのである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第一実施例の播種機のロール式繰出装置の側面図。
【
図2】第二実施例の播種機のロール式繰出装置の側面図。
【
図3】播種機のロール式繰出装置の動力伝達機構を示す平面図。
【
図5】播種機のロール式繰出装置による播種後の圃場面を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の播種機の粉粒体繰出装置について、
図1、
図2に示す播種機のロール式繰出装置を用いて説明する。本実施例においては、粉粒体である種子を播種する播種機のロール式繰出装置であるが、粉粒体である肥料を施肥する施肥機のロール式繰出装置でもよい。また、
図1の第一実施例においては、種子ホッパー1が前部種子ホッパー1Fと後部種子ホッパー1Rと、前後の二つに分割して配置された構造であり、
図2の第二実施例においては、前部種子ホッパーと後部種子ホッパーが一体化されて内部が連通した一体型種子ホッパー10の構造である。
【0016】
図1において、前部種子ホッパー1Fの下方には、繰出部である前部繰出装置2Fが連設されており、後部種子ホッパー1Rの下方には、繰出部である後部繰出装置2Rが連設されている。前記前部繰出装置2Fから繰り出される種子と、後部繰出装置2Rから繰り出される種子は、同一の種子であることが前提条件であるから、前部種子ホッパー1Fと後部種子ホッパー1Rの内容物は同じ種子となるのであり、
図1の第一実施例のように、ホッパーを別体としても、
図2の第二実施例のように、ホッパーを一体的にしてもよいものである。
【0017】
図1、
図2に示すロール式繰出装置は、トラクタ等の農用牽引作業車の作業機装着フレームにロール式繰出装置の側の取付具3を外嵌して固定することにより、取り付けられるのである。そして、トラクタ等の農用牽引作業車が圃場面を走行することにより、ロール式繰出装置の後部に支持されている駆動力取出輪5が圃場面との間の摩擦力で強制回転されるのである。
【0018】
従来のロール式繰出装置の場合、点播で密植を行うときには、ロール式繰出装置のロールの回転数を1.5倍又は2倍の回転数とすることにより、密植を行うことができる。しかし、このようにロールの回転数を上げて密植を行う場合には、駆動力取出輪5の回転数を速くするか、駆動力取出輪5から繰出装置までの間に増速機構を設けるか、等の工夫が求められるのである。
【0019】
このように、従来のロール式繰出装置のロールの回転数を2倍等に増速すると、種子とロールの種子嵌入溝との関係からして、十分に種子が繰出されないようになるのである。これまでのロールの回転数と、種子の形状と、ロールの種子嵌入溝との関係は、現状の関係では、十分な播種が可能であるが、ロールの回転数を上げるという操作のみを行うと、ロールの種子嵌入溝に、種子が十分に嵌入できる余裕がなくなり、また一旦、種子嵌入溝に嵌入した種子が、ロールの下方に落下する際に、十分に落下する間の時間が確保できないという不具合が発生していたのである。
【0020】
このような、従来のロール式繰出装置を用いて密植する場合の不具合を解消し、かつ、求められるように密植ができるように、本発明は構成したものである。すなわち、従来のロール式繰出装置の性能(播種精度)を確保したままで、更に1.5倍、2倍の密植ができるように、同じ構造のロール式繰出装置を前後にふたつ配置して、従来と同じ回転数で播種位置が交互になるように構成したものである。
【0021】
図4に示すように、ロール式繰出装置において、前部繰出装置2Fの前部繰出ロール12Fにおける種子嵌入溝13Fが、後部繰出装置2Rの後部繰出ロール12Rの種子嵌入溝13Rに対して、角度をずらして配置されている。これにより、前記前部繰出ロール12Fの種子嵌入溝13Fと、前記後部繰出ロール12Rの種子嵌入溝13Rとが、交互に圃場面に向けて開口されることとなり、同じ条の上に、前後ふたつの繰出装置からの種子が交互に落下されることとなるのである。
【0022】
このための動力伝達機構としては、駆動力取出輪5から前部繰出装置2Fと後部繰出装置2Rに至るまでの間に、動力伝達チェーンケース6と、前部伝達チェーンケース7と、後部伝達チェーンケース8とを配置し、動力伝達チェーンケース6から途中で前部伝達チェーンケース7と後部伝達チェーンケース8とに分岐させ、この分岐部において、前部繰出装置2Fと後部繰出装置2Rとの、繰出ロール12の種子嵌入溝13の移送が交互にずれるように構成したものである。
【0023】
前記駆動力取出輪5からの動力は、動力伝達チェーンケース6に伝達されて、動力伝達チェーンケース6内のスプロケット、チェーンを介して、前部伝達チェーンケース7と後部伝達チェーンケース8に伝達され、前部繰出装置2Fの駆動軸9Fと、後部繰出装置2Rの駆動軸9Rに動力が分岐されるのであるが、この分岐部のスプロケットとチェーンの間で、タイミングを交互となるようにずらしているのである。
【0024】
前記駆動力取出輪5の駆動軸16と動力伝達チェーンケース6内の減速軸17との間には、減速チェーン18が巻回されており、前記減速チェーン18から分岐軸15の間に駆動チェーンが巻回されている。前記動力伝達チェーンケース6の分岐軸15の上に、前部伝達チェーンケース7と後部伝達チェーンケース8が介装されており、前記前部繰出装置2Fと後部繰出装置2Rにそれぞれ動力を伝達する構成されている。
【0025】
前記分岐軸15から前部伝達チェーンケース7と後部伝達チェーンケース8を介して、前部繰出装置2Fの駆動軸9Fと後部繰出装置2Rの駆動軸9Rに動力を分岐する位置において、それぞれの前後の繰出ロール12の種子嵌入溝13の開口位置を円周上の位置においてタイミングをずらすように、動力を伝達しているのである。
【0026】
このように構成することにより、
図5に示すように、前部繰出装置2Fにより播種された種子mの位置が、(c)のように配置され、後部繰出装置2Rから播種された種子nの位置が、(b)のように配置される。それらの(c)の種子mの配置と、(b)の種子nの配置とが、(a)に示すように重複されることにより、同じ条の上に播種されることとなる。実際に圃場面に播種された状態は、(a)に示すように、種子mの配置と種子の配置nとが連続して配置されて、2倍に密植された状態となるのである。
【0027】
このように、繰出部である前部繰出装置2Fと後部繰出装置2Rとを、進行方向に対して、同一直線上に、前後に配置し、前後の前部繰出装置2Fと後部繰出装置2Rとから同一の種子を、同一の条の上に、交互に繰り出して播種作業を行うものである。
【0028】
また、前記前後に配置した前部繰出装置2Fと後部繰出装置2Rは、同一の動力取出輪5の回転力が中途で分岐されて駆動するように構成したものである。
【0029】
このように構成したことにより、前部繰出装置2Fと後部繰出装置2Rから交互に種子を繰り出すことが可能となり、各々の繰出間隔即ち回転数がひとつの場合のときの、半分の回転数の繰出作業で十分となるのである。
【0030】
これにより、高速作業でも現状の低速時の回転数と同じ精度の繰出作業を達成することが可能となったのである。
【0031】
また、高速播種の場合ではなくて、密植播種を行う場合においても、従来の速度と同じ速度で播種作業を行うことで、倍の密植状態の播種を行うことが可能となるのである。
【符号の説明】
【0032】
1F 前部種子ホッパー
1R 後部種子ホッパー
2F 前部繰出装置
2R 後部繰出装置
3 取付具
5 駆動力取出輪
6 動力伝達チェーンケース
7 前部伝達チェーンケース
8 後部伝達チェーンケース
9F 駆動軸
9R 駆動軸
10 一体型種子ホッパー
12F 前部繰出ロール
12R 後部繰出ロール
13F 種子嵌入溝
13R 種子嵌入溝
15 分岐軸